友「まあ無理もないだろ。ただでさえ難しい年頃なんだろ?」
兄「ああ……それにもともとかなり引っ込み思案な性格みたいでな」
兄「ましてや、自分の母親を亡くした直後だし……」
兄「ああ……笑っちゃうよな、父と息子でずっとやってきて、やっと母親ができる、それに妹もできると思ったら、また二人暮らしなんて……」
友「ストップ、それ以上考え込むな」
兄「……悪い」
友「いや、俺も余計なこと思い出させちまった。すまない」
兄(ここは親父と住んでた家、これから四人家族で住む予定だった家……)
兄(結局また、二人暮らしか……)
兄(しかも、今度は親父とじゃない)
兄(数えるほどしか会ったことのない、ほとんど他人同然の妹と……)
妹「あ……」
兄「……ただいま」
妹「お、おかえり……なさい……」
妹「…………」
兄「遅れてごめんな、すぐ夕飯作るから」
妹「だ、大丈夫……です……」
妹「し、失礼します……」タタタ
兄「…………」
兄「…………」
兄「料理も、バリエーション増やさなきゃダメだな……」
兄「ちょっとは手の込んだもの、作れるようにならないと」
妹「はっ、はい……」ビク!
兄「夕飯できたぞ」
妹「わ、わかりました……」
妹「…………」モグモグ
兄「もう学校には慣れたか?」
妹「っ……は、はい……」
兄(驚かせちゃったか……)
兄「友達とか、できたか?」
妹「……まだ、少しだけです……」
兄「そっか、焦らないようにな」
妹「はい……」
兄「妹はいい子だから、すぐ友達いっぱいできるさ」
妹「はい……」
兄「ん、お粗末さま」
妹「…………」カチャカチャ
妹「…………」ジャーゴシゴシ
兄(まとめて洗うからいいって、何回か言ってるけど……遠慮してんのかな)
妹「い、いえ……先にどうぞ……」
兄「え?いいのか?」
兄(この年頃ならお父さんの入った後のお風呂なんてとか言うんじゃ……)
兄(しかも俺はお父さんどころかほぼ他人だもんな……)
妹「どうぞ……わたしはあとでで大丈夫ですから……」
兄「ん、わかったよ」
妹「あ……はい……」
兄「ゆっくりあったまってこいよ」
妹「はい……」スタスタ
兄「お、あがったか」
妹「あ……はい……」
兄「一緒にテレビでも見るか?」
妹「いえ……もう眠いので……」
兄「ん、そうだな、中学生にはちょっときついか」
妹「ごめんなさい……」
兄「いや、大丈夫だよ。おやすみ」
妹「おやすみなさい……」
パタン
兄「……今日もだいたいいつもと変わらず、か」
妹「…………」トントン
兄「気を付けてな」
妹「はい……」
妹「いってきます……」
兄「いってらっしゃい」
パタン
兄「さて、俺も急がなきゃ」
兄「ああ、おはよ」
友「朝からうかない顔だな」
兄「いつも通りだよ」
友「いつも通りか……」
兄「ああ……」
兄「ふう、終わった」
友「おい、兄」
兄「なんだ?今日はもう帰らなきゃいけないんだ」
友「これ」スッ
兄「ん?」
友「ああ、やるよ」
友「妹ちゃんと一緒に遊んでやんな」
兄「あ……」
友「なんだよ?なんの為にわざわざ二枚渡したと思ってんだ?」
兄「いいのか?」
友「どうせ俺にゃあ一緒に行く相手なんかいないしなぁ」
兄「ありがとな」
友「いいよ」
兄「いつか彼女できるさ、おまえなら」
友「うるせーやい、今すぐほしいわ」
兄「ははは」
妹「あ……おかえりなさい……」
兄「ただいま」
妹「はい……」
妹「…………」モグモグ
兄「なあ、妹」
妹「は、はい……なんですか……?」
兄「明日、遊園地いかないか?」
妹「え……」
妹「いえ……そうじゃないです……」
兄「じゃあ、嫌か?」
妹「…………」
兄「…………」
妹「…………」フルフル
兄「よし、じゃあ明日は遊園地だな」
妹「はい……」
兄「着いたな」
妹「大きいです……」
兄「今日は楽しもうな」
妹「はい……」
妹「こ、こわいの……は……」
兄「こわいのは?」
妹「だ、ダメ……です……」
兄「ん、じゃあ適当にまわって、ゆったりしたの探すか」
妹「はい……」
兄「ん?」
妹「…………」
兄「あの舟みたいの、乗りたいか?」
