村の前だよ
女騎士「心配だ」
少女「大丈夫だよー」
女騎士「知らない人にはついていくなよ?」
少女「あい」
女騎士「怪しいものは食べるなよ?」
少女「うい」
女騎士「夜道には気をつけろ?」
少女「そい」
女騎士「それからそれから……」
少女「もー、大丈夫だってばー!」
少女「うん」
オーク「それとな、あの魔法はあまり使うなよ」
少女「どうして?」
オーク「どうしてもだ。確かではないが不安な要素があるからな」
少女「やっぱ髪のこととか……かな?」
オーク「ん……まあな」
少女「確かに昔よりかは白っぽくなっちゃったけど、私は至って健康だよ?」
オーク「しかし……」
少女「まあ、でも、気を付けるよ!あんまり使わないようにする」
オーク「ならばいい」
少女「?」
村長「いつの間にか一人旅するほどに成長するとはな」
少女「へへ、まあね」
村長「時間の流れは早いもんだ」
村長「突然『一人で旅に出たい!』なんて言い出したときはどうしたもんかと思ったが」
少女「自分の目で色んな景色を見てみたいの。もうただの幼女じゃないのよー」
村長「それでもチビだし、胸は平野だがな」
少女「お前の頭は相変わらず焼け野原だけどな」
村長「ふえぇ……」
少女父「はっはっは、少女のことだ。そんなに心配はしてないぞ。世界中を見てまわってこい」
少女「うん!ありがとう!パパ!ママ!」
女騎士「最初は中央王都を目指すんだぞ。丁度今来ている馬車に乗せてもらえば、寝ているうちに着くだろう」
女騎士「馬車で行くとはいえ、道中何があるかわからないからな。気を付けるんだぞ」
女騎士「最近の情勢は安定しているとはいえ、魔物たちは普通にいるからな。修行で私が教えたこと、忘れるんじゃないぞ」
少女「了解です!」
村長「それじゃ、俺らからの餞別品だ」
少女「餞別品?」
少女「まじすか」
女騎士「まじだぞ。ほら、私からはペンダントだ」
少女「綺麗!ありがとう!」
女騎士「御守りとして大事に身に付けておいてくれたら嬉しい。もし、お金に困ったらそれを売って資金にしても良いからな。数日間寝泊まりに困らない額にはなるだろう」
少女「そんな、これを売るなんてとんでもない!」
女騎士「ふふ、気持ちは嬉しいが無理はするなよ?」
オーク「次は俺だな」
少女「待ってました!」
少女「かっこいい!ありがとう!」
オーク「これで多少は身を隠すこともできるしな。野宿のときは案外これが役に立つ」
少女「なんだか孤高の旅人らしさが凄い出た気がするよ!ずっと着てるね!」
オーク「いや、暑いときは脱ぐんだぞ……」
少女「おぉ、思ったより軽い!」
オーク「結構良いの買ったしな」
幼女「なんだか申し訳ないっす」
オーク「いや、俺は食べ物以外には金を殆ど使わないしな。これぐらいは安いものさ」
村長「さて、次は俺か」
村長「あからさまに不安そうな顔すんなよ、渡さねぇぞ」
少女「あ、いえ、もらいますもらいます。ありがたく頂戴します」
村長「今回は流石にちゃんとしたもんだぞ。銀の短剣だ」
少女「銀!?うおお、凄い!」
村長「この袋の中に鞘と一緒に入れてあるからな。いざというときに出して使えよ。」
少女「なんで袋に?」
村長「子供が剣プラプラ持ってたら目立つだろうが」
少女「確かに」
村長「プラプラしてるのは股にある男の剣だけで十分だ」
少女「でもペーパーナイフでしょ?」
村長「おぉん!?てめぇ見たこともの無いのによくそんなこといえるな!?見るか!?見て確かめてみるか!?」
少女「ちょ!やめ!」
村長「唸れ!俺のアロンダ
オーク「村長!」
女騎士「少女見ちゃダメだ!」
ギャーギャー
少女母「あらあら、うふふ」
少女父「はっはっはっ」
村長「まあ、そういうわけでだ。三人とも渡し終わったことだし、そろそろ出発か?」
少女「そうだね。あんまり行商人の人を待たせる訳にもいかないし」
女騎士「無理は絶対するなよ?」
少女母「疲れたら休むのよ?」
女騎士「歯磨けよ?」
少女母「バランスよくご飯食べるのよ?」
女騎士「夜遅くまで起きてるなよ?」
少女「わかったってばー!」
少女父「サラウンドお小言か……少女も大変だな」
オーク「どうしました?少女と別れるのが寂しいんですか?」
村長「んなバカな。ただ、あいつが旅に出る前に一度だけでもチェスで勝っておきたかったなと」
オーク「村長、勝ったとこないんですか?」
村長「一回だけある」
オーク「ほう」
村長「あいつにチェスを教えてやったときにな。もう、ボッコボコにしてやった」
オーク「相変わらず大人気ないですね……」
村長「次の日から勉強してきたのか、俺がボッコボコにされたけどな」
オーク「それじゃあ、行商人さん。よろしくお願いします」
少女「お願いします!」
行商人「へえ、かしこまりました。王都までは送り届けますよ」
女騎士「……なあ、私も途中までついていった方が」
少女「大丈夫だって!女騎士さんはちゃんとこの村を守ってください!」
女騎士「ぐぬ……」
行商人「さあ、荷馬車に乗って」
少女「はい!……んしょっと」
村長「おう、行ってこい」
オーク「少女に神のお導きがあらんことを」
行商人「では、出発します」
少女父「楽しんでこいよー」
少女母「いつでも帰ってくるのを待っているからね!」
幼女「はーい!」
行商人「はいやっ!」
ヒヒーン
ガラガラガラ
女騎士「……行ってしまったか」
少女「ということで旅に出ました」
少女「沢山の人に見送られて、私は幸せものだなー」
少女「しかし一人旅」
少女「話し相手が居ないのは少々さびしいわけで」
少女「荷馬車でじっとしてるだけなのはつまらないし」
行商人「……」
少女「行商人さんはあまり喋らないし」
少女「まだここらは私も見たことのある景色だし」
少女「……」
少女「寝るか」
少女「zzz……」
ガタン!!
少女「おわっ!?なんぞ!?」
行商人「あちゃー」
少女「どうしましたか?」
行商人「いやね、車輪が壊れちまってね。……このままだと、直接東に行けないかもしれないな」
少女「ということは、まさか中央王都には行けないってことですか?」
行商人「そうなるね」
少女「なんと」
行商人「近場の村まで引きずって修理するとなると結構時間かかりそうなんだよな」
行商人「スペアもきらしているし、補充できると考えれば逆に丁度よかったかもしれない」
少女「うーん……」
行商人「どうする?ついてくるかい?」
少女「……」
少女「いえ、せっかくだし、自分で歩いて行くことにします」
行商人「良いのかい?」
少女「はい、ここまでありがとうございました」
行商人「あとは道なりに進めば問題ないだろう」
少女「わかりました」
行商人「送ると言った手前、こんなことになってしまって申し訳ない。どうか達者でな」
少女「ありがとうございます。行商人さんも、どうかご無事で」
行商人「森の中は魔物や獣も多くいる。気を付けろよ」
少女「はい」
行商人「森の中にも道はあるから迷うことはないだろうが、夜は視界も悪くなる。あまり動かない方がいいだろう」
森の前だよ
少女「さて、特に魔物に会うことなく歩きでここまできたわけですが」
少女「この森大きいな……」
少女「一日で抜けられるかな?」
少女「暗くなったら進めなくなるだろうし」
少女「魔物も出るようになるだろうし」
少女「気を付けて行かないと」
少女「よしっ、気合い入れろ私!」
パンパン
少女「いざ、出発!」
少女「やっぱ、森だけあって薄暗いな……」
少女「いろいろと不気味だし、早くこんなところ抜けちゃいたいよ……」
バサバサッ!!
少女「ひっ!」
少女「なんだ鳥か……」
少女「ちょ、ちょっと暗くなってきたし、そろそろ休もうかな……」
少女「でも、もうちょっと進んでおきたいな」
少女「ああでも怖いし……」フルフル
少女「こ、今度は何!?」
ガサガサ!!
ザッ!!
獣「ウワンッウワンッ!!」
少女「なんだ獣か……」
少女「ん?」
少女「獣!?」
獣「ヴヴヴ……」
少女「な、仲間になりたそうにこっちを見ているってわけでもないよね……?」
少女「とりあえず獣から目を離さないようにして距離をとって……」
ジリ……ジリ……
少女「そうだ!村長にもらった短剣!」
少女「えっと、どこだどこだ」
ゴソゴソ
獣「ヴヴヴ……」
ジリ……ジリ……
少女「あった!」
少女「よし、この袋をとって……!」
村長の家だよ
女騎士「……はぁ」
女騎士「送り出して本当によかったのでしょうか……」
村長「大丈夫だって、相変わらずチンチクリンだが中身は成長してるし、可愛い子には旅をさせろというだろ?」
女騎士「たしかに今は私が王都にいた頃よりは、魔王側と和平という名の休戦状態のお陰で多少平和にはなりましたが、それでも野良魔物や獣が居ないわけではありませんし」
ガチャ
村人1「ちわーっす」
村長「おう、お疲れ」
女騎士「どうも……」
村長「いつものことだ、気にすんな」
村人1「そ、そうすか」
村人1「それで、今度王都にいる親戚へ届ける荷物ってこれですか?」
村長「おう。その袋に入ってるやつだ」
女騎士「村長、王都に親戚がにいるんですか?」
村長「まあな。ちょこちょこ連絡とってるんだ」
村人1「ちょーっと中身をあらためさせてもらいますねー」
村長「おいこら、別に見なくたっていいだろ。恥ずかしいな」
村長「そんなんじゃねぇよ。送る相手は親戚の子供だから、少しファンシーなものが入ってるだけだ」
村人1「ファンシー……?ファンシーというと何なんでしょうかね」
ゴソゴソ
村人1「あれ、村長、ファンシーって言うわりにはなかなか格好いいヤツですね」
村長「は?魔法が使えるような気になるファンシーステッキのどこが格好いいんだよ?」
村人1「え?いや、この袋に入ってるのはそのファンシーステッキじゃないですよ?」
村長「じゃあなんだよ?」
村人1「銀の短剣です」
村長「」
女騎士「」
村人1「ん?」
少女「……」
少女「な」
少女「なんじゃこりゃああぁあぁぁ!!?」
獣「ビクッ」
少女「え、ちょっと待って、銀の短剣を取ったと思ったらファンシーなステッキだった。は?どいうこと?」
少女「まさか村長、間違えた?」
少女「あ、あの……!」
少女「あのハゲェエェエェェエェ!!」
ジリ…ジリ…
少女「ぐぬ……どうしよう」
少女「こうなったら魔法を使おうかな」
少女「んーでも、オークさんにあまり使うなって言われたしなぁ……」
少女「いやいや、そんなこと言ってる場合じゃないよね」
獣「ウワンッ!!」
少女「ひっ」
少女「むにゃー!」
ボンッ!!
