幸子「……」ニコニコ
月「?……あぁ、模擬の結果か」
月「はい」ペラ
幸子「また全国一位!がんばったわねぇ月!」
月「別に、大したことは…」
粧裕「おかえり、おにいちゃん!」タッタッタ
幸子「コラ粧裕、あぶないから足音立てて走らないの!」
粧裕「はーい……そうだお兄ちゃん!ちょっと時間ある?」
月「唐突になんだよ粧裕……また宿題を見てもらいたいのか?」
粧裕「えーとそうじゃないんだけど……ここじゃなくて私の部屋行こっ!ほらっ、早く早く!」グイッグィッ
幸子「粧裕!あんたお兄ちゃんに頼ってばかりじゃなくてたまには自分でやりなさい!」
粧裕「だからちがうってばー」 タッタッタ
月「今日は塾に行かないといけないんだ。手短に済む話じゃないならまた今度にしてくれないか?」
粧裕「お兄ちゃんが協力してくれればすぐ済むって!えーとね……」ガサゴソ
月(まぁまだ時間はあるし……30分ぐらいなら付き合ってやるか……)
粧裕「あっあった!……さっき学校の帰り道でね、こんなの拾ったんだけど…」スッ
月「なんだこれ……」
月(黒いノート…?)
粧裕「ちょうど新しいノートが欲しくてさ、授業で使おうかなって思って」
月「お前こんなもの使ってノートとるつもりだったのか?ノートなんて別にそこらへんで買えるだろ?」
粧裕「き……金欠で」アセアセ
月(せいぜい100円ちょっとだろ……どれだけ小遣いに余裕がないんだ)
粧裕「表紙めくるとさ、なんか英語でビッシリかいてあるんだけど……何書いてあるんだか全然わからなくて」
月「なるほど……それで僕にこのノートに見せて何が書いてあるのか教えてもらおうってワケか」
粧裕「ご名答!」
月「……」ペラッ
月(確かに全部英語で書いてある……初めてみた時粧裕はさぞ頭を抱えただろうな)
粧裕「ダメ……かな」
粧裕「やった!」
月「じゃあ上から順番に読んでいくぞ、HOW TO USE……使い方……」
粧裕「うんうん、それで?」
月「……」
粧裕「お兄ちゃん?」
月「プッ」
粧裕「お、お兄ちゃん!?」
月「ゴメン、あまりにもバカバカしかったからついね」
粧裕「バ、バカバカしい……?」
月「だけどまぁ、悪戯にしてはかなり手が込んでるよ。中学生が作ったのなら及第点ってところかな?」
粧裕「え?どういう事?早く教えてよー」
月「あぁ、要するにこのノートは…」
月「名前を書くだけで人を殺せるんだ」
月「このノートに人間の名前を書くとその人間は40秒後に心臓麻痺で死ぬ……しかも40秒以内に死因を書くとその通りになる。そして死因を書けば6分40秒以内と言う条件付きで詳しい死の状況を書くことができる。楽に死なせることも苦しませて死なせることも書く人間の自由ってことさ」
粧裕「……」
月「そしてその効果を得られるのは顔が判明している人間に限られる。同姓同名の人物がいた場合。そいつの顔が頭に入っていなければ死ぬのは顔が分かっている人間だけだ」
粧裕「な……なんだか怖いね」
月「まぁただの悪戯だろうけどね、名前を書くだけで人が死ぬなんて非現実なことがあるわけがない」
粧裕「で…でも」
月「なぁ粧裕」
粧裕「?」
月「学校じゃあ殺したいクラスメートの一人や二人はいるんじゃないのか?」
月「あるいは担任とかね、もしこのノートが本物なら、自分が憎いと思う人間を誰にも怪しまれずに消す事が出来る。例えば事故死とでも書けばそいつは車に轢かれるかうっかり足を滑らせて頭を強く打つなどして死ぬ。自分に繋がる証拠は何一つない。所謂完全犯罪ってやつだ」
粧裕「な……何言ってるの……?」
月「試しに殺したい奴の名前をここに書いてみたらどうだ?そうすれば少しは学校も過ごしやすく…」
粧裕「やめてっ!!」
月「ははっ、もう十分怒ってるだろ?冗談だよ本気に捉えるな」
粧裕「もう……」
月「さ、もう用は済んだだろ?僕はそろそろ塾に…」
粧裕「まっ……待って!」
月「まだ何か用?」
粧裕「えっとその……それお兄ちゃんにあげるよ!」
月「……は?」
粧裕「でもお兄ちゃんの事だからすぐ使い切っちゃうでしょ!予備があったほうがいいんじゃない?ほら私授業真面目に聞いてなかったからノートとかまだまだ真っ白だし!」
月(新しいのが欲しかったんじゃなかったのか……)
月「粧裕…お前さては……」
月「怖ろしくなってノートを持っているのが嫌になったんだろ?」
粧裕「うっ……」
粧裕「だ……だってこんな気味悪いもの……」
月「だからって僕に押し付けようとするなよ……これを拾ってきたのはお前だろ。自分で責任もって処分しろ」
粧裕「そんなぁ……」
月「明日ゴミの日なんだから他のゴミと一緒に母さんに出してもらえばいいだろ」
粧裕「す……捨てたら呪われたりとかしないかな……」
粧裕「うん……」
月「もうそろそろ時間だ。僕はもう行くからな」
粧裕「気を付けてね……」
月「あぁ」ガチャ
粧裕「……」
月「少し怖がらせすぎたか……帰りに何か買ってきてやるか…」
月(もしあのノートを拾ったのが僕なら……本物かどうか1回は試してみるかもしれない。)
