男「憧れの帝京平成大学に入学したぞ!」
学生「ようこそ」
男「あっ、先輩! よろしくお願いします!」
学生「めーん」パシッ
男「え」
学生「よかったな、新聞紙で」
男「え……?」
学生「今のが真剣だったら……君は死んでいた」
男「あっ……!」
男(ぼくはいきなり、帝京魂を忘れてしまっていた! なんという不覚!)
男「先輩!」
学生「ん」
男「洗礼を与えて下さって、ありがとうございます!」ドバァァァァァ
学生「分かってくれて嬉しいよ」
男「はいっ!」
学生「入学式はあっちで行われる。さ、行ってくるがいい」
男「ありがとうございます、先輩!」
学生(これはなかなか楽しみな新入生が入ってきたな……)
司会「……であるからして、君たちは選ばれた精鋭! 帝京魂を受け継ぐエリートなのであるッ!」
司会「これからの四年間、一瞬たりとも油断せず、自己を鍛え上げて欲しいッ!」
司会「続いては……学長のォォォォォ! お言葉ッ!!!」
男(学長……どんな人なんだろう)
学長「皆さん、こんにちは」ザッ
学長「帝京平成大学のここがスゴイッ!」
男(あっ、この声!?)
学長「学生数一万人以上!」
男(この声は――)
学長「東京と千葉県に四つのキャンパス!」
男(いつもファミマで流れてる――)
学長「創立30周年!!!」
男(あの声だッ!)
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!
男(涙が……涙が土石流のように溢れてくるっ……! 止まらない……ッ!)
男「はいっ! 感動のあまり泣きすぎて、体がしわしわになってしまいました!」シワ…
学生「ふふふ……」
男「何が可笑しい!!!」
学生「いや、失敬。かつての私を見てるようでね。つい笑ってしまったのだよ」
男(先輩も……入学式で涙を流したのか……)
学生「さっそくキャンパス内を案内しよう」
男「まるで未来に来たようですよ!」
学生「帝京平成大学の科学力はすでに23世紀レベルといわれている」
男「へぇ~」
男「ところで……あちこちにガタイのいい黒スーツの人がいますね。彼らは何者なんです?」
黒服「……」
学生「ああ、あれか」
男「もしかしてボディガードの方ですか?」
学生「いや……ここの学生はみな文武両道の猛者揃い、ボディガードなど必要ないさ」
学生「あれは政府の人間だ」
学生「彼らの役目はボディガードではなく、監視なのさ」
男「監視……!?」
学生「帝京平成大学には一万人以上の優れた学生がいて」
学生「しかもキャンパスは東京・千葉と要地を抑えている」
学生「さらに、歴史も30周年とあまりにも古く、深く……長い」
学生「もし、仮に……仮にだ。この一万人が結集して、武装蜂起を起こしたらどうなると思う?」
男「あっ……」
男「日本など、簡単に転覆できてしまう!」
学生「その通り」コクッ
学生「こんにちは」
黒服「!?」ビクッ
学生「今日もおつとめご苦労様です」
黒服「……」ガタガタガタガタガタ…
男(震えてる……! すなわち、政府の監視役より先輩の方が遥かに強いってことか!)
