女騎士「なんだ?」
騎士「これ、なにか分かるか?」ヒョイッ
女騎士「鶏卵だろう? バカにしているのか」
騎士「じゃあさ……この卵を道具を使わずこのテーブルに立てられるか? もちろん縦にだぞ」
女騎士「!?」
騎士「どうぞ」スッ
女騎士「どれ……」
女騎士「……」スッ コロン…
女騎士「……」スッ ゴロン…
女騎士「……」ソーッ… ゴロン…
女騎士「無理だ、できるわけがない」
騎士「無理、か……」
女騎士「ふん、いいだろう」
女騎士「ただし、できなければ貴様が私に昼食をご馳走するのだぞ」
騎士「オッケー」
騎士「じゃ、やるぜ」スッ…
女騎士(鶏卵はいびつな楕円形で、非常にバランスが悪い……絶対に不可能だ)
騎士「はいっ、立ちましたーっ!」
女騎士「なっ!?」
女騎士「ふ、ふざけるな! 卵の下の部分を割って、ムリヤリ立てただけではないか!」
女騎士「こんなものイカサマだ!」
騎士「イカサマ? 俺は卵を割っちゃダメなんてルールは設けてないぜ?」
女騎士「くっ……!」
騎士「そう! それなんだよ!」
騎士「タネが分かれば誰でもできることでも、最初に発見するってのはとても難しいことなんだ」
騎士「ちなみに、こういうことを遠い遠~いどこかの世界にいたらしい偉人の名にちなんで」
騎士「“コロンブスの卵”っていうらしいぞ」
女騎士「くっ、コロンブスの卵……!」
騎士「タネを明かしちまうと全部、昨日たまたま読んだ書物の受け売りなんだけどな」
騎士「ま、そういう知識で昼食をゲットするアイディアを思いつくのもまた、コロンブスの卵ってこったな!」
騎士「今日は久々にリッチなランチといくかぁ~!」
女騎士(なんという屈辱だ……!)
……
女騎士(うむむ……さっきはまんまと騎士にしてやられた……!)
女騎士(できれば私も誰かに同じことをしてやりたいが……)
女騎士(もし相手がコロンブスの卵を知っていたら、返り討ちにあう可能性がある)
女騎士(誰か、いい相手はいないだろうか……)
女騎士(私の知り合いで、到底本など読みそうもない者といえば――)
女騎士(――そうだ!)
オーク「おう! こんなところに呼び出して、なんの用だ?」
女騎士「貴様、これがなにか分かるか?」ヒョイッ
オーク「? ……卵だろ?」
女騎士「そう、そのとおり」
オーク「当たってんのかよ。てっきり引っかけ問題かと思ったぜ」
女騎士「じゃあ……この卵を道具を使わず、テーブルの上に立てることはできるか? もちろん縦に」
オーク「!?」
女騎士「よかろう」スッ
オーク「……」スッ コロン…
オーク「……」スッ ゴロン…
オーク「……」ソーッ… ゴロン…
オーク「だーっ! 立ちそうで立たねえ! こりゃ無理だろ!」
女騎士「無理、か……」
オーク「いいぜ! 高級レストランに連れてってやるよ!」ブヒッ
オーク「ただし、できなかったらお前がオレに晩飯おごれよな!」
女騎士「もちろんだ」ニヤッ
女騎士「では、やるぞ」スッ…
オーク(どんなにそーっと立てたって卵は転がるし、絶対無理だ!)
オーク「え?」
女騎士「あっ……」ベチャッ… ドロッ…
オーク「あの……なにやってんすか、女騎士さん?」
女騎士「くっ……ち、違うんだ! これは違うんだ!」
オーク「なにが違うの?」
女騎士「そっ、そうだ! 鶏卵はまだ持ってきている! 頼む、もう一度チャンスをくれ!」
オーク「いいけどさぁ……」
女騎士「でいっ!」グチャッ
女騎士「どりゃっ!」グシャァッ
女騎士「あれぇぇぇ……? どうしてぇぇぇ……!?」
オーク「お、おい……卵もったいねーぞ……。食べ物で遊ぶギャグって、オレはあんま好きになれねーな……」
女騎士「違うっ! 私は遊んでるわけじゃないんだ! 本当に!」
女騎士「頼む、あと一回だけやらせてくれ! 今すぐ卵を取ってくる――」ダッ
女騎士「いたたたた……!」
オーク「大丈夫か!? 急に走り出したりするから……!」
女騎士「くっ、コロンブスの卵……!」
女騎士「私はコロンブスになれなかった……!」
女騎士「どうせ私なんか“転んだブス”なんだ! ううっ……うううっ……!」グスッ…
女騎士「……!」
オーク「お前はブスなんかじゃねーよ、可愛いよ」
女騎士「えっ……」
オーク「オレにはお前が何をやりたかったのか、さっぱり分からなかったけど……」
オーク「せっかく割れた卵が四つもあるんだ! このテーブルキレイだし、まだ食えるだろ!」
オーク「これからオレがスクランブルエッグでも作って、お前にご馳走してやらぁ!」
女騎士「オーク……!」
女騎士(卵は立てられなかったけど……オークの優しさを発見することができた……)
女騎士(こういう“コロンブスの卵”もあるのだな……)
― おわり ―
この二人の関係好き
昔読んだマンガで覚える手品の奴に描いてあった
乙
引用元: 女騎士「くっ、コロンブスの卵……!」