オタク「おお~、発売日に買ってくるとはさすがだねえ」
男「そりゃそうさ! ゲーム同好会がこのゲーム買わないでどうするってんだ!」
イケメン「ボクたちは三度の飯よりゲームが好きだもんね」
茶髪「俺も参加させてもらうぜ! 必修の講義あるけど知ったことか!」
眼鏡女「……留年しちゃうよ?」
茶髪「いんだよ! 留年したって! 大学は8年間いれるし!」
男「講義なんざうっちゃって、みんなでゲームしよう!」
イェーイッ!
男「あ、くそっ! やるなぁ!」
オタク「ぐふふっ、同好会ナンバーワンの座は譲らないよ」
茶髪「ちくしょーっ!」
『フフフ、楽しそうですね……』
男「ん? 誰か何かいったか?」
イケメン「ボクは何もいってないよ」
茶髪「気のせいだろ?」
『あなたたちのような方と、ぜひゲームを楽しんでみたい……』
眼鏡女「いえ……知らない声が聞こえる……」
オタク「なんだよ、これぇ!?」
男「誰だ!?」
『私の世界へご招待しましょう!』
ブワォッ!!!
イケメン「ゲーム同好会のサークル室ではないようだね……」
悪魔「ようこそ、私の“家”へ」
男「なんだお前は!?」
悪魔「私はゲーム好きの悪魔です。あなたがたと同類ですね」
悪魔「だからこそ皆さんと波長が合い、こうしてお会いできたのですが」
オタク「あ、悪魔!? ひいいいっ……!」
茶髪「悪魔なんかが俺たちになんの用だ!?」
悪魔「あなたがたとゲームを楽しみたいと思いまして、お呼びしたんですよ」
悪魔「これです」
オタク「これは……ファミコンだぁ!」
悪魔「ソフトは……『スーパーマリオブラザーズ』」
男「マリオ1ってやつか」
悪魔「あなたがた、プレイした経験は?」
男「世代じゃないけど、ある」
オタク「ボクもあるよぉ~」
イケメン「リメイクされたバージョンなら……」
茶髪「俺もだ!」
眼鏡女「実況動画を見たことならあります……」
悪魔「さすがゲーム同好会の皆さん。ならばゲーム内容の説明はしなくて結構ですね」
悪魔「ではさっそく、“私とのゲーム”についてご説明しましょう」
悪魔「もしも、このゲームの1-1を一発クリアできたら、1000万円差し上げましょう」
男「1000万!?」
悪魔「ただし……」
茶髪「魂? そしたら俺たちはどうなるんだよ!?」
悪魔「その方は死にます」
男「死……!」
悪魔「ああ、それと……1-1には一ヶ所土管でワープできる場所がありますが」
悪魔「そこを使うのはナシとさせて下さい。いくらなんでも簡単すぎになってしまいますから」
オタク「もし間違って入っちゃったら?」
悪魔「その時は、もう一度スタート地点から、ということで」
悪魔「五人のうち、参加する人のみ一人ずつプレイして頂きます。さあ、いかがいたしますか?」
茶髪「俺、やるぜ! 1-1なんて楽勝だし、1000万もありゃ気兼ねなく留年できるってもんだ!」
オタク「ボクもやるよぉ~。マリオ1なら何度もクリアしたし」
イケメン「だったらボクもやろうかな」
男「んじゃ、俺も!」
男「お前は?」
眼鏡女「みんながやるんなら、私も……」
男「よっしゃ、決まり! 悪魔さん、全員参加だ!」
悪魔「分かりました。五名とも参加、ということで」ニッコリ
悪魔「なんでしょう?」
男「五人ともクリアしたら、5000万円もらえるってことでいいんだよな?」
悪魔「もちろんです!」
男「よぉーし、みんなで5000万円ゲットしよう!」
オーッ!!!
悪魔「フフフ……」
男「えーと……どうする? 誰からいく?」
オタク「自信はあるけど、一番手はちょっとぉ~」
眼鏡女「私も……」
茶髪「じゃあ俺がやってやるぜ!」
悪魔「分かりました……ではコントローラーをお持ち下さい」
茶髪「よっしゃあ!」
茶髪(これをクリアしたら1000万……! 楽勝だ……!)
茶髪(ただでさえ遊ぶための大学生活で、さらに遊びまくれる……!)