学生「ん?」
男「キャンパス内の至るところにファミマがありますね」
男「もう30軒ぐらい見かけましたよ」
学生「帝京平成大学はファミリーマートとは同盟を結んでいるからね」
学生「有事の際は、手を取り合うことになるだろう」
男(だからいつも、ファミマでは帝京平成大学のCMが流れてたのか……)
学生「ただし、いざとなれば我らはファミマを切るし」
学生「彼らもこちらが足手まといと判断したら切る気満々だろうがね」
男「同盟を組んでるといえど、信用しすぎてはならないってことですね」
男「受験生の時は色んな大学を見ましたけど、こんなのは初めてですよ!」
学生「大学のうちに運転免許を取っておきたいという学生は多い」
学生「そのために学長がポケットマネーで建ててくれたんだよ」
男「ワオ!」
学生「彼らも同盟を組んでいるからね。毎日のようにここでライブしてるよ」
学生「私など、生で聴きすぎてもう飽きてしまった」
男「なんて贅沢な……」
学生「……とまぁ、案内はこんなところだ」
学生「後は君次第だ。帝京平成大生として恥じない大学生活を送ってくれたまえ」
男「はいっ!」
学生「この大学には慣れてきたかい?」
男「ええ、おかげさまで」
学生「なにか成果は上げられたかな?」
男「クローンを培養し、長年謎だった数式を解き、ベストセラーになる小説を発表しました」
学生「まぁ、うちの学生としては平均的なレベルだな」
学生「ところで、慣れてきたのならサークルに入らないか?」
男「いいですけど、なんてサークルです?」
学生「“スーパーフリー”だ」
男「え!?」
男「ぼく、先輩を見損ないました!」
学生「なに勘違いしてるんだ」
学生「“スーパーフリー”ってのは、フリーマーケットのサークルさ」
男「そっちのフリー!?」
男「ふぅ~、たくさん売れましたね!」
男「売上はどのぐらいですか?」
学生「一兆円ぐらいかな」
男「まずまずですね! 売上はどうするんですか?」
学生「もちろん、売上は全て恵まれない子供達に寄付する」
学生「“弱い立場の人には救済を与えよ”……これもまた帝京魂さ」
男「なるほど!」
男「学食にファミチキがあるのは嬉しいなぁ」
男「今日はスパイシーチキンを10個食おう!」モグモグ
男(……ところで、普通のファミチキよりスパイシーチキンのが安いのはなぜだろう?)
男(普通に考えれば、スパイシー分高くなるはずなのに……)
男「よし、今度の研究テーマにしてみるか」
学生「ぐうう……!」
男(先輩のこんな顔を見るのは初めてだ……)
男「どうしました、先輩?」
学生「まずいことになった……」
男「まずいこと……?」
学生「帝京平成大学が……なくなるかもしれん」
男「ど、どういうことです!?」
男「は、はい、もちろん。あれだけニュースになったんですから」
学生「つまりだな」
学生「終わるんだよ。平成が」
男「あっ……」
学生「なにしろ、帝京“平成”大学なんだから……」
学生「我々を恐れる政府は、これを大義名分に嬉々として潰しにかかるだろう」
男「そんな……!」
男「だったら、同盟を組んでるファミマに応援を要請して……」
学生「無理だ」
学生「政府の言い分に正当性がある以上、ファミマも及び腰になっている」
男「くっ……!」
学生「いや……大学そのものが“なかったこと”になるのなら」
学生「我々の存在も“なかったこと”にされる可能性が高い」
学生「そうなれば、我ら一万は幽霊のような存在になってしまう……」
男「そうだ! 名前の似てる帝京大学に学生を受け入れてもらえば……!」
学生「帝京大学といえど、一万人以上の難民を受け入れる余裕はあるまい……」
男「くっ、どうすれば……!」
男(いや、そんなことより帝京平成大学がなくなってしまうことがイヤだ!)
男(なんとかしなきゃ……!)
男(だけど、先輩もみんなも、すでに諦めムードだ……)
男(だったらぼくが……ぼくが何とかしなきゃ!!!)
男「皆さん、帝京平成大学の存続運動にご協力をお願いします!」
男「お願いします!」
男「お願いしまーす!」
男「帝京平成大学はスゴイんです!!!」
男「学生数一万以上! 東京と千葉に四つのキャンパス! 創立30周年!」
――――
――
男「やった……! 50億人の署名が集まった!」
男「どうだ! これなら、元号が変わっても大学を潰すわけにはいくまい!」
政府のお偉いさん「ぐぬぬ……」
政府のお偉いさん「分かった……帝京平成大学の存続を認めよう!」
男「よっしゃぁぁぁぁぁ!!!」
ワァァッ!!!
男「先輩!」
学生「君はやはり私が見込んだ通りの男だった」
男「ありがとうございます!」
学生「では、二人で帝京平成大学の存続を祝おう」
男「はいっ!」
二人「帝京魂ィィィィィッ!!!」
こうして、帝京平成大学の危機は救われたのであった。
店内放送『帝京平成大学のここがスゴイ!』
店内放送『学生数一京人以上!』
店内放送『太陽系と銀河系に四億のキャンパス!』
店内放送『創立300周年!』
店内放送『帝京魂! 帝京平成大学!』
客「へぇ~、俺も受けてみようかな! 帝京平成大学!」
― 完 ―