父「お前なら必ずエイ王国ロボットチームのエースになれる!」
父「ヴィー王国を叩きのめしてこい!」
パイロット「もちろん! そのつもりで訓練してきたんだから!」
母「私は手柄なんて望まないわ……生きて帰ってきてちょうだいね……」
パイロット「分かってるよ、母さん」
パイロット「じゃ、行ってきます!」
パイロット(だけど僕がロボットチームに加わったらそうはいかない!)
パイロット(必ず戦況を逆転させてみせる!)
兵士「誰だ!」ジャキッ
パイロット「!」ビクッ
パイロット「僕は……エイ王国ロボットチームのパイロットだ! ……新兵だけど」
兵士「貴様が……? 身分証は?」
パイロット「どうぞ」サッ
兵士「ふん、間違いないようだな」
兵士「ほう、ふむ……」ジロジロ…
パイロット「……」ゴクッ
兵士「なるほど、素質はありそうだ」
兵士「よし、ついてこい」
パイロット「はいっ!」
パイロット「いえ、おかげで心の準備ができました」
パイロット「これが……僕が乗るロボットですか」
兵士「そうだ。我が国の最新式ロボットだ」
兵士「あそこにコクピットがある。さあ、乗るがいい」
パイロット「分かりました!」
パイロット「パイロット、乗りまーす!」
兵士「いいから早く入れ!」
パイロット(中は……結構広いんだな。さすが最新式だけある)
パイロット(構造は……訓練で乗ってた戦闘ロボと似たようなもんだな)
パイロット(これならいける! 華々しい初陣を飾ってやる!)
パイロット「出撃!」ガションッ
シーン…
パイロット「あ、あれ?」
パイロット「しゅっぱーつ!」ガション
パイロット「出ます!」ガション
パイロット(なんで? このロボット全然動かないぞ?)
パイロット「動け!」ガチャガチャ
パイロット「動けよっ!」ガチャガチャ
パイロット「ロボット動け! 動け動け! 動けよぉぉぉぉぉっ!!!」ガチャガチャ
シーン…
パイロット(あ、もしかしたら燃料切れを起こしてるのかもしれないな)
パイロット「この通信機で……」ガチャッ
パイロット「すみませーん!」
パイロット「もしもーし!」
パイロット(通信機も繋がらない!? ありえないだろ、こんなこと!)
パイロット「ふんっ! ふんっ!」グッグッ…
パイロット「出れない……」
パイロット(ロボットは動かない、通信できない、外にも出られない……)
パイロット「僕、どうすればいいんだぁぁぁ!?」
パイロット「動けっ! ロボット動け動け動け!」ガチャガチャ
パイロット「通信機、外と繋がれっ! 繋がれ繋がれっ!」ピッポッパッ
パイロット「ドア開け! 開けぇぇぇぇぇっ!」グググッ…
…………
……
パイロット「ダメだ……」
パイロット「なにかトラブルがあったのかな……」
パイロット「あ、テレビあるんだ。もしかして見られるのかな?」ピッ
<アナタガスキ! ボクモダヨ…
<スポーツチュウケイ…
パイロット「へぇ~、テレビは見られるんだ」
<ナンデヤネン! アハハハハ…
パイロット「アハハ、面白いや」
パイロット(ただし、どれも専門チャンネルかなにかで、ニュースを見れないのは残念だけど)
パイロット「お腹すいたなぁ……」
ウイーン…
パイロット「?」
『お食事デス。召し上がってクダサイ』
パイロット「わっ、食事が出てくるんだ!」
パイロット「どうもありがとう!」モグモグ…
パイロット「だけど、運動もしたいなぁ。運動しなきゃ太っちゃうよ」
ウイーン…
『このペダルを漕いでクダサイ』
『かなりのエネルギー消費にナリマス』
パイロット(へえ~、運動までさせてくれるんだ)
パイロット「これなら体が鈍らなくてすみそうだ」ギコギコギコギコギコ
ギコギコギコギコギコ…
『意識が途切れるまで、睡眠によい音楽と香りを流しマス……』
『お休みなさいマセ』
パイロット「うん……おやすみ……」
パイロット(至れり尽くせりだなぁ……これなら何日でも入ってられそうだぞ)
パイロット「ぐぅ……ぐぅ……」
……
パイロット(あれからどのくらいの時間が経ったんだろう)
パイロット(この中は快適だけど、すっかり時間の感覚がなくなっちゃったよ)
パイロット(いつになったら、ここから出られるんだろう?)