月(じゃあ誰の名前を書くか……死んだほうが世の中の為になる人間……)
月(だとしたら犯罪者か?だがテレビで報道されるような大物だとしばらく事実は伏せられるかもしれない)
月「死んだことがすぐに分かる人間……」チラッ
須藤「よー良チン、2000円でいいからさ、金貸してくんない?」
良チン「ま……またですか?」
月(……)
ヒュッ コツン
月「いてっ」
講師「おい優等生~ぼさっとしてんじゃないよ!君には期待してるんだから頼むよホント~!」
月「す…すいません」アハハ
月(そうだ……粧裕に何か買うつもりだったんだ。コンビニでスイーツでも買ってやるか)
渋井丸拓男「俺、渋井丸 拓男 略してシブタク、へへっ…付き合ってよかわいいおねーさーん」
女「こ……困ります…」
月(渋井丸……冗談みたいな名前だがノートを試すには絶好の……)
月(……馬鹿が、まだそんな下らないことを考えてるのか……これじゃ粧裕の事を笑えない)
警察「おい!そこでなにやってるんだ!」
渋井丸拓男「やべっ!サツだ!」ブォォォォ
警察「待ちなさい!」
月(……)
月「粧裕、いるか?」コンコン
粧裕「ぎゃっ!お兄ちゃん!?ちょ……ちょっと待って」
月「?」
粧裕「今日は早かったね!」ガチャ
月「別にいつも通りだろ。ほら、これ」スッ
粧裕「え、これ私に!?どうしたのお兄ちゃん!私にお土産なんて珍しいじゃん…」
月「夕方のお詫びにと思ってね……ところであのノートは…」
粧裕「も…もぉ捨てたよあんなの!」
月「そうか……それがいい」
粧裕「あの…お兄ちゃん!」
月「ん?」
粧裕「えっと……ありがと」
月「……どういたしまして」ガチャ
月(明日の今頃、ノートはゴミ収集車の中か……)
月(まったく…未練がましいにもほどがあるぞ)
月 (こんな調子じゃ勉強してても意味がない……今日はもう寝るか)
月(ノートの事は……もう忘れよう)
月「おはよう」フワァ
幸子「おはようライト、朝ご飯できてるわよ」
総一郎「粧裕はまだ起きてこないのか?」
幸子「あの子ったらまた夜更かしして遊んでたのね……一度痛い目に合わないと直らないかしら?」
総一郎「まあそういうな。まだまだ遊びたい年頃だし大目に見てやっても……」
幸子「それで学校の成績が下がったらどうするの!あなたって本当粧裕には甘いわね」
総一郎「ウム…」
月「もしものときは僕が起こしに行くから大丈夫だよ母さん」
幸子「やだ粧裕と同い年じゃないの……かわいそうに」
総一郎「23時とは随分遅い時間だな……まったく親はなにを……」
月(昨日粧裕とあんな話をしたばかりだというのに……どうせ単なる偶然だろうが)
粧裕「ふわぁあ……おはよう……」
月(!?……粧裕!)ピッ
月「あ……あぁ、手が滑って……そ、そうだ母さんもうそろそろ業者が収集にくるんじゃない?ゴミを出したほうが……」
幸子「え?あらやだもうこんな時間?粧裕、もう時間ないんだからちゃちゃっとご飯食べて学校行きなさい!」
粧裕「……はーい」
総一郎「さて、そろそろ私も準備するか」ガタッ
月(……なにを慌てている?落ち着けただの偶然だ。たまたま年が同じというだけじゃないか……!)
粧裕「……」
月(…クソッ!午前中ほとんど集中できなった!あのノートが家にきてからというものすこぶる調子が悪い!)
月(……昨日塾から帰った時……粧裕の様子はどこかおかしかった。何か焦っていたような……)
月(粧裕はノートを捨てたと言っていたが……本当にそうだろうか?)
月(今朝のあのニュース……名前と顔は公表されていなかったがもしあの中学生が粧裕のクラスメイトだとしたら…)
月(こんなことならせめてあの時ゴミ箱を確認するべきだった……そうすれば今頃……)
月「!?……あぁゴメン何?」
同級生B「いっしょに昼飯食おうぜって誘おうとしたんだけどよ。なんか話しづらくってさ」
同級生A「あんな機嫌悪そうなライトはじめて見たよな……なんかあったのかよ?」
月「いやなんでもないよ。じゃぁ購買のとこまで行こうか」
月(いくら考えたところで泥沼にはまるだけだ……今は気分転換しよう)
同級生A「俺さぁライトがうらやましいよ。おふくろが毎日弁当作ってくれるんだろ?俺のおふくろなんか冷たくてさぁ自分の小遣いでなんとかしろってんだぜ?」
同級生B「そーそー俺もそんな感じ、ったく購買ンとこのパンがもうちょっとうまけりゃ文句ねーのに」
月「はははっ」
月(こんな馬鹿みたいな話題で心安らぐとは思わなかった……今なら頭を空っぽにできそうだ)
同級生A「そういやライト。今朝のニュース見たか?」
月「……ッ!あぁ見たけど……」
同級生B「え、お前ニュースなんか見んの?似合わねー」
同級生A「うっせーな、見たくなくても親父がテレビつけてっから勝手に目に入っちまうんだよ!」」
月「ああそのニュースなら知ってるよ。昨日の深夜に起こった事故だろ?あんな時間に中学生が一人でいるなんて……」
同級生B「あ!俺もそれ知ってる!電車に轢かれた奴だろ!」
月「……えっ」
月(電車だと……?)
