帽子の少年「いーち」
赤毛の少年「に……」
戦士「……」
帽子「なんだよ」
戦士「いや。まさか門下生が二人だけとは思わなくて……それだけ」
帽子「またそれかよ」
戦士「ごめん」
戦士(あれから……魔王撃破から、十日か)
戦士「……」コンコン
戦士「賢者。中にいるんだろう?」
「…………」
戦士「返事はしなくていい。ただ聞いてほしい」
戦士「勇者の死体は見つからなかったそうだ」
戦士「……。魔王の自爆に巻き込まれておそらく、その、跡形もなく」
「っ……」
戦士「ごめん……」
戦士「彼なしで歩きだすには、僕らはまだ脆すぎる」
戦士「いや、そんな大層なことじゃないな。君は、彼のことが……」
戦士「……」
戦士「祝賀パーティーへの出席は断ったよ。そんな気分じゃないし、彼抜きで、僕らだけが出るわけにはいかない。そうだろう?」
戦士「戦ったのは結局のところ彼一人だった。僕たちは足手まといに過ぎなかった。だから」
戦士「……」
戦士「僕はそろそろ行くよ」
「……どこに?」
戦士「褒賞金が出ただろ? 僕は自分の分でこの街に無料の道場を開く」
戦士「僕は勇者の足下にも及ばなかった」
戦士「そんな自分はもう終わりにしたい。何らかの形で。だからその足掛かりになればと思う」
「……」
戦士「もし……もし少し元気が出たら、道場にも顔を出してほしい」
戦士「場所は東区の広場に行けば分かるよ」
戦士「それじゃあ」
「……」
戦士『ハァ、ハァ……』
勇者『あ? へばってんのか?』
戦士『……ちょっとね』
勇者『それでも最強と名高い戦士さまか? 名前泣いてんぞ?』
戦士『面目ないな……』
勇者『あーあーやんなっちゃうねえ、まったく』
戦士『はは……』
勇者『この旅が終わったらさっさと現役から降りるんだな。その方がてめえのためにもなるぜ』
戦士『……そうかも、しれないね』
戦士(そうだ。僕はいつだって……)
戦士(こんな僕にも何かできることはあるんだろうか)
戦士(今の僕には分からないけれど。この道場でその答えは出る。はずだ)
ガラガラ!
帽子の少年「ん?」
赤毛の少年「……」
戦士「……え?」
帽子「あんたがこの道場の?」
戦士「あ、うん。そうだけど……」
赤毛「……」
戦士「いや、二人? 君たちだけ?」
帽子「だな」
戦士「……」
戦士(そんな馬鹿な!)
戦士(生活基盤はボロボロで、その立て直しに手一杯なんだろう。それほど人が集まらないことは予想してた)
戦士(けど、けどそれでも二人しか……しかも子供だけって)
戦士「き、君たち何歳?」
帽子「十四」
赤毛「……十一」
戦士「……そうか」
戦士(神さま。一体僕にどうしろと)
戦士「……なに?」
帽子「あんたが勇者と一緒に旅したっていう戦士だよな」
戦士「ああ、そうだよ。それよりあんたじゃなくて先生って呼んでもらえないかな」
帽子「勇者の武勇伝はよく聞くのに、あんたの話をほとんど聞かないのはなんでだ?」
戦士「そ、それは」
帽子「あれか? あんたアシデマトイだった?」
戦士「ぐふぅ!」グサァ!
戦士「ていうか勇者が強すぎたんだ……あれは人間じゃない……仕方ないんだ」
帽子「何壁に話しかけてるんだよ」
戦士「……。でもよく分かった。だから、こんなに人が集まらなかったのか」
赤毛「……」
戦士「一応聞いてみよう。君たちはなんでここに?」
帽子「暇つぶし」
赤毛「……なんとなく」
戦士「……いや、期待していたわけじゃないよ」
戦士「ハァ……」
帽子「すげー。真剣は初めてだよ俺」
赤毛「……」ツンツン
戦士「危ないから気をつけてね」
戦士(……考えても仕方のないことだけれど。やっぱり二人よりは多く集まったと思うんだよな)
戦士「ハァ……」
赤毛「……また、ため息?」
戦士「ごめん」
戦士「じゃあ僕にできることってなんだろう」
帽子「さしあたっては俺の手当てじゃねえかな」ピュー
戦士「気をつけてって言ったじゃないか!」
…
戦士「さて、まあとりあえずは今日は顔合わせだけって事で」
帽子「解散か?」
戦士「ああ。何か鍛練用の服でもあればと思ったけど、持ってきてないよね?」
帽子「そんなもんねえよ」
赤毛「……ない」
戦士「そうか。じゃあこっちで用意しておくから、明日から同じ時間にここに来なさい」
帽子「うーす」
赤毛「……分かった」
戦士「ああどうしよ。前途多難どころの騒ぎじゃないぞ、さすがに門下生が少なすぎる」
戦士「いや、授業料取るわけじゃないから多くなくてもいいんだけど」
戦士「でも、さすがに二人は。二人っていうのは……」
戦士「……」
戦士「むなしい。帰ろう」
「酒が足りねえからさっさと買ってこい!」
「……ああ?」
「なんだその顔は」
「育ててやった恩を忘れたか?」
「……こっちへ来い!」
――ガッ!
