国王「なんと!? 帝国軍が攻めてきただと!?」
国王「帝国皇帝は穏健かつ聡明な方だ」
国王「あの皇帝が我が国を攻めるとは考えにくいのだが……」
大将軍「帝国では軍の幹部である司令官が、皇帝の権威を脅かすほどに力をつけ」
大将軍「緊迫した状況が続いていたと聞きます」
大将軍「おそらくは無関係ではないかと──」
国王「……なるほど」
大将軍「しかし、今は帝国の情勢を気にかけている場合ではありません」
大将軍「ただちに我が王国軍の誇る四将軍を出撃させます!」
大将軍「たしかに帝国軍の物量は圧倒的だが」
大将軍「司令官とて、帝国の全軍を掌握しているわけではなかろう」
大将軍「なんとしても帝国軍を食い止め、野望の芽を摘み取るのだ!」
老将軍「これは由々しき事態ですな……」
鎧将軍「御意」
女将軍「お任せを!」
若将軍「やってやりますよ!」
大将軍「うむ、頼んだぞ!」
大将軍(経験ある老将軍と、重装部隊を率いる鎧将軍は守備に長け──)
大将軍(まだ経験こそ浅いが女将軍と若将軍の軍団は勢いがあり、攻撃に長ける!)
大将軍(この四人ならば、必ず王国を守れる!)
すぐさま四将軍率いる王国軍は出撃し、帝国軍を迎え撃った。
ワアァァァァ……!
老将軍「ようし、敵軍をよおく引きつけるのじゃ!」
老将軍「まだじゃぞ……まだっ!」
老将軍「今じゃ、矢を放てっ!」バッ
老将軍「帝国の不届き者どもに、矢の雨を降らせてやるのじゃっ!」
ビュバババババッ! ビュバババババッ!
ワアァァァァァ……!
鎧将軍「敵の誘いには決して乗るな」
鎧将軍「各自、持ち場を死守することだけを考えよ」
鎧将軍「吾輩たちが鉄壁の守りを敷いているからこそ」
鎧将軍「若将軍と女将軍が安心して攻めに転じることができるのだ」
「御意!」 「必ずや!」 「死守いたしますっ!」
守りの要である老将軍と鎧将軍は、帝国軍の猛攻をよく防ぎきった。
しかし──
若将軍「ふん、帝国軍め」
若将軍「俺の軍が来たってのに、のんきに陣地なんぞかまえやがって」
若将軍「女将軍はチマチマ様子見ばっかやってるが、俺は違うぜ!」
若将軍「すぐに王国から奴らを叩き出してやる!」
「さっすが将軍!」 「今すぐ突っ込みましょう!」 「燃えてきたぁっ!」
若将軍「俺たちの鎧の赤は炎の赤、攻めてこそ燃え上がるってもんよ!」
若将軍「よっしゃ、行くぞ! 全軍突撃ィッ!」ババッ
ウオォォォォォ……!
ワアァァァァァ……!
若将軍を先頭に、王国最強の兵士たちが陣地に乗り込んでいく。
ズドドドドドド……!
若将軍「おっしゃああああああ……!」
若将軍「──ん?」
若将軍「なんだこりゃ……陣地にだれもいねえじゃんか」
「敵がいません!」 「もぬけの殻です!」 「逃げやがったか!?」
若将軍「どうなっていやがる……!」
赤兵士「将軍!」
若将軍「どうした!?」
赤兵士「大変です! この陣地が、帝国軍に囲まれていますっ!」
若将軍「なんだとぉっ!?」
帝国将軍「かかれぇっ!」バッ
ウオォォォォォ……!
赤兵士「四方八方から帝国軍が現れて……ここは危険です!」
若将軍「くそったれ……!」ギリッ…
若将軍「ええい、血路を開いて脱出するっ!」
若将軍「俺に続けぇっ!」
若将軍「ちくしょうがぁぁぁぁぁっ!」
ズバッ! ザシュッ! ザンッ! ドズッ! ビシュッ!
若将軍や兵士たちの奮闘で、どうにか全滅は免れたが、被害はかなりのものになった。
青兵士「我が軍の波状攻撃には、さすがの帝国軍も苦しんでいるようですね」
女将軍「ふふっ、当然だ」
女将軍「だが、私は突撃しか能のない若将軍とは違う」
女将軍「深追いはするなよ」
女将軍「我が軍の青い鎧に象徴されるように」
女将軍「我々は常に冷静沈着、うかつな攻撃などもってのほかだ」
青兵士「次期大将軍は……あなたかもしれませんね」チラッ
女将軍「……よ、よせ、私にそんな野心はない」
青兵士(おだてると照れながらもいい笑顔になるんだよなぁ……ステキだ)
女将軍「どうした?」
青兵士「将軍、帝国軍が撤退を始めていきます」
青兵士「追撃の準備を──」
女将軍「いや待て……なにか罠があるかもしれない」
女将軍「しばらく様子を見るのだ」
青兵士「了解しました」
女将軍(……今背後から叩けば、帝国軍に大打撃を与えられる)
女将軍(だがもし罠だったら、若将軍のような目にあう)
女将軍(いやしかし、こんなチャンスは……)
帝国将軍「ふははは、バカな奴らめ」
帝国将軍「まんまと被害を出さずに引き上げることができた」
帝国将軍「たしかに兵の統率はなかなかだったが……しょせん女だな」
ハッハッハッハッハ……!
女将軍陣地──
青兵士「帝国軍は撤退を完了し、再び陣形を整え始めました!」
女将軍「なんだと!?」
女将軍「くそっ……これで今日の優勢などほとんど意味がなくなってしまった!」
女将軍「あの時追撃しておけば……!」
国王「戦況はどうだ……?」
大将軍「老将軍と鎧将軍の軍団は、各要地を手堅く防衛しております」
大将軍「ですが、肝心の若将軍と女将軍が──」
国王「あの二人が、どうしたのいうのだ?」
大将軍「若将軍の軍団は王国最強ですから、敵にも大打撃を与えるものの」
大将軍「無謀ともいえる突撃を繰り返し、敗戦や撤退を重ねております」
大将軍「一方、女将軍は慎重なのはよいのですが、勝機を逸することが多く」
大将軍「こちらも戦績は芳しくありません」
国王「ふむう……」
国王「一長一短、というやつか」
大将軍「やめた方がよいでしょう」
大将軍「あの二軍は、王国軍の中でも特に士気が高い」
大将軍「それはあの二将軍が、兵士たちに慕われているからに他なりません」
大将軍「ここで二人を降ろすと、二軍はたちまち総崩れになる恐れがあります」
大将軍「そうなれば、残る老将軍と鎧将軍もひとたまりもないでしょう」
国王「なるほど……」
国王「あの二人は若く勢いがあり、市民の中にもファンがいるほどだからな」
大将軍「はい……私が前線に出向いても、うまく彼らの手綱を取れるかどうか」
国王「うむ。それに総司令であるおぬしに、今ここを離れてもらっては困る」
国王「どうしたものか……」
大臣「陛下」ザッ
国王「どうした?」
大臣「門に、陛下に謁見したいという者が現れまして……」
国王「悪いが今それどころではない。門前払いにしてしまえ」
大臣「はい、私もそうしろと兵士に命じたのですが──」
大臣「なんでも“帝国に勝つ方法を教えてやる”などと申しているそうで」
国王「なんだと!?」
大将軍「帝国に勝つ方法!?」
大臣「虚言の可能性も高いですが、捨て置くこともできず……いかがいたしましょう?」
国王「ふむう……分かった」
国王「ワシと大将軍で、その者に会ってみよう。通してくれ」
大臣「かしこまりました」
軍師「こんにちは」
女従者「…………」ペコッ
国王「なんでも、我が王国が帝国に勝つ方法を教えてくれるそうだが?」
軍師「はい」
大将軍「さっそくだが、教えてはもらえないか?」
軍師「簡単なことです」
軍師「ボクを王国軍の軍師にして下さい」
