アイドル「今日もはりきって地面を掘るよーっ!」
ファン「イェーイ!!!」
マネージャー(ふふふ、この路線変更は大成功だった……)
マネージャー「今日のライブも盛り上がりがイマイチだったな……」
アイドル「はい……」
マネージャー「歌もルックスも光るものを持ってるのになぁ……」
マネージャー(とはいえ、それはライバルたちも同じことだ)
マネージャー(なにか人より抜きん出たところがないと、この業界では埋もれてしまう……)
マネージャー(ん、埋もれる?)
マネージャー「あ、そういえば!」
アイドル「はい、あたし素手で地面に穴を掘るのが大好きなんです!」
マネージャー「それだ!」
マネージャー「これから君は、歌って踊るアイドルじゃなく、歌って穴を掘るアイドルを目指すんだ!」
アイドル「分かりました!」
ウオオオーッ!!!
~
アイドル「今日のライブ、すっごく盛り上がりました!」
マネージャー「これだ!」
マネージャー「君は世界一の地下アイドルを目指すんだ!」
アイドル「はいっ!」
…………
……
マネージャー(我ながら、いいテコ入れだった……)
ファンA「みるみるうちに地面が掘れていく!」
ファンB「はえーっ!」
ファンC「もう3メートル近く進んでる!」
アイドル「このままブラジルまで開通しちゃうぞ! なーんてね!」
アイドル「ハッ!?」
ゴゴゴゴゴ…
アイドル「なに、この音!?」
アイドル「すぐ地上に戻らないと――」
ゴゴゴゴゴ…
ドザザザザッ!!!
アイドル「きゃあああああああああああああっ!!!」
モグラ「目が覚めたか」
アイドル「あなたは……?」
モグラ「俺は……モグラだ」
アイドル「あなたが助けてくれたのね。ありがとう、モグラさん……」
モグラ「ありがとうじゃねえよ! このバカ!」
アイドル「!」ビクッ
モグラ「ったく、マヌケなことしやがって……」
モグラ「あんなメチャクチャに地面を掘ったら、地盤沈下起こすに決まってんじゃねえか!」
アイドル「ごめんなさい……」シュン…
アイドル「はい……」
モグラ「穴掘りのスピードは大したもんだった。その才能を埋もれさせるのは惜しい」
アイドル「!」
モグラ「もし、反省するんなら……穴掘りの極意を伝授してやってもいい」
アイドル「……!」
アイドル「お願いします!」
アイドル「あたし、世界一の地下アイドルになりたいんです!」
モグラ「いい返事だ!」
アイドル「はいっ!」
~
アイドル「でやあああっ!」ザクザクザク
モグラ「そうじゃねえ、もっと手をドリルみたいに使って掘りやがれ!」
~
モグラ「正しい穴の掘り方をすりゃ、地面をかえって頑丈にすることもできる!」
アイドル「土掘って地固まる、ですね!」
モグラ「よくやった。これだけ掘れるようになれば充分だろ」
地面『パネェ』
モグラ「地面もお前の成長を喜んでるぜ。聞こえるか?」
アイドル「はい、聞こえます! パネェっていってもらえました!」
モグラ「上出来だ」ニヤッ
モグラ「地面に認められた以上、もう俺に教えることはねえ。これからは自由に掘りまくれ」
モグラ「行け! 地上に戻って世界一の地下アイドルとやらを目指してこい!」
アイドル「はいっ、師匠!」
アイドル「今日もはりきって地面を掘るよーっ!」ザクザクザク
ファン「イェーイ!!!」
マネージャー(すごい……! 穴を掘る速度が、以前とは比べ物にならない!)
マネージャー(いったいどんな修行を……!)
ブシュゥゥゥゥゥゥ
アイドル「やだ、石油掘り当てちゃった!」
キラキラキラ…
アイドル「あちゃ~、金脈掘り当てちゃった」
ジャラジャラジャラ…
アイドル「いっけない! 徳川の埋蔵金掘り当てちゃった!」
シャキーン
アイドル「あらら、古代遺跡掘り当てちゃった!」
アイドル「地面が“ここ掘れ”と教えてくれるんです。そしたら、あたしもつい掘っちゃって……」
記者「これらの財宝を、いったいどうなさいますか?」
アイドル「もちろん、全て国や専門家や困ってる人に寄付します!」
記者「えええええ!?」
記者「みんな、あなたの功績に敬意を表して、あなたのものにしていいとおっしゃってるんですよ!?」
アイドル「だって、あたしの目標はあくまで世界一の地下アイドルになることですから!」
アイドル「助けに行きましょう、師匠!」
モグラ「おうよ!」
ザクザクザクザクザクザクザクッ
アイドル「みんな、助けに来たよー!」ボコッ
モグラ「トンネル開通させて、脱出させてやるから安心しな!」ボコッ
ワァァァッ!!!
アイドル「LOVEを撒いたら~、桜が咲いたよ~♪」
ヒューヒューッ!
ワァァァッ!
マネージャー(新曲は絶好調……! ファンクラブも結成された……!)
マネージャー(このままいけば、君は本当に世界一に……!)
ボコッ
モグラ「……」
アイドル「あっ、師匠!」
マネージャー(これが、この子の師匠になったというモグラか……!)
