会長「今日の試合……青の選手を勝たせてもらいたい」
レフェリー「は?」
会長「君が試合を操作して、青い方の選手を勝たせろといっているのだ」
レフェリー「……!」
レフェリー「お断りします! 私は公平に審判をしたいのです!」
会長「やらねば……君は二度とボクシングに関われなくなるぞ? それでもいいのか?」
レフェリー「くっ……!」
レフェリー「分かりました……やります」
ワァァァ……!
実況『さぁ、両選手入場しました! いよいよ試合開始です!』
赤選手「……」
青選手「よっしゃあ!」
レフェリー(青い方を勝たせなきゃならないわけか……)
レフェリー(まあ、判定までもつれ込めば勝敗はどうとでもなる……やるしかない!)
レフェリー「ファイッ!」
赤選手「ふんっ!」バキッ
青選手「ぐはっ!」ドサッ
ワァァァ……!
レフェリー「はやっ!」
レフェリー「ワ~ン……ツゥ~……」
レフェリー(早く立てよ!)
レフェリー「スリィ~……」
レフェリー(ゆっくり数えてやってんだから早くしろよ!)
青選手「ぐぐぐ……」ムクッ
実況『青選手、どうにか立ち上がりました! 試合再開です!』
ワァァァ……!
青選手「ぐぎゃ!」ドサッ
レフェリー「またかよ!」
レフェリー「オラ、立て! スリップってことにしてやるから!」ガシッ
青選手「す、すみません……」
レフェリー(ダメだ、実力差がありすぎる……このままじゃ絶対勝てないな……)
実況『レフェリーがストップをかけました!』
レフェリー「いいか? あいつはジャブを連打した後に大振りストレートを打つ癖がある」
レフェリー「そこを狙え! カウンターするんだ! そうすりゃ勝てる!」
青選手「分かりました!」
レフェリー(ふぅ、こんだけ具体的にアドバイスしてやればさすがに勝てるだろ……)
青選手「ぐはぁ!」ドサッ
レフェリー「ジャブすら耐えられねえのか!」
レフェリー(うーん……この青い奴、基礎スペックが低すぎるよ……)
青選手「はい?」
レフェリー「これ飲め」
青選手「これは?」
レフェリー「口から飲むタイプのドーピング剤だ。しかもすぐに効く」
青選手「こりゃどうも!」グビッ
青選手「うおおおおおおおおおおおおおっ!」ムキムキッ
青選手「こりゃすごい! 勝てる、勝てるぜぇぇぇ!」
実況『青選手の肉体が、いきなり膨れ上がったぁぁぁぁぁっ!!!』
オォォォ……!
青選手「ぎゃばっ!」ドサッ
レフェリー「ドーピングしてもダメかよ!」
レフェリー(やっぱりこの豆腐みたいな防御力をどうにかしないと……)
レフェリー(だったら……)
青選手「これは?」
レフェリー「鋼鉄の甲冑だ。これをつければ、どんなパンチもノーダメだ」
青選手「ありがとうございます!」
青選手「さぁ、かかってこい!」ガションガション
赤選手「……」
ボゴォッ!
実況『赤選手のストレートが鎧を貫通したぁ!』
青選手「バカな……鋼鉄をブチ抜くパンチなんて……!」ガクッ
レフェリー「これでもダメなのかよ!」
レフェリー(防御力を高めても無駄なら攻撃力だ! 攻撃力を上げるしかない!)
青選手「これは?」
レフェリー「マシンガンだ」
青選手「おおっ!」
レフェリー「こいつであのレッド野郎を血まみれのハチの巣にしてやれ!」
青選手「はいっ!」
赤選手「……」キキキキキキキキンッ
青選手「き、効かない!? ――ああっ、弾切れだ!」
赤選手「ふんっ!」ボゴッ
青選手「がべぇっ!」ドサッ
レフェリー(なんて鍛え方してやがる……マシンガンが通用しないとは!)
