DQN「あの車『赤ちゃんが乗っています』だってよ！」ギャル「ウケる～！」

DQN「すげえニオイだ！　ったく……なんで俺らがこんなもん運ばなきゃなんねえんだ！」

DQN「ムカつくから、スピード上げるぜ！」

ギャル「もっと飛ばして～！」

DQN「おうよ！」

DQN「……ん？　なんだ前の車、チンタラ走りやがって」

ギャル「なにそれ生意気～！」

DQN「ってオイオイ！　あのあの車『赤ちゃんが乗っています』だってよ！」

ギャル「ウケる～！」

DQN「ガキが乗ってるからって調子乗りやがって……どれ、煽ってやるか！」

ﾊﾟｰｯ!　ﾊﾟｰｯ!　ﾊﾟｰｯ!

DQN「……おかしいな。いくらクラクション鳴らしても、リアクションがねえ」

ギャル「やだ、最悪～！」

DQN「よぉし、横に並んでどんな奴が乗ってるか、ツラを拝んでやらぁ！」

ﾌﾞﾛﾛﾛﾛﾛ…　ﾓｫｰ…

～

DQN「え！？」

ギャル「どうしたの！？」

DQN「後部座席にいる赤ん坊が苦しんでやがる！　おそらく脱水症状だ！」

ギャル「ちょっとマジ！？」

DQN「くそったれ！　親は何してやがんだ！」

～

DQN「なにぃぃぃぃぃ！？」

ギャル「どうしたの！？」

DQN「運転席にいる父親が、心臓発作を起こしてる！」

ギャル「え、めっちゃヤバイじゃん！」

DQN「母親は！？　母親はどうしてる！？」

～

DQN「ふざけんなァァァ！」

ギャル「どうしたの！？」

DQN「助手席の母親は、第二子を出産しそうだ！」

ギャル「めでたいけどめでたくないじゃ～ん！」

DQN「決まってんだろ……あの車に俺が乗り込んで、車を止める！」

DQN「ギャル、運転代わってくれ！」

ギャル「オッケー！」

ギャル「ダカールラリーにも参加した、あたしのドライビングテクニック見せてあげる！」

ギャル「寄せるよ～」

DQN「天才的な寄せだぜ！」

DQN「このまま……飛び移る！」ﾊﾞｯ

ギャル「キャ～！　ハリウッドみたい！」

DQN「あまり褒めるなよ、顔が赤くなっちまう！」

ギャル「超ウブ～！　ハリウッブ！」

DQN「なんだそりゃ！　窓が開いてるから、車の中に入るぜ！」ｺﾞｿｺﾞｿ

ｷｷｰｯ!

DQN「ふぅ～……これで最悪の事故は防げたぜ……」

ギャル「だけどまだ終わってないよ！」

DQN「おう、勝負はここからだ！　こいつらを助けてやらねえとな！」

父「……」

DQN「完全に心臓が止まってる……これより心臓マッサージを行う！」

ギャル「ペースは一分間に100回だよ！」

DQN「分かってるって！」

ｸﾞｯｸﾞｯｸﾞｯ…

父「……」

DQN「もう一人、子供が産まれるんだぞ！」ｸﾞｯｸﾞｯｸﾞｯ…

父「……」

DQN「くたばってる場合じゃねえだろォ！」ｸﾞｯｸﾞｯｸﾞｯ…

DQN「生き返りやがれぇぇぇ！！！」ｸﾞｯｸﾞｯｸﾞｯ…

DQN「よし！」

父「げほっ、がはっ、ごほっ！」

DQN「よく戻ってきたな、おっさん！」

父「え、あれ……？　私は……？」

DQN「今はゆっくり休んでな……」

父「あっ、私の家族はどうなった！？」

DQN「心配すんな、あんたの嫁と二人の子供は必ず助ける！」

ギャル「じゃああたしは赤ちゃんを取り出すよ！」

DQN「お前、助産師なんてできるのか！？」

ギャル「おばあちゃんが産婆やっててね！　よく手伝わされたもんよ！」

ギャル「さぁ、ヒッヒッフーの呼吸して！」

母「ヒッヒッフー！」

ｵｷﾞｬｱ…　ｵｷﾞｬｱ…

ギャル「やったぁ！　うまく取り出せたわ！」

母「すごい、ほとんど痛みがなかった……」

ギャル「古来、暗殺者が痛みもなく標的を殺した技を、出産に応用したの！」

ギャル「これぞ、おばあちゃん直伝≪暗産≫よ」

DQN「やるじゃねえか、ギャル……」

赤子「ハァ、ハァ、ハァ……」

ギャル「やだ、とても苦しそう～！」

DQN「ひでえ脱水症状だ！」

DQN（水か、ミルクがあればいいんだが……！）

ギャル「なに？」

DQN「ミルク出せるか？」

ギャル「ごめん無理！」

ギャル「まだあたし、母性本能に目覚めてないから……」

DQN「いや、気にするな……焦るんじゃねえ」

DQN「ないのなら、目覚めるまで待とう、母性本能、っていうしな」

DQN「俺のミルクを……」ｶﾁｬｶﾁｬ

ギャル「落ち着いて！」

DQN「だけど良質なたんぱく質――」

ギャル「しっかりしてよ！」ﾊﾞﾁﾝｯ

DQN「わ、わりぃ……俺としたことが錯乱してた」

ﾓｫｰ…

DQN「！」ﾊｯ

DQN「これだ！」

DQN「さっきから俺たちは牛を運んでたじゃねえか！　こいつを使おう！」

牛「モォー……」

ギャル「搾るのはあたしに任せて！　昔、酪農場でバイトしてたから！」

牛「ンモオオオオオオオッ！！！」ﾄﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞ…

DQN「すげえ！　みるみるうちに、哺乳瓶にミルクが溜まっていくぜ！」

DQN「サンキュー！」

赤子「ハァ、ハァ、ハァ……」

DQN「おいちいミルクだぞ～、飲みなちゃ～い」

赤子「……」ｺﾞｸｺﾞｸ

DQN（……どうだ？）

赤子「うまい！　――もう一杯！」

DQN「ほっ……」

DQN（これで一家全員助けることができたな……）

母「なんとお礼をいったらいいか……」

赤子「きゃっきゃっ」

第二子「ばぶ、ばぶ」

DQN「いやいや、礼なんていらねえよ。本当は煽ろうと思って近づいたんだ」

ギャル「煽ろうとしたら青ざめちゃったよね～！」

母「またお会いしましょう！」

ﾌﾞﾛﾛﾛﾛﾛ…

DQN「運転気をつけてな～！」

ギャル「じゃあね～！」

牛「ンモォ～」

ギャル「うん……」ﾓｼﾞﾓｼﾞ

DQN「ん、どうした？　らしくもなくモジモジしちまってよ」

ギャル「あの一家見てたらさ……」

DQN「……」

DQN「俺らも近いうち……車に『赤ちゃんが乗っています』ステッカーを貼れるようになりてえな！」

ギャル「うん！」

ｷﾞｭｯ…

牛「モォー、見せつけてくれちゃって」

おわり