王「よく来てくれた、勇者たちよ」
王「さっそく魔王討伐の旅に出発してもらう」
勇者「もちろんです。この日のために四人で準備してきたのですから」
王「……と言いたいところなのだが」
勇者「?」
王「おぬしらにはテレワークで魔王を倒してもらう」
勇者「テレワーク?」
王「魔導の力を駆使した道具で、自宅にいながらさまざまな仕事ができるシステムのことだ」
勇者「ああ……今、少しずつ広まってるそうですね」
王「実は一部から、“たった四人で危険な旅をさせるのは非人道的”という意見があってな」
王「世論もその意見に傾いてきているのだ」
勇者「はぁ……」
王「そこで、おぬしらにはテレワークを駆使して、自宅で魔王を倒してもらうことになったのだ」
勇者「事情は分かりました……。で、肝心の道具は?」
王「ここからは、テレワークを推進している専門家から説明してもらおう」
人形師「さっそく、勇者様たちに使用して頂く人形をご紹介いたします」
人形師「こちらです」
ズラッ…
勇者「これが……!」
戦士「へぇ~、多少俺たちっぽく作ってあるな」
僧侶「この方たちが私たちの代わりに旅に出るわけですか」
魔法使い「ふうん、人形技術も進歩したものね。今や命令すれば自動的に働くのもあるっていうし」
人形師「このヘルメットを被ることで、人形たちを遠隔操作することができます」
人形師「人形たちは勇者様たちの思うがまま動き、戦えば戦うほど成長していきます」
人形師「力もつきますし、技もキレを増していくでしょう」
勇者「すごいなぁ」
戦士「だけど、こんなのがあるなら、魔王退治は俺らじゃなくてもできるんじゃねえか?」
人形師「ところが、そうもいかないのです」
人形師「たとえば私が操作しても、おそらく人形は大した成長もできないまま」
人形師「下級モンスターに破壊されてしまうでしょう」
魔法使い「そうそう上手くはいかないってことね」
人形師「しかし、勇者様たちならばきっと……魔王を倒せるはずです!」
人形師「私の夢を叶えて下さるはずです!」
勇者「うーん、とにかく……やってみましょう」
勇者「うん、今日から」
母「気をつけてね……死んだらダメよ」
勇者「少なくとも死ぬことはないと思うよ」
母「え?」
勇者「というか、そもそも出かけないんだけど」
母「どういうことなの?」
勇者(おー、家にいながら外の様子が見える。人形と視界を共有できるわけか)
勇者(仲間とも、人形同士会話するという形でコミュニケーションできる……)
勇者「じゃ、みんな今日からテレワークで魔王退治に出かける!」
勇者「はりきって行こう!」
戦士『おう!』
僧侶『はい!』
魔法使い『はーい』
勇者(自分が動くのをイメージすれば、ちゃんとその動作をするって説明だったけど……)
勇者(剣を、振り下ろす……!)
勇者人形『てやっ!』ブンッ
ズバッ!
スライム「ピギャアッ!」
勇者(やった! 倒せた! なるほど、こんな感じか! 自分の体の感覚で動かせる!)
戦士「よぉーし、俺だって……」
勇者『戦士、危ない! 後ろに敵が!』
オーク「ガァッ!」バキッ!
戦士人形『うわっ!』グラッ…
戦士「……! あ、痛くねえ!」
勇者『遠隔操作だからな。ただし、あんまりひどい壊れ方すると元に戻らないから気をつけろ!』
戦士「人形だからって無茶はできねえってことか」
僧侶人形『癒やしの光よ……』パァァァ…
魔法使い人形『魔法も使えるみたいね』
僧侶人形『ですが、やはり本人の技量を越えた呪文は、唱えても効果が出ませんね』
魔法使い人形『どうなってんのか知らないけど、よくできてるわね~』
勇者「今日一日だけでかなりの冒険ができたな。予定より順調だ」
戦士『ああ、それにだいぶ強くなったぜ』
魔法使い『人形ともシンクロできるようになってきたしね』
僧侶『多少高度な補助呪文を覚えることができました』
勇者「じゃあ今日はここまで! また明日の朝からテレワークを始めよう!」
勇者「通信を切って……ゆっくり寝るか」
勇者「さあ、今日も魔王討伐の旅に出発だ!」
勇者人形『でやぁぁぁっ!』ズバババババッ!
