女「そっか。やっぱり二人はつきあってたんだね」
「そうだけど。それがどうかした?」
女「なんとなく聞いただけ。それより、先に謝っておくね」
「なんの話?」
女「ノートに名前を書いちゃってごめんなさい」
「意味わかんない。どういうこと?」
女「それじゃあ、バイバイ」
「ちょ、ちょっと! なんなの急に……うぅっ!」
女「近くにいたら、いろいろと面倒でしょ」
死神「なるほど」
女「……それにしても。『デスノート』の効果は本物なんだね、死神さん」
死神「言ったはずだ。死神は嘘をつかないってな」
女「返したらどうなるの?」
死神「お前の前から消えてやる。『デスノート』に関する記憶も消す」
女「名前を書かれた人間が死んじゃうノートかあ」
女「すごいね、本物だったら」
死神「この期に及んでまだ信じてないのか」
死神「それなら顔が浮かんだヤツの名前を、誰でもいい、ノートに書いてみろよ」
女「その必要はないかな」
死神「どういうことだ?」
女「だってあたし、これで殺したのは二人目だし」
死神「先に言えよ」
死神「こんなのって俺のことか?」
女「他にいる?」
死神「はじめて俺を見たときは、ビビって腰抜かしてたのに」
死神「まあいい。で、お前はデスノートを使うんだな?」
女「うん。せっかくだしデスノートは使ってあげる」
女「あっ、ノートを使うのにリスクはないんだよね?」
死神「しいて言うなら俺がお前につきまとうってことか?」
女「うわあ。つきまとうってことはお風呂やトイレのときも?」
死神「安心しろ。お前がイヤな場合は席を外す」
死神「……それから。一つ言っておく」
死神「これは決してノートを使う上でのルールや条件じゃない」
死神「だが、どうせデスノートを使うなら俺を退屈させないでほしい」
女「楽しませろってこと?」
死神「そうだ。わざわざ大王にりんごを献上して、新しいノートまで入手したんだ」
女「よくわかんないけど。あたし、もうこのノートの使い道は決めてるよ?」
死神「マジか。ひょっとして『キラ』みたいなのを目指すのか?」
女「キラとか懐かしっ。でもあたし、キラとか興味ないから」
死神「じゃあノートはどんなふうに使うんだ?」
女「決まってるでしょ。デスノートには名前を書くんだよ」
女「――あたしのクラスメイトの、ほぼ全員のね」
担任「今日は最初にみんなに伝えておくことがあります」
担任「昨日、青木さんが駅近くの交差点で心臓麻痺で――」
死神「なんだ、まだ一人しか殺してないのかよ」
死神「クラスの奴ら全員、死んでるのを期待してたのに」
女「……」
死神「おい、俺の話聞いてんのか? ……なに書いてんだ?」
女『死神さんの姿や声は、あたしにしかわからないんでしょ?』
死神「筆談か。昨日も同じことを言ったぞ」
女『つまり教室で死神さんと会話したら、おかしな子に思われちゃう』
死神「そんなことか。ていうか、なんで一人しか殺してないんだよ?」
女『あたし言ってないよ。一日でクラス全員の名前を書くなんて』
死神「なんでだ? 一発でドバっとやればいいだろ?」
女『今は説明がめんどいから帰ったら説明する』
死神「じゃあ俺、学校でなにしてればいいんだよ?」
女『寝てれば?』
死神「俺は死神だから眠る必要がない」
女『話はあと。今はテストの暗記に集中したいの』
死神「そういえば来年から高校受験がどうとか言ってたな」
女『来年は中三だからね。勉強嫌いのあたしも、マジメに勉強しなきゃダメなの』
女「……」
死神「……露骨に鬱陶しそうな顔するなよ。ちょっと傷つくぞ、死神でも」
女『死神さんって、絶対にあたし以外には見えないんだよね?』
死神「ああ、基本的には」
女『じゃああたしのために働いてみない?』
死神「ほう、面白いことか? なにをさせる気だ?」
女『の・ぞ・き』
友「全然歴史のテストできなかったよ。レミちゃんは?」
女「今日は神様が憑いてたからね。あたしにしてはデキがよかったよ」
友「抜けがけなんてズルいよお」
女「あはは。テスト終わったし、駅前のクレープ屋行かない?」
友「……駅のそばの交差点だったよね、青木さんが死んだのって」
女「たしかに。あそこの交差点、呪われてたりして?」
友「や、やめてよ」
女「冗談だって。だいじょーぶ、ユリはあたしがまもってあげるから」
友「それ、幼稚園のころからずっと言ってるよね」
友「それに、クラスのみんなもそこまで気にしてなさそうだった」
女「おとなしくて地味だし、あんまり友達もいなかったからじゃない?」
友「……レミちゃん。ひょっとして青木さんのことキライだったの?」
女「なんで?」
友「なんとなく、言葉がトゲトゲしてるから」
女「気のせいだよ。あたしとあの子、あんまりしゃべったこともないし」
女「ユリは仲良かったんだよね、青木さんと」
友「うん。一回だけど、二人で遊んだこともあるよ」
女「よかった? なんで?」
友「わかんない。だけどレミちゃんには、誰のこともキライにならないでほしいなって」
女「……そっか」
友「あれ? あそこにいるのって『梅ちゃん』かな? おーい!」
「……」
友「ねえ、なんか様子が変じゃない?」
女「そうかも。なんかうつむいてるし、話しかけないほうがいいよ」
友「そうかな? ……ね、ねえ! あのトラック……!」
キイイイィッ――
死神「……また一人、殺したわけか。青木と同じ交差点で、しかも今度は自殺か」
・デスノートに名前を書かれた人間は死ぬ。
・名前を書く人物の顔が頭に入っていないと効果は得られない。
・名前のあとに人間界単位で40秒以内に死因を書くと、そのとおりになる。
・死因を書かなければ、すべてが心臓麻痺となる。
・死因を書くとさらに6分40秒、詳しい死の状況を書く時間を与えられる。
・デスノートで死を操れる日数は23日間のみ。
死神「昨日は説明しなかったからな。デスノートの簡単なルール説明だ」
女「むりっ、覚えきれない。てきとうにノートに書いといてよ」
死神「書いてあるじゃねえか」
女「英語でね。あたし、英語なんて全然読めないから」
死神「……」
女「無理なもんは無理でーす」
死神「わがままだな。死神の俺にテストのカンニングまでさせやがるし」
女「お礼にポテチのコンソメ味を食べさせてあげたでしょ」
死神「りんご以外にも人間界にはうまいもんがあるんだな。また食わせてくれよ」
女「またあたしのために働いてくれたら考えてあげる」
死神「こんちくしょうめ」
女「なにが?」
死神「お前がデスノートを使う理由だ」
女「誰にも言わない?」
死神「そもそも言う相手がいない。……ていうか、なに照れてるんだよ?」
女「だって恋愛のことだもん」
死神「恋愛?」
女「……あたしね、好きな人がいるの」
死神「……おう」
女「だからデスノートを使うんだよ」
死神「お前、説明下手だろ。全然理解できねえぞ」
女「死神さんって吊り橋効果って知ってる?」
死神「聞いたことはあるが、どういう意味なんだ?」
女「橋を渡ろうとするでしょ? そうするとドキドキするじゃん?」
女「あっ、でもね。その橋をわたろうとするのは男女二人なの」
女「やがて二人はいい感じになって……あれ、なんかちがうな」
死神「つまり、恐怖によるドキドキと恋のドキドキを勘違いして相手を好きになる、みたいな?」
女「そう、それっ! よくわかってらっしゃる!」
死神「で、お前はそれをデスノートで再現するってわけだ」
死神「クラスメイトを一人ずつ殺していくことによって」
女「そーいうこと」
女「まあ、その人だけじゃないけどね」
死神「……」
女「どうしたの?」
死神「いや、恋愛のためにデスノートを使う。そんな発想が俺にはなかったからな」
死神「しかも、自分のクラスの連中の大半を殺す気なんだろ?」
女「死神さんでもやっぱりおかしいって思うんだ、あたしがやろうとしてること」
死神「俺たち死神でも人間の価値観や倫理観が、理解できないわけじゃない」
死神「そうじゃなくても俺は死神界から人間をずっと観察してたからな」
女「へえ、人間に興味があったんだ」
死神「そのせいで死神界にも人間に興味をもつヤツがあらわれた」
女「死神さんもその一人ってわけね」
女「……あれ? なんでそれで死神が人間に興味をもつの?」
死神「そりゃあ人間がデスノートを使って、同じ人間を殺しまくったからに決まってるだろ」
女「え!? キラってデスノートもってたの!?」
死神「お前、気づいてなかったのか?」
女「……死因を書かなければ心臓麻痺。言われてみれば、だね」
女「そっか。キラはノートを使って犯罪者裁きをしてたんだ」
死神「お前、あんまり頭よくないんだな」
女「あっ、ひどい!」
女「うわあ、コワっ」
死神「実を言えば俺は、お前にキラの真似事をさせるのも、ありだと思っていた」
女「むりむりっ。あたしにはできないよ、キラの真似なんて」
死神「そうだな。キラは頭がよかったみたいだし」
女「……なんかあたしのこと馬鹿にしてない?」
死神「してないと思うのか?」
女「ああもうっ! 二度とポテチあげないから!」
死神「え? ……ごめん」
女「ふんっ、知らない」
女「知りたい?」
死神「できればな」
女「では、突然ですが問題です。あたしの名字はなんでしょうか?」
死神「『渡辺』だろ?」
女「そうです。そして昨日と今日、ノートで死んだのは?」
死神「昨日が青木だな。今日が『梅ちゃん』ってヤツだったな」
女「ちなみに梅ちゃんの本名は『加藤梅』って言うんだよ」
死神「それがなんだ?」
女「これだけヒントを出してるのにわかんないの、死神さん?」
死神「……さっき俺に馬鹿にされたこと、気にしてんのか?」
女「べつに」
女「ずばり、出席番号順」
死神「なるほど。青木から番号順に殺していけば、お前は自然に最後まで生き残れるってわけだ」
女「まっ、あくまで予定だけど」
死神「いちおうお前なりに考えてるわけだ」
女「当たり前でしょ。仮にも人を殺すんだから」
死神「……人を殺してるって自覚はあるんだな」
女「当たり前じゃん」
女「命は重いから人殺しはダメ。あたしだってそれぐらいはわかるよ」
死神「命は重い、ねえ」
死神「とてもそんなふうには見えないがな」
女「死神さんにいいことを教えてあげる」
死神「ん?」
女「女子って生き物はね、自分の恋愛のためならなんだってするの」
死神「ほう」
女「親を騙すことだって。仲のいい友達を裏切ることだって」
女「――デスノートに名前を書くことさえ、ね」
死神(……女が怖いってのは人間も死神も変わらないみたいだ)
死神「ここまでは順調に殺して来たな」
女「だーかーら、登校中に話しかけないでよ」
死神「仕方ないだろ。俺の話し相手はお前しかいないんだ」
女「たまにはどっかに遊びに行けばいいのに」
死神「それはできない。死神はノートか持ち主の最期を見届ける義務があるからな」
女「じゃあハッピーエンドになるように願っておいてね」
男「レミ」
女「よ、横ちん!?」
男「びっくりしすぎでしょ? どうしたの?」
女「べ、べつになんにもだよ」
死神「…………ほう、なるほどねえ」
女「今さら変えろって言われても困っちゃうよ」
男「……そうだね」
女「ねえ、なんか元気ないけど大丈夫?」
男「……だって、昨日でクラスの人が五人も死んじゃったんだよ?」
女「……うん」
男「次は自分の番かもしれないって思うと、最近は寝つけなくて」
男「それに、実は僕と青木さんは……」
女「つきあってたんでしょ?」
男「知ってたんだ」
女「一度だけ青木さんと話したことがあって、そのとき聞いた」
女「体調が悪いなら、無理しないで休んだほうがいいんじゃないの?」
男「いや、どんなことがあっても学校は休んじゃいけないよ」
女「本当に横ちんってマジメだね」
男「そう? まあ僕は学級委員だしね」
女「それって関係あるの?」
男「わかんない。ただ……」
