営業マン「ご自宅でおいしいお水はいかがですか~」
男「よくショッピングモールで、ああやってウォーターサーバー売ってる人見かけるけど……」
男「ウォーターサーバーの営業マンにだけは絶対なりたくねーなー」
女「どうして?」
男「だって、あんなもん売れるわけねーもん。誰かが買ってるとこ見たことねーよ!」ケラケラ…
女「……」
男「ま、勉強をおろそかにしたから、ああいう仕事につくはめになったんだろうから、ざまあねえな!」
男「いやー、俺はウォーターサーバーの営業マンじゃなくてよかった……」
女「最っ低!」バシッ
男「!」
男「何すんだよ!」
女「人のお仕事をそんな風にいうもんじゃないわ! あなたがそんな人とは思わなかった!」
女「あなたなんて大嫌い! もう別れましょ!」スタスタ…
男「あ、ちょっと……」
男「なんでこんなことに……」
男「うわぁ~~~~~~~~~~ん!!!」ドバァァァァァ
営業マン「どうなさいました?」
男「うるせえ! ほっといてくれよ!」
男「えぐっ、えぐっ……!」
営業マン「さ、どうぞ。一杯お飲み下さい」
男「飲むけど、ウォーターサーバーなんて買わねえぞ。話も聞かねえ」
営業マン「かまいませんよ、サービスです」
男「じゃあ……」ゴクゴク
男「!」
男「ウォーターサーバーの水ってこんなにうまかったのか!?」
営業マン「ええ、そうでなきゃ商売になりませんよ」
男「でも、こんなにうまいのなら、もっと売れてもいいんじゃないか?」
営業マン「なんだったら、ちょっと売ってみますか?」
男「へ? 俺が?」
営業マン「できるものならどうぞ」
男「?」
営業マン「私は向こうにいるので、何かあったら声をかけて下さい」スタスタ
男「はぁ……」
男(妙なことになっちまったな……)
男「いらっしゃいませー! ウォーターサーバーいかがっすかー!」
ドドドドドドドドド…
男「ん?」
「一つくれ!」 「ちょうど一台欲しかったのよ!」 「早くよこせぇ!」
「うまい水が飲みてえ!」 「やったぜ、ウォーターサーバーだぁ!」 「俺に売れッ!」
男「な、なんだこりゃ!?」
男(とんでもない数の客が押し寄せてきやがった! まるで津波ッ!)
ギュウギュウ… ギュウギュウ…
男「皆さん落ち着いて! ちょっと待って……!」
男「助けっ……! 押し潰され……!」
ギュウウウウ…
男「ぐえええっ……!」
男(し、死ぬぅ……)
「やっぱ買うのやめるか」 「そこまで欲しくねーや」 「悪かったな!」
ザッザッザッ…
男「こ、これは……?」
男(あれだけウォーターサーバーを欲しがってた客どもが、散っていく……)
男「!」ハッ
営業マン「今の時代……≪水の時代≫ともいわれる現代、ウォーターサーバーは需要があるのです」
営業マン「ありすぎるのです」
営業マン「なので、私のようにウォーターサーバーを極めた営業マンが」
営業マン「ウォーターサーバーからほとばしるオーラを制御しなければ」
営業マン「皆がウォーターサーバーを買い求め、大混乱を招いてしまうのです」
男「そういうことだったのか……」
営業マン「いえいえ」
男「こうなったらぜひ、俺にもウォーターサーバーについて学ばせていただけませんか!?」
営業マン「いいでしょう……」
営業マン「あなたにウォーターサーバーの極意をお教えしましょう!」
男「ありがとうございます!」
営業マン「ウォーターサーバーを自在に操るには、水との対話が基本となります」
営業マン「このコップの水と対話するのです」コトッ
男「対話って、どうやって……」
営業マン「ヒントは、水の気持ちを知ろうとすることです」
男「分かりました……やってみます!」
男(水の気持ち、水の気持ち、水の気持ち……)ジーッ
男「……」ジーッ
ハヤクノメヨ…
男「!?」
ハヤクノメッタラ!
男(聞こえたッ!)
男「……」グビグビッ
男「うん、生ぬるい! もっと早く飲んであげればよかった!」
営業マン「お見事です」パチパチ…
営業マン「では次の試練(ステージ)に進みましょう。次からはもっと厳しくなりますよ!」
男「はいっ!」
男「うおおおおおおおおっ!」ドドドドド…
~
営業マン「湖の上を歩くのです!」
男「おっとと……」チャプチャプ…
~
営業マン「濁流を泳ぎきるのです!」
男「ガボッ、ゴボッ、ガボッ……!」ジタバタ…
営業マン「最終試練は……この何もない砂漠で一ヶ月間生き抜くこと!」
営業マン「幸運を祈っていますよ」スッ…
シーン…
男「……」
男(本当に何もない……どこまでいってもずーっと砂……)
男(いや、あるじゃないか!)
