敵兵「ぐわぁっ!」
新兵「もう一発発射!」パンッ
敵兵「ぐおおっ……! いでええええ……!」
ベテラン兵「!」ハッ
ベテラン兵「おい、何をやっている!」
ベテラン兵「とっととトドメを刺せ! なんなら俺が……」
新兵「殺せない……」
ベテラン兵「なに?」
新兵「こ、殺せませんっ……!」
新兵「もっと、もっと……いたぶってやりたいんです!」
ベテラン兵(こいつ……!)
敵兵「う、ああ……」
新兵「待って! 待って下さい! もっと苦しむところを見たい!」
敵兵「ひ、ひいい……」
新兵「そうだ! 一度手当てして――」
ベテラン兵「動脈からこんなに出血してたら、もう手遅れだ!」
ベテラン兵「どけっ! 俺がやる!」チャキッ
ガガガガガガッ…
新兵「うああ……」
新兵「うわあああ~~~~~~~~っ!!!」
新兵「もっと苦しむところを見たかったのに……」
ベテラン兵「……」
ベテラン兵「新入りっ!!!」
新兵「は、はいっ!」
ベテラン兵「どうやらお前は教育し直す必要があるようだな」
ベテラン兵「病院だ」
新兵「僕はケガなんてしてませんけど」
ベテラン兵「治療で訪れたわけじゃない。ここには大勢の負傷兵がいる」
ベテラン兵「彼らを見て、自分が何をすべきか学ぶがいい」
新兵「は、はい……」
新兵「……!」
新兵「この人……片足が……」
ベテラン兵「すまないが、なぜそうなったのか説明してやってくれないか」
負傷兵A「新人の教育か? ハハ、いいとも」
負傷兵A「うっかり地雷を踏んじまってな……このザマだ」
負傷兵A「ま、両足がなくならなかっただけマシだよ! アッハッハ!」
新兵「……」
負傷兵B「手榴弾投げる時にミスっちまってな」
負傷兵B「ピンを抜いてどこに投げるか迷ってたら爆発して……こうなっちまった」
負傷兵B「信じられないような凡ミスだが、油断するとこういうことも起こる」
新兵「なんてことだ……」
ベテラン兵「さ、次へ行くぞ」
ベテラン兵「次の奴は……もっとひどいケガをしている」
新兵「もっと……?」
ベテラン兵「おい、そんな声を出すな」
負傷兵C「いいさいいさ。もう慣れてる」
新兵「いったいどうして……」
負傷兵C「激しい銃撃戦が繰り広げられてる時に、うっかり頭を出しちまったのさ」
負傷兵C「そしたら思いっきり流れ弾を浴びちまった」
負傷兵C「幸い、脳の大事な部分は損傷してなかったからな」
負傷兵C「あと……やっぱり医者の腕がよかったってのもある」
負傷兵C「医学の進歩ってのはすごいもんだ。こんな状態の俺でも生かすことができるんだからな」
ベテラン兵「貴重なお話をありがとう。参考になったよ」
新兵「医学の進歩……か」
ベテラン兵「負傷兵たちの話を聞いて、何か感じることはあったか?」
新兵「は、はいっ! ありました!」
新兵「戦争の悲惨さが分かりましたし……そしてなにより医学ってすごいなって」
新兵「あんな重傷を負った人たちだって、助けることができるんですから!」
ベテラン兵「たしかにな」
ベテラン兵「医学が進歩したからこそ、彼らは命を拾うことができたんだ」
新兵「はいっ! なので僕……」
ベテラン兵「ほう、医学を……」
新兵「兵士をやりながら、医学を学ぶ方法はないでしょうか?」
ベテラン兵「うーん、ないこともない」
新兵「え?」
ベテラン兵「それに参加すれば、付け焼刃ではあるが医学を身につけることができるだろう」
新兵「分かりました! その講座に参加して、医学を身につけてみせます!」
ベテラン兵「うむ、頼んだぞ」
――――
――
軍医「この中で損傷すると回復が難しい臓器は……」
軍医「逆に、損傷してもさほど問題のない箇所は……」
新兵「ふむふむ、なるほど……」カリカリ
新兵(今まで自分がどれだけ人体に無知だったかがよく分かる……)
新兵(しっかり勉強するぞ!)
軍医「よく質問にも来ますし、非常に熱心に講義を受けてくれてますよ」
ベテラン兵「そうですか。それはよかった」
軍医「講義を修了する頃には、きっとめざましいほどの医学知識を身につけていることでしょう」
ベテラン兵「ええ、そうなってくれることを祈りますよ」
ベテラン兵「今日から戦線に復帰か。少し顔つきが変わったな」
新兵「ええ、講義のおかげで人体のなんたるかを学ぶことができました!」
ベテラン兵「よし……では前と同じように俺と組んで、戦場に出るぞ!」
ベテラン兵「身に付けた医学をフル活用してくれよ!」
新兵「分かりました!」
ガガガガガガ… ガガガガガガ…
パンッ パンッ パンッ
ベテラン兵「我が軍が押しているようだな……」
ベテラン兵「ん!」
敵兵士「ひいいっ……!」タタタタタッ
ベテラン兵「お前はあの敵兵を追え! 他の部隊と連絡を取られたらかなわん!」
新兵「はいっ!」タタタッ
ベテラン兵(ん、この音は……)
ザクッ… ドシュッ… サクッ…
新兵「次はこの血管だ……」ザシュッ
敵兵士「あぎゃぁぁぁぁぁ……! こ、殺してくれぇ……」
新兵「まだまだ……まだまだ死なせないし、殺さないよ……」
新兵「次はここを銃で撃とうか。痛みが強烈なわりに、命に関わることはないから」パンッ
敵兵士「うぎゃあああああああっ!!!」
ベテラン兵「!」ハッ
ベテラン兵「おい、何をやっている!」
新兵「こんな状態になっても、まだ生きてるんですよ! これはもはや作品といっていい!」
ベテラン兵「貴様……!」
新兵「これも医学を学んだおかげですよ!」
新兵「とはいえ、そろそろ死んじゃいそうですけどね。僕もまだまだ勉強不足だな」
新兵「もっと経験を積まないと……」
敵兵士「あ、あ、あうっ……」ビクッビクッ
新兵「ああっ、僕の作品がぁ~っ!!!」
兵士A「……」
兵士A「相変わらずだな、あいつは……ヘドが出る」
兵士B「ええ、あの新入りは根っからのサディストです。頭がおかしいんですよ」
兵士A「戦場に出たばかりの新兵が、サディズムに目覚めてしまうってのはまだ理解できる」
兵士A「人間誰しもああいう残虐性を心に秘めてるからな」
兵士B「へ?」
兵士A「本当におかしいのはな、あのベテランの方だよ」
兵士B「ど、どういうことですか?」
兵士A「あいつがなぜ、あの新入りに目を付け、教育に乗り出したか分かるか?」
兵士B「そりゃもちろん、あの新入りのイカレっぷりを矯正するため――」
兵士A「そうじゃないんだ」
兵士A「負傷兵を見せて嗜虐心を煽り、進んで医学知識を学ばせることによってな」
兵士B「あの人が……!?」
兵士B「どうしてそんなことを……?」
兵士A「なぜなら、あいつは……」
兵士A「他人が生きるか死ぬかの極限までいたぶった敵にトドメを刺すことに、快楽を覚える人間だからだ」
終
楽しめた