獣「!?」
獣「ガルル……」
少女(慌てて唱えたから狙いが定まらなかったのかな)
少女「ヤバイ、刺激したせいで怒ってる……。さっきより飛びかかって来そうな勢いだよ……!」
少女「こ、こうなったら……」
ジリ……ジリ
獣「?」
少女「三十六計逃げるにしかずだよぉー!」
ダッ!!
獣「!」
少女「ぜえっぜえっ……!」
少女「あたた……」
少女「あーもう無理脇腹痛い」
少女「相変わらず体力ないなぁ私……」
少女「け、獣は?」
獣「ガルル……」
少女「おるやん……」
少女「付かず離れず追ってくるなんて、なんて奴!」
少女「ヤバイヤバイ襲われる!」
獣「ガウッ!」
バッ
少女「くうっ!」
パシュ
獣「キャイン!!」
少女「……!」
少女「……」フルフル
少女「……?」
少女「あれ?私……生きてる?」
獣「」ピクピク
少女「あれ、獣が……」
商人「大丈夫かい?」
少女「えっ」
商人「やあ、驚かせてしまってすまないね」
少女「あっ、いえ、あの、助けていただいてありがとうございました!」
商人「いやいや」
少女「え?えーと……ありがとうございます……?」
商人「僕はこの近くで野宿をしているんだ。もう暗いし、よかったら、一緒にどうだい?」
少女「あ、はいっ、ありがとうございます!一人じゃ心細かったんです!」
商人「はっはっは、僕もさ。野宿は人数が多い方が良い」
商人「ちょうど食料も手に入ったことだし、夕食でもどうだい?僕の料理を振る舞おうじゃないか」
少女「食料って……まさかさっきの獣……?」
少女(なんかちょっと気が引け)
グゥ~
少女「あっあっ」
商人「ん?」
少女「そ、それじゃあ、お言葉に甘えて……」
商人「ああ、遠慮しないでくれ」
少女「ほえ……大きな荷馬車ですね」
商人「まあね。今は一仕事終えて中は空っぽだけど」
商人「これでも結構稼いでいるんだよ?」
少女「凄い……」
商人「ささ、ここに座って」
少女「あ、はい」
商人「ほら、焼きたての肉と熱々のスープだ。熱いから火傷しないようにね」
少女「わぁ、美味しそう……。いただいきます!」
モグモグ
商人「美味しいかい?」
少女「はい、とっても!」
商人「それじゃあ今度はコーヒーだ。疲れがとれるよう砂糖を沢山いれておいたよ」
少女「何から何までありがとうございます!」
商人「はっはっは」
ズズズ
少女「商人さんは料理も上手なんですね」
商人「一人旅も長いからね。嫌でも上手くなるさ」
商人「そういうものだよ。君もそのうちきっとわかるよ」
少女「ふーん……」
フラッ
少女(あ、あれ?)
少女「あ、そうだ……商人さんは……何を……売って……いる方……なんですか……?」
フラッフラッ
商人「僕かい?僕は……まあ、いろいろやってるけど」
少女「やっ……てる……け……?」
ウトウト
少女「zzz……」
奴隷商人「主に奴隷を売ってるかな」
少女「……う、ううん」
奴隷商人「やあ、起きたみたいだね」
ガラガラ
少女「ここは……?」
商人「まだ意識がはっきりしていないのかな?そこは荷馬車の中にある牢屋だよ」
少女「そう、なんですか……」
少女「えっ」
奴隷商人「君は今、あるところに売られにいくんだ。ちょうど人が足りないらしいからすぐ買い取ってもらえるだろうよ」
少女「ちょ、ちょっと待ってください。状況が……状況が飲み込めません!」
奴隷商人「……わからないかな。君は僕に捕まって奴隷になったんだよ」
奴隷商人「大人は勝手な生き物なのさ。奴隷商人である僕に捕まった君の運命を悔やむといいよ」
少女(ま、魔法で脱出を!)
バッ
奴隷商人「おっと、余計なことは考えなさんな。この前の獣と同じ姿にはなりたくはないだろう?」
チャキ
少女「……ぐ」
奴隷商人「牢屋で身動きのとれない君、自由に動ける僕、どっちが有利かな?」
少女「……」
少女(さすがにこんな狭い所でボウガンを射たれたら……)
スッ……
奴隷商人「物分かりが良い子は好きだよ」
少女(このデブ……!)
少女「奴隷を……売ってたってことでしょ。この牢屋に入れて」
商人「その通りだよ。……はは、あまりそんな目で僕を睨まないでくれよ。怖いじゃないか」
少女「思ってもないことを……」
商人「大丈夫、君の荷物もちゃんと預かっているし、買い取り手が見つかったら荷物ごと買い主にうけわたすから」
少女「何が大丈夫、だよ……!」
商人「お、見えてきた。これから商談に入るから、君には大人しくしててもらうよ」
少女(このままじゃ本当にんほぉ!ってなっちゃうかも……)
少女(ん?でもんほぉ!って具体的に何するんだろ?)
少女(暗いし、荷馬車のせいで外の状況がよくわからない)
少女(今あいつは取引先らしき人物と話しているけど、この隙に逃げられないかな)
少女(……駄目だ。荷物も取り上げられてるし、第一ここが何処だかすらわからない)
少女(道がわからなくておたおたしてるうちにまた捕まえられるか、もしくは……)
ノビッ
少女(んん……一体私はいつまで寝ていたのかな)
少女(酷く、身体がだるいや……)
男「ああ、君の商品は質の良いのが多いからね。今回も期待しているよ」
商人「いやぁ、光栄です」
男「じゃあ、さっそく見せてもらおうか」
商人「はい。今回は一人しか用意していないのですが、なかなか面白いのが手に入りましたよ」
男「面白い?」
商人「百聞は一見にしかずです」
バサッ
少女(まぶしっ!……夕日?もしかして、私まる一日寝ちゃってたの?)
男「ほう、これは珍しい」
商人「でしょう?この幼さで白っぽい髪なんて僕も初めて見ましたよ」
男「そうだな、赤毛に白が混ざって若干ピンクっぽいな」
少女(こいつら……私を見せ物みたいに……!)
キッ
男「おっと、睨まれてしまったよ」
商人「すみません。何分先刻手にいれたものでして、調教が行き届いていなくて……」
男「いやいや、むしろこっちの方がこれからのことを考えるとちょうどよさそうだよ」
男「ああ、もちろん買わせてもらうよ。にしても、こんな娘を捕まえてすぐ売るとは君も中々悪どいね」
商人「はっはっは、誉め言葉として受け取っておきますよ。毎度ありがとうございます」
少女(人を勝手に売り物にして……!血も涙も脂肪でできてんのかこのデブは!)
