ギャル「ん?」
ギャル「あっ、コイツ本なんか読んでるー!」
眼鏡娘「え……」
ギャル「休み時間なのに一人で本とか超キモーイ!」
眼鏡娘「ううっ……」
不良「やめろよ」
不良「オメェもたまにはファッション雑誌以外のもん読まねーと、ますますバカになっちまうぞ」
ギャル「ふ、ふーんだ!」
眼鏡娘「あ、ありがとう……」
不良「別に……」
眼鏡娘(改めて不良君にお礼を言いたいな……)
不良「タイマンだって呼び出しといて三人たぁ、ずいぶんな歓迎だな」
ヤンキーA「うるせえ! 今日こそお前を黙らせてやる!」
ヤンキーB「覚悟しやがれ!」
ヤンキーC「テメーにゃ前からムカついてたんだ!」
不良「……かかってこいよ」
眼鏡娘(無茶だよ……三人相手だなんて!)
ヤンキーA「ぐがっ……!」
不良「はぁ、はぁ……この程度か?」
ヤンキーA「ち、ちくしょう……番長さんに報告してやる!」
ヤンキーA「そうしたら、お前なんざひとひねりだ!」
不良「番長だろうがガチョウだろうが、いつでも相手になってやるよ」
眼鏡娘(すごい……一人で三人をやっつけちゃった!)
眼鏡娘「大丈夫!?」
不良「あれ? なんでお前がここに……」
眼鏡娘「どうしてもお礼をいいたくて……追いかけてたら……」
不良「ハハ、そんなことのために校舎裏まで来たのかよ、変な奴」
眼鏡娘「ふふっ……」
不良「あ、そうだ。今度、本貸してくれないか。俺もたまには本を読んでみたいんだ」
眼鏡娘「いいよ!」
眼鏡娘(不良君、見た目は怖いけどとてもいい人だわ……。私、不良君の力になりたい!)
番長「おう、こないだはオレの舎弟どもが世話になったそうだな」
番長「放課後、校舎裏に来い。根性叩き直してやっからよ」
不良「望むところだ……」
眼鏡娘(あの人、強そう……! 不良君……!)
不良「……ぐはぁっ!」ドザッ
番長「どうしたァ、こんなもんか!?」
ヤンキーA「さっすが番長! 一方的だ!」
ヤンキーB「番長は本格的にボクシングやってんだ! 敵うわけねえ!」
ヤンキーC「ボッコボコにして下さい!」
番長「右ストレートでトドメ刺してやんよォ!」グオッ
不良「ぐっ……!」
番長「!?」ピタッ
不良「お前……!」
眼鏡娘「番長さん、私が相手よ!」サッ
番長「ヒュ~、なんだこのメガネ、お前の女かよ?」
不良「ちげえよ……! ただのクラスメイトだ!」
不良「この間、からかわれてるのを助けてやったから、きっとそれで……」
番長「ふうん、こんな真面目そうな女がお前みたいなクズに恩返しに来たってか。泣かせるじゃねえか」
番長「よぉし、最初にこいつを可愛がってやるよ!」ダッ
不良「に、逃げろ……逃げろぉっ!!!」
番長「え?」
ガシッ!
番長(あっ、右腕を極められ――)
パキッ
番長「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
番長「いでえ……いでえよぉぉぉっ!」タタタタタッ
ヤンキーABC「ひえええええっ!」タタタタタッ
眼鏡娘「ふぅ、初めてにしてはうまくいったわ!」
不良「す、すげえなお前……本読んだだけで……。あの番長を……」
眼鏡娘「これからは私、不良君の力になるからね! いっぱい頼って!」
不良「お、おう」
パキッ ペキッ ボキッ
金髪「あがぁぁぁぁぁっ!!!」
DQN「いでえええええ!!!」
学ラン「足がっ! 足がぁぁぁぁぁ!!!」
眼鏡娘「ふう、いっちょあがり」
不良(隣町のトップ3といわれる三人を、10秒足らずで片付けやがった……!)
眼鏡娘「この間空手の本を読んだから試したい技、色々あるんだ!」
眼鏡娘「正拳突き! セイッ!」
ドズッ!
