チャラ男「え、モチ行くに決まってんじゃん!」
父「決まってるって、お前の学力で入れる大学などあると思ってるのか!?」
チャラ男「なにいってんだよ親父ィ~」
チャラ男「そこは親父の権力で、ちょちょいと入学させてくれよ」
父「……裏口入学か」
チャラ男「そそ、そうすりゃ俺でも一流大学に入れるだろ?」
チャラ男「なにが?」
父「普通に試験を受けず、裏口入学でいいんだな?」
チャラ男「いいに決まってんじゃん!」
父「分かった、ならば知り合いの学長に話をつけてやろう」
チャラ男「サンキュー! 持つべきものは、頼りがいのある父親だね!」
チャラ男「ヒャッホーッ! 親父の力で裏口入学だぜェ!」
チャラ男「入学式にゃ、ド派手なスーツ着てって、みんなの度肝抜いてやる!」
学長「……分かりました」
学長「他ならぬあなたの頼みですし、ご子息の裏口入学を許可しましょう」
父「ありがとう」
チャラ男「あざーっす!」
学長「ではさっそく、こちらへどうぞ」
チャラ男「お? なんか手続きでもあるんすか?」
父「いつ見ても、重々しい扉だ」
チャラ男「かっけぇ~!」
学長「では開きますよ」グググ…
ゴゴゴゴゴ……!
チャラ男「!?」
チャラ男「なんか見渡す限りの荒野が広がってるんですけど……なにこれ」
父「ここを進んでいき、大学までたどり着けば、お前は合格だ」
父「なお、この荒野は激しい雷が絶えず降り注ぎ、魔獣が住んでいる」
チャラ男「へ?」
父「荒野を越えても、まだまだ過酷な試練があるという」
父「もしかすると、お前と会えるのもこれが最後かもしれん」
チャラ男「ハァ!? ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
チャラ男「裏口入学だろ!? なんでそんな試練を乗り越えなきゃならないんだよ!」
父「バカモノ!」
チャラ男「!」ビクッ
父「大抵の場合、あれは通常のステージより難しく設定されている」
父「裏方は目立たず大変な仕事だし、裏社会は表社会より治安が悪い」
父「裏とは本来、表よりも過酷なものなのだ!」
チャラ男「…………!」
チャラ男(だから、『本当にいいのか?』なんて念押ししたのか……!)
チャラ男「あの、やっぱりやめ――」
学長「ダメです。この扉の向こうを見てしまった以上、もう戻ることは許されません」
学長「もし戻るというなら、恩人のご子息といえど、ここで死んでもらいます」
父「そういうことだ」
チャラ男「そ、そんな……」
学長「あなたが合格できることを祈っています」
チャラ男「待って! 閉めないでぇぇぇ!」
バタン……!
チャラ男「あああ……」
ヒュゥゥゥゥゥ…
チャラ男「仕方ない……進むしかないか」
チャラ男「にしても、いつまで続くんだよ……この荒野……」
ピシャァンッ!
チャラ男「!?」
チャラ男「か、雷……! そういや絶えず雷が降り注ぐんだっけ……」
ズガァンッ! バゴォンッ!
チャラ男「やべえ、金属は捨てないとぉぉぉぉぉ!」ポイポイッ
チャラ男「ピアスも捨てちゃえ!」ブチッ
ドゴォンッ!
チャラ男「うわわわわっ!」
魔獣「グルルル……」
チャラ男「なんだありゃ……」
チャラ男(見たこともない猛獣なんですけど……もしかして、狙われてる?)
魔獣「ガルルルァ!」バッ
チャラ男「うわぁぁぁぁぁ! やっぱりぃぃぃぃぃ!」
チャラ男「ひいいいいっ!」タタタタタッ
チャラ男「あっ、こんなところに吊り橋がある!」
ギシッ…
チャラ男「うわっ、ボロ! 今にも崩れ落ちそうだ! でも渡るしかねぇぇぇぇぇ!」
ギシギシギシ…
チャラ男「超揺れるんだけど~! 崩れんじゃねえぞ! 一生のお願い!」
チャラ男「あっ」
ボロボロ…
チャラ男「やべえ、崩れてんじゃん! 落ちたら終わりだ!」
チャラ男「早くっ! 早く渡らないとっ!」タタタタタッ
ボトボトボトッ
チャラ男「あああああっ……!!!」
チャラ男「はぁ、はぁ、もうやだ……。おうち帰りたい……」
チャラ男「もう雷も魔獣も懲り懲りだ……せめて、せめて人間に会いたい……」
浪人「…………」ザッ
チャラ男「おっ、人間? よかったぁ~、いたんだ!」
浪人「コロス……」チャキッ
チャラ男「――え!? か、刀……? まさか、それで俺を斬る気じゃ……」
チャラ男「うわぁぁぁぁ!」
浪人「シネェェッ!」ブンッ ブオンッ シュバッ
ザシュッ!
