友「たしかに……色んな競技で何かしら起こってるな」
男「俺、このままじゃまずいと思うんだ」
男「スポーツがどんどん汚いものになっていくっていうか……」
友「まあ、そうだな」
友「問題が起きてない競技も、どうせ表ざたになってないだけなんだろ的な空気ができつつあるな」
男「そこでだ」
男「俺、いっそのこと新しいスポーツを作ろうと思うんだ」
友「へ?」
男「今なんとなく考えてるのは……」
男「こうやってケツに小さなボールを挟んで」ギュッ
男「ケツの筋肉で飛ばす!」ポンッ
男「名づけて≪ケツボール≫!」
友「はぁ……」
男「だってさ……こんだけバカげたスポーツなら、不祥事なんか起きようがないだろ?」
友「?」
男「たとえばニュースで……」
『ケツボール業界で不祥事が起こりました』
男「なんて流れたら、失笑モンだろ!」
友「ぷぷっ、たしかに……。こんぐらいふざけてた方がいいのかもしれないな」
友「よぉし、本格的に≪ケツボール≫のスポーツ化を考えてみるか!」
男「どっちがより遠くにボールを飛ばせるか……みたいな」
友「うーん、それだけだとちょっと物足りないな」
友「ケツ筋が強い奴が勝つだけの競技になっちゃう」
友「もうちょいテクニックや駆け引きが勝敗を分ける要素を入れたいところだ」
男「うーん、それもそうだな」
男「あー、なるほど! ゴルフ的な!」
友「そうそう!」
男「だったら、相手のボールに自分のボールをぶつけて……とかも面白そう!」
友「カーリング的な要素か!」
友「だったら、こういうのはどうだ? 得点の入り方は……」
男「こういうアイディアも……」
友「これ、結構マジで面白いんじゃないか?」
男「ああ……これは流行ると思う!」
友「うん、イケるよ、これ!」
男「ただ……ちょっと名前変えるか」
友「そうだな、ケツボールじゃあんまりだし……」
二人は新スポーツ≪ヒップボール≫の普及活動に乗り出した――
男「飛ばす!」ポーンッ
男「皆さんも≪ヒップボール≫やってみませんか?」
友「さまざまな戦略や駆け引きを楽しむことができる、新時代のスポーツです!」
「バカじゃねーの?」
「かっこわるーい」
「誰があんなのやるかよ」
ヒソヒソ… クスクス…
有名人「先日、≪ヒップボール≫なる新スポーツを普及させようという二人組に出会ったんですが」
有名人「最初はバカにしてたけど、これがなかなか面白くて」
有名人「しかも、おかげでお尻の筋肉も引き締まったんですよ」キュッ
「へぇ~、面白そう!」
「単にボールを飛ばせばいいって競技でもないんだな」
「お尻たるんできたし、やってみようかしら……」
「ヒップボール用のボールください!」
「ルールブック売ってくれ!」
「ヒップボール用のタイツちょうだい!」
男「はいはい、押さないで押さないで~!」
友「いっぱい用意してますからね~!」
コロコロ…
子供B「あー、いい位置につけたなぁ!」
子供C「負けないぞ!」
ワイワイ…
男「最近あちこちで、子供が尻でボールを飛ばす微笑ましい光景を見かけるようになったな」
友「なにしろボールさえあれば、どこでもできるからな」
友「子供の運動不足解消にも一役買ってるらしいぞ」
男「どんな場所でもできるような競技にしたのは正解だったな!」
校長「ヒップボールは素晴らしいスポーツです!」
校長「どんどん普及させていきたいと考えております!」
ワァァァァ…
男「ついに部活ができたか~」
友「感慨深いな……」
選手B「あっ、やられた!」
ワァァァ… ワァァァ…
男「はじめてヒップボールの大会を開いたけど……大盛況だな!」
男「みんな生き生きとケツからボール飛ばしてるよ」
友「ああ、こんなに参加者が集まるとは思わなかったぜ。第二回も開こう」
男(この人気っぷりなら、きっとスポンサーもたくさん集まるはずだ)
男(よぉし……)
男「ヒップボールのプロリーグを設立いたします!」
友「その名も……≪Hリーグ≫!」
友「我々はヒップボールを日本だけでなく、世界にも通用するスポーツにいたします!」
ワイワイ… ガヤガヤ…
記者A「こりゃあ大ニュースだ!」
記者B「面白くなってきた!」
記者C「もしかしたら、野球やサッカーに匹敵する存在になるかも……」
外国人「トウッ!」ポーンッ
外国人「Oh、コレ面白イデース!」
