課長「なにぃ~?」
課長「ワールドカップを見たいから会社を休みたいだと?」
男「は、はい……」
男「日本とベルギーの試合は深夜ですし、会社のことを気にせず観戦したいんです!」
男「テレビの前で全力で日本を応援したいんです!」
課長「……ふざけるなッ!」
課長「テレビの前で満足なのか?」
男「え……?」
課長「本当はロシアに行って生で応援したいんじゃないのか!?」
課長「日本を! 世界の強豪を! スーパースターたちを!」
男「そ、そうです!」
課長「ならば行くぞ……ロシアへ!」
課長「もちろん車だ。飛行機は怖い」
男「時間はかかりますが、のんびり旅が楽しめますね!」
課長「うむ、過程を楽しめないようでは、一流の旅人にはなれん」
課長「日本代表で、君の好きな選手は?」
男「うーん……色々いわれてますけど、やっぱり本田ですかねえ」
課長「フッフッフ、私の愛車はそんな君に相応しい車だ!」
男「え!?」
課長「ムーヴだ」
男「ダイハツじゃねえか!!!」
課長「ダイハツの何が悪い!!!」
男「あ、いえ……悪くないです……。すみません、つい……」
課長「さぁ、ロシアに向けて出発だ!」
男「そういえばロシアってどっちにあるんでしたっけ?」
課長「北だろう」
男「そりゃ分かりますけど……」
課長「北へ北へ進んでいけば、いつか必ずロシアにたどり着ける!」
男「どことなく名言に聞こえるからすごいです」
ブロロロロロロロ…
課長「札幌名物、サッポロビールだ」
男「うまそ~!」
課長「カンパイ!」
男「カンパーイ!」
グビグビッ
男「いやー……札幌で飲むサッポロビールは最高ですね!」
男「でも、運転はどうするんです?」
課長「あっ……」
課長「仕方ない、アルコールが抜けるのを待とう……」
男「とんだアディショナルタイムだ……」
男「ここが北海道の最北端、宗谷岬です」
課長「海じゃないか」
男「海です」
課長「しまった……! 北海道からロシアに通じるトンネルがあると思ってた……!」
男「ないですよ、そんなもん!」
男「どうするんですか!? 車じゃロシアにたどり着けませんよ!」
課長「安心しろ! ムーヴにはこんな機能もついている!」ポチッ
男「おおっ、船になった!」
課長「どんなところでも動ける(ムーブ)……だからムーヴだ」
男「す、すげえ……!」
課長「野郎ども、出航だ!」
ザババババババ…
男「ここはどこでしょう?」
課長「北方領土だ」
男「北方領土の……なんて島ですか?」
課長「……北方領土だ」
男「地理はお詳しくないようで」
課長「……すまん」
男「あ、女の子がいる! かわいいですね!」
課長「北方領土には、ロシア人が住んでいるというからな」
課長「だが、今はかまってられない。ワールドカップに間に合わなくなる」
男「その通りですね! 無視しましょう!」
ロシア娘「ワタシのボルシチ、誰も食べてくれナイ……」グスッ
男「……」
課長「……」
男「課長……!」
課長「ああ、分かってる。ここで食わなきゃ男じゃない!」
ロシア娘「!」
課長「ちょうどお腹がすいていたんだよ。お腹と背中がくっつきそうだ!」
ロシア娘「スパシーバ! ボルシチ、たんと食べテ!」
男「いただきます!」
課長「いただきます!」
課長「ああ、おかげで体が温まったよ」
ロシア娘「ワタシのボルシチ、食べてくれてスパシーバ!」
ロシア娘「この恩は必ず返すカラ……」
男「気にしないで、これからもおいしいボルシチを作ってくれよ!」
ロシア娘「ウン!」
ヒュゥゥゥゥ…
男「うう……寒い……!」
男「なんか、ずいぶん寒くなってきたんですけど」
課長「そりゃあ、北に向かってるわけだから、寒くなるのは当たり前だろう」
男「だけどこの寒さ、尋常じゃありませんよ?」
課長「たしかに……ボルシチを食べてなかったら凍死しているレベルだ」
男「ほら、あそこ! 氷山がある!」
