弁護士(こいつが……五人を殺害した凶悪な殺人犯、か)
殺人犯「おっ、あんたがオレの弁護士!? よろしくゥ!」
弁護士「ど、どうも」
弁護士「えぇと……今の心境はいかがですか?」
殺人犯「ヒャッハーッ! 殺しは最高だぜェェェ!」
弁護士(ハァ……こんな奴弁護すんのかよ……)
殺人犯「オッケーイ!」
殺人犯「裁判所でも、オレのナイフが芸術を生むぜェ!」
弁護士「芸術?」
殺人犯「殺しという名の……芸術よォ! ヤッホウ!」
弁護士「裁判所に入る前に金属探知機でチェックされますから、ナイフなんか持ち込めませんよ」
ワイワイ… ガヤガヤ…
裁判長「これより、先日発生した五名もの人命が奪われた殺人事件の裁判を開始します」
検事「検察側、準備は整っております」
弁護士(あれが敏腕とウワサの検事か……なかなかイケメンで、手強そうだな)
殺人犯「ヒャッハーッ!」シャキーンッ
弁護士「ちょっ、お前ナイフ持ってきてたのかよ!?」
弁護士「バカ、ナイフしまえって!」
殺人犯「ヒャッハーッ! これがオレの使った凶器だぜェ!」
弁護士「余計なことしゃべんな!」
弁護士「裁判長の心証が落ちちゃうじゃないか!」
裁判長「こりゃ死刑かな……」
弁護士「ほらーっ!」
殺人犯「ヒャッハーッ!」
検事「はい」
検事「被告人は五人を殺害するという重大な事件を起こしました」
検事「これは……許されることではありません」
検事「よって……懲役5年を求刑します!」
ザワッ…
弁護士(……ん? 意外と甘いな……ラッキー!)
検事「!」
殺人犯「なぁにビビってやがる! オレは死刑だ! 死刑にしろやァァァァァ!」
検事「被告人に……死刑を求刑します!」
裁判長「分かりました」
弁護士「な……!」
弁護士「お前、なに自分で刑を重くしてんだよぉっ!」
殺人犯「ヒャッハーッ!」
弁護士「そ、そうですね……」
弁護士(この状況から、被告人を無罪にするには……)
弁護士(伝家の宝刀、心身喪失! ……これっきゃない!)
弁護士「申し上げます」
裁判長「どうぞ」
弁護士「ご覧の通り、被告人は常識がありません! はっきりいって頭がおかしいです!」
弁護士「いわゆる心身喪失状態だったのです!」
弁護士「つまり、責任能力は問えません! よって無罪なのです!」
オオッ… パチパチパチ…
裁判長「なるほど、一理ありますね」
弁護士(……よし! 勝訴いただき!)
裁判長「被告人、あなたに責任能力はありますか?」
殺人犯「はい、有しています」
弁護士「!?」
殺人犯「心身喪失ではなく、紛れもなく自分の意志で殺人を行いました」
裁判長「そうですか、ありがとうございます」
弁護士「なにやってんだ、てめぇぇぇ!!!」
殺人犯「ヒャオ!」
弁護士「ヒャオじゃねーよ!」
弁護士「そうだ! 精神鑑定! 今すぐ精神鑑定してくれ!」
検事「では、この≪精神力スカウター≫で鑑定を行いましょう」
弁護士「精神力スカウター?」
検事「これを片目につけてスイッチを押すと、対象の精神力を計測することができます」
オオッ…
検事「ちなみに一般的な成人の精神力は1000といわれてます」
弁護士「へぇ~、面白そう!」
弁護士「そうだ、せっかくだし、みんなの精神力を計ってみてくれよ!」
検事:1800
裁判長:650
ザワザワ…
検事「だいたいこんなところでしょうか」
弁護士「よかった……平均以上だった」
裁判長「……」
検事「では、被告人を計測しましょう」
弁護士「待て! 俺がやる! イカサマされたら困るからな!」
弁護士「ええと、これを押せばいいんだな?」カチッ
弁護士「どれどれ……」ピピピ…