商人「さて、契約も成立したことだし、ほら、出ておいで」
ガチャ
商人「下手なことはするなよ?僕の手元が狂ってボウガンを射ってしまうかもしれないからね」
少女「……」
少女「え、ちょ」
奴隷商人「大人しくしてろ」
ガチリ
男「お、いつも悪いね」
奴隷商人「いえいえ」
男「さ、行くぞ」
グイッ
少女「!かはっ、急に、引っ張らないでよ……」
男「……」
少女(無視ですか)
奴隷商人「お嬢ちゃん、達者でなー!」
少女「地獄に落ちろ!この豚ぁ!」
奴隷商人「はは、大分嫌われてしまったな。まぁ、無理もないか」
男「ほら、ここに入れ」
ドサッ
少女「いたっ……また牢屋……」
男「さて、お前はここが何処だかわかるか?」
少女「?」
男「わからんのも無理はないか。よく聞いておけ」
男「ここは奴隷闘技場だ」
男「そう。聞いたことないか?その名の通り、奴隷たちを闘わせる場所だよ。観客はそれを見て金を賭けるなどして楽しむ」
少女「そんなの……ただの見せ物じゃない」
男「見せ物だよ?俺はここの経営者だもんでな。人間が買えて助かったよ」
男「今回は人型が中々いなくてね。魔物や獣ばかりなんだ。これじゃ奴隷闘技場の名が廃る」
男「君みたいな珍しい格好をしたのは注目を集めるだろうから良い客寄せになるよ」
少女「……」
男「ま、勝敗自体は期待していないから、思う存分弄ばれてきなよ」
男「変な気は起こさないでくれよ。警備の人間が何人もいる状況で逃げ切れるとは思わない方が良い」
少女「……闘いで負けた場合はどうなるの?」
男「ん?ああ、そうだな。悪くて死亡、生きていても闘えなくなったらポイかな。君の場合は……慰みものってのもありかもしれないね」
少女「外道……!」
男「まあまあ、トーナメントで優勝した場合は自由と大金を得られるんだ。そこまで悪い話じゃないだろう?奴隷闘技場にしては寛大だと思うよ」
少女「……してやる」
男「ん?」
少女「こうなったら絶対優勝してやる!!」
男「ま、期待しないでおくから精々頑張ってな」
少女「うっさい!」
ガチャリ
男「それじゃ、試合は明日からだから今日はゆっくり休みなよ」
少女「こんなところで休めるわけないだろ!」
ツカツカツカ……
少女「……」
少女「はあぁぁ……」
少女(紫魔法を解禁するしかないかな)
「君は……人間だね?」
「ああ、驚かせてしまってすまない」
狼女「私は狼女だ。君の牢屋の反対側の牢屋にいる。私もここの連中に捕まってしまったんだ」
少女「ということは……?」
狼女「ああ、君と同じく奴隷として明日から闘うことになるんだ。全く、私としたことがあんな罠に引っ掛かってしまうとはな」
少女「そんな……」
狼女「まあ。それはそれとして、話せる相手ができてよかったよ。今までの奴等は会話が成立しなかったからね」
狼女「あいつらは私たちを奴隷として扱っているからな。態度も無愛想になるのだろうさ」
少女「酷いもんだよ。首輪に鎖まで繋がれてさ。犬じゃないんだから」
狼女「大変だったな」
少女「あ、それとさ」
狼女「ん?」
少女「やっぱり負けたときとかは」
少女「んほおぉおお!!」
少女「とか言うの?」
狼女「いわんよ」
少女「えっ」
狼女「いわんよ」
少女「いやなんとなく言わなきゃいけない気がして」
狼女「?」
少女「なんでもないす」
少女「よっし、まともな人と会話できたからか自分を取り戻してきた気がする」
狼女「そ、そうか。それはよかった」
少女「私は私らしくいこう。うん」
少女「優勝すっぞ!おらー!」
狼女「ま、まあ、元気になって何よりだよ」
狼女「君は魔法を使うのか」
少女「そうだよ。一応短剣の練習もやったけど、才能無いのかいまいちなんだ」
狼女「私は……これだ」
少女「手?」
狼女「拳だよ。拳法を少々やっていてね」
少女「ほへー、かっこいい」
狼女「試合当日は武器を与えられるらしいが、私はこれ一本でいく。ナックルでもあれば話は別だがな」
狼女「ん?」
少女「今気づいたんだけど、闘技場に出るってことは私たちが闘うってこともあるんだよね?」
狼女「そういうことになるな」
少女「嫌だなぁ……」
狼女「しょうがないさ、そのときは苦しまないよう一瞬で気絶させてやる」
少女「む、そっちが勝つ前提なのは気にくわないなー」
狼女「ふはは」
少女「一日に全部やるんじゃないの?」
狼女「流石に体力の消耗が激しいだろうしな」
狼女「話によると8席のトーナメントで三日体制でやるそうだ」
少女「つまり、順調にいけば一人一日一試合……ってことかな」
狼女「そうだな」
少女「よし、それなら私でも体力もちそうだよ」
狼女「もちろん相手も手強いだろうから油断しないようにな」
少女「ん、もう寝るの?」
狼女「ああ、たっぷり英気を養っておかないとな」
少女「そっか」
少女「それじゃ私は少し練習してから寝ようかな」
狼女「練習?」
少女「ひぎぃ!とかあひぃ!とか言う練習」
狼女「なんでやられる前提の練習なんだ……」
男「起きろ」
少女「zzz」
男「起きろ」
少女「ううーん……」
モゾモゾ
男「仕度だ。ついてこい」
少女「もうすか……」
男「俺が言うのもなんだが、こんなときまで熟睡できるなんて結構神経太いな……」
少女「ういー」
男「さあこい」
少女「うあー」
男「顔も洗ったな?」
少女「うん」
男「準備運動したな?」
少女「モチっす」
男「よし、それじゃあこれから出場だが、この箱の中から一つ武器を選んでいいぞ」
少女「うわ、武器がごっちゃに入ってる……まともなのがなさそうなんだけど」
男「ここにあるのは戦場などに落ちていたものやどこから入手したかもわからん武器がぎっしりつまっているからな。ま、武器を与えてもらえるだけありがたいと思え」
少女「どうしよーかな」
男「早く選べ。時間はあまりないぞ。どうせ大して変わらないんだから感覚で選べ感覚で」
ゴソゴソ
『……べ』
少女「ん?」
『……選べ』
少女「何か、声が……?この剣から?」
男「お、そのなまくらにしたのか。またぼっろいのを選んだなぁ」
少女「え、いや、ちが、なんか声が」
男「声?どうでもいいから早く行ってこい。観客が待ちわびてるぞ」
少女「ちょ、待っ、押さないでよ!」
実況「さあ、今回もやってまいりました!今回も威勢の良い個性的な面子が揃っております!」
ワアアァア!
実況「四体の偉大なる戦士像が天を貫くその中心で、かの者たちは勝利を求め荒れ狂う!」
実況「その晴れなる第一戦目を飾るのはこの二人だぁ!」
少女「え、もうやるの?ちょちょちょ」
実況「東門!白髪の飛び入り少女!彼女は一体どんな活躍を見せてくれるのか!?」
少女「実況始まってるし……」
実況「さて西門!こちらはぁ……」
実況「巨大なその体躯からは大地をも裂く強烈な一撃が繰り出される!巨漢トロルだぁー!」
少女「」
実況「極めて小さな身体VS極めて大きな身体!果たしてどちらに勝利の女神は微笑むのかぁー!」
少女「無理無理あんなん裂けちゃう」
実況「レディー……」
実況「ファイ!」
ゴワーン
実況「さぁ、開始の鐘が鳴り響き、トロルの鎖が解放されました。一方少女はというとー?」
少女「き、棄権!棄権します!きけーん!」
少女「いやだから、その闘いを止めようと」
実況「もちろん彼女は奴隷なので逃げることはできません!」
少女「まじか」
実況「少女の狼狽とは無関係にトロルは歩み、二者の距離は縮まっていきます!」
少女「くっ……!やるしかないか……!」
少女「あいつの動きは遅い。なら」
少女「むにゃむにゃー」
実況「おっと少女!相手が間合いに入る前に呪文を唱え始めたー!」
ボゥン!!
トロル「!?」
実況「あーっと!何やら見たことのない紫色の炎がトロルを襲う!舞い上がった砂ぼこりで姿は見えませんが、ダメージを与えたのでしょうか!?」
モクモク……
トロル「……」
実況「ガードした腕に若干ダメージを与えたもののトロルは平然としています!さあ、どうする!?」
少女「げ、うそでしょ?」
少女「どうしよどうしよ」
少女「これじゃ本当に大変なことに……!」
少女「あばばば」
『落ち着け』
少女「え?」
『落ち着けと言っている』
少女「駄目だとうとう幻聴が聞こえてきた」
『幻聴ではない。この刀から話しかけているのだ』
少女「な、なまくらが喋った!?」
なまくら『話は後だ。今は目の前の敵に集中しろ』
少女「う、うん……」
少女(どうなってんのこれ……)
なまくら『お前、あの魔法を盾のように固めることはできるか?』
少女「一応……」
なまくら『まずはそれを作れ』
少女「わかった!」
少女「むにゃ、モード<お盆>!」
実況「なんと!再び紫色の魔法が発生し、少女の手元に集まっていきます!」
なまくら『お盆って……盾で良いじゃないか』
少女「いいから!次は何すればいいの?」
なまくら『そいつは硬くなってるからある程度のものは防げる』
少女「うん」
なまくら『そいつを投げて牽制しろ』
少女「えっ、せっかく作ったのに?」
なまくら『いいから』
少女「えーい、どうとでもなれー!」
実況「それを惜しげもなく投げたー!」
ザシュ
実況「あっーと!トロルの硬い皮膚に切り傷が付いたぁ!これにはトロルも驚いております!」
少女「や、やった!」
なまくら『安心するのはまだ早い。すぐにもう一つ作れ』
少女「よしきた!」
トロル「……」
少女「むに
トロル「グオオオオオォオォオオン!!!!」
少女「ひっ」
実況「トロルが吼えたぁ!闘技場を細かく揺らす程の大音量!闘技場にそびえ立つ三つの強固な兵士像も音叉の如く小刻みに震えています!」
少女「あかんあかんくるくる」
なまくら『落ち着け』
少女「よしできた!」
少女「おりゃあ!」
ブン
トロル「……」
実況「またもや投げたー!……しかし盾はトロルの横をすり抜けていく!」
実況「ファール盾にご注意ください!」
少女「外してもうたがな……」
なまくら『だから落ち着けと』
少女「わかってるって!」
少女「もう一個作るよ!」
なまくら『……』
実況「もうすぐトロルの間合いです!非力な少女はどう対処するのか!?」
少女「できた!」
少女「投げるよ!」
なまくら『待て』
少女「おっ?」
ズン……ズン
なまくら『もう少し引き付けろ』
少女「いや、あの、もう十分迫力満点なんですがそれは……」
なまくら『我輩が合図したらアレ目掛けて盾を投げろ』
少女「アレって……兵士像?」
なまくら『ああ、アレの腕にだ』
少女「なるほど!あそこにお盆を投げてあいつの頭に落とすんだね!?」
なまくら「物分りが良くて助かる」
少女「なんとかなるって信じるからね!?」
なまくら『チャンスは一回だぞ。正確に盾を投げろ』
少女「お盆をだね!?」
なまくら『お盆なのは譲らんのかい……』
少女「まだ!?」
なまくら『まだだ……』
実況「少女は盾を持ったまま動かなーい!恐怖で足がすくんでしまったのでしょうか!?」
少女「ま、まだ!?」
トロル「ガァ!!」
実況「さぁ、トロルが棍棒を天高く振り上げたぁ!」
なまくら『今だ!投げて横に跳べ!』
少女「うぉらぁ!!」
実況「トロルが棍棒を叩きつけ、闘技場が再び砂ぼこりに包まれました!少女はいったいどうなってしまったのでしょうか!?ミンチ.オア.アライブです!」
実況「そして少女が苦し紛れに投げた盾は遥か上空へ!トロルにはかすりもしない!」
トロル「ウガァ」
ゴシゴシ
実況「おっと、砂が目に入ったのでしょうか。トロルはそのまま立ち尽くしています。しかし少女の姿は見えない!」
ズ……ズズ……
実況「ん?」
トロル「?」
実況「しかしトロルは気付いていない!」
パラッ
ヒュー
ドカッ
トロル「!!!??」
実況「そのままトロルの頭部に直撃してしまったぁ!!」
実況「トロル、わけも分からず目をチカチカさせている!今彼の目に写っているのはお星さまでしょうか!?」
少女「りょ、りょーかい!」
実況「砂ぼこりが晴れて少女の姿が……あーっと!少女は攻撃を避け、トロルの後方にまわっていたーっ!」
少女「っせぇええぇい!!」
ブスリ
トロル「アアァアァアアァアアアァアァアアァアアアアア!!?!?!!?!!」
なまくら『ぐわぁあああぁあぁああ!!!』
少女「はぁ、はぁ……」
実況「トロル後ろには肩で息をしながら立つ少女!これはどういうことだぁ!?」
実況「!」
実況「な、なんと!?トロルの尻穴に少女の剣が突き刺さっているーっ!?これは痛い!見ているだけで痛々しい!」
実況「少女を勝利へと導き、トロルの硬い尻に挟まれたその剣はまさに聖剣の如く悠然と佇んでいます!」
ゴワーンゴワーンゴワーン
実況「ここで終了の鐘が鳴り響きました!トロルは戦闘続行不可能と見なされたようです!」
少女「じゃ、じゃあ、もしかして……」
実況「勝者は少女!白髪の少女がやりましたぁー!!」
ワアアァア!!