女「ただ?」
男「このままだとうちのクラスだけ、お休みになっちゃうかもね」
女「どうして?」
男「さすがに先生たちも、なにか対策を練ろうとするんじゃないかな?」
女「じゃあ、お休みなるかもしれないってこと?」
男「その可能性は十分にあると思う」
女「そんなのイヤだよ……」
男「……レミって勉強は嫌いなのに、学校は好きだよね」
女「だって、会いたい人がいるんだもん」
男「え?」
女「ううん、ごめん、なんでもない」
女「学級閉鎖の可能性なんて、全然考えてなかったよ」
死神「どうするんだよ?」
死神「このままだと学校がなくなるかもしれないぞ?」
女「……わかってるよ。なんとかする」
死神「なんとかするって?」
女「それは……」
死神「その顔は間違いなく、なにも浮かんでない顔だな」
女「今から対策を考えるからいいのっ」
死神「まっ、せいぜいがんばれよ」
女「横ちんがどうかした?」
死神「あいつの名字ってなんだ?」
女「『横井』だけど。それがどうしたの?」
死神「いや、聞いただけだ。気にするな」
女「気のせいかな。なんか死神さんの顔、ニヤニヤしてる気がする」
死神「べつに。ただお前の好きなヤツの見当がついたからな」
女「……あっそ」
死神「それから。俺にも立派な名前があるんだが」
女「興味ないし、今は学級閉鎖を防ぐ手段を考えてるからあとにして」
死神「……」
女「全然ない」
死神「俺の名前がわかれば、デスノートで俺を殺せるかもしれないぞ?」
女「さすがにあたしでも、嘘だってわかるよ」
死神「なんでバカのくせにわかるんだよ」
女「ああもうっ! とにかく静かにしてよ! 漫画読んでてもいいから」
死神「漫画か。面白そうだな、どれがおすすめだ?」
女「『ヒカルの碁』とか?」
死神「囲碁なんてわかんねえし。ほかにねえのかよ?」
女「……」
死神「おい、聞いてんのか?」
死神「なんでだ?」
女「そりゃあもちろん、思いついたからだよ」
死神「ほう。ってことは、学級閉鎖を防ぐ方法が浮かんだわけだ」
女「うん。たぶん、この方法ならイケると思う」
女「それに、これなら死神さんも退屈しないかもよ?」
死神「いいだろう。お前のために、そして俺のために」
死神「ノートのルールをもう一度説明してやろう」
女「……緊張して全然眠れなかった」
死神「なに言ってんだ、途中からいびきかいてたくせに」
女「嘘だあ。あたしみたいなカワイイ女の子がいびきなんて。ありえませーん」
死神「ふん。人を目覚ましがわりにしたり、こき使ってくれる」
女「だって死神さんって寝る必要ないんでしょ?」
死神「基本的にはな」
女「昨日の夜ってなにしてたの?」
死神「漫画を読んでた」
死神「そうそう、お前のおすすめしたヤツ、アレ面白かったわ」
女「当たり前じゃん。あたしのチョイスだし」
死神「これからお前が寝てるときは、漫画を読んでることにするわ」
女「あはは、そうしなよ」
死神「了解」
「なにを一人で話してるの?」
女「ぎゃっ!?」
「……ウシガエルが潰れたみたいな悲鳴ね」
女「び、びっくりした! 急に話しかけないでよ、キヨミちゃん」
死神「コイツ、あれだな。この前のテストで俺がカンニングしたヤツだ」
死神「お前とちがってこの女は頭がよさそうだったな」
女「……」
女「いやあ、今日はたまたま早く目が覚めちゃって」
秀才「そう。今日はイヤなことが起こりそうね。そう、殺人級の」
女「そんな言いかたしなくても……」
秀才「失礼。殺人級じゃなくて、実際に殺人が起きてるのよね」
女「……あ、あはは」
秀才「それじゃ。私は先に行くから」
死神「変わったヤツだな、あいつ」
女「あたし、あの子のこと苦手」
死神「気にすんなよ。どうせあの女も、いずれ殺すんだろ?」
女「……まあね」
死神「しかし、マジでこれから職員室に突撃すんのか?」
女「そーだよ。先生全員が集まる朝の職員会議。特攻するには持って来いでしょ」
死神「……気が進まないな」
女「りんごとコンソメ味のセット」
死神「協力する。協力するから絶対に食わせろよ」
女「名演技に期待してるから」
死神「まかせておけ。せいぜいコワイ死神を演じてやろう」
教師1『さすがに今日は、四組について話し合うんでしょうね』
教師2『そうでしょう。ここまで連続して生徒が死ぬなんて』
教師2『のろいの類だって言われても信じてしまいそうだ』
教師1『そうです。……小暮先生、そのノートはなんですか?』
教師2『ああ、これですか? 職員室の前に落ちてたんですよ』
教師1『真っ黒なノートですね。それにボロボロだ』
教師2『ただ、なんにも書いてないんですよね。破った痕跡はあるんですけど』
教師1『捨てちゃったほうがいいんじゃないですか?』
女「よし、突撃するよ。死神さん」
死神「わかっている」
女「先生助けてくださいっ!」
教師1「な、なんだ急に?」
女「あ、あたし……なんか変なのに取り憑かれてて……!」
教師1「はあ? なにを言ってるんだ……」
教師2「ひいいいいぃっ!?」
教師1「こ、小暮先生?」
教師2「な、なんだお前の後ろにいるのは!?」
女「……」
死神「はじめまして。俺は死神で、見ての通りだ、今はここに遊びに来た」
教師2「なっ、なななにを言ってんるんだ!?」
教師1「落ち着いてください。なにをそんなに驚いて……」
教師2「見えないのか!? あの化物が!?」
死神「なぜなら俺の姿が見えるのは、そのノートに触れたヤツだけだからな」
教師2「こ、このノートを触ってくださいっ!」
教師1「なんなんですかさっきから。これでいいです……ひいいっ!?」
教師3「ふざけてるんですか? このノートがいったい……ぎゃああっ!?」
「どうしたんですか!?」
「さっきからなにが起きて……」
死神「俺はべつにお前らに危害をくわえるつもりはない」
死神「ただ、ここにいる先生方に個人的な頼みをしに来た」
教師1「た、頼み!?」
死神「今、あるクラスで生徒が次々とくたばってるな?」
死神「さあな。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
死神「だが、そんなことはどうでもいい。俺の要求は一つだ」
死神「あのクラスを閉鎖せず、これからもごく普通に授業を行ってほしい」
教師1「そ、それがお前の頼みなのか?」
死神「ああ。この要求さえ飲んでくれりゃ、なにもしない」
死神「ただし。この要求がまもられなかったら……どうなるかな?」
教師2「……ど、どうなるんだ?」
死神「たとえばこの女子生徒が……」
女「ひっ!? せ、先生……た、助けて……!」
教師2「わ、わかった! お前の要求は飲むから、その子から手をはなせっ!」
女「……」
死神「それじゃあ俺はこれで。お騒がせしたな」
死神「……っと、いけない。そのノートは俺のもんだ、返してもらおうか」
教師2「も、持っていけ!」
死神「ヒヒヒっ。そんなにビビるなよ」
死神「それじゃ。お前たちが俺との約束を破らないことを祈っているぜ」
女「……死神って誰に祈るんだろ」
担任「わ、渡辺! 大丈夫か?」
女「あ、はい。なんか気づいたらとり憑かれてて……」
女「でも、なにかされたってワケじゃないです」
教師1「あの得体の知れない化物について、なにか知ってないのか?」
女「知ってるわけないです」
教師2「実はお前が連れてきたとかじゃないだろうな?」
女「なに言ってるんですか……!」
教師2「じゃあ、あの黒いノートについては?」
女「知りませんし。そもそも見たことも触ったこともないです!」
担任「ま、まあまあ。渡辺も小暮先生も落ち着いてください」
教師2「……クソっ! なんなんだいったい!」
女「……」
女「死神さん、なかなかいい演技してたよ」
死神「……しゃべって平気なのか?」
女「ここは保健室で、今は誰もいないし大丈夫じゃない?」
死神「それならいいんだが。だが、ずいぶん思い切った計画だったな」
女「えへへ、我ながらナイスアイディアだと思う」
女「死神さんに脅迫させて、あたし自身を被害者に仕立てあげる」
女「完璧じゃない? ノートも取り返したし」
死神「もし万が一、お前は警察に捕まっても俺のせいするってわけか?」
女「そーいうこと」
女「『死神さんの命令で仕方なくノートに名前を書いてました』で、あたしは立派な被害者だもん」
死神「……本気でそう言ってんのか?」
女「どういうこと?」
女「全然っ、さっぱりピーマンって感じ」
死神「ノートに触った人間は、俺の姿が見える。これはわかるな?」
女「うん」
死神「そして俺はノートの所有者であるお前に、常に憑いていないといけない」
女「……あっ、ヤバい」
死神「そうだ。お前、デスノートを触った教師に見られたら、俺が憑いてることがバレるぞ」
女「なんで早く指摘してくれなかったの!?」
死神「いや、普通にそこらへんまで考えてるのかと」
女「あたしがバカなことは死神さんもよく知ってるじゃん!」
死神「都合のいいときだけバカになるな」
女「言うの遅すぎぃっ!」
死神「……で、どうするんだ?」
女「今日はもう早退するよ。こっそりとね」
死神「それじゃなんにも解決してないぞ」
女「……仕方ないね。あの先生たちには悪いけど、家に帰ったらノートに名前を書いちゃお」
死神「命は重いんじゃなかったのか?」
女「命は重いよ。でも仕方ないでしょ?」
女「あたしの恋はもっと重いんだもん」
死神「……うわあ、コワっ」
死神「ようやく名前を書くか」
女「あたしってば記憶力悪いし、そろそろ書いておかないとね」
死神「なあ」
女「なに?」
死神「どうして死因を毎回バラバラにするんだ?」
女「キラ事件のことをね、すこしだけネットで調べたの」
女「そしたら『L』がたった一人の心臓麻痺から、キラがいる場所を特定したって出てきたんだよね」
死神「なるほど。よかったな、加藤はたまたま自殺にしてて」
女「よくない。もしかしたら青木さんの件で……」
ピンポーン
女「……だ、誰だろ?」
死神「しらねえよ」
男「なにをそんなに警戒してたの?」
女「べ、べつに警戒なんてしてないよ」
男「僕の勘違い? それにしてはビクビクして見えたけど」
女「横ちんの気のせいだよ。それにしてもウチに来るなんて、どうしたの?」
男「心配だったからさ」
女「心配?」
男「うん。体調不良で早退したって、先生から聞いたんだ」
女「心配かけちゃってごめんね。今はもう大丈夫だから」
男「それならよかった。にしても……」
女「ん?」
男「いや、レミの家に来るのっていつぶりかな?」
女「そういえばすごくひさしぶりだね」
女「これって、この前の授業参観のときの写真?」
男「うん。今日、ようやく現像されたのがもらえたんだ」
女「なんか親がいるせいか、教室が狭く見えるね」
男「うちのクラスは生徒数も多いから、よけいにそう見えるね」
男「でも……」
女「横ちん?」
男「もう、この写真の中には死んだ人もいるんだよね」
女「……そうだね」
男「……実は僕、あることに気がついたんだ」
女「それ、たぶんみんな気づいてるよ?」
男「レミも気づいてたの?」
女「うん。さすがにわかるよ」
男「なんかショックだな……いや、今のは忘れて」
女「なんかさらっとバカにされた気がしたけど、まあいいや」
男「……もしクラス全員が死ぬのなら、僕らが最後なのかな?」
女「やめようよ。そんなことを考えるのは」
男「レミは怖くないの? 僕は怖くて仕方ない、死ぬのが怖い」
女「……手、握ってあげようか?」
男「え?」
女「特に理由はないけど、怖がってる人には効果があるかなって」
男「ば、バカにしないでよ。僕だってオトコだぞ」
女「……ふーん、あっそ」
男「なんなら今からここで、キミの部屋を漁って下着とか盗み見てあげようか?」
女「いや、本気でやめて」
男「じゃあ恥ずかしい日記とかでも探そうかな?」