戦士「まだ時間まで結構あるのに早いね」
帽子「まあな」
戦士「でも道場でごろ寝はできればやめてもらいたいっていうか」
帽子「んー」
戦士「いや、聞いてよ」
ガラガラ……
赤毛「……」
戦士「ああ、君も来たか。じゃあとりあえず二人ともこれに着がえてくれ」
赤毛「……」
戦士「そんなに不満顔しないでくれよ。動きやすくはあるだろ?」
帽子「そりゃまあ」
戦士「それより鍛練中は邪魔になるから帽子は取りなよ」
帽子「……」
戦士「?」
帽子「別に、いいだろ。取らなくたって」
戦士「いや。でも」
帽子「実戦ではどんな状況でも戦えないと駄目じゃね?」
戦士「うーん」
帽子「……」
戦士「いや、それでも練習で怪我したら元も子もないし」
帽子「いいから! 始めようぜ!」
赤毛「……」
戦士(……?)
帽子「……」
戦士「よし、じゃあ始めようか」
帽子「うーす」
赤毛「……うん」
戦士「それじゃ、姿勢を正して……礼!」
……
…
戦士「いや。まだ準備体操の途中なんだけど」
帽子「だって長くねえか? いくらなんでもよ」
戦士「そんなこと言っても初めてだし、念入りにやっとかないと」
帽子「そんなこと言ってたら日が暮れちまうだろうが」
戦士「怪我するよりマシだよ」
帽子「でーもーよー!」
戦士「でもじゃない。ここでは僕の言うことを聞きなさい」
帽子「こいつだって飽きてるぜ!」
赤毛「……」
戦士「はいはい。次は足首をしっかり回してー」
戦士「まーだ。はい、膝裏の筋伸ばしてー」
帽子「馬鹿らし」スク
戦士「ちょっと。まだ終わってないだろ」
赤毛「……」
帽子「やってらんねえよ。せっかく木刀まで用意してあんのにこれ以上待てるかっての!」
戦士「あー……もう。分かったよ!」
帽子「そんな細かいことはいいだろ! さっさと実戦に移ろうぜ!」
戦士「ええ?」
帽子「ほら早く!」
戦士「駄目だよ。握り方すら知らない人には教えられない」
帽子「……」
戦士「じゃあいいかい。指はこういうふうに――」
帽子「うりゃ!」
戦士「うわ!?」
戦士「いきなり何するんだ!」
帽子「さっさと実戦に移らねえ駄目教師はこうだ!」
戦士「こら! やめろって!」
帽子「どうだ! 俺って才能あるだろ!?」
戦士「こいつめ……」
戦士(いや、落ちつけ僕。相手は子供だぞ。冷静に冷静に)
帽子「やーいアシデマトイー!」
戦士「……」ピキ
戦士「……」ビッ!
カァン――!
帽子「!?」ドサ!
赤毛「!」
戦士「ハァ……」
帽子「え? あれ?」
戦士「ごめん。ちょっとムキになっちゃったよ」
帽子「今……見えなかったぞ」
赤毛「……すごい」
戦士「そりゃそうだよ。一応そういうのの専門家なんだから。それより帽子、ズレてるよ」
帽子「!」ササ!
戦士「……ん?」
戦士(傷の跡? いや、見間違いか?)
