チラシ配り「お願いしまーす」
チラシ配り「よろしくお願いしまーす」
友人「お、チラシ配りやってる。ああいうバイトって、時給どんぐらいなんだろーな?」
友人「単純で楽そうに見えるけど立ち仕事だし案外大変かも……って、聞いてるか?」
男「……」
男「俺さ……」
男「チラシ配ってる人にいつもスルーされるんだよな」
男「近くを通りがかっても、チラシをもらえないんだよ」
友人「別によくね? スルーされたって」
友人「むしろ、『いりません』って断る手間が省けていいじゃん。お得じゃん」
男「いや……よくない!」
友人「なんで? そんなにチラシ欲しいのかよ。どうせゴミになるだけだぜ?」
男「チラシが欲しいってわけじゃないんだけど……なんつーか、迫害されてる気分になるんだよな」
友人「迫害って……んな大げさな」
男「いや、この気持ちは実際やられてみなきゃ絶対分かんねーよ」
男「絶対スルーされるから、よく見てろよ」
友人「お、おう」
友人(あのチラシ配り、男にもチラシ配ってたし、少なくとも女向け商品のチラシでしたってオチはないはず)
友人(どうなることやら……)
チラシ配り「……」
友人(チラシ配りの『射程圏内』に入ったッ!)
男「……」スタスタ
男「――な?」
友人「ホントだ! スルーされてた! あっちも絶対お前に気づいてたのに!」
男「ったく、いつもこうなんだぜ、俺」
友人「こんなことあるんだなぁ、不思議なもんだ」
男「!」
チラシ配り「……」ニヤッ
男「!!!」
友人「え、なにを?」
男「今あいつ……露骨に俺を見て笑いやがった!」
友人「え、マジで」
男「許せねェ~! こいつはマジ許せねぇよなァ~!」
男「だったら今度はこっちも露骨に手を差し出してやる! それならさすがにスルーできねえだろ!」
男「……」サッ
チラシ配り「……」
男「……」スタスタ
男「――見てた?」
友人「あいつ、お前が手を伸ばしたのに、完全にスルーしてたな……」
友人「たしかにここまでくると、一種の『いじめ』にも見えなくもないな」
男「くっそォ~~~~~ッ!」
男「だったらァ……あの野郎から『チラシ』をムリヤリ『奪って』やるぜェーッ!」
チラシ配り「……」
男「もらったァァァァァッ!!!」グオオッ
シュンッ!
男「消えたッ!?」
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
男「こ、こいつッ! いつの間に俺の『後ろ』へッ!?」
チラシ配り「……」クイックイッ
男「ヤ……ヤロォォォ―――――ッ!!!」
チラシ配り「……」シュンッ
男「ダリャアッ!」ブオンッ
チラシ配り「……」シュンッ
男「くそっ、ダラァッ!」ブオッ
チラシ配り「……」シュンッ
友人「あのチラシ配り……なんて『フットワーク』だッ! あいつ、完全に翻弄されているッ!」
チラシ配り「オレって優しいからよォ~……今のうちに『忠告』しとくぜェ~……」
男「!」
チラシ配り「てめーは一生かかっても、オレからチラシを奪うこたぁできねーよ」
男「ンだと、コラァ!」
男「なにィ!?」
チラシ配り「いっとくがオレは『100メートル11秒』の俊足だ……『反復横跳び』も自信がある」
男(俺は……高校時代『14秒』だった……今はもっと遅くなってるはず……!)
チラシ配り「ケケケ、理解したか? テメーがオレからチラシを奪うことは絶対に『不可能』だってことがよォーッ!」
男「ぬかせェーッ!!!」
チラシ配り「どうぞ」サッ
男「待てコラァーッ!」ダッ
チラシ配り「よろしくお願いしまーす」サッ
男「くそォッ!」ダッ
チラシ配り「お願いしまーす」サッ
友人(あのチラシ配り……あいつの突撃を『闘牛士』みてーにかわしながら、他の通行人にチラシ配ってやがるッ!)
チラシ配り「40枚……」サッサッサッ
チラシ配り「30枚……」サッサッサッ
友人(チラシが……みるみる減っていくッ!)
友人(さっきまでヤツの手には『ハードカバーの小説本』ぐらいのチラシがあったのに)
友人(今や『薄っぺらな大学ノート』ぐれーの厚さしか残っちゃいねェーッ!)