チャラ男「いでぇ!」ドサッ
浪人「トドメダ……」
チャラ男(もうダメだ――)
浪人「グエエ……ッ!」ドサッ…
女浪人「ふう……」
チャラ男「え?」
チャラ男(女……?)
チャラ男「あ、ありが……」
女浪人「礼などいらぬ! それより浪人が集まってくる! 逃げるぞ!」
チャラ男「え、あ、うん!」
タタタタタッ
「待てぇ!」 「逃がすなァ!」 「斬って食料にしろォ!」
女浪人「私の家だ。周囲には罠を仕掛けてあるし、ここならもう安全だ」
チャラ男「マジ助かったよ……あざっす」
女浪人「気にするな」
チャラ男「ところで、あの刀持った集団はなんなのよ? 通り魔?」
女浪人「あれは“浪人”だ」
女浪人「裏口入学を試みたが、死ぬことも突破もできぬまま」
女浪人「この世界をさまようことになった人間の成れの果てだ」
女浪人「ま、かくいう私も浪人の一人なんだがな」
チャラ男「よーするに、裏口入学に失敗した連中ってわけね……」
女浪人「ああ、労せずして入学、を夢見て浪人になってしまったというわけだ」
チャラ男「ところでさ、お姉さん」
女浪人「バカをいうな!」バシッ
チャラ男「いでで……気の強いところも可愛い……」
女浪人「ふん……軽薄な奴め」
女浪人「貴様、これからどうするつもりだ?」
女浪人「全てを諦め浪人となるか、それとも大学を目指すか……」
チャラ男「うーん……やっぱ大学入りたいなぁ……」
女浪人(あれだけの目にあっておいて、こんなことをほざけるとは……)
女浪人(こいつ、見た目のわりに気骨があるやもしれんな……)
チャラ男「え、いいの!?」
女浪人「ああ……せっかく助けた男をみすみす死なせるのも忍びない」
チャラ男「あざっす!」
女浪人「では貴様も刀を持て」ポイッ
チャラ男「うおっ」パシッ
チャラ男「真剣ってこんな重いんだ……」
女浪人「いっておくが、手心は加えん! 軟派なままでは死ぬと思え! いくぞ!」
チャラ男「お、おう!」
――ギィンッ!
――――
女浪人「あれから幾度、昼と夜が入れ替わったことか……」
女浪人「……素晴らしい上達ぶりだ」
女浪人「一対一の戦いでは、もはや私にも引けを取らなくなった。いや、私も敵わぬかもしれんな」
チャラ男「君の指導がよかったおかげだよ」
チャラ男「あと、厳しかった親父の血を受け継いでるおかげもあるのかな」
女浪人「今の貴様ならば、大学までたどり着くことも夢ではないかもしれん……達者でな」
チャラ男「ちょっと待ってくれ」
女浪人「なんだ?」
女浪人「え……」
チャラ男「俺と一緒に、この大学を合格しないか?」
チャラ男「この裏口……二人でなら突破も夢じゃない! 二人で大学に入ろう!」
女浪人「いいのか?」
チャラ男「君じゃなきゃ誘わないさ……」
女浪人「ふん、甘い言葉を吐くようになりおって……」
女浪人「ならば、同行させてもらおう!」
浪人A「ぐええっ!」
浪人B「ぎゃあっ!」
浪人C「ぐわっ!」
浪人軍団「ま、参りましたァ!」
チャラ男「ふぅ……」
女浪人「もはや、浪人どもでは貴様にかすり傷すらつけられんな」
チャラ男「だが、本当の試練はここから始まる……油断するな!」
チャラ男「灼熱の溶岩地帯か……」
女浪人「なんという暑さだ……!」
チャラ男「なぁに、心頭滅却すれば火もまた涼し!」
チャラ男「精神集中して進もう!」
女浪人(すごい……この暑さの中で全く汗をかいておらぬ……!)
