勇者(HP1)「HPが1になっちまった……」
勇者(HP1)「早く回復しないと……!」ゴソゴソ
勇者(HP1)「くそっ、薬草も傷薬も切らしてやがる! もっと買っとくべきだった!」
勇者(HP1)「仕方ない、近くの町まで行かないと……」
勇者(HP1)(この平原は見晴らしがいいし、歩いても走っても危険性はさして変わらない)
勇者(HP1)(だったら――走るか!)
タタタッ!
巨大蜂「……」ブゥゥゥゥン…
勇者(HP1)「うわっ!」
勇者(HP1)(いつもなら全然怖くない相手だが、今は相手してる余裕はない!)
勇者(HP1)(なにしろ一発でも喰らったらオシマイなんだからな!)
勇者(HP1)(町まで……町まで逃げ込むんだ!)タタタタタッ
勇者(HP1)「ハァ、ハァ、ハァ……」
勇者(HP1)「あっぶねえ……もう少しで背中に攻撃を受けて死ぬところだった……」
勇者(HP1)(だけど町に入ってしまえばもう安心だ! 早く道具屋へ――)
町民A「やぁ、旅人さん。息切らしてどうしたんだい?」ポンッ
勇者(HP1)「わぁぁぁぁっ!!!」
町民A「す、すみません!」
勇者(HP1)「まぁいい、ところでこの町に店ってあるか?」
町民A「え、と……商店街なら、あちらにありますよ」
勇者(HP1)「あっちか……!」タタタッ
勇者(HP1)(早く薬草か回復薬を買って、HPを回復しないと……!)
町民A(やけに切羽詰まった顔してたけど、どうしたんだ……?)
勇者(HP1)「なんで武器屋しかないんだ!?」
町民B「ここは武器で有名な町ですからね。道具屋はないんですよ」
町民B「その代わり、色んな種類の武器を――」
勇者(HP1)「クソがぁぁぁぁぁっ!!!」
町民B「ひいっ!?」ビクッ
勇者(HP1)「今は武器なんかどうでもいいんだよ! 色んな種類? 知ったことか!」
町民B「すみません、すみません!」
町民B「宿屋は……町の一番北ですね。ここから500メートルぐらいかな」
勇者(HP1)「なんて遠いんだ!」
勇者(HP1)「ったく、宿屋なんつうもんは町の入り口付近にあるべきだ!」
勇者(HP1)「そうは思わねえか!?」
町民B「思います、思います!」
勇者(HP1)「ええい、一気に駆け抜けてやる!」タタタッ
町民C「おや、もしやあなたは勇者様では?」
町民D「冒険は順調ですか?」
町民E「あ、ホントだ!」
勇者(HP1)「うわぁぁぁぁぁっ! ぶつかるぅぅぅぅぅっ!」タタタッ
ゾロゾロ…
町民F「おお、あなたが勇者様ですか!」
少女「どうなさったのですか、勇者様?」
子供「だいじょーぶ?」
ゾロゾロ…
勇者(HP1)「ち、近づくな……」
勇者(HP1)「俺に近づくんじゃねええええええッ!!!」
主人「いらっしゃいま――」
勇者(HP1)「早くチェックインしろ! 間に合わなくなっても知らんぞーっ!」
主人「ひっ! わ、分かりましたっ! すぐ空き部屋へ案内いたします!」
勇者(HP1)(やっとだ……! やっとHPを回復できる……!)
主人「あ、ウチのベッドは戦士の方がよく使うので少し固め――」
勇者(HP1)「うるせえ! いいから、とっとと案内しやがれッ!」
主人「は、はいぃっ!」
勇者(HP1)「ダーイブ!」バッ
ボフッ!
勇者(HP0)「……」
翌朝、ベッドの上で冷たくなっている勇者が発見された……。
おわり
勇者(HP1)「HPが1になっちまった……」
勇者(HP1)「俺のHPはついさっきまで500はあったはずなのに……」
勇者(HP1)「ダメージなんか受けた覚えはないのに、一体どうして……」
勇者(HP1)「とりあえず、薬草で回復しとかないとな」
勇者(HP1)(HPは1のままだ……!)
勇者(HP1)(もっと高級な薬でないと、ダメなのか?)
勇者(HP1)(もったいないけど命には代えられない! 非売品の高級薬を試してみるか……!)
勇者(HP1)「薬じゃ回復しないってことなのか?」
勇者(HP1)「だったら……宿屋に泊まってみるか」
主人「いらっしゃいませ」
勇者(HP1)「一泊させてもらえないか」
主人「かしこまりました」
主人「それでは、奥の部屋が空いておりますので、こちらのカギをどうぞ」チャラッ
勇者(HP1)「ありがとう」
勇者(HP1)(眠ってもHPはまったく回復していない……どういうことだ?)
勇者(HP1)「HPとは生命力を表す数値……ということは生命力に異常があるってことか?」
勇者(HP1)「なら……そういえばこの町の近くには生命を司る神の神殿があったっけ」
勇者(HP1)「相談してみることにしよう」
魔物「グオオオオオオッ!」グワッ
勇者(HP1)「!」
勇者(HP1)「くそっ、こいつはかなり手強い種類の魔物だ……!」
勇者(HP1)「一撃ももらわず勝利するのは難しいが、一撃ももらわず逃げるのも難しい!」
勇者(HP1)「……」
勇者(HP1)「だったら……戦った方がまだ安全か!」キッ
魔物「グオオッ!」ヒュバッ
勇者(HP1)「危ないっ!」サッ
勇者(HP1)「よし……これで決める!」ドシュッ
魔物「グゥ……!」ヨロッ…
勇者(HP1)「しまった! 仕留め切れなかった!」
魔物「ガァァッ!」グオッ
ザシュッ!
