勇者「おお、ここがダーマ神殿か!」
賢者「噂通りの荘厳な建物ですわね」
勇者「本来ならここで新たな職業に就いて、仲間を強化したいところなんだが、俺と賢者の二人旅じゃあなあ……」
賢者「勇者さま、わたしは現在の姿格好で満足しておりますわ、今さら他の職に移るつもりなど毛頭ありません」
勇者「そう言うと思った。まして俺は勇者、他の生き方をすることは許されない」
勇者「というわけで、ここには特に用がないな。一泊したら次の街に旅立とう」
賢者「見たところ、ダーマの神官とご老人が言い争っているみたいですわね」
老人「どうしてワシの願いを聞いてくれんのじゃ!」
神官「叶えられるものなら叶えてみせたい。だが出来ぬものは出来ぬ!」
老人「ワシはただぴちぴちのギャルに転職したいと言うてるだけじゃろうが!」
神官「だから、それが出来ぬと言ってるのじゃ!!」
老人「魔法使いから遊び人まで簡単になれるご時世じゃろうが!それなのになんでギャルになることは出来んのじゃ!!」
神官「それとこれとは話が別だ!大体、ぴちぴちギャルなんて職業が存在するわけなかろうが!」
老人「この役立たずめが!!もういいわい!」
賢者「たまにああいう人もおられるのですわ」
勇者「ふーん、ダーマの神官も大変なんだな」
賢者「私もそれが嫌でダーマに仕える道を諦めたクチでして」
勇者「へえ、賢者はダーマの神官を志していたこともあったのか」
賢者「これでも転職の心得などもありますのよ」
勇者「流石賢者は優秀だなあ」
賢者「お褒めにあずかり光栄ですわ、勇者さま」
勇者「なんだか寝付けないな、散歩でもするか」
テクテク
勇者「あれ、あそこにいるのは」
老人「ウフーン……いや違うの……
アハーン……いやこれも……ぶつぶつ……」
勇者「やっぱり、昼間の迷惑爺さんだ」
勇者「あ、聞こえてらしたか……」
老人「誤解の無いように言うがな、ワシはただぴちぴちギャルになりたいだけじゃ!」
勇者(むしろどう誤解しろというのか……)
勇者「ところで、何でじいさんはそんなにもギャルになりたいと思ってるんですか?」
老人「む、よくぞ聞いてくれた!朝日が昇るまでたっぷり話してやるぞい!耳の穴かっぽじって聞いておれ!」
勇者(長くなりそうだな、聞くんじゃなかった……)
老人「振り返ってみれば沢山のことがあった……」
老人「幼少の頃は神童神童と持て囃され、将来は賢者かはたまた天地雷鳴士かと……」
老人「じゃがそれも二十歳過ぎればただの人、そこに待っておったのは苦労と挫折の日々……」
老人「何事もうまくいかないワシは自棄に走ったこともあった。酒に溺れ、カジノですりまくり、金がなくなればスライムやドラキーをカツアゲする毎日……」
老人「そんな折ワシはばあさんと出会った。何もできないと嘆くワシをいつも支えてくれた……」
老人「ばあさんは優しく、なおかつ芯の強い人じゃった。さらに容姿端麗で、何よりナイスバディじゃった……」
老人「『元気を出して!そーれ、ぱふぱふ、ぱふぱふ……』ワシはこの言葉と仕草に何度励まされたことじゃろう……」
老人「ばあさんと二人三脚で歩んだ数十年は、それはそれは充実したものじゃった……」
老人「そんなばあさんにも先立たれ早や幾年、ワシももう老い先長くはないじゃろう……」
老人「じゃがしかし!ワシはもう一度若かりし頃の記憶を蘇らせたい。思い出のぱふぱふを……」
老人「とは言え、今更若い娘さんのを揉みしだくわけにもいくまい……」
老人「そこでじゃ!!ワシはワシ自身にぱふぱふをしてあげたいんじゃ!!そのためには、ワシがぴちぴちギャルになるほかないんじゃよ!!!!」
老人「おや、もうこんな時間じゃ、時がたつのは早いのう」
勇者(本当に夜が明けてしまった……)
老人「つい熱く語りすぎてしもうた、それじゃあまたの、若いのよ」テクテク
勇者(やっと解放された……)
勇者(しかし……)
勇者(じいさんの言うことは分からんでもないな……)
勇者(年頃になっても色のついた話のひとつもなく……)