実況「こ、これは大判狂わせです!トロルに賭けた方たちの切ないため息が手にとるようにわかります!」
実況「少女の隠し持っていた不思議な魔法!それが今回の勝敗を分けたのでしょうか!?」
少女「や、やった……!やったぁ……!」
ドサッ
少女「ふ、ふへへ……ダメだ、腰が抜けて立てない……」
なまくら『た、頼むから……早く抜いてくれ……オェッ』
男「まさか勝ち進むたぁ驚いた」
少女「言ったでしょ、勝つって」
男「いやぁ、俺はお前を見くびっていたようだよ。謝る。こりゃあ今回の目玉になるな」
少女「そういえば、あの……さっきの トロルは?」
男「ん?ああ、あいつか。生きてるぞ。ただ暫くまともに歩けそうにもないがな。常に内股での生活を強いられるだろう」
少女「うわぁ……」
男「やったのはお前だろ」
少女「ま、まあ、そうなんだけど」
少女「そっか……明日もあるんだ……」
男「そうだぞ。しかも一回戦を勝ち残ってきた奴だ。今回より一筋縄ではいかないだろうな」
少女「……勝つもん」
男「ふっ、次回は少し期待しといてやるよ」
少女「あ、あの」
男「ん?」
少女「あのなまくら、牢屋で持ってていい?」
男「あの汚いのをか?大分気に入ったんだな」
男「……まあ、いいが、再三言っているように、変な気は起こすなよ。無駄なんだからな」
少女「わかってるよ。何にもしないって約束する」
男「……よし、じゃあまあ、お守り代わりにでもして抱いておけ」
男「今から持ってきてやる」
少女「どうも」
男「折角だから洗っておいてやる。サービスだ」
少女「あざっす!」
カラン
少女「ありがとう」
男「それじゃ、俺はこれで。ちゃんと寝て明日も勝ってみせろよ」
少女「おうよ!まかせといて」
男「はっはっはっ」
……
少女「さて」
少女「なまくらー?」
なまくら『』
少女「あれ?」
少女「寝てるの?」
少女「というかそもそも寝るの?」
少女「おーい」
なまくら『……』
少女「……」
少女「なまくらさまー?」
なまくら『……』
なまくら『……あのな』
少女「はい」
なまくら『何か言うことあるだろ?』
少女「まことに申し訳ありませんでした」
少女「はい」
なまくら『何故刺した?』
少女「すみません」
なまくら『すみませんじゃない。何故だ』
なまくら『百歩譲って刺したのは良い。何故ピンポイントで肛門に刺した?』
少女「百歩って……歩けないじゃん……ぷっ」
なまくら『何か言ったか?』
少女「いえ何も」
なまくら『おう』
少女「錯乱してたんでつい……」
なまくら『錯乱した状態で刺せるほど奴の肛門は広くなかったぞ』
少女「見てたんすか……肛門……」
なまくら『見てたも何も突っ込まれたんだが』
少女「……」
なまくら『生きた心地がしなかったんだが?』
少女「申し訳ねぇ」
少女「ありがてぇ」
なまくら『お前、あの魔法をどこで覚えた?』
少女「え?あの紫魔法?」
なまくら『そうだ。我輩も少し驚いたぞ。この時代にもそれを使う者がいるなんてな』
少女「えっと、これは、女騎士さんからもらった魔導書を読んでたら使えるようになったんだ」
なまくら『独学か?』
少女「うん」
なまくら『なんと……』
少女「あの頃はパズル感覚だったし、今でも勘でなんとかやってるよ」
なまくら『子供の想像力というかなんというか……凄いな』
少女「ふへへ」
なまくら『それでは、炎と盾以外でできるのはないのか?』
少女「……」
なまくら『ん?』
少女「あんまできないっす……」
なまくら『そうか……』
少女「えっ、できるの?」
なまくら『ああ』
少女「やったー!」
なまくら『それはそれとして』
少女「うん?」
なまくら『お前、さっきから我輩が喋っているのに違和感を感じないのか?』
少女「あ」
少女「他の人たちにも語りかけたりしたの?」
なまくら『いいや、お前だけだ』
少女「えっ、なんで?……まさかロ」
なまくら『違うわ!……お前のその懐かしい力に目が覚めたんだ』
少女「懐かしい力って……あの魔法?」
なまくら『そう。大分古い魔法でもう誰も使うことはないと思っていたのだがな』
なまくら『もう目覚めることはないと眠っていたんだ。だが、お前を纏う魔法の残り香で呼び起こされた』
少女「残り香って……なんだかいやらしいな……」
なまくら『言葉のアヤだ言葉の』
なまくら『ん?』
少女「私はなまくらの寝覚めに一発喰らわしてしまったと」
なまくら『目が覚めていきなりあんなことを経験されられるとはな……』
なまくら『世界広しといえど、我輩くらいだろう。こんなのは』
少女「まず喋る刀ってのが珍しいんですけど……」
ガチャ
ガチャン
少女「狼女さん!じゃあ、狼女さんも?」
狼女「楽勝だったよ。この調子じゃあ優勝までつまずくこともないかな」
少女「ちょっと、私がいるじゃない!」
狼女「さて、決勝までこれるのか?」
少女「あったりまえだよ!もう優勝するって決めたんだから!」
狼女「はは、それは頼もしいな。ま、優勝するのは私だろうが」
少女「んもう、馬鹿にして!私にはこれがあるんだからね!」
狼女「ん?ただの刀じゃないか」
狼女「というと?」
少女「なんとこの刀、喋れます。ほら!」
なまくら『……』
狼女「喋らないじゃないか」
少女「ちょ、ちょっと!なまくら!」
なまくら『いや、しゃべれと言われても』
少女「ほら!しゃべった!」
狼女「?」
なまくら『ちなみに』
なまくら『この声はお前にしか聞こえていないぞ』
狼女「全く聞こえないな」
少女「え!?そうなの!?」
なまくら『お前の操るその魔法で干渉しているんだ。魔法を操る本人にしかおよそ聞こえないだろう』
少女「そういうのは早く言ってよ!」
狼女「だからさっきから言っているだろう」
少女「ん?」
狼女「え?」
狼女「私にも、世界に想いを馳せていたときがあったさ」
少女「はい?」
狼女「年頃の子は自分には特別な力があると信じこむものだ」
少女「あれ?」
少女(勘違いされとりますがな……)
狼女「誰もが通る道だ。別におかしいことじゃない」
狼女「だから気にするな?」
少女(そしてフォローされた……)
少女(なんだろう。この胸の中で渦巻くもやもやは……)
少女「は、はい……」
少女(優しい瞳が堪らなく眩しい……)
なまくら『くっくっく……』
少女「ちょっと!あんたのせいでアホの子みたいに思われたじゃない!」
なまくら『お前がせっかちなのが悪いんだろう?それに、あながち間違いじゃ無いんじゃないか?』
少女「なんだとこの野郎」
なまくら『はっはっは』
少女「ぐぬ……」
狼女(大丈夫だろうかこの子……)
男「さあ、起きろ」
少女「ううん……もうちょっと寝かせて……」
男「お前日に日にふてぶてしくなってくな」
少女「開催一時間遅らせたりとかできないの?」
男「無理に決まっているだろう。早く牢屋から出ろ」
少女「へーい」
男「準備やら飯やらいろいろしなくちゃならないんだ。寝起きですぐ闘技場に放り出されるよかましだろ」
少女「たしかに」
少女「うん」
男「もっといいのがあるだろうに……なんでそれなんだ?」
少女「うーんとね、相性がいい……からかな?」
男「そういうものか?」
少女「そういうものなんです」
男「ま、何はともあれ今回も精々頑張ってこいよ。今回はお前にも少し賭けているしな」
