店長「それじゃあ、明日から来てもらおうかな」
店長「ようこそ、LAWSONへ。よろしくね……」
店長「お嬢様ちゃん」
お嬢様「ええ、よろしくお願いしますわ!」
ギィ
お嬢様「……」フフン
店長「あ、お嬢様ちゃん」
店長「まずはこれに着替えてもらえるかな」
お嬢様「? 何ですの? この安そうな服は……?」
店長「制服だよ」
お嬢様「……」
お嬢様(専属のブランド会社にでも特注品を頼んでおこうかしら)
店長「男くーん」
男「うぃーす」
店長「この子が、今日から入るお嬢様ちゃん。掃除教えてあげて」
男「うぃーす」
男「よろしく」
お嬢様「え、ええ」
お嬢様(貧乏人の香りがひしひしとしていますわね。何故私の前でこんなに無気力なのかしら)
お嬢様「…………?」
男「?」
お嬢様「鍵とホウキが要るんでしょう? 何故持っていかないの?」
男「持って行くけど?」
お嬢様「……? いや、でもあなた、持ってないじゃないの」
男「は?」
男「うん。持って?」
お嬢様「はあ!?」
男「当たり前じゃん、早く行くよ」
お嬢様「わ、私が持つんですの……!? こんな安物を……!? それも、私が……!?」
男「んでー」
お嬢様「ちょ、ちょっと待ってくださいましー!」
お嬢様「な、何で私がこんな……!」
お嬢様(袖に缶から出た汁が……! 手を濡らしてしまいましたわ……! 挙げ句に……!)
お嬢様(お客に私が、この私が敬語を使うことを強制されるだなんて……屈辱……!!)
お嬢様(それも、全部この男とかいう貧乏人のせいですわ! この私をこんな目にあわせて、後悔させてやりますわ!)
男「てんちょー終わりゃっしたよ」
店長「うん、ありがとう。じゃ、次はトイレ掃除教えたげて」
お嬢様「!?」
男「うぃーす」
お嬢様「……」ゲッソリ
お嬢様「く、臭かったですわ……。どうなっているんですの……うちのお手洗いはもっと……」
男「レジ行くからついてきて、教えっから」
お嬢様「ま、まだ何かやるんですの……!?」
男「まあレジ打ちバイトだし」
お嬢様「……」
男「出来ねー?」
お嬢様「は!?」
お嬢様「私に出来ない事なんてありませんわ! 何もしないで見てなさい庶民!」
男「袋詰めはやるって」
店長「あはは」
客中学生「……」
男「シャッセー」
お嬢様「い、いらっしゃいませですわ!」
客中学生「あー……Lチキ下さい」
お嬢様「Lチキ……、Lチキって、この鶏肉ですの!?」
客中学生「えっ、えっ?」
お嬢様「ペットの餌にしても、もっと良いものがあ」
グイッ
お嬢様「きゃっ……」
店長「お客様、大変失礼致しました。お代は結構です。宜しければ好きなだけ御注文をお願い致します」
客中学生「えっ……ほんとに!? じゃ、じゃあからあげくんも……!」
男「お待たせ致しました。商品になります」
客中学生「ほんとにタダでいいの!? ラッキー、えへへ!」
店長、男「ありがとうございました! またお越し下さいませ!!」
お嬢様「ちょ、ちょっと……! 今私の服を引っ張」
男「……」
店長「君は、社会勉強のためにうちのバイトを受けてくれたんだよね」
お嬢様「え、ええ」
お嬢様「お父様が学生時代こんびにえんすすとあ……? で働いていた事を、良い経験だったと仰っていましたから……」
店長「なら、店のルールには従って欲しい。面接の時も言ったよね、お客様第一だって」
お嬢様「で、でも」
店長「君からどんな風に見えていても、店にとっては大事なお客様なんだ」
店長「今日のシフト中は、僕たちの接客を見学しててもらえないかな」
店長「お客様に対する態度が今のままじゃ、続けてもらうのは難しいから」
お嬢様「……」
お嬢様(こんなの、おかしいですわ)
お嬢様(『株式会社世界的産業社』の令嬢である私が、こんな扱いを受けるだなんて……!)