帽子「! 触るんじゃねえ!」
戦士「え?」
帽子「ちくしょう、覚えてろよ!」タッタッタ……
戦士「いや、え?」
赤毛「行っちゃった……」
戦士「えー……」
赤毛「……どうする?」
戦士「いや本当に……どうしろって言うんだよ」
戦士「ええと……」
帽子「……」
赤毛「……」
戦士「昨日、君が帰った後、少し講釈したんだけど」
帽子「……」ギロ
戦士(うわ目つき怖)
戦士「あー……そのね、僕が教えるのは戦う方法だ。どうやって勝ち、生き延びるかの手段だ」
帽子「……それで?」
戦士「う、うん、えーと。でもね、魔王がいなくなった今、その重要性はどんどん低くなっていくと思うんだ」
赤毛「……」
戦士「それでもとりあえず身を守る方法としては役に立つと思う。この街にはよからぬ集団がいるとも聞くしね」
戦士「今はそれぐらいしか思いつかない。でもそういう技術を学ぶことによって――」
帽子「隙あり!」
戦士「おわ!?」
…
帽子「……畜生、なんで勝てねえ」
戦士「君、僕の話の方は聞いてた?」
帽子「全然」
戦士「……うん。やっぱり期待はしてなかった」
帽子「もうながったらしい話はいいから始めようぜー」
戦士「真面目にやってくれる?」
帽子「は? お前の隙を狙うんだからそんな暇ねえだろ」
戦士「……練習する気ないならもういっそ帰ってよ」
戦士「うん、握り方はそれでいいよ。そしたら少し構えてみようか」
赤毛「……こう?」
戦士「ちょっと低いかな。正眼では剣先が相手の目に向くようにするんだ」
赤毛「……」スッ
戦士「うん。いい感じ」
赤毛「……あの」
戦士「……うん。分かってる」
帽子「……」ジー
戦士(やりにくいなあ……)
…
帽子「ていや!」
戦士「……」カキン
……
帽子「こんの!」
戦士「……」パシン
……
帽子「ふんぬ!」
戦士(……諦めてくれないかなあ)ピシン
……
…
戦士「……」
赤毛「……お疲れさまでした」
戦士「ああ、うん……お疲れ。気をつけて帰ってね」
赤毛「それじゃ……」
戦士「はぁ……」
「酒だ! 酒を買ってこい!」
「もうやめてくださいな……」
「なんだ。お前まで俺に逆らうのか!」
「そういうわけじゃ……」
「この恩知らずどもめが!」
「うっ……ぐっ……」
帽子「……」
戦士「あの子、とうとう顔すら出さなくなったねえ……」
赤毛「……」
戦士「まさかこうなるとは……いや、予想してたけど」
赤毛「……なに、してるの?」
戦士「ああ、ナイフや短刀、投剣の手入れ」キュッキュッ
赤毛「剣、だけじゃないんだ……」
戦士「剣士じゃなくてあくまでも戦士だからね。」
赤毛「……たくさん」
戦士「うん。――っと。そういえばちょっと用事があるんだった」
赤毛「?」
戦士「悪いけど、これらを見といてもらえないかな」
赤毛「分かった……」
「あれ? あいつはいねえのか?」
赤毛「……あ」
帽子「チッ、今日こそ一本取ってやろうと思ったのによ」
赤毛「来たの」
帽子「わりいかよ。……ん?」
赤毛「……?」
帽子「……ふーん」ヒョイ
赤毛「あ……」
帽子「これ、いいな」
赤毛「ちょっと」
帽子「あん? いいだろ別に。こんだけあったら一つぐらい取ってもわかんねえよ」
赤毛「でも……」
帽子「いいから。お前、チクんなよ」
赤毛「……」
…
戦士「ただいまー」
赤毛「……」
戦士「ん? どうかした?」
赤毛「何でも……ない」
戦士「そう?」
赤毛「お疲れ、さまでした」
戦士「うん、お疲れ」
戦士「……やっぱり足りないな」
戦士(こっちにあると思ったけど、道場の方に忘れてきたのか?)
戦士(たかだかナイフ一本……とはいかないか)
戦士「気になる。道場に戻ろう」
戦士「あれ?」
赤毛「……」
戦士「こんな時間にどうしたんだい?」
赤毛「……あの」
戦士「この街にはギャングもいると聞いてる。危険だ。送ってくよ」
赤毛「先生」
戦士「?」
赤毛「助けて、ほしいんだ」
戦士「……どうした?」
……
…
赤毛『家族の仲……あまりよくないみたいなんだ』
赤毛『どなり声とかも聞こえることもあって』
赤毛『……』
赤毛『今日、先生のナイフをもってったのは、お兄ちゃんなの』
赤毛『すぐに教えなくてごめんなさい……』
赤毛『……先生。お兄ちゃんを助けてあげて。お願い』
……
…
帽子「……」
「クソガキが……親に刃を向けるか!」
帽子「……お前なんか親じゃない」
「くそ、いてえ……血が……」
帽子「死んでしまえ。お前なんか」
「この!」バキィ!