国王「!」
大将軍「!」
軍師「そうすれば、帝国軍如きたちまち蹴散らしてみせましょう」
軍師「なぁ?」
女従者「…………」コクッ
大将軍「突然やってきた人間を、はいお願いします、と軍師にするわけにはいかない」
大将軍「なにか妙案があってのことだろうな?」
軍師「もちろん」
国王「ほう……ならばその妙案とやら、ワシらに聞かせてもらおうか」
軍師「はい。では最初に、王国軍と帝国軍、両軍が抱える問題から話しましょう」
軍師「まずは王国軍」
軍師「突然攻め込んできた帝国軍に対し、あなたがたはよく持ちこたえています」
軍師「なぜか?」
軍師「王国軍には大将軍殿の下に、優秀な四人の将軍がいるからです」
軍師「しかし、よく持ちこたえているとはいえ押し返すというほどではない」
軍師「今のままでは物量に劣る王国軍が、徐々に押されていくのは目に見えています」
軍師「なぜなら、老将軍と鎧将軍の軍団は攻勢に向いておらず」
軍師「帝国に打ち勝つ爆発力を秘める若将軍と女将軍の軍団は」
軍師「ほとんど機能していないからです」
軍師「帝国軍のトップは司令官、前線で軍を指揮しているのは帝国将軍です」
軍師「彼らは皇帝の命ではなく、完全に独断で動いています」
軍師「ゆえに司令官は帝国全軍を動かしているわけではなく」
軍師「せいぜい三分の一といったところでしょう。それでも王国軍より多いですが」
軍師「そして内戦を恐れる皇帝派の人間も、彼らに手出しすることができない」
軍師「彼らがなぜ、この王国に攻め込んだか? 狙いはふたつ」
軍師「ひとつは単純な領土拡大、そしてもうひとつは──」
軍師「この王国を滅ぼしたという実績を作り、自分たちの権威を高めるためです」
軍師「彼らは王国を滅ぼしたら、クーデターを起こすつもりでしょう」
軍師「だから一度始めたこの戦争、なんとしても勝たねばならない」
軍師「これが帝国軍の抱える問題点です」
大将軍(おそらくこれらの情報は真実だろう……)
大将軍(我が国はもちろん、攻めている帝国にも猶予はないということか)
大将軍「では聞こう、君の考える妙案を」
軍師「これを殺害する」
軍師「司令官さえ消してしまえば、帝国側から王国を攻める理由は消えますからね」
大将軍「ふむ……」
軍師「そしてこれを成し遂げるには──」
軍師「先ほど申し上げた王国軍の問題点、若将軍と女将軍の力が不可欠なのです!」
軍師「彼ら二人が機能しなければ、王国軍は必ず敗れます」
国王「……君ならばできるというのか?」
国王「あの二人を機能させ、司令官の野望をくじき、帝国軍を撃退することが」
軍師「できるからこそ、こうして謁見に参ったのです」
国王「……どうだ、大将軍」
大将軍「一国の総司令としては、半信半疑といったところです」
大将軍「帝国の情勢がこの男のいうとおりだという保証もありませんしね」
大将軍「ですが──私の一軍人としての本能は、こう告げています」
大将軍「この話に乗るべきだ、と」
国王「よろしい、ならばワシの名において今から君を王国軍軍師に任命しよう!」
軍師「ありがとうございます」
女従者「…………」ペコッ
大将軍「ただし、これだけはいっておく」
大将軍「前線のメンバーには、事前に君のことを伝えるつもりだが」
大将軍「はっきりいって、いい顔はされないだろう」
軍師「それはそうでしょうね」
女従者「…………」オドオド
大将軍「下手すると命すら危ういかもしれない」
軍師「ご心配なく」
軍師「それをなんとかしてこその、軍師ですから」
大将軍「……ならばいい、さっそく四将軍のもとに向かってくれ!」
王国軍前線キャンプ──
老将軍「……なるほどのう」
老将軍「陛下もなかなか戦果を上げられないワシらに、業を煮やしたというところかの」
鎧将軍「しかし、急な話だ」
若将軍「ふざっけんじゃねえっ!!!」ブンッ
ドガッシャアンッ!
若将軍「突然どこからともなくやってきた馬の骨が、俺らの軍師だぁ!?」
若将軍「陛下も大将軍もなに考えてやがる!」
若将軍「んだとォ!?」ギロッ
女将軍「だが、今回ばかりはキサマに賛同せざるをえんな」
女将軍「突撃しかできないバカを除けば、私たちに軍師など必要ない」
若将軍「だろ!? ──っててめえ、バカってだれのことだ!」
女将軍「ほう、自覚があるのならば、私が思うよりはバカではなかったか」
若将軍「てめえ……!」ビキッ
老将軍「これ、よさんか! いつもいつもおぬしらは喧嘩ばかりしおって……」
若将軍「……ふん。まぁいい、とにかく俺らに軍師なんざいらねえ!」
若将軍「大人しくしてるなら従軍ぐらいは許すが、あんまり調子に乗るようなら」
若将軍「この俺が叩き斬ってやる!」
老将軍「今から興奮しとってもしょうがないじゃろ」
鎧将軍「うむ、全ては軍師が到着してからだ」
軍師「はじめまして」
軍師「今日からボクがあなたたちの軍師になるので、どうぞよろしく」
女従者「…………」ペコッ
軍師「で、コイツはボクの従者」
軍師「無口だけど、看護に料理、だいたいなんでもやれるのからこき使っていいよ」
鎧将軍(思ったよりもずいぶん若いな)
老将軍(ふむぅ、なんとも奇妙なコンビじゃな)
若将軍「おうおうおう!」ズイッ
若将軍「わざわざ来てもらって悪いけどよ」
若将軍「俺たちはてめえみたいな小僧に動かせるほど、軽い軍団じゃねえんだ」
若将軍「とっとと引き返してもらおうか!」
女将軍「うむ、どうやって陛下と大将軍をたぶらかしたかは知らぬが」
女将軍「キサマのような軽薄な輩に、居場所などない」
軍師「…………」
若将軍&女将軍「どこがだっ!!!」
女従者「…………」クスッ
若将軍&女将軍「笑うな!!!」
軍師「まあお二人の仲はともかく、なんで軍師を嫌うわけ?」
軍師「ボクみたいなのがあなた方につかないと、王国が滅ぶって王様が判断したから」
軍師「こうしてボクがここに来たわけなんだけど」
若将軍「ケッ、軍師なんてのはろくな連中じゃねえ」
若将軍「実際に戦いもせず机の上で考えた作戦を俺らにやれ、なんてほざく」
若将軍「ろくでもねえ連中だ」
女将軍「うむ」
女将軍「キサマのような人間に、チェスの駒扱いされるのはゴメンだ」
軍師「あなたがたがチェスの駒だって? とんでもない誤解だ」
若将軍&女将軍「!?」
軍師「だってそうだろう?」
軍師「チェスの駒はボクの思い通りに動いてくれるけど」
軍師「一方のお二人は、つまらないプライドにこだわって口答えばかりしてくる」
軍師「あなたがた如きがチェスの駒だなんて、思い上がりにも程がある」
若将軍&女将軍「…………」
ブチッ……
若将軍「殺してやるッ! この場で叩き斬って、首を城に送り返してやるッ!」
女将軍「やめろ、こいつは私が斬る! これほどの侮辱、許せぬ!」
激怒する二人の前に、女従者が割って入る。
若将軍「どけ女! どかねえと、まずお前からブチ殺すぞ!」
女従者「…………!」フルフル
軍師「キレるタイミングが全く同じだなんて……ホント仲がいいんだね」
若将軍&女将軍「よくないっ!!!」
