女「……」
チンピラ「準備はいいな?」
女「いつでもどうぞ!」
チンピラ「んじゃ、東京湾に沈めてやるぜェ!」ポイッ
ザバァンッ!
女「きゃあぁぁぁぁぁっ!!!」
ブクブクブクブクブク…
女(この特殊なウェットスーツなら、どんどん海底に潜っていくことができるわ!)
女(私の故郷の海は、とてもキレイだし……)
女(東京湾は首都・東京の海なんだから、日本一キレイなんだろうな……)
ブクブクブクブクブク…
コポコポコポコポコポ…
ゴチャッ…
女(あっちこっちゴミだらけで……全然キレイじゃない!)
女(なんて汚さなの!?)
女(これが……これが、あれほど憧れ、恋い焦がれた“東京湾”だというの!?)
女「……」
チンピラ「どうだった? 憧れだった東京湾の海底散歩は?」
女「……ガッカリしたわ」
チンピラ「へ?」
女「だって、ものすごく汚いんだもの!」
チンピラ「ん~……まあ、都会の海なんてそんなもんだろ」
チンピラ「これで満足だろ? とっとと帰って、佃煮でも食べようぜ」
女「……いや! 帰りたくない!」
チンピラ「マ、マジで……!? これだけの広さ、一人でやったらどんだけかかるか……」
女「もちろんあんたもやるの!」
チンピラ「ハァ!? 俺もやんのかよ!?」
女「あんたも東京に馴染めなくて、チンピラなんかに成り下がって、どうせヒマでしょ?」
チンピラ「ぐっ、痛いところを突きやがる……分かったよ、俺もやるよ!」
女「ふふっ、さすが幼馴染! 落ちぶれても私には甘いんだから」
チンピラ「……ちっ」
コポコポコポコポコポ…
チンピラ(ホントだ、メチャクチャ汚れてるな……)
女(ゴミをひとつひとつ手作業で取り除いていきましょう!)
チンピラ(オッケー!)
トレンチコート男「待ち人来ず、か……」スパー…
トレンチコート男「仕方あるまい……帰るとしよう」フゥ…
トレンチコート男「煙草は……海にかっこよくポイ捨てするとするか」
トレンチコート男(うふふ……一度やってみたかったんだよなぁ、これ!)
トレンチコート男「!?」
女「海に煙草捨てちゃダメでしょー!」
トレンチコート男「あ、す、すみません!」
女「ていうか、ポイ捨て自体ダメ! ほら、携帯灰皿!」サッ
トレンチコート男「ど、どうも!」
女「ルールを守って煙草を吸った方が……トレンチコートもより似合うよ」ニコッ
トレンチコート男「そうですよね……! ルールを守って楽しく喫煙!」
部下「オッケーです!」
業者「よし、産業廃棄物をまとめて海に流しちまうぞ!」
部下「こうすりゃコストをかけず処分できますから、最高ですねえ!」
チンピラ「おっと、そうはさせないぜ!」
業者「何者だ!?」
チンピラ「海を愛する……チンピラよ」
業者「略して“海ピラ”か……邪魔するならてめえも海に処分してやる!」
業者「うわぁぁぁぁぁっ!」
部下「ぎゃぁぁぁぁぁっ!」
チンピラ「おっと危ねえ! 海に落ちちまう!」ガシッ
業者「なぜ俺たちを助けた……?」
チンピラ「海はゴミを捨てる場所でも、人を捨てる場所でもねえからな……」
業者「俺たちみたいな奴に情けをかけてくれるなんて……」
部下「なんて広くて大きい人なんだ……!」
チンピラ「やれやれ、月は昇るし日は沈んできやがったぜ……」
キラキラキラキラキラ…
女「見違えるようにキレイになったわ……」
チンピラ「ああ、バイカル湖よりも透き通ってやがるぜ」
女「せっかくだから、二人で海底散歩しない?」
チンピラ「そりゃいいな! 二人で東京湾に沈もうぜ!」
ザブンッ…
コポコポコポコポコポ…
女(ゴーグルなんかいらないくらい、海の中が透き通ってるわ~)
チンピラ(あんだけ苦労したかいがあったな~)
女(……ん!?)
チンピラ(どうした!?)