同級生A「いやそれとはちげーよ。ほら中坊がバイク無免許運転してトラックと正面衝突したってやつ!」
月(無免許……?トラック……?こいつ等なにを言ってるんだ?今朝のニュースにはそんな事一言も……)
同級生A「あぁ、それも中坊だったっけ……でもバイク無免許のインパクトが凄すぎてすっかり忘れてたよ」
月(……つまり今朝ニュースで見た人間とは別の人間の事故)
同級生B「いや電車のやつも十分インパクトすげぇだろ!そいつも中坊なんだけどさ、いっしょにつるんでた奴の証言だと酒飲んで線路に立ち入ってションベンしてたらしいぜ!」
同級生A「うっわ馬鹿じゃん……それもこの近くで起きた事故だったんだよな?ここ治安悪すぎじゃね?」
月「……その2人の事故が発生した詳しい時間はわかるのか?」
同級生A「んー…午後11時頃だっていってたかなぁ」
同級生B「電車がまだ動いてたから……12時過ぎってことはないだろうなぁ。同じぐらいじゃね?」
月(……やはり)
月(すぐテレビを消したからな)
同級生B「でもそれってさ……ガラの悪い中坊3人が昨日の夜同じ時間に同じ場所で事故で死んだってことなんだよな……怖えーなぁ」
同級生A「自業自得だろ。遅かれ早かれこうなってたって、」
月(……)
同級生A「あっそういえばライトの妹も同い年だったよな!心配だよなーあんな事故立て続けに起こってさ」
月「!!」ガタッ
同級生B「ヒィッ!なんだよ急に立ち上がって……」
同級生A「お……お前また怖い顔になってんじゃん……」
月「……今日は早退するよ。休み終わったら先生に伝えといてくれ。じゃ」
同級生A「そうた……えぇ!?お……おいちょっと待てって!」
月(……昨日の夜中学生の3人が同じ地区で事故を起こし死亡)
月(亡くなった3人の内2人は片やバイクで暴走運転。片や未成年の飲酒……)
月(どう考えたって粧裕が親しくするような人間じゃない。むしろ1番嫌悪するタイプの人間の筈だ。)
月(……まだ決まったわけじゃないが、もしあの3人が粧裕と同じ学校に通ってたのだとしたら……)
月(……嫌な予感がする)
幸子「ライト!学校はどうしたの!?」
月「ちょっと体調が優れなくてさ、先生に話して早退させてもらった」
幸子「そ……そう、今日はもうゆっくり休みなさい……」
月「母さん……粧裕は…?」
幸子「……!?」ビクッ
幸子「ライト……落ち着いてよく聞いてね?」
月「……あぁ」
幸子「実は粧裕の通ってる学校からお電話があったんだけど……粧裕のクラスの同級生が……」
月「……」
幸子「亡くなったって……それも……3人」
月(……!!)
月(こうなったらもう認めるしかない……あのノートは本物だったと)
月(そして……その3人を殺したのは……粧裕本人だと……!)
月「同じクラスメイトが3人も死んだとなれば……おそらく授業は中止になったはず……母さん、粧裕はもう家にいるのか?」
幸子「え……えぇ」
月「まさか、そこまで……」
幸子「それで私、学校まで迎えに行ったんだけど……粧裕、ずっとぶつぶつ呟いてたわ。『私のせいだ』って……」
月「……」
月(いくらショックとはいえ……友達でもない奴がが死んだからってここまで精神的なダメージを負うとは考えにくい)
月(そう……直接手を下さない限りは……)
月(僕はどの面を下げて妹に会おうとしている……?)
月『学校じゃあ殺したいクラスメートの一人や二人はいるんじゃないのか?』
月「……」
月『試しに殺したい奴の名前をここに書いてみたらどうだ?そうすれば少しは学校も過ごしやすく…』
月「……粧裕」コンコン
粧裕「入ってこないで!!」
月「……!!」
月「粧裕……お前やっぱり……」
粧裕「そうだよ……お兄ちゃんの思ってる通り……あいつらは……私が殺したの」
月(……粧裕)
粧裕「最初はね……軽い気持ち……だったんだ」
粧裕「私に暴力を振るったの……よくもチクったなって……それで……私の財布も……無理矢理」
月(それじゃああの時金欠だと言ったのも……)
粧裕「……心から思った。あいつら私の前からいなくなればいいのにって」
月(……事故死と書いた理由は『そうすれば怪しまれずに殺せる』と言った僕の言葉を鵜呑みにしたからだろう。僕なら万が一にも特定されないように時間も死因もバラして殺すが……きっと粧裕はそこまで思い至らなかったんだ)
粧裕「でも……でもホントに死んじゃうなんて思わなかった……!先生にその話を聞いたら……私、あたま真っ白になっちゃって……私、なんて事しちゃったんだろって……っ!」ポロポロ
月「ッ……!さ……粧裕」
粧裕「ウッ……最低だよ!私はあいつら以下の……最低な……人殺しなんだ……!」ポロポロ
粧裕「同情はやめてっ!!私……もうお兄ちゃんの顔なんか見たくない……早くどっか行ってよぉ!!」
月(……!!?)