パイロット(もし、一生ここに閉じ込められることになったら……?)ゾクッ…
パイロット「そんなの嫌だ!!!」
パイロット「僕をここから出してくれぇぇぇ!」ドンドンドン
パイロット「せめて今、外がどうなってるのかだけでも教えてくれぇぇぇぇぇ!!!」
ウイーン…
パイロット「え……?」
パイロット(どんなに押してもビクともしなかった扉が……開いた)
パイロット「あなたは……僕をこの中に入れた兵士さん……」
兵士「中は快適だったかな?」
パイロット「はい、快適でした! ――って、そんなことどうでもいい!」
パイロット「戦争は!? 戦争はどうなったんですか!?」
兵士「戦争はもう終わったよ」
パイロット「終わった……?」
パイロット「よかった……エイ王国がヴィー王国をやっつけたんですね!」
兵士「いいや……勝ったのは我がヴィー王国だよ」ニヤッ
パイロット「……へ?」
兵士「私はエイ王国の人間ではない。ヴィー王国の人間だったのだよ」
パイロット「な、なんだって……!?」
兵士「君が今まで乗っていたのは、見た目は戦闘ロボだが、中身は戦闘ロボではない」
兵士「中に入った者に、娯楽や休息を提供するための最新式ロボットだったのだ」
兵士「いくらレバーや起動スイッチをいじろうが、動くわけがない。ただの飾りなんだから」
兵士「あと、“最終調整”で中からドアが開かないようにするなど、色々細工もさせてもらった」
パイロット「……!」
兵士「君をこのたびの戦争に参加させないためさ」
パイロット「!」
兵士「私は一目見て、君のパイロットとしてのずば抜けた素質を見抜いた」
兵士「君は経験のない新兵とはいえ、単独で戦争の勝敗を左右しかねない逸材だ」
兵士「もし君をエイ王国のパイロットとして働かせてしまったら」
兵士「さすがにヴィー王国が負けることはないまでも、多大な被害をこうむっただろう」
兵士「だから、あのロボットの中に君を閉じ込めたのだよ。戦争が終わるまでね」
兵士「あの時、私が君と出会えたのは本当に幸運だった」
兵士「そういうことだ」
パイロット「そして、あなたがたが僕が参戦しなかったエイ王国軍に圧勝した今」
パイロット「僕を処刑するために外に出した、というわけですね?」
兵士「何をいっている。戦争が終結した今、君を処刑する意味などない」
パイロット「……ふざけるなッ!!!」
パイロット「おめおめ生きていられるものかぁっ!」
パイロット「さぁ、殺せ! 早く殺せ! とっとと殺せぇっ!」
兵士「早合点はよしてくれ。君の両親は死んでなどいないよ。ほら」
父「息子よ、元気そうでなによりだ!」
母「生きてたのね、よかった……」
パイロット「え……?」
兵士「エイ王国は降伏したが、今まで通りの自治はほぼ認める形での戦争終結となったからな」
兵士「証拠の映像を見るか? いっておくが合成映像などではないぞ」
パイロット「な、なんで……!?」
兵士「おそらく情報統制されていたのだろうが、エイ王国とヴィー王国の戦争は」
兵士「はっきりいって一方的すぎる戦いだった」
兵士「エイ王国軍にほとんどいいところはなく、降伏降伏の繰り返しだったのだ」
兵士「我が国としても、降伏した者をわざわざ虐殺する趣味はないしな」
兵士「いや、もう少し手こずっていれば、我々とて虐殺を行っていたかもしれないな……」
兵士「つまり、それだけ差があったということだ」
兵士「おそらく、君が乗る戦闘ロボはヴィー王国を大いに手こずらせ」
兵士「“あいつ一人でヴィー王国に勝てるんじゃないか”というところまで我々を追い込んだろう」
兵士「そうしたら、我々とてエイ王国を本気で憎み、戦闘員非戦闘員関わらず」
兵士「エイ王国民を虐殺していただろう。君のご両親の命もなかったかもしれない」
パイロット「そうか……もし僕が参戦していたら……」
パイロット「戦争を泥沼化させ、両国におびただしい犠牲を生んでたかもしれない……」
パイロット「そういうことですね?」
兵士「はっきりいおう。そういうことだ」
パイロット「ハハ……なんてことだ……」
兵士「……」
パイロット「あれだけ訓練したのに、腕をふるえなかったのは残念ですが……」
兵士「いや、君には存分に腕を振るってもらいたい」
兵士「君を処刑したりせず、こうして生かしておいた理由もそこにあるのだ」
パイロット「どういうことです?」
兵士「大国シディ帝国のことは知っているだろう?」
パイロット「はい、強大な軍事力と科学力を備えた独裁国家ですよね?」
兵士「そうだ」
兵士「前々からシディ帝国はエイ王国・ヴィー王国の領土を密かに狙っていた」
兵士「そして戦争が終わり、両国に疲れが残る今、こちらに攻め込もうとしているのだ」
パイロット「なんですって……!?」
兵士「このままではエイ王国もヴィー王国もなすすべなく蹂躙されてしまうだろう」
兵士「だから頼む! 力を貸してくれ!」
兵士「エイ・ヴィー連合軍のエースパイロットとなり、シディ帝国と戦ってくれ!」
パイロット「願ってもないことです! 僕は必ずシディ帝国を打ち破ってみせます!」
パイロット「だから今度はちゃんと動くロボットを用意して下さいね」
― END ―