男「…はあ?」
営業「だよなぁ…俺だってまだ信じられないからなぁ…」
男「ええ…出向取り消しって…今デバッグ中なのに…」
営業「さっきプロマネさんから“あとは自分たちでやるから”って言われてな…」
男「なんで…」
営業「表向きは外注費の関係らしい…いきなり来て、こんな話で申し訳ない」
男「もう決まった話なんですか?いまさら何言ってもしょうがないんですか?」
営業「ああ…」
営業「来週いっぱいって話だ」
男「そんな!絶対デバッグ終わりませんって!!」
営業「…男くんは3年前にここに出向して、今の仕事の立ち上げの時から今日まで…」
営業「残業や休出で碌に休めずにずっと開発で頑張ってた…それは俺が一番よく知ってる」
男「…」
営業「男くんは本当によく頑張った。だから何とかならないかと思って食い下がってみたんだが…」
男「ありがとうございます。けど…やっぱりダメだったんですね…」
男「ちょっ!営業が出向先の元受さんのことそんな風に言っちゃダメでしょ」
営業「だな。今のは無かったことに」
男「はい。で、俺、この後どうなるんですか?」
営業「まだ決まってない。突然だったからな」
男「はあ」
営業「俺もよく知らないんだが…多分社内のどっかの部署に収まるんじゃないか?」
男「そうですか。すみません」
営業「なんで謝るんだよ。急な話なんで決まるまで時間がかかるだろうな…有給消化でもするか?」
男「そうですね…」
男「はい」
営業「…ヤケ起こして無茶するなよ?」
男「しませんよ」
営業「そうか。じゃあ、俺は営業に行ってくる」
男「はい…ありがとうございました」
営業「ああ。お前も元気出せよ?」ポン
男「ええ…でもデバッグが…システムダウンしたら損害額がとんでもないことになるからで慎重に時間をかけてしなきゃいけないのに…もし何かあったら…」
営業「何かあっても“優秀な”元受の社員さんが何とかしてくれるさ。じゃあな」ノシ
男「あの人達が?…だめだこりゃ。せめて慎重にデバッグしてくれるように引継ぎしとこう…」
男「…」
スマホの画面:中堅の凸凸証券 システムダウン 損失は数億円にも 復旧目処立たず ソフト開発の某会社が対応中
男「あーあ、やっぱり…いい加減なデバッグしたんだな…」
ポチッ ポチッ…
男「…はあ」
男(退屈だなぁ…俺が元々いたグループはプロジェクトが進んでるから今更戻れないみたいだし…他のグループも状況は似たり寄ったりだし…)
男(かといってほかの部署で…って言っても仕事がないしなぁ…やることないから退屈なんだよなぁ…)
男(席に座っててもいたたまれないし…やっぱ有給消化したほうが良かったかなぁ…)
ポチッ
男「ん?」
男「旅行か…時間もあるし、こんな時でないと行けないもんな」
男「出向してた3年で大分貯金がたまったし…どれぐらいかかるんだろ?」
ポチポチ…
男「…ふーん。こんな値段からあるんだ…結構安いな」
男「のんびりしたいから、なるべく人が行かなそうなところで旨い飯が食えて…」
ポチポチ…
男「えっと…地図だと確かこの辺だと思うんだけど…ん?」
シャッ シャッ
男「あの割烹着を着て掃除してる人に聞いてみるか」
割烹着女(以下、割女) シャッ シャッ
男「あのー」
割女「えっ!?」ビクッ
男「そんなにびっくりしなくても…えっと…この辺に民宿○○ってありませんか?」
割女「は、はい…ここですけど…」
割女「あ、あの…男さん?」
男「え?なんで名前を?」
割女「あ、やっぱり。お待ちしてました。どうぞこちらへ」
男「あ、この民宿の人だったんだ。道理で…」
割女「なんですか?」
男「その割烹着…」
割女「これですか?」
男「ええ。最近見ないから」
男「はい。特に若い人が来てるのを見るのは…ね」
割女「これはわたしの制服みたいなものですからね」
男「割烹着が?」
割女「はい。これを着ると気合が入るんですよ」
男「そ、そうですか」
割女「はい。あ、段差に気を付けて」
男「はい」
・
・
・
割女母「ええ…3泊4日の割に荷物も少ないし表情も暗いし…やっぱり怪しいわね…」
割女父「それとなく注意しておくか」
割女母「そうね…こんな中途半端な時期の平日に、うちみたいな宿に一人で来るなんて…やっぱり…」
割女祖母「しっ!めったなこと言うんじゃないよぉ」
割女父「はぁ…まったく迷惑な…」
割女「…わたし、できるだけ注意しとくね」
男「夜まで暇だし…何か観光できるとこでもないかな?グーグルマップで…」ポチポチ…
男「…こんな田舎でもアンテナ2本以上立つんだな…おかげで助かるけど」
男「えっと…宿がここだから…」
男「…あ、ここって有名な…結構近いし話のネタに行ってみるかな?」
ガラッ ドタドタドタ…
男「あ、すいませーん」
割女「は、はーい!」
パタパタパタ
男「あの…この××岬ってとこに行きたいんですけど、どう行けばいいですかね」
割女 ドキッ!
男「…どしたん?」
割女父「ま、まあまあ。今日はお疲れでしょうから早めに風呂にでも浸かってはいかがですか?」
割女母「内風呂ですが温泉を引いてるんで疲れが取れますよ?」
男「いや、まだ3時ですよね?風呂には早すぎますよね?」
割女祖母「おにぎり作ったから食べませんか?お腹すいてますでしょ?」
男「いや、今食べると晩御飯が…っていうか、××岬にはどう行けば…」
割女「行っちゃダメぇええ!!!」
男 ビクッ
男「…は、はい?」
割女「ば、××岬って!じじじ…自殺なんて絶対にダメッ!!」
男「はあ?自殺ぅ?」
・
・
・
割女一家「「「…」」」セイザー
割女父「…ホントにそれだけですか?」
男「そうですよ。大体なんで俺が自殺するって思ったんですか?」
割女母「そ、それは…荷物が少ないし…表情が暗いし…」
男「荷物が少ないのは最低限の着替えしか持ってないからです」
男「表情は…いきなり仕事を干されたからです…だから気分転換に旅行しようと思って…」
割女「じゃ、じゃあ…××岬に行こうとしたのは…」
男「この辺で知ってるとこがたまたま××岬だったってだけで…」
男「話のネタに観光しに行ってみようと思っただけです。それだけですよ?」
男「いや、いいですよ。それで…××岬にはどう行けばいいんですか?」
割女母「今からじゃ帰りのバスがなくなるんじゃないかしら?もともと本数が少ないから…」
男「え?じゃあ…行けないんですか?」
割女父「えっと次のバスは…1時間後ぐらいですし…やっぱり帰りのバスがなくなりますね」
男「そうですか…」
割女「…あ、あのぉ」
男「はい?」
割女「…一緒に行きましょうか?」
男「え?」
割女「だったらわたしの車で一緒に行けば…」
割女母「…そうね。それがいいかも」
割女父「え!?」
割女母『仕出しのお膳の回収は夜だし、今の時間はわりと暇だからね』コソコソ
割女父『そ、そうだけど…』コソコソ
割女母「それに、割女が一緒なら彼が自殺しようとしても止められるでしょ?』コソコソ
割女父『そ、そうか…そうだな』コソコソ
男「それはありがたいですけど…いいんですか?」
割女「はい。軽四ですけどそれでよければ」
男「ありがとうございます。お願いします」
割女・男「「…」」
男(まいったな…話題がない…息がつまりそうだ…)チラッ
割女「…」
男(運転に集中してる…さすがに割烹着は着てこなかったんだな…シンプルだけど可愛い服だな…)
割女「大丈夫ですか?」
男「え!?あ、はい。大丈夫ですよ」
割女「よかった…黙ったままだったから、もしかして車に酔っちゃったのかな?って思って…」
男「酔ってませんよ。割女さん、運転が丁寧だから」
割女「お父さんには“遅すぎて渋滞ができる”って言われますけどね」
割女「こんな田舎じゃ渋滞ができるほど車も走ってないのにね」クスッ
割女「あ…やっと笑ってくれましたね」
男「え?」
割女「ほら。男さん、うちに来てからずっと笑ってなかったでしょ?だから気になってて…」
男「あははは。俺だって笑いますよ」
割女「ふふふ。そうですよね。あ、もうすぐ着きますよ」
男「あ、はい」
男「いい眺めだな~」
割女「そうですねー。ちょっと風がきついけど」
男「岬の先のほうに行けないのかな?」
割女「今は立ち入り禁止になってるみたいですよ?飛び降りる人がいるから…」
男「そうなのか…ま、たしかに自殺の名所として有名だもんな」
割女「不名誉な名所ですよね…」
男「ん?あの人立ち入り禁止の札の前で突っ立ってるけど…」
割女「ひょっとして…」
男「カメラ!?」
割女「…岬のほうを撮ってますね」
男「なんだ、ただの観光客か」
割女「びっくりしましたねえ」
男「そうですねぇ」
割女「…日が暮れてきましたけど…どうします?」
男「そろそろ帰りましょうか。すみませんがまた運転お願いします」
割女「はい」ニコッ
男「ふぃー…いいお湯だった…」ホカホカ
コンコン
男「はい?」
割女父『あ、食事の用意ができましたんで座敷の間のほうに…』
男「はーい。今行きます」
男「スマホをチェックして…あ、メールが来てる」
男(…データ管理部?…建設会社の顧客データベース化のサポートって…よっぽど仕事がないんだな…)
男(しかもまた出向か…俺ってひょっとして会社のお荷物?)
男「…飯にしよう。財布を持って…」
男「ご馳走様です」
割女母「はいどうも」
男「うまかったっす。食べ過ぎて苦しいですよ」ポンポン
割女祖母「こんな田舎料理なのにねえ。ありがとうねえ」
男「いやマジでうまかったですよ。それじゃ」
割女母「はい」
ガララ
男「さて…腹ごなしにちょっと散歩でもするか」
・
・
・
男「車もほとんど通らないし…街灯もまばらだし…」
ガサッ
男「うおっ!?」
鹿「ピュン!」ガサッ ガサッ…
男「…びっくりした…今のは…鹿!?」
ブルルルン キーッ
割女「あ、やっぱり男さんだ」
男「え?割女さん?軽四だけじゃなくてワンボックス車も運転できるんですか?」
割女「ええ。これでもミッション車免許なんですよ?ところで…何してるんですか?」
男「いえ、食後の散歩をしてたら野生の鹿がいまして…」
割女「鹿が?」
割女「鹿なんてこの村に住んでいたら、いくらでも見れますよ」クスッ
男「そうなんですか?」
割女「ええ。夜になったらうちの裏の畑にもしょっちゅう出てきますよ」
男「そうなんだ…すごいな…」
割女「…あ、帰るんなら乗りませんか?」
男「あ、いいんですか?っていうか、割女さんはどこに行ってたんですか?」
割女「仕出しのお膳を回収して帰るとこなんです」
男「へえ、仕出しか…そんなこともしてるんだ」
割女「ええ。っていうか、元々こっちが本業なんですよ」
男「え?」
割女「この辺って宿泊施設がないんですよ。だから遠方からのお客さんとかがそのまま座敷で寝ちゃったりして…」
割女「じゃあいっそ、お客さんがそのまま泊まれるようにしちゃおう!って始めたのが、民宿をするきっかけだったんですよ」
男「へえ…どおりで料理がうまいわけだ」
割女「ふふっ。ありがとうございます。どうぞ車の中に」
男「じゃあ失礼して…」ガチャ
割女「はい」ニコッ
男(あ…また割烹着だ)
男「あ、いや…暗くてよく見えないけど白くない割烹着もあるんだなーって…」
割女「これですか?薄い若草色なんです。ふふふ」
男「そういう色もいいですね。かわいくて」ニコッ
割女「え?」ドキッ
男「どうしました」
割女「い、いえ…」
割女(びっくりした…男さん、いきなり“かわいい”なんて言うから…)ドキドキ…
男「今日はどこを観光しようか…ていうか、岬のほかにどんな観光場所があるんだろ?」
男「スマホで見てもよくわからん…聞いたほうが早いか」
ガラッ ドタドタドタ
男「すいませーん」
割女「はーい。なんですかー」パタパタパタ
男(今日は白でポケットだけチェック柄か…)
男「あ、割女さん。ちょっと聞きたいんですけど…このあたりの観光ってどんなのがありますか?」
割女「観光ですか?そうですね…観光っていうのとはちょっと違うけど…手打ち蕎麦とか?」
男「蕎麦…ですか?」
割女「ええ。他には牧場とかゲレンデとか…」
男「ゲレンデ?スキーができるんですか?」
男「ふーん…それって地図で言うと…どの辺になるんですか?」
割女「パンフありますよ。はいこれ」
男「あ、ありがとう…結構距離があるんだな…」
割女「…ご一緒しましょうか?」
男「え?いや、そんな訳には…割女さん、仕事があるのに悪いですよ」
割女「今日は仕事って言っても、お客さんは男さんだけだから大丈夫ですよ」
男「それじゃ…お願いしてもいいですか?」
割女「はい。ちょっとお母さんに言ってきますね」
割女母「聞こえてるわよ」
割女母「いいわよ。行ってらっしゃい。それと…」チョイチョイ
割女「なあに?」
割女母『何があってもいいように下着は変えて行きなさいよ?』コソコソ
割女『っ!?ちょっとお母さん!!』コソコソ
割女母『あら?なにかと世話を焼くからてっきりそうなんだと思ってたんだけど?』
割女『そ、それは…久しぶりに同世代のオトコの人と話してて楽しいから…』
割女母『ふーん?』ニヤニヤ
割女『もう…//』
男(…何話してるんだろ?)