勇者(HP1)「ぐはぁっ!(やられ――)」
勇者(HP0.89)「HPが1の状態で、明らかにダメージを負ったのに……!」
勇者(HP0.89)「これはいったいどういうことだ……!?」
魔物「グオオオオッ!」
勇者(HP0.89)「おっと!」ザシュッ
勇者(HP0.89)「生命の神様を問いたださないと……!」
生命の神「アッハッハッハ、驚いちゃった?」
生命の神「暇だったからちょいと気まぐれに、HPの表記方法を変えてみたのさ」
生命の神「HPの最大値は1で固定して、ダメージもそれに応じた数で表わされるようにね」
生命の神「今までの表記方法だと、今の君のHPは500で」
生命の神「100のダメージを五発受けたら死んじゃうって計算になるわけだけど」
生命の神「今の君は0.2のダメージを五発受けたら死んじゃうってわけ!」
生命の神「どう? 面白いでしょ?」
勇者(HP0.89)「……」
ズバァッ!
生命の神「ごめんなしゃいっ!」
おわり
勇者(HP1)「HPが1になっちまった……」
勇者(HP1)「こんなこと初めてだ……」
勇者(HP1)「つまり……俺はあと一発でも攻撃を受けたら、死んじまうってことか……」
勇者(HP1)「……フ」
勇者(HP1)「フ、フハハ……」
勇者(HP1)「アハハハハッ! アーッハッハッハッハッハッハッハッ!」
勇者(HP1)「このスリルたまらん! 怖い? いーや全然! むしろゾクゾクするね!」
勇者(HP1)「俺がこの魔王討伐の冒険に求めてたのは、これだったんだ!」
勇者(HP1)「この生と死の瀬戸際にいるって感じの緊張感だったんだァ!」
勇者(HP1)「HP1のままで冒険する!」
勇者(HP1)「俺はHP1のままで魔王を倒してみせる!」
勇者(HP1)「あ~……たまらん! 全身が熱い闘志でみなぎってきたぁぁぁぁぁ!」
勇者(HP1)「あぶねっ! たかがスライムの攻撃ですらこの緊張感! いいねえ!」
勇者(HP1)「一撃ももらえないから、相手の攻撃は絶対かわさなきゃならないし」
勇者(HP1)「相手の攻撃チャンスを作らないためにも敵は少ない手数で倒さなきゃならない!」
勇者(HP1)「そう、こんな風に!」ザシュッ
スライム「グギャァァァッ!」
勇者(HP1)「ふう……スライム戦でボス戦並みに汗をかいちまったぜ……」
勇者(HP1)「これからは違う!」
勇者(HP1)「これからは常に一撃必殺狙い! 常に短期決戦! 常に全力!」
勇者(HP1)「これが俺のスタイルだ! さあかかってきやがれ!」
勇者(HP1)「俺のHPを0にしてみやがれえええっ!!!」
魔物「うぎゃっ!」
勇者(HP1)「だあっ!」ザクッ
魔獣「ギャアアッ!」
勇者(HP1)「てりゃ!」ドバッ
ゾンビ「ぐおおっ!」
竜「グエェェェッ!」
勇者(HP1)「はいっ!」シュバッ
側近「あびゃっ!」
勇者(HP1)「でやっ!」ザシュッ
魔王「ぐげっ!」
姫「勇者様……!? ずいぶん早かったんですのね!」
勇者(HP1)「これもHP1スタイルを貫いたおかげだよ」
勇者(HP1)「宿屋に寄らず、回復アイテムも使わず、常に短期決戦狙いだったからね」
姫「勇者様、ステキ!」
姫「もう、勇者様ったら……」
勇者(HP1)「姫ぇ……」
姫「勇者さまぁん……」
……
……
……
― 城 ―
赤ちゃん「ばぁぶ、ばぁぶ」
勇者「おお、よしよし」
記者「可愛らしいお子様ですが、将来はやはり勇者様のような戦士に……?」
勇者「まだこの子は少し前に生まれたばかりだよ? そこまでは決めてないよ~」
勇者「ん?」
記者「勇者様はHPが1のまま冒険し、魔王を倒したと聞いていますが――」
記者「もっとも危ないと思ったのはどんな場面でしょうか?」
勇者「うーん、それはもちろん……」
赤ちゃん「だぁ、だぁ!」
勇者「姫ったらすごい激しいから、いつHPが0になるかとヒヤヒヤしたよ~!」
勇者「アッハッハッハッハッハ!」
姫「もう……あなたったら」ポッ…
記者「ア、アハハ……(こりゃ記事にはできねーな……)」
おわり
ありがとうございました
まさかの一番危うい奴が生き残ったか
攻撃は最大の防御云々
三人目優秀過ぎw
三人目が一番面白かったし好き
乙
引用元: 勇者「HPが1になっちまった三人の勇者」