巨漢「ぐぼぉっ! ま、参っ……」ドサッ…
眼鏡娘「セイッ! セイッ! セイイッ!」
ドゴッ! ズドッ! ドゴォッ!
不良「ちょっ……!」
眼鏡娘「え、どうして?」
不良「もうダウンしてる相手をさらにボコボコにしてどうすんだよ!」
眼鏡娘「だってダウンはしたけど、まだ意識あったよ?」
不良「お前が貸してくれた孫子の本にあったぞ! “勝ってもやりすぎるのはよくない”って!」
眼鏡娘「でも、徹底的に叩かないと歯向かってくる可能性あるし……」
不良(こいつ……!)
不良「…………」
眼鏡娘「どうしたの?」
不良「なぁ、もう終わりにしねえか、こんなこと」
眼鏡娘「なにいってるの!? せっかくここまで勢力広げたのに、いよいよこれからじゃない!」
不良「止まるつもりはねえのか」
眼鏡娘「ないわ!」
不良「だったら……俺たち、もう終わりにしよう」
眼鏡娘「え?」
不良「俺、もうお前についていけねえよ」
眼鏡娘「ふうん……あっそう」
不良「……ああ」
眼鏡娘「じゃあ、お別れにこれあげる」サッ
不良「これ……お前のメガネじゃねえか」
眼鏡娘「もう私には必要ないから。これからはコンタクトにするつもり」
不良「分かった……もらっとく」
不良「それともう一つ」
眼鏡娘「ん?」
不良「こんなこといっても無駄かもしれねえけど……せめてクリーンな悪でいてくれよ」
眼鏡娘「クリーンな悪ってなに?」クスッ
眼鏡娘「でもま、記憶にとどめておくわ」
不良「じゃあな……」
眼鏡娘「じゃあね」
不良「……先生」
教師「な、なんだ!? また何かやらかしたのか!? それともこれから何かやらかすつもりか!?」
不良「頼む、俺に勉強を教えてくれ!」
教師「……へ?」
不良「俺……警察官になりたいんだ!」
教師「…………」
不良「ホントか!?」
教師「ただし、警察官は公務員だ。そう簡単になれると思うなよ!」
不良「俺……頑張るよ! いや、頑張ります!」
教師「じゃあさっそく勉強を始めるか! 資料室に採用試験の問題集があったはずだ」
不良「はいっ!」
不良「こんなパズルみてえなのを解かなきゃならないのか……」
不良(だけど、警察官になるためだ! 頑張るぞ!)
カリカリカリカリカリカリカリカリ…
こうして俺は猛勉強の末、警察官になった。
俺は刑事になった。
刑事「今日から配属になりました! よろしくお願いします!」
警部「期待しているよ。バンバン悪を検挙してくれたまえ!」
ギィィ…
刑事「…………」ザッ
大男「おめえ、刑事だな? 目つきで分かる。こんなところになんの用だ」
刑事「“女帝”に会いたい。奴について知ってることを教えてくれ」
大男「女帝だと? やめとけ、ヤケドじゃすまねえぞ」
刑事「……俺は女帝に会わなきゃならないんだ」
大男「命なんざとうに捨ててるってツラだな……いいだろう」
大男「どんな名うてのワルですら、女帝の名を聞いたとたん子犬同然に怯えちまう」
大男「このままいけば日本の暗黒街を制覇しちまうんじゃねえか」
刑事「……続けてくれ」
大男「あの女は今時珍しい、知恵と腕っぷしだけで成り上がったクリーンな悪党でな」
大男「なんでか知らないが、妙に義理がたいところもあったりする」
刑事「…………」
大男「ただし、敵対者には容赦ねえがな。いったいいくつの組織があの女に潰されたことか」
大男「どんな事情があるかは知らんが、悪いことはいわねえ。あの女には関わらない方がいい」
刑事「……ありがとう。参考になったよ。これで飲み直してくれ」スッ
大男「あんたにゃ五体無事でいてもらいたいねえ。刑事さん」
側近「女帝様、ワインです」トクトク…
女帝「ありがとう」
女帝「…………」
側近(なぜだ……女帝様はここまで勢力を広げられ、まさに敵無しといってよい)
側近(なのになぜ常に、あのように満たされない表情をされているのだ……)
側近「む?」
女帝「なんだい? 屋敷内が騒がしいね……」
側近「まさか、侵入者!? 一体どこの命知らずが――」
バァンッ!!!