割女「シートベルトしました?」
男「ちょっと待って…はい、しました」カチャ
割女「じゃあ…」
男「最初は牧場に行って、昼飯に蕎麦を食べて、ゲレンデに行きましょう」
割女「はい。じゃあ出発しますね」
男「お願いします」
ンモォオオ
男「結構いますね」
割女「あ、子牛。かわいいなぁ。よしよし」ナデナデ
子牛「ンモー」
男「…あ、母親かな?親牛も来ましたよ」
親牛「ぅんもぉおおおぉお」
割女「おっきいですよねー」
男「あはは。確かに大きな胸ですね。さすが乳牛」
割女「…どこ見てるんですか…」ジトー
男「え?えっと…」
割女「冗談ですよ」クスッ
割女「あ、ご、ごめんなさい!」
男「…なんてね!」
割女「…あ!騙したんですね!?」
男「仕返しですよ。あははは」
割女「もう!…うふふふ」
男(なんだろう…割女さんだと平気で冗談とか言えるなぁ)
割女(男さん、元気になったみたいね。よかった)
グゥウウ~
割女「…お腹、空いたんですね」
男「はい。あ、そういえばそこにレストランみたいなのがありましたね」
割女「そうですね。行ってみますか?」
男「はい」
・
・
・
割女・男「「…」」
割女・男((さっきまで子牛と遊んでたからこれはキツイ…))
男「…や、やっぱり蕎麦にしましょう」
割女「そ、そうですね」
割女・男「「いただきます」」
ズルズル…
男「…うまい!」
割女「よかったぁ」
男「いや、ホントマジでうまいですよ」ズズー
割女「このお店は蕎麦の実から手作りなんですよ」
男「そうなんですね。こんなうまいそばを食べたのは28年の人生で初めてだ」
割女「そんな大げさな」クスッ
割女(そっか…男さんは5歳上の28歳か…)
男「広いな…」
割女「雪がないゲレンデって広く見えますね」
男「そうですね。あ、あそこパラグライダーしてる」
割女「あ、ホントだ」
男「あ、落ちた」
割女「大丈夫かな?」
男「あれ?なんか…」
割女「パラシュートみたいなやつがこっちに流れて来てるような…」
男「ってか、逃げたほうがよくね?」
バサバサバサ
男「パラシュートに飲み込まれた!…だ、大丈夫ですか?」
パラ男「だ、大丈夫です!」
男「あんたじゃない!割女さん!!」
割女「…は、はーい…なんとか…」
男「よかった…早くここから出ましょう」
モゾモソ…
男「…ふぅ。あ、割女さんは?」
バサッ
割女「はぁ…あ、男さん」
割女「はい。男さんのほうこそ大丈夫ですか?」
男「はい。あ、立てますか?手を貸しますよ」ギュッ
ドキッ!
割女(ど、どうしたの!?胸が…ドキドキしっぱなしで…)ドキドキ
男「せえの…と」グイッ
割女「あ…」フワッ
男「…どうしたんですか?顔が赤いですよ?」
割女「い、いえ!なんでもないです!!」
男(って言ってるけど…やっぱり顔が赤いな…)
男「…もう宿に帰りましょうか。いろいろあって疲れましたし」
割女「そ、そうですね」ドキドキ…
割女「はあ…」
割女(どうしよう…なんであんなにドキドキしたんだろ…)
~~~~~~~~~~
男「はい。あ、立てますか?手を貸しますよ」ギュッ
ドキッ!
~~~~~~~~~~
割女(男さんと話してると楽しくて…オトコの人でこんなに会話が続く人って初めてで…)
割女(…やだ!これってもしかして…)
割女「…オトコの人に免疫なさすぎだわ、わたし…」ハァ…
男「今日で三日目か…明日チェックアウトだから今日はのんびりするか…ん?」
畑の中:割女 ゴソゴソ
男「ん?あのグレーの割烹着は…割女さんだ。何やってるんだろ?」
ガララ
男「おーい、割女さーん」
割女「あ、男さん」
男「何やってるんですか?」
割女「野菜を収穫してるんですよ」
男「へえ」
男「いえいえ、今日はのんびりしようと思って。何があるんですか?」
割女「白菜とかネギとか色々ですよ」
男「ふーん…写真撮ってもいいですか?」
割女「野菜だけならオッケーですよー」
男「あはは。そっちに行きます」
・
・
・
男「広いですね」
割女「田舎ですから。土地だけはあるんですよ」
男「これはネギですね?」
割女「ええ。今夜はすき焼きの予定です」
男「そりゃ楽しみだ。他には何を収穫するんですか?」
割女「あとは白菜と人参ですね」
男「手伝いましょうか?」
割女「え?ダメですよ。男さんはお客さんなんだから」
男「体験してみたいんですよ」
割女「だったら…はい。気を付けてくださいね?」
男「はい。じゃあこの白菜を」
割女「この鎌で根元を水平に切るんですよ」
男「水平にですね。こうかな?」ザクッ
割女「ふふふ。刃先が根っこに届いてなかったみたいですね」
男「え?そうなん?」
割女「ちょっと貸してみてください。白菜を収穫するときは、こうやって白菜を押してちょっと傾けて」グイッ
男「あ、ちょっとだけ根っこが見えた」
割女「はい。で、鎌でその根っこを切るんです」ザクッ
コロン
男「なるほど」
割女「…はい。じゃあ次は人参を抜きましょう。まっすぐ抜くだけでコツはないですから」
男「はい。じゃあ…よっ!」ズボッ
割女「その調子でもう一本お願いします」
男「はーい。よっと」ズボッ
・
・
・
割女「じゃあ、そこにおいてください」
男「はいはい」ゴロン
割女「ありがとうございます。収穫を手伝っていただいた上に運んでいただいて…」
男「いえいえ。今日はやることもなくて暇でしたし」
割女「…男さん、わたし、午後から時間があるから…夕方までお付き合いできますよ?」
男「え?あ、いや…ここに来てから毎日付き合ってもらってるし…悪いですよ」
割女「気にしないでください。わたしも男さんと出かけるのが楽しいし…」
男「…え?」ドキッ
男「で、ですよねー」
男(びっくりした…割女さん、ドキッとするようなこと言うから…)
割女(あんなこと言って…わたし、どうしたんだろ?)ドキドキ
割女「それで…あの…」
男「あ、はい。じゃあ…村の中をぶらついてみたいんですけど」
割女「村の中…ですか?」
男「ええ。ダメですか?」
割女「かまいませんけど…何もありませんよ?」
男「それがいいんです。ありがとうございます」
ブラブラ
男「あ、火の見櫓だ」ポチッ カシャ
割女「あれはもう使ってないんですよ。あ、でもたまに消防団のホースが干してあったりしますね」
男「そうなんですね」
・
・
・
男「なんかいい匂いが…」
割女「そこに酒蔵があるんですよ」
男「酒蔵?」
割女「ええ。地酒の醸造元です」
男「へえ…思ったより小さいんだな…」
割女「試飲していきますか?」
男「あ、できるんなら。はい」
割女「じゃあ、話してきますね」
・
・
・
割女「はい」
男「へえ…こじんまりしてるのに梵鐘はちゃんとあるんだ…鳴らしてるのかな?」
割女「朝と夕方に鳴ってますよ」
男「え?でも聞いたことないけど…」
割女「朝は6時、夕方は5時に鳴ってますよ。男さん、夕方はずっとどこかに出かけてたから」
男「あ、そういうことか。朝はまだ寝てるし夕方はどこかに行ってるしで聞く機会がなかったんだな」
割女「ふふふ。今日は聞けるといいですね」
・
・
・
割女「なにがですか?」
男「あ、コンビニとかですよ」
割女「あー…」
男「まあ、それがいいんですけどね」
割女「でも、住民にしてみればあったほうがいいですよ」
男「割女さんはコンビニとか行ったことあります?」
割女「それぐらいありますよー。高校は隣町だったから学校帰りによく寄ってましたよ?」
男「そうなんだ」
男(いや、そんなのでドヤ顔されても…)
割女「そういえばここ最近行ってないなぁ…なんか行きたくなっちゃいました。あははは」
男「近くなんですか?」
割女「ええ。車で30分ほどですから」
男(いやそれ、ぜんぜん近くないから。それにしても…)
割女「ポテトにバニラシェイクに…クリスピーチキンとかもいいですよね♪」
男(なんか…すごく楽しそうだな)
・
・
・
割女「あははは。もうちょっとですよー。頑張って」ノシ
男「はぁ…はぁ…やっと…着いた…」
割女「体力ないですね」クスッ
男「ああ…基本デスクワークだったから…けど…登った甲斐があったみたいだ」
割女「この神社は結構古くからあるそうですよ」
男「うん。落ち着いてていい雰囲気だな」
割女「昔はみんなとよくここで遊んでたんですよぉ」
男「いいなぁ。うちの実家は中途半端な町だったから、近所の小さい公園にゲーム機持って集合!って感じだったし」
割女「わたしにしてみればそっちのほうが羨ましいですよ」
男「そうですか?」
男「あー、そう言えばそうか」
割女「友達がいっぱいいるのって羨ましいなぁ」
男「割女さんは友達は?」
割女「小さい村だから子供が少なくて…年上と年下ばっかりだったから…」
男「そうなんだ…」
割女「だから遊びと言ったら小さい子でもできる遊びがメインで」
割女「ゲーム機でみんなで遊ぶっていう発想がなかったですね」
男「ふーん…それでこの神社で遊んでたんだ」
割女「ええ。みんなで遊ぶのに飽きてきたら狛犬に跨ったり柱をよじ登ったりて…今思うと罰当たりですよね」クスッ
割女「男子も女子も元気でしたからねぇ」
男「みんなそんな感じだったんですか?」
割女「ええ。でも女子は高学年になるとこうやって階段のところに座ってお喋りするようになりましたけどね」ストン
男「ふーん。よっと」ストン
男「…あ」
割女「ここからだと村全体が見渡せるんですよ」
男「いいな…なんか…“昭和”って雰囲気で…」
割女「古臭いでしょ?」
男「いや、懐かしいって感じですね…なんか…ほっとするな」
男「右?…うわ…」
割女「ね?夕焼けがよく見えるでしょ?」
男「ああ…夕焼けが雲を黄金色にして…」
割女「きれいですよね…」フワッ
男 ドキッ
男(やべっ…割女さんがすんげえ可愛い…それにいい匂いだし…動機が…)ドキドキ
割女「ん?どうしました?」