妹「…………」
兄「遠慮しなくていいんだぞ」
妹「…………」コクン
兄「よし、いこう」
兄「けっこう揺れるな……」
妹「……っ……っ」ユラユラ
兄「大丈夫か?」
妹「あ……」
妹「はい……大丈夫です……」
兄「よっと」
兄「ほら、妹」スッ
妹「あ……」
妹「ありがとう……ございます……」
妹「あ、はい……」
兄「あの店でいいか?」
妹「はい……」
妹「いただきます……」
妹「…………」モグモグ
兄「うまいか?オムライス」
妹「おいしいです……」
兄「どれ」パク
妹「あ……」
妹「…………」
兄「あ、ダメだったか?」
妹「いっ、いえ……そうじゃ……」ブンブン
兄「ほら、俺のカレーやるから」
妹「あ……」
妹「…………」パク
妹「…………」モグモグ
兄「どうだ?」
妹「おいしいです……」
兄「よかった」
妹「…………」
兄「ん?」
妹「あれ……」
兄「メリーゴーランドか」
妹「乗りたい……です……」
兄「よし、乗ろう」
妹「…………」
兄「でも、妹が自分から何かしたいって言ってびっくりしたな」
妹「あ……」
兄「いいんだぞ、今だけじゃなくて、いつでも遠慮しないで」
妹「…………」
兄「え?」
妹「お父さんと……乗りたいって思ってたんです……ずっと……」
兄「…………」
妹「わたしは……お父さんと話したことも、ありませんでしたから……」
兄「……ごめんな、俺は兄で」
妹「いっ、いえ……そういう意味じゃ……ないです……」
兄「わかってる、冗談だよ」
妹「はい……」
妹「ゴーカート……」
兄「小さいドライブみたいな気分だぞ」
妹「ドライブ……したいです……」
兄「よし、いこう」
兄「どうだ?妹」
妹「は、速い、です……」
兄「あ、すまん、飛ばしすぎたか」
妹「でも、楽しいです……」
兄「……うん、よかった」
兄「さて、次は」
妹「あ、あの……」
兄「ん?どうした?」
妹「…………」
兄「遠慮しないで、言っていいんだぞ」
妹「……今の……」
兄「ん?」
妹「今の……もう一回……乗りたいです……」
兄「……うん、わかったよ」
妹「……?はい……」
兄 タタタ
妹「…………?」
妹「あ……」
妹「ありがとう……ございます……」
兄「うん、あまいな」ペロ
妹「…………」ペロ
妹「おいしいです……」
兄「よかった」
妹「…………」
兄「妹、あれ乗らないか?」
妹「観覧車……ですか……?」
兄「うん、いいか?」
妹「はい……」
兄「すごいな」
妹「すごいです……夕焼け……」
妹「わあ……」
兄「…………」
兄(このまま、喋りかけないほうがいいだろうな)
兄(夕焼けに夢中だ)
兄「はー、なんかあっという間だったな」
妹「はい……」
兄「やっぱり楽しいと、時間が過ぎるの早く感じるな」
妹「はい……」
妹「はい……」
兄「妹はどうだった?」
妹「あ……」
兄「…………」
妹「楽しかったです……すごく……」
妹「はい……」
妹「だから……その……」
兄「ん?」
兄「なにか、言いづらいことなのか?」
妹「いえ……大丈夫です……ちゃんと言います……」
兄「…………」
妹「…………」
妹「……お兄ちゃん……」
妹「お兄ちゃん……また、連れてきてほしいの……」
兄「……うん」
妹「すごく……楽しかったから……」
兄「……うん」
兄「いいよ」
妹「これからも、わたしの家族でいてください」
兄「当然だろ」
兄「おまえは俺の、妹なんだから」
兄「なんだ?」
妹「手……つないで帰りたい」
兄「それも、お父さんとやりたかったこと?」
妹「…………」フルフル
兄「ん?」
妹「お兄ちゃんと……したいこと……」
兄「……そうか」
妹「……お兄ちゃんの、食べたいものでいい」
兄「いいのか?」
妹「うん……わたしも、手伝うから……」
兄「……それじゃ、頼むよ」
妹「うん」
兄(二人だけに逆戻りしちゃったけど、それでも)
妹「お兄ちゃん……どうしたの?」
兄「ん?いや……」
兄「なんでもないよ、妹」
おわり
よかったよ
いいものを読ませてもらった
引用元: 兄「妹がなついてくれないんだ」