女「そんなのはないよ」
男「あの机に載ってるのは?」
女「そ、それは……」
ピンポーン
友「ご、ごめんね。突然おじゃましちゃって」
女「ううん。お見舞いに来てくれたんでしょ?」
友「まあね……」
男「じゃあ、僕はそろそろ帰ろうかな」
女「もっとゆっくりしていけばいいのに」
男「遠慮しておくよ。これか塾があるしね」
友「……」
男「どうしたの、鈴木さん? 僕の顔になにかついてる?」
友「い、いえ。なんにもです」
男「そう? それじゃあお邪魔しました」
女「ん、バイバイ」
友「……」
女「えっと、ポテチでも……」
死神「おい」
女「……ポテチはダメだけど、なにかお菓子でも食べる?」
友「大丈夫。今はそんなに食欲はないから」
女「そっか。それで、今日はどうしたの?」
女「お見舞いだけのために、うちに来たんじゃないでしょ?」
友「……やっぱりレミちゃんには隠しごとはできないね」
女「当たり前じゃん。何年、友達やってると思ってんの?」
友「……そうだね。あのさ、あたしって明日死ぬのかな?」
女「……」
友「レミちゃんだって特に気づいてるよね?」
友「クラスの死ぬ順番、あれが出席番号順だってこと」
女「でも。もしかしたら、ユリだけ飛ばされるかもしれないよ?」
友「……やめてよ。そんな気休め言わないでよ」
女「……」
友「イヤだよ。私、まだ死にたくないよ……」
友「まだ恋愛だって満足にしてないんだよ?」
女「恋愛?」
友「……私、横井くんのことが好きなの」
女「!」
死神「……へえ」
友「どうしてレミちゃんと横井くんが、二人で最後なの?」
女「……」
友「ご、ごめん。私ったら言ってることが支離滅裂だね」
女「……うん」
友「私、帰るね」
女「待って。帰って……帰ってユリはどうするの?」
友「……ごめん。もうなんにもわかんないや」
女「ゆ、ユリっ!」
友「さよなら」
女「たぶん今あたしがなにをしても、ユリは答えてくれないよ」
女「それに。そんなことをする必要は……」
死神「まあ、なんでもいいか。しかし、横井はずいぶんとモテるんだな」
死神「あの秀才女も、従業中は横井のことばかり見てるぜ」
女「……」
死神「おいおい、どこ行くんだよ」
女「お母さんが帰ってくる前に、米研ぎとかお風呂掃除しておくの」
死神「今の今まで、生きるか死ぬかの話をしておいて」
死神「まあお前らしいっちゃ、お前らしいな」
「――午後八時――交差点で――人気歌手の――死亡――」
母「まさかあのバンドのボーカルが交通事故で死ぬなんてね」
女「……」
母「あんた、顔色が優れないけど。どっか悪いの?」
女「そんなことないよ。今日はちょっと疲れちゃっただけ」
母「……ねえ、学校に行かないほうがいいんじゃない?」
女「なんで?」
母「だって……」
女「行っても行かなくても死ぬなら、あたしは学校で死にたいなあ」
母「縁起でもないこと言わないでっ!」
女「……ごめんなさい」
死神「どうした? 難しい顔をしても似合わないぞ」
女「うるさいなあ」
死神「なんだ、今さらになってノートで人を殺すのをためらってるのか?」
女「……だって、今までは仲のいい友達じゃなかったもん」
死神「ここでやめちまうのか? 恋のために殺しをしてきたのに」
女「……あたしね、ずっと好きでずっと恋をしてきたの」
女「それに言ったよね、死神さんに」
死神「なにをだ?」
女「女子って生き物は、自分の恋のためならなんだってするってね」
死神「じゃあ、殺しは続けるんだな?」
女「もちろん」
担任「昨夜、『また』うちのクラスの生徒が亡くなりました」
女「……」
死神「ひひっ、いくら学校があるからってコイツら、よくこの状況で学校に来るよな」
死神「まっ、どいつもこいつも死んだ魚みたいな目になってるが」
担任「今日は……二人の生徒が亡くなりました」
担任「一人は『鈴木ユリ』さん」
死神「ははっ、声が震えてるなあ、なあ、レミ?」
死神「……って、二人?」
担任「もう一人は……『横井ダイチ』くんです」
死神「……横井?」
死神「レミ? どういうことだ?」
女「あ、あたしは…‥あたしは……!」
担任「渡辺っ!?」
秀才「……」
死神「急に教室から出るなよ」
死神「状況もわからないし。いったいどうなってるんだ?」
女「そんなのあたしが知りたいよ……っ!」
死神「はあ? ユリと横井の名前を書いたのは、お前だろ?」
女「ちがうよっ! 昨日は先生の名前しか書いてないっ!」
死神「……たしかにないな」
女「まさか死神さん……っ?」
死神「俺もノートは持ってるが、俺には二人を殺す理由なんてない」
女「じゃあ誰が殺したの!? 誰が名前を書いたの!?」
死神「落ち着けよ。冷静にならなきゃ、なにもわからないぞ」
女「そんなの無理だよっ! 無理だよ……」
女「返してよ……返してよっ……うぅっ……ぐすっ……」
女「――あああああああああぁっ!」
死神(こりゃあしばらくは手がつけられないな)
「キラ事件の再来!?」
「いや、まだそうと決まったわけでは――」
「今後どうなるかなあ」
「またキラが現れたとしたら二年ぶり?」
「キラの劣化版?」
「俺はずっと待ってたけどな、キラだったら大歓迎」
「――キラがまた現れたんだ」
31:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
やっとキラ様復活きたか
32:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
でもこのキラって初代キラじゃないんでしょ?
33:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
そもそも初代キラとか言ってるが本当にキラって複数いるのか?
一年前に現れたキラは急な路線変更だったかもしれないだろ
34:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
路線変更wwww
まあ確かにキラ以外に誰が心臓麻痺で人殺せるんだって話だが
35:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
13年に現れたキラってLに人殺しって言われたとたん消えたよな
マジで謎だわ。まさか人殺しって自覚がなかったとかじゃないよな?
36:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
Lなんて最初にキラの居場所特定した以外は無能なのにえらそうだよな
特にこの前は電波ジャックして人殺しって言って終わりとかなめてるだろ
あれが世界一の探偵なら俺でも探偵できますわwwwww
37:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
>>36早く仕事探そうな裁かれるぞ
基本的に俺はキラの犯罪者裁きには賛成なんだが
こいつのせいでSNSの発展が妨げられたのが複雑だわ
39:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
SNSってFACEBOOKとかTwitterとかだろ?
当然じゃん 何で殺されるか分からんのにフェイスブックとかやる奴はアホ丸出しのイカレㄘんぽやろう
40:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
JKの画像漁りまくる俺の夢が・・・・
41:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
キラ様この人です>>40
42:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
ツイッターも写真機能ついてたのに誰も使わないもんな
ゆとりの未成年飲酒画像アップからの晒し→キラの裁きとか拝みたかった
43:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
>ゆとりの未成年飲酒画像アップからの晒し→キラの裁きとか拝みたかった
いくらゆとりでもそんなことする奴いねえよwwwwww
44:SHINIGAMI:2014/11/17(月)ID: ???
キラは復活しました
死神「いつまでそうやってベットに引きこもってんだ」
女「うるさい」
死神「泣いてたってなんにも変わらないぞ」
女「わかってるよ。そんなことぐらい」
死神「ようやくベッドから出る気になったか」
女「……ねえ、死神さん」
死神「なんだ?」
女「もしかしてデスノートって一冊だけじゃないの?」
死神「言わなかったか? 死神はノートを基本的に一冊は所持している」
女「じゃあ死神さんのノートを見せて」
死神「まだ俺のことを疑ってんのかよ」
女「これ、偽物とかじゃないよね?」
死神「ためしに名前を書いてみるか?」
女「……いい。じゃあ新しい死神が人間界に現れたってこと?」
死神「ユリと横井が本当にデスノートで殺されていれば、そうだろうな」
女「死神さんは、ほかの死神が見えるんだよね?」
死神「ああ。逆にお前は、俺以外の死神を見ることはできない」
女「それじゃあ死神さん――」
死神「俺にほかの死神を探せってか? 普通に考えて無理だろ」
女「……ああもうっ! じゃあどうすればいいの!?」
死神「そもそもお前は、ほかのデスノート所有者を見つけてどうする気だ?」
死神「探して殺す、か」
女「絶対に許さないんだから。絶対に見つけて、そして……」
死神「しかし、探すのはそんなに難しくなさそうだよな?」
女「……そうだよね。すくなくとも、あたしの学校について知ってる人には限定できるもんね」
死神「まっ、だとしてもお前には難しいだろうな」
女「また馬鹿にした。いいもん、絶対に見つけてやるから」
死神「どうやって?」
女「それは……まずはうちの学校の殺人についてどこまで情報公開してあるか、調べる、とか?」
死神「ほう」
女「そんな簡単に個人情報って手に入るのかなあ」
死神「死神の俺に聞かれてもなあ」
女「塾の勧誘とかで、住所と名前が勝手にバレてる、みたいなのならあるけど」
女「顔はさすがにわからないよね?」
死神「だから俺に聞くなっつーの」
死神「……ああ、だが俺も一つ気にかかっていたことがある」
女「なになに!?」
死神「あの秀才女、名前はなんて言った?」
女「前田さんのこと? あの人がどうかしたの?」
女「いいから早くっ!」
死神「……俺は学校にいるときはやることがないからな」
死神「常にお前のクラスメイトを見ていた。もちろん、前田も例外じゃない」
女「それで?」
死神「ヤツはよく授業中なんかに横井のことを熱心に見てたからな」
死神「俺はてっきりあの女が横井のことを好きだと思っていた。だが」
女「だが?」
死神「横井が死んだって担任が言っても、あいつは表情一つ変えなかった」
女「うんうん、それで?」
死神「それだけだ」
死神「……そうか、すまん」
女「それに、もし前田さんがデスノートを持ってたとするよ?」
女「それに……横ちんのことを好きだったとして、殺す理由はなに?」
死神「あー、そうか。たしかにそうだな」
女「死神さんも実はけっこうおバカなんじゃないの?」
死神「うるせえ。俺の場合、お前ら人間の価値観が微妙に理解できないだけだ」
女「そういうのって言い訳って言う……って、メールだ」
女「……」
死神「どうした?」
女「うわさをしたせいなのかな? 前田さんがうちに来るって」
秀才「突然ごめんなさいね。目、赤いけど大丈夫?」
女「うん。大丈夫だから気にしないで」
秀才「お母さんはいないの?」
女「今日は夜勤だから、もう家を出ちゃってるの」
秀才「そう、よかった」
女「よかった? なんで?
