ワイワイ… ガヤガヤ…
後輩女(先輩と待ち合わせしたはいいけど、ものすごい人混み……)
後輩女(あたし背が低いし、先輩、あたしを見つけるの苦労するだろうな……)
男「やぁ、お待たせ」
後輩女「先輩!? こんなあっさり見つけて下さるなんて!」
男「このハズキルーペがあれば、どんなものでも見えるからね」スチャッ
男「君を見つけ出すくらいわけないさ」
後輩女「すごーい!」
後輩女「きゃっ!」ポロッ
後輩女「あっ、どうしよう!? コンタクトを落としちゃった!」
男「大丈夫さ」
男「ハズキルーペの拡大率をもってすれば、道端に落ちたコンタクトレンズだって……」
男「簡単に見つけられる!」ヒョイッ
後輩女「ありがとうございます、先輩!」
男「ここで待ってるよ」
後輩女「いたっ!」ドンッ
不良「……ってえな。なにしやがる」
DQN「いきなりぶつかってきやがって」
後輩女「あ、ごめんなさい……」
不良「ハァ~? それで済ます気かよ」
DQN「治療費出せや、オラァ!」
後輩女「ひっ……!」
不良「なんだてめえ? 妙なメガネかけやがって」
男「これはメガネじゃない。“ハズキルーペ”だ」
不良「知るかよ! 邪魔すんならやっちまうぞ!」
不良「オラァッ!」ブンッ
男「……」スッ
不良「あ、あれ?」
不良「く、くそっ!」ブンブンッ
男「いくらやっても無駄だ……ハズキルーペがあれば全ての攻撃が見えるんだ」
不良「……なんだとォ!?」
男「弱点も!」ドスッ
不良「ぐはっ! 脇腹にある古傷を的確に……!」
DQN「この野郎!」ダッ
男「……」サワッ
DQN「あぁんっ! 俺はうなじを触られると弱い……!」ビクビクッ
不良「ちくしょう、覚えてやがれ!」タタタッ…
DQN「感じちゃった……」タタタッ…
男「ふうっ、向こうにある公園で少し休もうか」
後輩女「はいっ!」
男「あ、UFO」
後輩女「先輩ってUFOも見つけられるんですか?」
男「まぁね、ハズキルーペで見つけられないものはないのさ」
後輩女「先輩ならイエティやネッシーも見つけちゃいそうですね!」
後輩女「でもそんなに見えちゃうと、かえって目が疲れちゃうのでは?」
男「ハズキルーペは長時間使用しても疲れにくい仕様になってるからへっちゃらなんだ」
後輩女「よくできてるんですねぇ~!」
後輩女「はい、それで先輩にも付き合ってもらおうと……」
男「それじゃ近くのデパートにでも行こうか」
後輩女「お願いします!」
幼女「わーいわーい!」タタタッ
幼女母「コラッ、道路に飛び出したら危ないわよ!」
幼女「あっ!」
幼女母「キャーッ! うちの子がトラックに轢かれちゃうぅぅぅぅぅ!」
男「ま、まずい!」バッ
後輩女「先輩!?」
幼女「おにいさん!?」
キキーッ!
ドカァンッ!!!
後輩女「いやぁぁぁぁぁっ!!!」
後輩女「せ、先輩ぃぃぃぃぃ!!!」
後輩女「先輩!?」
男「ハズキルーペはとても頑丈で、耐荷重90kgを誇るんだ!」
男「だからトラックに轢かれるぐらいなんてことないんだ」
後輩女「ハズキルーペって頑丈なんですね!」
男「これぞ……メイドインジャパン!」スチャッ
幼女母「ありがとうございました……!」
幼女「ありがとー!」
男「お母さんのプレゼントを選ぼうか」
後輩女「それなんですけど……」
後輩女「できたら先輩が選んでくれませんか?」
男「え?」
後輩女「ハズキルーペなら、きっとお母さんに最適なプレゼントも分かると思うから……」
男「……」
後輩女「え?」
男「ハズキルーペは外させてもらう」スッ
後輩女「ど、どうしてですか!?」
後輩女(やだ、素顔の先輩もかっこいい!)
男「なぜかって? 母親へのプレゼントは君自身が選んだ方がいいに決まってるからさ」
男「真心がこもってれば、どんなものを選んだって最上のプレゼントになる!」
後輩女「そうですね……すみませんでした、先輩!」
男「養命酒……!」
後輩女「お母さん、最近体力落ちてるし、きっと喜ぶわ!」
男「う、うん、いいと思うよ」
後輩女「お母さん、誕生日おめでとう!」
母「まぁっ、養命酒! どうもありがとう!」
母「あのー、そちらのお兄さんは?」
後輩女「あたしの先輩! いつもあたしを助けてくれるの!」
母「あら~、いつも娘がお世話になっています」
男「いえ、こちらこそ。彼女の快活さにはいつも元気づけられてますよ」
母「なにかしら?」
男「……」シュババババッ
トトトトンッ
母「!」ビビビッ
母「まあ……体が元気になったわ! 力があふれてくる!」
男「ハズキルーペはその人を元気にするツボを見抜くこともできるんです」
後輩女「先輩なら、世界が核で滅んでも生きていけそう!」
後輩女「あ、せっかくだからご飯を食べていきませんか?」
男「いいのかい?」
母「だったら私が作るよ。あんたたちは少し散歩してきなさいな」
後輩女「でも、今日はお母さんの誕生日なのに……」
母「いいから、二人きりになりたいでしょ?」ヒソヒソ…
後輩女「……ありがとう、お母さん!」
後輩女「ハズキルーペってすごいですね! 何でも見えちゃう!」
男「世界最高峰の技術力を持つ神田通信工業のノウハウが詰まってるからね」
不良「あっ、いやがったぞ!」
DQN「さっきはよくも感じさせやがって!」
リーゼント「あの野郎か? お前らにナメたマネしたってのは」
不良「そうなんです! やっちまって下さい!」
DQN「できれば程々にしてやって下さい!」
リーゼント「ケンカ……買ってもらおうか」
男「……」
後輩女「つ、強そう……」
リーゼント「いくぜっ!」ブオンッ
男「おっと」サッ
リーゼント(こいつは目がいいらしい……意識を上に向けさせといて、ローキックだ!)
