剣士「なのに、近づかないで敵を斬るってどういうことよ。剣を全否定してるじゃん。意味が分からない」
剣士「飛ぶ斬撃だかなんだか知らないけど、あんなもん出すための武器じゃないわけよ」
剣士「もし、俺が飛ぶ斬撃を出せる奴と戦うことになったら? ハッ、楽勝!」
剣士「あんな斬撃スイスイっとかわして、間合い詰めて斬る! ハイ、終了!」
剣士「飛ぶ斬撃のブームがやってきてるらしいけど、俺があんなのすぐ廃れさせてやるよ!」
剣士「剣の道は厳しいんだってこと、思い知らせてやる!」
<訓練場>
イケメン剣士「はじめまして、本日はよろしくお願いします」
剣士「ああ、訓練だけど、実戦のつもりでやろう」
剣士(ふん……飛んでくる斬撃をかわして、一瞬で間合い詰めて、一撃浴びせてやるよ!)
剣士(さあ来い……飛ぶ斬撃ってのを出してこい!)チャキッ
イケメン剣士「はっ!」ブンッ
ビュオッ!
剣士「――え!?」
剣士「うおっ!」バッ
剣士(あっぶねえ……!)
剣士(飛ぶ斬撃ってはたから見てる分には、そんなに速く感じないけど……)
剣士(実際、正面から受けてみるとこんなに速いのか……!)
イケメン剣士「もう一発!」ブンッ
ビュオッ!
剣士「うおおっ!」ババッ
剣士(しかもこれ……厚みがほとんどないから、視認するのもかなり難しい!)
剣士(切れ味のあるペラペラの鉄板が、高速で飛んでくるようなもんだ!)
剣士(斬撃を見切ろうとするだけで、相当の集中力を消費するぞ……!)
イケメン剣士「さすがですね……」
ビュオオオッ!
剣士「ちょっ、ウソ! マジ……連射!?」
剣士「うわっ! わわわっ!」バッババッ
剣士(弓矢の達人だって、こんなに矢を連射できねーぞ! こんなのアリかよ!)
剣士(こんなもん……ひたすら守備の構えでかわし続けるしかねえ!)
ギュンッ!
ギュゥンッ!
ギュオッ!
剣士「ひいいいいいっ!」
剣士「ぐはぁっ!」
イケメン剣士「やった! 当たった!」
審判「それまで!」
剣士(ううう……脇腹にかすめるように当たっただけでこのダメージ……)ガクッ
剣士(結局、なにもできずに……負けちまった……)ドサッ…
剣士「う……ん……」ムクッ
友「おお、起きたか」
剣士「ここは……?」
友「病院だよ。脇腹をちょっと縫ったけど、傷は浅いってさ。三日もありゃ退院できる」
剣士「そうか……俺は負けたんだったな」
友「……ああ」
剣士「お前にあんだけ大口叩いておいて、情けねえ……」
剣士「はたから見てる分には、あんなの曲芸じゃねーかと思ってたけど……とんでもねーわ」
剣士「あれに対抗するには、こっちも斬撃を飛ばす以外、どうしようもないな」
友「そういうと思って、この近くにある飛ぶ斬撃を習える道場のパンフレットを持ってきた」パサッ
剣士「おお、サンキュー」
友「退院したら、一度訪ねてみるといい」
剣士「ああ……そうするよ」
<道場>
剣士(パンフレットの道場はここだったな……)
剣士「あの、すみません。こちらで“飛ぶ斬撃”をマスターできるって聞いたんですけど」
道場主「はい、いらっしゃいませ!」
道場主「当道場はお金さえ払っていただければ、誰でもウェルカムでございます!」
剣士「はぁ……」
剣士(剣の道場もずいぶんカジュアルになったもんだ。これも時代の流れか……)
剣士「飛ぶ斬撃ってのは一体なんなんです?」
道場主「いい質問ですね!」
剣士(むしろ当然の質問だと思うけど……)
道場主「飛ぶ斬撃というのはですね――」
道場主「剣を高速で振るった時に生じる衝撃波、真空波、ソニックブームといったものにですね。
自身の剣気や剣圧を上乗せし、それを推進力にすることにより……」ウンタラカンタラ
剣士(なにいってんのかさっぱり分からん……)
道場主「はい、かしこまりました!」
道場主「あなたは経験者ですし、ウチの道場に通えば一ヶ月で飛ぶ斬撃を出せるようになりますよ」
剣士「えっ、そんなに早く!?」
剣士(最低でも一年ぐらいは修行するはめになると覚悟してたのに……)
道場主「ただし、料金もそれに見合うだけいただきますけどね」
剣士「……」
道場主「そうではありません。通常の素振りと、飛ぶ斬撃に使用する素振りは違うのです」
道場主「剣から矢を飛ばすような気持ちで、剣を振るって下さい」
剣士「はい……」
剣士(これじゃまるで、今まで自分がやってきた剣術をリセットするようなもんだな)
剣士(だけど仕方ない……これも今の剣術についていくためだ! 勝つためだ!)
剣士「はっ! はっ!」ブンッブンッ
剣士「たあっ!」ブンッ
ビュオッ!
剣士「――出た!」
道場主「おみごとです!」
道場主「一度コツをつかんでしまえば、あとは簡単に出せるようになりますよ」
剣士(まさかホントに一ヶ月で会得できるなんて……)
道場主「いえいえ、こちらこそ。たんまり授業料はいただきましたから」
道場主「あ、できればお知り合いに剣士の方がいたら、当道場の宣伝をお願いします」
道場主「飛ぶ斬撃を習える道場は今どんどん増えていて、競争が激しいもので」
剣士「ええ……そうします」
剣士(最後まで商魂たくましい人だったな……)
剣士(まだ心のどこかに抵抗はあるけど、せっかく新しい技を会得したんだ……)
剣士(やっぱりこの飛ぶ斬撃ってのを試してみたいよな!)
