ガラガラ……
男「お、来たぜ」ヒソヒソ
級友A「相変わらず、気持ち悪いツラしてるな」ヒソヒソ
級友B「なんであんなのと一緒のクラスなんだよ……最悪だ」ヒソヒソ
学生「やぁ、おはよ」
男「…………」
級友A「…………」
級友B「…………」
クスクス…… ハハハ……
学生「なんだよこれ……!」
男「おいおい、あそこの席のヤツって死んだよな?」
級友A「じゃあ、アレだれだよ」
級友B「幽霊じゃね?」クスクス
学生「…………」
学生「…………!」
学生「──だれがやったんだっ!?」
シ~ン……
学生「うぅっ……」ガサゴソ
男「おい、ゴミがゴミ片付けてんぞ」
級友A「どんだけ~」
級友B「ゴミもアイツにだけは捨てられたくないだろうな」
ハッハッハ……!
学生「…………」ガサゴソ
国語教師「えぇ~……では、次の段落を学生くん、読みなさい」
学生「す、すいません」キョロキョロ
学生「教科書を忘れてしまって……」
国語教師「なに!? 君は、ついこないだも忘れてたじゃないか!」
国語教師「まったくもう、だらしがない……」
学生「すいません……」
国語教師「しょうがないな。隣の女子Aさん、教科書を見せてやりなさい」
女子A「えぇっ!?」
女子A「えぇ~……私、学生くんに教科書をさわられたくありません!」
国語教師「おい、なにをいってるんだ」
女子A「だって菌が移っちゃうじゃないですか!」
国語教師「なにバカなこといってるんだ!」
女子A「うわぁ~~~ん! 絶対イヤですぅ!」
女子A「うえぇ~~~~~ん……!」
国語教師「!」
国語教師「ああ、分かった! もういい!」
国語教師「男くん、次の段落を読みなさい」
男「は~い!」
男「わりぃわりぃ、学生」
男「さっき、おまえの国語の教科書借りちゃった! 無断で」
学生「ひどいじゃないかっ!」
男「いや、でもよく探したら自分のあったんだけどさ、返すタイミングなくて」
男「ゴメンな! ほら、返すよ」バサッ
学生「くぅっ……!」
学生「この教科書、落書きだらけじゃないか! しかも油性ペンで!」
学生「君が描いたんだろ!?」
男「ハァ?」
男「おまえが自分で描いてたんだろ?」
男「おまえ、証拠もないのに、そういうこというワケ?」
男「うわ、傷ついたわ~……。こうやって冤罪って生まれるんだろうな」
男「ひでぇな。ホントゴミクズだな、おまえって」
学生「…………!」
ザワザワ…… ガヤガヤ……
「ひどいわねぇ」 「決めつけってよくないよな」 「最低だなアイツ」
体育教師「よし、じゃあ先生が分けたチーム同士で試合を行う!」
学生「よ、よろしく」
男「ハァ~……なんでテメーなんかと同じチームなんだよ」
級友A「あーもう、やる気なくなったわ……テンションガタ落ちだよ」
級友B「せっかくバスケだってのに……ヘコむわ~」
男「しかもバスケ部エースのイケメンがいるチームとだぜ」
級友A「勝てる気がしないな」
男「くそっ、どう攻めたものか……」ダムダム
学生「こっちこっち! ぼく、フリーだよっ!」
男「ハァ? おまえなんか眼中にねぇし」ボソッ
イケメン「もらった!」パシッ
男「あっ、しまった!」
イケメン「シュート!」シュッ スパッ
男「くそ~やられた!」
イケメン「仕方ないさ、君たちのチームは一人少なかったからね」チラッ
学生「!」
男「そうそう、代わりに亡霊は一人いたけどな」チラッ
イケメン「ハハッ、早く成仏してくれるといいんだけどねぇ」
級友A「塩でもぶっかけとくか?」
級友B「塩はもったいないから、砂でもかけとこうぜ」パッパッ
学生「…………」
学生「いただきまーす……」カパッ
男「うっわ、キモッ! いただきます、とかいってるよ」
男「アイツにいただかれるメシは不幸だな」
級友A「しかもなんだよあの弁当、色どり悪すぎだろ」
級友B「なに? アイツ一人だけ戦時中? 空襲とか来るんじゃね?」
クスクス…… ハハハ……
学生「…………」モグモグ
学生「あっ!」
不良A「へい、パース!」ヒュッ
不良B「おう!」パシッ
不良B「ランチダーンク!」ドカッ
学生の弁当が、ゴミ箱に叩き込まれた。
不良A「ナイッシューッ!」
学生「ああっ……ぼくの弁当……!」
不良B「イェーイ!」パシッ
不良A&B「ギャハハハハハッ!」
学生「うぅっ……!」
男「…………」チラッ
男(オイオイ、さすがにありゃやりすぎじゃないのか……?)