少女「前回は賭けてなかったんすか」
男「当たり前だ。すぐにダウンすると思っていたしな」
少女「信用ないなー」
男「だが、それも前回で信用を勝ち取ったんだ。今回は素直に応援しといてやるよ」
少女「へえへえおおきに」
男「一応雇い主の俺に対してずいぶん適当だな……」
少女「私はなりたくて奴隷になったんじゃないし」
少女「さっさと優勝してここから出たいだけだもん」
男「ふっ、意気込みだけはいっちょまえだな」
少女「いーだ」
男「よし、準備できたな」
少女「ばっちり」
男「ほら、お気に入りのなまくらだ」
少女「ありがとう。今日もこれで勝ってくるよ!」
男「それは楽しみだな。お前のレートは高いし、勝てば俺の財布は潤う。負けてもお前を売るなりなんなりで結局潤う。いいことだ」
少女「……なんだか素直にやる気でないな」
男「どっちにしろ勝たなきゃお前が大変なことになるんだ。ほら、いってこい」
トンッ
少女「お、押さないでよ!」
少女「うっす」
闘技場だよ
ワーワー
実況「さあ、やってまいりました!第二回戦!闘技場は観客たちの熱気に包まれております!」
実況「一回戦を乗り越えてきた猛者たちがさらに死闘を繰り広げることでしょう!」
実況「さて、皆さんお待ちかね、二回戦前半の部がこれから開催されます!」
実況「東門から出でたるは一回戦で異色の戦いを見せてくれた超新星!その華奢な身体からは想像もできない不思議な力が内包されている!」
実況「果たして今回も我々を驚かしてくれるのか!?」
実況「白髪少女だぁー!!」
少女「まだ白髪ってほどでもないってのに……」
なまくら『気にしているのか?』
少女「言うほどでもないけどねー」
少女「ま、いいや、とりあえず手振っとこ」
実況「少女は観客に悠然と手を振っている!その立ち振舞いから見えるのは悟りか余裕か!?」
実況「今回はどのような奇抜な戦い方を見せてくれるのでしょうか!」
実況「さて、西門!姿を現さずとも猛々しい雰囲気が感じとれますが、いったい何が潜んでいるのでしょうか!?」
なまくら『ほぅ、人並みに緊張しているんだな。もう少し太い神経を持っていると思ったが』
少女「うっさい。そりゃ流石に緊張するでしょうよ。なまくらと違って下手すれば死んじゃうわけだし」
なまくら『我輩の場合死んでるのか生きてるのかよくわからんがな』
なまくら『まあ、なんとかなるだろ』
少女「えらく他人事っすね!」
ズリ……ズリ……ズリ……
実況「おっと!姿を現しました!これは大きい!鎖を持った警備兵が振り回されてしまいそうなほど大きく、力強い虎だぁーー!」
ワーワーワー
少女「」
少女「いや、あの……目の錯覚かなーって」
虎「グルル……」
なまくら『どう見てもでかい虎だな』
少女「なんで私の相手はあんなでかい奴らばっかなの……」
なまくら『諦めろ。さっさと構えないと喰われるぞ』
少女「ひ、ひぇ……」
虎「フシュー……」
少女「何あれ恐すぎでしょ……」
なまくら『集中しろ。前回と違って相手は俊敏だ。一瞬でも油断したらあいつのおやつになるぞ』
少女「た……食べられちゃうのだけは勘弁だよ……!」
なまくら『いいか、試合が開始したらすぐに盾を作れ。相手は恐らく様子を見つつゆっくり近付いてくるはずだ』
少女「……うん」
なまくら『隙を見せるな。逆に相手に隙ができたら迷わず盾を投げろ。そしてすぐに盾を作れ』
少女「うん」
実況「依然として虎の鋭い眼光は少女を捉えて離さない!」
実況「よっぽどお腹がすいているのでしょうか?」
虎「……ガル」
実況「さて、虎はあと少しで全て解放されます。後は試合開始の合図と同時に最後の鎖を解くのみ!」
なまくら『逃げ場はない。気合い入れていけ』
少女「うん……!」
少女「今回も勝つんだ……絶対!」
実況「それではいきましょう!良い勝負を!」
実況「レディ……」
実況「ファイ!」
ゴワーン!!
虎「グルオオオオ!!」
ビリビリビリ
実況「開始の鐘に呼応するように虎が吼えたー!会場がうち震えています!この咆哮は勝利への約束か、はたまた新鮮なごはんにありつけたことによる歓喜かー!?」
少女「ぐっ……!」
なまくら『只の威嚇だ。気にするな』
ノッシノッシ
実況「気合いを吐き出した虎がゆっくりと少女に向かっていきます!」
少女「よっし!」
少女「むにゃ!モード<お盆>!」
実況「開始してすぐに少女は紫の盾を作りだしました!あれが彼女の基本スタイルなのでしょうか!?」
実況「さあ、距離が近くなってまいりました!」
虎「グルル……」
少女「がるる……」
実況「お互い唸りながら距離を測っています!一人と一匹の間に火花が散っているかのような睨み合いが続いております!」
実況「果たして最初に仕掛けるのはどちらなのかーっ!?」
実況「一人は虎をじっと見つめ動かないのに対し、一匹は少女の周りをゆっくりとまわっています!お互いが隙を伺って息を圧し殺しています!」
虎「……」
少女「……」
少女(集中……集中……!)
少女(うへ、ちょっと寒いな……)
少女「!?」
少女「へ……」
実況「おっと!?少女の動きが少し止まりましたね。どうしたんでしょう!?」
少女「へ」
少女「へぶちゅ!」
虎「!」
虎「グルオオオ!!」
少女「やばっ」
実況「少女と虎の我慢比べは少女のくしゃみによって破られたー!」
実況「くしゃみした隙を狙おうと虎が襲いかかります!」
少女「あわわわ」
なまくら『くっ、盾だ!盾で何とか凌げ!』
虎「グアアア!!」
実況「虎が勢いよく少女に覆い被さろうとする!」
実況「あの巨体を少女は耐え切れるのでしょうかー!?」
虎「!?」
なまくら『!』
実況「あっーと!虎の動きが一瞬鈍りました!」
実況「これは……太陽!太陽です!昇った太陽がコロシアムの中を明るく照らしはじめました!」
実況「コロシアムの壁から覗いた太陽の光が虎の瞳を貫いたー!」
なまくら『しめた!虎の爪をいなしながら虎の右にまわれ!』
少女「うん!」
実況「ふらついた虎の懐を少女がくぐり抜けました!」
なまくら『今だ!攻撃しろ!』
少女「お盆をくらえ!」
ズバッ
虎「グッ!」
実況「少女の投げた盾は虎の皮膚を引き裂きました!」
実況「虎は一瞬の出来事に驚いてまだ身動きがとれていません!」
少女「よーし、今だ!」
少女「これでもくらえー!」
実況「おおっーと!今度は紫の魔法を太い紐のような形にしてなげました!」
実況「新しい魔法でしょうか!?」
シュルシュル
虎「ガ……!?」
実況「少女が放った紐は虎の前足と後ろ足を同時に縛り上げたーっ!虎も解除しようともがきますが紐はピクリともしません!」
なまくら『いいぞ!』
少女「やった!昨日寝る前に教えてもらったやり方が成功した!」
なまくら『よし、そのまま一気にとどめを刺してしまえ!』
少女「せえええええ!!」
ブスリ
虎「グオオオオオオオオオオ!」
なまくら『ぐわああああああ!!!』
実況「そして今回も虎の肛門に容赦なく叩き込んだーー!!」
虎「ア……アア……」
実況「おっと虎!まだ戦闘続行可能なのか!?」
少女「えっ、刀刺さったままなんだけど……」
虎「ア……アウ……」
ノッシノッシ……
少女「お、お盆作らなきゃ!」
ノッ……
ドサッ
ゴワーンゴワーンゴワーン!!