茶髪(だけど失敗したら……)
茶髪(失敗したら……)
茶髪(死……)ゴクッ…
男「どうした? 昔のマリオって時間制限あるから、急がないと」
茶髪「そ、そうだな!」
茶髪(や、やべえ……コントローラー持ったとたん、急に恐ろしくなってきた!)ガタガタ…
茶髪(震えが止まらねえ!)ガタガタ…
悪魔「タイムアップによるミスも、もちろんアウトですよ」
男「だってよ! 進まないと!」
茶髪「そ、そうだよな!」
茶髪「うおおおおおおおっ!!!」
タタタタタッ
オタク「ちょっと! ストップ!」
男「何やってんだ! ジャンプしろ、ジャンプ!」
イケメン「最初のクリボーにぶつかるぞっ!」
テレッテテレッテレ♪
男(クリボーにぶつかって……マリオが死んだ……)
男「死んでる……」
オタク「ウソだろぉ~!?」
イケメン「そ、そんな……」
眼鏡女「ホントに死ぬなんて……」ガタガタ…
男「てめええっ!!!」ガシッ
悪魔「なんですか?」
悪魔「だからいったではないですか。ミスしたら死ぬって」
男「生き返らせろ!」
悪魔「無理ですよ。彼の魂は私のものになりました」
男「殴られたいのか!?」グッ
悪魔「人間には私を殺せませんし、たとえ殺しても彼は生き返りませんよ」
男「ぐ……!」
悪魔「ちなみにもう参加表明は済んでますから、今から辞退となるとミスと同じ扱いになります」
悪魔「つまり、死にます」
悪魔「その方が私としてはありがたいのですが、どうしますか?」
男「うぐっ……!」
男「オタク!」
オタク「ゲーム同好会で一番ゲームが得意なボクがあっさりクリアして」
オタク「みんなの緊張をほぐしてみせるよ」
男「オタク……」
悪魔「素晴らしい。見た目はともかく、勇気ある心の持ち主のようです」
オタク「見た目はともかくってなんだよ」
悪魔「フフッ、これは失敬。ではプレイして頂きましょう」
オタク「オーケイ」
オタク「いくぞぉ~」
タタタタッ ピョーン ピョーン
男(いいぞ、さすがオタク! キノコを取って、クリボーもかわしてる!)
男(だけど、やっぱり命がかかってるからか、プレイがぎこちない!)
男(焦るな……いつものお前なら8-4までだってノーミスでクリアできる!)
オタク「!」
オタク(しまった! 取り損ねた1UPキノコが、どんどん地面を走っていく!)
オタク(ボクとしたことがぁ!)
タタタタタッ
男「!?」
男「おい、何やってんだ! 無理に追いかけ――」
男「あ」
男(1UPキノコを追いかけたマリオが、穴に転落した……)
男「オタクゥゥゥゥッ!」
イケメン「オタク君!」
眼鏡女「いやぁぁぁ……っ」
悪魔「あーあ、一発勝負だから1UPキノコ取ったところで意味がないのに」
悪魔「ゲームが得意ゆえにアイテムを逃さない完璧なプレイをしようとした……それゆえの自滅ですね」
悪魔「きっとマリオ以外のゲームでも、コンプリート要素があれば完璧にこなさないと」
悪魔「気が済まないタイプだったのでしょうね」
悪魔「たとえば、RPGのダンジョンで正しい道を選んだら引き返す、という具合に」
男「ぐっ……!」
イケメン「次はボクだ!」
男「イケメン……ちょっと時間を置いた方が……」
イケメン「大丈夫、二人の犠牲があって、かえって冷静になれたよ」
イケメン「残る三人は必ずクリアしよう!」
イケメン「そして……可能なら悪魔と交渉して死んだ二人を生き返らせてもらうんだ」ボソッ
男「……ああ!」
悪魔「……」ニヤニヤ
イケメン(よし、チビマリオではあるけどコースの真ん中まで来た!)
イケメン(ここでスターを取って、一気にゴールまで駆け抜ける! スターは絶対取る!)
イケメン「あっ!」
イケメン(スターが跳ねていく! 追いかけないと!)