男(適度なとこで抑えるのがコツだってのに……)
女子B「学生くん」
学生「! ……なんだい?」
女子B「ねぇ、ちょっと体育館裏に来てくれない?」
学生「えっ……」
女子B「大事な話があるの」
学生「うん、行くよ! 行く行く!」
女子B「じゃあ、ついてきてね」
学生「話って……なんだい?」
女子B「実は私、学生君のこと──」
女子B「ずっと前から、メチャクチャ気持ち悪いって思ってたの!」
女子B「どうしても、いわずにはいられなかったの!」
女子B「だってもう、ホント気持ち悪くて……見てるだけで吐き気がするの!」
女子B「正直、話しかけるのもイヤだったけど、でもいわなきゃ……って思って……」
女子B「……オエッ」
学生「……え?」
男「え? ……じゃねーよ、なに期待してたんだよおまえ」
級友A「まさかコクられるとか思ってたのか?」
級友B「うわぁ~……ミジメすぎる!」
女子B「うぇ~ん、キモかったよぉ……」タッ
女子C「よしよし、よく頑張ったよアンタは」ナデナデ
女子C「さ、みんな早く教室戻ろ」
ハハハハハ……!
学生「…………」
国語教師「──というワケなんですよ、あれは明らかないじめですよ」
体育教師「体育の時もそうでしたよ」
体育教師「バスケで、一人だけパスを回してもらってませんでしたからね」
担任「はぁ……」
体育教師「はぁ、じゃないでしょ!」
体育教師「あなたが担任なんだから、もっとしっかりしないと!」
国語教師「今のうちにどうにかしないと、どんどんエスカレートしていきますよ」
国語教師「こんなことが明るみになったら、保護者からもクレームが来ますよ」
担任「はい、なんとかします……」
担任(少し前には、クラスの不良のリーダーが喧嘩で大怪我して、てんてこ舞い)
担任(で、今度はいじめかよ……)
担任(とんだ欠陥クラスを受け持っちまったもんだぜ)
担任(ただでさえ忙しいってのによ)
担任(はぁ~……めんどくせぇ)
担任(俺がやめろ、といったところでどうにかなるもんでもないだろうし)
担任(ま、いずれヤツらも飽きるだろう。一種の流行みたいなもんだ)
担任(しばらくは放っておくか……)
担任(頼むから自殺騒ぎとか起こしてくれるなよ~)
担任(これ以上、忙しくなるのはゴメンだ)
<担任の家>
プルルルル……
担任(なんだぁ?)
担任「はい」ガチャッ
担任「えっ、不良たちが!?」
担任「はい……はい、はい……分かりました……」
担任(また問題発生かよ……クソッ! もう勘弁してくれよ……!)
<教室>
担任「えぇ~と、昨夜不良Aと不良Bが喧嘩騒ぎを起こしたらしく」
担任「重傷を負った」
担任「当分学校には来られないだろう」
担任「みんなは下らん喧嘩で怪我なんかしないようにな」
ザワザワ…… ガヤガヤ……
学生「…………」
男「ヒャッハー、水責めだぁ!」ビシャアア
級友A「やれやれい! ったく、クソがクソなんてしてんじゃねーよ!」
級友B「ウンコごと水で流してやれ!」
男「もっと蛇口開けろ!」
級友A「オッケ~」キュッキュッ
ジャバババ~!