女将軍「キサマこそ肝心のチェスは得意なのだろうな!?」
若将軍「そうだそうだ!」
軍師「もちろん」
軍師「突撃しか能がないが、腕自慢揃いの若将軍の軍団」
若将軍「なっ……!?」
軍師「慎重が過ぎて勝てる戦いを逃すが、もっとも細やかな動きができる女将軍の軍団」
女将軍「ぐっ……!」
軍師「どちらも一筋縄ではいかないムラのある駒ではあるけど」
軍師「老将軍と鎧将軍の軍団にはない爆発力を秘めている」
軍師「あなたがたが駒になってくれるのなら」
軍師「このボクが王国から帝国軍を追い出してみせよう」
若将軍「いったな!?」
女将軍「大きく出たものだな……!」
老将軍(ほっほっほ……いつの間にやら、完全に軍師のペースじゃな)
若将軍「次の一戦は、とりあえずお前にやらせてやる!」
若将軍「だが……こっちも突然やってきたわけの分からない野郎に従うんだ」
若将軍「てめえにもペナルティがなきゃ面白くねえ」
若将軍「もし、しくじった場合、お前の右腕をもらう!」チャキッ
女従者「…………」ビクッ
軍師「ふうん、ずいぶん甘いんだね」
若将軍「なにっ!?」
軍師「軍師にとって、右腕なんてあってもなくてもさほど問題じゃない」
軍師「ボクが一番失ったら困るものといえば、やはり頭脳……脳みそだ」
軍師「もしボクが失敗した場合、この脳を差し上げよう」トントン
若将軍「な……!?」
女将軍「脳だと!?」
若将軍「……ふん、おもしれえ! 首を斬ってから、丁重に取り出してやるからな!」
斥候「この先の平原に、帝国軍が陣取っております! その数、およそ3千!」
老将軍「ふむう、あの平原を押さえられると、ちとまずいのう」
若将軍「ふん、たかが3千程度、俺の軍団で叩き潰してやる!」
女将軍「いや、ここは私の軍団で攻撃と退却を繰り返し、様子をうかがうべきだ」
鎧将軍「待て、お前たち」
鎧将軍「次の一戦は軍師に託す、という約束をもう忘れたのか」
若将軍「チッ、そういやそうだったな」
若将軍「オイ、どうすんだ軍師さんよ。俺とこの女、どっちを使うんだ?」
軍師「ん? そんなの決まってるじゃないか」
軍師「両方だよ」
若将軍「はァ!?」
女将軍「なんだと!?」
帝国隊長「配置、完了しました」
帝国将軍「よし、今日こそあの若将軍を仕留めてやる」
帝国隊長「本当に来るでしょうか?」
帝国将軍「必ず来る。なにせ頭が足りないからな」
帝国将軍「3千程度、とあなどって突っ込んでくるに決まっている」
帝国将軍「老将軍と鎧将軍の軍団は、拠点防衛の担当だから動かぬし」
帝国将軍「女将軍はいつものようになにか罠があると勘繰り、まともに攻めてくるまい」
帝国将軍「若将軍さえ討ってしまえば、王国は攻撃の要を失う」
帝国将軍「今まで何度も奴を追い詰めながらも、なかなか仕留められなかったが」
帝国将軍「奴の命運は今日ここで尽きる!」
すると──
帝国兵「王国軍が来ました! 赤い鎧、若将軍の軍団です!」
帝国将軍「やはり来たか。よし、手はず通りにやれ!」
帝国隊長「はっ!」
若将軍(笑わせやがって)
若将軍(もし失敗したら、約束通り脳みそをいただいてやる!)
若将軍「全軍突撃ィッ! 俺に続けぇっ!」
ワアァァァァァ……!
ウオォォォォォ……!
若将軍の軍団と、帝国軍が激突する寸前──
帝国隊長「今だ、旗を上げろっ!」
バサァッ!
旗を合図に、平原のあちこちから伏兵が現れた。
若将軍「な、なんだとぉっ!? コイツらいったいどこに──!」
帝国隊長「丈の高い草、地面……隠れるところなどいくらでもある!」
帝国隊長「今日ここで必ず若将軍を仕留めろっ!」
若将軍(やべぇ、深く入りすぎた……! マジでヤバイ!)
ズバッ! ドシュッ! ザンッ! ドズッ! ビシュッ!
「ぐわぁっ!」 「ギャアアアッ!」 「うわぁっ!」
伏兵たちから次々と悲鳴が起こり始める。
帝国隊長「へ……?」
帝国兵「隊長! 伏兵たちが次々攻撃を受けています!」
帝国兵「伏兵を攻撃しているのは、青い鎧の女将軍の軍団です!」
帝国隊長「女将軍!? ヤツらがなぜ──!?」
伏兵が機能しなければ、もはや若将軍の独壇場である。
ドドドドド……!
若将軍「うおおおおっ! 一丸となって突っ込めぇっ!」
帝国隊長「わわっ!」
ザシュッ……!
若将軍の一撃で、帝国隊長の首が飛んだ。
帝国将軍「女将軍の軍団に伏兵が潰され、若将軍に隊長が討たれた!?」
帝国将軍「くっ……やむをえん! 退却だ、すぐさま退却しろ!」
平原を捨て、撤退する帝国軍。
ワアァァァァァ……!
オリャァァァァァ……!
ギャアァァァァァ……!
背後から若将軍らの猛追を受け、帝国将軍の部隊はおびただしい被害を出した。
帝国将軍(まさか、王国軍の穴だったはずの二将軍が協力し合うとは……!?)
帝国将軍(いや、ありえん!)
帝国将軍(ヤツらが各々に動いた結果、幸運な偶然が重なっただけに過ぎん!)
帝国将軍(次こそ、王国軍に致命的なダメージを与えてやる!)
軍師「──さてと、どうやら脳みそは取られずにすみそうだね」
女従者「…………」ホッ…
軍師「久々の快勝だってのに、どうしてそんな険しい顔をしてるのさ?」
若将軍「当たり前だ!」
若将軍「俺は敵の伏兵のことも、女将軍のこともなんも聞かされてなかった!」
軍師「そりゃそうさ」
軍師「もし若将軍に話してたら、おそらく君らの突撃にウソっぽさが出てしまい」
軍師「向こうになにか作戦があるのでは、と感づかれる恐れがあったからね」
軍師「もしそうなれば、帝国隊長を討つという戦果は上げられなかっただろう」
若将軍「ぐっ……!」
軍師「だが、これからはそういうわけにはいかない」
軍師「勇猛な若将軍の軍団が敵を引きつけ──」
軍師「精密な動きができる女将軍の軍団が敵の裏を取る」
軍師「今後、これが王国軍の基本戦術となることを肝に銘じてくれ」
若将軍「なんでこんな女の引き立て役みたいな仕事をこなさきゃならねえんだ!」
女将軍「私もだ」
女将軍「若将軍の影に潜むような戦術など、私は好まぬ!」
軍師「──いい加減にしろっ!!!」
若将軍&女将軍「!?」ビクッ
女従者「…………!」ドキッ
老将軍&鎧将軍「!」
シ~ン……
軍師「……怒鳴ってごめん」
軍師「若将軍、女将軍……あなたたちのやりたいことはなんだ?」
軍師「自分たちのプライドのために兵を動かし、戦うことか?」
軍師「それとも──国を守ることか?」
軍師「もし前者なら、もうボクがあなたたちにいうことはない」
軍師「さっさとボクの首を斬って……好き勝手に戦ってくれ」
女将軍「……くそっ」
軍師「どうやら二人とも、国を守りたいみたいだね」
女従者「…………」ニコッ
軍師「自分の役割をきっちりこなす、安定感抜群の老将軍と鎧将軍」
軍師「どんな大軍をも恐れない若将軍に、神出鬼没の用兵が可能な女将軍」
軍師「ここにボクが加われば、帝国軍などに決して負けはしない!」
軍師「──というわけで二人とも、そろそろ和解しようじゃないか」
若将軍と女将軍に、握手をするよう促す軍師。
だが──
バシィッ!