男(俺には分かる!)
男(この砂漠、至る所水だらけじゃないか! これのどこが砂漠なんだ!)
男(ここを掘っていけば……!)
ザクザクザクザクザク…
ブシュワァァァァ…
男「水だぁ!」
営業マン「あなたには≪ウォーターサーバー師≫の資格を与えましょう!」
男「ありがとうございます!」
営業マン「それとこれは、師匠として……あなたへのプレゼントです」ゴトッ
男「これはウォーターサーバー……! よろしいんですか!?」
営業マン「ええ、これからはこのウォーターサーバーとともに人々を潤して下さい」
男「はいっ!」
ウォーターサーバー「よろしくな!」
男「おう!」
主婦「あら大変、断水しちゃったわ! お洗濯しなきゃいけないのに……」
男「ウォーターサーバー!」
ウォーターサーバー「あいよ!」ブシャァァァァァ…
主婦「まぁっ、ありがとう!」
男「ウォーターサーバー!」
ウォーターサーバー「水のロープだ! つかまんな!」ニョロニョロニョロ…
幼女「ありがとう!」ガシッ
男「ウォーターサーバー!」
ウォーターサーバー「ウォーターカッターッ!」ザンッ
強盗「あわわ……俺のピストルが真っ二つ……」
ウォーターサーバー「ご主人さまよぉ」
男「ん?」
ウォーターサーバー「いいにくいことなんだが……」
男「ウォーターサーバーなのに水臭いこというんだな。いってみろよ」
ウォーターサーバー「別れた彼女に未練はねえのかい?」
男「……あるに決まってるだろ。今でも好きだよ」
ウォーターサーバー「このままでいいのか?」
男「……」
男「そうだな……やってみるか」
ウォーターサーバー「死に水は取ってやるから!」
男「あらためてフラれるの前提かよ」
ウォーターサーバー「へへへ……。で、場所はどうする?」
男「ウォーターサーバー師としては、やっぱり海がいいな……」
ウォーターサーバー「今、海は荒れ気味だから気をつけろよ」
女「なんなの? 突然こんなところに呼び出して……」
男「あの時は……全面的に俺が悪かった」
男「あの後、俺はあの営業マンの人に謝罪して、弟子入りして、ウォーターサーバー師になった」
女「!」
男「俺はあの時の俺とは違う。もう一度……やり直さないか」
女「……」
ゴゴゴゴゴ…
男(なんだ、この音は?)
男「津波だっ!!!」
男(海が荒れているのは分かってたが、まさかこれほどとはッ!)
男(高さ100メートルはある! あんなのが地上に到達したら、とんでもない被害が出る!)
男(かつては客の津波に飲まれた俺だが、今度は逃げるわけにはいかない!)
男「ウォーターサーバー!」
ウォーターサーバー「あいよ!」ドバァァァァァッ
男「ぐっ……!」
女(すごい、津波をウォーターサーバーで止めた!)
男「ぐぐぐ……!」
ウォーターサーバー「ぐおおおっ……!」
男(なんて津波だ……押し負ける! このままじゃ俺のWP(ウォーターパワー)が尽きちまう!)
女「津波なんかに負けないで! ――勝ってぇ!!!」
男「!」クワッ
ウォーターサーバー「どりゃあああああああーっ!!!」
ズオッ!!!
ザバッ!!!
男(……ん!? 今どこかからもう一つウォーターサーバーの一撃がやってきて――)
ウォーターサーバー「なにボケっとしてる! 今だッ!」
男「ああ! 残ってるWPを全部使うッ!」
男「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」
ウォーターサーバー「たああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
バッシャーン…
女「波が……消えたわ……」
女「大丈夫?」
男「ああ……WPはすっからかんになっちゃったけどね……」
女「無茶するんだから……」
キラキラ…
男「あ、水しぶきが虹を作ったみたいだ……」
女「キレイ……」
男「!」
女「やり直そ」
男「……いいのかい?」
女「いいもなにも、あの時は私もつい怒っちゃって……ごめんね」
女「うん……」
営業マン(あの津波には驚きましたが、成長した彼とかき消すことができてよかった……)コソッ
営業マン「あとは恋人同士水入らずでどうぞごゆっくり……」
おわり
ちょっとウォーターサーバー買ってくる
乙