秀才「どうしても、渡辺さんとはクラスの殺人事件について話しておきたかったから」
女「殺人事件って……なに言ってるの?」
秀才「生徒が一人ずつ、しかも番号順に綺麗に死んでいく」
秀才「これが事件じゃないほうがありえないと思うけど?」
女「……」
女「でもなんでバカなあたしと、そんな事件のことについて話そうと思ったの?」
秀才「そうね。普段の私だったら、こんな話の話し相手にあなたは選ばない」
死神「すげえな。真っ向からバカにしてくるんだな」
女「じゃあ、今回は普通じゃないってこと?」
秀才「ええ。私ね、実は疑ってるの」
女「……どういうこと?」
秀才「今回の事件、あなたが引き起こしたんじゃないかって」
女「……!」
死神「これは面白い」
秀才「私ね、世間を騒がす事件や未解決事件について、考えたり調べたりするのが趣味なの」
秀才「それこそ、名探偵のようにね」
女「へ、へえ。初耳だね」
秀才「このことを知ってるのは世界で一人だけだもの」
女「……」
秀才「そして、今回のクラスの事件についても当然、私なりに考えた」
秀才「もちろん、自分のできる範囲内でいろいろと調べたわ」
女「……それで私を疑うようになったってこと?」
秀才「ええ。だって、かなり不可解なことがあるんだもの」
女「えっと、まあ、いちおうは」
秀才「三人とも事故死だったらしくてね。それで気になって、先生方に話を聞いたの」
秀才「一人だけ、『信じられないかもしれないけど』って前置きをして、私に二日前の出来事を話してくれたわ」
秀才「なんでも、あなたが『死神』なんてものを連れてきたって」
女「それは……」
秀才「先生方にはそんなものは見えなかった。ただし、例外が人いた」
秀才「例外……黒いノートに触れた三人の先生のことね」
秀才「そして黒いノートに触れた先生三人は、その日のうちに死んだ」
女「いちおう、見えた……ような気がする」
秀才「つまり、その死神とやらが見えた四人のうち、あなただけが助かったことになる」
女「それだけの理由であたしがあやしいって言いたいの?」
秀才「それだけじゃない」
秀才「先生たちに死神が見えたのは、ノートに触ったあと」
秀才「ところが、同じように死神が見えたあなたはどうだったかしら?」
女「あたし……」
秀才「あなた、先生に向かってこう言ったそうね?」
秀才「『知りませんし。そもそも見たことも触ったこともないです』って」
死神「やーるうっ」
秀才「言葉を舌にのせるなら、もうすこし吟味するべきなんじゃない?」
女「……し、死んだのは死神のせいだよ。あたしはなにも知らないっ」
秀才「もう一つ、私が奇妙だと思ったことを言ってあげる」
死神「まだあるのかよ」
秀才「殺しの順番について。どうしてクラスの死は、出席番号順だったのかしら?」
女「……あたしにわかるわけないでしょ」
秀才「知ってるくせに。殺しの順番、それを自分が最後にむかえるため、でしょ?」
死神「すげえ。完全に正解だ」
秀才「なにが目的でこんなことをしてるのか、それはわからないけどね」
秀才「ここまでで、なにか言いたいことはある?」
秀才「ないのね。じゃあこれがダメ押し」
秀才「今日は、クラスの人間は誰一人死んでないの」
死神「レミは昨日からベッドにこもって、シャーペンなんて一度も握ってないもんなあ」
死神「今日は当然、殺すべきヤツを殺してない」
秀才「あなた、横井くんが死んだショックで、今日はなにもしなかったんじゃないの?」
女「……そ、その……」
秀才「もっとも、キラの可能性も完全には否定できないけど」
女「キラ? キラってどういうこと?」
秀才「スマートホンでニュースを見ればわかるわよ、ほら」
女「……『心臓麻痺で14人の犯罪者が死亡、キラか』……なにこれ……!?」
秀才「キラに関しては、新聞の一面を飾ったていうのに」
女「知らない……こんなの知らない……!」
秀才「そもそもこの件は関係ないかもしれない」
秀才「とにかく、私はあなたが今回の事件の犯人だって疑ってるってことを言いに来たの」
女「……あ、あはは、すごいね」
女「前田さんの推理が本当に当たっていたら、だけど」
秀才「そうね。そして、あなたが本当に犯人だったら私は殺されるでしょうね」
死神「たしかに。レミ、出席番号なんて無視してコイツを殺しちまえば終わりじゃねえか」
女「そうだね。この状況なら前田さんを殺すだろうね――あたしが犯人だったら」
死神「どうするんだ?」
女「……」
秀才「だけど、私がなんの対策もせずにノコノコここに来たと思う?」
女「殺されないための対策でも練ってるの?」
秀才「ええ。そのためにちょっと大きい目のバッグを持ってきたの」
女「バッグ……」
死神「いいじゃないか。なかなか面白くなってきた」
死神「この勝負、どっちに転ぶか見届けさせてもらうぜ」
女「泊まる!? あたしの家に!?」
秀才「そのためのバッグよ」
女「じゃあそのバッグに入ってるのって……」
秀才「お泊まりセット。あなたの監視、それが私がここまで足を運んだ理由」
女「そんなことを急に言われても」
秀才「今日はお母様は仕事なんでしょう?」
秀才「明日はテストも宿題もないし、私が泊まって困ることはなにもないはず」
女「いや、でもさあ」
秀才「泊まるかわりに料理は作るし家事の類は全部やってあげる」
女「でもあたしと前田さんってそんなに仲良くないよ」
秀才「もしあなたが今回の件に一切関係なかったら、私は土下座でもなんでもします」
女「……わかったよ、もう。勝手にして」
秀才「では、おじゃまします。あっ、荷物はどこへ置けばいい?」
女「あたしの部屋でいいよ。部屋は二階の一番奥ね」
死神「完全にペースを握られてるな。お前らしいじゃないか」
女「うるさい」
秀才「え?」
女「ごめんごめん、今のはなにかのまちがい」
秀才「ふぅん。そっ」
女「あたし、トイレするから部屋に荷物置いといて」
死神「あの女、すげえな。ぶっとんでやがる」
女「非常識もあそこまでイクと逆に笑えるかもね」
死神「ていうか、用を足すなら俺は出たほうがいいんじゃないか?」
女「おしっこが目的じゃないの。ねえ、死神さん」
死神「あん?」
女「デスノートの所有権を放棄すると、具体的に記憶ってどうなるの?」
死神「そのことか。まず、デスノートに関しては完全に忘れる」
死神「もちろん自分がノートを使っていたってことも」
女「それって記憶に矛盾とか起きないの?」
死神「そこらへんはうまく記憶が再構築されるんだろ。俺も詳しくは知らない」
死神「おそらく今よりも、ユリたちを殺した犯人を探すのが困難になるだろうな」
女「やっぱりそうなるよね」
死神「それより、さっさとあの女をデスノートで殺したほうが早いんじゃないか?」
女「たしかに。操って殺すなり、自殺させたほうがいいのかも」
死神「そうなると今みたいに、あの女に見られないって状況を作る必要があるな」
女「それは難しくないよ。デスノートを前田さんの目を盗んでこっそり持っていく」
女「そしてトイレかお風呂に持って行って、あとは名前を書くだけ」
死神「……ん? なんか今、すごい音しなかったか?」
女「……まさか」
女「してないからいいのっ」
秀才「……あっ。思ったより早くあがってきたわね」
女「な、なにしてるの?」
女「ていうかあたしの部屋がメチャクチャなんだけど」
秀才「私、友達の家に来たら、工ッチな本がないか探すのが夢だったの」
女「本気で言ってないよね?」
秀才「もちろん冗談。安心して、散らかしたあなたの部屋は、きちんと掃除するから」
女「なにがしたいの?」
秀才「言ったでしょ? 私はあなたを疑ってるって」
秀才「容疑者の部屋は徹底的に調べる。それが探偵としての務めってものじゃない?」
秀才「逆に聞くけど。渡辺さん、あなたが犯人だったら?」
死神「いやあ、マジでこの女は厄介だな」
死神「大丈夫なのか? ノートを見つけられたら俺が見える、即アウトだ」
女「大丈夫――あたしはクラスの殺人には関わってないから」
秀才「そう。だったら祈っておく、私が土下座する結末を迎えられるようにね」
女「……」
秀才「……」
女「……ご飯、作ってくれるんだよね?」
秀才「お腹すいたの?」
女「うん。作ってくれるよね、約束したんだし」
死神「ノートは二階の空き部屋のポスターの裏、より正確に言えば、ポスターフレームの中」
死神「お前が考えたにしては、なかなかいい隠し場所だったな」
女「……あの人が料理してる間にノートを切り取って、そこに書く」
死神「これで終わりか。前田もここまで果敢に行動することはなかったのにな」
女「……」
死神「どうしたんだ? なにか引っかかることでもあるのか?」
女「本当に殺していいのかなって考えてるの」
死神「まっ、足りない脳みそで考えるんだな」
死神「それより、あの女がお前を見てるぞ」
女「……っ!?」
秀才「さっきから呼んでたのに返事がないから、呼びに来たの」
死神「嘘だぞ。この女、お前を呼んでなんかいないぞ」
秀才「べつに。なんで一人でいるのかなって気になったから呼んだだけ」
女「特に意味はないよ、うん」
秀才「そう、私を殺す策を練ってなくてよかった」
女「……あはは。ごめん、ちょっとトイレに行くね」
秀才「どうぞご自由に」
◆
死神「ノートのページも書くものもトイレに持ちこんだ」
死神「これでお前の勝ちか。もう終わりか、残念だ」
女「……あたしの勝ち」
死神「うおっ!?」
女「ぎゃっ!?」
秀才「……」
女「……な、なんで扉を開けたの?」
秀才「冷静に考えたら、あなたが犯人だったら一人にしちゃいけないって思って」
女「……」
秀才「そう思ったから扉を開けたの、十円玉を使ってね」
女「……トイレできないんだけど」
秀才「してないじゃない。しかも下着もおろしてないし」
女「こ、これからしようと思ったんだよ」
秀才「ふぅん。じゃあ見てるから、さっさと用を足してちょうだい」
女「は?」
女「だから前田さんに不快なものを見せちゃうから……ねっ?」
秀才「いいわよ。それで死ぬなんて馬鹿を見ないで済むんなら」
死神「なるほど。お前を徹底的に一人にしない気だな」
秀才「今日はもうあなたを一人にする気はないから。料理もいっしょにしましょうね」
女「さっきと言ってたことがちがう」
秀才「なに言ってるの? 料理は作るって言ったけど、一人でやるなんて一言も言ってないわ」
秀才「さっ、トイレを済まして手を洗って、二人で仲良く料理しましょ?」
死神「おしかったなあ、レミ。これじゃあコイツは殺せないな」
女「……」
秀才「それから。お風呂もいっしょに入ろうね?」
死神「マジで料理も風呂もトイレも絶えず、ずっといっしょにするとはな」
女「……なんかもう疲れた」
秀才「どうかした?」
女「べつに」
秀才「それにしても。相変わらずキラは犯罪者裁きをしてるようね」
女「……あたし、あんまりキラのこと知らないんだよね」
秀才「キラ。心臓麻痺で犯罪者を裁ける存在」
秀才「一時期は世界の犯罪の七割を消滅させて、戦争さえも終結させた」
女「へえ。すごいんだね」
秀才「善人にとっては理想の世界を築いてくれる存在よね、キラって」
女「善人にとっては、ね」
秀才「この犯罪者もずいぶんと逃げ回ってるみたいだけど、キラからは逃れられないでしょうね」
女「あのさ」
秀才「なに?」
女「なんでこういう危なそうな事件を調べたりするのが好きなの?」
秀才「好きだからよ。いちいち理由なんてない」
女「……そういえば横ちんも、こういう事件や犯罪にはいつも興味津々だったなあ」
秀才「……ねえ。全然話題はちがうけど、あなたって好きな人っている?」
女「いたけど、いなくなった」
秀才「……そう。じゃあ、仮にあなたに好きな人がいたとして」
秀才「その好きな人のために、あなたはどこまでできる?」
秀才「そのままの意味よ。好きなその人のために、あなたはどこまでの行動ができるか」
女「どこまで、とか言われても想像できないよ」
女「あたし、彼氏とかいないし」
秀才「私は私の好きな人のためなら、死ねるかも」
女「……死ねる?」
秀才「そう、好きな人のためなら、自分の命を賭けられる」