月(ここまで追い詰められていたとは……こうなったらもうどうしようも……それにおそらく粧裕は今もノートを所持している……衝動的に自分の名前を書く事は充分にあり得る。下手な事は言えない……)
月(つまり今の僕には……何もできない……)
リューク「……そろそろだな……」
死神A「おいリューク、何処に行くんだ?死神界はどこも不毛の地だぜ?」
リューク「デスノート落としちまった」
死神B「ギャハハ、またすげぇドジ踏んだな」
死神A「確かお前、ジジイ騙して今ノート2冊持ってんだろ?それも落としちまったのかよ?」
死神B「で?何処に落としたのかわかってるワケ?」ケケケッ
リューク「……人間界」
死神A、B「……えっ?」
月(……妹がノートを拾ったあの日からもう5日経過した)
月(あれ以来妹は完全に引きこもってしまった。会話もここ数日交わしていない。顔を合わせても無言で通り過ぎるだけだ。学校にはもう何日も通ってない)
月(粧裕の通っていた中学校は連日取材陣が押し掛けるようになった。学校の生徒が相次いで不審な死を遂げたんだ。マスコミが食いつかないはずがなかった)
月(父さんに警察の見解はどうかと聞いてみたが……事件性を示す証拠は見つからず結局事故で処理するとの事だった。」
月(……妹が引きこもったあの日から僕は自分のしでかした過ちを悔やまない日はなかった)
月(僕があの時ノートを処分するべきだったんだ……いやそもそもノートの内容を僕が教えなければ……)
月(いや、今は悔やんでいる場合ではない……妹はいつ命を絶ってもおかしくない……何か……何か対策を……)
総一郎「……イト……ライト!」
月「……!父さん……」
月「……もうこんな時間か、ありがとう父さん、すぐに支度を……」
総一郎「ライト……やはり粧裕が心配なのか?」
月「……」
総一郎「気持ちは分かる。だがこればかりは時間が解決するのを待つしかないだろう……粧裕には母さんが付いてる。だから安心しろ、とは言えないが……」
総一郎「お前まで暗い顔をするな。母さんが悲しむぞ」
月「……あぁ、そうだね……」
月(時間が解決するのを待て……だと?)
月(父さんはノートの存在も、粧裕が3人を殺めたことも何も知らない。だからあんな悠長な事が言える)
月(今回のケースではそれは当て嵌まらない……むしろ時間が経てば経つほど不味い……今日まで数日も経過している時点ですでにやばいんだ)
月(粧裕はその気になれば何の手間も掛けずに死ねる手段を持っている……ノートに自分の名前を書けばいいだけなんだからな)
月(今日は母さんが買い出しにいってて夕方はいない。家には僕と粧裕の2人きりになる)
月(決行するなら……今日しかない……!!)
月「ただいま……」
月(母さんは……)
幸子「ライト……おかえりなさい」
月(くそ……思ったよりも買い出しが終わるのが早かったか……これでは計画が……)
幸子「買い出しなんだけど……今から行くわ、本当は早く行きたかったけど粧裕を1人にしておけなくて……」
月(しめたっ)
月「それで僕の帰りを待ってたの?……分かった。粧裕は僕がしっかり見ておくよ」
幸子「助かるわ……晩御飯遅くなるけど……ごめんね」
月「気にしてないよ。気をつけてね」
月(扉の前に置いてあるのは母さんが作った昼御飯か……一応手はつけているな。といっても半分も減ってないが……)
月(僕が帰ったと同時に母さんが買い出しに行ったのは好都合だ。今からなら1時間……どんなに早くとも40分はかかる)
月(それだけの時間があれば……充分だ!)
月(粧裕の部屋は僕の部屋と違って鍵は付いていない……精神状態の危うい粧裕がドアに何か細工を施すとは思えない。だから侵入そのものは容易く出来る)
月(侵入するタイミングだが……本当は粧裕がいない時に侵入するのがベストだ……しかし現状粧裕が部屋を出るときはトイレに行く時だけだ。)
月(ドアの前で待ち伏せなどしてたら気付かれるし……その瞬間を待っていては手遅れになる可能性がある)
月(だから強引にドアを開けて侵入する……ノートを奪取するために)
月(……仮に粧裕が先にノートを手にし錯乱して自分の名前をノートに書こうとしても……夜神粧裕という名前をフルネームで書こうと思ったら僅かに時間が掛かる。取り押さえてノートを取り上げるには充分の時間だ)
月(しかし……仮にノートには既に苗字と名前の一部分が書かれていてあと一画で名前を書き終えられる状態だったとしたら……)
月(その時はもう手段は選ばない……無理矢理身体を押さえつけてでもノートを奪う……)
月(馬乗りにでもなれば粧裕はもう抵抗出来ない……)
月(……あくまでこれは最終手段だ。実行すれば妹は僕の事をもっと嫌うだろうし両親からも白い目で見られるかもしれない……)
月(でも僕は……それでも構わない!)
月(いっそここで死なせてしまった方が……もしかしたら粧裕にとって幸せなのかもしれない)
月(でも……だとしても……僕は……)
月「僕は……お前に死んで欲しくない……」
月(……虫のいい事を言ってるのはわかってる。粧裕をここまで精神的に追い詰めた原因は僕にあるのだから)
月(でも……お前が生きてさえいてくれれば、例え僕は嫌われようと……)
月(……覚悟を決めろ夜神月、いざとなったら躊躇うな。妹を傷付けることになっても……ノートは必ず奪い取る!)
キャアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!!!!
月(……!?)
月(い……今の悲鳴は!?……僕はまだドアを開けていない……ドアノブにさえ手を触れてない……粧裕の身に何かが……)
月「粧裕っ!!!」ガチャ
粧裕「………….」ガタガタガタ
リューク「……ん?」
月「……うわぁっ!!」ガタン!!
粧裕「……!お兄ちゃん!!」ギュッ
月「粧裕!無事か!!」
月(!?……あいつの腰に何か固定されている……あれはまさか……)
リューク「……」スッ
月(だ……駄目だ……腰が抜けて立てない……殺される!)