若将軍「いいか! 俺たちの突撃を無駄にしやがったら承知しねえぞ!」
女将軍「キサマらこそ、我々が自由に動けるようにしっかり戦えよ!」
老将軍(いやはや……ようやく王国軍に光が差し込んできたようじゃのう……)
若将軍「よっしゃああああっ!」
若将軍「存分に暴れてやれっ! 女将軍に出番を回さねえつもりでな!」
赤兵士「もちろんですよ!」
~
女将軍「若将軍の無様な突撃で、敵の陣形が乱れた」
女将軍「バラバラになった帝国軍を、じっくりと各個撃破してやれ!」
青兵士「はっ!」
老将軍「補給や後方支援に抜かりがあると、若武者たちが安心して戦えんからのう」
白兵士「了解です!」
~
鎧将軍「若将軍と女将軍の奮闘で、だいぶ負担が減ったが、やることは変わらぬ」
鎧将軍「吾輩たちは、彼らが攻められるようひたすら拠点を死守することだ」
黒兵士「御意!」
攻めと守りのバランスが整った王国軍は、帝国軍を面白いように打ち破っていった。
国王「大将軍、戦況はどうだ?」
大将軍「あの軍師が加わってから、急速に戦況を盛り返しております」
大将軍「若将軍の突撃を、女将軍がフォローするという戦術が効いているようです」
大将軍「若将軍は、女将軍がいるから安心して思い切った突撃ができる」
大将軍「女将軍は、若将軍がいるから自由自在に戦場を動くことができる」
大将軍「両軍とも、協力し合うことでようやく真の力を発揮できるようになりました」
大将軍「とはいえ、油断は禁物です」
大将軍「帝国軍にはまだ帝国将軍が健在ですし、司令官も動いておりません」
国王「ふむう……」
国王「しかし、あの軍師はいったい何者だろうか」
大将軍「本人も詮索には一切応じないようで、なんとも……」
大将軍「ただし先日、斥候から気がかりな情報が」
国王「なんだ?」
大将軍「ゆえに皇帝派の人間は司令官に手を出せないとのこと」
国王「なるほど、軍師のいうことは事実だったというわけか」
国王「もしかすると、あの軍師は皇帝派の人間かもしれんな」
大将軍「私もその可能性が高いと睨んでいます」
大将軍「そして、これはあくまでウワサですが──」
大将軍「皇帝には子供が一人おり、その子供が密かに国から抜け出したというのです」
国王「なんと……それは初耳だな」
国王「ワシはずっと皇帝に子供はいない、と思い込んでおった」
大将軍「もしこれが真実だとするならば──」
大将軍「皇帝も司令官の野心を感じ取っており、極秘にしていたのかもしれません」
大将軍「むろん、帝国を乗っ取りたい司令官にとって」
大将軍「皇帝の血を引く人間など脅威以外の何者でもありません」
大将軍「もしそんな人物がいると知れば、血眼になって探すことでしょうな」
帝国軍本陣──
司令官「このボンクラがッ!!!」
司令官「あんな弱小国を相手に、なにをチンタラやっておるか!」
司令官「時間をかければかけるほど、クーデターが難しくなるというのが分からんか!」
司令官「国内では、公表されてなかった皇帝の子が城を脱したなどという」
司令官「下らんウワサも立っておるし」
司令官「皇帝をいつまでも軟禁してはおれんぞ!」
帝国将軍「申し訳ありません……!」
帝国将軍「王国軍の穴であったはずの若将軍と女将軍が連係を始め」
帝国将軍「一気に戦況を盛り返されてしまいました……!」
帝国将軍「あの二将軍が、短期間でこれほどの戦術を身につけるとは考えにくい」
帝国将軍「これはやはりウワサ通り、あの方が王国軍に加わったのでは──」
司令官「アレをあの方などと呼ぶでないわ! 不愉快極まりない!」
帝国将軍「もっ、申し訳ありません……!」
司令官「各々役割分担はハッキリしておる」
司令官「それを見極めれば、恐れるような相手ではないはずだ!」
帝国将軍「は、はいっ!」
司令官「いいか……これ以上敗戦を重ねるようなら」
司令官「キサマの首で、責任を取ってもらうことになる……!」ギロッ
帝国将軍「…………!」ビクッ
帝国将軍「なんとしても、王国軍を撃破いたします!」
女従者「…………」モミモミ…
若将軍「くぅ~~~……効くぅ~っ!」
若将軍「マッサージも一流とは……お前の従者はとことん万能だな」
軍師「まぁね、だからこそ連れてきたわけだし」
老将軍「おぬしもそうじゃが、あの娘も王国軍のよい清涼剤となっておるわい」
鎧将軍「うむ」
若将軍「もう一人の女も、戦争以外のこともできればちったぁ可愛がってやるんだがな」
ゲシィッ!
若将軍「ごふっ! ──な、なにも顔面を蹴るこたぁねえだろうが!」
女将軍「ふん! 料理も看護もマッサージもできなくて悪かったな!」
軍師「ハハハッ……!」
女従者「…………」クスッ
老将軍「ほっほっほ……」
鎧将軍「ふっ」
斥候「山岳地帯から、帝国軍が迫っております!」
斥候「兵力はおよそ1万!」
老将軍「ふむ……おそらく率いておるのは帝国将軍じゃな」
老将軍「このところの連敗で、ついに本腰を入れてきたというところかの」
若将軍「ケッ、関係ねぇよ」
若将軍「俺たちはいつものようにやるだけだ」
女将軍「ああ、若将軍の無謀な突撃と、私の華麗な用兵でケリをつける」
軍師「…………」
女将軍「軍師、どうした?」
軍師「……妙な胸騒ぎがするんだ」
若将軍「なぁに、心配ねえさ。俺たちもだいぶ連係が上手くなったからな」
若将軍「お前もいつもみたいに朗報を待ってろって」
軍師「だといいんだけれど……」
帝国兵「若将軍の赤い軍団が姿を現しました!」
帝国将軍「よし……では各隊に手はず通り動くよう伝えよ!」
帝国兵「はっ!」
~
赤兵士「あそこに大量の旗が立ってます!」
若将軍「よし……今日ここで帝国将軍を討つぞ! 司令官を引っぱり出してやるんだ!」
赤兵士「はいっ!」
ウオォォォォォ……!
ワアァァァァァ……!
猛スピードで帝国軍の陣地に突撃する若将軍たち。
しかし──
赤兵士「これは……ほとんどが人形……偽兵です!」
若将軍「なんだと!? だとすると、1万の兵士はどこへ……!」
若将軍「──女将軍たちがやべえ!」
最初から若将軍を相手する気はなかったのである。
「向こうにいました!」 「あちらにもです!」 「発見しました!」
帝国将軍「ふっふっふ、司令官のアドバイスのおかげだ……」
帝国将軍「よぉ~し、女将軍の軍団を狩りまくれ!」
~
青兵士「奴ら、どうやら最初から我々が狙いだったようです!」
青兵士「潜ませている兵士が、次々にやられています!」
青兵士「将軍、ここはお逃げ下さい!」
女将軍「くそっ……軍師の胸騒ぎとはこういうことだったのか……!」
「こっちにもいたぞぉっ!」 「あれは女将軍だ!」 「逃がすなっ!」
女将軍(ここまでか……!)チャッ
ズバッ! ドシュッ! ビシュッ!