男「よしよし、外国人にもウケてる!」
友「当然だよ。古今東西のスポーツを参考にして、あんだけルールを練り込んだんだからな……」
男「我々が企画・考案しました新スポーツ≪ヒップボール≫がなんと……」
男「オリンピック正式種目となりました!」
友「これも皆さまのご支援があったからです!」
友「次回のオリンピックからは、白熱するヒップボールをお楽しみください!」
ワァァァァァ… オォォォォォ…
ワァァァァァ… ワァァァァァ…
男「オリンピックも大成功だな……」
友「ああ……これでヒップボールは名実ともに世界に通用するスポーツになったんだ」
男「ヒップボールをここまでの競技にできたのはお前のおかげだ! ありがとう!」
友「いやいや、俺なんて大したことしちゃいないさ。ヒップボールを思いついたのはお前なんだから」
男「そんなことないって……」
男「……おい!」
友「なんだ?」
男「今度の国内大会、開催地は俺の出身地にしろっていっただろ!」
男「なんでお前の出身地になってんだよ!」
友「うるせえな、今度の大会の最高責任者は俺だ。俺が決めて何が悪い!」
男「どうせ、地元の奴から金もらって変更したんだろうが!」
男「ヒップボールの大会やると、いっぱい観光客が来るもんな! どこも誘致に必死だ!」
友「お前だってそういう魂胆があったから、自分の地元でやろうとしたんだろうが!」
男「なんだとぉ!?」
友「俺だってそうだ! オリンピックでの成功は、九割俺の力によるもんだといっていい!」
友「俺がどれだけIOCのお偉いさんの前で、頭下げて尻からボール飛ばしたと思ってんだ!?」
男「そもそもヒップボールを生み出したのは俺だぞ!」
友「ふん、俺がいなきゃただケツでボールを飛ばすクソ競技で終わってたくせに!」
男「そんなことない! 俺一人でもやれてたさ!」
男「もういい、お前とは絶交だ!」
友「望むところだ! もうお前とはやってらんねえ!」
『ヒップボール協会、分裂! 両巨頭の間に亀裂発生!』
『プロリーグであるHリーグも、男派と友派に別れる!』
『対立激化! 引き抜き合戦開始か!?』
『どうなる、ヒップボール!』
男「優秀な尻を持つ選手は、どんな手を使ってでもうちのリーグに引っぱってこい!」
男「金に糸目をつけるな! 権力をちらつかせろ! 尻に火をつけてやれ!」
部下A「はいっ!」
部下B「はいっ!」
部下C「はいっ!」
友「おい……今みたいなプレイで男派閥の選手に勝てると思ってんのか!?」
女選手「いえ……」
友「もっとケツを引き締めろよ、ケツを!」
友「お前なんかケツしか取り柄がねえんだからよ! なんなら俺が撫でてやろうか!?」
女選手「ひっ……!」
審判「ですが……他の選手も頑張ってきたのに……」
男「やらねえと、クビにするぞ! それでもいいのかよ!?」
男「たしか、お子さんまだ幼かっただろぉ……? まだ尻も青いんだろぉ……?」
友「え、ヒップボールの大会をぜひそちらで開催して欲しい?」
友「しかしねえ……もう開催地は内定してるんでねえ……」
町長「はい……これでいかがでしょ?」サッ
友「まあ……考えてあげてもいいかな……」ニヤッ
アナウンサー『今大人気のスポーツ≪ヒップボール≫運営組織の最高責任者である、男氏と友氏が』
アナウンサー『数々の不祥事を起こしていたことが、このたび内部告発で発覚いたしました』
アナウンサー『Hリーグの選手たちは“あの二人を排斥しなければヒップボールに未来はない”とし』
アナウンサー『団結していく方向……』
プロ選手B「これからは我々がヒップボール界を引っぱっていきます」
プロ選手C「どうか辞任なさって下さい!」
ソウダソウダー! イイゾー! ソノトオリダー!
男「ううう……」
友「ぐうう……」
男「はぁ……」
友「はぁ……」
男「二人揃って尻を蹴られて仲良く追い出されたな……」
友「ああ……何もかも失っちまった。尻を拭く紙すら残っちゃいねえ……」
男「どうしてこうなっちまったのか……」
友「途中までは間違いなく順調だったのになぁ……」
男「とりあえず、一つ分かったことがある」
男「人気が出て、規模がでかくなって、大金が動くようになれば、腐ってくるってことだな……」
友「嫌なケツ論になっちまったな……」
END
起承転ケツがしっかりしてて良かった