勇者(まだ見ぬ地を訪れても、強敵に打ち勝っても、心の奥底はどこか満たされないものがあった……)
勇者(それは自分の鍛錬の足りないせいだと思い聞かせて、更なる特訓を重ねてきた……)
勇者(けれどもそれは自分の本音に目を瞑ってきただけなのかもしれない……)
勇者(その『本当に自分が求めていたもの』が、ぴちぴちギャルになることで見つかるとしたら……)
─その頃、ダーマの宿屋─
賢者「ふぁぁ……おはようございます勇者さま……ってどこに行かれたのかしら?」
賢者「あっ、帰ってきた」
賢者「もう、どこに行ってらしたんですか、勇者さま」
勇者「悪い悪い、ちょっと散歩しててな」
賢者「もう朝ご飯終わっちゃいましたよ。それにしても眠そうですね」
勇者「うん、ちょっと考え事してて。
それはそうと賢者よ、急遽予定を変更するぞ、今日ダーマの神官に会いに行く」
賢者「えっ?……まあ構いませんが……何か用事でもあるんですか?」
勇者「転職する」
賢者「はぁ?」
賢者「けれども勇者さまは世界を救う身。やすやすと職を変える行為は許されざるものです」
勇者「転職しても世界を救うという志に変わりはないさ、さあ行こう」
賢者「分かりましたわ、そこまで言うのであれば、きっと高尚な目的がおありなのでしょうし」
賢者「本当に、転職されるのですね」
勇者「ああ、もちろんだ」
神官「ダーマの神殿によくぞ来た。おぬし、転職をご希望か?」
勇者「はい」
神官「どの職に就くことを望むのじゃ?」
賢者「……」
勇者「俺は……」
勇者「俺はぴちぴちギャルになりたい!!」
賢者「!?」
神官(また変なのが一人増えおった……)
勇者「至って俺は正気だぞ、賢者よ」
賢者「ならばどうして……どうしてそのような戯言を!」
神官「その娘さんの言う通りじゃ。そもそもおぬし、勇者と言うではないか。
世界を救う宿命を負った身にして、どうしてそのようなことをぬかすか!」
勇者「その宿命こそが、俺をがんじがらめにしてきた張本人だ。
そのようなくだらない宿命に、俺の人生を左右されたくはない!
ぴちぴちギャルになることで、その宿命から脱却する!!」
賢者「呆れた……」
しかし……よりによって何故おぬしまで、ぴちぴちギャルになりたいなどと言うのだ」
勇者「それは……ん?
あれはさっきのじいさん!」
老人「さて、今日も神官を説得するかの……
おお、あそこで神官と話しているのは先刻の若いのじゃないか!」
勇者「じいさん、俺もぴちぴちギャルに転職したく、神官に今頼んでるところです。
俺もぱふぱふに人生を見出したくなって」
老人「そうかそうか。若いのに感心なことじゃ。
しかし……お前さん、そちらに綺麗な娘さんを侍らせておるではないか。
見たところ賢者さんのようじゃが……そちらの娘さんにでもぱふぱふして貰えばええんじゃないかの」
賢者「えっ……」
その、ぱふぱふとやらに憧れるのであれば、そちらの娘さんにして貰えばいいだろうに」
賢者「ちょっと神官さま、あなたまで……」
勇者「いや、こいつにはぱふぱふは無理なんです」
神官「それはまたどうして?」
賢者「なっ……
何をおっしゃるのですか!そんなデタラメ!」
勇者「ならば賢者よ、正直に答えよ。お前のアンダーとトップは、それぞれいくつだ?」
賢者「うっ……」
勇者「ほら、はやく答えてみよ!」
賢者「……ろ、……66と……な、74です……」
神官「これは、なんと嘆かわしい……」
勇者「AA力ップですからね、まるで男のようだ」
老人「どうも、頭にしか栄養がいかなかったみたいじゃのう」
神官「これでは勇者殿がぱふぱふに憧れを抱くのも無理はないな。心中察するに余りある」
神官「無理もない、うちの12歳の娘よりも二回りも小さいのではな」
老人「ばあさんのとは比べ物にならんサイズじゃ、気の毒にのう……」
賢者「あなたたち……さっきから言わせておけば好き放題……」プルプル
賢者「許さない!! イ オ ナ……」
勇者「わー!やめろ!!早まるな!!!」
賢者「 ズン!!!!」
ドガーーーーーーーン!!!!!!!!!バキッガラガラグシャ!!!!!