「ギャアッ!」 「ぐええっ!」 「ぐはぁっ!」
若将軍「うおおおおおっ! 女将軍、無事かっ!?」
女将軍「若将軍……!」
若将軍「無事だったか! 今俺の軍団もバラして、お前らの援護をさせてる!」
若将軍「こうなったら撤退しかねえ! 俺らが道を作るから、後に続け!」
女将軍「……ありがとう」
若将軍「……いいってことよ! まんまと偽兵にしてやられた俺にも責任がある!」
若将軍「野郎ども、行くぞぉぉぉっ!!!」ジャキッ
ウオォォォォォ……!
若将軍の奮闘で、女将軍の軍団はどうにか全滅の憂き目を免れた。
帝国兵「若将軍と女将軍は逃がしましたが、敵軍の被害は相当なものです」
帝国将軍「ふっふっふ……いつもいつも同じ手が通用すると思ったら大間違いだ」
帝国将軍「これで少しの間、女将軍の軍団は動けぬだろう」
帝国将軍「若将軍と女将軍、どちらかだけならば怖くはない」
帝国将軍「明日、総攻撃をかける!」
帝国将軍「司令官にも勝利近しと伝達しておけ!」
帝国兵「はっ!」
軍師「──申し訳ない」
軍師「そろそろ敵もなにか手を打つ頃という予感はあったが」
軍師「こうまでみごとに対応されるとは思ってもみなかった……」
軍師「今回の敗戦はボクのミスだ。ボクは約束を守る」
軍師「約束通り、ボクの首を──」
バシィッ! ベシィッ!
軍師の頭をはたく若将軍と女将軍。
若将軍「一度しくじったぐらいで、くよくよしてんじゃねえよ」
若将軍「たしかに死人は大勢出たが、みんな最後まで諦めずに戦った」
若将軍「なぜだか分かるか?」
若将軍「お前なら、自分の戦いを絶対無駄にはしないって信じてたからだよ!」
女将軍「ふん、キサマもたまにはいいことをいうな」
女将軍「対応されたなら対応し返せばいいだけの話だろう?」
軍師「……だけど」
老将軍「じゃが……もはやおぬしは王国軍にとってなくてはならぬ存在じゃ」
老将軍「死んだ兵に詫びる気持ちがあるなら、おぬしは今死ぬべきではない」
軍師「しかし……」
女従者「…………」スッ
ドゴォッ!
女従者の拳が、軍師のボディに炸裂した。
軍師「げぶぅっ……!」ドサッ
若将軍&女将軍&老将軍&鎧将軍「!?」
女従者「…………」クイクイッ
若将軍「ほれ、従者の嬢ちゃんも立ち上がれっていってるぜ」
軍師「ありがとう……みんな!」ゲフッ
軍師「ボクはこの王国を、帝国に勝たせてみせる!」ゴホッ
女将軍「ふん、そう来なくてはな」
女将軍「我々のような優秀な駒を使うのだ、この程度で音を上げてもらっては困る」
鎧将軍「帝国軍がこのスキを突いてくることはまちがいないだろう」
軍師「…………」
軍師「……一つ、策を思いついたよ」
軍師「これがハマれば、もしかすると明日、帝国将軍を討てるかもしれない」
若将軍「明日って……マジかよ!?」
女将軍「聞かせてもらおうか」
軍師「…………」ゴニョゴニョ
シ~ン……
若将軍「マジでやるのか、それ……!?」
女将軍「うむむ……かなり不安なのだが」
老将軍「ほっほっほ、面白いかもしれんのう」
鎧将軍「やる価値はあるかもしれんな」
帝国兵「各部隊、出撃準備が整いました!」
帝国将軍「今日こそ若将軍と女将軍の首を獲ってくれる!」
帝国将軍「奴らさえ仕留めれば、老将軍と鎧将軍の軍はじっくり攻めればよい」
帝国将軍「司令官の本陣からの援軍が到着次第、総攻撃を開始する!」
帝国兵「はっ!」
すると、斥候から報せが入る。
帝国斥候「将軍、この陣に王国軍が迫っております」
帝国将軍「ほう……どこの軍団だ?」
帝国斥候「青い鎧ですので、女将軍の軍団です!」
帝国将軍「ふん、奴らは昨日だいぶ負傷者を出したはずだ」
帝国将軍「真正面から攻めてこれるほどの戦力は持たないはず」
帝国将軍「おそらくは混乱を招くための陽動……相手にするな、と兵に伝えておけ!」
帝国斥候「はっ!」
ドドドドド……!
「まだ近づいてくるぜ」 「どうせすぐ引き返すだろ」 「将軍は相手するなってさ」
ドドドドド……!
「おかしくねえか!?」 「あいつら止まる気配ねえぞ!」 「だけど女将軍だろ!?」
ドドドドド……!
「真正面から来るわけが……」 「いや!」 「あれは青い鎧を身につけてるが──」
ドドドドド……!
「若将軍の軍団だっ!!!」
若将軍「大正解ッ!!!」
ワアァァァァァ……!
ウオォォォォォ……!
ズガァァンッ!
青い鎧をつけた若将軍の軍団が、凄まじい勢いで帝国軍陣地に突っ込んだ。
帝国軍陣地は大混乱に陥った。
帝国兵「王国軍が陣に侵入しました!」
帝国将軍「なんだと!? 見張りはなにをやっていたのだ!」
帝国兵「女将軍の軍団だと思われてた軍が、若将軍の軍団だったようです!」
帝国将軍「なんだとぉ……!?」
帝国将軍「鎧を……着せ替えてたというのか……!」
帝国将軍「こんな子供騙しに……っ!」ギリッ…
帝国兵「とにかくすぐに撤退を──」
「ダメです!」 「道が押さえられています!」 「撤退できません!」
帝国将軍「なぜだっ!?」
「鎧将軍の軍団が、我々の背後をがっちり固めています!」
~
鎧将軍(軍師も人使いが荒い)
鎧将軍(王国軍でもっとも鈍重な我が軍団に、これほどの大移動をやらせるとはな)
若将軍「剣を抜きな」
若将軍「決着つけようぜ……お山の大将」
帝国将軍「くっ……!」チャッ
帝国将軍「うおおおおおおおおっ!」
キィンッ! ガキンッ! キンッ! ギンッ! ガキンッ!
若将軍と帝国将軍、二人の剣が火花を散らせる。
ザシッ!
若将軍「ぐっ……! へっ、お山の大将と思いきや、なかなかやるじゃねえか!」
帝国将軍「こんなところで……終われるかぁっ!」
ギィンッ! ガィンッ! キンッ!
若将軍「……あばよ!」
ザンッ……!
帝国将軍「ぐおあっ……! し、司令官……申し訳……あり……」ドサァッ…
ついに帝国将軍が討ち取られた。
女従者「…………」シュル…
若将軍「サンキュー、包帯で固めたらずいぶんマシになった」
若将軍「傷は負ったが、どうにか帝国将軍を討ち取れたぜ」
女将軍「ふん、さすがだな」
軍師「よくやってくれたね」
若将軍「──にしても、鎧を着替えるなんて単純な策があそこまでハマるとはな」
軍師「あなたたちがきっちり役割を果たしていたおかげだよ」
軍師「おかげで帝国は、基本的な索敵すら怠るようになり」
軍師「こちらの動きを鎧の色で判断するようになっていたからね」
軍師「あと、鎧将軍にもムチャをさせたね」
鎧将軍「持ち場を離れるのは危険な賭けだったが……うまくいってなによりだ」
老将軍「これでいよいよ、司令官率いる本隊との直接対決じゃな」
若将軍「軍師の話じゃ、アイツらこの国を滅ぼして帝国を乗っ取るつもりらしいが」
若将軍「そう世の中甘くねえってことを教えてやるぜ!」
女将軍「ああ、主君を軽んじて国を乗っ取ろうなど臣下のやることではない」
女将軍「司令官の愚かな野望、我々がくじいてみせようではないか!」
ワイワイ…… ワイワイ……
軍師「司令官か……」
女従者「…………」チラッ
軍師「大丈夫……王国軍の軍師になると決めた時から、覚悟はできている……!」
女従者「…………」
帝国将軍討ち死にの報せは、司令官にも届けられた。
司令官「死におったか……」
司令官「鎧を着替えるなどという下らんトリックにしてやられおって……バカなヤツめ」
司令官(だが、これでハッキリした……)
司令官(王国軍に、アイツが入れ知恵している!)
