課長「なんだね?」
女「赤ちゃんが産まれそうなんで産休ください!」
課長「いいよ!」
女「サンキュー!」
課長「どうかしたかね?」
女「お、お腹が……! 陣痛が始まったのかも……!」
同僚「マジかよ!?」
後輩女「大丈夫ですか!」
課長「すぐ横になりなさい!」
女「サンキュー!」
後輩女「はい、ベッドかなにかに寝かせてあげないと……」
課長「……そうだ!」
課長「みんなの机の上の物を片付けて、机を寄せ集めて、ベッドを作るんだ!」
同僚「課長、ナイスアイディア!」
女「サンキュー!」
課長「どうだね?」
女「やっぱり机だと硬くて……」
課長「そりゃそうだ」
後輩女「もっとちゃんとしたベッドに寝かせないとまずいですよ! うまく出産できないかも……」
課長「しかし、うちの会社は医務室などないし……」
同僚「あ、だったら社長室のソファがいいんじゃないですか? あれでかいし、フカフカだし!」
課長「失礼します」
社長「おや、どうしたのかね?」
課長「実はうちの課の女性社員が出産しそうでして、社長室のソファをお借りしたいのですが」
同僚「お願いします!」
後輩女「お願いします!」
社長「それは大変だ! すぐソファに寝かせたまえ!」
女「サンキュー!」
同僚「さすが社長のソファだ! ぐっすり眠ってるぜ!」
後輩女「ひとまず落ち着きましたね」
社長「ここで産むのかね?」
課長「ええ、そうするしかないでしょう」
同僚「俺、出産見るなんてはじめてだ! ワクワクするぅ!」
後輩女「あたしも!」
同僚「俺もいつか誰かを出産させてえなぁ」
後輩女「あたしもいつか誰かに出産させてもらいたいなぁ」チラッチラッ
同僚「?」
課長「赤ちゃんが産まれた時のために、ミルクを買ってこよう!」
同僚「だったら俺はガラガラを買ってきます!」
後輩女「あたしは絵本!」
社長「何をいっているッ!!!」
三人「!」ビクッ
社長「まだ赤ん坊は産まれていないのに、産まれた後のことばかり考えてどうする!?」
社長「今もっともすべきことは、母体を案じ、出産を成功させることだろうが!」
課長「さすが社長……おっしゃる通り。では我々は一体なにをすべきでしょう?」
社長「安産のお守りを買ってくるのだ!」
同僚「俺は20個!」
後輩女「あたしは10個!」
社長「ワシは40個!」
社長「さあ、彼女の体に安産のお守りを散りばめるのだ! 棺に眠る遺体に花を供えるが如く!」
ドッサリ…
女「サンキュー!」
女「また痛みが……鋭い痛みが押し寄せてきた……!」
社長「おおっ、さっそくお守りの効果が出たようだ! 安産間違いなし!」
同僚「でも尋常じゃない痛がり方ですよ!?」
後輩女「なにかアドバイスしてあげないと……」
課長「ラマーズ法だ! ヒッヒッフーと呼吸するんだ!」
女「ヒッヒッフー!」
女「うううっ……うああああっ……!」
課長「ダメだ……ラマーズが通用しない!」
同僚「マジかよ……! あのラマーズがやられるなんて……!」
後輩女「ラマーズさんっ……!」
社長「こうなったらみんなで手を握るのだ! 絆の力で乗り切るのだ!」
後輩女「先輩、頑張ってっ!」
ギュッ ギュッ ギュッ ギュッ
女「サンキュー!」
女「あ、あな……た……」
課長「ん? 今ぼそりと何か呟いたぞ」
同僚「“あなた”って言ってましたけど……」
後輩女「今が一番苦しい時です! 旦那さんが恋しいんですよ!」
女「あな……た……」
社長「こうなったら旦那を連れてくるしかないようだな」
課長「我が社よりも遥かに大きい企業で、商社マンをしているとか……」
課長「高学歴で英語ペラペラ、将来有望、まさにエリートを絵に描いたような人物です」
同僚「商社マンで英語ペラペラってことは海外勤務もあるでしょう? 今日本にいるんですか?」
課長「今は日本にいると聞いたことがある」
後輩女「よーし、さっそく旦那さんを連れてきましょう!」
女「……あな、た……」
夫「……妻が出産を?」
課長「ええ、ですからすぐ奥さんの元へ」
夫「どうして?」
課長「!」
夫「今時の医療は進歩が進んでいます。母体や赤子が死ぬことなんて滅多にありませんよ」
夫「それに今の私はこの通り多忙でね。出産に立ち会ってる余裕なんかないんです」
同僚「……なんだと」
夫「もちろん、大事ですよ。しかし、今ここで妻のもとに駆けつけるというのは余りにも合理性に欠けた判断だ」
夫「それに私が駆けつけたところで、何ができるというんです? せいぜい励ますことぐらい」
夫「私が励ましたところで、妻や子の生存率が上がることなんてないでしょう。安っぽいドラマじゃあるまいし」
夫「分かったなら、とっととお引き取り下さい。わざわざご苦労様でした」
同僚「こ、この……ッ!」
後輩女「でやァ!!!」ドゴッ!
課長「オラァ!!!」ドガァッ!
社長「ワシも」ボグシャッ!
4HIT COMBO!
夫「あ、あうぅぅ……」
夫「フッ、おかげで目が覚めましたよ……皆さん」
夫「フェンキュー!」
夫「大丈夫か!?」
女「あ、あなた……」
夫「しっかりしろ、エリート商社マンである私がついてる」ギュッ
女「うん……」
同僚「おおっ、旦那が手を握った瞬間、呼吸が落ち着いた!」
後輩女「痛みも引いたみたいですね!」
課長「不思議なものだ……」
社長「これが愛(LOVE)!」
女「産まれるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!」
スッポーンッ!
女「う、産まれた……」
夫「よくやった! よくやったぞ!」
課長「おめでとう!」
同僚「やったな!」
後輩女「おめでとうございます!」
社長「おめでとう……!」
パチパチパチパチパチ…
女「サンキュー!」
夫「どうした?」
女「赤ちゃんが……みんなになにか言いたいみたい」
赤ちゃん「サ、サ、サ……」
赤ちゃん「サンキュー……」
同僚「すげえ!」
後輩女「もう英語喋っちゃった!」
課長「きっと父親に似たんだろうねえ」
社長「将来有望じゃないか! アッハッハ!」
女「今日は会社に赤ちゃんを連れてきました」
赤ちゃん「ばぶ、ばぶ」
同僚「おー、可愛い! 俺もいつかこんな赤ちゃんが欲しいなぁ!」
後輩女「あたしもです! 同僚さん!」チラッチラッ
同僚「?」
課長「賢そうなお子さんだ。幼いうちから教育すれば、ものすごい子になるかもしれんよ」
女「ええ、ですから……」
同僚「マジで!?」
後輩女「英検って生後半年でも受けられるんですね!」
課長「ほぉ~、坊や。いったい何級に合格したんだい?」
赤ちゃん「三級!」
おわり