弁護士「精神力、100750……!?」
検事「きゃっ……すごい……!」
裁判長「なんと、私の155倍とは……」
オオッ…
裁判長「これで、心身喪失や精神異常のセンは完全になくなったようですね」
弁護士「くっ……!」
弁護士(どうすれば……どうすればいいんだ!)ガンッ
殺人犯「ヒャッハーッ!」
弁護士「そ、そうだ! きっと被告人に計画性や殺意はなかったんだ!」
弁護士「だから、これは殺人じゃなく過失致死です!」
裁判長「おっ、そうきましたか」
パチパチパチ…
殺人犯「ヒャオ! 残念だったな、オレは殺意まみれだったぜェェェェェ!」
殺人犯「このナイフが何よりの証拠よォォォォォ!」クルクルッ
弁護士「黙りやがれ!」
弁護士「ええい、そのナイフ貸せ! ブッ殺してやる!」バッ
殺人犯「うわっ!」
弁護士「……!?」ニギッ
弁護士「なんだ、このナイフ……」
弁護士「プラスチックじゃねーか!!!」
殺人犯「し、しまった!」
弁護士(おかしいと思った……! どうりで裁判所に持ち込めたわけだ……!)
弁護士(この殺人犯の行動、さっきからイカれてるようで、実は筋は通ってる!)
弁護士「もしかしてお前……」
殺人犯「ヒャオ!?」
弁護士「実は……正当防衛なんじゃないのか?」
殺人犯「!」ギクッ
弁護士(今、露骨な反応したよな……)
弁護士「死んだ五人は超がつくような極悪人だったとか……?」
殺人犯「!」ギクギクッ
弁護士(え、もしかして当たっちゃってる……?)
弁護士「そうか、お前!」
弁護士「本当は正当防衛だったのに、殺意ありまくりだったことを演出するために」
弁護士「わざとプラスチックのナイフなんか持ち歩いてたのか!」
殺人犯「!」ギクギクギクッ
弁護士(効いてる効いてる!)
弁護士「なんだ」
殺人犯「あんたの推理……はっきりいってメチャクチャでチグハグだ!」
弁護士「さっきからギクギクいってる奴にいわれたくねえよ」
殺人犯「だ、だって、よく考えてみて欲しい」
殺人犯「もしオレが正当防衛だったり死んだ五人が極悪人だったら……」
殺人犯「オレがそう主張するはずだろうがッ!」
裁判長「その通りです!」
裁判長「これではまるで、この被告人は死刑になりたいみたいじゃないですか!」
弁護士「……」
裁判長「え」
弁護士「この被告人は死刑になりたかったんですよ」
裁判長「な、なぜ!? 自殺願望があったんですか!? 悩みがあるなら私に相談を……」
弁護士「いいえ……この被告人はある人間をかばっているのです!」
裁判長「一体誰を!?」
弁護士「そういえばさっき、なぜかこの被告人を助けようとした人がいましたね……」
裁判長「いたっけ?」
弁護士「五人も殺した殺人犯に軽い求刑しかしなかった――検事さん、あなたですよ!」
検事「……!」
ザワザワ…
弁護士「あなたが実は女性だと確信しました」
検事「ううっ……」
弁護士「あなたはもしかして、死んだ五人にひどい目にあわされたのでは?」
弁護士「そして、被告人はあなたを助けるために、五人をやむをえず殺害した!」
弁護士「しかし、この事件が明るみになれば、あなたは“自分がされたこと”を証言しなきゃならなくなる!」
弁護士「だから、被告人はあなたにこう提案したんだ!」
弁護士「自分を極悪な殺人犯として逮捕し、死刑にしろ、と!」
弁護士「そうすれば……事件は単なる殺人事件になり、検事さんは裁判で証言せずに済むからな!」
殺人犯「デ、デタラメだ! なにもかもデタラメだ!」
殺人犯「オレが死刑になれば全て丸く収まるんだ!」
弁護士「あのー……キャラ崩れてますよ」
殺人犯「あ……ヒャッハーッ! ヒャオッ!」
