少女「!」
不審者「お嬢ちゃん……おじちゃんと遊ばない?」
少女「いーよ!」
不審者「いやダメだって!」
少女「なんで?」
不審者「こんな怪しい人と遊んだら危ないよ! 知らない人にはついていくなって教わってるだろ!」
少女「えー? だけど、おじちゃんのこと知ってるし……」
不審者「いや、だから……」
ピピーッ!
不審者「ちっ、警官かよ。せっかくいいところだったのに」
警官「また子供に話しかけてたな? この不審者め! 今日こそ逮捕してやる!」
不審者「おっとそうはいかねえ! あばよ、お嬢ちゃん!」スタタタタッ
警官「待てーっ!」スタタタタッ
少女「じゃあねー!」
主婦A「あら、あそこに不審者がいるわよぉ~」ヒソヒソ…
主婦B「やぁね~、ホント薄汚いんだから」ヒソヒソ…
主婦A「早いとこ逮捕して欲しいわよねぇ~」ヒソヒソ…
主婦B「この町のおまわりさん、若いからイマイチ頼りないし困ったものよ」ヒソヒソ…
不審者「……」
手下「はいっ!」
子分「はいっす!」
ガキ大将「いつもいつも俺たちの小学校の近くに現れる、不審者のおっさんを俺たち三人でブッ倒すぞ!」
手下「やりましょう!」
子分「あのおっさんを倒せば、学校のヒーローになれるっすよ!」
不審者「ん?」
ガキ大将「見つけたぜ!」
手下「今日こそやっつけてやる!」
子分「覚悟するっす!」
不審者「まーたお前らか。ほれ、かかってこいや」クイックイッ
ガキ大将「なめんじゃねえぞ、おっさん!」
ドドドドドッ
不審者「ほいっ」ヒョイッ
手下「でやっ!」ブンッ
不審者「ほいさっ」ヒョイッ
子分「だあっ!」ブンッ
不審者「あらよっ」ヒョイッ
ガキ大将「ち、ちくしょう……!」ゼェゼェ…
不審者「まだまだだなァ、ボウズども!」
地味娘「いつ見ても、知性を感じさせない顔つきね」
眼鏡少年「将来どんな大人になるにせよ、ああいう風にだけはなりたくないね」
地味娘「そのためにも勉強頑張りましょう」
スタスタ…
不審者「その意気だ! 頑張って東大にでも入れよーっ!」
「あっ! 不審者のおじちゃん!」
不審者(ん? 川の向こうから声が……)
不審者「おお、こないだの……」
少女「今日も町を徘徊してるのー? ヒマだねー!」
不審者「まぁなー!」
少女「なんだったら、あたしが一緒に遊んであげよっか?」ヒョイッ
不審者「バカ! そんなに身を乗り出したら……」
少女「きゃぁぁぁぁぁっ!」バシャバシャ
不審者「いわんこっちゃない!」バッ
ザブンッ!
不審者「うおおおおおおおおおおお!!!」ザブザブザブザブザブ…
少女「た、たずけ……」
不審者「キャッチ!」ガシッ
少女「あ、ありがとう……」
不審者「いつもいつも、川には近づくなって教えてもらってるだろう!」
少女「ごめんなさい……」
不審者「分かればいいんだ」
少女「お礼に、あたしの宝物のメダルあげる!」サッ
不審者「……ありがとよ」ニコッ
ヒソヒソ…
主婦A「あら、不審者が子供を助けたわよ~! 雪でも降るのかしら? それとも雷?」
主婦B「自作自演じゃないの~? 自分で川に突き落として助けて……ってやつ」
ボソボソ…
不審者「おわっ! また俺を逮捕に来たのか!? いっとくけど、今のは――」
警官「いえ、僕は全て見ていました」
警官「川に落ちたあの女の子を、あなたは迷わず川に飛び込んで助けた……」
警官「警官である僕でも、あんな風にすぐ動けたかどうか……」
不審者「おだてるなよ。無鉄砲なだけさ」
警官「いや、思い当たるのは今回のことだけじゃないんです」
警官「ヒーロー気取りの子供たちを相手して運動させたり」
警官「反面教師として子供達が勉強するよう促したり……」
警官「あなたがやってきてから、この町の子供はよく運動や勉強するようになった、とも聞きます」
不審者「へえ、そうなのかい」
警官「これらのことを、あなたは狙ってやってるとしか思えない」
警官「あなたは誰です? 何者なんです?」
不審者「不審者だよ」
警官(いくら問いただしても、はぐらかされてしまった……)
警官(こうなったら、署のコンピュータに問い合わせてみよう……)
警官(もしかしたら、なにか手がかりが……)カタカタ…
警官「――え!?」
凶悪犯「……」
パシャッ パシャシャッ
記者「今、10人もの尊い命を奪った凶悪犯が、護送車に移される模様――」
凶悪犯「うおおおおおおおっ!!!」タタタタタッ
記者「あっ!?」
記者「逃げました! 凶悪犯が、一瞬のスキを突いて、逃げ出した模様です!」
ワーワーッ! キャーキャーッ!