勇者・老人・神官「ぎゃーーーーーーーー!」
賢者「あの後3人を教会に連れて行き……」
賢者「生き返らせてもらった後に私はひたすら平謝り……」
賢者「とりあえず半壊したダーマを復旧させることとなりました」
賢者「そして始まる修繕作業に追われる日々……」
賢者「魔王討伐への道は遠のくばかり……」
賢者「作業のさなかでもぴちぴちギャルへの夢を捨てきれない勇者さまと……」
賢者「勇者と魔王という大きな二つの不安を抱えたまま作業に追われる私……」
賢者「そんなある日のことでした」
神官「なんだ?」
部下「復旧作業の折、神殿の図書館を整理しておりましたところ、このような書物が見つかりまして」ドンッ
神官「なになに?禁断の転職術?」
部下「あっ、あった。このページです」
神官「ほうほう、歳は20前後、長い髪に黒き瞳、さらにしなやかな腕と大きな胸を携えたうら若き乙女にその身を変え、
荒ぶる敵を誘惑し、疲弊した味方を元気づけ、見ている者をも釘付けにする技を数多覚えし職業……その名も……」
神官「 ぴ ち ぴ ち ギ ャ ル 」
部下「私めも驚きにございます」
神官「よし、今すぐ例の老人と勇者を祭壇に呼び寄せろ!私もすぐそちらへ向かう!」
部下「は……はっ!」
勇者「ということで呼ばれてきたが、わくわくするな」
老人「人生がバラ色に見えてきたわい」
賢者「何で私まで連れてこられたの……」
神官「コホン……では、これより転職の儀を始める。まずは老人殿」
老人「ふむ」
神官「では老人よ、ぴちぴちギャルの気持ちになって祈りなさい……
おお、ダーマの神よ、この者にぴちぴちギャルとなる資格を与えたまえ!!」
ポワポワポワ……ポワン!
勇者「凄い!」
賢者「わぁ……」
老人「素晴らしい!このさらさらで真っ直ぐな黒髪、透き通るような張りのある肌、そして何よりこの……
ぼんっ! きゅっ! ぼーんっ!!
なボディ!これは若かりし頃のばあさん以上にグラマラスじゃわい!」
神官「ええい急かすな!では勇者よ、ぴちぴちギャルの……」
ポワポワポワ……ポワン!
勇者「おお!このつぶらな瞳、華奢でありつつも肉付きの良い二の腕、そして何よりこの……
ぼんっ! きゅっ! ぼーんっ!!