男「あ、いや…何でもないです…」
割女「そうですか?何かあったら言ってくださいね?」
男「あ、はい…あの…」
割女「なんですか?」ニコッ
男「えっと…メアドを…」
割女「え?」ドキッ
割女「は、はい!あ!いえ!!」
狛犬「どっちだよ」
男「…ダメですか?」
割女「ダメじゃないです!えっと…赤外線使えますか?」
男「はい。じゃあ…」Pi
割女「…はい。じゃあこっちからも…」Pi
男「…はい。ありがとうございます//」
割女「い、いえ…//」
割女・男「「…」」
・
・
・
割女「そうですね…山の端に陽がかかるとすぐに沈んじゃいますから…」
男「そろそろ帰りましょうか」
割女「はい」
男「…階段、気を付けて」
割女「あはは。大丈夫ですよ」
男「そうですか?」
割女「ええ」
男「けど…やっぱり危ないから手をつなぎませんか?」スッ
割女「え?…は、はい…//」キュッ
・
・
・
男「…」
男(割女さんの手…思ってたより暖かくて柔らかかったな…)
男(それにやっぱりいい匂いだったし…横目で見たときの割女さんの胸の膨らみが…あ)
フッジサーン
男「…こっそりヌこう」
~割女の部屋~
割女 ポー…
割女(男さん…もっと華奢かと思ってたけど…しっかりした手だったなぁ…)
割女(それに腕なんかも結構逞しくて…)
ポッ//
割女「なんだろ…顔が暑いなぁ」
男「じゃあ、お世話になりました」
割女父「気を付けて」
割女母「また来てくださいね」
割女祖母「これ、電車の中で食べてくださいねぇ」
男「おにぎりですね?ありがとうございます」
割女「じゃあ、そろそろ出発しましょうか」
男「あ、はい」
バタン
男「…すみません。駅まで送ってもらっちゃって…」
割女「いいんですよ。わたしも男さんと一緒に居たいし」
男「…へ?」
割女母「あらあら」
割女父「…男さん?」ジロッ
男「な、なんもないですって!」
割女母「お邪魔虫はさっさと引っ込みましょうね♪」グイッ
割女父「ちょっ!母さん!!」ズルズル…
男「えっと…」
割女祖母「割女、今夜は泊りかえ?」
割女「おばあちゃんも!違うよ!!」
割女祖母「まあ、しっかりやりんしゃい」ノシ
割女「だから!…って、行っちゃった…はぁ…みんな勘違いしすぎ!!」
男「ははは…」
男「あ、いえ…」
割女・男「「…」」
割女「…そ、そろそろ出発しないとダメですよね!」
男「そ、そうですね!電車に間に合わなくなりますね!!」
割女「じゃあ行きますね」
男「はい、お願いします」
ブルルルル…
・
・
・
男「ありがとうございました」
割女「いえ、あの…また来てくださいね?」
男「はい。また来ます」
割女「じゃあ…」
男「…着いたらメールしますから」
割女「は、はい!」
男「じゃあ…」
割女「…あ、あのっ!」
男「はい?」
割女「…またね」ニコッ
男「あははは。はい」ノシ
・
・
・
割女「…はぁ…帰ろ」
ブルルルン…
~電車の中~
ガタンゴトン…
男「おにぎりうめえ!」
カタカタカタ…
男「…マクロ完成。エラーチェックして…よし」
カタカタカタ…
後輩男「…すごいっすね…」
男「ん?」
後輩男「いや、あの…あざーっす」ペコッ
男「なんで?」
後輩男「なんでって…男さんのおかげで仕事があっという間に片付いて…」
男「こんなもんでしょ」
後輩男「いやいや!俺もうホントにどうしたらいいのかもわからなくて…で、一つ一つ手入力してて…」
後輩男「ホンットに毎日、“明日こそ会社やめよう”って思ってたんすよ…」
男「そっか」
男「あの人体育会系だもんな。それにしても…これぐらい研修でやったでしょ?」
後輩男「それは…えっと…その…へへへ…」
男(サボってたな…)
男「…まあいいや。マクロが終わったらデータをチェックして」
後輩男「あ、はい」
男「で、問題がなかったらほかのデータファイルもマクロにかけて」
後輩男「は、はい…」
男「…今日はここまでで終わろう。お疲れさん」
後輩男「はい!お疲れっした!!」
男(帰りの挨拶だけは元気がいいんだよなぁ)
ピロピロピロ
男「お、メール」Pi
From:割女
To:男
SUB:お勤めご苦労様です(笑)
本文:お疲れ様。
今日は珍しく明るいうちから畑に来てましたよ(笑)
画像:鹿さん
男「…ははは。こっち見んな」
Pi Pi Pi…
SUB:Re: お勤めご苦労様です(笑)
本文:メッチャこっち見てるしw
大丈夫だった?
男「返信」Pi
ピロピロピロ
男「ん」Pi
返信:男
SUB:Re:Re: お勤めご苦労様です(笑)
本文:いえ、やられました…
小鹿の可愛さに(笑)
男「ははは」
男「変換したデータにおかしなところは?」
後輩男「えっと…ないっす」
男「じゃあデータ変換はマクロに任せて、空いた時間でマニュアルを作るか」
後輩男「はい。お願いします!」
男「…後輩男、お前が作るんだぞ?」
後輩男「え?けどマクロを作ったのは男さんだし…俺はよくわかんないし…へへへ」
男「だったらいい機会だから。マニュアルつくりながらマクロについてもしっかり学んでください」
後輩男「え?けど…」
男「あと2か月で俺の契約が切れるから、それまでにまとめないとな。ほら、頑張れ」
後輩男「…」
ピロピロピロ…
男「あっと…メールだ」Pi
From:割女
To:男
SUB:本日のおすすめ
本文:今朝お父さんが山女魚を釣ってきたので、
お昼に塩焼きでいただきました♪
この匂いが届けばいいんですけどね(笑)
画像:山女魚 on the 七輪
後輩男「え?」
男「あ、これだよ」
後輩男「…なんすか?」
男「山女魚の塩焼きだよ」
後輩男「俺は魚より肉のほうがいいなぁ…あ、でも!お刺身とかお寿司は好きっすよ!!」
男「ふーん。さ、そろそろ取り掛かろうか」
後輩男「マグロだとトロが一番好きで…え?」
男「早く帰れるように頑張ろうな」
後輩男「…はぃ」
男「…帰りに回転寿司にでも行くか?」
後輩男「はい!がんばります!!」
男(後輩男、何にもできそうにないな…俺自身が育ててもらった方法を試すか…)
チャラリラリン♪
割女「あ、メール…」Pi
From:男
To:割女
SUB:今日は散財…
本文:後輩に回転寿司を奢ったら高い皿ばっかり食べて…
おかげで今週分の食費がなくなってしまいました…
久々の寿司で俺もいっぱい食べたから自業自得なんですけどね
割女「あらら…でも…」
Pi Pi Pi…
返信:男
SUB:Re: 今日は散財…
本文:いいなぁ回転寿司…
後輩さんが羨ましいです
割女「返信っと」Pi
割女「あ、また…」Pi
返信:割女
SUB:Re: Re: 今日は散財…
本文:割女さんは回転寿司には行ったことないんですか?
割女「…んと」
Pi Pi Pi…
返信:男
SUB:Re: Re: Re: 今日は散財…
本文:最近隣町にできたんですけど一人だとなかなか行けなくて…
だからまだ行ったことはないですよ
割女「…よっと」Pi
チャラリラリン♪
割女「返信早いなぁ」Pi
SUB:Re: Re: Re: Re:今日は散財…
本文:じゃあまた今度泊まりに行ったときに回転寿司に行きましょう
割女「え?…っていうことは…男さんがまた来る!?やったあ!!」
Pi Pi Pi…
返信:男
SUB:Re: Re: Re: Re: Re:今日は散財…
本文:よろしくお願いします
連絡お待ちしてます♪
割女「…えへへへ~」Pi
・
・
・
後輩男「男さーん、これわかんないんすけどー」
男「なにが?」
後輩男「これっすよ」
男「これって言われてもなぁ」
後輩男「これ、なんすか?」
男「マクロのコーディングだな。で、何がわからないんだ?」
後輩男「全然わかんないっすよぉ」
男「それじゃ俺もわからないな」
後輩男「え?」
男「だから“何を”、“どこまでやって”、“どこがどうわからないか”を説明してくれないと答えようがないんだ」
後輩男「えっと…」
男「で?まず“何を”、“どこまで”していたんだ?」
後輩男「あの…すんません、もうちょっと考えてきます…」
男(まあ、最初はこんなもんだろ)
後輩男「うぅ…」カタ…カタ…
男(大分煮詰まってるな…よし)
男「後輩男、昼にしよう」
後輩男「あ、はい…」
・
・
・
後輩男 ガツガツガツ…
男「結構食べたな」
後輩男「まだいけます!けど男さん、よく知ってますね。こんなところにバイキングの店があるって」
男「たまたまだよ。駅にあった情報誌を暇つぶしに読んでたら載ってたんだ」
後輩男「そうなんすね。おかわり行ってきます」ガタッ バタバタバタ…
男「まだ食うのか…昼休みが終わっちまうぞ…」
後輩男「…男さん、ここ確認なんすけど…」
男「ん?…ああ、そこはセルの入れ替えをするルーチンだな」
後輩男「えっと…多分この配列に元データが取り込まれてるんで、この式で定義された順に並び替える…でいいんすよね?」
男「そうそう」
後輩男「わかりました。あざーっす」
カタカタカタ…
男(後輩男も大分わかってきたな)
後輩男「…」ソワソワ
男「…」カチッ カチッ…
後輩男「あ、あの…」
男「…うん、よくできてる」
後輩男「…っしゃあ!」
男「このマニュアルがあれば、この職場は一人で面倒見れるよ。成長したな」
後輩男「男さんのおかげっすよぉ」
男「後輩男の努力の結果だ。よく頑張ったな」
後輩男「あざーっす!」
後輩男「あ、そういや…もうすぐっすね…」
男「そうだな」
後輩男「…そうだ!男さん、ちょっと付き合ってくださいよぉ」
男「付き合うって?」
後輩男「男さん。今度の金曜空いてますか?」
男「…へ?」
後輩男「男さん、車通勤じゃなかったっすよね?」
男「あ、ああ…」
男「ちょっ、ちょっと待てって」
後輩男「…予定でもあるんすか?」
男「い、いや…予定はないけど…」
男(これって…ホモォ展開!?)