不審者「お? また追いかけっこするか?」
警官「あれから、僕は――」ザザッ…
警官「ん? 無線だ……はい、なんでしょうか」
警官「えっ、10人殺しの凶悪犯がこの町に!?」
不審者「なんだと!?」
警官「とにかく、手当たり次第に走りまわって、凶悪犯を見つけないと……!」
不審者「落ち着け!」
警官「!」
不審者「慌てたってなんにもならん! この町を守りたければ、まずは落ち着くことだ!」
警官「は、はいっ!」
警官「やはり、あなたの正体は……」
不審者「……」
不審者「……」
警官「あなたはかつて、名刑事として凶悪な殺人鬼を追っていた」
警官「その途上、あなたはある町で不審者として有名になっている、ある男が犯人だとにらんだ」
警官「なぜなら、殺人現場の近くでその男はしょっちゅう目撃されているからだ」
警官「そしてある日、あなたはその男がエリート風の男と取っ組み合いになってるのを目撃した」
警官「あなたは当然、止めに入った」
刑事『何をやっている! 今日こそ逮捕してやるぞ、連続殺人鬼!』ガシッ
男『ぐえっ!』
エリート『ハァ、ハァ、ハァ……』
刑事『うむ、こいつは現行犯で逮捕して、全て吐かせてやる』
エリート『こいつにつきまとわれてたおかげで、犯行がやりにくくなって困ってたんです』ニヤッ
刑事『え?』
男『刑事さん、あぶねえっ!』バッ
グサッ!
エリート『ちいっ! 刑事を刺すつもりが……!』
刑事『き、貴様ァァァッ!』
警官「その男はあなたをかばって死に……あなたは殺人鬼を逮捕した」
警官「男は犯人ではなかった。不審者独自の視点と捜査で犯人に目星をつけていただけだったんだ」
警官「男を死なせてしまったとはいえ、所詮はただの不審者、その責任は問われなかった」
警官「むしろ、殺人鬼と不審者がまとめて消えて一石二鳥、なんて人もいたそうですね」
警官「しかしあなたは……どうしても自分を許せなかった」
警官「そして、あなたは刑事を辞め……やがて町を守る“不審者”になった」
警官「まるで、その男の遺志を継ごうとするかのように……」
警官「違いますか?」
不審者「悪いが、覚えてないな」
警官「……」
警官「女の子の声!?」
不審者「すぐ向かうぞ!」ダッ
警官「は、はいっ!」ダッ
凶悪犯「ヒャッハーッ! どいつもこいつもブッ殺してやる!」
凶悪犯「どうせ俺は死刑なんだ……こうなったらハイスコアに挑戦してやる!」
凶悪犯「20人でも30人でも、ブッ殺してやらァ!」
警官「待て! 僕が相手だ!」タタタッ
不審者「おい、うかつに近づくな!」
バキィッ!
警官「ぐはっ!」ドサッ…
凶悪犯「ヒヒヒ……11人目はお嬢ちゃん、てめぇだァ!」グオッ
少女「いやぁぁぁっ!」
不審者「やめろっ!」バッ
ザクッ!
不審者「ぐっ……!」
少女「おじちゃーん!」
凶悪犯「おっと、11人目は小汚ねえおっさんか! 安心しな! お嬢ちゃんもすぐに――」
凶悪犯「うわっ!?」
凶悪犯「な、なんで!? たしかに胸を刺したはずなのに……」
不審者「うおりゃっ!」ブオンッ
凶悪犯「ぐはぁぁぁ……っ!」ドサッ…
不審者「さ、あとはお前さんの仕事だ」
警官「は、はいっ!」
警官「すぐ救急車を……!」
不審者「いや、ケガはねえさ」
不審者「お嬢ちゃんがくれたこのメダルのおかげで……な!」サッ
少女「おじちゃん……!」
主婦A「あのおまわりさんが凶悪犯を逮捕したんですって! やるわねぇ~!」
主婦B「凶悪犯ったら、近くにいた不審者をやっちゃってくれればよかったのに……」
警官「……」
不審者「さて、俺は町の嫌われ者、そろそろ消えるか」クルッ
警官「あの……もういいんじゃないですか? もう不審者でいなくとも……」
不審者「最初は罪滅ぼしのつもりだった……だが、今の俺はこの暮らしが好きになっちまってね」
不審者「町のヒーローより、嫌われ者のが気楽だしよ」
警官「分かりました……もう何もいいません。これからも町の平和を守って下さい!」
不審者「おう。いつか俺を捕まえてみせろよ」
少女「バイバイ、おじちゃーん!」
不審者「うへへへ……また遊ぼうな、お嬢ちゃん!」
― 完 ―