実況「虎、戦闘続行不能です!鐘が少女の勝利を祝福しています!!」
実況「またもや!またもや少女がやりました!」
実況「勝利の女神は少女に微笑みましたー!」
少女「や、やった……!」
実況「今回も大判狂わせ!運で勝ち残れたと思われた少女が余裕の無傷勝利!」
実況「観客席は歓喜と悲壮の声が入り交じっております!」
実況「大分大きな金が動いたことでしょう!」
実況「それにしてもこの二回戦とも肛門フィニッシュなのは何かこだわりがあるんでしょうか!?」
少女「はぁ……ちょっと、疲れたな……」
なまくら『…………』
男「いやぁ、まさか本当に二回戦も勝ち残るとはな」
少女「ふふん。楽勝だよ、楽勝!」
男「そのわりには足に力が入ってないみたいだが?」
少女「う、うるさいなーもう」
男「はっはっは」
男「いやはや、お前には運も味方しているのかもしれないな」
男「お前がくしゃみしたときはさすがに終わったと思ったが、まさかちょうど太陽が出てくるとは」
少女「正直、私もびっくりだったよ」
少女「まあでも、太陽がなくたって勝ててたけどねっ」
男「ふっ、どうだか」
少女「あざっす!」
少女「……それで、どれくらい稼げたの?」
男「少女が虎に勝てるなんて大抵予想がつかないからな。観客の殆どが虎に賭けてた」
少女「信用ないなー」
男「そりゃそうだ。誰がお前みたいなちっこい奴がでかくて凶暴な虎に勝てると思うかよ」
少女「今回の勝利者に向かってちっこいとは失礼な」
男「悪い悪い」
男「オッズは大きいし、闘技場自体にも金は入るし、いいことだらけだよ」
少女「ちょっと待って」
男「ん?」
少女「なんでちょっとしか賭けてないのさ」
男「んー」
少女「おい」
男「ちょっと腹痛くなってきたからもうお前牢屋入っとけ」
少女「ウソこけー!」
男「あ、ヤバいヤバい俺の腹ん中でコスモが爆ぜる」
少女「そんなに痛いんだったらぽんぽんサスサスしてやろうかぁ!?」
男「少ししたら刀もってきてやるからなー」
少女「おらぁ!逃げるなー!」
少女「……」
少女「はぁ」
少女「疲れた……」
少女「正直死んだと思ったよ」
少女「あのとき運良く偶然が重なって」
少女「なまくらが冷静に状況判断して、指示を出してくれたから動けたんだ」
少女「本当に感謝しないとね」
少女「すんませんした」
なまくら『……』
少女「あのぉ……なまくらさん?」
なまくら『……』
少女「HEY!!NAMAKURA!」
なまくら『……』
少女「なまくらさまー?」
なまくら『……んん゛っ』
少女(お、反応した)
なまくら『……』
少女「あのときは焦って混乱してどうすればいいのか分からなかったんだよー」
なまくら『……』
少女「勝てたのはなまくらのおかげだよ?」
なまくら『……』
なまくら『……あのな』
少女「お」
なまくら『お前わざとやってただろ』
少女「そ、そんなこ」
なまくら『焦って混乱してもなお正確に尻穴を貫けるとしたら大した才能だよお前』
少女「いやぁ、それほどでも……」
なまくら『皮肉で言ってんだよ!』
なまくら『あの魔法についてもう少し詳しく教えてやろうと思ったがやめることにした』
少女「えー」
なまくら『えー、じゃない』
なまくら『今日ぐらい大人しく反省しておけ』
少女「本当に申し訳ないと思っているで候」
なまくら『いまさら畏まっても無駄だ』
少女「あの、魔法のことだけでも教えてくれたらなーって」
なまくら『断る』
なまくら『お前のせいで最悪の寝覚めだ。まったく……』
少女「次はもうしないから!絶対しないから!」
少女「からかわれた腹いせはもう済んだから!」
なまくら『お前あれ根に持ってたのか!』
少女「私はあれで精神的に汚されてしまったから……」
なまくら『こっちは物理的に汚物まみれだったけどな!』
少女「どうもしーやせん」
なまくら『本当に我輩はもう寝る。いろいろと散々な目にあったしな。疲れた』
少女「なまくらも寝るんだ……」
なまくら『細かいことは気にするな。魔力の補充みたいなもんだ』
少女「ほー」
少女「でも、なまくらが話してくれなきゃ退屈だよ?」
なまくら『だから知らんがな……』
少女「?あいつ?」
ガチャ
ガチャン
少女「あっ」
狼女「や、また会えたようだな」
少女「狼女さん!」
狼女「お互い無事でよかったよ」
少女「?」
狼女「見たところ怪我はないようだな。楽勝だったのか?」
少女「ん?んー、うん、まぁ、ね?」
狼女「なんで疑問系なんだ?」
少女「いや?そんなことないけど?」
狼女「そうか」
少女「そうです」
少女「えっ、あ、いやー別に気合い入れなくてもいいんじゃない……かな?」
狼女「ふふ、その手には乗らないよ」
少女「むぅ」
狼女「……ここまで君が勝ち上がってきてくれたのは、安心した反面不安だよ」
少女「どうして?……もしかして、私と戦うのが怖いの?なんて」
ニヤリ
狼女「ふっ、怖いことはないさ。だが正直なところ、君とは戦いたくない」
狼女「君のような子供に暴力を振るわないといけないかもしれないというのは辛いものだ」
少女「……それじゃあ、棄権すればいいんじゃないかな?」
狼女「それも嫌だ。そもそも、棄権なんて奴隷ができるわけないじゃないか」
少女「たしかに」
少女「私がするんかね」
狼女「そりゃそうさ。勝ちは私で確定だろうからな」
少女「なっ!?……そんなこと言ってると、足元すくわれるよ?」
狼女「ふははは、やれるものならやってみるがいいさ」
少女「なんだかセリフだけみると悪役みたいだね……」
狼女「なっ!?」
狼女「……」
少女「……」
狼女「寝たか?」
少女「いや、まだだよ」
狼女「そうか」
少女「うん」
狼女「……」
少女「……」
狼女「……なあ」
少女「ん?」
狼女「君は、ここから出られたら何をしたい?」
少女「旅がしたいかな」
狼女「旅?故郷に帰りたいとは思わないのか?」
少女「もともと旅をするために村を出たんだ」
少女「それで、旅をしてる最中に奴隷商人に騙されて捕まっちゃったんだよ」
狼女「ほう、それは災難だったな」
少女「だから」
少女「こんなところにいつまでもいるわけにはいかないんだ」
狼女「それは……面白そうだな」
少女「でしょ!?」
少女「私がいるこの世の中には私の知らないものがいっぱいあるんだもん」
少女「見たいと思うのが普通だよね?」
狼女「あ、ああ……」
少女「雪と氷の世界、熱い山の世界、見渡す限り水がある世界、砂の世界」
少女「その他にももっとたくさんの世界。それを私は見てみたい!」
狼女「ほぉ……凄いな君は」
少女「そ、そんなことないよー」
狼女「いいや凄い。まさか君がそこまで考えているとは思ってもいなかったよ」
狼女「夢を持つこと、やりたいことがあるということは良いことだ」
少女「そ、そうかな、ふへへ……」
狼女「最初はだだのちゃらんぽらんだと思っていたんだがな」
少女「ちょっと!」
狼女「はっはっは!」
狼女「私か……私は……」
少女「?」
狼女「特にないかな。強いて言えば、故郷に帰るくらいだ」
狼女「ふふっ、君に比べたら随分地味な考えだ」
少女「そんなことないよ」
少女「故郷に帰るのだって十分な夢だよ」
狼女「そうかな」
少女「そうだよ」
狼女「……少女」
少女「ん?」
狼女「ありがとうな」
狼女「いや、話せて楽しかったということだよ」
少女「そう?」
狼女「ああ、それに戦う覚悟もできた」
少女「う……やっぱり明日はお互い敵同士なんだよね……」
狼女「なんだ?怖じ気付いたか?」
少女「そ、そんなまさか!」
狼女「はは、そうこなくてはな」
少女「でもお手柔らかにお願いします」
狼女「それは君次第かな」
男「さあ、起き」
少女「おはよう!」
男「おはよう。珍しいな、今回もぐうたら寝てると思ってたがすぐ起きるとは」
少女「決勝戦だからね!気合いも入るよ!」
男「ほう、三度目の正直ってやつかね」
男「こりゃ期待できるかな」
少女「まっかせといてよ!」
少女「……っと、狼女さんは?」
男「ん?あいつなら既に準備に向かったぞ」
男「さっそく出遅れたな」
少女「ぐぬ……」
男「何言ってんだ。いつもよりは少し早く起こしにきたぞ」
男「それだって正直どうせ起きないだろうと思ってたがな」
少女「ぬー!」
男「日頃の行いだな」
少女「日頃っていうほどここにいないし!」
男「わかったわかった。俺にあたる元気があるんだったらさっさと準備に行くぞ」
少女「次は絶対もっと早くに起きててやる!」
男「いや、お前としては次牢屋にいちゃ駄目だろ……」
男「武器は……やっぱりそれか」
少女「もちろん」
シュッシュッ
男「気に入ったのは別に構わないんだが……」
シュッシュッ
少女「ん?」
シュッシュッ
男「いや、なんでそう突きの練習ばかりしているのかな……と」
少女「?だって戦うんだから練習するのは当然でしょ?」
男「そういうことじゃなくて……」
少女「大丈夫!ちゃんと斬る練習もしてるよ!」
男「そ、そうか」
男(なんとなくだが……あの武器が不憫でならないな……)
少女「ん?」
男「これが決勝戦。最後の試合だ」
男「気合い入れて集中してけよ」
男「応援してやっから」
少女「おう!華麗に勝利してきまさぁ!」
男「どんなキャラだよ……」
少女「ふふ」
男「……なんだよ?」
少女「いやー、なんだか会った当初に比べて男さん随分当たりが柔らかくなったなーって」
男「お前はどんどん図々しくなっていったような気がするな」
少女「正直に言ってみ?」
男「自惚れんなバーカ」
少女「バッ……!?」
男「お前みたいな奴誰が好きになるかよチビ」
少女「チッ……!?」
男「敵の尻穴に刀ぶっこむ奴なんて恐ろしくて恐ろしくて」
少女「尻穴なんてハシタナイ!」
男「お前がその反応はおかしい」
少女「私の魅力に」
男「いいからそういうの」
少女「ちぇー」
男「だから……勝ってこい。そうしたらお前は自由だ」
少女「うん!もちろんそのつもりだよ!」
男「ははっ、その様子じゃ発破は必要なかったかな」
少女「そんなことないよ!気合い入った!」
男「そりゃよかった。そら、行ってこい」
少女「りょーかいっす!」
シュッシュッ
少女「今回もよろしくね、なまくらっ」
なまくら『はぁ……仕方ない。乗り掛かった船だ。付き合ってやろう』
シュッシュッ
なまくら『今回も強敵だぞ。あいつは強い。油断するな』
少女「大丈夫!もうここまできたんだからそんなことしないよ!」
なまくら『ならいいんだが……』
シュッシュッ
少女「?」
シュッシュッ
なまくら『いい加減その突きの練習を止めろ』
少女「えー」
なまくら『えーじゃない』
ワーワーワー!!
実況「さあ、やってまいりました!決勝戦!」
実況「この試合の勝者は大金が約束されています!さらに、奴隷には自由も与えられ、この闘技場の呪縛から解放されます!」
実況「今回はなんと!異例の奴隷同士対決!挑戦者たちは早々に敗退。ありそうでなかった展開でございます!」
実況「そして今……その強者たちを退けてきた猛者たちの最後の戦いが繰り広げられられようとしています!」
ワーワーワー!!
実況「おっと、入ってきました!最初に姿を現したのは」
少女「うらー!」
実況「少女だぁーっ!!」
実況「その見た目で侮るなかれ!」
実況「これまでの戦い全てで敵を容赦なく、言葉にするのも恐ろしいほど残虐な方法で倒していった恐ろしい少女です!」
実況「白い穴掘機は今回も敵の穴を無慈悲に貫くのかーっ!!」
ワーワーワー!!
少女「なんだか紹介が酷いことになってる気がするんだけど」
なまくら『自業自得だろう』
実況「砂ぼこりと共に出てきたのは狼女!余裕そうな面持ちと一歩一歩土を踏みしめながら歩くその姿は正に歴戦の猛者!」
実況「彼女は世にも珍しい人狼のメスだそうです!その体つきからは想像もつかない強力な一撃が繰り出されます!」
狼女「……」
実況「周囲とは一線を画す力強さ、体力、素早さ!」
実況「それらを兼ね揃えた今回一番優勝に近い俊足の武道家!」
実況「それが狼女だぁーっ!!」
ワー!!ワー!!ワー!!