学生「うわぁぁぁっ!」
女子A「どうしたの!?」
女子B「学生に話しかけられちゃった~気持ち悪いよぅ……」シクシク
女子A「ひっど~い。大丈夫? 息臭くなかった?」
女子C「ホント最低だね、アイツ」
女子C「自分の身の程を分かってないんじゃないの?」
学生「うぅ……」ハァハァ
イケメン「だれかボールペンを持ってないかなぁ?」キョロキョロ
学生「あ、ぼく持ってるよ」
イケメン「……だれか持ってないかなぁ?」キョロキョロ
男「俺持ってるよ」
イケメン「ありがと、貸してくれるかい?」
男「ああ、いいよ」
学生「…………」
それどころか、いじめのバリエーションはどんどん増えていった。
悪口、無視、仲間外れ、暴力、持ち物隠し、濡れ衣着せ……。
日が経つにつれて、次々と新しい手口のいじめが開発されるのだ。
また、クラスの中からは時々怪我人が出た。
これがいじめと関係あるのかどうか、担任には分からなかった。
主任「なぁ」
担任「はい?」
主任「君んとこのクラス、いじめがヒドイらしいじゃないか」
担任「はぁ、私も注意して見てはいるのですが……」
主任「ダメじゃないか、見てるだけじゃあ~」
主任「ああいうのはね、大人からガツンといってあげるのがいいんだ」
主任「あんまり放っておくと、とんでもないことになるよ!」
主任「この学年でなにかあったら、私の責任問題になるじゃないか!」
担任「分かりました、なんとかします……」
担任(ま、いつまでも放っておけないしなぁ……)
担任(しっかしヤツらも飽きねぇもんだな)
担任(飽きるどころか、どんどん新しいやり方を思いついてるみたいだし)
担任(近頃のガキってのは、ホント恐ろしいねぇ)
担任(……にしても、マジでどうするかなぁ)
担任(たしか……いじめってのはリーダー格がやめるとスパッとなくなるって)
担任(どこかで読んだことがある)
担任(いじめのリーダーっぽいのは、おそらく男だよなぁ……)
担任(よし、ちょっとアイツと二人きりで話をしてみるか……)
男「……失礼します」
担任「おう、座ってくれ」
男「なんですか? ボク、呼び出されるようなことはしてないつもりですけど」
担任「ん~……まぁ、なんだ。アレだ」
男「はい?」
担任「ウチのクラスって、学生一人をみんなで寄ってたかってイジメてるだろ」
担任「──で、どうもおまえがリーダーなフシがあるから」
担任「ちょっと二人きりで話してみたかったんだが……」
男「証拠はあるんですか?」
男「ボクがいじめをやってるって証拠でもあるんですか?」
男「しかも勝手にリーダーとかにされて、勘弁して下さいよ」
担任「…………」イラッ
男「!」ビクッ
担任「証拠だなんだと小賢しいことをベラベラと……!」
担任「ったく、大人しく勉強してりゃいいものを次々問題起こしやがって……」
担任「おまえらがアホだと、俺の給料にまで影響すんだよ!」
担任「いいからさっさといじめをやめろ!」
担任「はたから見てりゃすぐ分かんだよ! おまえがリーダーなんだろ!?」
担任(ひゅう、久々に怒鳴っちまったぜ)
担任(もっとも……)
担任(コイツが根は大人しいタイプの生徒だって知ってるから、怒鳴ったんだけどな)
担任(不良とかにはまったく叱れないしな、俺)
男「……お、俺だって」
担任「ん?」
男「俺だって、やりたくてやってるワケじゃありませんよ! あんなこと!」
担任「!」
担任「まぁ……な」
担任「いじめのリーダーってある意味、英雄扱いされるところもあるし」
担任「悪いと分かってても、なかなかやめられないってのはあるだろうな」ウンウン
担任「恥ずかしい話だが、先生も子供の頃いじめをやったことが──」
男「ちがいますっ!」
男「みんなにいじめをやらせてるのは、学生なんですよ!」
担任「……は?」
男「絶対に……俺がしゃべったっていわないで下さいね」ガタガタ