アイドル「師匠が地上に出てくるなんて珍しい。どうしたんですか?」
モグラ「大変なことになった……」
アイドル「大変なこと?」
モグラ「地底の邪神が復活しつつある」
アイドル「邪神!?」
モグラ「いってみりゃあ、地底深くに巣食う悪い神様でな」
モグラ「目覚めるたびに、とんでもない地震を起こすという言い伝えがある」
アイドル「地震というのは、どのぐらい……?」
モグラ「邪神が起こす地震ってのは、想像を絶する規模だ」
モグラ「それこそ、“日本沈没”が現実化するような地震を起こすだろう」
アイドル「そ、そんな……」
モグラ「無理だ。復活を止める手段はねえ」
モグラ「だが、せめて弟子のお前にだけは、このことを伝えようと思ったんだ」
モグラ「逃げるのも、受け入れるのも、お前の自由だ」
アイドル「……!」
アイドル「いえ、あたしは逃げもしませんし、受け入れもしません」
モグラ「なに?」
アイドル「……説得しに行きます! 邪神様を!」
モグラ「神様を説得ゥ!? おもしれえ!」
モグラ「やってみるか!」
アイドル「ってわけでマネージャーさん、あたし行ってきます!」
マネージャー「全く話についていけてないが……気をつけてね!」
ボコッ
モグラ「ここが邪神の眠る住処だ……」
アイドル「こんな場所があったなんて……」
モグラ「すげえ邪気だ……どうやらもう目覚めちまってるようだな」
アイドル「だったら話しかけちゃいます!」
アイドル「あの、邪神さん!」
邪神「ん、なんだ」
アイドル「あ、あの、もう少し眠ってもらうことってできませんか?」
邪神「出来ぬ相談だ」
アイドル「どうして!? 二度寝って気持ちいいですよ!」
邪神「いっておくが、我が目覚めてしまったのはお前たち人間のせいなのだぞ?」
アイドル「え……」
邪神「お前たち人間が垂れ流した邪心が、地面に蓄積され、我のもとに集まり」
邪神「我が目覚めるに至ったのだ」
邪神「目覚めたからには、蓄えられた邪気を発散させなくてはならぬ。大地震としてな」
アイドル「ううう……」
邪神「ただし……」
邪神「たとえば、“特に地面に愛された者”が一人、≪生贄≫となるとか」
モグラ(特に地面に愛された者……!)
邪神「どうやらモグラは察しがついたようだな」
邪神「ちょうど、お前たち二人のような存在のことだ……」ニヤ…
モグラ「……」
モグラ「ふん、だったら俺が――」
モグラ「な……!?」
モグラ「バカ野郎! お前はアイドルだろ! こんなとこで命張ってどうすんだ!」
アイドル「だけど、アイドルである前に人間です!」
アイドル「人間のせいで目覚めてしまった邪神様は、人間が鎮めないと! 師匠を巻き込めませんよ!」
モグラ「だが……!」
邪神「フ……フハハハハ! なかなか殊勝なことをいう小娘だ!」
邪神「我も、どうせ生贄に捧げられるのならモグラよりは娘がよい!」
邪神「せっかく立候補してくれたのだ、この娘はもらっていくぞ!」ガシッ
アイドル「さぁ、どこへでも連れてって!」
邪神「いい覚悟だァ!」
ズモモモモモ…
モグラ(くっ、結界を張られちまった! もう助けられない!)
モグラ「くそーっ!!!」
マネージャー「あっ、モグラさん! よかった、無事だったんですね!」
マネージャー「彼女は……!?」
モグラ「……」フルフル
モグラ「あいつは……犠牲になった。地震を止めるため、自分の身を邪神に捧げちまった……」
マネージャー「そ、そんな……!」
マネージャー「世界一の地下アイドルになれる子だったのに……」
モグラ「すまねえ……俺がついていながら……」
マネージャー「いえ、あなたのせいじゃありませんよ。モグラさん……」
マネージャー「大勢のファンの皆様、ありがとうございます」
マネージャー「今日であの子が生贄になってから、ちょうど一年……」
マネージャー「今も地下に埋まっている彼女のために、盛大に盛り上がりましょう!」
マネージャー「それが彼女のためになるのですから……!」
ウウッ… グスッ… ウウウッ…
マネージャー「ん?」
マネージャー「皆で盛り上がろうとしたら、地面が盛り上がってきた……?」
マネージャー(ま、まさか、邪神とやらが復活してしまったのか!?)
マネージャー(だとしたら、あの子の犠牲はいったいなんだったんだ!?)
~♪ ~♪ ~♪
マネージャー「いや、この曲は……!」
アイドル「地下から参上ーっ!!!」
マネージャー「ああああっ……!」
邪神「いやー、一年間この娘の歌を聴いてたら、すっかり邪気が発散されてしまってな」
邪神「このまま埋もれさせてたらもったいないと、地上に戻すことにしたよ」
邪神「これからは我もファンクラブの会員だ!」
アイドル「えへへ……」
モグラ「よく戻ってきたな!」
マネージャー「生きててくれてよかった……」
アイドル「ありがとうございます、師匠! マネージャーさん!」
アイドル「今日もはりきって地面を掘りながら歌うよーっ!」
ファン「イェーイ!!!」
邪神「イェーイ!!!」
モグラ「……イェーイ」ボソッ
マネージャー(神様をもファンにするなんて……君は紛れもなく、世界一の地下アイドルだ!)
おわり