後輩男「俺…ちゃんと面倒見てもらったことがないんす…」
男「え?」
後輩男「勉強でも仕事でも…必ず途中でやる気がなくなったり飽きたりして…一人で終わらせたことがなくて…」
後輩男「それで…ここに来た時も何もできなくて…そこに男さんが来てくれて…」
後輩男「“男さんがやってくれるから楽になる”って思ったんすけど…男さんは俺にやらせて…」
後輩男「でも…だんだんやってることの意味が分かるようになってきて…そしたら仕事が楽しくなってきて…」
後輩男「それで…男さんにアドバイスしてもらいながらっすけど…初めて最後まで一人でやりきって…」
後輩男「…今、すごく充実してるんすよ。それもこれもぜーんぶ、男さんのおかげなんす」
男「そんなことない。後輩男が頑張ったからだって」
後輩男「俺がここまで頑張れたことも含めて、男さんのおかげなんす。だから…」
後輩男「お礼もかねて、明後日の金曜一緒に合コン行きましょう!」
男「コンパかよ!」
割女「…コンパ…」
割女(後輩の誘いでって…そりゃあ…わたしたちは付き合ってないけど…)
割女「…あ゛ーっ!ムシャクシャするー!!」ジタバタ
割女「…」
Pi Pi Pi…
返信:男
SUB:Re: 明後日はコンパ
本文:いい後輩さんですねっ
楽しんできてくださいっ
割女「…んっ」Pi
・
・
・
ピロピロピロ
男「あ、返信」Pi
男「…怒ってる…みたいだな」
男(やっぱ断ればよかったかなぁ…けど、せっかく後輩男が気を使って誘ってくれたんだし…)
男「…はぁ…」
後輩男「ここっすよ。まだみんな来てないみたいっすね」
男(なんか気分が盛り上がらないなぁ)
後輩男「何しけた顔してるんすか!行きますよ!!」
男「ああ…」
・
・
・
後輩男「んでさあ、チョー腹イテーの!でも運転中じゃん!?」
モブ女’s「きゃははは!それでそれで?」
マジー!? アハハハ
男「ペンネうめえ」モグモグ
?「隣、いい?」
男「ん?あ、ああ」
男「これか?取り皿貸して」
?「はい」スッ
男「…どうぞ」
?「ありがと」パクッ
男「…あっちに行かないの?」クイッ
?「いいの。正直あのノリについていくのはちょっとね…」
男「まだ若いのに?」
?「年は関係と思うんだけど?って言うか、それ言ったらあなただって若いくせに」
男「そうでもないけどな…あ、俺は男」
?「あたしは後姉。オンナノコ側の幹事よ」
後姉「後輩男の姉です。弟がお世話になったそうで、ありがとうございます」ペコッ
男「やっぱり…いやいや、俺は何もしてないですよ」
後姉「それがよかったみたいなの」
男「…へ?」
後姉「あの子ね、小さいころからちょっと優柔不断で飽きっぽくて…なかなかやりださないし、やってもすぐ放り出しちゃうしで…」
後姉「大人になってからもそんな調子だからいつも誰かが見てないといけないぐらい頼りなくて…」
後姉「彼女ができたって聞いたときは大丈夫かなって思ったけど…気遣いとかもできないからやっぱり駄目になって…」
男「そういやそんなこと言ってたな。彼女に振られたって」
後姉「何があったの?って聞いたらさ、いい先輩がいるんだって嬉しそうに言うじゃない?」
男「いい先輩?あの職場にそんな人がいたのか?」
後姉「あなたのことよ」
男「んなことないって。俺、結構ほったらかしにしてたし」
後姉「それがよかったみたいね。“俺は先輩に信用されてるんだ。だから何も言われないんだ”って言ってたし」
男「えらく前向きに考えてたんだな。何にも言わなかったのは面倒だからなんだけどなぁ」
後姉「…話を聞いてる限りでは必要なことはアドバイスしてるでしょ?」
男「それぐらいはな。失敗したらその後処理のほうが面倒だし」
後姉「あの子、最後まで任されたのは初めてだって。嬉しいって言ってたわ」
後姉「…やっぱりいい人ねぇ。あたしにカレシがいなかったらモーションかけてたかも」
男「彼氏持ちかよ…」
後姉「あら。がっかりしてる?」
男「いや、別に?」
後姉「その割には視線がこの胸に…ねえ?」クスクス
男「え?あ、いや…」
後姉「ふふふ。お姉さんが教えてあげましょうか?」ユサユサ
男「な、何を?」ゴクリ
後姉「…冗談よ。目がマジで怖いわよ?」
男「なんだ、冗談か。ははは…」
後姉「他のことなら教えてもいいわよ?」
男「他のこと…か」
男「あー…じゃあダメかな?」
後姉「ふふふ。何を聞こうとしたの?」
男「…割烹着」
後姉「かっぽうぎ?」
男「うん。後姉さんは割烹着持ってるのかなーってな?」
後姉「そんなの持ってないわ。っていうか、いまどきそんなの持ってる娘っていないと思うわよ?」
男「そっか…普通はそうだよなあ…じゃあ、昼飯とかにマックとかケンタとかに行ったりする?」
後姉「それならコンビニ弁当のほうがマシね。学生じゃあるまいし」
男「やっぱ普通はそうだよなぁ…」
後姉「…」ジー
男「…どしたん?」
男「か、カノジョじゃねえし!」
後姉「そうなの?でもあなたにはその気はあるのね」クスクス
男「そうじゃ…いや、そうかもな」
後姉「あら、素直なのね」
男「んなことで嘘ついてもなぁ」
後姉「…あなた、変わってるわね」
男「よく言われるよ」
後姉「やっぱり。でもカノジョさんも変わってるわねぇ。いまどきエプロンじゃなくて割烹着だなんて」
男「家が仕出し屋兼民宿だからな。制服みたいなもんだって言ってたよ」
後姉「ふーん。ま、変わり者同士でいいんじゃない?」
男「どういう意味だよ」
後姉「うまくやんなさいってことよ」
男「うまくって…どうすりゃいいんだよ?」
後姉「それは自分で考えてね」ニコッ
割女 イライラ…
チャラリラリン♪
割女 ビクッ Pi
From:男
To:割女
SUB:今から帰ります
本文:今日は後輩のお姉さんとずっと話してました。
なんか感謝されて体がむず痒かったです。
割女「…え?まだ9時過ぎなのに…もう解散?」
Pi Pi Pi…
返信:男
SUB:Re: 今から帰ります
本文:早く終わったんですか?
それともお持ち帰りですか?
割女「…ふんっ!」Pi
割女「あ、返信」Pi
返信:割女
SUB:Re: Re: 今から帰ります
本文:お姉さんは彼氏が迎えに来ました。
ほかのオンナノコは俺以外のオトコ達と一緒にどこかに行きました。
それで俺は一人寂しくバス待ちです。
割女「…よかった…あ、返信しなきゃ」
Pi Pi Pi…
返信:男
SUB:Re: Re: Re: 今から帰ります
本文:お疲れ様です。
寒くなってきたから風邪をひかないように気を付けてくださいね。
割女「送信…っと」Pi
割女(そっか…後輩のお姉さんとお話しして帰ってきたのね…)
割女「…ホントによかった…何にもなくて…」
ガララ
割女母「何がよかったの?」
割女母「そう?それならいいけど…あ、そうそう」
割女「な、なあに?」
割女母「二日ほど前に男さんから部屋が空いてるか教えてほしいって連絡があったわよ」
割女「え!?なんで教えてくれなかったの!!」
割女母「…なーんてね。嘘よ」
割女「…え?」
割女母「あんた、ホントにわかりやすねえ」
割女「カマかけたの?ひどい!」
割女母「…あんたさあ、そこまで気になるんなら会いに行けばいいでしょ?」
割女「なっ!?」
割女母「あ、でもそうするとこの家のほうが大変になっちゃうわね…割女、行っちゃダメよ」
割女「どっちなのよ!」
後輩男「男さん…俺、悲しいっす!」グズグズ
男「だー!鬱陶しいから泣くな!!」
後輩男「しょーがないっすよぉ…今日で男さん、終わりなんすから…」
男「ああ。けど本社に戻るだけだからな?会社辞めるわけじゃないぞ?」
後輩男「そうっすけど…」グズグズ
♪アイラービュー アイウォンチュー♪
後輩男「あ、TEL」Pi
後輩男「はーい…あ、モブ女ちゃん?今?ぜーんぜんオッケー。それよっかさあ、今日チョーブルーでさあ」
後輩男「うん、そうなんよ。だから慰めてくれっかな?うん。また後で連絡すっから。んじゃあねえ」Pi
後輩男「えーっと…どこまで話しましたっけ?」
男「…お前のその切り替えの早さが羨ましいよ」
ズズー
男「はぁ…お茶がうまい…なんかここが一番落ち着く…」
男(席に戻るって言っても仮のデスクだし…うちの会社、次の仕事が決まるまでが長いんだよなぁ…)
男「…スマホでも見るか」
ポチポチ…
グゥウウ~
男「腹減った…もうすぐ昼だもんな…コンビニに行ってくるか」
男「なんにすっかな…弁当は全種類攻略したし…かといってサンドイッチじゃ腹が膨れないし…」
男「となると残ってるのは…助六寿司ぐらいか…あ」
~~~~~~~~~~
いいなぁ回転寿司…
後輩さんが羨ましいです
~~~~~~~~~~
男「そういや割女さんと回転寿司に行くって約束してたな」
男(久しぶりに行くか…)
割女母「はい…はい。二日後の…はい。お待ちしています」ガチャ
トントントン
割女「お母さん、洗濯物取り込んできたよ。電話?」
割女母「あら、ありがとう。ええ。宿泊予約のね」
割女「ふーん…何人?」
割女母「明後日の水曜の夜から、おひとり様で土曜までね」
割女「水曜ね…今やる気でないから面倒だな…」
割女母「あら。そんなこと言っていいの?男さんなんだけど」
割女「え!?…あ、またカマかけてるんでしょ?その手には乗りませーん」
割女母「後でメールしますって言ってたわよ?」
割女「マジで!?それならそれでちゃんと言ってよ!」
ガララ
男「こんばん…は?」
割女「いらっしゃいませ。お待ちしてました」ニコッ
男「はい。お世話になります」
割女「部屋まで案内します。と言っても前と同じ部屋ですけどね」
男「はい。お願いします」
男(びっくりした…いきなり玄関で正座してお出迎えって…)
割女(落ち着いて…落ち着いて…)
ドサッ
男「荷物も置いたし…ご飯有ります?」
割女「食事は下の座敷に準備してありますよ」
男「楽しみだなぁ。ここの御飯、うまいから」
割女「褒めたってサービスしませんよ?」クスッ
男「いやマジでうまいから」
割女「ふふっ。ありがとうございます」
男「お世辞じゃないんだけどなぁ。今日は赤のチェックなんですね」
割女「え?…あ、この割烹着?」
男「ええ。かわいいですね」
割女「え!?あ…その…ありがとうございます//」
男「じゃあ御飯にしましょう」
割女「は、はい!」
割女「はい、どうぞ」
男「いただきます」パクッ モグモグ…
男「ん~!やっぱうまい!!」
割女「よかったぁ」ホッ…
男「どうしたん?」
割女「え?…いえ、なんにもないですよ?」
男「そう?ところであの人…」
割女「え?」クルッ
割女母 ニヤニヤ
男「お母さんだよね?こっち見てニヤニヤしてんだけど…」
割女「何やってんの!おかあsきゃあ!!」
割女母「あらあら。覚えてくださってたんですねぇ。嬉しいわぁ」オシノケッ
男「は、はあ…」
割女「ちょっとお母さん!余計なこと言わないの!!」
割女母「今日なんか朝から掃除して洗濯して庭も掃いて、料理まで作って。ねえ」チラッ
男「へえ…頑張ってたんだ」
割女「あぅ…//」
割女母「さっき男さんが褒めたオカズ、この子が作ったんですよ」
男「そうなんだ。うまいよこれ」ヒョイ パクッ
割女母「さっきも“男さんはまだか”って玄関と道路との間をウロウロしちゃってて」
男「…へ?」
割女「お母さん!もうあっちに行ってて!!」グイグイ
割女母「あらあら。お邪魔様でした」
割女「もう…お母さんったら…」
男「ははは…」
ゴロン
男「布団気持ちいい~」ゴロゴロ
男(明日は割女さんを回転寿司に誘って…そういやこのあたりだと…どの辺にあるんだ?)