なボディ!これこそ俺の探し求めていたものに違いない!!」
賢者(………………)さわさわ……つるつるぺたん
賢者「……完敗ですわ、ぐすん」
勇者「ならばじいさん、こっちはどうだ?ハッスルハッスル~」
キャハハキャハハ
賢者「もう返す言葉が見当たりませんわ……って神官さま?」
神官「思い返せば苦節47年……」
神官「私はダーマの神官として身を粉にして働いてきた。世界のため、そして愛する家族のために……」
神官「だがしかし、最近妻は私に見向きもせず、私の稼ぎでアリア韓流スターのグッズを買いあさる体たらく……」
神官「目に入れても痛くないほどに可愛がってきた愛娘も反抗期……汚い汚いと罵られ、私の靴下を箸でつまむ始末……」
賢者「あのー神官さま?一体何を……」
神官「この二人を見ていると、その答えが見えてきそうだ……」
神官「私の追い求めていた者も、二人と同じものだったのかもしれんな……」
賢者「ああ……神官さままでぴちぴちギャルに毒されてしまったわ……」
神官「そうかもしれぬ。というか、そうなのであろう。
少なくとも、おぬしらと言い争いをしているときには露ほども湧いてこなかった感情が、今私の中にあふれている」
勇者「ならば神官も、ぴちぴちギャルに転職したらいいじゃないか」
神官「願わくばそうしたいものだ……
だがしかし、転職の術は他人にのみ適用されるもの。
自分自身を転職させることはできぬのだ」
老人「ならば、他の転職の心得を持った者に頼めばいいじゃろう」
神官「そんな都合よい人材がいるのか……」
神官「なんと?」
勇者「転職の心得を持った人間ならちゃんとここにいますし。
……なあ?賢者よ、お前、ダーマにはじめて来たときに言ってたよな?」
賢者「!?」
神官「そ、それはまことか!ど、どうなのだ!」
賢者「……どうして勇者さまは私に都合の悪いことばかり覚えておられるのでしょう」
勇者「賢者の優秀さは、俺が一番評価しているところさ」
賢者「今ここでそれを褒められても全く嬉しくありませんわ……はぁ」
神官「どうか、やってくれるか?」
賢者「嫌といっても……きっと難癖お付けになるのでしょう?
それならば心は進みませんが……やってみます。ただし勇者さま、一つだけお願いがあります」
勇者「なんだ?」
賢者「いい加減、魔王討伐の旅を再開して欲しゅうございます」
勇者「わかったわかった。きっと約束する、な?」
賢者「本当にわかってるのかしら……
まあいいでしょう、それでは神官よ、ぴちぴちギャルの気持ちに……」
神官「おお!」
勇者「いいね!」
老人「神官殿、おぬしもこれで立派なぴちぴちギャルじゃよ」
神官「いやあ、世界が違って見えるようだ!!」
賢者「はぁ……これじゃダーマの先行きが危ぶまれますわ。
勇者さま、もう用はお済みでしょう。早く次の街に……」
町人「おっ、ここか」
賢者「!?」
商人「いやあ、最近女房のも垂れ下がってきましてねえ、ぜひ私もぴちぴちギャルに!!」
神父「シスターの胸を揉むなど言語道断!……しかし、自分のであれば神もお許しくださるでしょう!」
農夫「これで毎晩オラのヤギに痛い思いをさせることもなくなるべ!」
荒くれ「さあ、俺たちも早くぴちぴちギャルに!!」
賢者「もういや!勘弁してーーーっ!」
手下「魔王様!」
魔王「どうした?」
手下「ダーマ近辺で不審な動きが……
なんでもぴちぴちギャルなる職業が人間界で流行っている模様でして」
魔王「ふむ……」
魔王(思えば苦節175年……)
魔王(我は女というものを全く知らない……)
魔王(ときにスライムを揉みしだき、リップスに下の面倒を見させることもしたが……)
魔王(色気のないあいつらでは心まで満足することは出来なんだ……)
魔王(だがしかし、ぴちぴちギャル。この魅惑的な響きを持つ職こそが我の欲求を満たす術であるとすれば……)
魔王(よし……)
魔王「手下よ、我はダーマに用事が出来た。暫くは戻ってこられないだろう。
我が居らぬ間も、城の警備を決して怠るでないぞ。よいな!」
手下「は、……はっ!!」
─完─
乙 綺麗な終わり方だった
サキュバスいるだろ
引用元: 勇者「俺はぴちぴちギャルになりたい」