女(あそこ見て……あそこにあるのは――)
バーンッ!!!
チンピラ「マ、マジじゃねえか! こんなとこにあるなんて!」
女「汚い状態の東京湾だと視界が悪くて、気づかなかったんだわ!」
チンピラ「てか竜宮城に近づいたら、俺ら喋れるようになってるぞ!」
女「ワオ!!!」
乙姫「地上の人間よ、よくぞ参られた」
女「わっ!?」
チンピラ「もしかして、乙姫様ってやつか!?」
乙姫「その通り、おぬしらが海をキレイにしてくれたおかげで、地上との交流が可能になったのじゃ」
乙姫「そのお礼をしたい。さぁ、こちらへ来るのじゃ」
チンピラ「お礼ってまさか……」ゴクリ
女「鼻の下伸ばさない!」ギュッ
チンピラ「ごめんちゃい!」
乙姫「ほっほっほ、青春じゃのう」
乙姫「なにがじゃ?」
チンピラ「竜宮城ってもっと地方にあるイメージでしたけど、東京湾にあったとは……」
乙姫「わらわたちとて、常に地上の進歩に合わせて、最先端の進化を遂げておる」
乙姫「東京が首都だということで、数年前に東京湾に移転したのじゃ」
チンピラ「なるほど……」
乙姫「さっそく、最新式のタイとヒラメの踊りをお見せしよう」
タイ「……」シュビッ シュバッ シュババッ
ヒラメ「……」シュビッ シュバッ シュババッ
チンピラ「う、う~ん……最新式か……」
女「微妙に古いね……」
亀「爺さんになっちまって大変だなぁ、浦島!」
浦島太郎「いやいや、若者が納めてくれる年金で悠々自適の生活を送って楽しんでるよ」
浦島太郎「今日も体調悪くないのに病院に行って、お医者さんとダベったしのう」
浦島太郎「今度の選挙では、もちろん老人福祉に力を入れる政党に入れるぞい」
亀「いい加減にしろ!」
二人「どうもありがとうございましたー!」
女「ア、アハハ……」
チンピラ「ブラックすぎて笑えねえ……」
タコ「わらびとタラの芽とぜんまいの天ぷらでございます」
イカ「タケノコにふき味噌を合わせてみました」
女「なぜ山菜!?」
チンピラ「普通に海の幸でよかったのに……」
チンピラ「うまかったっす!」
女「海底で食べる山菜ってのもいいもんだね!」
チンピラ「ああ、冬に食うアイスみたいなもんだな! 腹いっぱい食っちまった!」
乙姫「ほっほっほ、喜んでもらえてなによりじゃ」
乙姫「では最後に――」
女「玉手箱……!」
チンピラ「これ開けたら、俺たちジジイババアになっちまうんじゃ……」
乙姫「安心せい」
乙姫「むしろ、最先端のナウなヤングになることができるものが入っておる」
女(ナウなヤング、ねえ……)
チンピラ(やっぱりどこか古いよ、竜宮城……)
ワイワイ… ガヤガヤ… ザワザワ…
女「お~っ!」
チンピラ「すげ~っ!」
女「東京湾がものすごい観光スポットになってる!」
チンピラ「俺たちがキレイにしたおかげだな!」
若者B「世界遺産いけるっしょ!」
若者C「これからも自然を大切にしてこうぜ~!」
チンピラ「特に……若い連中が大勢来てるな」
女「渋谷や原宿に続く、若者の人気スポットになりそうね!」
女「あ、そうだ! 玉手箱開けてみようよ!」
チンピラ「そうだな! 俺たちも負けじとナウなヤングになるとすっか!」
チンピラ「……」
女「……」
チンピラ「なんだこりゃ?」
女「二人分の衣服だね」
女「乙姫ドレス……羽衣もついてる」
チンピラ「……どうする?」
女「ま、まあせっかくもらったんだし……」
チンピラ「着てみるか……」
ゴソゴソ…
「なんだあれ?」 「すげえ格好!」 「ウケる~!」 「だけどちょっとイケてるかも……」
チンピラ「いやー、俺たちのファッション……浮いてるな~」
女「浮いてるね~」
チンピラ「東京湾で沈んだり浮いたり、俺たちって忙しいな」
―おわり―
オチでフフッとなったわ