社長「今年の夏のボーナスは……棒とナスだ」
男「あの……冗談ですよね?」
社長「冗談ではない、マジなんだ」
男「いやいやいや! 夏のバケーションとか! 家のローンとか! どうすればいいんですか!?」
社長「……何とかやりくりして欲しい」
男「社長のオタンコナス!!!」
社長「すまん……!」
男「……というわけなんだ。散々粘ったけど、大量の棒とナスしかもらえなかった」
嫁「…………」
少年「…………」
男「小さい会社だし、業績も今は厳しいし」
男「今年はあまりボーナス出ないだろうなとは思ってたけど、まさかこんなことになるなんて……」
男「本当に……ごめんっ!」
嫁「諦めないで、あなた!」
男「料理!?」
男「おいおい、ナスなんてあまり味がないし、見た目も地味だし、どことなく卑猥だし」
男「割り箸刺して馬にするぐらいしかないダメ野菜じゃないか!」
嫁「そんなことないわ……」
嫁「あなたがあまり好きじゃないっていうから、ナス料理を披露する機会はなかったけど」
嫁「今こそ私の本気、見せてあげる!」
嫁「ナスの天ぷら、焼きナス、ナスの味噌炒め、和え物、麻婆ナス……」
男「ふん、せっかく作ってくれたところ悪いが、ナス料理なんて……」
少年「お父さん、食わず嫌いしないで食べようよー」
フワッ…
男(いい匂いがする……)
男「いいだろう……食ってやる! ただし、一口だけだからな!」モグッ
男「!!!」ビビビッ
男「このナスの天ぷら、サクサクしててなおかつとてもジューシィだ!」サクサクッ
男「焼きナスも、噛むごとにナスの汁が口の中に広がっていく!」モグモグ
男「ナスの味噌炒め! ご飯が進む進むぅぅぅぅぅ!」バクバクバク
男「た、たまらん! ナスってのはこんなにおいしかったのか!」
嫁「まだまだあるわよ~」
嫁「なんたって、あなたが山ほどナスをもらってきてくれたからね!」
男「も、もっとだ……! もっと食わせてくれぇぇぇ!!!」
少年「ご近所にもおすそわけしたけど、大好評だったよ!」
嫁「うふっ、喜んでもらえて嬉しいわ」
嫁「あ、そうだ!」
男「どうした?」
嫁「私、ナス食堂を開いてみる! きっと家計の足しになるわよ!」
男「そりゃいい!」
少年「お母さんの腕なら絶対繁盛するよ!」
ワイワイ… ガヤガヤ…
「すんませーん、ナス定食ください!」 「ナスのソテーおかわり!」 「ナスの活け造りください!」
嫁「おかげさまで大繁盛だわ~」
男「ナスってすごいんだな……」
少年「今度、テレビ取材も来るみたいだよ!」
嫁「あらやだ、だったらお化粧しないと」ヌリヌリ
男「俺も勝負パンツにしないと!」ヌギヌギ
男「た、たまりませんな!」
嫁「もっと儲けるにはどうしたらいいかしら?」
男「そうだな……メイドカフェみたいにコスプレしてみるとか?」
嫁「メイドカフェじゃ平凡ね……。いっそナース服なんてどう?」
男「うひょーっ!!!」
少年「…………」
男「あれ、どうした? お父さんとお母さんが金儲けに走ってるのが嬉しくないのか?」
少年「ううん、大儲けできたのは嬉しいよ。儲けるのは資本主義の醍醐味だから」
男「じゃあ、なんで落ち込む?」
男「?」
少年「棒が可哀想で……」グスッ…
男「!」ハッ
嫁「!」ハッ
嫁「そうね……このままじゃ可哀想だわ! 仲間外れにされてるみたい!」
男「俺も子供の頃は、よくみんなから仲間外れにされたものさ」
男(しかし、ナスと違って、棒に使い道なんて……)
男「……そうだ!」
男「近所に棒術の道場があるし、家族みんなで棒術を習おう!」
嫁「ナイスアイディア!」
男「今日の稽古も厳しかったな……」スタスタ
男(……殺気!?)
強盗「金を出せ!」サッ
男「金? そんなものないな」
強盗「ンだと!? このピストルが見えねェのか!? 出さねぇと……」
男「……撃ってみろよ」
強盗「なめんなーっ!」パンッ
ギィンッ!