秀才「それに、その人が望むのなら、人を殺すことだってきるかも
女「あたしは……あたしも好きな人を自分のものにするためならしちゃうかも」
女「人を殺すことぐらいなら」
秀才「物騒だこと」
女「そっちが先に言い出したんじゃん」
秀才「意外と私たち、気が合うのかもね」
女「あはは、かもね。あんまり嬉しくないけど」
秀才「……さっ、そろそろ寝ましょ」
女「寝るのもいっしょに寝るんだよね?」
秀才「なにを今さら。いっしょのベッドでね」
女「はぁ、まあいいけど。でも明日はどうするの? まさか明日まで……」
秀才「その心配の必要はない。だって」
秀才「――明日にはだいたいのことは明らかになるから」
女「……うぅ」
死神「ずいぶん眠そうだな」
死神「まっ、無理もないか。昨日はずっとベッドで前田が見張ってるんだもんな」
秀才「……」
死神「そして教室にいる今でさえ」
死神「運が悪いことに前田の席からはお前は観察しやすい」
女「……」
死神「死神筆談するにしても、授業までは待たなきゃダメっぽいな」
死神「しかし楽しみだな。いったい今日でなにが判明するのか」
担任「では出席をとります」
担任「どうした、渡辺?」
女「あたし、なんか目が悪くなった気がするんです」
女「だから、今日だけ席を変えてもらうのってダメですか?」
担任「急な話だな」
秀才「先生、それなら三時間目の道徳の時間に席替えをすればいいんじゃないですか?」
担任「そうだな。席替えは気分転換にもなる」
担任「とりあえず渡辺は、隣にノートを見せてもらってくれ」
女「……もうっ」
死神「やっぱりお前より、あっちのほうが一枚も二枚も上手だな」
死神「今日も死んでない連中は登校してんだな。ご苦労なこった」
女「……しまった」
死神「どうしたんだ?」
女「そういうことだったんだ……!」
死神「おいおい、なにひとりでブツブツ言って――」
担任「だ、誰ですか……!?」
「ひっ!? な、なに!?」
「ほ、包丁!?」
不審者「そこから一歩たりとも動くな」
女「あの人……どこかで見たことがあるような……」
死神「けっこう前から逃亡し続けてるっていう」
女「なんでそんな人がうちの学校なんかに……!」
不審者「お前らぁ! 動くなよ、絶対に動くなよ」
担任「お、落ち着いてください。こんなことをしても……」
不審者「だまれっ! 動くなと言ってるだろうが!」
担任「……っ」
不審者「そうだな、余計なことをされても困る。人質をとるか」
不審者「その窓際の席のお前だ」
女「……あたし?」
女「な、なんで!?」
不審者「いいから早く来いって言ってんだよっ!」
女「そ、そんな……」
死神「ノートを切り取ったものは持ってるんだろ?」
死神「ヤツの名前を書けばいいじゃないか。コイツの名前なら一瞬だ」
女「あの人の名前はたしか『林一(はじめ)』……」
不審者「なにしてやがんだ!? 早く来ねえかっ!」
女「……っ」
死神(レミが筆箱からペンと忍ばせておいたノートの切れ端を取り出す)
死神(男が慌ててレミに向かってくる)
女「ひっ……!」
死神(だが、その男はレミにたどりつくことはなかった)
不審者「うっ……!」
女「え?」
不審者「はっ……ああぁ……ぐぁっ……!」
女「な、なんで? あたしまだ名前、書き終わってないのに」
死神(床にたおれた男は白目をむいてすでに絶命していた)
女「ど、どうなってるの……?」
死神「俺じゃない。死神は人間のためにノートを使うような真似はしない」
死神「人間の寿命がのびる可能性があるなら、なおさらだ」
女「じゃあ誰が?」
死神「わかるわけがない。ただ」
女「?」
死神「あの女はずっとお前だけを見ていたぞ、こんな状況でもな」
秀才「……」
女「……!」
秀才「よかった、渡辺さんに万が一のことがなくて」
女「そうだね。あたしも安心したよ」
秀才「まっ、さすがに今日は学校も中止になっちゃったけど」
女「……あのさ。昨日前田さんが言ってたこと、話してくれないかな」
秀才「ああ、そのこと? そうね、真実を語るにはちょうどいい場所だし」
死神「ちょうどいい場所って、ただの学校の屋上じゃねえか」
秀才「昨日の夕方から今日まで、私はあなたをずっと見張っていた」
秀才「あなたは行動の全てを私に見られていた。そのせいで、今日はあることが起こった」
女「あることが起こった?」
秀才「いいえ、起こらなかったと言うべきかしら?」
秀才「へえ。気づいてたんだ」
死神「たまたまだろうが、お前にしてはすごいじゃないか」
女「……あのねえ」
秀才「あなたは私に見張られていたせいで殺しを行えなかった」
秀才「そういうふうに私は考えてるけど。あなたはどう考えてるの?」
女「当然、偶然だと思ってるよ」
秀才「偶然、都合のいい言葉ね」
秀才「もう一つ。私、あの逃亡犯を殺したのは、あなただと思ってる」
女「……なにを根拠に言ってるの?」
秀才「あれって殺しのための準備だったんじゃないの?」
女「なに言ってるの? それでどうやって人を殺せるっていうの?」
秀才「さあ? 殺しの手段までは、私にはわからない」
女「殺したのはキラかもしれない。あの人は犯罪者だったんだから」
秀才「昨日、私はきちんと説明したはずよ。キラは心臓麻痺でしか死なないって」
女「……どういうこと?」
秀才「あとから聞いたの。あの逃亡犯、心臓麻痺で死んだんじゃないのよ」
女「え?」
死神「言われてみると、たしかにあの死に方は心臓麻痺のそれじゃないな」
女「……」
秀才「心臓麻痺以外。なら、キラじゃないでしょ?」
女「……やっぱり」
秀才「やっぱり?」
女「あたしね、ずっと前田さんに違和感みたいなものを感じてた」
女「今、その正体がわかった気がする」
秀才「違和感? なんのことよ?」
女「前田さん、あたしが犯人だって思った根拠を昨日、説明してくれたよね?」
女「そのとき、前田さんはこんなことを言ったよね?」
女「先生たちは事故で亡くなったって」
女「それだけだったら、あたしもなにも思わなかった」
女「でもさ、前田さんが言ったんだよ」
女「『もっとも、キラの可能性も完全には否定はできないけど』ってね」
秀才「それがなんだって言うの…………あっ」
女「そう。キラは心臓麻痺で人を殺す、それは前田さんが口にしたこと」
女「なのに、どうして事故で死んだ先生たちをキラと結びつけたの?」
秀才「そ、それは。……だって、人が連続で死ぬから、それで……」
女「それだけじゃない。前田さん、あたしに向かってはっきりと言ったよね?」
女「『今回の事件、あなたが引き起こしたんじゃないかって』って」
女「前田さんはこう言ったでしょ?」
女「『あなた、横井くんが死んだショックで、今日はなにもしなかったんじゃないの?』って」
秀才「……」
女「おかしいよね、この発言」
女「横ちんを殺したのがあたしだと思ってる人の口から、出てくる言葉じゃないと思うんだけど」
秀才「……ふっ、ふっ、ふふふ」
死神「不気味な笑い方をするなあ、この女」
女「……あたし、前田さんがあたしの席の交換を妨害したのは、監視のためだと思ってた」
女「でも本当の目的は、べつにあった」
女「……あなたも知ってるんでしょ? いや、持ってるんでしょ?」
死神「持ってるって……おいおい。マジかよ」
秀才「ふっ、ふふふ。まさか、あなたなんかにバレるなんてね」
女「席替えを阻止したのは、私がノートを持っているか、確認するためのジャマになるから」
女「前田さんは逃亡犯をノートで操った。うちのクラスに来たあと、人質をとるように」
女「人質の細かい設定は、席の場所でも書いておけばいい。あたしの言ってること、まちがってる?」
秀才「その発言、自分の首も絞めてるけど大丈夫?」
女「今さら隠しても、もうお互いに手遅れでしょ?」
秀才「そう。あなたの言うとおりね」
秀才「指摘のとおり。私も持ってるのよ――デスノートをね」
秀才「決まってるでしょ。この目ではっきりと確かめるためよ」
秀才「あなたが追いつめられてノートを使う瞬間をね」
女「ノートには名前を書いてないよ」
秀才「そうね。ノートの切れ端に名前を書いても人が死ぬなんてね」
秀才「さっきまで知らなかったわ」
女「……目的はなに?」
秀才「クラスの連続殺人の犯人を突きとめる。それ以外にあると思う?」
秀才「警察がデスノートを信じるか、そこが問題だけど」
秀才「ねえ、どうしたらいいと思う?」
女「その前に聞かせて」
秀才「なにを?」
女「ユリと横ちんを殺したのはあなたなの?」
秀才「私はこう言ったのよ?」
秀才「犯人を突きとめるために、あなたにあの男を仕向けたって」
女「じゃあ誰があの二人を!?」
秀才「まあいっか。今さらとぼけても無駄だし。これを見なさい」
女「……デスノート?」
秀才「そう。そして、ここに書いてある名前はなーんだ?」
秀才「正解。ただし、あと一画だけ残してある状態」
女「……」
秀才「すごい顔だこと。そうよね、デスノートに名前を書かれた人間は死ぬ」
秀才「ノートに名前を書いたことがある人間なら、それは死ぬほど理解できてるはず」
女「ま、待って!」
秀才「命乞いするの? 人の命を奪ったくせに?」
女「それは……」
秀才「警察があなたを裁けない可能性がある。なら簡単、私があなたを裁けばいい」
女「そ、それじゃあ、あなただって人殺しに……!」
秀才「いっしょにしないで。私はあなたを殺すんじゃない、裁くのよ」
秀才「このノートにあなたの名前を刻むことでね」
女「あっ……」
秀才「これであなたの名前はノートに書かれた。あとは死ぬだけ」
秀才「せいぜい死ぬまでの40秒を堪能しなさい」
女「そ、そんな……」
秀才「残り35秒、嘘、本当は30秒」
秀才「安心して。死んだとしても、あなたの罪を立証するのは難しい」
秀才「あなたは被害者になる。よかったじゃない、世間にあなたの殺人は知られないわよ」
女「……死神さん、おねがいがあるの」
死神「なんだ?」
女「わかってる。だから……あの人からノートを奪って」
死神「……まっ、いいだろう」
秀才「死神? なにを言ってるの? そんなものが……な、なに!?」
秀才「な、なんでノートが!?」
死神「俺の姿はお前には見えないからな。まっ、同じように声も聞こえないわけだが」
死神「で、ノートをどうするんだ?」
女「こうするんだよ……!」
秀才「無駄よ! デスノートは絶対にあなたを殺す! あと3秒……!」
女「……そうだよ。あたしは死ぬんだよ」
女「でも、その死を引き伸ばすことはできる」
女「デスノートは死因を書けば、さらに死に関して細かい設定ができる」
女「それはノートを使ったことがある前田さんなら、当然知ってるよね?」
秀才「……」
女「これで私は、今すぐには死なない」
秀才「ふぅん。それでもあなたは、死ぬことを避けられないけど?」
女「……私ね、私以外に殺人を行った人を探してるの」
秀才「この期に及んで、まだそんなことを言ってるの? 犯人のくせに」
女「あたしは横ちんとユリを殺したのは、前田さんだと思ってる」
秀才「呆れた。まさか私に罪をかぶせようとするなんてね」
女「前田さんをノートで操ってもいいんだよ?」
秀才「私を操る? ……ふっ、ふふふ……」
秀才「なら、ためしてみれば?」
女「言っておくけど、脅しじゃないよ?」
女「あたしは犯人を本気でゆるさないから」
秀才「ふっ、人殺しがなに言ってんだか」
死神「お前も立派な人殺しだけどな」
秀才「いいわよ、書きなさいよ」
女「……」
秀才「私はデスノートじゃ殺せない。それだけは判明するだろうから」
女「デスノートで死なない?」
秀才「ええ、絶対にね」
死神「聞いたことはある。どんな手段かは全くわからないが」
秀才「どうしたの? そのノートに書かないの、私の名前?」
死神「単なるハッタリってわけじゃないみたいだな」
女「……だったら、書いてあげる」
『前田清美』
秀才「死の詳細は書かなくていいの?」
女「死なないんでしょ? だったら書く必要はないよ」
秀才「そう。……あと30秒」
女「……」
死神「……」
秀才「……」
死神「これで死んだら傑作なのにな」
秀才「あと5秒……」