司令官(どこに行ったかと思えば、やはりウワサは本当だったか!)
司令官(こうなれば、小細工する暇など与えず、一気に叩き潰してくれる!)
司令官「私の動かせる全兵力──10万による総攻撃だ!」
司令官「この数日中に、私の兵士を全集結させるのだ!」
側近「はっ!」
若将軍「帝国の本陣に……10万だとォ!? マ、マジかよ……!」
若将軍「こっちは俺たち四人の全軍かき集めても、4万がせいぜいだってのによ……」
老将軍「まともにやり合ったら、ひとたまりもないのう」
女将軍「どうする、軍師?」
女将軍「どこかに籠城し、時を稼ぐか?」
軍師「いや、この国の城は籠城には向いてない」
軍師「あっという間に囲まれて、城ごと叩き潰されるのがオチだろう」
軍師「だが……手はある!」
軍師「明日、ボクたちから決戦を仕掛ける」
若将軍「決戦!? しかもこっちから!?」
女将軍「ムチャだ! それこそ明日中に、我々四軍とも消滅してしまうぞ!」
軍師「……分かってる、ムチャは承知だ」
軍師「こちらも他の守りは捨て、全軍を集結させる」
軍師「鎧将軍の軍団を壁に見立て、若将軍の軍団が主攻担当」
軍師「女将軍の軍団が助攻、老将軍の軍団は後方支援」
軍師「この布陣で、明日一日だけでいい……なんとしても持ちこたえてくれ!」
軍師「そうすれば……そこからはボクの仕事だ」
若将軍「……分かったぜ、やってやるよ! 燃えてきやがった!」
女将軍「キサマの軍団の無謀さは、私が支えてやろう」
老将軍「ほっほっほ、年甲斐もなく熱くなってきたわい」
鎧将軍「吾輩の軍団が壁か、任された」
女従者「…………」オドオド
若将軍「心配すんな! 絶対なんとかなる!」
女将軍「そうだな、我々王国軍の意地を見せてやろう!」
互いに陣を敷き、帝国軍10万と王国軍4万が対峙する。
司令官「王国軍め……まさか決戦を挑んでくるとはな」
司令官「どこか拠点に閉じこもってもらった方がラクだったのだが、まぁいい」
司令官「全軍に告ぐ!」
司令官「あの愚か者どもに、帝国の力を知らしめてやれいッ!」
オオオオオオオオオオ……!
~
若将軍「10万がどうしたってんだ! 野郎ども、やってやるぞっ!」
女将軍「下らん野望にとりつかれ、王国に攻め入ったこと、後悔させてやれ!」
老将軍「やることをやれば必ず神は微笑んでくれるものじゃ……ゆくぞ!」
鎧将軍「我が軍団は防壁。仲間も、国も、自分自身も守り抜くのだ」
オオオオオオオオオオ……!
決戦が始まった。
ウオォォォォォ……!
「王国軍を倒せぇっ!」 「叩き潰せっ!」 「帝国をなめるな!」
鎧将軍「来たぞっ!」
「守れっ!」 「俺たちは壁だ!」 「帝国軍に抜かせるなよ!」
ズドォンッ!
黒い鎧の鎧将軍の軍団と、帝国軍が激突する。
老将軍「援護するんじゃっ!」
ビュババババッ! ビュババババッ!
老将軍の軍団が一斉に矢を放つ。
そして──
壁となっている鎧将軍の軍団が、一部だけ「穴」を開ける。
若将軍「よっしゃ、出るぞぉっ! 攻撃開始だっ!!!」
「おうともっ!」 「燃えてきたぁっ!」 「若将軍に続けぇっ!」
帝国軍の大軍に、恐れず突っ込む若将軍。
ザシュッ! ザンッ! ビシュッ! ザクッ! シュバァッ!
若将軍の軍団は当然、大軍に囲まれるが──
女将軍「あの男のフォローは我々が行う!」
女将軍の軍団が部隊を分割させ、若将軍の突撃に助勢する。
ワアァァァァァ……!
ウオォォォォォ……!
四将軍の息がぴったりと合い、数で勝る帝国軍を押しのけていく。
王国軍本陣──
軍師「君は老将軍の衛生兵たちと、負傷者の手当てを頼む!」
女従者「…………」コクッ
軍師(ここまでは順調……)
軍師(だけど帝国……司令官も決してこのままでは済ませないだろう)
司令官「クックック……なるほどな」
司令官「さすがはアイツが加わっただけのことはある」
司令官「だが、この10万という数と、私が直接調練を施した精兵たち」
司令官「三下どもが力を合わせたぐらいで打ち破れるほど、甘くないわ」
~
ザシュッ! キンッ! ザンッ! ワアァァァァァ……!
赤兵士「将軍、大丈夫ですか!?」
若将軍「ああ、まだまだイケるぜ!」
若将軍(さすがに一人一人がつええ……俺たちの突撃速度が落ちてやがる!)
若将軍(だが、ここから部下を踏ん張らせるのが、俺の役目だ!)
若将軍「野郎ども、疲れは敵を斬って吹っ飛ばせっ!!!」
ウオォォォォォ……!
若将軍「ちいっ……!」
若将軍(このままじゃ、バラバラになった兵たちが各個撃破されちまう!)
キィンッ! ザンッ! ザシュッ!
女将軍「ひるむな、若将軍!」
若将軍「!」
女将軍「いっただろう? キサマの無謀さは私が支えてやると!」
女将軍「全軍、分断された若将軍の兵士たちをフォローせよっ!」
「了解っ!」 「お任せを!」 「すぐに!」
若将軍「ありがとな!」
女将軍「礼などいらぬ。キサマには貸しがあるからな」
女将軍のフォローによって、かろうじて命脈を保つことができた。
女将軍「一度、鎧将軍の『壁』の後ろに後退するぞ!」
ワアァァァァァ……!
若将軍と女将軍の軍団が、体勢を立て直すために後退する。
当然、追撃しようと帝国軍が殺到する。
鎧将軍「ここからは我々の役目だ」
鎧将軍「一人たりとも後ろには通すな!」
帝国軍と鎧将軍の軍団が激突する。
ドゴォンッ!
帝国兵「ちっ、ぶ厚い鎧だけがウリのウスノロどもがっ!」
鎧将軍「だからこそ、皆を守れるのだ!」ブオンッ
鎧将軍のハンマーが、帝国兵の頭を打ち砕く。
ズガァンッ!
女将軍「我々も出るぞ!」
ズドドドドドドドド……!
ワアァァァァァ……!
最後方で負傷者たちを手当てする女従者。
女従者「…………」シュルシュル
「あ、ありがとう……」 「アンタ、天使だ……!」 「うぅ……っ!」
軍師(負傷者がどんどん増えてきた……)
軍師(若将軍と女将軍の勇猛さと緻密さを兼ね備えた攻めを)
軍師(鎧将軍と老将軍の堅固な守りがフォローする)
軍師(四人はボクのいうとおり、いやボクがいう以上によくやってくれている)
軍師(なのに……!)
軍師(帝国軍の強さはボクの計算以上だ……!)
ザシュッ! ザンッ! キィンッ! シュバッ! ドスッ!
女将軍「やはり数には抗えぬのか……!」
ワアァァァァァ……!
ウオォォォォォ……!
鎧将軍「守り切る……この命続く限り!」
ザシュッ! ドゴォッ! ギンッ! ガキンッ! ズンッ!
