薬剤師「お薬手帳はお持ちですか?」
患者「あ、すみません……実は忘れてしまって……」
薬剤師「……」ビキッ
助手娘「!」ビクッ
薬剤師「お薬手帳を忘れただとォ~!?」ビキビキッ
患者「は、はい……」
薬剤師「申し訳ありませんが、こちらの部屋へどうぞ」
患者「な、なんで!?」
薬剤師「いいからこっちへ来い!!!」グイッ
患者「う、うう……」
薬剤師「吐け! 本当に忘れたのか!?」
患者「は、はい……家に忘れました……」
薬剤師「ウソつけェ!!!」
ドゴォッ!
助手娘(む、むごい……!)
バチバチバチバチバチッ
患者「うぎゃああああああああああああっ!!!」
薬剤師「さぁ、思い出せ! 本当に忘れたのか!?」
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチッ
患者「あぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
助手娘「えええええ……!」
薬剤師「思い出せ! 掘り起こせ! 埋もれた記憶を!」
助手娘「薬剤師さん、いくらなんでもやりすぎですよ!」ガシッ
薬剤師「やりすぎなものか……」
助手娘「でも!」
薬剤師「これぐらいしなければ……操作された記憶は矯正できん」
助手娘「えっ、それはどういう――」
助手娘「ど、どうしました!?」
患者「思い出しました!」
患者「僕、この薬局に来る寸前、黒服の男に襲われて……」
患者「妙な薬を嗅がされて、お薬手帳を奪われたんです!」
薬剤師「やはりな……“お薬手帳狩り”か!」
助手娘「忘れたんじゃなく、奪われてたんですか!」
患者「ありがとうございます! 記憶を取り戻したおかげで心が軽くなりました!」
患者「あれ? なんだか体も軽くなったみたいだ……」
薬剤師「あなたにやった殴打はマッサージ、電気ショックは体をほぐす作用があるんでね」
患者「そうだったんですか! いやー、体が何歳か若返ったようですよ!」
助手娘(すごい……拷問してるようでいて、ちゃんと治療してたんだ……!)
薬剤師「いや、ちゃんと説明しなかった俺も悪かった」
助手娘「でもあの人どうして、お薬手帳を奪われるなんて重要なことを忘れてたんでしょう?」
薬剤師「彼は記憶を操作されていたんだ」
助手娘「記憶操作!?」
薬剤師「おそらく嗅がされた妙な薬とやらに、記憶を操作する作用があったんだろう」
薬剤師「それで、彼は『お薬手帳を奪われた』という記憶を」
薬剤師「『お薬手帳を忘れた』という記憶に上書きされてしまったんだ」
助手娘「お薬手帳を狩るだけなら、わざわざ記憶操作なんてしなくても……」
薬剤師「『お薬手帳を奪われた』と『お薬手帳を忘れた』だとまったく事情が変わる」
薬剤師「前者だったら薬剤師は新しいお薬手帳を渡すだろうが」
薬剤師「後者なら薬剤師は、次回はちゃんとお持ち下さい、で済ませる可能性が高い」
助手娘「なるほど! 新しいお薬手帳を渡させないためですか!」
助手娘「犯人はいったい何者なんですか!?」
薬剤師「なんとなく察しはつくが……推測を重ねてもしょうがない」
薬剤師「犯人から直接聞き出さなきゃな……」
助手娘「どうやって?」
薬剤師「いい作戦がある」
女「行こう行こう~!」
男「お薬手帳があれば、お医者さんや薬剤師さんに自分が今なにを服用してるか、すぐ伝えられるから」
男「組み合わせたらダメな薬を飲んでしまうリスクを減らせるし」
女「災害時に、自分に必要な薬をよりスムーズに受け取ることもできるね!」
男「お薬手帳があれば、いいこと尽くめだ!」
黒服「ちょっと待った」ザッ
黒服「お前たちのお薬手帳……奪わせてもらう」
女「どうしてです!?」
黒服「理由は話せん……とにかくお前たちは罠にかかった獲物というわけだ」
男「あいにくだが、罠にかかったのはお前の方だよ」
女「作戦がうまくいきましたね!」
黒服「……!?」
バサッ
薬剤師「やっと会えたな、“お薬手帳狩り”!」
助手娘「あたしたちは薬局の人間なんです!」
黒服「な、なんだと!?」
黒服「ひとまず退散――」
薬剤師「錠剤投げ!」ビュババババッ
ビシシシシッ!
黒服「ぐああっ……!」ドザッ
助手娘「やったぁ! 銭形平次みたい!」
助手娘「教えて下さい!」
黒服「誰が吐くものか……!」プイッ
助手娘「むう、強情なんだから……」
薬剤師「……まともに吐かせようとしたら、日が暮れてしまいそうだな」
薬剤師「だったら……これを使う」サッ
助手娘「出た! 黄金のお薬手帳!」
助手娘(国から特に認められた優秀な薬剤師さんだけが持てる、最上級のお薬手帳!)