死神「あと3秒」
女「……」
秀才「ふふっ、ふふふ。ほら、私は死な……」
女「え?」
秀才「ひっ……ぐっ……な、なんで……!」
秀才「な、名前を……書いてもっ……死なないのは……しょ、証明……あぁぁっ……」
女「ま、前田さん……?」
死神「完全に死んでるぞ、前田のヤツ」
女「そんな……自分は死なないって言ったのに……」
死神「しかし、なんでそんな勘違いをしたんだ?」
女「……あたしに聞かれても、わかんないよ」
死神「おいおい、大丈夫か? 急に座りこんだりしてどうした?」
女「こ、腰が抜けちゃった」
死神「……まあ、死にかけたうえに前田まで死んだからな」
女「それより、ノートを確認しないと」
死神「なんのために?」
女「名前。前田さんのノートに書かれた名前を確認する」
死神「なるほど」
死神「本当だな。数人分は書いてあるが、あの二人の名前はないな」
女「なにがなんだかわからない……」
死神「お前はもともとアホだし、予想外の展開が来たからな」
女「……」
死神「どうするんだ? このままここにいると、お前、ヤバイんじゃないのか?」
女「おかしい。なんでこれ……」
死神「おい、聞いてんのか?」
女「ちょっと待って。なにかわかりそうな気がする」
死神「わかる? わかるってなにが?」
女「……一言で言うと、真実」
死神「……そういうことか。たしかに、納得は行くな」
女「でしょ? あたしなりに一生懸命に考えてみたよ」
死神「お前は意外と頭は悪くないかもしれない」
女「あはは、今さら気づいたの? そうだよ、実はあたしってば頭いいんだよ」
死神「いや、やっぱりバカだな」
女「……」
死神「レミ?」
女「なんか疲れちゃったな」
死神「……」
女「あたしったら、なんでこんなことしてんだろ?」
死神「デスノートを使ったからじゃないのか?」
女「たぶん、それが正解なんだろうね」
死神「そういえば、聞いたことがあるな」
死神「デスノートを使った人間は不幸になる、ってな」
女「あはは……当然だよね。人を殺してるんだもん」
死神「急にどうしたんだ?」
女「……死神さんは、あたしがデスノートで誰を最初に殺したか、知らないんだよね?」
死神「……言われてみりゃ、まだ聞いてなかったな」
死神「父親を?」
女「お父さんは最低な人でさ。お母さんに毎日のようにヒドイことしてたの」
女「あたしも殴られたりしたけどね」
女「お母さんはいつもあたしをまもってくれた」
死神「……それで、ついにデスノートに書いたのか」
女「うん。全然信じてなかったけど、『どうかお父さんが死にますように』ってねがいながらね」
死神「まっ、結果から言えば、デスノートはお前のねがいを叶えたわけだ」
女「うん。そのせいなのかな?」
女「デスノートを使えばねがいが叶う。そんなふうに勘違いしちゃったみたい」
女「そうだね。でも、バカなあたしでもわかることがあるよ」
女「人を殺すのはイケないことだって。死んで償わなきゃダメなことだって」
死神「おい、そっちは危ないぞ」
女「死神さん。死神さんは見ためはコワイし、あたしのことバカにしまくりだったけど」
女「けっこう好きだったよ」
死神「……おう」
女「死神さんに会えてよかった。本気でそう思ってる」
死神「お前……」
女「もう好きな人はいなくなっちゃったし」
女「それにこのまま生きてたら、お母さんに迷惑かけちゃう」
女「――だから、さようなら」
死神「……どういうことだ?」
死神「なぜノートに日付は書いたのに、それよりも先に死んだ?」
――キイイィッ
死神「……?」
「キヨミは殺されたんだね」
「そして、おそらくキヨミを殺してたであろうレミは、自殺」
死神「お前は……」
「ノートはバッグに入ってるかな? あったあった、これか」
死神「……どうしてここにいる?」
「再開した直後なのに、ひどいなあ」
死神「……『横井テル』」
死神「いや、俺はお前が死んだって聞いたんだがな」
男「まあね。死んだフリはしてたし、当然と言えば当然の反応か」
死神「ついでに。お前もひさしぶりだな、シドウ」
死神2「ねえ……もう俺、死神界に帰りたいんだけど」
男「そうだね。もうレミのノートが手に入ったし」
男「シドウのノートは必要ない。帰っていいよ」
死神2「やったー。……あ、でも最後にチョコが食べたかったな」
男「帰りに僕の家の棚から、見つからないよう持っていけよ」
死神2「じゃ、そうする」
死神「……」
死神「俺にはなにがあったのか説明してくれるんだよな?」
男「もちろん。その前に、どうだった?」
死神「なにがだ?」
男「レミとキヨミの対決は、見てて面白かった?」
死神「……まっ、刺激的だったのは否定しない」
男「すこしでもキミが楽しめたならよかった」
死神「で? 前田が死んだのも、レミが死んだのも、全部お前が仕組んだんだよな?」
男「全部ではないね。まあでも、うん、だいたいは仕組んだとおりかな」
男「たとえば、レミにボロを出させたあたりとか」
男「キヨミに自分はデスノートでは死なないって、勘違いさせたりとか」
男「そこらへんは狙いどおりだったよ」
男「難しいことじゃないよ。レミに憑いてたキミなら、聞いてたはずだ」
男「僕とレミの会話をね」
男『このままだとうちのクラスだけ、お休みになっちゃうかもね』
女『どうして?』
男『クラスで五人も死んでるんだよ?』
男『さすがに先生たちも、なにか対策を練ろうとするんじゃないかな?』
男「……ほら。このとおり、僕がレミをけしかけたのさ」
死神「なるほど。あいつはまんまとお前の言葉に乗せられたわけか」
男「もっとも、あんな行動に出るとは予想外だったけど」
男「おかげでレミとキヨミの対決は、想像よりずっと早くなった」
男「そうだよ。親友が死ねば、レミは突拍子のないことをしてくれるんじゃないか」
男「そう期待してノートに名前を書いた」
男「さらに、好きだった僕の死が重なれば、もっと面白くなると思ってね」
死神「……」
男「おっと、僕は途中からは死んでたからね。レミが具体的になにをしたのか」
男「先にそっちを教えてほしい。事情を知ってる方が、こっちも話しやすい」
死神「いいだろう、教えてやるよ」
男「まちがいない。デスノート、これは本物だ……!」
男「信じられない。だがこれは本物だ……!」
死神「そうだ。そのノートの効果は本物だ」
男「……ひっ!? な、なんだお前は!?」
死神「俺はそのノートの落とし主の死神だ」
男「ひいいっ! こ、来ないでっ!」
男「すみませんすみません! 勝手にノートを使ったことは謝りますっ……!」
死神「ビビりすぎだろ」
男「ほ、ほほほ本当に悪気はなかった……ゆ、ゆるして……!」
死神「……安心しろ。俺はお前になにもしない」
男「嘘だっ!」
死神「……」
死神「いや、だから……」
男「死にたくない、死にたくない、死にたくない……」
死神「俺はお前に危害を加えることは、絶対にしない」
男「そんな恐ろしいナリしたヤツの言葉、信じられるかっ!?」
死神「いや、本気でお前をどうこうするつもりはない」
男「……本当に?」
死神「ああ、本当だ」
男「……本当なんだな?」
死神「ああ。死神は嘘をつかない。だからそんなにビビるな、驚くな」
男「……驚いてないよ。いや、待っていたよ、キミを」
死神「……さすがにそれは無理があるだろ」
男「……僕はこのノートで、すでに二人の人間を死に追いやってる」
死神「だから?」
男「人の命だぞ。それを二つも奪ったんだ、この僕が」
男「そして死神。キミが現れたことで、僕はそのことをより実感せざるを得ないんだよ」
死神「めんどくせえな。だったらノートを俺に返せ」
男「ノートを返したら、いったいどうなる?」
死神「俺がお前の前から消える。お前のデスノートに関する記憶といっしょにな」
男「やっぱり、そのほうがいいのかな」
死神「……なんだよ。せっかくキラみたいなのを期待してたのに」
男「キラって、あのキラのことか!?」
男「それはこっちのセリフだよ。死神の間でもキラは有名なの?」
死神「人間がデスノートを使って、あれだけ大量に人を殺した例はなかったからな」
男「……やっぱり、キラはデスノートを使って殺しを行ってたんだ」
死神「気づいてたのか」
男「うん。ルールに『心臓麻痺』ってあったからね」
男「……ってことは知ってるのか、キラについて」
死神「まあな。キラに憑いていた死神とは、いちおう知り合いだからな」
男「じゃあキラのことを知ってるんだな!?」
死神「お、おう。どうしたんだよ急に?」
男「キラについて、なんでもいい、教えてほしい」
死神(なんだコイツ)
男「……キラはとっくに死んでたのか」
男「しかもLはキラに殺されていて、今はちがう人間がLをやっている、か」
死神「キラに憑いてた死神、名前はリュークっていうんだが、そいつから聞いた話だ」
死神「まっ、詳しい内容はめんどくさがって教えてくれないけどな」
男「僕と会ってくれたりはしないってことか」
死神「ああ。人間界には満足したんだろうな」
男「当然の反応だね」
死神「当然?」
男「キラとL。二人の天才の争いを間近で見たんだ」
男「これより面白いことがあるか、いや、あるわけがない」
男「こだわるよ。キラだよ?」
死神「そう言われてもな。死神の俺には、人間のお前の感覚はわからない」
男「一時期は世界の犯罪の七割を減少させた。それだけじゃない、戦争さえ終わらせた」
男「一人の人間がこれだけの成果を収めたんだ」
死神「ノートがあれば可能なんじゃないのか?」
男「無理だ、普通の人間には」
死神「そうか? 名前を書くだけだぞ」
男「考えてもみてよ。犯罪者を調べて、毎日のようにノートに名前を書く」
男「これを続けるだけでも、普通に生活をしていたら困難だ」
男「だろうね。死神は働かないうえに、食事や睡眠も満足にとらないんでしょ?」
死神「ああ。それにノートに名前を書きこむことも、ほとんどしない」
男「ふっ、理解できないわけだ」
死神「……」
男「しかも捕まるかもしれないって恐怖が常に付きまとうんだ」
男「精神的にも相当こたえるはずだよ。相手はあのLだったわけだし」
死神「Lってヤツはすごいのか?」
男「……キミにいいものを見せてあげるよ」
死神「ほう」
死神「なんだこれは?」
男「Lが日本の関東地区にキラがいるってことを証明した映像だよ」
男「ほんと、すごすぎる」
死神「たしかに。死ぬかもしれないっていうのに、よくこんなパフォーマンスができるもんだ」
男「凡人だったらまずキラを特定できない」
男「そして、たとえ特定できたとしても。こんなふうにキラに挑むなんてことはしない」
死神「……お前、ずいぶんLを高く評価してるんだな」
男「評価? Lは僕ごときが評価できるような存在じゃないよ」
男「Lはあと少しってところまでキラを追いつめたんでしょ?」
死神「リュークから聞いた話が本当だったらな」
死神「そんなにうらやましいのか?」
男「あの二人の直接対決が拝めるなら、寿命の半分ぐらいだったら捨てるかもしれない」
死神「……」
男「僕は事件ってヤツが好きでね」
死神「は?」
男「事件ってものには、人を魅了するだけの力がある」
男「そして、そんな事件には魅力的な犯人と探偵が必ずいるんだ」
男「僕にとって、キラとLはまさにその魅力的な犯人と探偵なんだよ」
死神「……お前、変なヤツだって言われたことないか?」
男「僕が? 真面目だね、ならよく言われるけど」
死神「……そうか」
男「……これもなにかの縁だ。使わせてもらうよ」
死神「ほう。キラとLのことを熱弁してるうちに気が変わったか?」
男「まあ、そんなところかな」
死神「ってことは、デスノートを使って犯罪者裁きをするのか。キラみたいに」
男「言ったはずだよ。僕は凡人だ、キラの真似なんてできないってね」
死神「じゃあどうするんだよ?」
男「……デスノート、今何冊もってる?」
死神「ノートはお前が手にもっているそれだけだ」
男「じゃもう一冊、用意することはできないかな?」
死神「できないことはないが。なんでだ?」
死神「ああ。下界は死神界より刺激が多いって聞いたからな」
男「デスノートが二冊あれば、刺激はさらに増えるよ」