老将軍「若将軍と女将軍らはだいぶ疲弊しておる! ワシらも出るんじゃ!」
ワアァァァァァ……!
ウオォォォォォ……!
側近「司令官、そろそろ日没です」
側近「退却のご命令を──」
司令官「いや、今日ここで決める」
司令官「粘ってはいるが、王国軍はもはや全軍が満身創痍といってよい有様」
司令官「まちがいなく潰せる」
~
若将軍(もう日も沈むってのに勢いが衰えねぇ……)
若将軍(──ってことはコイツら、今日中に決めるつもりか……くそったれ!)
女将軍(まずいな、戦闘可能な兵がどんどん減っているというのに!)
鎧将軍(守り抜く……!)
老将軍(ワシはもはや死は恐れぬが、これ以上若武者たちを死なせるわけには──)
日没が近くなった頃、大平原に迫る軍勢。
「なんだ!?」 「ありゃ、どこの軍だ!?」 「どこから!?」
若将軍「オイオイ、まさかまた帝国軍じゃねえだろうな!?」
女将軍「いやあれは……大将軍の旗だ!」
~
側近「司令官……王国軍の総司令、大将軍が兵を率いてきたもようです」
司令官「…………」
司令官(ここにきて援軍とは……温存していたか)
司令官「……まぁ、焦る必要もあるまい」
司令官「今日一日で王国軍は十分削ることができた」
司令官「退却命令を出せ」
側近「はっ!」
若将軍「とりあえず今日のところは戦は終わりか」
女将軍「大将軍に助けられたな」
若将軍「ああ……それとお前にも助けられたよ」
女将軍「!」
若将軍「帝国は強かった」
若将軍「お前たちがいなきゃ、日没を待つまでもなく俺らは全滅してた」
若将軍「ありがとよ」
女将軍「ふん……我々は手助けしただけ。キサマらの勇猛さあってこそだ」
ヒューヒュー……! ピーピー……!
若将軍「て、てめぇら冷やかすんじゃねえ!」
女将軍「い、今冷やかした者は、あとで厳罰モノだからな!」
ハッハッハッハッハ……!
老将軍「いやはや大将軍、ナイスタイミングでしたのう」
大将軍「軍師から今日あたり決戦になると、連絡を受けていてな」
大将軍「王都に残る兵はわずか2千程度だったが、ハッタリにはなったようだ」
軍師「帝国を退却させたのは、やはり大将軍殿の旗があってこそ」
軍師「国の総司令を引っぱり出すような真似をしてしまい……申し訳ありません」
大将軍「いや、詫びをせねばならないのは私だ、軍師」
大将軍「君がこの国に来なければ、王国はとうに滅ぼされていただろう」
大将軍「総司令として、改めて礼をいわせてくれ」
軍師「ありがとうございます」
軍師「ですが、まだ終わったわけではありません」
軍師「ここからがボクの最後の仕事なのです」
若将軍「仕事って……どうすんだよ?」
女将軍「情けないが、明日は今日のように戦えそうにない……」
軍師「“帝国軍の力、誠に恐れ入った”」
軍師「“ゆえに休戦を申し出たい”」
軍師「“交渉材料として、こちらからは皇帝の子を差し出す”」
軍師「──と」
軍師「かといって、帝国軍優勢の状況でこんな話に乗るはずがない」
軍師「こちらも帝国軍10万と、真正面からある程度戦えることを示す必要があった」
軍師「あなたたちが今日善戦してくれたおかげで、司令官はこの話に乗るだろう」
軍師「明日一番で、ボク自ら帝国本陣に乗り込み、司令官を討つつもりだ」
若将軍「ちょっと待て! 皇帝の子を差し出すってことは、お前の正体は……!」
女将軍「そんな……!」
鎧将軍「……そういうことだったか」
老将軍(帝国の人間というのは推測できていたが、皇帝の子供だったとは……)
大将軍(やはりな……)
若将軍「もし、司令官をやれたとしても……死ぬぞ」
若将軍「てめえ、それ分かってんのか!?」
軍師「もちろん分かってる。だけど司令官を倒せば、帝国軍は一気に力を失う」
軍師「そしてこれは、ボクがやらなければならないことなんだ……!」
軍師「帝国の下らない内輪揉めに、あなたたちを巻き込んだ責任を取るために……」
軍師「君にも苦労をかけたね」
女従者「…………」フルフル
女将軍(ここまできて軍師を死なせるのか……)
女将軍(だからといって、それ以外に王国軍が勝つ術はない……)
大将軍「君の最後の策……成功を祈る、軍師」
軍師「ありがとうございます、大将軍殿」
側近「さっきの使者の話、本当でしょうか……」
司令官「悪知恵の働くヤツのことだ、まさか皇帝の子本人は出てこまい」
側近「えっ、ではなぜ受けたのですか!?」
司令官「敵陣に一人で乗り込むという大役、有象無象に任せるとも考えにくい」
司令官「王国軍の中でもかなりの重要人物が来るはず」
司令官「私自ら騙されたふりをしてニセモノと対峙してやり、捕え、拷問する」
司令官「そして王国軍の情報を洗いざらい吐かせてやる」
司令官「今日の一戦で、王国軍は案外あなどれぬと分かったからな」
側近「並の兵では歯が立たぬ司令官の腕前ならば、大丈夫だと思いますが──」
司令官「明日が楽しみだ、フハハハハハ……!」
ザッ……
ローブ「…………」
帝国兵「なんだ、お前は!?」
ローブ「皇帝の子供です」
帝国兵「お前が!? だったらちゃんと顔を見せろ!」
ローブ「イヤです、司令官殿以外の人間に顔を晒したくありません」
帝国兵「なんだと……!」
側近「かまわん」
帝国兵「側近様!」
側近「司令官からの指示だ、そのまま入れてやれ」
司令官「えぇ、お初にお目にかかります」
司令官(ローブで顔を隠している……)
司令官(バカが……“自分はニセモノです”といっておるようなものだ)
司令官「それにしても、私も皇帝陛下にご子息がおられたとは初耳でしてな」
司令官「国内には私がクーデターを企てているなどと中傷する輩もいますが」
司令官「とんでもない!」
司令官「私は皇帝陛下には絶対の忠誠を誓っておりますから!」
ローブ「そうですか、あなたほどの勇者が忠誠を誓うとあらば、父も喜ぶでしょう」
司令官「えぇ、お喜びになるでしょうな」
司令官(じれったい……さっさと正体を現せ、ニセモノが!)
ローブ「私はあなたと心中をしに来たのです」
ローブ「これ以上、帝国をあなたの好きにさせるわけにはいきませんから」
司令官(おお、やっとか。私自ら返り討ちにして──)チャキッ
バサッ……!
ローブが脱ぎ捨てられる。
軍師「久しぶりだね……」
司令官「!?」
司令官「な、なんでお前が……!」
ドスッ……!
軍師のナイフが司令官の胸に突き刺さる。
軍師「やはりあなたも人の親だったね……」ググッ…
軍師「並の人間じゃ、警戒してるあなたを暗殺するなんて到底不可能だ」
軍師「だけどボクを見れば、一瞬動揺してくれると信じていた……」
軍師「これで終わりだ……。父さん……!」
「司令官がっ!」 「刺された!」 「なぜ避けなかったんだ!?」
司令官「バ……バカ……な……」
司令官「お前が……皇帝の子を連れ……逃げ、た、のは、分かっていた……が……」
司令官「まさか……お前が……来る、とは……!」
司令官「わ、たしが、軍略を、叩き込ん……だ、お前、が……」
司令官「自分を……捨て石に……する、なんて……」
司令官「…………」
軍師「これからボクも、周囲の帝国兵に殺されるだろう」
軍師「だけど、あなたさえいなければ、ボクがいなくても王国軍は勝つだろう」
軍師「あなたの野望は断たれ、王国にも帝国にも平和が戻る」
軍師「ボクもすぐにあなたのところに行くよ、父さん……」
ザワザワ……! ドヨドヨ……!