リューク「……お前も俺の姿が見えるのか?」
月「……え」
リューク「ってことはお前もノートに触れたんだな?俺の姿が見えるのはノートを手にした奴だけだ。」
月「……意思疎通は出来る……と考えていいのか?」
リューク「なんだ、出来ないとでも思ったのか?俺の名はリューク、こいつが拾ったノートの落とし主だ」
月(落とし主……粧裕が拾ったノートはこいつが落とした物……)
月(こいつが……全ての元凶……!)
リューク「俺か?俺は死神界からこっちに降りてきた死神だ」
粧裕「……!!」フルフル
月「死神……だと……!!」
月(クソッ!なんだそれは……ふざけている!!そんなものの存在を認めろとでも……いや名前を書くだけで人を殺せるノートが存在するんだ。死神がいても全く不思議じゃない……)
月「お前の正体は分かった……一体お前はここに何しにきたんだ……?」
リューク「その質問に答える前にノートが何処にあるのか教えてもらおうか、おいお前、何処に隠したんだ?」
粧裕「………」ビクビク
粧裕「ひっ……」ビクッ!
月「さ……粧裕大丈夫か……震えてるぞ……」
粧裕「お…お兄ちゃん……わたし……しんじゃうの……?」ガタガタ
粧裕「死神に……殺されちゃうの……?わたっ……わたしが……ひっ……人を……ころした……から……」ポロポロ
月「……ッ!!落ち着け粧裕!!こいつはすぐに殺したりは……」
粧裕「いや……嫌だ……しにたくない……しにたくないよぉ……!!」ポロポロ
月「……粧裕」
月(誰のせいだと思ってる……!黙ってろ死神!!)
月(マズい……最早今の粧裕にまともな思考能力はない……)
月(腹立たしいがこのままではこの死神の言う通り、まともに会話することは難しい……)
月(とにかく……粧裕とこいつを引き離さなくては……)
粧裕「グス……ヒグッ……おにいちゃ……」
月「大丈夫だ……お前を死なせたりなんかしない。勿論殺させたりもしない。誰にも手は出させない……どんな事があったって、お兄ちゃんが必ずお前を守ってやる……!」
粧裕「おにい……ちゃん……」
リューク(なんだこれくっさ……)
粧裕「……」コクッ
月「よしいい子だ……僕は今から粧裕の代わりにこいつと話をつける。その間お前はこいつの目の届かない所……僕の部屋に行って内鍵を掛けて待機しててくれ。僕がいいと言うまで絶対に外に出るな。わかったな」
リューク「おいおいそれは困るぞ……ノートの所有者にはずっと近くに憑いてなきゃいけないって死神界の掟が……」
月「……」ギロッ
リューク(……顔怖っ!)
リューク「……まぁすぐそこの部屋にいるってんなら俺から見えなくても問題はない……と思う」
リューク(ホントはよくわかんないけど)
月「大丈夫だ。さっきも言っただろ?こいつは僕達を殺しにきたわけじゃない。殺す気なら僕達はとっくに殺されてる……そうだよな?死神」
リューク「……最初から俺は殺すなんて一言も言ってないからな、こいつが勝手に騒いだだけだ」
月「……だそうだ。ここは僕を信じて部屋で待機してくれ」
粧裕「……うん……」タッタッタッ ガチャ
月「鍵を掛けるのを忘れるなよ!」
月「気安く妹の名前を口に出すな……そのベットの下を探ってみろ……多分そこだ」
リューク「ん~……?」ガサゴソ
リューク「ウホッ!本当にあった!よく気付いてたな!」
月「粧裕が何かを隠すときは大抵ベットの隙間の中だ……小さい頃からそうだった」
リューク「クククッさすが兄妹!」
リューク「お前はノートの正式な所有者じゃないからな。それは粧裕にしか教えららない事だ」
月「そうか……じゃあさっきの質問をもう一度するぞ。お前は何が目的で人間の世界にやってきたんだ……?」
リューク「……」
リューク「まぁ……それぐらいなら教えてもいいか……」
月「願ってもない事だ。お前が粧裕の部屋に現れる少し前、僕は妹のノートを奪い取ろうと部屋の前で身構えていた……妹を死なせないためにな。ノートを取り返しにきたのならどうぞ勝手に持って行ってくれ。そして2度と僕達の前に現れるな」
月「……と言いたいところだが、実はそうじゃない」
リューク「……ほぅ」
リューク「ククッ確かにその通りだがなぜわかった?」
月「ノートのルールが詳細に書いてあったからだ。明らかに人に使わせようという魂胆が見え見え……英語で書いてあるのは人間の世界で最も多く使われてる言語だから……」
月「このルールを書いたのは……お前なんだろ……?」
リューク「クククッ……そこまでお見通しか……」
リューク「あぁ、別に俺は落とす場所なんて何処でもよかった。たまたまあいつの近くに落ちてたまたまあいつが拾った。それだけだ」
月(……恐怖というのはこうも容易く克服できるものか……始めてこいつに出くわした時に抱いていた恐怖はもう欠片も感じていない……)
月(……むしろ僕が今こいつに抱いている感情は……)
月「……」
リューク「……なんだたったこれっぽっちか……5日も待ったのに期待外れもいいとこだ」
月「その『たったこれっぽっち』の人間を死なせたせいで……粧裕は5日間……耐え難い苦しみと恐怖を味わってきたんだ」
リューク「普通の人間がノートを使うとそいつは想像を超える苦悩と恐怖に襲われたというが……なるほどな、今のあいつがまさにそれか」
月(こ……こいつ……いけしゃあしゃあと……!!)