お嬢様(こんな思いをするくらいなら、アルバイトがしてみたいだなんて言うんじゃなかった)
お嬢様「……」グスン
店長「シフト交代の時間だね、今日もありがとう、男くん」
男「うぃす」
男「……? あいつは?」
店長「もう帰ったよ」
男「危うく問題になるとこでしたね。あれなら大丈夫そうっスけど」
店長「……」
男「ったく、これだからお金持ちの嬢ちゃんってやつは」
店長「……まあまあ」
店長「見守ってあげようよ、ね」
男「……反省して、バイト続けるようなら別にいいっスけど」
メイド「おかえりなさいませ。お嬢様」
お嬢様「……」
メイド「辛いことがあったんですね」
お嬢様「な、なんでわかるんですの!?」
メイド「わかりますよ。お嬢様の事なら何でも」
お嬢様「……かないませんわね」
メイド「ふふ。コンビニエンスストアでしたよね」
メイド「行ってみましょう。お嬢様」
お嬢様「……? 今からですの?」
メイド「こちらの、ミネラルウォーターと……Lチキをお願いします」
お嬢様「……」
店員「畏まりました。ポイントカードはお持ちですか?」
メイド「いえ。有りません」
店員「では、268円のお買い上げになります」
メイド「カード払いでお願いします」
店員「有難う御座います。有り難う御座いました、またいらっしゃいませ」
メイド「有難う御座います」
お嬢様「……」
お嬢様「何が、ですの」
メイド「丁寧な接客を実際に、受けてみて。です」
お嬢様「……」
メイド「悪い気持ちにはなりませんよね?」
お嬢様「え、ええ。でも、そんなの私が令嬢であるから当たり前……」
メイド「私は平凡な一市民です。ですが、彼はあんなにも丁寧に接客してくれましたよ」
お嬢様「!」
メイド「……」
メイド「食べてみますか、Lチキ」
お嬢様「……」はむっ
お嬢様「……勿論、シェフの作るステーキには劣りますが……」
お嬢様「これで、あのお値段……」
メイド「あまり健康的ではありません。くれぐれも、ご主人様には御内密にお願いしますね、お嬢様」
お嬢様「……わかってますわ」
お嬢様「……」
お嬢様「……っ」
お嬢様「やってやりますわよ! こんなもので辞めるだなんて、世界的産業の令嬢には有り得ませんわ!」
メイド「ふふ」
メイド(お嬢様、頑張ってくださいね)
男「シャッセーぇ……え」
店長「おや」
お嬢様「……っ」
お嬢様「わ……私も」
お嬢様「頑張ります、から……仕事を、教えて……ください、まし」
店長「……」
店長「よーし!」
お嬢様「!」
店長「昨日教えてもらった通りにやってみてくれるかな」
店長「わからない事があったら聞いてね」
お嬢様「……っ」
お嬢様「は、はい!」
…
男「じゃ、教えた通り。次の客から一人でな」
お嬢様「わ、わかりましたわ」
男「シャッセー」
お嬢様「い、いらっしゃいませですわ!!」
客「これ、お願いします」
お嬢様「いらっしゃいませですわ! あ、お、お預かり致しますわ!」
…
お嬢様「……」
メイド「おかえりなさいませ。お嬢様」
メイド「如何でしたか。アルバイトの方は」
お嬢様「……っ」
お嬢様「私……、私! 出来ましたわ! こんびにの、接客!!」
お嬢様「見なさい! この、かんこーひー? とかいうもの! 店長が買ってくれたんですの!」
お嬢様「有り難うって! 改めてようこそって! うふふっ」
メイド「良かったですね。お嬢様」
店長「シフト交代だよ、男くん」
男「うぃーす」
店長「どう見えたかな」
男「……ま、覚えは早いんじゃないっすかね」
男「はらはらする場面もありましたが」
男「ただし今日はあの客も来なかったし。今からでしょ」
店長「そうだね。このエリアを震撼させ、全五店舗合計24名のバイト辞職。エリア全域での人手不足の発生源となった名クレーマー……」
店長「”怒鳴投夫”様が、ね……」