チャラ男「灼熱の次は極寒か……」
女浪人「この寒さ、マイナス100℃はあるな……」
女浪人「眠くなってきた……」ウト…
チャラ男「寝るな! 寝たら死ぬぞ!」
女浪人「ああ、死ぬわけにはいかんな……貴様と大学に入るんだもんな……」
チャラ男「そうだ! 歩くんだ!」
女浪人「真っ暗だ……一寸どころか1ミリ先すら見えん!」
チャラ男「裏とは影、裏とは闇……裏とは暗いものだからな」
チャラ男「だが、裏あるところに表がある! つまり、ここさえ抜けてしまえば――」
女浪人「大学に入れるということだな!」
チャラ男「ああ!」
チャラ男「進もう……この暗闇を! 大学という名の“希望の光”に向かって!」
女浪人(一人だったら耐えられなかっただろうが、こいつと一緒ならば怖くない!)
キラキラキラキラキラ…
女浪人「おおっ、なんという荘厳な門! あれをくぐれば大学生になれるに違いない!」
チャラ男「…………」
女浪人「さ、くぐろうではないか!」タタタタタッ
チャラ男「――いや待て!」
女浪人「え?」
女浪人「地面に罠が……! もし落ちていたら……!」
チャラ男「やはり、うまい話には裏があったか……」
チャラ男「しかも、この近くには濃密な殺気が感じられる……」ギロッ
門番「よくぞここまでたどり着いた……」
門番「私を倒せば、貴様らは晴れて大学生になれるというわけだ」
チャラ男「お前が……最後の試練か!」
チャラ男(槍の使い手!)
門番「ぬあああああっ!!!」
ビュボボボボボッ!
チャラ男「速い!」ギギギギギンッ
門番「どうした、この程度か!? 防ぐしかできんのかァ!?」
ガキンッ! キンッ! ギンッ!
女浪人「あれほど強くなったチャラ男が防戦一方だなんて……!」
ギィンッ!
チャラ男「ぐっ……!」
チャラ男(こいつ……技量も経験も俺より上!)
チャラ男(真正面からの戦いでは勝てない! ――ならば!)ポイッ
門番「刀を捨てた!?」
女浪人「何をしてる!?」
チャラ男(この一瞬のスキを突き――急所へ裏拳ッ!)ヒュオッ
ボゴォッ!
門番「ぐほぉっ!」
門番「な、なるほど……裏をかいた、というわけか……!」
チャラ男(これでやっと俺たちは大学生に……!)
チャラ男「行こう!」
女浪人「……うむ」チャキッ
チャラ男「?」
ザシュッ!
チャラ男「ぐはっ……!?」
女浪人「悪く思うな……」
女浪人「裏設定があるのだ」
チャラ男「裏設定……!」
女浪人「つまり、貴様が一緒だと、その条件を満たせなくなってしまうのだ」
女浪人「だから最後の最後に、裏切らせてもらった」
女浪人「実に裏口入学らしい結末だろう?」
チャラ男「う、ぐっ……! へ、へへ……」
女浪人「なぜ笑う!?」
女浪人「!」
チャラ男「好きな女に切られるのならば、本望……」
チャラ男「この傷は……あの世での宝物にする……」
女浪人「な……!」
チャラ男「行け……」
チャラ男「俺の分まで、キャンパスライフを楽しんでくれ……!」ニコッ
女浪人「ああっ……!」
女浪人「私は貴様を利用するつもりで、一緒に旅をしていたが」
女浪人「やはり私も貴様のことが好きになってしまっていたんだぁぁぁぁぁっ!」
チャラ男「あ、ありがとう……」
パァァァァ…
チャラ男「――ん? なんだ、この光は……!? 傷が癒やされて……」
女浪人「周囲の景色が……大学の“正門”になっていく……」
門番「二人の裏表のない愛が、二人を裏口世界から脱出させ、正門に導いたのだ」
門番「となると、もはや私も門番でいる必要はない」
バサッ
学長「チャラ男君、よくぞ裏表のない境地にたどり着いてくれました」
学長「さすがは、あの人のご子息……」
学長「もはや、二人は裏口入学生などではありません。正々堂々と入学して下さい!」
チャラ男(門番の正体は……学長だったのか!)
女浪人「しかし、私は貴様を裏切ったのに……」
チャラ男「いっただろう? もう俺たちに、裏も表もないんだ」
チャラ男「二人で、楽しいキャンパスライフを送ろう!」
女浪人「ああ……私はもう貴様とは離れない!」
チュッ
チャラ男「これでもちゃんと親父の血を引いてたってことさ」
父「しばらく見ないうちに、ずいぶんと立派になったものだ」
父「さて、入学式には何を着ていくんだ?」
チャラ男「もちろん……」
チャラ男「リバーシブルのスーツだよ!」
~END~
入学できて彼女もできて“うら”やましい限り
乙
乙