月(ここは……堪えるんだ)
月「……次の質問だ」
リューク「なんだ?まだあるのか?」
月「……なぜノートを人間界に落とした?」
リューク「……それはな」
リューク「退屈だったから」
月(退屈……退屈だと……?)
リューク「今の死神界ってのは暇でな。博打を打つか昼寝するかのどっちかだ。俺達死神は寿命を延ばすために人間を殺しはするが……そんなの俺にとっては面白くもなんともない」
リューク「それで俺は人間界に目をつけた。こっちにいる方が面白そうだってな」
月(つまりこいつの退屈しのぎの為に……3人の尊い命が……失われたというのか……)
月(そして粧裕は……あいつは……!!)
リューク「おっと、」スカッ
月「……ぐっ……!」ズザザァァァ
リューク「無駄だ……人間に死神は殺せない……デスノートに名前を書いたとしてもな……」
月「ふざけるな……ふざけるなァ!!」
粧裕「お……お兄ちゃん!?今の声は……!?」ガラッ タッタッタ
月「粧裕……!?馬鹿ッ!!出るなと言ったはずだ!!」
リューク「……」クルッ
粧裕「あっ……あぁ……」ガクガク
リューク「夜神月」
月「……何だっ!」
リューク「妹を助けたいか?」
月「……決まってるだろ……助けたいに決まってる!!妹が救われるなら僕はなんでも……!!」
リューク「妹が救われる方法が……一つだけある」
月「!?」
リューク「デタラメじゃない。本当だ。もっともその方法を実行するには夜神粧裕を俺の目の前に連れてくる必要があるが……」
粧裕「………」
月「粧裕……入れ」
粧裕「………」スタスタ
粧裕「うん……もう平気……ありがとう」
月(良かった……平静さは取り戻しているようだ)
月「で……どうするつもりなんだ?死んだ人間を生き返らせるとでもいうのか?」
リューク「そいつは無理だ。死んだ人間はどんな方法をもってしても生き返らない。絶対にだ」
粧裕「……うぅ」
月「粧裕、気をしっかり持て……」
リューク「ククッ、簡単なことだ」
リューク「今粧裕が所有しているノート……それをお前の物にすればいい」
月(……!僕の……物に……)
月「そうすればどうなる?」
リューク「こいつのノートに関する記憶は全て消える。名前を書いて殺したことも含めて全部だ。そうすりゃもうこいつは苦悩と恐怖に苛まれる事はもう無い。綺麗さっぱり忘れられる」
月(だ……だがどうする……?粧裕がノートを見せてきたあの日……確かに僕はノートを手に入れたらどう使おうかと四六時中考えていた……)
月(悪人を裁き、善人が暮らしやすい世界を創れるのではと、子供染みた考えも抱いたことがあった)
月(だがノートが本物だとわかった今では……正直自分の手にするのは恐ろしい……)
月(……)チラッ
粧裕「……」グスッ
月(……馬鹿な、何を迷う必要がある)
月(僕の答えなど……最初から決まっている!)
月「それを僕に渡せ」
粧裕「……!?」
リューク「それでいいんだな……?」
月(人を殺めたという事実……決して覆す事の出来ない過ち……興味本位とは言え、その罪が消える事は永遠に無い……)
月(無かった事には出来なくても……忘却させる事はできる。本来なら正しい事では無いかもしれないが……粧裕がその罪を背負ったまま生きるのは……あまりにも残酷すぎる)
月 (あの絶望に怯える顔をもう見なくて済むなら……僕は)
リューク「だがそれを決めるのはお前じゃない。ノートを他の人間に渡すかどうかを決められるのは……所有者の夜神粧裕だけだ」
月「話は聞いたな粧裕?僕にノートを譲り渡してくれ。そうすれば粧裕は苦しみから解放される」
粧裕「だ……だめだよ……こんな危ないもの、とてもお兄ちゃんにはわたせない……お兄ちゃんに何かあったら……そうだ、こんなノート燃やしちゃえば……」
月「……あいつの腰に着けているもの……多分あれもデスノートだ。そんな事をすれば、あれに名前を書かれて殺される」
粧裕「そんな……」
リューク「クククッ……気付いてたのか……」
月「約束する……僕は受け取ったノートを使って粧裕を悲しませるような真似は決してしない。それにこれは贖罪のようなものだ……僕はお前が辛い目にあっていた事に気付いてやれなかった。人を殺せと煽ったのも僕だ……だから」
粧裕「……!」
月「すまなかった……こんな情けない兄を……どうか許して欲しい」
粧裕「……お兄ちゃんは……お兄ちゃんは悪くないよ?わたしが……わたしが勝手にやった事なんだから……私も……顔も見たくないなんて……ひどい事いっちゃった……お兄ちゃんは……わたしのことを心配してくれたのに……」ポロポロ
粧裕「ごめんなさい……ごめんなさい……」ポロポロ
月「……ノートを渡してくれるな?粧裕」
粧裕「うん……!」
月「あぁ……」
リューク「……じゃあこのノートを一旦粧裕に返す。受け取れ」
粧裕「さ……触らなきゃダメ?」
リューク「そうしないと話が進まないからな」
粧裕「……わかった」スッ
リューク「次にノートをライトに回せ」
粧裕「……」
月「僕なら大丈夫だ……!早くそれを僕に……」
月「よし……」パシッ
リューク「手を離せ。その瞬間に記憶は全て無くなる」
粧裕「……」フルフル
粧裕「…」スッ
月(……離した!)
月(さぁ……どうだ……)
粧裕「……あ……あれ?私……」
月(やった!)