少女「あっちはなんだか随分盛り上がってるね。二つ名もかっこいいし」
なまくら『優勝候補だからな』
なまくら『そして微妙に二つ名のこと気にしているんだな』
少女「狼女さんは接近戦が得意そうだもんね」
なまくら『ああ。だから今まで通り盾を投げ牽制しつつ、隙を見つけ出す』
少女「当たるかなぁ……」
なまくら『まあ無理だろう』
少女「ちょ」
なまくら『盾は隙を作るための囮みたいなものだ』
なまくら『何度も言っているが、奴の実力は桁が違う』
少女「闇雲にやっても勝てないと」
なまくら『そうだ』
なまくら『そのときは……』
少女「そのときは?」
なまくら『我輩を適当に振り回せ』
少女「雑な作戦だなー」
なまくら『しょうがないだろう。相手が拳を使う強者ということぐらいしか情報がないからな』
少女「まあ確かに」
なまくら『接近戦になっても我輩ができる限り補助する』
なまくら『だが極力接近戦は避けろ』
少女「うっす」
シーン
狼女「……」
少女「……」
少女(こわ……)
なまくら『手加減はしてくれないだろうな』
少女「うう……」
実況「全体の空気が異様なまでに歪み、先程までとはうってかわって静寂に包まれております!まるで会場全体が開始の鐘を今か今かと待ちわびているかのよう!」
少女「できれば開始してほしくはないんだけどなぁ……」
なまくら『さっきまでの威勢はどうした』
なまくら『集中しているんだろう。お前も早く集中しろ』
少女「……うし」
ゴワーン
実況「張り積めた空気を開始の鐘が引き裂いたー!」
実況「決勝戦の幕が今、切って落とされましたー!」
狼女「しっ!」
実況「鐘の音と共に狼女が駆け出しました!早い!」
少女「うわっ!きた!」
なまくら『とにかく近づかせるな!盾を投げろ!』
ブン!ブン!
狼女「……」
サッサッ
実況「おっと!狼女、少女が投げた小盾を最小の動きで躱していきます!」
実況「なおもその進撃は止まらず、お互いの距離はみるみる内に縮まっていきます!」
少女「こ、こうなったら!」
少女「むにゃーーーー!」
少女「モード<お盆>二枚!」
なまくら『おっ』
実況「なんと!少女、一枚ずつ出していた小盾を今度は同時に二枚出しました!」
少女「いっけぇー!」
狼女「!」
少女「あたれー!」
狼女「ふっ!」
ヒョイ
実況「避けたー!当たらない!少女の奥の手は虚しくも空のみを切り裂きました!」
少女「ぐっ、ぐぬぬ……!」
なまくら『敵ながら流石だな……』
少女「褒めてる場合じゃないよ!」
狼女「……」
少女「こうなったらもっと投げないと!」
なまくら『あまり多く乱発するな』
少女「でもこの状況じゃしょうがないじゃん!」
なまくら『負担が重なるぞ。難しいが、我輩を使って上手く立ち回れ』
少女「くうっ……まだ投げるもんね!」
なまくら『……』
ブン!ブン!
狼女「……」
サッサッ
少女「はぁ……はぁ……」
少女「し、しんど……」
なまくら『おい!距離を取れ!俺を構えろ!』
実況「ああー!狼女が少女の攻撃を全て避けて自分の間合いに入ろうとしています!」
少女「やばっ!」
実況「ここからは狼女の独壇場になるのでしょうか!?」
少女「うんっ」
少女「むにゃー!」
実況「今度は少女が構えた刀から紫の炎が立ち込めはじめました!」
実況「あれはいったいどういう意味があるのでしょうか!?」
狼女「……!」
バッ
実況「狼女が勝負に出ました!あの焔から何かを感じ取ったのでしょうか!?」
なまくら『意味か。いろいろあるが……今だ!切れ!』
少女「んっ!!」
シュパン
狼女「くっ……!」
なまくら『例えば付与した魔法を集中させ、攻撃可能範囲を伸ばす事ができる』
狼女「ぬっ……」
バッ
なまくら『今のを避けるとはな。大した反射神経だ』
実況「狼女は一旦距離をおき、再び機会をうかがっています!」
実況「それにしても役得!役得です!とってもいい眺めです!」
少女「な、なまくらってあの魔法操れたんだ……」
なまくら『馴染みのあるものだし、多少はな。』
少女「馴染み?あるの?」
なまくら『話は後だ。構えろ』
少女「距離とったからお盆投げた方がいいんじゃ」
なまくら『あれは割りとお前の体力を消耗するからな。あんなに頻繁に発動するものでもないよ』
少女「ふーむ」
少女「ん?」
狼女「なかなかやるじゃないか」
実況「なんでしょうか!?狼女が急に警戒を解き棒立ちになりました!」
少女「ふふん。まあねー」
狼女「一瞬でカタをつけるつもりだったんだがな……そう上手くはいかないものだ」
少女「言ったでしょ?油断しちゃダメだって」
狼女「はは、そうだったな」
狼女「まったく、服が切れてしまったじゃないか」
パタパタ
少女「身体が分かれるよりましでしょ?」
狼女「ふっ、違いない」
少女「ならさっさと負けを認めちゃったら……」
狼女「そうもいかない」
少女「っ……だよね」
狼女「今度は全力でいくとしよう」
少女「む、無理しない方がイインジャナイカナー」
狼女「……すぅ」
少女「く、くる!」
なまくら『これは……不味いかもわからんな』
少女「ちょっと!怖いこと言わないでよ!」
なまくら『雰囲気が先程よりいっそう鋭敏になっている……防げるかどうか』
少女「なら先手必勝だよ!」
なまくら『……』
なまくら『うむ……後手にまわるよりかはそれが一番かもな』
少女「じゃあ、いくよ!いっちゃうよ!?」
狼女「……」
少女「しゃー!おらー!」
実況「痺れを切らして少女が先に動き出したー!」
実況「手に持った刀をほぼ闇雲に振り回しているように見えますが、あれには一体どんな意味があるのでしょうか!?」
なまくら(特に意味はないんだが……)
実況「少女が狼女の懐に飛び込まんとしています!」
狼女「きたか……」
少女「わかってるよ!」
実況「少女、狼女に対して何回も刀を振り回します!」
狼女「ふっ、ほっ」
実況「しかし、狼女は軽快な動きでそれを躱していきます!先程の奥の手にも柔軟に対応している様子です!」
なまくら『くっ……当たらん……!これほどとは……』
狼女「どうした少女!君の動きはもう見切ったぞ!もう新しい不意打ちはないのか!?」
実況「鞭のように伸び縮みする刀身を華麗に躱しています!距離に意味がないのなら、刀の軌道を読めばいいと判断したのでしょうか!?狼女は少女の間合いから離れません!」
ブンブンブン
少女「はぁっ、はぁっ、はぁっ、んくぁ」
少女「……くっそ……!」
なまくら『まずいぞ!』
少女「はぁっ……はぁっ……」
少女「……え?」
ガシッ
少女「あっ」
狼女「ふっ!」
ビシッ
少女「いっつ……!」
ガシャン
少女「なまくらっ!?」
実況「これはもう勝負ありなのでしょうかー!?」
少女「なまくらっ!なまくらーっ!」
狼女「……」
実況「少女は狼女に手を捕まれ窮地にいるにも関わらず、地に落ちた刀に向かってもう一方の手を必死に伸ばしています!」
実況「しかし、その手は空を掴む!」
実況「混乱しているのか、自慢の魔法をくり出す素振りはまったく見えません!!」
少女「……!」
狼女「……ここまで必死にやってきて疲れたろう」
狼女「もう、おやすみ」
ビシッ
女騎士「おーい」
少女「んん……」
女騎士「おーい少女ー」
少女「ん……あれ、女騎士さん?」
女騎士「よう!元気してたか?」
少女「まあ、ボチボチ」
女騎士「そっかそっか。それはよかった」
女騎士「そいじゃ、私は行くわ」
少女「えっ、そんな、今会ったばかりなのに」
少女「もっとお話しようよ」
女騎士「それは私もしてぇんだがな」
女騎士「ま、ちと野暮用でな。旅に出なきゃならんのだ」
女騎士「わはは。すまんすまん」
女騎士「ま、きっとまたすぐ会える」
少女「……うん。そうだね」
女騎士「んじゃ、行くわ」
少女「え、待ってよもう少しだけ……!」
女騎士「働く女は忙しいんだ」
スタ……スタ……スタ……
少女「え、ちょ、ちょっと!」
少女「女騎士さん!!」
少女「はっ!」
ガバッ
少女「ここは……?牢屋?」
男「よ、おはようさん」
男「見た通り、お前のスィートルームだよ」
少女「あれ、私、さっきまで戦ってたよね……?」
男「そうだな」
少女「んで、私はここで気を失っていた……」
少女「今までの出来事はまさか夢だった……?」
男「んなこたぁない」
少女「……マジ?」
男「マジ」
男「むち打ちを一発くらったあと数秒首を絞められてな」
男「そのままバタンキューって」
少女「……」
男「お、まだ現状を飲み込めてないな」
少女「そりゃそうだよ!」
少女「嘘でしょ……」
男「ところがどっこい現実です」
男「ま、それほど狼女が格上だったってことだ」
少女「……」
男「会場もそこそこ盛り上がったし、金も入ったし。まあ、結果オーライかな?」
少女「……オーライなもんか……!」
少女「あっ、そういえばなまくら……なまくらは!?」
男「ん、あの刀か?一応回収して武器庫にぶちこんである」
少女「かえして!」
男「馬鹿言うな。負けたお前にそんな権利はない」
男「そもそもお前のもんじゃねぇ」
少女「うぐ……」
男「あんだけ威勢のいいこと言ってたのになー」
少女「……」
男「ま、それは過ぎたことだ」
男「お前はこれからいろいろと働いてもらう」
少女「……なにすんのさ」
男「そりゃもういろいろさ」
少女「う……」
少女「……グスッ……」
男「泣いたって水の妖精は助けにこないぞ?」
少女「うるさい」
少女「……は?」
男「試合終了直後にお前を買い取りたいっていう稀有なお客様がいてな」
少女「買い取り……」
男「そう買い取り。お前には結構な値段を付けてたんがな、一括で全額その場で払ってくれるもんだから即決だよ。即決」
男「あんまり手放したくはなかったんだが、大金にゃ勝てん」
男「つーことでま、新しいご主人のとこで頑張れや」
少女「その、主人ってのは誰?」
男「守秘義務に則って面会までそれはお預けだ」
男「きたねぇおっさんか、紳士なヘン夕イか、それともきたねぇヘン夕イか」
男「それは会ってのお楽しみってやつだ」
少女「全然お楽しくねぇ……」
男「適当に暴れたら逃げられるかもしれないな」
少女「その手があったか!」
男「だが渡るまでは大人しくしてもらう。何度も言うようだが、変なことはしようとしない方が身のためだ」
少女「……わかってるよ……」
男「それじゃ、手を出せ」
少女「ん」
カチャリ
男「手錠の次は足枷だ」
男「足出せ」
男「んなことねーだろ。お前の得意な魔法でなんとかなんじゃないか?」
少女「その手があったか!」
男「それと、一応言っておくが、今俺が話したことは他言無用だからな?」
男「信用にもかかわることだ。客の前では絶対だぞ」
少女「どうしよっかなぁ……」
男「お前自分の立場わかってる?」
少女「なんだっけ?」
男「嘘だろ……」
男「だろうな」
男「お前今から売られるのにたくましすぎじゃない?さっきのローテンションどこいったよ?」
少女「バカンスに向かって裸足で駆けてったよ」
男「何?お前のテンションは有給でも取れんの?」
少女「とれるよ」
男「マジかよ……」
少女「まあ嘘ですけど」
男「だろうな」
少女「変な体力使わせないでよ!」
男「お前からボケてきたんじゃないか……」
少女「……逃げられる可能性もあることだし、あんまり悲観的になって塞ぎ混むのもね」
男「ほー」
少女「何?」
男「いんや」
男「それじゃ、そろそろ買い取り主の所にいくとしますかね」
少女「……」
男「いくぞ」
少女「うっす……」
少女「……」
男「お待たせしました」
「ありがとう」
男「ま、精々大事に使ってやってください」
「使うだなんてそんな」
少女「……」
少女(いったいどんな人何だろう……気になるけど、頭上げる気にならないや)
少女(あれ、でもなんとなーくどっかで聞いたような声なような)
男「お前は大分運がいいな。おら、顔あげろ」
少女(え、え?)