リーゼント(見えないところからの攻撃はどうしようもねえだろ!)シュバッ
男「っと」サッ
リーゼント「避けやがった!?」
男「ハズキルーペの視野の広さを甘く見ないでもらおうか」
男「!」ボトッ
後輩女「ああっ、ハズキルーペが顔から吹き飛ばされた!」
リーゼント「どうだ! これでもう何も見え――」
男「新しいのをかけるだけだ」スチャッ
リーゼント「え!?」
男「新しいのをかける」スチャッ
リーゼント「もう一回!」バシッ
男「新しいのを」スチャッ
リーゼント「もっかい!」バシッ
男「新しい」スチャッ
リーゼント「も」バシッ
男「あ」スチャッ
リーゼント「なんだこれ!? ――どうなってんだ!?」
男「“無限ルーペ”だ」
リーゼント「なにィィィィィ!?」
リーゼント「ふん、俺に弱点なんて――」
男「妹さん、目に病気を患っているな?」
リーゼント「!」ギクッ
男「このハズキルーペをあげよう。妹さんも何でも見えるようになるはずだ」サッ
リーゼント「すまねえ……」
後輩女「よかった……」グスッ
不良「リーゼントさんの妹さんを救いやがった……!」
DQN「ちぇっ、また感じさせられちまった!」ビクビクッ
後輩女「あんな悪そうな人たちですら改心させちゃうなんて!」
男「ハズキルーペがあれば、悪の心を見抜くこともできるんだよ」
男「――ん?」
後輩女「悲鳴が聞こえますね……」
ワァァァァ… キャァァァァ…
怪獣「グオオオオオンッ!!!」
ズシンッ!
キャァァァァ… ワァァァァ…
後輩女「怪獣が町で暴れてるわ!」
男「……まさか!」
後輩女「先輩、怪獣の正体に心当たりが!?」
男「さっき見かけたUFO……きっとあれに乗っていた宇宙人が怪獣を放ったんだ!」
後輩女「UFOの目的は地球侵略だったってことですか!」
男「いや、逃げるわけにはいかない。ここで戦わないと犠牲者が出てしまう」
後輩女「いくら先輩でもあんなのに敵いませんよ!」
男「心配するな、俺にはハズキルーペがある!」
後輩女「ハズキルーペで弱点を見たってどうしようも……」
男「いや、今回は見るんじゃない」
後輩女「え?」
後輩女「は、はい……ルーペですから」
男「つまり!」
男「自分自身を拡大することも可能ということッ!」
後輩女「えええ!?」
男「うおおおおおおおおっ!!!」グググググ…
後輩女「先輩がどんどんおっきくなってく……!」
拡大男「いくぞ、怪獣!」
怪獣「ギャオオオオンッ!!!」
ドゴォンッ! バゴォンッ! ズガァンッ!
後輩女「先輩、がんばれーっ!」
さすがハズキルーペ
ドゴォッ!
拡大男「ぐっ……!」ヨロヨロ…
後輩女「きゃっ!」
拡大男(いかん! これ以上下がったら、彼女を踏み潰してしまう!)
拡大男(なんとしても、ここで怪獣を倒す!)
怪獣「!?」
拡大男「だああああああああっ!!!」
ドゴォンッ!!!
怪獣「ギャウゥゥゥ……」ズズゥン…
後輩女「やったーっ!」
男「なぜ、こんなことをした?」
宇宙人「実は……我らの星が滅んでしまったから、移住先の星を探していたのだ……」
宇宙人「それで、環境が近いこの星を手に入れようと……」
男「そういうことだったのか。だったら……」
男「ハズキルーペで新しい星を探してやろう!」スチャッ
後輩女「そんなこともできるんですか!?」
男「ハズキルーペで拡大すれば、宇宙の果てだって見えるからね」
男「ああ、彼らならきっと新しい星でまた栄えるだろう」
後輩女(地球やよその星の危機まで救っちゃうなんて、先輩すごいなぁ……)
後輩女(いい機会だし、今こそ思いを打ち明けちゃおう!)
後輩女「あのー、先輩」
男「ん?」
後輩女「あたし、ずっと先輩のことが……」
男「おっと」
後輩女「え」
男「お腹がなってしまった。そろそろ君の家に戻って、ご飯にしようじゃないか」
後輩女「そ、そうですね!」
後輩女(……もう、先輩ったら! 鈍いんだから!)
後輩女(あーあ、恋心も見えるハズキルーペが開発されないかなぁ……)
おわり
おつ
無いものは見えないぞ