剣士(よし……闘技場に申し込んで、試合してみるとするか!)
ワァァ…… ワァァ……
剣士「……」
マッチョ剣士「グハハハ、オレ様の剣で叩き斬ってやる!」
剣士(こいつはどう見ても、飛ぶ斬撃なんて器用な技を使うタイプじゃないな。練習台にちょうどいい)
審判「始めっ!」
ビュオッ!
マッチョ剣士「わっ!」ササッ
剣士「はあっ!」ブンッ
ビュオッ!
マッチョ剣士「ひいいっ! なんだこりゃ!? 変なもんが飛んでくる!」
ビュオッ!
ビュオオッ!
ビュオオオッ!
マッチョ剣士「うわわっ! きたねえぞ! 変な妖術使いやがってぇ!」
マッチョ剣士「ぐぎゃあっ!」ドサッ…
審判「それまで!」
ワァァ…… ワァァ……
剣士「……」
剣士(なるほど、案外悪くないもんだな)
剣士(間合いの外から対戦相手を一方的に切り刻むってのも)ニヤ…
剣士「だあっ!」ブンッ
ビュオッ!
ヒゲ剣士「ぐはぁっ!」
~
剣士「たあっ!」ブンッ
ビュオッ!
ノッポ剣士「うわぁぁっ!」
~
剣士「であっ!」ブンッ
ビュオッ!
イケメン剣士「あぐっ……!」
友「噂は聞いてるよ。最近、連戦連勝みたいじゃないか」
剣士「まぁなー」ニヤニヤ
剣士「どうやら俺って、飛ぶ斬撃の素質が結構あったみたいでさ」
剣士「飛ぶ斬撃の練習をしまくってたら、速度も射程も飛躍的に伸びたよ」
剣士「いつだったか俺を病院送りにした、あのイケメンにもきっちりリベンジしてやったしな」
剣士「ま、これもお前のおかげだな。飛ぶ斬撃、最高!」
友「……」
友「だけど……こんな声があるのも知ってるか?」
剣士「どんな声?」
友「こないだなんか、30分間互いに飛ぶ斬撃出し合うだけの試合もあったとか」
剣士「んなこといったって、今や飛ぶ斬撃を出しまくるのが最良の戦法なんだからしょうがないだろ」
剣士「飛ぶ斬撃の達人同士がやり合ったら、そりゃ相手のミス待ちみたいな試合になっちまうよ」
友「まあ……そうだろうなぁ」
剣士「時代が変われば人も変わるし、剣術も変わる。そういうもんなんだよ」
剣士「俺はこの飛ぶ斬撃で、これからもガンガン勝ちまくるぜ!」
ワァァ…… ワァァ……
剣士(今日の相手は……)
眼帯剣士「……」
剣士(ベテランの風格が漂ってる……手強そうだな)
審判「始めっ!」
眼帯剣士「……」
剣士(わざとスキを見せても、飛ぶ斬撃を使う様子がない……?)
剣士(なんだ、なら楽勝じゃねーか!)
剣士(いきなり決めてやる! ――飛ぶ斬撃!)ブンッ
ビュオッ!
眼帯剣士「……」スッ…
キィンッ!
剣士「え!?」
剣士(俺の斬撃を……いともあっさり真正面から受け止めた!?)
剣士(剣をあんな風に構えるだけで、飛ぶ斬撃は防ぐことができるのか……!)
眼帯剣士「それからは飛ぶ斬撃を真っ向から破れるよう、修練を重ねた……」
剣士「!」
剣士(俺は飛ぶ斬撃使いに敗れてから、すぐさま飛ぶ斬撃に走ったのに……)
剣士(この男は……飛ぶ斬撃を使わずに飛ぶ斬撃を破る道を選んだのか……!)
眼帯剣士「先に忠告しておこう。吾輩に飛ぶ斬撃は通じぬ」
眼帯剣士「参るッ!」タタタッ
剣士「ゲッ!」
ビュオッ!
ビュオオッ!
眼帯剣士「無駄だ!」キキンッ
剣士「バカな! 連射を全部弾かれた!」
眼帯剣士「ハアアアッ!」タタタッ
剣士「くっ……!」チャキッ
剣士(あっ……このところ飛ぶ斬撃ばかりやってたから……至近距離での戦い方を忘れちまったァ!)
ザンッ!
剣士「ぐ、はぁぁ……っ!」ドサッ…
ワァァ…… ワァァ……
剣士(まさか……飛ぶ斬撃以外に敗れることに、なるなんて……)ガクッ…
友「いやー、ドンマイドンマイ! 大した怪我じゃなくてよかったな!」
剣士「ああ……」
友「そういや、あの眼帯オッサンの編み出した構えで、飛ぶ斬撃は完封できることが分かったから」
友「今後飛ぶ斬撃は廃れていくかも、なんて話も出てるそうだ」
剣士「……そうか」
剣士「飛ぶ斬撃が猛威を振るったかと思いきや……すぐにそれを破る技が現れる……」
剣士「剣術ってなんなんだろうなぁ……」
友「うーん……」
友「この技を使えば絶対勝てる、あの戦法で戦えば絶対負けない、って世界じゃないことは確かだろうな」
友「あの眼帯オッサンが作った構えだって、いずれは“もっとすごい飛ぶ斬撃”に負けるかもしれないしさ」
剣士「……」
剣士「剣の道って……厳しいなぁ……」
~おわり~
よくまとまってて面白かった
引用元: 剣士「飛ぶ斬撃? バッカじゃねーの!?」