担任(なんだ、この怯え方は……尋常じゃないぞ)
男「数ヶ月前のことです」
男「放課後、アイツはクラスのみんなを集めて──」
男「みんなの前で不良たちのリーダーを、ボッコボコにしてみせたんです」
担任(え!? 本人は他校のワルと喧嘩したっていってたのに……)
男「信じられないような強さだった……」
男「というより、ものすごくエグかったんです……」
男「単に強いだけじゃなく、絶対敵に回したくないって思いたくなるような……」
男「思い出すだけで、寒気がしますよ」
男「そして……みんなにこういったんです」
学生「ぼくはマゾだ」ニコッ
学生「イジメられるのが、好きなんだ」
ザワザワ…… ドヨドヨ……
学生「だから、これからはガンガンぼくをイジメて欲しい」
学生「もしいじめに参加しなかったら、この彼みたいにしちゃうから注意してくれ」
ザワザワ…… ドヨドヨ……
学生「やりすぎたいじめは快感を通り越して、不快になってしまうからね」
学生「やりすぎた人にも、彼のようになってもらうから注意すること」
学生「ぼくを満足させる、適度適量のいじめを毎日行って欲しい」
学生「もちろん、毎日同じようなイジメられ方じゃぼくだって飽きるから」
学生「ぼくを飽きさせないよう、どんどん新しい方法を考えてくれよ」
学生「新しいことに取り組まない怠け者には、ぼく容赦しないからね」
学生「彼のようになってもらうからね」
学生「いや、下手すると本当に殺しちゃうかもしれない」
学生「いっとくけど、ぼくは少年院に入ることなんか怖くない」
学生「少年院入りくらいのハンデがあったって」
学生「出所後やっていける強さやしたたかさは身につけてるつもりだし」
学生「なによりマゾであるぼくにとって、少年院なんてご褒美だからね」
学生「いずれは自分から事件を起こして、入りたいなんて思ってるくらいさ」
学生「ま、ぼくを適度にイジメてくれさえすれば君たちに危害は加えないよ」ニコッ
男(なんなんだコイツは……! この学校には、こんな怪物が潜んでたのか……!)
級友A(やべぇよ、これやべぇよ……!)
級友B(なんでこんなことに……!)
男「みんな、アイツのあの時の笑顔が怖くて嫌々イジメてるんですよ」
男「で、ある日俺はアイツに“君のいじめは絶妙だ”って褒められて」
男「クラスのいじめのリーダー役に任命されたワケです」
男「やりすぎてもダメ、やらなすぎてもダメ……もう毎日が地獄ですよ」
男「いい加減、新しいイジメ方も思いつかなくなってきましたし」
男「かといって、学校を休んだら家にまで殴り込みにきますよ、アイツは」
担任「じゃあ、時折クラスから怪我人が出てたのは……」
男「もちろんみんな、“やりすぎ”“やらなすぎ”って判断されたヤツらですよ」
男「特に不良たちはサジ加減がヘタで、真っ先に制裁されましたね」
担任(どうすりゃいいんだ、こんなの……)
担任(ヘタに俺が突っつくと、学生が怒ってとんでもないことになるだろうし……)
担任(警察にチクりでもして、もし察知されたら、それこそ死人が出かねないぞ……)
担任(なんたって、捕まることを全く恐れてないんだからな……)ゾクッ
担任(説得……するしかないのか? というか、できるか? 俺に)
担任(メチャクチャ強くてマゾないじめられっ子を説得する方法なんて)
担任(どんな本にだって載ってないぞ、きっと)
担任(それにもし失敗したら、俺の安全も──)
担任(ああ、俺はなんてツイてないんだ!)
担任「……ん?」
男「俺、今までいじめはイジメてる方が絶対に悪いと思ってました」
男「だって大勢で一人をやるなんて、どんな理由があっても明らかに卑怯じゃないですか」
男「でも、今回の件に関してはハッキリこういってやりたくなります」
男「いじめはイジメられる方が悪い」
<おわり>
これは上手い事スレタイを利用したな
引用元: 男「いじめはイジメられる方が悪い」