殺人犯「そ、そうだ……証拠! 今の推理には証拠が全くない!」
弁護士「うるせえ! 裁判に証拠なんか必要ねえんだよ!」
裁判長「いや、ダメでしょう」
弁護士「ぐっ……!」
弁護士「え!?」
検事「実はあの事件現場には……防犯カメラが設置してあったの」
検事「そのビデオテープを……持ってきてあるわ」
検事「これを法廷で再生すれば……全てが明らかになるはず」
殺人犯「よ、よせ!」
弁護士「俺の推理がデタラメかどうか、これで分かるわけだな!」
殺人犯「再生したら、らめぇぇぇぇぇっ!」
検事『くっ、私を捕まえてどうするつもり!?』
五人組リーダー『貴様のせいで、我らテロ組織の主要メンバーは有罪になってしまった』
五人組リーダー『よって、ただいまより貴様に制裁を行う!』
五人組リーダー『この検事を徹底的に辱めてしまえッ!』
残り四人『はいっ!!!』
検事『やめてっ、いやっ! いやぁぁぁぁぁっ……!』
男『お前たち、一人の女性をよってたかって……何をしてるんだ!』
五人組リーダー『しまった、通行人か!』
五人組リーダー『仕方あるまい、奴も始末しろ!』
五人組リーダー『この二人を始末したら、死体に我らが開発・培養したウイルスを植え付けて』
五人組リーダー『大都市に放置してやるのだ!』
五人組リーダー『そうなれば、この国でパンデミックを起こせるぞ!』
残り四人『はいっ!!!』
男『くっ……そんなことさせるものか!』
検事『ありがとう、助かったわ……』
検事『でも、裁判になったら、私はあいつらにやられたことを証言しなきゃいけない……』
検事『そうなったらもう、お嫁に行けないわ……』
男『……』
男『あなたは検事なんだろう? だったら今すぐ俺を逮捕して、凶悪犯として死刑を求刑してくれ!』
男『そうすれば、あなたは証言しなくていいし、事件も闇に葬り去られる!』
検事『でも、そんなことしたら……!』
男『やるんだ! オレは≪殺人犯≫でいい!』
弁護士「……こういうことだったのか」
裁判長「弁護人の推理が当たっていたとは……」
弁護士(だけど、ちっとも嬉しくない……。なんて……なんて悲しい事件なんだ……)
弁護士「被告人、あんたが死刑を望んだ理由はよく分かった。検事さんの尊厳を守るためだったんだな」
弁護士「だがな、あんたが死刑になって、一番傷つくのは彼女だ!」
弁護士「彼女は、救世主のあんたを死刑にしてしまったって十字架を一生背負うことになるんだぞ!」
弁護士「精神力が10万もあるなら分かるだろ!」
殺人犯「……はい」
検事「ううん、私が悪いの……」
検事「私は最初から、このビデオを提出すべきだったのよ」
検事「もう、お嫁に行くのは諦めるしかないけど……」
殺人犯「……もし、よかったら」
殺人犯「オレの嫁にならないか!? いや、なってくれ! 頼む!」
検事「私でよければ……!」
弁護士(なんか、ものすごいスピードでいい仲になってるぞ……!)
裁判長「なにかね?」
弁護士「あの被告人……無罪でいいですよね?」
弁護士「五人組はこの国を滅ぼしかねない凶悪なテロ集団でしたし……」
弁護士「ビデオ映像を見る限り、明らかに殺しにかかってきてる連中を返り討ちにしただけですし」
裁判長「いや……彼は有罪だ」
弁護士「なんですって!? ――どうしてです!?」
裁判長「これは立派な窃盗罪ではないか……!」ニコッ
弁護士「裁判長……!」
裁判長「判決は……末永く二人で幸せで暮らすことを命ずる!」
殺人犯&検事「ありがとうございます!」
ワァァァァ…! ヒューヒュー!
~END~
法廷でスタンディングオベーション起こってそう
乙