「マジだれでもいいから付き合いてぇー」
男「だなぁ」
「でもお前には幼馴染さんがいるだろぉ~?」
「マジマジ、男はうらやましいなぁ。あんなかわいい子が彼女でよぉ」
男「おーい、やめろよぉ~!そんなんじゃねえってぇ!」
「ワハハハ!」
幼馴染「へ、へっ!?い、いや、そ、そのぉ…………ふ、ふつうの幼馴染だよ?」
「うっそだぁ~!毎日一緒に家に帰ってるんでしょ~?」
「男君にご飯つくってあげてたりなんかして~?」
幼馴染「う、うぅ………そ、そんなんじゃないよぉ…………」
「か~わ~い~い~!」
女「は?なんなの急に」
友「男君と幼馴染さんの関係さ。なんだかこう、甘酸っぱい青春の一ページを眺めている気分だね」
女「ジジくさいわね、いや、ババくさいのか。…………あれ?あんた性別どっちだっけ」
友「まあまあ、細かいことはお気になさらず」
女「そうね」
友「幼い頃から高校にいたるまで共に歩んできた二人は、その近すぎる関係にやきもきしながら徐々に本当の気持ちに目覚めて―――」ペラペラ
女「あーうるさいうるさい。もういいって」
友「ここから油がのってくるところなのに」
女「長いのよ、あんたの妄想」
女「情緒不安定ね」
友「幸せに暮らすといい。でもうらやましいから爆散しろ」
女「どっちなのよ」
友「どっちも!」
友「ゑ?そんなバカな。ラブコメのお手本みたいな彼らが付き合わないはずがないだろうに」
女「あんた達は学校でのふたりしか見ていないからそう思うのよ」
友「なんだって?じゃあ自宅のふたりは違う関係なのかい?」
女「違うっていうか、まあ、少なくとも学校の雰囲気とは違うわね」
友「まさかDV……………」
女「暴力的じゃないから安心しなさい」
女「うーん。口で説明するのはむずかしいわね………」
友「はようはよう!」
女「なんというかー……………くたびれた熟年夫婦?」
友「あっはっはっはっ!」
女「なによ、突然爆笑しないでよ」
女「そこまでいってねえっつーの」
友「にわかには信じがたい」
女「んー…………じゃあ、その眼で確かめてみれば?」
友「おぉ、アクティブ。しかし名案だ」
女「たぶん見れば私の言いたいことわかるから」
友「そうしよう。じゃあ今日の放課後、男君の家に先回りしようね」
女「はいはいがんばって………………え?私も?」
「教えろよ~男ぉ~」
男「だからそんなんじゃねえってぇ。めんどくせーな!」
「いいじゃんかよぉ~男くぅ~ん」
「男くぅ~ん?今日の晩御飯なににするぅ~?オカズはもちろん、わ・た・し!」
男「うぜーうぜー!」
「幼馴染さんうらやましぃ~」
幼馴染「あぅ…………ほ、ほんとにそんなんじゃないからぁ…………」
「や~ん照れてる~」
「いいなぁ~私も彼氏ほしいなぁ~」
幼馴染「かっ、かれしじゃ……………」
…………………
……………
……
~ 幼馴染の家 リビング ~
友「はい、放課後になりました」
女「そうね」
友「今日は男家、幼馴染家、全面協力のもと、いたる所に監視カメラ『アクションカム-HDS021』を仕掛けさせてもらいました。ありがとう男ママ、幼ママ」
女「やってることがストーカーね」
女「はいはい」
友「実況はこの僕、友と、解説は外道の女でお送りいたします」
女「は?」
友「おぉおっとぉー!?さっそく誰か帰ってきたみたいだぁー!!いきなりお二人の登場かぁー!?」
女「あとで泣かすからね」
男ママ『男、ただいまくらいちゃんと言いなさい』
男『ああ』スタスタ
男ママ『もう………あっ、お母さん夜モンゴリアンチョップの会に出かけてくるからね?ご飯は幼ちゃんにつくってもらいなさいな』
男『……………』スタスタ
男ママ『聞いてるの?男』
男『聞いてるよ』トントントン