男「スマホで…一番近くても隣町か…」
男(割女さんに車を出してもらうか…レンタカーでも借りてくればよかったかなぁ…)
男(けど、割女さんは覚えてるかな…っていうか、誘っても大丈夫か?)
~~~~~~~~~~
割女母「この子ねえ、男さんの予約が入ってからずっと落ち着かなくって」
割女母「さっきも“男さんはまだか”って玄関と道路との間をウロウロしちゃってて」
~~~~~~~~~~~
男「割女さん…なんでそんなこと…」
男(けど、そんな割女さんもかわいいな…)
男(って…割女さん…ひょっとして…俺の…こと…)
Zzz…
ゴロゴロ
割女「にゃは~…にゃははは~」
割女(男さんだ~“かわいい”だって~)
割女「今日…挙動不審じゃなかったかなぁ…男さん呆れてなかったかなぁ…」
ゴロゴロ
割女「男さん…うちみたいな宿にまた来ちゃうって…」
割女「ひょっとして…わたしのこと…好きとか?」
割女「きゃー♪」ゴロゴロゴロゴロ
隣の部屋:割女祖母「地鳴りのような…地震かの?」
男(今日は木曜日か…忙しくないみたいだったら昼飯は回転寿司に…って誘ってみるか…)
ガララ
男「あ」
割女「あ、あのっ!」
男「は、はい!」
割女「…朝ごはん…できてます…」
男「い、いただきます…」
男(びっくりした…引き戸を開けたら割女さんがいて…)
割女(びっくりした…朝ごはんができたから男さんを呼びに行こうとしたらいきなり引き戸が開いて…)
割女・男 ドキドキ…
男「いただきます」
割女「おかわりもありますからね」
男「やっぱうめえ」ガツガツ
割女「ふふっ。慌てなくてもいいですよ」
・
・
・
男「ごちそうさん。はぁ~、喰った喰った…」
割女「じゃあ、お片付けしますね」
男「お願いします。あ、そうだ。割女さん」
割女「はい?」
割女「朝ごはん食べ終わったばっかりなのに、もうお昼の話ですか?」クスッ
男「はい。ほら、前に回転寿司に行こうってメールで…」
割女「あ、覚えててくれたんですね!」
男「はい。で、隣町にく○寿司があるんで、今日のお昼にどうかな?って思って…」
割女「はい。大丈夫ですよ。○ら寿司、楽しみだなぁ♪」
男(あんなに嬉しそうにして…やっぱ調べといてよかった)
割女「男さん、そろそろ行きますか?」ワクワク
男「そうですね。すいません、車だしてもらって…」
割女「そんなの気にしないでください。わたしだってすっごく楽しみなんですもん♪」
男「ははは」
男(割女さん、ホントに楽しそうだな)
割女「男さーん、車に乗ってくださーい」
男「はいはい。今行きます。ちょっと多めにお金を持って…」
?「あの…部屋…空いてますか?」
割女母「え、ええ。空いていますけど…」
男「…ん?どっかで聞いたことあるような声だけど…」
割女「おーい、まだですかー」
男「おっと。今行きます」
ガシャン コロコロ
割女「やったあ!」
男「お、当たった」
パカッ
割女「ほらほら!マグロのストラップですよ!!」
男「ホントだ。割女さんどうぞ」
割女「え?いいんですか?じゃあ…車のカギにつけときますね」ゴソゴソ
男(普通はダサいからつけないと思うんだけどな…)
男「ははは。喜んでもらえて何より」
割女「うれしいなぁ。だってなんだか征服した気になりません?“お宝を手に入れた!”みたいな?」
男「そういわれれば…そんな気がしてきた」
割女「ね?楽しい気分になれるでしょ?」ニコッ
男「そうですね。あははは」
割女「じゃあもう一個当てて男さんにも…」
カチャン カチャン…
割女「楽しみ~♪あ、あれ?」
割女「画面がおかしくなって…どうしたのかな?」
男「ああ、これは恐らく通信エラーになったんで再起動してるところだと思い…あ!」
~~~~~~~~~~
中堅の凸凸証券 システムダウン 損失は数十億円にも 復旧目処立たず ソフト開発の某会社が対応中
~~~~~~~~~~
男(思い出した!あの声は某会社のプロジェクトマネージャーのプロマネさんだ!!)
男(だとするとここに来た目的は…っ!?)
ガタッ!
男「割女さん、すいません。今すぐ民宿に戻りましょう」
割女「え?」
男「嫌な予感がするんです。早くしないと」
割女「ちょ、ちょっと待ってください!まだびっくらぽんが…あ」
画面:“はずれ”
男「おあいそボタンを押しますね」
ブルルルル…
割女「いったいどうしたんですか?」
男「すいません。さっき民宿を出る時にすれ違った人…覚えてますか?」
割女「え?いえ…わたしは車の中にいたから…」
男「あの人、俺の知ってる人なんです」
割女「そうなんですか?」
男「ええ…割女さん、何か月か前に凸凸証券のシステムダウン事件があったの…覚えてますか?」
割女「え?…あー…そういえばそんな記事を見たような…」
男「俺、某会社でそのソフトの開発に携わってたんですよ」
割女「…え?」
男「…あの人、プロジェクトの責任者だったんですよ。今回の事件で相当責められたはずです」
割女「じゃあ…ここに来たのって…っ!?」
男「悪い予感しかしません。急ぎましょう」
割女「はいっ!」
キキーッ! ガチャッ
割女「お母さん!」
割女母「なあに?大きな声出して…男さんにプロポーズでもされたの?」
男「…へ?」
割女「ちょっ!冗談言ってる場合じゃないの!!あの人は!?」
割女母「あの人って?」
割女「私たちが出かけるときにここに来た人よ!!」
割女母「…ああ、あの人なら部屋に荷物を置いて出かけたわよ?」
男「すいません、その部屋に案内してもらえますか?」
割女母「え?それはいくなんでも駄目よ。何かあったら大変だもの」
割女「あの人、自殺するかもしれないの!お母さん!教えて!!」
割女母「っ!?こっちよ!!」
・
・
・
封筒の表書き:遺書
割女母「ど、どうしましょ!?」
男「とにかく警察に連絡してください。自殺しそうな人がいるって」
割女母「わ、分かったわ」トタタタタ…
男「俺たちは探しに行こう。車貸してください」
割女「分かりました!」
ブロロロロ…
割女・男「「…」」
割女「お、男さん…探すったってどこを…」
男「…ここには名所がありますよね」
割女「あ」
男「間に合うといいんですが…」
割女「…」
ヒュー…
?「…」
立札:この先危険 立ち入り禁止
?「…」ザッ…
割女「そこは立ち入り禁止ですよぉー」
ピクッ
?「…」
ザザッ
割女「早く戻りましょうよー。危ないですよぉー」
割女「…え?」
男「俺がプロマネさんに気付かれないように後ろから近づきます」
男「だから割女さん、なんでもいいからプロマネさんに声をかけて気を反らして下さい」
~~~~~~~~~~
割女(と、とにかく気を反らして…)
?「…」ザッ…ザッ…
割女「あっ!ちょっと!!」
ガシッ!
男(よし!回り込み成功!腕をつかんた!!)
男「…久しぶりですねぇ、プロマネさん」
?改めプロマネ「お、お前はっ!」
男「覚えてましたか」
プロマネ「お…お前のせいでっ!おれっ…おれはっ!!」
男「何があったかは大体想像はつきます。けどあれは俺のせいじゃないでしょ」
プロマネ「お、お前がっ!バグを残したせいで!!」ガッ!
男「おっと!俺はスケジュール通り作業してましたよ」ガシッ
男「なのに最後のデバッグ作業の直前で出向を取り消したのはプロマネさん、あなたでしょ」
男「わざとバグを仕込むわけないでしょ?」
男「それに俺、丁寧にデバッグしてくださいって元受の社員さんにお願いしてたんですよ?」
男「俺はできるだけのことはしましたよ。だから俺は、あの件に関しては無関係です」
プロマネ「くっ!無責任な奴めっ!俺はあのあと地獄を見たんだ!!」
プロマネ「毎日毎日客先に呼び出されて!会議室で土下座して!!主要な顧客にも頭を下げて回って!!」
プロマネ「朝早くから夜中まで!ズボンの膝に穴があくまで!!それでも許してもらえなくて!!」
男「…」
プロマネ「毎日ボロボロになって帰ってくる俺に愛想を尽かして女房は子供連れて出ていくし!」
プロマネ「しかも高額な賠償金のせいで会社は倒産して!!再就職のアテもなくて!!」
プロマネ「実家に戻っても親や兄弟からも冷めた目で見られ!そんな俺の気持ちがお前に!!」
プロマネ「お…お前なんかに…分かってたまるか!!」
男「…プロマネさん」
プロマネ「うぅ…うぐっ…ぐぅう…」
プロマネ「イヤミか!!」
男「俺…あの3年ですごく成長したんです」
男「そりゃあ…いきなり切られて最初は腹が立ったけど…結局俺、あのトラブルに巻き込まれなかった訳だし…」
プロマネ「…」
男「…プロマネさんとは会議の時ぐらいしか会うこと無かったですけど…開発チームに入れてもらえて…」
男「仕事のやり方とか…スケジュール管理とか…トラブルの解決手法とか…」
男「よくよく考えたら、いろいろ得るものがあったなぁ…って…」
男「そのおかげで後輩を育てることができたし…結局俺にとってプラスになったことが多くて…」
男「だから…ありがとうございます」ペコッ
プロマネ「…うぅ…うおっ…うおぉおおおおおん!!」ガクッ
男「…」
割女「男さん…」
プロマネ「うおぉおおおおおん!!!うおぉおおおおおん!!!」
・
・
・
プロマネ「はい…ご迷惑をおかけしました」
割女・男「「…」」
プロマネ「…男くん」
男「はい」
プロマネ「…もう一度やり直してみるよ。なにができるが分からないがな」
男「はい」
割女「…」
プロマネ「それと…いきなり切ってすまなかった」
男「…はい」
バタン ファンファンファン…
割女・男「「…」」
男「うん…」
割女「…男さん」
男「はい?」
割女「男さんはすごい人ですね」
男「そんなことないよ」
割女「ううん。自殺しようとしてる人をあんな風に引き止めるなんて…わたしには思いつかないもん」
男「いや、無我夢中だよ。ただ…」
割女「ただ?」
男「プロマネさんの話を聞いてて…この人は一人でもいいから自分に感謝してくれてる人がいたら…また違ったのかな?って思ってさ」
割女「へぇ…どうしてそう思ったんですか?」
男「…俺もさ、急にプロジェクトをはずされたときに似たような気持ちになりかけたんだ」
割女「え?」
割女「あ…」
男「まあ、そんなことがあって…周りが全部敵に見えて追い詰められたときってさ…」
男「自分は何の役にも立ってないような気がして…自分で自分をゴミ扱いしそうになって…」
男「だけど営業さんが俺のこと認めてくれてて…“そうじゃないんだ”って思うことができたから…」
男「それで俺、頭を冷やすことが出来て…この3年は無駄じゃなかったんだなって思えるようになって…」
男「だから、あのとき言ったセリフは引き止めようとしてたわけじゃなくて…ホントに感謝してたから…」
男「…たった一人でもいいから自分を認めてくれる人がいると…人って変われると思うんだ」
割女「…」
割女「あぅ…」
男(もう一個…割女さんにあえたこともプロマネさんに感謝しないといけないな)
割女「…男さん、やっぱすごいです。惚れちゃいました」
男「…へ?」
割女「だから」
ギュッ
男「おわっ!急に腕にしがみつかないで!!」
割女「えへへ。だ―い好き♪」
男「…」
~~~~~~~~~~
割女「えへへ。だ―い好き♪」
~~~~~~~~~~
男「…いかん。顔がにやける…」ニヤニヤ
男「はぁ…」
男(けど…どうしよ…これから先のこと…)
男(割女さんのことは好きだしお付き合いしたい。けど…)
男(俺の仕事は本社勤務とはいえ弱小企業で仕事も少ないし…しかも安定企業とは言えないし…)
男(先行き不透明だから割女さんを養うとこまでは…)
男(第一、割女さんがいなくなるとこの民宿はどうなるんだ?後継者がいないんじゃ…)