チラシ配り「今や我が手に残ったチラシは『残り10枚』ッ!」
チラシ配り「こっからは一枚一枚数えながら配っていくかァ~! 年越しのカウントダウンするみてーによォー!」
男「ナメやがってェ~~~~~ッ!」
チラシ配り「残り9枚ッ! 8枚ッ! ななまァ~いッ! ろくまァ~~~~いッ!」
男「ちっ、ちくしょォ―――――ッ!」
チラシ配り「よんまァ~~~~~いッ!」
チラシ配り「さんんんまァ~~~~~~~いッ!」
チラシ配り「にまァァァ~~~~~~~~~いィッ!」
チラシ配り「ラスト一枚ッ! こいつを次通りがかったヤツに配って、バイト代もらって帰るとすっかァ!」
チラシ配り「帰りに『ガスト』あたりで『豪遊』するっつーのも悪くねェー!」ニィーッ
男「……」
チラシ配り(なんだ? なにボケッと突っ立ってやがる……フン、やっと諦めたか)
チラシ配り「!?」
男「すぐ駅前から『避難』して下さいッ! 『爆弾』が爆発するぞォォォーッ!!!」
チラシ配り「ハッ!?」
ワァァッ!!!
「マジでヤベェーじゃんかよォーッ!」
「逃げろォ~~~~~ッ!」
ワアァァ…… ワアァァ……
チラシ配り(コイツ……! 『存在しない爆弾』で騒ぎを起こして、通行人を『散らし』やがったッ!)
男「これで……お前がチラシを配れる相手は『俺しか』いなくなった……」
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
チラシ配り「こんなことしたら、警察に呼び出されンぞッ! ヘタすりゃ『逮捕』だってありえるッ!」
男「ああ、もちろんだ」
男「チラシと引き替えにムショ入りする『覚悟』なら……もうできてる」
チラシ配り(コイツッ! 見くびってたッ! ――なんて『精神力』だッ!)
チラシ配り「ぐっ……!」
男「そうすりゃあ、『再起不能』程度で済ませてやっからよォー」ザッザッザッ
チラシ配り「おめー……正直いって、オレはテメーがここまでやるとは思ってなかったぜ……」
男「だったらどうするってんだァ~?」ザッザッザッ
チラシ配り「だったらよォ~~~~~」
男「?」
チラシ配り「オレも『覚悟』を決めるッ!」
男「なにィ~?」
チラシ配り「この『ラスト一枚のチラシ』を……向こうにある『ゴミ箱』に叩き込むッ!」ダッ
男「あああああ~~~~~ッ! 考えやがったなッ!」
男「待ちやがれッ!」タッタッタッ
チラシ配り「無駄だッ! 足はオレの方が速いッ!」タタタタタッ
男「ちっ、ちくしょォ―――――ッ!」タッタッタッ
「キミ……」
チラシ配り「はい?」
「そのチラシをくれないか?」
チラシ配り「ハッ! どうぞどうぞ! このチラシはあなたのような方にこそ相応しいチラシですから!」サッ
「こりゃどーも」
チラシ配り(ラッキィ~! チラシを捨てることなく消化できたッ! これなら罪悪感ゼロ! 『完全勝利』だッ!)
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
チラシ配り「ハッ! コイツは……たしかあいつと一緒にいた……!」
友人「あとはこのチラシを丸めてあいつに投げ渡せば……あいつの『勝利』ってわけだなァ~?」クシャクシャッ
チラシ配り「し、しまったッ! コイツ、チラシの『仲介役』になりやがったァーッ!」
友人「ほらよ! 受け取れッ!」ポイッ
男「サンキューッ!」パシッ
チラシ配り「あああああああああああ~~~~~ッ!」
友人「フン……これが『チームプレイ』っつーやつよ。勉強になったかよォー、アルバイト君よォ~?」
チラシ配り「負けた……! 完全に敗北した……!」ガクッ
男「よぉ~~~~~し、さっそく『チラシ』の中身を改めさせてもらうぜ」ガサゴソ…
男「ん! こ、これはッ!」
男「『育毛剤』のチラシじゃあねーか……」
チラシ配り「オレの見たとこ、おめーは薄毛どころかフッサフサだからな……」
チラシ配り「将来的にも多分、白くはなるかもしれねーがフサフサのままだろーし……」
チラシ配り「チラシが必要じゃあなさそーなヤツに、チラシを配るのはオレの『ポリシー』に反する……」
チラシ配り「だから配りたくなかったんだよ……」
男「そういうことだったのか……」
チラシ配り「ずっと『スルー』こいて、すまなかった……」
男「こっちこそ、迷惑かけたみてーですまねーな」
チラシ配り「え?」
友人「だったらさっきの『あなたのような方にこそ相応しいチラシ』っつーのはどーゆう意味だ、コラァッ!」
チラシ配り「ハッ!」
友人「このボゲェッ!!!」
ボゴォッ!
チラシ配り「ぶげェ―――――ッ!」
男…爆弾騒ぎを起こした件で警察署に呼び出されたが、さいわい厳重注意で済んだ。
友人…育毛剤の購入を本格的に検討する。
チラシ配り…この後、バイト代をもらってガストに向かった。
― 完 ―