隊員「はい、もしもし」
隊員「え、遭難してしまった!?」
隊員「場所は……うむむ、かなりの難所だな。なんでそんなところへ女性一人で……」
隊員「とにかくすぐ向かいます!」
登山家「私も手伝おう」
隊員「あ、あなたは……!」
登山家「この季節、夜になるとこの山はかなり冷える」
登山家「一刻もはやく、遭難者を救出せねばならん」
登山家「私も救助に参加させてもらいたい」
隊員「あなたが参加して下さるなら百人力です!」
登山家「どうした、ペースが遅いぞ」
隊員「す、すみません!」
隊員(私も登山には自信はあるのだが、この人に比べるとどうしても何段か劣る)
登山家「……」ズシッ
隊員(数十キロの荷物を持ちながら、あのペースで歩くとは……さすがだ)
登山家「……」スイスイ
隊員(この崖を、あんなハイペースで……!)
登山家「手を貸そう」サッ
隊員「ありがとうございます!」ガシッ
登山家「ファイトーッ!」グイッ
隊員「え!? いっぱーつ!」グイッ
登山家「ありがとう、一度やってみたかったんだ」
隊員(お茶目なところがあるのもいい)
隊員「うわ……川が増水してる! 迂回するにも他に道は……」
登山家「泳ぐしかないな」
隊員「この装備でですか!? 流されますよ!」
登山家「大丈夫だ、問題ない」
隊員「私はどうすれば……」
登山家「君も担いで泳ぐ」
隊員「マジすか!?」
熊「グオオオオオオッ!」
隊員「うわっ、熊だ!」
登山家「苦雷夢ッ!!!」
ズドッ!
熊「グオォォォォォ……」ドサッ
隊員「おおっ、熊を一発で!」
隊員(妙に凝った技名をつけてたけど、ただのパンチだったよな……)
登山家「いたぞ」
女「あっ、来てくれたのねぇ~!」
女「写真撮っちゃお!」パシャッ
隊員(シャツにジーンズだとぉ? なんて軽装だ!)
隊員「君、こんな格好で山に登るなんて危ないじゃないか!」
女「だってぇ、イケると思ったんだもん。今山ガールだなんて流行ってるしぃ~」
隊員「いけると思ったって……」
女「ごめんなさぁ~い」ウフッ
隊員(あーあ、こういう子には何をいっても無駄だな……)
登山家「……」
女「!」
登山家「山をナメるな!」
女「ご、ごめんなさい……」
登山家「分かればいい。さ、下山しよう」
隊員(おおっ、あっという間に改心させた!)
隊員(時に山道のように厳しく、時に樹木のように優しく。まるで山のような人だ……)
登山家「ん?」
女「今日は本当にありがとうございました!」
女「二度とこんなことしません! 山をナメたりしません!」
登山家「もういいんだよ。今日はもう帰って、ゆっくり休みなさい」
女「……」ポー…
隊員(あ、この子、登山家さんに惚れたな……)
……
隊員「えっ、あの子とデートすることになった!?」
登山家「誘いを受けてな。私もしばらく大きな登山はないし、一度ぐらいいいかなと思って」
隊員(う、羨ましい……!)
隊員「この色男ォ~!」
登山家「? 私は山男だぞ?」
隊員「そんな風に返されちゃうと、余計みじめになりますってぇ!」
登山家「ある駅で待ち合わせることになっている。はじめて行く駅だ」
隊員「登山家さん、あまり電車なんか乗らないでしょ。大丈夫ですか?」
登山家「心配ないさ」
登山家「切符を買って、電車に乗って、改札から出るだけなんだから」
隊員「その通りです。余計な心配でした」
女「遅いなぁ~」
女「中央東口改札で待ち合わせっていったのにぃ~」
プルルルル…
女「登山家さんからだ!」
女「あ、もしもし! 今どこにいるの?」
登山家「えぇと今は、南口、というところに……」
―おわり―
新宿駅じゃしょうがない