側近「な、なにを呆けているか!」
側近「あの下手人を今すぐ殺せぇっ!!!」
側近「な、なんだ!?」
帝国軍本陣の一角が、王国軍に突破された。
若将軍「うおおおおっ! さっさと逃げるぞ、軍師! 囲まれたら終いだ!」
軍師「ど、どうして……!?」
女将軍「ふん、プレイヤーを死なせるチェスの駒などありえぬだろう」
軍師「だけどボクは帝国の──」
若将軍「てめえの正体がなんだろうと、関係ねえ!」
若将軍「俺らの軍師に、こんな下らねえ死なせ方させられねぇんだよ!」
若将軍「大勢の兵士が命を賭けてる!」
若将軍「てめえ一人を死なせねえためにだ!」
若将軍「陣地で泣きそうになってる、あの嬢ちゃんのためにも──」
若将軍「さっさと俺の馬に乗りやがれ!」
軍師「うん……!」
ワアァァァァァ……! ウオォォォォォ……!
側近「なにをやっている! 逃げられてしまうではないか!」
しかし側近に、司令官を討たれ混乱する帝国軍をまとめ上げる度量はなかった。
老将軍「司令官を失い、帝国軍はだいぶ混乱していたのう」
大将軍「ああ、これでおそらく帝国内の皇帝派も動き出し──」
大将軍「近いうちに司令官の軍団は自滅するだろう」
軍師「…………」
若将軍「オイ、せっかく助けてやったのに、いつまでも落ち込んでるなよ」
軍師「どうしてボクを助けたんだ? ボクは帝国の人間なのに……」
若将軍「だから関係ねえって!」
若将軍「てめえを助けに行くかどうか兵士たちに聞いた時」
若将軍「負傷者だらけだってのに反対するヤツはいなかった」
女将軍「出自がどうあれ、正体がなんであれ、キサマは我が軍の救世主だ」
女将軍「皆、キサマを死なせたくなかったのだ……」
女将軍「キサマの従者も、泣いて喜んでいるではないか」
女従者「…………」グスッ
軍師「心配かけて、ごめんよ……」
軍師「いいや? ボクは皇帝ではなく、司令官の子だよ」
若将軍「え……!?」
軍師「ボクは自分が皇帝の子だなんて、一言もいってないよ」
大将軍「ということは、皇帝に子供がいるというのはウワサに過ぎなかったのか」
軍師「いえ大将軍殿、皇帝の子供は……すぐそこにいますよ」
女将軍「そこにって……まさか……」ハッ
女従者「……私です」
若将軍「えぇ~~~~~っ!?」
鎧将軍「しかもしゃべれるのか」
女従者「今まで黙っていて、ごめんなさい……」
老将軍「ほっほっほ、たしかに二重の意味で黙っておったな」
軍師「皇帝の血を引く彼女を密かに国から連れ出して、王国にやってきた」
軍師「君たちに力を貸すためにね」
軍師「軍師になるためには、ボクらが帝国の人間だと悟られるわけにはいかない」
軍師「幸い、彼女は身の回りの世話が色々できるからボクの従者ということにして」
軍師「彼女には“なるべくしゃべらないでくれ”とお願いしたら」
軍師「彼女が“いっそ全くしゃべらない方がいいのでは?”というからこうなったんだ」
若将軍「ハハハ、そりゃすげぇ!」
女将軍「ずっとしゃべらないというのもかなりの苦痛だろうに……すごいな」
女従者「本当に……ありがとうございました」
若将軍「いいってことよ。俺たちも、アンタにゃ世話になったからな」
女将軍「特にキサマはな」
女将軍「肩を揉ませたり、怪我の治療をさせたり、夜食を作らせたり……」
若将軍「わ、悪かったな!」
女従者「お役に立ててなによりです……」
若将軍「ん?」
女将軍「どうした?」
女従者「若将軍さんを本当に支えられるのは……女将軍さんだと思います」
若将軍&女将軍「!」
シ~ン……
若将軍「ま、コイツにもホント助けられたしな……」
若将軍「もしお前が……」
若将軍「これからも俺を支えてくれるってんなら、俺は一生お前を守る!」
女将軍「わ、私も……」
若将軍「アハハハハハッ!」
女将軍「…………」ピクピクッ
ゲシィッ!
若将軍「ぐえっ!」
女将軍「キサマのいうとおりだ。支えるどころか、なぎ倒してやる!」
若将軍「や、やめろ!」
ドタン! バタン!
老将軍「ほっほっほ……」
鎧将軍「ふっ」
大将軍「お前たち、兵に示しがつかんぞ!」
軍師「二人とも、素直じゃないなあ」
女従者(惜しかったなぁ……)
司令官という大きな支えを失ったことで、
兵士たちの間でも戦争を続けるか否かで意見が割れ、帝国軍は次々に分裂。
兵力も士気も戦術も、王国軍にとって脅威ではなくなっていった。
さらにはこの動きを察知した皇帝派の人間も皇帝を軟禁状態から救出し、
クーデターを目論んだ司令官の派閥は完全に駆逐されたのであった。
国王「──そうか、帝国に戻るか」
軍師「はい、ありがとうございました」
女従者「本当に申し訳ありませんでした……」
国王「いやいや、君たちに罪はない」
国王「君たちは二国のために、あえて祖国と戦ってくれたのだからね」
国王「軍師殿には辛い結末であっただろうが……」
軍師「いえ、父と戦うことは帝国を出た時から覚悟していましたので」
国王「そうか……」
女従者「我が国がこの王国に攻め込んだというのは紛れもない事実」
女従者「私は父とともに、いつの日か、再び二国が和解できるよう努めます」
国王「うむ、我々も尽力しよう」
そして一年の月日が流れ──
戦後処理が終わり、戦争終結から一年経ったこの日、
両国の和解を祝する式典が開かれていた。
ワイワイ…… ガヤガヤ……
若将軍「おう、いたいた! 軍師と嬢ちゃん!」
女将軍「嬢ちゃんはやめろ、今や彼女は皇女の身なのだからな」
軍師「お、二人とも元気そうだね」
皇女「お久しぶりです」ペコッ
軍師「国王陛下と大将軍には先ほどお会いしたけど……老将軍と鎧将軍もいるの?」
若将軍「いいや、今日は俺たちだけだ」
若将軍「老将軍はあれからすぐ引退したし、鎧将軍はこういうの苦手だしな」
皇女「そうですか……。お会いしたかったのですが、残念です」
若将軍「お前たちが元気だったって伝えれば、二人もきっと喜ぶぜ」
軍師「ボクが王国軍に入った頃からすると考えられないことだよ」
若将軍「まぁな、今はコイツとも……男女の付き合いってのをさせてもらってるしな」
女将軍「……バカ」
軍師「おお、そうなのかい」
皇女「おめでとうございます!」
若将軍「さて次はお前だな、軍師」
軍師「え?」
若将軍「どうやって嬢ちゃんを攻略するか、策を練らねえとな?」ボソッ
女将軍「ふっ、それもそうだな」
軍師「え……あの……その」
皇女「?」
皇女「いいですよ、もちろん」ギュ…
軍師「あ……」
皇女「私たちもお二人のように、いつか一緒になれたらいいですね!」
軍師「え!? あ、そ、そうだね!」
若将軍「どうやら二人は、軍師は慎重タイプで、嬢ちゃんが突撃タイプみてえだな」
女将軍「フフフ、我々とは正反対だな」
こうして和解を果たした両国は、互いに手を取り合いながら発展し、
ともに平和を愛する世界有数の国家へと成長するのであった。
<おわり>
あれっ、余った老将軍と鎧将軍は……ゴクリ
俺の好きな世界観だった
面白かった!
乙