青選手「いでで……」
レフェリー「だらしねえ! 何やってやがる!」
青選手「だってあいつ強すぎるんですもん……」
レフェリー「ええい、こうなったら私があいつを戦闘不能にしてやる!」
レフェリー「おい、特製スポーツドリンクだ、飲め」
赤選手「どうも」グビグビ
レフェリー(ククク、青酸カリをたっぷり混ぜたドリンクだ……くたばれ!)
赤選手「ふんっ!」ガゴッ
青選手「ぐわっ!」ドサッ
レフェリー「毒も効かねえのかよ!」
青選手「も、もうギブアップします……」
レフェリー「ふざけんな! 私は絶対お前を勝たせるんだ! ほら立て!」グイッ
青選手「う、ううう……もうやだ……」
レフェリー「立て、立つんだ! ほら、行けっ!」ドンッ
青選手「あうぅ……」ドサッ…
実況『……おや?』
実況『青選手、白目をむいて、ピクリとも動きません!』
ザワザワ… ドヨドヨ…
レフェリー「……あれ? ひょっとして……死んじゃった?」
青選手「……」
レフェリー(心臓も呼吸も止まってる……。どうしよう、リング禍になっちゃう……)
レフェリー「だが、大丈夫! こんな時のために私は黒魔術を会得している!」
レフェリー「エロイムエッサイム! 悪魔よ、青選手を蘇らせたまえ!」ムワァァァ…
青選手「うおおおおおおっ!」シャキーンッ
実況『青選手、生き返ったーっ!』
ワァァァ……!
悪魔「見返りに、お前の魂をもらうぞ」
レフェリー「やるわけねえだろ」
悪魔「ひどい!」
青選手「げばぁっ!」ドサッ
レフェリー「あー、また死んだ。悪魔、頼むわ」
悪魔「はいはい」
レフェリー(ダメだこれ……もう何やっても勝てる気がしねえ)
レフェリー「タッチしろ!」
青選手「は、はいっ!」パシッ
実況『おーっと、ここで青選手とレフェリーが選手交代!』
ワァァァ……!
レフェリー「赤いの……私が相手をしてやろう」
赤選手「ふん、レフェリーが俺の相手になるとでも?」
レフェリー「相手になるかどうか、これを見て判断するんだな」
ドゴォンッ!!!
実況『レフェリーの一撃で、リングが粉砕されたぁ! なんというパワーだ!』
ワァァァ……!
レフェリー「不服かな?」
赤選手「面白い……! 青選手では少々物足りなかったところだ……殴り合おうじゃないか!」
ズガガガガガガッ!
赤選手「ぐあああっ……! なんのカウンター!」
ドゴォッ!!!
レフェリー「ぐうっ!」ヨロッ…
レフェリー「やるな……」
赤選手「お前こそ……」
バキィッ! ドゴォッ! ベキィッ!
実況『す、凄まじい! 凄まじい技の応酬です! なんと実況しがいのある二人組でしょうか!』
ワアアァァァァァ……!
会長「何をやってるんだ、あのレフェリーは! 今すぐクビにしてやる!」
青選手「待ってくれ、父さん!」
会長「!」
青選手「見てくれよ、あの殴り合ってる二人の真剣な表情を!」
会長(なんと美しい……)
青選手「父さん、これがボクシングなんだ!」
青選手「四角いリングは贔屓なんかで汚しちゃいけない聖域なんだよ! さっき壊れたけど!」
会長「そうだな……その通りだ」
レフェリー「うおおおおおおおっ!!!」
赤選手「がああああああああっ!!!」
二人はいつまでも戦い続けた……。
いつまでも、いつまでも……。
実況『いよいよ世界タイトルに挑む挑戦者!』
実況『セコンドには、元レフェリーという異色の経歴を持つトレーナーが控えています!』
実況『ちなみに、かつて二人はリングを壊すような死闘を演じたことがあります!』
トレーナー「思い切り戦ってこい! 持ってるものを全部出すんだ!」
ボクサー「ああ! 必ずベルトを獲ってみせる!」
漫画家『ボクシング協会の会長である父さんは、あの二人のおかげで目を覚ましたんです』
漫画家『あの二人を題材にした漫画……いずれぜひ描きたいですね!』
実況『さぁ、試合が始まったーっ!』
カーンッ!
~END~
レフェリーって大変なんだな…