粧裕「……部屋すごい散らかってるんだけど……あれ……なんか目が熱い……やだ泣いてるの?……なんで……」
月(リュークの言う通りだった……この反応は……間違いない……記憶が無くなっている)
月(どうやらリュークの姿は認識できていないようだ……ノートの所有権を放棄すると死神の姿は見えなくなる……と言うことか……)
月「さ……さぁ……」
月(まだ安心は出来ない……とりあえず粧裕をここから……)
月「粧裕……シャワーを浴びてきたらどうだ?ここ何日か浴室に入ってないだろ……」
粧裕「えっ……ホントだすごく臭う!って髪もボサボサじゃん!ちょ……やだ恥ずかし……っ」
月「早くさっぱりしてこい」
粧裕「い……言われなくたって……わかってるよ~!」バタン! ダッダッダッ
月(………他に言い方は思いつかなかったのか……?この部屋から遠ざける為とはいえ……女の子相手にあんなデリカシーの欠片のない台詞を……)
リューク「ライト、流石に言葉を選んだ方がいいんじゃ」
月「黙れ」
リューク「ああ、だがノートに再び触れてしまえばまた俺の姿が見えるようになる。ノートに関する記憶もよみがえる。忘れない事だ。」
月「それは気をつけないとな」
リューク「ノートは晴れてお前の物となったわけだが……どうする?」
月「……そろそろ母さんが帰ってくる頃だ。見られるとマズい。僕の部屋に行くぞ」
月「……」ガチャ
月(鍵は掛けた。これで目撃される心配はない……)
リューク「へー……ライトの部屋って妹の部屋より大分綺麗なんだな」
月「粧裕の部屋だってそこそこ綺麗だったよ。何処ぞの誰かのせいで大分散らかってしまったけどな」
月「……早速本題に入ろうか?死神のリューク」
月「……話を長引かせても仕方がない……結論から言うぞ」
月「……このノートは……」
月「お前に返す。後はもう好きにしろ」
リューク「あ、やっぱり?」
月「……そうだな。正直な話、このノートを最初に拾ったのが僕だったら嬉々として使っていただろう。まず最初にノートが本物かどうか試すために犯罪者を1人か2人殺す。本物だとわかった時暫くは罪悪感で苦しむだろうが……やがて開き直り悪人を裁き続け、犯罪のない理想の世界を……創ろうとするかも……」
リューク「そんな世界が出来上がったらさしずめお前は新世界に君臨する神か?面白そうじゃねーか!なんでやらないんだ?」
月「……粧裕のあんな姿を……見てしまったからね」
月「人の命ってものは……とても重い。3人の命を奪った。たったそれだけで粧裕はあの有様だ。」
月「僕が犯罪者を裁き続けるとして……何人殺さなければならないと思う?粧裕の時の比じゃない……100や200は軽く超える」
月「毎日毎日人間を殺し続けて……それでまともな精神を保っていられるか?……少なくとも今の僕にはもう無理だ」
月「僕にはノートを使いこなせる自信がない……」
リューク「………」
月「一緒にするな。死神が人間を殺すのと人間が人間を殺すのとではワケがちがう」
月「……確証はないがもし僕がこのノートを使って犯罪者を裁き続ければ……」
月「僕の家族がみんな不幸になる……そんな気がするんだ。」
月「粧裕と約束したんだ……粧裕を悲しませるような真似は……絶対しないって」
リューク「ククク……どうせそんな約束ノートの記憶と一緒にすっぽ抜けてるだろうがな」
月「ハッ……見え透いた嘘を……それで脅してるつもりなのか?」
リューク「……なに?」
月「知り合ってまだ数十分と経ってないがお前の性格はよーく理解したつもりだ。お前は常に自分が面白いと思った事を何よりも好む……仮にお前が粧裕に再びノートを渡したとして……粧裕がノートを使うと思うか?」
リューク「……思わねーけど」
月「むしろ今度こそ自分の名前を書いて自殺しかねない。お前の頭の中では粧裕にノート渡す行為は面白くない事だという認識になっている筈だ」
月「……いつだったか昔父さんが言ってたんだ。人を殺して得た幸せなど真の幸せではないと……今の今まですっかり忘れてたが……」
リューク「……」
月「僕は今でもお前が大嫌いだ……でもなんだかんだで感謝はしているよ。お前がノートを落としたおかげで……僕は大切な事を思い出す事が出来た。」
リューク「……ククッ!」
月「抜かせ。思ってもない事を口にするな……今後またノートを落とすなら地球の裏側にでも落としてくれ。そうすれば少なくとも僕達まで被害は及ばないだろうから……」
リューク「自分の回りの奴が無事なら関係ない奴がどうなろうとも構わないってか?」
月「……普通の人間ならそう思うのが自然だ」
リューク「……達観したな。お前」
月「それは良かったな」
リューク「さてと、手土産も頂いた事だしそろそろ帰るか」ガブッ
月「お前……人の物をいつの間に……」
リューク「んんうまい。じゃあなライト、縁があったらまた会おうぜ!」バサッッ
月「もう二度と会わない事を祈ってるよ……」
月「………」
月「僕は……何をしていたんだ?」
月(粧裕の学校の生徒が深夜の同じ日に相次いで事故死した謎の怪事件……あの日からもう一月余りか……)
月(連日学校に押し寄せていた大勢の取材陣は……すっかりいなくなっていた。これ以上嗅ぎ回っても新しいネタは出てこないと悟ったのだろう。ワイドショーでも既に別のニュースを取り扱っている。移り気な事だ)
月(警察はこれをただの事故と断定し、捜査を打ち切っている。腑に落ちないが仕方ない……事件性を示す証拠は何一つ見つからなかったのだから)
月(偶然にしてはタイミングが出来過ぎているが……警察が捜査を断念した以上真実を確かめる術はもうない)
月(全ての真実は闇の中に葬られたも同然だ)
バタ-ン!!