女「でしょ?男君って、学校と家じゃ全然雰囲気違うのよ」
友「いや、そうじゃなくて。モンゴリアンチョップの会って何?僕は生まれて初めてそんなワードを聞いたよ。闇の組織か何かじゃないの?」
女「あら、知らないの?この町の有力者が集う集会よ。私の両親も今日でかけるらしいわ」
友「ウソでしょ…………世界は謎に満ちている……………」
男『……………はぁ』バサバサッ
男『………………』ボフッ
男『………………』
女「やさぐれてるわね」
友「学校での明るい男君からは想像もつかない行動ですっ!でもなんでだろうね」
女「あれじゃない?学校や会社ではグワーッと頑張れるけど、家に帰るとバッテリー切れ、みたいな」
友「人間をバッテリーにたとえるなんて。やっぱり女さんは外道だなぁ」
女「ん?殺そうか?」
男『………………』
男『………………』モゾ
男『………………』
女「すごいわね。指くらいしか動いてないわ」
友「男君ならもっとこう、『虫とり行こうぜ!』みたいに家でもワンパクな感じかと思ってたよ」
女「発想が幼稚だけど、まあそんなイメージよね」
友「ねえ、大丈夫これ。微動だにしないけど。もしかして死んだんじゃないの?」
女「大丈夫よ、たぶん」
男ママ『あら!幼ちゃん!待ってたわぁ』
幼馴染『台所借ります』ガサガサ
男ママ『はーい。今日も男のことお願いねぇ。じゃあ私、出かけてくるからぁ』パタパタ
幼馴染『いってらっしゃい』ガサガサ
女「帰りにスーパーに寄ったのね」
友「でも、普段と変わらないね。優しい幼馴染さんだね」
女「そうかしらね」
幼馴染『……………』ジャー
幼馴染『……………』カチッ ボボボボボンッ
幼馴染『……………』トントントン
女「無表情なのに氷のような冷たい目をしているのが、またこわいわね」
友「調理実習のときの、はわわ………ああぁっ………、みたいな可愛らしい幼馴染さんはどこへいったの?」
女「演技じゃないと思うけど………幼も学校と家じゃ違うのよ」
幼馴染『……………』ジャー
幼馴染『……………』フキフキ
幼馴染『……………』
幼馴染『……………』スタスタ
女「たぶん男君を呼びに行ったのね」
友「でも、部屋に入れるかなぁ?幼馴染さんってTHE・乙女じゃないか。男性の部屋になんて恥ずかしがって入れないんじゃないの?」
女「まあ学校ならそうね。男子生徒に横に立たれただけで顔真っ赤になるもの」
幼馴染『……………』スタスタ
幼馴染『……………』ガチャ
男『zzz』
女「なんの迷いもなかったわね」
友「僕の中の幼馴染さんのイメージがどんどん音を立てて崩れていく………」
女「まあ、男君の部屋だからこそ、躊躇なく入れたのよ」
友「なぁるほど!ということはこっから、イチャイチャベトベトしたラヴがはじまるんだね!」
女「そうそう」
男『zzz』
幼馴染『……………』ゲシッ
男『いてっ』ドサン
幼馴染『ごはん』スタスタ
男『………………』サスサス
女「しかも一切顔見てなかったわね」
友「いてっ、ごはん、この二言しか無かったよ?年頃の男女が二人っきりの部屋で交わす会話じゃないよねぇ?」
女「なんで私に詰め寄るのよ。知らないわよ」
男『………………』スタスタ ボフッ
幼馴染『……………』ガチャガチャ
男『………………』ピッ ワハハ!ナンデヤネン!
幼馴染『……………ふぅ』フキフキ
女「あのふたりって本当に高校生なのかしらね。くたびれかたが尋常じゃない」
友「男君、流れるようにソファに座ってテレビをつけたね」
女「何百、何千と繰り返してきた動きなんでしょう」
幼馴染『ハンバーグ』カチャカチャ
男『ああ』ポリポリ ナンデデスノ!
幼馴染『……………あっ』ピタッ
男『まだある』 ソウイウコトヤナイ!