男(かといって俺に何が出来る?…民宿なんて何をやったらいいか、さっぱりわかんねえ)
男(うーん…)
男 ボー…
男(いろいろ考えてたらあんまり寝られなかった…)
コンコン
割女『男さん。朝食の準備ができましたよ』
男「あ、はい。今行きます」
男(さっさと着替えて…飯食ったら帰る用意もしないとな…)
・
・
・
男 ボー…
割女「はい。お味噌汁です」コトッ
男「あ、ありがと…」
割女「…どうしたんですか?眠そうですけど?」
男「あー…なんでもない…」
割女「そうですか?あ、おかわりもありますから遠慮せずに言ってくださいね」
男「はい…」
男「じゃあ」
割女父「はい。毎度ありがとうございます」
割女祖母「これを持っておいきよお」
男「いつものおにぎりですね。ありがとう」
割女母「気を付けてね?」
割女「うん。わかってる」
男「じゃあ割女さん、お願いします」
割女「そんな畏まらなくっていいですよ」クスッ
・
・
・
男「送ってくれてありがとう」
割女「ううん。わたしが男さんを送りたかったんですから♪」ニコッ
男 ドキン
割女「…男さん、ごめんなさい」
男「へ?」
割女「男さん、寝不足じゃないですか?」
男「そ、そんなことは…」
割女「わたし…重いオンナですか?」
男「そ、そんなことないけど…」
割女「ありがとう…返事は焦らなくていいですから。じっくり考えてください」
男「…へ?」
割女「わたしは待ってますから。あ、でも…あんまり長く待たせるようなら…」チラッ
男「うっ…」
割女「じゃあ…またメールしますから」ノシ
男「う、うん…じゃあ…」ノシ
割女 モヤモヤモヤ…
割女(…あ、赤信号)
キーッ
割女「あ~あ…せっかくいい天気なのに男さんは帰っちゃうし……このままどこか行っちゃおっかな…」
割女(男さん…結局何も言ってくれなかったなぁ…)
割女(でも、昨夜決めたんだもん。男さんに落ち着いて考えてもらうために…)
割女(男さんから言い出すまでは…私からは言わないようにするんだもん)
割女「自分で決めたのに…しんどいよね、これって…」
・
・
・
男(はぁ…なんで帰りはこんなに気分が晴れないんだろ…)
男「…ビールでも飲むか」プシッ ゴクッ ゴクッ
・
・
・
男「zzz…」
男 ズズー
モブ女社員「…男さぁん、ここ給茶するところなんでぇ」
男「あ、邪魔?」
モブ女社員「…ええ」
男「ごめんごめん。じゃあ、あんまり来ないようにするよ」ノシ
モブ女社員「まったく…あんたがいたらあたしらがサボれないのよ!」
男「…」ボー…
男(次の仕事はやっぱ既存のプロジェクトのサポートとかかなぁ…と言っても今はみんな出向先だし…)チラッ
チラホラ…
男(会社に残ってんのは総務とかだもんなぁ…本格的にやることがない…あ、あかん…あくびが出そう…)
ガタン
男「ちょっと外に出てきます」
バタン
課長「…チッ。そのまま帰ってくんな御荷物野郎め」
割女母「割女、お膳の準備ができたわよ」
割女「はーい。お父さーん、わたし、お膳運んでくるから先にビールのケースを車に積んどいてー」
割女父「ほいほい。よっこいしょっと!」
ゴキッ!
割女父「……………………お~い」
男「サンドイッチとホットコーヒーとミンティアのブラックと…ん?」
転職情報誌:Uターン特集
男(転職…か…)ペラペラ…
ピロピロピロ
男「お、メール」Pi
From:割女
To:男
SUB:無題
本文:今朝お父さんがぎっくり腰になっちゃいました
しばらくは安静にしてないといけないので、
わたしがお父さんの仕事もすることになりました。
だから忙しくなるのであんまりメールができないかも…
男「あらら…“了解しました。お大事に”っと。送信」Pi
男(忙しくなるって…大丈夫かなぁ。なんか無理してそうな気がするなぁ…)
男「あ、営業さん。そうですね」
営業「…何見てるんだ?」
男「あ」
“転職情報誌”
男・営業「「…」」
営業「…辞めるのか?」
男「いやいや!たまたま目の前にあったから開いてみただけですよ!!」
営業「そうなのか?」
男「はい!」
営業「そうか…辞めてもいいんだぞ?」
男「…へ?」
営業「かといって途中から他のグループに入るのもトラブルの基なんだ…」
男「それはわかりますよ。今まで居たリーダーと気まずくなるんですよね」
営業「ああ。某会社の時はセキュリティの関係で優秀な人材を一人だけっていう条件だったからよかったんだが…」
営業「新規を開拓しようにも某会社の件が影響しててな…正直、今は男くんの仕事を見つけるのは難しい状況だ」
男「はあ…」
男(やっぱりそうか…)
営業「だから先のことを考えて…いや、つまらんこと言っちまったな。忘れてくれ」
男「…はい」
営業「それ貸せよ。一緒に金払っとくから」グイッ
男「あ、これは」
営業「いいから。経費で落とせるから気にするな」
男「はあ」
男(俺ってやっぱ追い出し対象者だったんだ…)
男 ペラッ
男(へえ…さすがに割女さんとこの村じゃ求人はないけど、隣町なら結構あるんだな…)
男(追い出されたら割女さんに返事するどころじゃないし…ならいっそあの辺りに転職して…)
~~~~~~~~~~
プロマネ「…もう一度やり直してみるよ。なにができるが分からないがな」
~~~~~~~~~~
男(やり直す…か)
男(…そうだよな。どうせ転職するなら…)
男「課長」
課長「ん?」
男「これを」スッ
チラッ
”退職届“
課長「いやあ、ようやk…辞めるのか。残念だなあ。君が抜けるとこっちは大打撃だよ(棒)」
男「では取り下げm」
課長「しかし意志は固いようだ。断腸の思いでこの退職届を受け取ろう(棒)」パシッ
男「…明日から有給消化に入ります。お世話になりました」ペコッ
課長「はいはい。早めに荷物をまとめろよ」
男(引きとめもなし…か。ま、分かってたけど)
バタバタ
割女祖母「煮物できたぞえ」
割女母「あ、ここに持ってきて」
割女「焼き魚は?」
割女母「そっちの皿に盛りつけてくれる?」
割女「はーい」
割女母「あー、忙しい忙しい。こんな時男手があったらいいのにねぇ」
割女父「うぅ…ゴメンよ母ちゃん…」
割女母「いいのいいの。こんな時ぐらいゆっくり休んでなさい」
割女父「ありがとう母ちゃん…」
割女「あ、メール…男さんだ!」Pi
From:男
To:割女
SUB:退職しました
本文:前から考えていたんですが、今日、退職届を出しました。
明日、そちらに行きます。
ドキン
割女「…え?」
割女母「どうしたの?」
割女「…男さん、会社辞めちゃったんだ…」
割女母「そうなの?」
割女「うん…」
割女「あ、えっと…明日来るんだって」
割女母「そう。じゃあ予約入れとかないとね」
割女「え?それだけ?」
割女母「…男さんは会社を辞めて精神的に落ち込んでると思うの」
割女「う、うん…」
割女母「うちに来るってことは、きっとまた気分転換の為ね。だったらすることは一つでしょ?」
割女「…え?」
割女母「しっかり御持て成ししなきゃって言ってるの。あんたに任せるから、よろしくね」
割女「あ、うん…」
ガララ
男「こんにちは」
割女「あ、いらっしゃいませ。早いですね。まだ昼前ですよ?」
男「はい。ちょっとね。部屋はどこですか?」
割女「こちらです」
・
・
・
ドサッ
男「荷物も置いたし…さて」
キュッ
男「着替えていきますか!」
ノソッ
男「すいませーん」
割女「あ、男さん…どうしたんですか?割烹着なんか着て」
男「…似合いませんか?」
割女「そんなことないですけど…あ、お昼はどうされますか?」
男「あ、途中で食ってきましたから。それより何かお手伝いしたいんですけど」
割女「え?」
割女母「あらあ、助かるわ。じゃあビールのケースを6つ、ワゴン車に積み込んでくれるかしら」
割女「ちょっとお母さん!男さんはお客さんなのよ!!」
男「このケースですね。よっと」ガチャガチャ
ドサッ
男「割女さん。俺、決めたんですよ」
割女「え?決めたって…なにを?」
男「…俺、会社の中だと浮いてたんですよ。ずっと一人で仕事をこなしてたこともあって…」
男「それが仇になって、俺が一緒に仕事をしようとすると…相手のほうが嫌がって…ね?」
割女「それは…」
男「まあ、年齢的なこともあるし、仕事の仕方とかもあるし…」
男「それに途中から入ってこられて引っ掻き回されるのは誰だって嫌だしね」
割女「…」
割女「だったら…早く次の仕事を探したほうがいいんじゃ…」
男「ええ。だからまずはここで働いてみようかと」
割女「…はい?」
男「俺、ずっとこの業界にいたけど、今の仕事よりも自分に合う仕事があるんじゃないかなーって思ってて」
男「そんなときに割女さんのお父さんがしばらく動けないって聞いて…」
男「…俺のわがままなんですけど、今までお世話になったお礼もさせてほしいし…しばらくお手伝いさせてもらえませんか?」
割女母「ええ。お願いします」
割女「…ホントにいいんですか?」
男「はい。こちらこそよろしくお願いします」ペコッ
男「ふぅ…ここ何年かまともに体を動かしてなかったから疲れたなぁ…」
コンコン
男「はーい?」
割女『わたしです』
男「あ、割女さんか。どうぞ」
ガチャ
割女「お疲れ様でした。コーヒー、飲みませんか?」
男「あ、いいんですか?いただきます」
割女「はいどうぞ」スッ
男「ありがとうございます。いい匂いだ」ゴクッ
割女「ふふ。ドリップオンですから」コクッ
男「ふぅ…落ち着くなぁ」
男「はい?」
割女「男さんはその…これから、どうするつもりですか?」
男「どうする…ですか」
割女「はい。お仕事もやめちゃって…このままじゃ」
男「そのことなんですけど…他の人も一緒に聞いてほしいんです」
割女「はい?」
男「みんな下の階にいますよね?」
割女「え、ええ…」
男「じゃあ下の座敷に行きましょう」
・
・
・
男「すみません、お疲れのところ無理言っちゃって」
割女父「まったくだ。腰が痛くてかなわん」
割女母「じゃああなたは布団にもぐってたら?まだまともに歩けないんだから無理しないで」
割女父「そ、そういう訳にも…」
割女母「じゃあ大人しくしといてね」
割女父「はい…」
男「…そろそろいいですか?」
割女母「あら、ごめんなさいね」
男「いえ。じゃあ…えっと…あ、あったあった。これを…」カサッ
割女母「…え?これって…」
割女祖母「婚姻届かえ?」
割女父「なにっ!?あたっ!こ、腰がぁあああ!!!」
割女「ちょっ!お婆ちゃんよく見てよ!!履歴書でしょ!!…え?」
男「はい。ここで働きたいんです」
割女「はい?」
男「今日一日ここでお手伝いしてみて、疲れはしましたけどやっていけそうだなって思いまして」
割女母「その割には履歴書を用意してたり、ヤケに手回しがいいようですけど?」
男「今回は最初からそのつもりだったんで。それで、ここで雇ってもらえないかと」
割女父「ダメだ!」
割女母「あんたは黙ってて!…男さん、確かにうちは今男手が足りません」
割女母「でも、男さんが満足するような額のお給金を提示できるほど儲かってもいないんです」
割女母「出せてバイト代ぐらいです。それでもいいですか?」
男「はい」
割女母「バイト代ぐらいしか出せないって言ったときに引き下がるようならお断りしていたんですけど」
割女母「…しばらく様子を見て、双方納得したうえで正式に雇用したいと思います」
男「はい。あ、できれば住み込みでお願いしたいんですが…」
割女母「わかりました」
割女父「母さん!」
割女母「さっきも言ったとおり、うちは決して儲かっているわけじゃありません」