薬剤師「通常のお薬手帳は、持ち主の服用した薬を記録するだけだが」
薬剤師「このお薬手帳はそうではない」
薬剤師「文字で記録されている薬を実際に取り出し……使用することができる!」
黒服「なにぃぃぃ!?」
薬剤師「お前にはこの……CIAも愛用してるという自白剤を使わせてもらう」サッ
黒服「や、やめ……」
黒服「ああ~~~~~~~~っ!!!」
社長「クックック……」
社長「“お薬手帳狩り”は順調に進んでいるようだな……」
社長「お薬手帳がなくなれば、医師や薬剤師どもは適切な処方や調剤ができなくなり」
社長「飲ませてはいけない薬を飲ませてしまうなど、ミスを連発する!」
社長「やがて、市民たちは従来の薬剤師たちを信頼しなくなる!」
社長「そこで、我が社の特別薬剤師チームの出番だ!」
社長「その結果、病に苦しむ市民たちはみんな我が社に頼るようになる!」
社長「そうなれば、我が社の名声と業績はうなぎ登り! 土用の丑の日!」
社長「製薬業界及び医療業界を、我らが席巻するというわけだ!」
社長「ハーッハッハッハッハッハ!!!」
薬剤師「やはり、こういうことだったか……」
社長「貴様……さては薬剤師か!」
薬剤師「お前の部下が全て吐いてくれたよ。黒幕も、お前の目的もな……」
社長「……!」
助手娘「お薬手帳を奪って、間違った処方をさせるなんて、絶対許せません!」
薬剤師「悪徳社長……あんたの野望は、ここで粉薬のように粉砕させてもらう!」
社長「ふん、滅びゆく運命の旧式薬剤師の分際で……」
社長「この私を舐めるなよ!!!」
社長「むろん、ドーピング剤も開発しておるのだぁ!」チクッ
社長「ぬおおおおおおおおっ!!!」ムキムキムキッ
助手娘「きゃあああああっ! 筋肉が盛り上がって……ボディビルダーみたいに!」
薬剤師「心配するな……」
薬剤師「こっちにもドーピング剤はある!」
薬剤師「俺が飲むのは……プロテインだ!」
薬剤師「牛乳に溶かして……いただきます!」ゴキュゴキュゴキュ
助手娘「出たプロテイン! 世界中のアスリートが愛飲する最強のドーピング剤だわ!」
薬剤師「はああああああああ……! こんにちは、タンパク質!」メキメキメキッ
社長「ほう、ココア味とは……さては通だな!?」
社長「我がステロイドと貴様のプロテイン! どちらが上か決めようではないかぁ!!!」
社長「この鋼鉄の肉体に、そんなものは通用せんわぁ!」キキキンッ
薬剤師「ならば鍛え抜いた薬指で、体を突く!」ビュオッ
ガキンッ!
薬剤師「!?」
社長「ぬるい攻撃だ……」
社長「貴様の体で我が攻撃力を試してやろう……“臨床死拳”!!!」ブオンッ
ボゴォッ!!!
薬剤師「ぐごあぁっ!」ドザッ
薬剤師「が、がはっ……!」メキメキ…
薬剤師(なんという圧力……! プロテインパワーが、負ける……!)メキメキメキ…
助手娘「あああっ……!」
助手娘(薬剤師さんが……死んじゃう! なんとかしないと!)
助手娘「日本の製薬業界を救ってぇーっ!」
助手娘「それにあたし、まだまだ薬剤師さんと一緒に働きたい! 調剤したいのーっ!!!」
薬剤師「……!」
薬剤師(そうだ……俺はこんなところでくたばるわけにはいかない!)
薬剤師「うおおおおおっ!!!」グググッ…
社長「こいつ……まだ動けるのか!?」
薬剤師「究極奥義、“赤十字(ブラッディクロス)”!!!」ギュオッ
ズバシュッ!!!
社長「ぐああっ! 私の胸に、十字の傷がぁぁぁ……!」
社長「おのれぇ、赤十字ぃ……!」ドサッ…
薬剤師「ハァ、ハァ、ハァ……終わった……」
助手娘「見て下さい! “お薬手帳狩り事件”の記事が、こんなに大きく!」
薬剤師「社長は逮捕され、あの製薬会社も重いペナルティは免れない」
薬剤師「これでもう、お薬手帳を薬局に持ってこない人もいなくなるだろう……」
助手娘「そうですね!」
助手娘「それにしても、薬剤師さんの黄金のお薬手帳はすごいですねえ」
助手娘「手帳のおかげで悪徳社長を倒せましたし、薬剤師さんの怪我もすぐ治療できました!」
助手娘「まさに、薬剤師さんにとって最高のお薬ですね!」
薬剤師「いや……」
助手娘「薬剤師さん……」
薬剤師「俺にとっての“最高のお薬”はお前の声援だったよ」
―END―
薬剤師ってすごい!