「ほら、もう怯えなくてもいいんだぞ」
少女(もしや……もしや!)
バッ
少女「狼女さん!?」
狼女「ああ、私だ」
狼女「私は優勝して自由の身になったからな。何をするにも私の勝手だ」
少女「いやでも、お金……」
狼女「それは優勝賞金から出したさ。一人で移動するには邪魔なほどの大金だったからな」
狼女「減らすにはちょうどいい案件だったってことさ」
少女「なんと……」
狼女「それに、私はお前と一緒に旅がしてみたい」
少女「えっ」
狼女「お前が言っていたいろんな世界を一緒に見てみたいってことだよ」
男「と、いうわけでまあ、お前は無事、一緒に旅をしたいって理由だけでお前を買い取った稀有なお客様に引き取られたわけだ」
少女「もしかして……男さん」
男「ん?」
少女「わざと秘密にして私の反応を楽しんでたでしょ」
男「さあ?」
少女「もーーー!!バカーー!!!」
男「はっはっは」
狼女「はっはっは」
少女「それは……まあ、そうだけど……」
男「とはいえ、別に温情で狼女に売った訳じゃない。もう少し早く他の奴らに大金を積まれたら、俺は迷いなくそっちに売っただろうさ」
少女「鬼!悪魔!守銭奴!」
男「おいおい、商売熱心と言ってくれ」
ガチャリ
男「さて、手枷足枷全部外れたぞ」
少女「か、身体が軽い……!」
狼女「ふふ、それじゃあ行こうか」
少女「うん!」
男「気を付けてなー」
狼女「ああ」
少女「いろいろ世話になった気がしたけど思い返したらロクなもんじゃなかった!」
少女「もう会うこともないだろうよ!じゃあなばーか!」
男「もう捕まるなよチービ」
外だよ
少女「ま、まぶしっ!」
狼女「丁度昼だからな。あそこじゃ時間感覚が狂いがちだったが、もうそんなこともないだろう」
少女「ひ……」
狼女「ひ?」
少女「久しぶりのシャバだーー!」
狼女「お、おお、そうだな」
狼女(何処でそんな単語覚えてくるんだ……)
狼女「ん?」
狼女「テンションの割になんで下を向いているんだ?」
少女「太陽が眩しいからなのです」
狼女「ずっと暗い牢屋にいたからな。目が慣れるまでまだ時間がかかるんだろう」
少女「うえー目がいたい……」
狼女「はは」
少女「ん?どしたの?」
狼女「君に渡すものがあったんだ」
少女「解放してくれて更に何かくれるの!?」
狼女「正確には解放じゃない気もするが……ほら」
少女「あっ、これは!」
なまくら『よう。御無沙汰だな』
少女「なまくら!!」
狼女「これから旅に出るんだ。身を守る武器の一つでもと思ってな」
狼女「本当はもっと良さげな装備もあったんだが、君がその刀にご執心だったのを思い出してそれにしたんだ」
少女「狼女さん!ありがとう!」
少女「本当にありがとう!!」
狼女「ん。そこまで喜んでくれるなんて予想外だったよ」
狼女「どういたしまして」
なまくら『我輩も負けたときは本当に肝を冷したがな』
なまくら『あの狼女に感謝だ』
少女「だね」
なまくら『……それにしても呆気ない戦いだったな』
少女「う……それはもう散々言われたんでもう勘弁してつかーさい……」
なまくら『ん、なんだ既に心が満身創痍だな』
少女「そらもういろいろと蹂躙されましたよ……」
なまくら『なんと』
少女「無関心かよ!?」
なまくら『これで我輩も旅の一員だ』
少女「うん」
なまくら『そして我輩はお前にアドバイスと力を与える。お前は我輩に魔力を供給する』
少女「うん」
なまくら『つまりある意味パートナーだ』
少女「うん」
なまくら『永い付き合いになりそうだな?』
少女「うーん?」
なまくら『そこは快く即答してくれると助かる』
少女「はっ!」
狼女「感動の再会は終わったかな?」
少女「う、うっす」
狼女「刀と話すのもいいが、できれば私ともお話してもらいたいよ」
少女「そーだよね。ごめんなさい……」
狼女「あ、いや、謝るほどのことじゃないが」
少女「でもこのなまくらが喋るのは本当なんだからね!」
狼女「わかってる。わかってるよ」
少女「絶対わかってない!」
狼女「どうしろと言うんだ……」
なまくら『置くのか……』
狼女「さっき旅をするとは言ったが、明確な目的地は決まっていない」
少女「そうなんだ」
狼女「でだ、旅の方針は少女が決めてくれ」
少女「ええっ!私が!?」
狼女「そう。君が」
少女「でもそれじゃどっちがお伴かわからなくなっちゃうんじゃ……」
狼女「気にするな気にするな」
少女「ううーん、いいのかな……」
少女「そ、そっか……」
少女「じゃあ、まず中央王都でもめざそ」
グゥ~~
狼女「ん?」
少女「あわわっ」
なまくら『腹に虫でも飼っているのか?』
少女「なまくらは黙ってて!」
狼女「お腹の虫が鳴いたようだが?」
少女「もう!狼女さんまで!」
狼女「えっ」
狼女「なんだ、飯は食べてないのか?」
少女「目が覚めてからさっきまで慌ただしくしてたから……」
狼女「なるほど……」
なまくら『試合に負けてから割りと時間たっていたしな』
狼女「となると、王都は遠すぎるな。早く食事を取りたいのなら東にある町が丁度いいかもしれないな」
少女「それじゃそこに行こう!」
なまくら『はなから目的地から逸れたな』
少女「いいのっ!どうせ王都は目的地というよりは中継地点だし」
少女「最終的には色んな所をまわる予定だからね。遅かれ早かれその町にも行くことになるだろうし」
狼女「おお、それは頼もしいな」
狼女「おー」
なまくら『おー』
腹が減っては旅ができぬ。私たちはお腹を満たすためにこれまでの慰労を兼ねて東の町に向かうことになりました。
いろいろと大変なこともありましたし、ピンチもたくさんありました。
でも、何事もなくすんだのは本当に運が良かったのでしょう。
凛々しくて格好いい狼女さん、謎が多くてよくわからない喋るなまくら、
少し変わった形でですが旅の仲間も増えたことですし、これからの旅路は退屈しないですみそうです。
空に登りきった太陽がチクチクと私の肌を刺し、
私は少し鬱陶しく思いつつもこの光を再び自由に浴びることのできる幸運を深く噛み締めたのでした。
狼女「ん?」
少女「狼女さんのこと、ご主人様って呼んだ方がいいのかな?」
狼女「……」
狼女「いや、そのままでいい」
少女「そうなの?てか今の間は何さ」
狼女「なんでもないよ。なんでも」
少女「?」
狼女「いろいろと危ないから遠慮しておく」
少女「はあ、さいですか」
少女「つまんないのー」
狼女「まったく、何を言い出すかと思えば……」
少女「えへへ」
狼女「歩いて1、2時間だな」
少女「Oh……」
なまくら『やれやれ』
少女旅立ち編~完~
引用元: 少女「というわけで旅にでます」