側近「なんだ貴様!? ヒットマンか!?」
女帝「!」
女帝「あっ、お前は……!」
側近「えっ、お知り合いですか!?」
刑事「久しぶりだな……」
女帝「……今さらなんの用だ?」
女帝「ほう、不良だったお前が警察手帳をな……こいつは傑作だ!」
側近(警察には十分金を渡し、圧力をかけているのに、なぜこいつは単身飛び込んできた!?)
刑事「お前が道を踏み外したのは、俺の責任だ……」
女帝「道を踏み外した? 違うな、私は私に相応しい道を選んだだけのことだ」
刑事「俺にはお前を止める責務がある」
女帝「責務ときたか。お勉強の成果か、洒落た言葉を使うようになったじゃないか」
刑事「お前は……俺が逮捕する!」
女帝「あれから私はあらゆる本を読み、あらゆる格闘技を身に付け、あらゆる敵を倒してきた」
女帝「決別する前からすでに私に劣っていたお前如きに、私を倒せると思うか!」
側近「そうだ! 女帝様はピストルやマシンガン相手にも勝利を収めてきたのだ!」
刑事「だとしても、俺はやらなきゃならない」
女帝「いくら勉強して刑事になっても、しょせん不良(バカ)はバカのままか……」
女帝「いくぞっ!」ダンッ
刑事「!」
側近(速いッ! 下半身を爆発的に駆動させ、一瞬で間合いを詰める女帝様の歩法!)
刑事「がはっ!」
女帝「どうだッ! あらゆる格闘技の要素をミックスさせた私の打撃はッ!」
刑事(奥歯が折れた……)ペッ
女帝「さらにィ!」ガシッ
ボグッ
刑事「ぐ……!」ブラーン…
側近「やったぁ! 刑事の右腕をヘシ折った!」
刑事「やめないさ……お前を逮捕するまでな!」
女帝「……どうしても、二階級特進したいようだな!」グオオッ
刑事(お前はずっと色んな格闘技を使って、色んな敵を倒してきたんだろう)
刑事(だが、俺は――ずっとお前を倒すためだけに)ガシッ
女帝「こいつ! 折れた腕で組んできただと!?」
刑事「柔道をやってきたんだ!!!」
ブオンッ!
――ズドォンッ!!!
側近「い、一本ッ!」
刑事「違うな……お前が弱くなっただけさ」
女帝「そうかも……しれんな……」
刑事「このままお前を署まで連行……といいたいところだが」
刑事「お前の影響力は絶大だ。警察組織にも司法にも、お前を裁こうなんて気概のある奴はいないだろう」
刑事「たとえお前自身が望んでも、な」
側近「そうだ! その通りだ! 女帝様は無敵なのだッ!」
刑事「なぁ……お前、足を洗え」
女帝「!」
刑事「足を洗って……人生をやり直そう」
女帝「バカな……そんなことできるわけがない」
女帝「私はもう、すっかり変わってしまったのだ。やり直すことなど、不可能だ……」
刑事「そんなことはないさ……」スッ
女帝「こ、これは!」
刑事「これ、かけてみろ」
女帝「…………!」スチャッ
刑事「ほら、あの頃のまんまだ。お前は何も変わっちゃいない」
女帝「うぅっ……」
眼鏡娘「不良君……」グスッ
不良「おいおい泣くなよ、メガネが曇っちまうぞ」
側近「…………!?」
側近(今一瞬、二人が高校生ぐらいに見えて……)ゴシゴシ
側近「は……はっ!」
女帝「悔しいが、私はもうお前たちのリーダーでいられそうにない……」
女帝「お前なら引き継げよう。後を頼む」
側近「はいっ……!」
側近(どんなに勝利を収めても、敵を潰しても決して満たされなかった女帝様のお顔がついに――)
側近(誰が引き止めることができようか……!)
女帝「……うん」
刑事「お前はこれから罪を償うんだ……俺という刑務所でな」
― END ―