幼馴染『うん』カチャカチャ
女「……………………」
友「…………ふたりは何の会話をしていたのかなぁ?んん?話の段階をみっつくらいふっとばして会話してるよね?」
女「…………ねっ?恐ろしいでしょう?あの年齢でふたりは阿吽の呼吸を極めているのよ」
友「なんなの?」
男『いただきます』
幼馴染『……………』モグモグ
男『……………』モグモグ
幼馴染『……………』モグモグ スッ
男『……………』パシ モグモグ
女「相変わらず無言の受け渡しが発生しているわね。ふたりとも無表情なのに、なんで男君が水を欲してるってわかったのかしら」モグモグ
友「もう僕は考えるの諦めた」モグモグ
女「今の二人の姿をクラスメイトが見たら、どんな反応するでしょうね」モグモグ
友「たぶん明日から、さん付けで呼ばれるんじゃないかな」
幼馴染『うん』モグモグ
男『今日の友さ』モグモグ
幼馴染『うん』モグモグ
男『………くくっ』モグモグ
幼馴染『ふふ』モグモグ
女「知らないわよ。あの会話を理解するのは不可能よ」ブランブラン
友「めっちゃ気になるじゃんかよぉぉー!!!なに二人の中で完結してんだよぉぉー!!!」ユサユサ
女「あああ、ゆらさないで、ゆらさないで」ブランブラン
男『……………』
幼馴染『……………』ジーッ
男『……………悪い』モグモグ
幼馴染『……………』モグモグ
女「なんなのよ」
友「ねえ、普通見つめるだけで注意をうながせる?ちゃんとご飯たべなさい、って見つめるだけで伝えられる?」
女「私にはムリね」
友「ほんとなんなの?」
男『ごちそうさまでした』
幼馴染『………………』カチャカチャ
男『………………』ボフッ
幼馴染『……………ん』サスサスポンポン
男『やるか?』
幼馴染『おねがい』サスサス
女「………たぶん家事により肩が凝ってしまった幼馴染に、男君が気付いて…………うーん…………そこからは………」
友「いまめちゃくちゃ頭振り絞って考えてるよね」
女「そうよ。あの二人の行動を理解する為には人智を超えた愛を理解する必要があるのよ」
友「HAHAHA」
男『………………』モミモミ
幼馴染『うえぁ』ニヤァ
男『………………』モミモミ
幼馴染『うひぃ』ニヤァ
男『………………』モミモミ
女「すごいわね男君。幼を膝にはさんで、的確に肩をもみほぐしながら、その視線はすべてテレビに注がれているわ」
友「幼馴染さん、めっさ気持ちよさそうな顔してる…………」
女「至福の表情ね。男君は完全に流れ作業だけど」
男『おう』
幼馴染『ふぅー』ボフゥン
男『!?』ビク
幼馴染『…………はぁ?』
男『…………………さすがに』
幼馴染『この』ギュー
男『わ、悪かった、悪かった!』
女「アレよ、幼が座ったら予想以上の反動がかえってきたから男君がびっくりしたのよ。で、そんな反応に怒った幼が男君をつねったと」
友「ああ、太ってないぞーってことね…………急にイチャつきだしたかと思った」
女「まあ、イチャついてるんでしょう」
友「そっか!じゃあ張り倒しに行こう!」
女「じっとしてなさい」
幼馴染『沸かしてないよ』
男『なんで』
幼馴染『たまには自分でいれて』
男『じゃあシャワーでいいや』スタスタ
幼馴染『………』トテトテ
男『なんで?』スタスタ
幼馴染『効率いいから』トテトテ
男『はいはい』スタスタ
女「ま、まさか………まさか、ふ、ふふ、ふたり一緒に……………」
友「女はピュアだなー。色気も何もない入浴シーンになると思うんだけどなー」
女「あんた、風呂場にまでカメラ仕掛けてないでしょうね!?」
友「ばっちりさ!」グッ
女「ダ、ダメよ!!ふたりがあがるまで、絶対見ちゃダメ!!」グイー
友「あーわかった、わかったよ。だからひっぱらないで、制服延びちゃう」
男『………』スタスタ
幼馴染『ふう』トテトテ
男『髪伸びた?』スタスタ
幼馴染『たぶん』トテトテ
男『そうか』ボフッ
幼馴染『うん』ボフゥン
男『………………』
幼馴染『……………』ゲシ
男『いてえ』
幼馴染『ふん』
女「………………クソ変態が」
友「てへっ!」
女「………………」
友「そんなに恥ずかしがることないって。あんまりこっち見ないでね………?ばっ、見てねえよ!、なんていうお決まりの展開一切なかったじゃん。ただただ無言。湯の跳ねる音のみ」
女「…………………はぁ」
幼馴染『…………』ピッ
男『一限目何だっけ』スタスタ
幼馴染『数Ⅱ』トテトテ
男『見せて』スタスタ
幼馴染『やだ』トテトテ
男『じゃあ怒られよっと』スタスタ
幼馴染『だめ。やって』トテトテ
女「課題じゃない?課題ちゃんとやってるかどうか、みたいな」
友「なるほどね!明日の数Ⅱ、課題出てたもんね!」
女「あんた、ちゃんとやった?」
友「やらなくても明日先生に怒られればいいだけだもーん」
女「まったく、ちゃんとやりなさいよ」
女「……………あっ」
友「………やばいやばいやばい!!はやくパソコン片づけて!!幼馴染さんが帰ってくる!!!」バタバタ
女「ちょ、ちょっと、このメカどうやって片づければいいのよ」ワタワタ
