王「……女神教?」
大臣「はい、このところ急速に信者を増やしている宗教団体です」
大臣「教団の信者は、各地で貧しい者に施しを与えているとか……」
王「そうやって弱者の支持を集めてるというわけか」
王「ふうむ、そういう輩が団結すると、我が王政に害をなすおそれがあるな」
大臣「おっしゃる通り、今のうちに適当な信者を捕え、見せしめとするのがよろしいかと」
王「しかし、信者らしき人間を捕えても『信者ではない』といわれたら、それまでではないか?」
大臣「そこでいい方法がございます」
王「踏み絵?」
大臣「はい、連中が崇拝する女神の絵が描かれたこの板を……踏ませるのです」
大臣「踏まなければ、信者と認定してもちろん逮捕」
大臣「踏めば、信者ではないと認定しますが、仮に信者だったとしても」
大臣「己が助かるため神を踏んだ、ということで女神教から脱退することでしょう」
大臣「つまり、どう転んでも女神教の勢力を衰えさせることができます」
王「それは名案だ。やってみせい!」
大臣「ははーっ!」
信者「ぐっ……!」
大臣「国を脅かす邪教徒め、覚悟するがいい」
信者「俺は信者じゃない! こんなの横暴だ!」
王「まぁよい、おぬしが女神教信者であるか、確かめる方法がある」
王「大臣、礼の物を」
大臣「はっ!」
信者「これは……!」
王「女神教が崇拝する神である、女神の絵が描かれた板だ」
信者「これをどうしろと……」
王「踏んでみろ」
信者「え」
王「女神教の信者でないというのなら、この絵を踏んでみせろ」
信者「……!」
大臣(踏めば信者失格、踏まなければ信者、だ)
信者「……」
信者(女神教の教えにはこうある……)
信者(『己の身を守るためなら、女神様を踏むことも許される』と……!)
信者(女神様、申し訳ありません!)
王「!」
大臣「おおっ!」
大臣「踏みましたね……」
王「よかろう、おぬしは女神教信者ではない」
大臣「釈放してやれ」
兵士「は……!」
信者「……あの」
王「なんだ?」
信者「女神様踏むの……もう一回やってもいいですか?」
王「へ!?」
信者「まあまあ、いいじゃないですか! 減るもんじゃなし!」
王「そりゃ減らないけど」
信者「えいっ! えいっ!」ゲシッ ゲシッ
王「オイオイオイ」
大臣「踏みまくってるよ、おい」
信者「えいっ! えいっ! えいっ!」ゲシッ ゲシッ ゲシッ
信者「いや、これ案外楽しくて!」
大臣「楽しいの……?」
信者「はい、踏むとなんだかスカッとするというか……ストレス解消になるんです!」
信者「えいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえい!!!」
ゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシ……
信者「!」
王「もういい……! もういいんだ……!」
信者「やらせろ! 踏ませろォッ!」
大臣「これ以上踏むと、一周回って信者認定してしまうぞ!」
信者「かまうもんか! 俺は生粋の女神教信者だ!」
信者「どけっ!」ブンッ
王「あうっ」ドテッ
ドカッ! ドカッ! ドカッ!
王「とうとう全体重乗せて、カカトで踏み始めた……」
大臣「あああ……壊れちゃう。せっかく作ったのに……」
信者「絵を放り投げて――」ポイッ
ヒュルルルルルルルル…
王「天井近くまで投げ上げた!」
大臣「いったいどうするつもりだ!?」
王「跳躍(とん)だ!!!」
大臣「ま、まさか……決めるつもりか、あの幻の大技を!」
信者「メテオ……」
信者「クラァァァァァッシュ!!!」
ギュゥゥゥゥンッ!
ズガァァァァンッ!!!!!
王「うわぁ……」
大臣「女神の絵が粉々に……!」
信者「あー、スカッとした!」
王「おぬし……なんということを! 崇拝しているのだろう、女神を!」
信者「してますけど、それとこれとは話が別です」
信者「それに女神教では、緊急時には女神様の像や絵を破壊していいことになってますしね!」
王「な、なんという奴だ……。それでも信者か!?」
信者「信者です」ニヤッ
王「ぐぐぐ……! 全く悪びれてない……!」
王「上から光が!」
大臣「な、なんだ!?」
信者「これはまさか……」
王「おおっ!? 七色の光に包まれながら美しい女性がスーッと降りてきた!」
大臣「な、何者だ!?」
信者「あの方は……女神様だ!」
王「女神だと!?」
信者「女神様、教えを忠実に守る私の信心深さに感動して、降臨して下さったのですね!」
女神「……」スタッ
大臣「邪教だなんていってしまった……どうしよう……」ガタガタ…
信者「女神様、ご機嫌うるわしゅう……」ササッ
女神「……だよ」
信者「……はい?」
女神「テメェは踏みすぎなんだよォ!!!」
信者「ひっ!?」
女神「だからって、あんな粉々になるまで踏むこたァねえだろうが!」
信者「あうう……」
女神「寝ろ」
信者「へ?」
女神「いいから、地面にうつ伏せになれッ!」
信者「は、はいっ!」
女神「オラァァァッ! 踏んでやる、踏んでやる、踏んでやるッ!!!」ゲシゲシゲシゲシゲシゲシ
信者「あぎゃぁぁぁぁぁっ!!!」
女神「黙れ!」
女神「そういやテメェ、女神教を弾圧しようとしてたな……?」
王「あっ、それは……」
女神「踏んでやる、踏んでやる、踏んでやる!!!」ゲシゲシゲシゲシゲシゲシ
王「ぐごっほぉぉぉぉぉっ!!!」
女神「待て」
大臣「!?」ギクッ
女神「ここまで来て、一人だけ逃げられると思ってるのか?」
大臣「あああ……」
女神「オラオラオラァァァァァッ!!!」ゲシゲシゲシゲシゲシゲシ
大臣「ぎえぇぇぇぇぇっ!!!」
兵士「なんで俺まで!?」
信者「ハァ、ハァ、ハァ……」
王「ふぅ、ふぅ、ふぅ……」
大臣「ゼェ、ゼェ、ゼェ……」
兵士「あん、あん、あん……」
女神「なに?」
大臣「お願いします、もっと踏んで下さい!」
兵士「腰骨がギシギシいうくらいの強さで!」
女神「この……変態どもめっ……!」
王「お願いします、女王様!!!」
女神「誰が女王だ!」
信者「一生のお願いですから!」
女神「ええい、分かった分かった! 踏みまくってやるから、うつ伏せになって並べ!」
四人「ワーイ!!!」
「吾輩も踏んで頂きたい!」
「小生も!」
「あたちも~」
女神「ゲ、評判聞きつけて大勢集まってきやがった!」
女神「ええい、どいつもこいつも踏んでやるァァァァァ!!!」
女神「女神様とお呼び!!!」
ゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシ……
人々はみんな健康となり、国も大いに栄えることになったという。
なお、余談ではあるが、女神様に踏まれたがる人々は、≪女神教信者≫となるわけだが、
いつしかその頭文字を取って、≪女神教信者≫は“M”と呼ばれるようになったということだ。
めでたしめでたし……。
~END~
俺も踏まれたい