男「焦るな! クリボーとノコノコがいるぞっ!」
イケメン「しまっ――」
テレッテテレッテレ♪
眼鏡女「イケメン君!」
イケメン「ボク……将来はスターになりたかったんだ……」
イケメン「だから、どうしてもスターを……」ガクッ
男「ああっ……!」
眼鏡女「いやぁぁぁぁぁっ!」
悪魔「これで残り二人。さて、どちらからプレイしますか?」
男「じゃあ俺――」
眼鏡女「私がやる……」
男「!」
眼鏡女「最後になるのは嫌だから……」
悪魔「分かりました。ではあなたからにしましょう」
男「どうした? なんで進まないんだ?」
眼鏡女「ごめん……怖くて……」
男「怖くて……ってタイムアップになっちまうぞ! 右に進ませなきゃ!」
眼鏡女「ごめんね……」
男「やっぱり俺が――」
悪魔「おっと! 今からコントローラーをチェンジしたら二人ともミス扱いにしますよ」
男「てめえ、どこまで悪魔なんだ!」
悪魔「なにしろ悪魔ですから」
男「おいっ! マリオを動かせ! 動かすんだ!」
眼鏡女「ごめんね……ごめんね……」
眼鏡女「お願い……どうか……クリアして、ね……」
男「分かった! 必ずクリアしてやるっ!」
ガクッ…
悪魔「四人もお仲間に死なれてショックでしょう。少し休みますか? 追悼したいでしょうし」
男「いや、今すぐやるよ」
悪魔「ほう、いい顔をしている」
男「必ず1-1をクリアしてやる。あいつらの分まで!」
悪魔「素晴らしい……! あなたのその心意気だけで、1000万円をあげたくなりますよ」
男「ほざきやがれ」
男「ゲームスタートだ!」
男(クリボーかわして、キノコ取って……)
男(1UPキノコは無視、ファイアフラワーゲット……)
悪魔「順調ですね。しかし、大きいマリオでも穴に落ちたら死にますからねえ」
男「……」
悪魔「コインのブロックは叩かないんですか? そんな余裕ありませんか?」
男(悪魔のヤジに惑わされるな……)
男(敵は全部ファイアボールで処理して……穴も落ち着いて越える)
男(よし、ゴールまであとわずか!)
男(なんか変な音が聞こえるが、気にするな)
男「最後の階段登って……」
男「ジャンプ!!!」
ピョーンッ
男(やった! クリアだ!)
プツンッ…
男「えっ!?」
男「画面が……消えた」
悪魔「どうやら、私のお母さんの掃除機がファミコンのコードに引っかかってしまったようですねえ」
男「は?」
悪魔「ファミコンの天敵はお母さんの掃除機。これはファミコン世代の人間にとって常識です」
悪魔「掃除機にぶつからないよう、ファミコンを移動させるべきでしたね」
男「ふざけんな……! こんなのノーカンだろ!」
悪魔「いいえ、これは掃除機の接近に気づかなかった、あなたの“ミス”です」
男「なにいってやがる……!」
男「んなこといったら、てめえがファミコンの本体蹴るのだってありじゃねえか!」
男「てめえ、最初からクリアさせる気なんかなかったんだな!」
悪魔「当たり前でしょう。私は悪魔ですよ?」
男「この……クズ野郎が!」
悪魔「お褒めの言葉をありがとうございます」
悪魔「さぁ、ゲームは終了です! あなたの魂も頂きましょうか!」
悪魔「いてっ!」
悪魔母「いつまでゲームやってんだい、このバカ! 掃除の邪魔だよ!」
悪魔「バカってひどいや! 人間から魂を奪ってたんだよ! 悪魔の生業じゃないか!」
悪魔母「こんなアンフェアなハメルールでかい!? クソゲーもいいとこだよ!」
悪魔母「人間にもちゃんとチャンスや勝利の可能性があるルールで人間から魂を奪ってこそ」
悪魔母「より絶望に満ちた魂を得られるんだろうが! なんも分かってないねえ、あんたは!」
バキッ! ドゴッ! ガンッ!
悪魔「や、やめてっ! 掃除機で殴らないでよぉ!」
悪魔母「息子じゃなかったら、ブチ殺してるところだよ!」
ガツンッ!
男「は、はい……」
悪魔母「すまなかったねえ、お仲間の魂はすぐ戻すからね」
悪魔母「あたしら悪魔にも悪魔なりの仁義はあるってのに、あのバカは……まったく」ギロッ
悪魔母「あと少なくて悪いけど、これは迷惑料だよ、取っといて」クシャッ
男「ど、どうも……」
悪魔母「じゃ、元の世界に帰すからね!」
ブワォッ!!!
サーテ、オシオキダヨ! ユルシテオカアサン… ギャァァァァ…
…………
……
オタク「あれ……」
イケメン「ここは……」
茶髪「ゲーム同好会の部室だ……」
眼鏡女「今のは……夢?」
イケメン「ボクも! スーパーマリオの1-1をプレイする夢! スター追いかけてミスしたけど!」
茶髪「俺もだ! 俺なんかビビって真っ先に死んでたぜ!」
眼鏡女「私も……」
眼鏡女「夢だったのね……。みんな、無事でよかった……」
ワイワイ…
男「……」
男(しわくちゃの千円札が、俺のポケットに入ってる……)
男(あれは……夢じゃなかったんだ)
男「ゲームはこのくらいにして、真面目に講義出ようか! 単位危ない奴もいるし!」
オタク「う、うん!」
イケメン「そうしよう!」
茶髪「留年しないよう頑張るぜ!」
眼鏡女「ゲームは程々が一番……だね」
― 終 ―
俺は最初の土管と土管の間にいるクリボーに当たって死にそう