女「な、なんかカセット飛び出してきたわよ」ガシャコーン
友「それDVDプレイヤーだから!」バタバタ
女「ど、どうしよう………………ん?」
友「あああああ!」バタバタ
女「ちょっと、みて、ほら」
友「あああ…………え?」
幼馴染『…………ん』トテトテ ギュ
男『…………』スタスタ ポリポリ
幼馴染『…………どうする?』トテトテ ギュウ
男『…………once』スタスタ ギュ
幼馴染『…………うん』トテトテ
男『やっぱ夜通し』スタスタ ガバッ
幼馴染『わっ!…………もう』ギュウ
ガチャ…………
女「…………………う、うそ………え、えっ………」カァァァ
友「…………………帰ろっか、僕、涙が止まらないんだ」ツー
女「…………………えっ?あっ、そ、そうね……………」
友「もしかして続きみたい?」ツー
女「ばっ!?そ、そそそそそ、そそ、そんなわけないでしょうが!!!!」
友「もう夜中だから。そんな大声出すとふたりにばれるよ」ツー
女「うるさいっ!!帰るわよ!!!」
友「あー死にてえ」ツー
男「うーす」ガラガラ
ザワザワザワ………
男「んあ?なんで友のパソコンの周りにあつまってんの?」ノロノロ
男「えっ………?どうしたんだ急に……………」
「軽々しくお二人の関係をからかってしまった私は浅はかでした。深くお詫び申し上げます」
男「ははは、何だ?ごっこ遊びでもしてんのか?」
友「やあ男君!いや、男さん!おはよう!」
友「いやー昨晩おもしろい動画がとれてねー。みんな釘付けなんだー」
男「へー、俺にも見せて…………おぐっ」グイッ
幼馴染「あ、あううぅぅ………お、おとこぉぉ…………」グスグス
男「お、おぉ………珍しいな、お前が話しかけてくるなんて…………てかなんで泣いてんだよ、顔真っ赤だぞ」
女「男君」
男「ああ、女さん、なに?」
女「ごめん」
男「えっ…………」
『沸かしてないよ』
『なんで』
『たまには自分でいれて』
男「…………………」
友「いや昨日家に帰ってよくよく考えたんだけどね?やっぱりふたりの素晴らしい関係を僕と女さんだけが堪能するのはいかがなものかと思ってねー!」
男「…………………」
友「こういった次第なんだね!」
友「ごっめーん!DVDにたくさん焼いちゃったぁー!いやーおふたりには妬けるよ、焼くだけにぃ!」
男「必ず殺す」
友「てへっ」
女「大丈夫よ、男君。きわどい部分は削除させたから」ヒソヒソ
男「き、きわどい部分って…………ま、まさか………」ヒソヒソ
女「あ」ヒソヒソ
幼馴染「も、もうやめてよぉぉ………………」
「あっ、男さん。席かえておきましたので。どうぞ奥方の隣へお座りください」
男「い、いやもういいって…………」
「おらー何さわいでんだー。授業はじめっぞー」ガラガラ
「ん?男、なんで勝手に席変えてんだ。もどれ」
男「いやこいつらが勝手に………」
友「まあまあ先生、まずはこの動画をご覧くださいよ」
「あん?動画だとー?まったく最近の若い奴は軽くていかんなぁ、どれどれ」
…………
……………………
………(半年後)……………
友「善いですなぁ」
女「は?なんなの急に」
女「三学期がはじまったものね」
友「で、学期はじめといえば」
女「席替えね」
「お前強制的に前な」
「あぁぁぁあーん!!!」
友「席替え、いいよねえ。ワクワクするよね」
女「席替えやってるのウチのクラスだけだけどね」
友「今学期はよろしくね!隣の女さん!」
女「ほんと最悪だわ」ハァ
幼馴染「あうぅ……………」モジモジ
「あっ、男さん。いえいえ、ご夫妻はどうぞ後ろの窓際の特等席でかまいません。これはきちんと教員一同の賛同を得ておりますので、お気になさらず」
男「そういうことじゃないでしょ先生!!というかここ半年めちゃくちゃ慇懃になってません!?そういうのやめて!!」
「ははは、またまたぁ」
男「おい!!」
幼馴染「うぅぅ………はずかしい……………」
男「お前マジふざけんなよ。お前のせいで俺らどこに行ってもペア扱いなんだからな」
友「別に構わないだろう?それにほら、今回は僕らも隣にいることだしさ」
女「ほんとごめん」
男「ったくよー………ちゃかされたくないから、幼とは学校であんまり関わらないようにしてたのに………」
幼馴染「もうやだぁ……………ほんとにはずかしいよぉ……………」
男「まったく…………」ガタガタ
幼馴染「今日はどこからだっけ………」ガタガタ
「………………」
友「………………」
女「………………」
男「え?なに?」
男「え?いや、このほうが教えてもらいやすいし………」
幼馴染「私も教えやすいから……………」
女「…………もう隠す気もないのね」
友「先生ぇぇーーー!!!甘すぎてゲロ吐きそうなんですけどぉぉーー!!!どうにかしてくれませんかねぇえーー!!!」
「構わん。許可する」
友「あああああぁぁっぁーーー!!!」
幼馴染「?」
女「はぁ………まったく」
友「あーあ、やっぱり男と幼馴染さんは」
友「男と幼馴染さんは熟年夫婦の域に達している」 おわり
短く読みやすい文章でちょうどいい