死神「……いいだろう、用意してやるよ」
男「よし、契約は成立だ。さてと……」
死神「ノートを広げたってことは、名前を書くのか?」
男「そうだよ。ノートの効果がどれほどのものか、ためしておきたいからさ」
男「だけど、人の命……いや、もう僕は二人も殺めたんだ。今さら……」
死神「なにブツブツ言ってんだ?」
男「……なんにも。誰を殺すか、考えていただけだよ」
死神「なあ」
男「なに?」
死神「ここ数日間、お前はいろんなアパートのポストを覗き見してるが、なにが目的なんだ?」
死神「しかも、自分の家の広告チラシを突っこむなんて。俺には意味がわからない」
男「いずれわかる。あっ、前田さん」
秀才「……横井くん。今日はもう帰り?」
男「うん。やっぱり前田さんは、放課後は塾?」
秀才「うん。来年からは受験だし、今のうちから勉強しとかないと」
男「うちも最近はお母さんがうるさくてね。困っちゃうよ、はは」
秀才「とか言って、横井くんは全然勉強できるくせに」
男「どうだった?」
秀才「すこし読んでて気持ち悪くなったけど、最後の数行には驚かされたわ」
男「そっか、嬉しいな」
秀才「嬉しい?」
男「まわりに推理小説を読む人がいないからね」
男「こうやって趣味が共有できるのって、やっぱり楽しいよね」
秀才「……よかったらまた本を貸してくれる?」
男「もちろん。前田さんが気に入りそうなものを用意しておくよ」
秀才「ありがと。それじゃ、私は塾があるからまたね」
男「うん」
死神「ずっと後ろから見てるヤツがいる」
男「……そこにいるのは誰?」
女「あっ、バレちゃった?」
男「レミ。コソコソとなにやってるの?」
女「いやあ、特に理由はなかったんだけどさ」
男「苦手な前田さんと僕がしゃべっていて、話しかけづらかったんでしょ?」
女「あはは、正解」
男「そうだ、いっしょに帰るでしょ?」
女「……まっ、どうしてもいっしょに帰ってほしいなら?」
男「はいはい。いっしょに帰ってほしいです」
女「仕方ないなあ、それじゃあいっしょに帰ってあげる」
女「悪人は殺してもいいか、だっけ?」
男「そう、それ」
女「なんか変なふうに盛りあがってたね」
女「ていうか、学校の授業でああいう話題をとりあげるなんて思わなかった」
男「……レミはさ、どう思ってる?」
女「え? 急にどうしたの?」
男「ちょっと気になったんだ。悪いことをした人間は死んだほうがいいのかって」
女「……あたし個人はそのほうがいいかも」
男「……そっか」
女「あっ、べつに深い意味はないからね。気にしないでっ」
男「どうだろ? 物事っていろんなケースや見かたがあるからね」
男「一概には言えないかな」
女「なにその答え。ずるくない?」
男「ごめんごめん。でも人間なんだからさ、ついつい人を殺したくなることもあるよね」
女「横ちん?」
男「……なんちゃって。冗談だよ」
女「びっくりした。すごい真面目な顔してるんだもん」
男「それより、やっぱり横ちんってやめてよ。恥ずかしいよ」
女「大丈夫だって。なるべく二人っきりのときにしか言わないから」
男「そういう問題じゃないんだけどな」
死神「帰宅してすぐにノートを開くから、てっきり殺しでもするのかと思ったら」
死神「なんでデスノートに英語を書いてんだ?」
男「デスノートはいくら使ってもなくならないんだ、勉強にぴったりだろ?」
男「それに、ノートを埋めるこの英文は後々役に立つ」
死神「ほう、期待してもいいのか」
男「たぶんね」
死神「だけどお前、この一週間はいろんなヤツを事故死やらなんやらで殺してるが」
死神「もっと派手にやればいいじゃないか」
男「僕はノートの使い方を把握するために名前を書いてるんだ」
男「それにキラのように心臓麻痺で犯罪者を殺すわけにはいかない。まだそれには早い」
死神「なに?」
男「キミのノートの次の持ち主は渡辺レミだ」
死神「レミ? ああ、今日お前と下校した女子か」
男「そう。彼女にこのデスノートを渡してくれ」
死神「だが、そうしたらお前はノートも記憶もなくなるぞ?」
男「そのためにデスノートをもう一冊用意するんだよ」
死神「……なるほど。だがそうなると、一回お前はノートの所有権を放棄する必要がある」
男「死神界に戻るためだろ? そんなことはわかってる」
死神「ついでにお前が次に手にするノートには、新しい死神が憑く。それでもいいんだな?」
男「問題ない。かまわないよ」
男「うーん、理由はいくつかあるけど。一番は馬鹿だから、かな」
死神「……」
男「下手に優秀な人間にもたせると、僕が行動を把握できなくなる」
男「それにノートを使わない可能性がある」
死神「……なんていうか、お前ってけっこう性格悪いんだな」
男「今さら気づくなんて遅すぎだよ」
死神「だがいいのか?」
男「ん?」
死神「お前にとっては身近な存在で、顔も名前も知られてるんだぞ」
男「大丈夫だよ。彼女は僕を絶対に殺さない」
男「根拠がしっかりあるからね」
死神「……まあいい。とりあえずお前の判断で、俺は死神界に戻ればいいんだな?」
男「そういうこと。ただし、さっさと戻ってこいよ」
死神「ったく、死神使いが荒いな」
男「たまにはいいだろ、今まで怠けてしかいないんだし」
死神「……お前、ノートに名前を書くぞ」
男「え?」
死神「……冗談だ。そんか顔をするな」
男「わ、わかってるよ」
死神「わかってなかっただろ」
男「うるさいっ」
男「――で、ここまでは知ってのとおりだ」
死神「あのあと死神界に戻って、俺は自分のノートとシドウを人間界に連れてきた」
男「そして僕がシドウからノートを受け取り、キミはレミにノートを拾わせた」
男「まあレミがあんなふうにノートを使うとは、さすがに予想できなかったけど」
死神「俺が知りたいのはその先だ」
男「わかってるよ」
死神「特に前田キヨミが、どうして自分は死なないって勘違いしたのか、それが知りたい」
男「オッケー。じゃあまずはそこから説明しよう」
死神「……信じたのか?」
男「デスノートのことを話した日、彼女とは裁判に行ったんだ」
死神「傍聴ってやつか」
男「で、実際に彼女の目の前で犯罪者を殺したんだ。その場でノートを使ってね」
死神「それで前田は信じたってわけか」
男「そうじゃなくても、僕は基本的には真面目なヤツで通ってるからね」
死神「簡単に信じてもらえたってわけか」
男「そういうこと。そして――」
男「このノートのルールは、今説明したとおりだ」
秀才「じゃあクラスで起きてる殺人も、ひょっとしてこのノートが……?」
男「おそらく、デスノートだ」
秀才「……名前を書かれた人が死んでしまうノート」
秀才「こんなものが世の中に存在するなんて……!」
男「……」
秀才「横井くん?」
男「……僕は興味本位でこのノートを使って、二人の人間を殺してしまった」
男「そして今日、三人目の犠牲者を出した」
男「だけど。それでも前田さんにだけは信じてほしかったんだ」
秀才「……え?」
秀才「私は最初から、あなただけは疑ってなかった」
秀才「横井くんみたいな真面目な人が、人殺しを進んでするわけないもの」
男「前田さん……ありがとう。よかった、信じてもらえて」
秀才「……私も嬉しかった」
男「え?」
秀才「ううん、なんでもないの」
秀才「それより、私にこのノートのことを説明したってことは……」
男「うん。僕は今回の事件の犯人を探そうと思ってるんだ」
秀才「それで私の協力を得るために、ノートのことを話した。そうでしょ?」
男「うん。あと、僕はもう犯人の目星をつけている」
秀才「……本当に?」
秀才「渡辺さん……!?」
男「彼女はこのデスノートに似たノートを持っていた」
男「それだけじゃない。殺されていく順番は出席番号順。つまり――」
秀才「――渡辺、番号順では最後……!」
男「でも、これだけではさすがに根拠としては弱い。だから仕掛けてみようと思う」
秀才「……どうする気なの?」
男「それは言えない」
秀才「どうして?」
男「前田さんに協力してほしいっていうのは、まぎれもない僕の本心だ」
男「だけど一方で僕は、キミを危険な目に合わせたくないと思っている」
秀才「……」
男「だけど」
秀才「私は横井くんのためだったら、なんでもするつもり」
男「……」
秀才「……あっ、い、今のは忘れてっ」
男「ばっちり聞こえちゃったけど、聞こえなかったことにしておくよ」
秀才「……ばか」
男「はは……実は一度ノートについてレミに聞こうとしてね」
男「それ以来、レミには警戒されてるんだ。だから……」
秀才「わかってる。渡辺さんは私が調べる」
男「横井さんならそう言うと思った。だけど、レミが犯人なら危険だ」
男「だから、ノートに名前を書かれても死なない方法を教えるよ」
男「実はノートの説明欄にはこんなルールが書いてある」
秀才「これは……英語で書いてあるけど、どういう意味なの?」
男「『ノートに記入する名前を一度でも間違えた場合、
以降、その名前を書かれた人間はノートでは死ななくなる』」
男「『ただし、このルールが適用されるのは二人まで』」
男「『また故意に間違えて名前を記入しようとした場合、このルールは適用されない』」
男「『しかし、名前を記入するのが本人でなければ、わざとまちがえてもこのルールは適用される』」
男「……人殺しの事実に耐えられなくてね」
男「一度、僕は自殺しようとしたんだ。このノートを使って」
秀才「そんな……」
男「だけど結局は死ぬことが怖くなって、きちんと自分の名前を書けなかった」
男「ああ。だけど前田さんからしたら、やっぱり怖いんじゃない?」
秀才「そ、そんなことは……」
男「無理しなくていい。僕だってキミの立場なら、怖くて仕方がない」
秀才「……」
男「だから、デスノートに僕の名前を書く。それで死ななければ、信じてくれる?」
秀才「そんなことして本当に大丈夫なの?」
男「大丈夫だよ。あっ、いちおうこのノートが本物だって、確かめてくれる?」
秀才「傍聴席で書いたノートと同じね。あの容疑者の名前もある」
男「……それじゃ、書くよ」
秀才「……」
秀才「……もう一分以上経ってる」
男「これで証明はできた。信じてくれるよね?」
秀才「……はじめから信じてたけどね」
男「もちろんわかってるよ。だけど、どうしても行動で示しておきたかった」
秀才「やっぱり横井くんって真面目なんだね」
男「それしか取り柄がないからね」
男「そして……二人で捕まえよう、事件の犯人を」
秀才「喜んで」
男「まあ、こんなところかな」
男「所有権は僕にあるし、シドウが彼女に憑くことはなかった」
男「僕の部屋でノートの話をしていたときは、ベランダにいてもらったしね」
死神「なんであいつの存在は教えなかった?」
男「んー、気まぐれかな。あとは単純にそのほうが面白いとふんだ」
死神「だから前田は死神のことを知らなかったのか」
男「そういうこと。実際効果はあったしね」
死神「……ていうかノートに本名を書いて、死なない方法ってなんなんだ?」
死神「前田に説明したルールは嘘なんだから、お前は死んでなきゃおかしい」
男「べつに。こういう単純な方法を使っただけだよ」
死神「……いや、ノートを見せられてもわかんねえよ」
死神「それがどうしたって言うんだ?」
男「死神のくせにわからないの?」
死神「……」
男「デスノートはね、名前を2ページまたいで書いた場合、死なないんだよ」
死神「なんでだ?」
男「こうするとわかりやすいかな」
死神「なんでノートを破く……そうか、そういうことかっ」
男「そう、1ページって単位で考えればわかるでしょ?」
死神「紙一枚一枚で考えれば、どちらも名前は中途半端に書かれたことになる」
男「そう。だからノートに名前を書いても僕は死ななかった。それだけさ」
死神「なるほど。英語を書いてたのは、名前が次のページに行くのを自然なものにするためだったのか」
死神(本当にコイツは口が悪いな)
男「それに、キミの話だと彼女はノートを切り離して使ったりはしなかったんだろ?」
死神「ああ。切り離したノートでも人が殺せる。そのことには気づいてなかったようだ」