勇者(いいぞ、操作もこなれてきて、ますます強くなってる!)
勇者人形『この沼を通っていこう』ザブザブ
ヌメヌメ… ドロドロ…
勇者「生身だと入っていくのが気が引けるところにもどんどん入っていけるな」
戦士『ああ、こんな汚い沼、生身で入るのはゴメンだぜ!』
魔法使い『おかげでだいぶ近道できるわね』
僧侶『魔王たちの裏をかけるのも大きいです!』
勇者人形『ぐあっ!』
勇者「しまった! 毒バチに刺された! 毒消しもないのに……!」
勇者「……っと、人形だから毒は受けないんだっけ」
勇者(これもテレワークの大きな利点の一つだなぁ)
勇者「ありがと」
勇者「……」ハグハグ
戦士『おい勇者、なにか食ってんだろ!』
魔法使い『咀嚼音聞こえるよー』
勇者「ハハ……バレたか」
勇者(好きな時に食事できるってのも大きい。生身で冒険してたらこうはいかないや)
戦士『おう、テレワーク万歳だぜ!』
魔法使い『残るはいよいよ魔王城だけね』
僧侶『今の私たちなら勝てます!』
勇者「ああ……自宅にいながら魔王城に突入だ!」
――――
――
勇者人形『人形だからって甘く見てると痛い目にあうぞ!』
戦士人形『そうだぜ! 成長しまくってるからな!』
魔法使い人形『覚悟しなさい、魔王!』
僧侶人形『今こそ大勢の人を苦しめた罪を償う時です!』
魔王「ほざけ……人形なんぞに負けてたまるものか! まとめて粉砕してくれるわァァァ!」
魔王「なんだこの動きは……! とても人形とは思えん……!」
勇者人形『トドメだ、魔王ッ!』
ザンッ……!
魔王「ぐはぁっ! こ、こんな……人形なんぞに、負けるとは……」
戦士『ああ!』
魔法使い『ついに魔王を倒せたわね!』
僧侶『それじゃ、凱旋しましょう!』
勇者「……まあ、俺たちずっと自宅にいたんだけどね」
アッハッハッハッハ…
勇者「とはいえ、人形はちゃんと返さないといけないから、みんなで帰ろう」
勇者「家に帰るまでが魔王討伐だ!」
オーッ!
人形師「お疲れ様でした」
勇者「しかし、苦楽を共にした人形なので、返却してしまうのはちょっとさびしいですね」
人形師「なぁに、世界は平和になったのです。もはやこんな人形は無用の長物」
人形師「勇者様たちは平和になった世の中で、のんびり暮らして下さい」
勇者「はい、そうさせていただきます!」
人形師「……」
人形師(実は、この人形たちには隠された機能が一つある。それは――)
人形師(四体は、私の命令に絶対従うということ)
人形師「動け」
勇者人形「……」ウイーン
戦士人形「……」ウイーン
魔法使い人形「……」ウイーン
僧侶人形「……」ウイーン
人形師「全て……全てシナリオ通りだ」
人形師(テレワークの結果、人形たちは魔王以上の強さを得て私の手に戻った)
人形師(しかも、勇者たちはずっと家にいたから、肉体的には全く強くなっていない……)
人形師(つまり、もはやこの四体に敵う者はこの世に存在しないというわけだ……!)
人形師「さあ、魔王ですら実現できなかった、私の夢が叶う時が来た」
人形師「真の世界征服の始まりだ……!」
完
おもしろかった
ここは納得いかない
サッカーゲームしてたってサッカー上達しないだろ