強盗「え!?」
男「棒を高速回転させれば、銃弾を叩き落とすこともたやすい……」ギュルルルルッ
強盗「バ、バカな!?」
男「一つ教えてやろう」
男「棒には刃もないし弾丸も発射できない……一見、貧相で頼りない武器に見えるだろう」
男「だが、そうではない」
男「棒とは、余計な不純物が一切ない“究極の武器”なのだ!」
師範『実戦において、そうやすやすとチャンスは訪れぬ……』
師範『コンマ数秒のチャンスを逃すな! 素早く正確に、急所を打つのだ!』
男(ノド、胸部、ミゾオチを素早く正確に打つ!)
ズドドドッ!
強盗「ぐえぇぇっ……」ドサッ…
男「雑魚が……」
男「ただいまー」
嫁「お帰りなさい、遅かったわね」
男「ちょっと強盗退治しちゃってね」
嫁「ステキ!」
男「さて、金は儲かったし、腕っぷしも強くなったけど……気になることが一つ残ってる」
嫁「なに?」
男「社長だよ……あれから会社でも元気がなくてね。まるで、うつ病みたいになってるんだ」
嫁「なにか嫌な予感がするわね……」
男「社長のところに行ってみよう!」
社長「ハァ……」
社長「従業員に夏のボーナスすら出してあげられないとは……」
社長「ワシはなんという情けない社長なのだ!」
社長「首をくくって死のう……」
社長「そうすれば、生命保険が出て、ボーナスを払えるかもしれんしな……」
スッ…
社長「き、君は……!」
嫁「死んではいけませんわ」
少年「そうだよ! ボクたちなら大丈夫だから!」
社長「おおっ、奥さんと息子さんまで!」
男「私たちだけではありません。従業員みんな、社長を恨んではいませんよ」
男「むしろ、“ナスがうまかった”“棒の凄さが分かった”と感謝しています!」
社長「しかし……会社の業績は落ちる一方……! これ以上生きてたって……」
男「たしかに業績は悪化してます……しかし、まだ会社が潰れたわけじゃないでしょう」
男「希望を持って下さい!」
男「なぜなら、ナスの花言葉は≪希望≫なのですから……!」
社長「…………」ジーン…
社長「…………」モグッ
社長「これはうまい!」
社長(ワシは実家のナス農家を継ぐのが嫌で、会社を立ち上げ社長になったが……)
社長(ナスってこんなにうまかったんだ……)
社長「分かった……死ぬのはやめよう」
社長「もう一度頑張るよ!」
男「その意気です、社長!」
社長「加えて、棒術道場とも提携し、棒事業にも参画したいと考えている!」
社長「ついでにナスダックにも上場しちゃおっかな~……なんて」
社長「みんなで会社を立て直そうではないか!」
オーッ!!!
ワイワイ… ガヤガヤ…
嫁「今日も大忙しだわ~」
少年「行列が地平線の彼方まで続いてるよ!」
男「嫁の収入も俺の収入を地平線の彼方に置き去りにしてしまった……」
男「相変わらず君のナス料理はうまいな!」モグモグ…
少年「おいしー!」パクパク
嫁「…………」
男「あれ?」
男「こんなにおいしいナス料理なのに、どうして食べないの?」
嫁「だって……」
男「あっ……」
嫁「どうやら分かったようね」
男「あああっ……!」
嫁「秋が終わるまで、私はナスを口にしちゃいけないの……」
男(なんてことだ……! だからナスを一口も食べなかったのか! こんなにうまいのに!)
男(いや、だけど……彼女がナスを食べられる方法が一つだけある!)
男「秋が終わるまで待つ必要はないよ!」
嫁「え?」
嫁「あっ……なるほど!」
嫁「すごい! その手があったわね!」
男「しかも、毎年これをやれば、毎年みんなから御祝儀もらえるぞ!」
嫁「エクセレント! あなたったら真っ黒!」
少年「ナスの紫色より真っ黒だよ!」
男「小学校の通知表では、≪一見いい子に見えますが、腹黒さがにじみ出てます≫と書かれたものさ」
<会社>
社長「今年ももうまもなく終わりを告げる。みんな、本当にご苦労だった」
社長「夏のボーナスでは、みんなには大変迷惑をかけた!」
社長「しかし、棒事業とナス事業が大成功し、我が社の業績は右肩上がりになっておる!」
社長「よって、冬のボーナスは大盤振る舞い!」
社長「数ヶ月分どころか、給料数年分の額を支払うつもりである!」
男「冬のボーナスも棒とナスで出して下さいよー!」
「そうだそうだー!」
「現物支給がいいー!」 「ナスもっと食べたいんです!」 「新しい棒が欲しい!」
男「社長のオタンコナス!!!」
社長「すまん……!」
おわり
こんな棒とナスなら嬉しい…いややっぱお金でお願いします