割女母「ですから、お給金もあんまり出せないかもしれません。それでもいいですか?」
男「はい。ありがとうございます!」ペコッ
割女母「それから割女、あんたが男さんの面倒を見なさい」ポン
割女「え?う、うん…」
男「じゃあ、みなさん、これからよろしくお願いします」ペコッ
・
・
・
割女「男さん!」ダンッ
男「そ、そんな怖い顔して…どうしたんですか?」
割女「どうしたもこうしたもっ!一体どういうつもりですか!?」
男「さっき説明したけど?」
割女「そうじゃなくてっ!」ズイ
男 タジッ
割女「会社を辞めたことはわかります。男さんにもいろいろ事情がおありだったんでしょうから」
割女「でも!それがなんでうちで働くことになるんですか!!」
男「話せば長くなるんだけど…」
割女「長くなってもいいですから!」
男「じゃあ…俺、ここが気に入ったんですよ。のんびりしてて食い物もうまいし」
割女「…はい?」
割女「ま、まあ田舎ですからね…」
男「…けど、生活するには向いてないかなーって思ってたんですよ」
割女「え?」
男「誤解しないでください。さっき言ったようにここは気にいってるんです。ただ、生活するためには生活費がいるわけで…」
割女「…」
男「それで…俺、割女さんのことが気になってて…それで割女さんに好きだって言われて…」
割女「あ…//」
男「で、ずっと考えたんですよ。もし割女さんと付き合えたとしたら…今のままじゃ遠距離…というか中距離恋愛だとか」
男「…もし結婚ってことになったら、いずれはどっちかに落ち着かなきゃいけないとか。それで…」
ゴソゴソ
割女「?」
男「…あ、あったあった。これを見てたら、隣町なら今までやってきたような仕事もあるみたいだし…」
割女「…転職情報誌?」
割女「どうしてですか!?」
男「…なんで俺仕事探してるんだろって…これって次の手を探してるんじゃないかって思って…」
割女「次の手って?」
男「俺が今まで考えてことって、それは全部、割女さんと一緒に居たいからだって気づいて…」
割女「な、なにをいきなり言うんですかっ//」
男「何慌ててるんですか?それに、お父さんがギックリ腰になって男手がなくなって大変だろうし…」
男「だったら、俺が手伝えばいいでしょ?だから馬鹿なことやってたなーって思いまして」
割女「そうですか…でもそれだったら前もって話してくれたらよかったのに」
男「そうなんだけど…それだとみんなに迷惑かなって」
割女「迷惑?」
男「だとしたらお母さんたち、無理やりにでも俺の作業を見つけようとするんじゃないか…とか」
割女「…」
男「それはよくないって思ったんだ。だから何も言わなかった」
割女「…わかりました。けど、わたしには相談してほしかったな…」
男「それは謝ります。ごめんなさい」
割女「いいですよ。男さん、すごく考えてくれたんだってわかって…でも、会社を辞めたのはやり過ぎじゃないですか?」
男「会社を辞めたのは…追い出しに掛かられてたからなんですよ…」
割女「追い出しって?」
男「うちの会社だと、俺ぐらいの年齢になるとグループリーダーとかになってるんですけどね」
男「俺、何年も一人で出向してて、当然部下もいないし…しかもいきなり出向先から帰されたから…」
男「かといって今更ほかのグループに入ったらそこのリーダーが嫌がるだろうし…」
男「会社の中でもお荷物状態だったから、今回のことがなくても近いうちにやめるつもりだったんですよ」
男「それがさっき言ってた“次の手”ですよ。どうしてもダメだったら隣町で就職してこの村に住もうって考えてたんです」
割女「そこまで考えて…男さん、わたし…嬉しいです」
男「なんで?」
割女「男さんがわたしのこととか民宿のこととかいろいろ考えてくれてたことが分かったから…」
割女「やっぱり男さんは優しいです。前にも増して男さんが好きになりました」ニコッ
男「俺も割女さんが好きです。だから…付き合ってください!」ペコッ
割女「はい。こちらこそ」ペコッ
男「よかった…ほっとしたよ」
割女「あら。なんでですか?」
割女「それは私のセリフですよぉ。男さん、ぜーんぜん返事くれないから」ジトー
男「うっ、そ、それは…ごめんなさい」ペコッ
割女「じゃあ…これからずっと傍にいてくれますか?」
男「…へ?」
割女「だから」
割女「これからもずっと一緒に居てくださいね?」
男「はい」ニコッ
~半年後・民宿~
一同「「「…」」」
男「というわけで、会社を退職してここにきて、仕事を手伝ってたらこの仕事が面白くなって…」
男「で、それからずっとここで働かせてもらってるんだ」
男「それで割女…割女さんと、結婚を前提に付き合ってます。な?」
割女「は、はい。男さんとお付き合いさせていただいてます割女です。よろしくお願いします」
男父「…割女さん」
割女「は、はい!」
男父「うちはしがないサラリーマンだし男は三男坊なんで、私らのそばから離れることには異存はない」
割女「はい…」
割女「い、いえ。こちらこそ」ミツユビー
割女母「こちらこそ不束な娘ですが、よろしくお願いします」ミツユビー
割女父「母さん!何を勝手なこt」
割女母「あなたは黙ってなさい!返事は!?」
割女父「…は、はい…」
男父『…おい、男』コソコソ
男「ん?」
男父『あの母親…相当怖そうだぞ。やっていけるのか?』コソコソ
男「大丈夫じゃね?今んとこ味方だし、問題ないだろ」
男父(こいつ…母親は何時だって娘の味方だってのを理解してねえ…尻の下に敷かれるのは確定したな)
男「ん?どうした?」
男父「ご愁傷様です」ナムナムナム…
男「おい親父それどういう意味だよ」
・
・
・
割女「はぁ~、気疲れしましたよぉ~」
男「はいはい。そんなに緊張しなくたっていいのに」ナデナデ
割女「そういう訳にはいかないですよぉ。初めての顔合わせなんだし」ゴロゴロ
男「まあ、確かにな」
割女「でも、男さんのご両親って想像してた通りで安心しました。真面目で、でも堅苦しくなくて…」
男「俺の親、今日は緊張して…って思ってたけど割と普段通りだったな。やっぱ兄貴達で慣れたのかな?」
割女「落ち着いてましたよね」
男「ちょっと面白くないな」
割女「そんなことないですよ。羨ましいですよ。うちなんてお父さんが…恥ずかしいなぁ…」
男「まあまあ」
男「性格は親父に似てるって言われるけどな」
割女「いいとこどりですね。いいなぁ。うちのお父さんなんて気が弱い癖に威張りたがってかっこ悪いから…」
男「そうか?割女のお父さん、いつでも割女のこと考えてるし真面目じゃないか」
割女「そんなことないですよ?でも、そんな風に言ってくれて…ありがと」
男「こちらこそ。ところでさあ」
割女「なんですか?」
男「その敬語とか“男さん”って言うの、いつになったら普通になるんだ?」
割女「え?うーん…もう癖になっちゃってますから…」
男「他人行儀みたいだから早めに直してほしいんだけど」
割女「前向きに検討します」
男「政治家の答弁か!あははは」
男「ん?」
—落ち込んでいた
割女「ホントに…わたしでよかったんですか?」
—気分を変えようとした
男「ああ。割女だからいいんだ」
—勘違いがあった
割女「ホントに?」
—仲良くなった
男「割女こそ、俺なんかでよかったのか?」
—一緒に居ると楽しかった
—会いにいった
男「割女…」
—変わらずに迎えてくれた
割女「ん…」
—変わらない楽しさがあった
チュッ
—変わらない幸せを感じた
男「…これからもずっと一緒だ。よろしくな」
—だから
割女「はい。こちらこそ」
~END~
【ある民宿の一日】
~営業編~
コンコン
営業「どうぞー」
ガチャ
男「お昼のお蕎麦お持ちしました」
営業「ああ。そこに置いといてくれ」
男「はい。失礼します」
パタン
男「ん?」
割女母「あの人…部屋から全然出てこないけど…いいんですか?」
男「ああ。あの人のオフスタイルなんだ」
割女「オフスタイル?」
男「前に聞いたことがあるんだ。営業さんは休みはどうしてますかって」
男「で、営業さん曰く“普段は忙しく走り回ってるから、休む時は何もしないでぼーっとしてる”って」
割女母「ずっとぼーっとしてるんですか?際限なく?」
男「そう」
男「いや、そのままってことはないんだってさ。動きたくてウズウズしだしたら休みは終わりなんだって」
割女「世の中いろんな人がいるんですね…」
ガチャ
営業「あ、男くん。明日出発するから今夜精算しよう」
男「はい。わかりました」
営業「今日は鹿と狸を見たぞ」
男「そうですか。よかったですね」
営業「それを見て営業活動に使えないか考えだしたからもう休みは終わりだ。世話になったな」
男「いえ、商売ですから」ニコッ
~営業END~
プロマネ キョロキョロ
プロマネ「…あ、ちょっと」
割女「はい。なんでしょうか」
プロマネ「この辺で名物って言ったら何があるかな」
割女「名物…ですか?そうですね…蕎麦とか地酒とかぐらいですかね?」
プロマネ「蕎麦と地酒か…近くで作ってるのか?」
割女「地酒の酒蔵は村の中にありますね。蕎麦は…製粉所なら村外れにありますよ」
プロマネ「麺は作ってないのか?」
割女「作ってるとは思いますけど…詳しいことはわからないんです。すみません」
プロマネ「そうか。連絡先はわかるか?」
割女「それは…はい。わかります」
プロマネ「じゃあ教えてくれないか?」
・
・
・
男「ん?」
割女「あの…プロマネさん?ずっと質問ばっかりしてくるんですけど…」
男「質問って?」
割女「名物はなんだとか、どこで作ってるとか…ちょっと鬱陶しいんですけど」
男「あー…あの人、ネットショップもやってる会社にいるらしいからな」
割女「ネットショップ?」
男「ああ。そこで企画を担当してるんだってさ。で、売れそうなものを探してるらしい」
割女「それでいろいろ聞いてきてたんですね…でも、せっかく休みに来てるのにそんなことしなくても…」
男「しょうがないさ。休んでても気になるものは気になるからな。あんまり邪険にせずに生暖かく見守っていこう。な?」
割女「はーい」
~プロマネEND~
後輩男「男先輩!ちーっす!!」
男「いらっしゃいませ。相変わらず元気だな」
後姉「それしか取り柄がないからね。お世話になります」
男「ごゆっくりどうぞ」
割女「いらっしゃいませ。3名様ですよね」
後姉「ええ。彼氏は今車止めてるから後で来るわ」
男「そうですか」
後輩男「あ、姉ちゃん。手続きは俺がしとくから先に部屋に行ってなって」
後姉「そう?じゃあ部屋に案内してくれる?」
割女「はい。こちらです」
・
・
・
後輩男「広い!しかも全面畳だ!!」
後姉「ホント。気持ちよさそう」
後輩男「クロール!」バタバタ
後姉「何やってんの。いい歳して」
後輩男「何言ってんの。小さいころは姉ちゃんとよくこうやって遊んでたじゃん」
後姉「昔は昔。もうそんなことはしません」ウズウズ
後輩男「何気取ってんの?ホントはしたい癖に」
後輩男「あ!そこからスタートする!?ずるくね?」バタバタ
後姉「ハンディよハンディ!」バタバタ
後輩男「くそ!負けるかっ!!」バタバタ
後姉「もうすぐ…ターン!!」クルリ
姉彼「…なにやってんだお前ら?」
後姉・後輩男 ビクッ
後輩男「男せんぱ~い…」
男「なんだ情けない声出して」
後輩男「なんか暇つぶせるとこないっすかぁ?」
男「車で出かけたらどうだ?」
後輩男「いや、それが…姉ちゃんたちが乗ってっちまって…」
男「お前はついていかなかったのか?」
後輩男「“あんたと居たらアホがうつる!”って言われて置いてかれちまったんすよ…」
男(いったい何やらかしんたんだ?)