男「明らかに破いた跡があったのに、それにも気づけないなんて」
死神「だがレミを追いつめたのはあの女じゃないか」
男「ちがうよ。それも僕が教えたことだ」
死神「……そうなのか。だが、お前はどうやって死んだふりなんてしたんだ?」
男「これは本当に単純。両親を説得しただけ」
男「しばらく死んだってことにして、家にこもれば殺されないかも……ってね」
死神「ほう。人間の親がそれでゆるしてくれるのか」
男「……どういう意味?」
死神「親が無理やり学校に行かせてるんだろ、あれ」
男「ああ、それ? うちのクラスの保護者は、僕がデスノートを使って操ったからね」
死神「……は?」
男「デスノートは殺しの対象が考えもしないことは、させることができない」
男「だから、操ってためしてみたんだよ」
死神「どういうことだ?」
男「親っていうのは、自分の子どもに勉強をさせたがる生き物なんだ。どんな状況だろうとね」
死神「で、それを確かめるためにノートで操ってためしたのか」
男「ああ。そして、実際そのとおりだった。ほとんどのヤツが学校に来ていた」
死神「……」
男「みんなの親の顔は、授業参観でチェック済みだったしね」
死神「そういや、授業参観の写真をレミに渡してたな」
男「またおかしなことを言うね、キミも」
死神「……」
男「自分の両親を殺したら、面倒なことしかないじゃないか」
死神「……だけど、お前の両親だけ生きてたら、警察に疑われたりしないのか?」
男「レミの親の名前はノートに書いてない。さらにレミには職員室での一件がある」
男「疑われるのなら、自殺した彼女こそ疑われるだろうね」
死神(コイツ……)
男「まあ、だいたいはこんなところかな」
死神「……いや、待て。最近犯罪者が死んでるのは、お前の仕業なのか?」
男「それは僕じゃない。でも、僕であるとも言える」
死神「そんなことまでしてたのか」
男「最初にキミが僕にとり憑いてたとき、アパートのポストをチェックしてただろ?」
男「あれはノートの切れ端を渡す人間を品定めしていたんだ」
死神「だが、どうやってデスノートを使わせたんだ?」
男「ノートのページといっしょに、ルール説明用紙を同封しておいた」
死神「それがこれってわけか」
死神「内容は、指定した日に人気歌手が死ぬってこと」
死神「そしてこのデスノートを切り取ったものの効果……って、また嘘書いてやがる」
男「まあね。余計なことをされちゃ面倒だからね」
男「人間の名前以外を書いた場合、その書いた人間は死ぬ」
男「一日に一回以上は、必ず自分が悪だと思う存在を殺さなければいけない」
男「この紙の存在を第三者に知られた者は、死ぬ」
死神「紙の効果を信じた人間が、その嘘ルールまで信じるように仕向けたってことか」
死神「……だが、これはなんだ?」
男「ん?」
死神「指定した犯罪者を殺すように、って書いてあるじゃねえか」
男「ポストに紙を送ったヤツが、それを信じて使ったかどうか、確かめるためだよ」
男「そして、僕の指定した犯罪者を殺さなかった者は殺しておいた」
死神「…………なんでだ?」
男「保険だよ。ネットなんかでノートの存在を広められちゃ困るしね」
男「そういえば、死神が人間の名前と寿命を他言するのは禁止なんだってね」
死神「だから聞いてるんだ」
男「シドウに頼んだんだ。バレないように、免許証かパスポートの類をもってきてくれって」
死神「お前、そんなことまでしたのか。ていうかあいつ……」
男「もちろん、名前と顔を覚えたあとは返したけどね」
死神「なんのためにそんなことを?」
男「一つは、単純にキラの真似事をするなら、みんなですればいいって思ったから」
男「そしてもう一つは、カモフラージュさ」
男「うちにクラスの事件はけっこう世間に注目されててね」
男「僕が死んだことになったとき、学校だけなら誤魔化せるけど、マスコミを欺くのは難しい」
死神「で、キラ復活ってエサで世間の注目をそっちに移したってわけか」
男「さくらTVなんて、さっそくキラ特集やるっていうしね」
死神「……とりあえずお前、悪魔だな」
男「はは、人の命を奪う死神がなに言ってるんだよ」
死神「……もうひとつ聞いていいか?」
男「なに?」
死神「今さらすぎる質問だが、なんのためにお前はこんなことをしたんだ?」
男「言っただろ。僕は事件が好きなんだ」
男「だから自分の手でつくってみたくなったんだ、魅力的な事件をね」
死神「……」
男「お互いが掘った墓穴に足をすくわれるだけの、つまらない事件になってしまった」
男「まっ、次はもっと面白い事件をつくってみせるよ」
死神「……ところで俺は一つ、お前に嘘をついていたことがある」
男「嘘?」
死神「実はな、死神っていうのは基本的にノートを絶対に一冊は持っていなければいけない」
男「それがなに? キミがデスノートをもってるってだけだろ?」
死神「特に理由はない。言ってみれば気まぐれだったからな」
死神「いや、俺は基本的には嘘はつかないんだ。だが、どうしてだろうな」
死神「お前には嘘をつかないといけない気がした。それだけだ」
男「言ってる意味がわからないよ」
死神「そうか。じゃあ次はわかりやすいことを教えてやる」
死神「もう次の事件は考えなくていいぞ」
死神「いや、すぐにわかる。俺の言ってることの意味がな」
男「……刺激が欲しくて人間界に降りてきたんでしょ?」
男「だから僕がキミに……うぅっ……ぁっ……!」
死神「な? 次の事件を考える必要はないだろ?」
男「っ……くっ……あぁぁ……!」
死神「なにせお前はもう死ぬんだからな。そんなことを考えたって無駄だ」
男「な、んで……っ!?」
死神「死神が人間に好意をもつ。そんな話を聞いたことがあったが」
死神「なるほどな。俺ははっきりと自覚した、お前が嫌いだ」
死神「人を嫌いになれるんだ。好きになることもできるだろ、きっと」
男「ぁっ…………」
死神「じゃあな――テル」
死神「――ってわけで、俺は死神界に戻ってきたわけだ」
死神3「ミードラのときもそうだったな」
死神3「普通の人間にデスノートを持たせても長続きしないんだな」
死神「いったいお前が憑いてたヤツはどんな人間だったんだ――リューク?」
死神3「とにかく優秀で頭が異様に切れる」
死神3「あと、本人の言葉が正しいなら、強い信念を持っていたんだろうな」
死神「信念か。横井テルにはそんなものはなかったな」
死神3「それが普通の人間なんじゃねえのか」
死神「普通の人間が、あそこまで人を簡単に殺せるのかねえ」
死神3「それにしても、お前までノートの持ち主を殺すなんてな」
死神「……ん? 勘違いしてないか? 俺はテルを殺してはいないぞ」
死神「たしかに嫌いとは言ったが、殺したのは俺はじゃない」
死神3「じゃあ誰なんだよ?」
死神「レミだ」
死神3「……そいつは横井ってヤツのことが好きだったんじゃないのか?」
死神3「なのになんで好きなヤツを殺すんだ?」
死神「あー、そこらへんはまだ説明してなかったな」
死神「レミが前田を殺したあと、実は――」
女「死神さん。前田さんは授業中、ずっと横ちんのことを見てたんだよね?」
死神「まちがいない」
女「でも、前田さんの態度を見るかぎり、横ちんが死んだことを悲しんでるようには見えなかった」
女「それに、前田さんはノートの切れ端で人を殺せることは知らなかった」
死神「……どういうことだ?」
女「ほら、これを見て。ノートが破られた跡がある」
女「ノートを切っても使えないって思ってる人が、ノートを破るかな?」
死神「まあ、言われてみればそうだな」
女「……つまり、これってさ。生きてるんじゃないのかな」
死神「誰が?」
女「横ちん」
女「だけど、あたしはそれを確認してないよ」
女「とりあえず学校に死んだって伝えれば、今のこんな状況なら……」
死神「教師たちもいちいち確認したりはしないってことか」
女「うん、きっとね」
女「それに、なんで番号順を無視して横ちんが死んだの、って話になるでしょ?」
死神「……たしかに」
女「……そうだよ。横ちんだったんだ」
死神「で、あいつは財布に仕込んでおいたノートの切れ端に、横井テルの名前を書いた」
死神「殺しの時間に間があったのは、テルから真実を聞き出すための時間が必要だったから」
死神3「ちょっといいか」
死神「なんだ?」
死神3「なんでレミは横井の名前を書いたんだ?」
死神3「真実を聞き出すだけなら、殺す必要はないだろ」
死神「……レミがノートに名前を書いたのはな、あいつがゆるせなかったからだ」
死神3「自分を欺いた横井がゆるせなかったってことか」
死神「ちがう。自分の好きな人を殺されたからだ」
死神3「……横井は生きてたんだろ?」
死神「そうだよなあ。俺もテルもすっかり勘違いしてたもんなあ」
死神「レミが本当に好きだったのは――鈴木ユリだったんだから」
死神「まあ、そういう顔になっちまうよなあ」
死神3「鈴木ユリって女だろ?」
死神「女が女を好きになることもある。レミはそう言っていた」
死神3「だが、レミは横井のことを好きだって……」
死神「いや、よくよく思い返してみたらアイツは一言も、そんなことは言ってないんだ」
死神「勘違いする材料はたくさんあったがな」
死神3「だが横井が死んだと勘違いしたとき、レミは思いっきり悲しんだんだろ?」
死神「同じように鈴木ユリも死んでただろ?」
死神3「……」
死神「あいつが自分の恋のためにノートを使ったのは、それが普通の恋愛じゃなかったからだ」
死神3「普通のオンナはオトコを好きになるからな」
死神3「だが、出席番号順に殺したことはどうなる?」
死神「……おそらくだが、あれは自分のことしか考えてなかったんだ」
死神「出席番号の話をしたときも、テルの名前は一度たりとも出なかったしな」
死神3「お前が一方的に勘違いしてたってわけか、あと横井も」
死神「……レミが鈴木ユリの名前を書かなかったのは、迷ったからじゃない」
死神3「もとから書く気がなかったってわけか」
死神「おそらく、鈴木ユリに殺しの順番が回ってきた段階で、あいつがレミに恋してたら」
死神「レミは殺しをやめたんじゃないかって、俺はそう考えてる」
死神3「どっちにしても、なかなかすごい話だな」
死神「そうだな。……疲れたしあきた。人間界はもう十分だ」
死神3「もうあきたのか? ずいぶん早いな」
死神「……どうも俺はあまり人間と接していないほうがいい死神らしい」
死神3「なんでだ?」
死神「テルもレミも、やってることは両方とも人間の価値基準でいえばクズだった」
死神「俺はテルのことを嫌いになったが、レミのことは嫌いになれなかった」
死神「……リューク、お前はお前のノートの持ち主をどう思っていた?」
死神3「ある意味最高のヤツにノートを拾われたって思っていた」
死神3「それに。ミードラやお前の話を聞くかぎり、やはりあいつはすごいヤツらしい」
死神「だが、最期はお前がノートにその持ち主の名前を書いたんだろ?」
死神3「ああ。もう一生忘れらない体験はできたからな」
死神「……どうやら俺は、お前のことも理解できないようだ」
死神3「安心しろ。俺もお前やレムみたいなヤツのことは、理解できないからな」
死神「……そうか」
死神「……じゃあな、リューク」
死神3「ああ」
死神3(恋愛のために他人の名前を書く、か……)
死神3(やっぱ人間って面白!)
完
◆横井が前田にノートの話をしたあと
死神2「なあ」
男「どうしたの、シドウ?」
死神2「お前の名前って本当にテルなのか?」
男「どういう意味?」
死神2「いや、だって……」
死神2「『横井電話』って名前が俺には見えてるんだけど」
男「電話って書いてテルって読むんだよ。学校じゃあ、名前はカタカナ表記にしてるけどね」
死神2「お前の親、すごいな」
男「うちの両親はぶっ飛んでるんだ」
死神2「へえ。あと、前田もよく笑わなかったな」
男「……たしかに。彼女はいい子なんだろうね」
お わ り
なかなか原作っぽい雰囲気で楽しめた
作者には読者にそういう思考をさせる意図があって、私はそれにまんまと踊らされたわけなんだろうなぁ
と思いました。
これが噂の叙述トリックか
俺も見事に騙されたわ