粧裕「お兄ちゃーーん!!」ダキッ
月「ノックぐらいしろあとしがみ付くな苦しい」
粧裕「助けて!今度期末試験があってチョーピンチなの!!私しばらく学校休んでたしこのままじゃ赤点で補習コースだよ……勉強見て!」
月「学校はそれを考慮して試験の期日を延期したんじゃなかったか?ったく……だから勉強は計画的にやっておけと……」
月(粧裕が元気を取り戻してくれた……それで充分だ)
粧裕「フムフム……なるほどなるほど」
月「……お前ちゃんと理解できてるのか?」
粧裕「ギクッ……や、やだなーお兄ちゃん……ソンナコトナイヨ」
月「声に抑揚がないぞ」
粧裕「えへへ……」
月(5日も引きこもっていたとは思えないな……何故か突然ケロッと立ち直ったが……そのせいか知らないが引きこもる前から更に元気になった気がする)
月「……粧裕」
粧裕「なに?」
月「1ヶ月前に死んだ粧裕のクラスメイト……あいつらにカツアゲされた事があったらしいが……本当か?」
粧裕「……お兄ちゃんに話した事あったっけ?」
月「記憶は曖昧だけど……お前から直接聞いたような気がするんだ」
粧裕「んー……言われてみればお兄ちゃんにだけは話したような気がする……なんとなくだけど」
月「それにあいつらが粧裕に行った行為は紛れのない犯罪だ……父さんに話せばあいつらを補導することぐらい……」
粧裕「……そうだけど……先生に注意されたのに懲りずにまた金を巻き上げるような奴らだよ?警察に捕まったっていつかは釈放されるでしょ?……報復とか……こわいし」
月「……警察は通報した人間の詳細をわざわざ犯人に教えるような事はしない。第一それは話さない理由にはならない……誰かに相談することによって何か解決策があったはずだ」
月「粧裕らしくもない事を……子供が親に迷惑を掛けるのは当たり前だ。粧裕はまだ中学生だぞ。迷惑なんか幾らでも掛けてもいい」
粧裕「小ちゃい頃から優等生だったお兄ちゃんにそんなこと言われても説得力ないんですけど……」
月「……頼むから1人で抱え込むのだけはやめてくれ。お前の家族は……いつだって粧裕の味方だ。忘れるな」
粧裕「ありがとう……そうだよね」
粧裕「いいの……お兄ちゃんが私の事を想って言ってくれてるのはわかってるから」
月「本当にそう思ってくれてたらいいが……」
粧裕「思ってるよ……!!だってお兄ちゃん約束してくれたでしょ?」
月「……約束?何をだ?」
粧裕「忘れたの?だってお兄ちゃん言ってたじゃない」
粧裕「『どんな事があっても必ずお前を守る』って……」
月「……は?」
粧裕「あと『お前を悲しませる事は絶対しない』……とかなんとか」
月(……)
粧裕「ひどーい!ホントに忘れちゃったの!?」
月「いやちょっと待ってくれ……顔が赤くなってきた……そんなこっぱずかしくなるようなクサい台詞……本当に僕が言ったのか……!?」
粧裕「言ったよ!確かに聞いたもん!」
月「……いつ聞いた?」
粧裕「いつってそれは……いつだったっけ?」
月「……ッ!!お前なぁ!」ガタッ
粧裕「うわーお兄ちゃんが怒った!」
幸子「ライトー粧裕ーご飯ができたわよ!早く降りてきなさーい」
粧裕「はーい今行くー」
月「ほとんど勉強できなかったな……続きは飯を食べてからだ」
月「どうした急に改まって……」
粧裕「ずっと……これからもどうかよろしくね!頼りにしてるよ。お兄ちゃん!」ニコッ
月「……あぁ」
月(ここ数日辛い事が沢山あったが……だからこそ平穏な日常がこんなにも尊く思える……)
月(時間は有限だ。いつかはこの生活にも終わりが来る……多くは望まない。ただ)
月(願わくば……)
月(この平穏が末永く続きますように……)
終わり
死神界
リューク「うーん……」
??「……お前がリュークだな?」バサッ
リューク「あ?誰だお前?この辺じゃみないな」
レム「私はレムだ……死神大王がお前を探していた。私は頼まれてお前に会いにきたんだ」
リューク「……え?ジジイが!?なんで?」
レム「……先日シドウという死神がノートを無くしたと死神大王に訴えたそうだ……心当たりがあるんじゃないのか?」
リューク「……ゲッ!!」
レム「どうやら図星のようだな……死神大王を騙すとは大それたことをしでかしたものだ……」
リューク「お……俺これからどうなるの?」
レム「これからお前を死神大王の元へと連行する。シドウもそこで待機しているはずだ……逃げようなんて思うなよ?お前が僅かでも逃げる素振りを見せたら死神大王の謎の力が発動してお前は砂になって死ぬ」
リューク「……怖っ!!」
レム「……お前がおとなしくシドウにノートを返せば。お咎めは無いはずだ。」
リューク「……本当に?」
レム「嘘をついてどうなる?」
リューク「よ……良かった……早く言えよそういう事は……」
レム「懲りない奴だな……」
リューク「まあこうなったらしょうがないか……命には替えられねぇ……」
レム「……そういえばリュークを見つけた時、お前は人間界を眺めながら唸っていたな。ノートを落とすために下見をしてたのか?」
リューク「あぁ……今度は地球の裏側に落とそうかと思ってな」
レム(こいつは一体何をいってるんだ……?)
ホントに終わり