男「見てのとおり俺は風呂掃除で忙しい」ゴシゴシ
後輩男「そんなこと言わないでくださいよぉ」
男「暇なんだったら村の中でも散歩してきたらどうだ?」
後輩男「村の中っすか?」
男「ああ。造り酒屋もあるし寺や神社もある。暇つぶしになるぞ」
後輩男「はあ…あんま気乗りしないっすけど…」
男「ま、とにかく行ってみろ。何かあるかもしれんぞ?」
後輩男「このままここにいるよりゃあマシっすか?」
男「そうだな。はっきり言って邪魔だし」
後輩男「ひでえっすよ男先輩!」
後輩男「…いやマジでなんもねえのな…」
ブラブラ
後輩男「…ん?」クンクン
後輩男「酒の匂い…男先輩が言ってた酒蔵かな?いってみっか」
・
・
・
杜氏「どうだい?」
後輩男「うまいっす!なんちゅーか…飲みやすいっすね!!」
杜氏「そうかいそうかい。気にいってくれたんならそれでいいや。ほれ、試飲だからホントはダメなんだが…もう一杯いっとけ」
後輩男「あざーっす」
後輩男「ほろ酔いで気持ちいいねえ。ん?」
リュック女 ウロウロ
後輩男「でけえリュック…なにやってんだ?あ、こっちにくる」
リュック女「あの、地元の人ですか?」
後輩男「は?いや俺、観光客っすよ」
リュック女「うわっ!酒くさっ!!」
後輩男「いきなりひどくね?そこの酒蔵で試飲しただけだって」
リュック女「…はあ。地元民じゃないなら知らないか。じゃあね」ノシ
後輩男「ちょいまち!」
リュック女「…なんですか」
後輩男「謝ってほしいんだけど」
リュック女「はあ?」
後輩男「初対面で“酒くさっ”はないっしょ」
リュック女「うざっ!」
トテテテ…
後輩男「…なにあのオンナ」
後輩男「はあ…はあ…」
後輩男(あの性悪女のせいでムカついたから階段ダッシュしちまったい…ようやく息が落ち着いてきた…)
後輩男「…はあ…やっぱ飲んだ後ダッシュしたらきっついわ…ん?」
リュック女「はあ…はあ…」
後輩男「げっ!性悪女!!」
リュック女「はあ…な…なんで…はあ…あんたが…ここに…居るのよ…」ヘタリ
後輩男「俺の勝手じゃん。つか、そんなとこで何へたり込んでんの?」
リュック女「はあ…あたしの勝手でしょ…はあ…はあ…」
後輩男「…しょーがねーな。ほれ」
リュック女「な、なによ…」
後輩男「荷物貸してみ」
リュック女「い、いいわよ。自分で持てるから」
後輩男「いいから貸しなって」グイッ
リュック女「あっ」
後輩男「どこ持ってく?」
リュック女「あ、賽銭箱の前で…」
後輩男「おっけー」
・
・
・
後輩男「…なにやってんの?」
リュック女「ビデオカメラのセットよ」
後輩男「なんで?」
リュック女「…これは極秘情報だけど…あんたには特別に教えてあげるわ」
後輩男(これって…面倒なやつじゃね?)
リュック女「あたし大学で超常現象研究会って言うサークルに入っててね」
後輩男「超常…現象?なにそれ?」
リュック女「UFOとか心霊現象とか、世の中で超常現象って言われていることを科学的に分析して、その仕組みを解明するの」
後輩男「はあ…」
リュック女「このビデオカメラは超常現象を撮影しようと思ってね」
リュック女「あ、あそこはマジで本物が出そうだから怖いもん…」ゴニョゴニョ…
後輩男「はい?」
リュック女「…あそこはメジャーだから面白くないって言ったの!」
後輩男(ば、罰当たりなこと平気で言うよね…)
リュック女「で、この神社なんだけど…狛犬が喋るって情報があってね」
リュック女「それを確認するために今夜一晩ビデオカメラを回しっぱなしにしようと思って」
後輩男「はあ…逃げよ…」コソコソ
リュック女「で、あんたさ、観光客って言ってたけど、この村に泊まってるのよね?…ってちょっと!!」
後輩男「お疲れーっす」ノシ
リュック女「待ちなさいって!」グイッ
リュック女「あんたどこの宿に泊まってるのよ」
後輩男「なんで?」
リュック女「あたし宿取ってしてないの。このままだと野宿しかないの。わかる?」
後輩男(知らねーって…)
リュック女「で、あんたが泊まってるとこってここから近い?部屋空いてる?」
後輩男「近いっちゃ近いけど部屋が空いてるかどうかなんか知らねえって」
リュック女「じゃ決まりね。後で案内して」
後輩男「…」
リュック女「ん?どうしたの?」
後輩男「俺もう帰るし」
リュック女「はあ?」
後輩男「暗くなってきたし。んじゃあ」ノシ
後輩男「だからアブねえって!腕引っ張るなって!!」
リュック女「何勝手に帰ろうとしてんの!?待ってなさいよ!!」
後輩男「なんで?」
リュック女「なんでもよ!わからないの!?」
後輩男「…俺が、初対面のあんたに付き合って待ってなきゃいけない理由を、分かるように説明してみ?」
リュック女「はあ?決まってるじゃない!あたしがオンナだからよ!!オトコはオンナを守るものなの!!」
後輩男「理由になってねえじゃん。第一俺、あんたに失礼な事ばっかされてんだけど?」
後輩男「それに俺、あんたを待っててもなんもメリットないじゃん?だから帰るわ」
リュック女「…ま…待ってよぉ…一人は怖いんだよぉ…」
後輩男「…はい?」
後輩男「それでよく…なんとか研究会なんかに入ろうって思ったな…」
リュック女「だ、だって…田舎の夜がこんなに怖いなんて思ってなかったんだもん…」
後輩男「…はあ。早く用意しなって」
リュック女「え?」
後輩男「待っててやっから。早くしなって」
リュック女「あ…うん!」パァアア
・
・
・
後輩男「待ちくたびれたって」
リュック女「ごめん…」チラッ
後輩男(…こいつ、素直だと可愛い顔してんな)
リュック女「どうしたの?」
後輩男「あ、いや…」ポリポリ
ガサガサッ!
リュック女・後輩男「「!?」」
リュック女「な…なに!?今の…」
後輩男「さあ…」
狛犬「鹿じゃね?」
リュック女「…鹿?」
後輩男「そういや男先輩、鹿がよく出るって言ってたっけ。たぶんそうじゃね?」
リュック女「そっか…」
リュック女「どうしたの?」
後輩男「さっき“鹿じゃね?”って言ったの…誰?」
リュック女「え?あんたじゃないの?」
後輩男「俺言ってねえし」
リュック女「え?そう言えば声が違ったような…それじゃ…」キョロキョロ
ザワザワザワ…
リュック女・後輩男「「…」」ブルッ
後輩男「…やべえんじゃね?早く帰ろ」
リュック女 グイッ
後輩男「だからなんで邪魔すんの!」
リュック女「ご…ごめん…動けない…」
後輩男「はあ?」
後輩男(厄介な奴…見捨てるわけにもいかねえし…)
後輩男「…ほれ」
リュック女「え?」
後輩男「おぶされって言ってんの。ほら早く」
リュック女「む…無理…」
後輩男「あのね。いい加減にしねえと、いくら温厚な俺でも怒るっての!」
リュック女「だ…だって…//」ジョワァアアア
後輩男「…」
リュック女「うぅ…見ないでぇ…」じわぁ
後輩男(うわっ!涙目のこいつ見てっとゾクゾクすんだけど)
リュック女「ヒック…置いてかないでよぉ…」
後輩男「…ほれ。早くおぶされよ」
リュック女「え?で、でも…濡れちゃう…」
後輩男「いいから。おぶさらねーんなら置いてくぞ?」
リュック女「……//」ノサッ
後輩男「行くぞ。しっかり掴まってろよ」
リュック女「う、うん…//」ギュッ
後輩男(うおっ!冷てっ!!背中に柔らかいものが押し付けられてる!!)
テクテク…
後輩男「なにが?」
リュック女「あたし…あんたにひどいこと言ったりしたのに…」
後輩男「ホントホント」
リュック女「ゴメン…」
後輩男「…もういいって。けどさぁ、すっげえ怖がりなのな」
リュック女「うん…」
後輩男「それでなんでその…何とか研究会?」
リュック女「…超常現象研究会」
後輩男「そうそれ。なんでそんなとこに入ったん?」
リュック女「あたし…ああいうの苦手で…だから…科学的に超常現象なんかじゃ無い!って証明できたら安心できるかなって思って…」
後輩男「ふーん」
後輩男(そんであんなに失礼な態度だったんか…)
リュック女「あの神社の噂も…どうせ勘違いかなんかだと思ってて…でも…」
後輩男「本物だった…てか?」
リュック女「…うん」
後輩男「…そっか」
リュック女「…あんた…怖くないの?」
後輩男「後輩男」
リュック女「え?」
後輩男「俺の名前。後輩男」
リュック女「あ…あたしはリュック女」
後輩男「それに、あそこで逃げだしたらカッコわり―じゃん?」
リュック女「そっか…」
後輩男「もうあの神社から大分離れたし、もう大丈夫じゃね?」
リュック女「あ…重い?ゴメン…」
後輩男「重くねえけど。さっきから謝ってばっかじゃん。ははは」
リュック女「わ、笑わなくてもいいじゃん…//」
後輩男「もうすぐ宿だし。このまま行く?」
リュック女「うん…ありがと」
後輩男「礼には及びませんよお譲さん。それより…メアド交換しねえ?」
リュック女「え?」
後輩男「ダメ?」
リュック女「…いいよ」
リュック女「…はい。このメアドに返信するね」Pi
後輩男「…ん。おっけー。じゃあ、行くべ」
リュック女「うん。あの…」
後輩男「ん?」
リュック女「たまには…電話してもいいかな?//」
後輩男「俺のほうこそ電話していい?」
リュック女「…うん」
後輩男「あんがと。あ、ほれ。あそこが俺の泊まってる宿」
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~後輩男END~
html化依頼は来週にでもだします
それでは、またいつかノシ
で、おまけが伏線になって次スレに続くんでしょ?
楽しみにしてるよ!(ニッコリ
乙
引用元: 男「…へ?」 割烹着女「だから」