課長「な……!? な、なんてことだ……ということは、ここは――」
男「なんですって!? 北に行きすぎちゃったわけですか!」
課長「まずい……すぐ引き返さねば、ワールドカップに間に合わなくなる!」
男「そうですよ! 日本とベルギーの試合が……」
男「――あっ!」
課長「どうした!?」
男「課長……あそこ!」
男「シロクマが溺れてます!」
課長「きっと温暖化の影響で氷山が溶け、泳ぎの苦手なクマが溺れてしまっているのだろう」
課長「だが、我々には関係ない」
男「ですよね……」
男「……」
課長「……」
男「課長……!」
課長「ああ、分かってる。ここで助けねば男じゃない!」
シロクマ「なんとお礼をいったらいいか……」
男「いやいや、北極の氷が溶けてしまったのはこちらの責任でもありますから……」
課長「ええ、これからも絶滅しないよう頑張って下さい」
シロクマ「なんて優しい方々だ……」
シロクマ「あ、あのっ! よろしければ、北極名物を食べていきませんか!」
男「北極名物?」
男「おお~」
課長「本場の白くま!」
シャクシャク…
男「くぅ~、頭が!」キーン…
課長「しかし、うまい! たまらん!」シャクシャク
男「もしかしたら、鹿児島の白くまは、北極から伝来されたものなのかもしれませんね!」
課長「うむ……恐るべし薩摩隼人!」
課長「なんとかしてロシアに行かなければならんな」
男「シロクマさん、ロシアってどっちだか分かりますか?」
シロクマ「すみません、私、北極から出たことがないもので……」
男「ですよね……」
課長「誰か、ロシアに詳しい人間はいないものか……」
課長「あっ!」
男「あの子は!? 船で追いかけてきてくれたんだ!」
ロシア娘「ボルシチ食べてくれたお礼! ワタシがロシアまで案内してヤル!」
男「本当かい!?」
課長「ありがとう!」
男「じゃあ、ロシアW杯へ……レッツゴー!」
課長「オーッ!」
ロシア娘「オーッ!」
シロクマ「オーッ!」
ロシア人「へ? ワールドカップ? もうとっくに終わっちまったよ」
男「へ……?」
課長「なんだと……!?」
男「じゃあ、日本はどうなったんですか!? 優勝国は!?」
ロシア人「さぁ……俺、ウォッカにしか興味ねえから」グビグビ
男「あうう……」ガクッ
課長「せっかくここまで来たのに……」ガクッ
シロクマ(二人とも……)
ロシア娘(なんて声をかけたらいいか、分からナイ……)
課長「私が車で行こうなんて提案したり、ビール飲んだり、北極に迷い込んだりしたから……!」
男「いえ、課長のせいじゃありませんよ」
課長「え……」
男「俺、課長が一緒にロシア行こうっていってくれた時、本当に嬉しかったんです」
男「だから、謝らないで下さい! 胸を張って下さい!」
課長「ありがとう……!」
男「さぁ、帰りましょう! 俺たちの故郷、日本に!」
ロシア娘「ニッポン楽しみー!」
シロクマ「私、一度日本に行ってみたかったんですよ」
男「!」モジッ
課長「!」モジッ
男「課長……トイレに行きたくなってきました」
課長「そういえば、ビール、ボルシチ、かき氷と、飲んだり食べたりしてきたからな……」
男「ボルシチに使われるビーツには、利尿作用もありますしね……」
課長「どこかにトイレはないか……?」
ロシア娘「ねえ、あそこ! ワールドカップ! あそこワールドカップ、まだやってるヨー!」
男「え!?」
ロシア娘「ほら、ワールドカップ!」
男「……」
課長「……」
シロクマ「……」
男「ふふっ」
課長「ははっ」
シロクマ「ハハハッ」
男「そうだな……たしかにこれはWC(ワールドカップ)だ!」
男「いいですねえ!」
シロクマ「やりましょう! 負けませんよ!」
ロシア娘「じゃあワタシ、外でボルシチ作って待ってるヨー!」
課長「とびきりおいしいのを作ってくれよ!」
男「俺たちのワールドカップはこれからだ!」
おわり
ちょっとムーヴ買ってくる