帽子「ぐっ!」ドサ
「……いいナイフだな」
帽子(くそっ……取られた)
「この馬鹿が! お前こそ死んじまえ!」ヒュッ!
「がッ――!」ドサ
帽子「あ……」
戦士「ふぅ……大丈夫かい?」
帽子「あんた……なんで?」
戦士「生徒を守るのが先生の仕事だからね」
帽子「……」
戦士「遅くなってごめん」
帽子「……手遅れだ」
戦士「……」
帽子「親を殺そうとした奴は重罪だ……俺は、終わりだ」
帽子「……?」
戦士「気になって近付いてみると、『殺す』という恫喝も聞こえた」
帽子「……何を、言ってんだ?」
戦士「慌てて飛びこむと、父親と思しき男が、子供に刃物を振り上げていた」
帽子「だから、何を言ってるんだよ!」
戦士「……僕は、それを止めようとしてもみ合いになり、その際男に”多少”怪我を負わせてしまった。でも、正当防衛だ」
帽子「まさか。あんた……」
戦士「生徒を守るのが先生の役目だ。言ったろ?」
帽子「え?」
戦士「僕はね、今ようやく分かった気がするんだ」
帽子「なにがだよ」
戦士「僕が教えられるのはただ相手を殺したり自分の身を守ったりするだけの技術じゃないってこと」
帽子「……」
戦士「僕は君たちに”戦う方法”を教えたい。弱い自分を鍛え、醜い自分と戦う方法」
帽子「……」
戦士「広い意味で戦うということだ。まだ上手く表現できないけど。役に立つと思う」
帽子「……なんだよそれ」
戦士「僕は君のお父さんを医者に連れていくよ。それじゃあまた明日」
帽子「……」
……
…
戦士(警衛兵には金を積んでおいたし、あの子が罪に問われることは多分ないだろう)
戦士(これでとりあえずは大丈夫だ)
戦士「さて、二人とも来てるかな」
ガラガラガラ……
帽子「……」
赤毛「……」
戦士「うん。そろってるね」
帽子「あの」
戦士「ん?」
帽子「よろしくお願いします……先生」
戦士「……ふふ。ああ、よろしく」
戦士「いいかい。君たちは、戦うと決めた瞬間から戦士だ。
剣を持てばその所作は剣術。殺害の意志なら殺人術」
帽子「へえ」
赤毛「……」
戦士「勝つためにすべきことはシンプルだよ」
帽子「というと?」
戦士「狙った場所に、狙った威力で、正確に攻撃を加えること。
何回、何十回、何百回やっても同じようにできるようにすること。たとえどんな状態であってもね」
帽子「つまり?」
戦士「反復練習は大事ってことさ。さ、練習練習!」
赤毛「はい」
帽子「回りくどいんだよまったく」
戦士「ん?」
帽子「俺があんたや勇者みたく強くなるにはどれくらい練習すればいいんだ?」
赤毛「……」
戦士「たくさん」
帽子「もうちょっと具体的に言えよ」
戦士「強くなってどうするんだい?」
帽子「あんたが言うか」
戦士「はは。でも大事なことだ。強くなって、何をする?」
帽子「強いってのはいいことだろ」
戦士「強い力ってのは、結構厄介だよ」
赤毛「……どういうこと?」
帽子「なんだそれ?」
戦士「僕たちが言う意味での”力”というのは、殺す、または壊す力だ」
赤毛「……」
戦士「強い力を持っているということは人より殺せるし壊せるということでもある」
帽子「だから?」
戦士「ふとしたはずみや気の間違いでも殺せてしまうってことさ」
帽子「そんなの……加減したり気をつけたりすればいいじゃねえか」
戦士「扱う力が強ければ強いほどそれが難しくなるのは道理だ。分かるだろ?」
帽子「それは……」
帽子「……」
戦士「とにかく、万が一間違ってしまった時には、それは自分に返ってくる。それを忘れないようにね」
帽子「じゃあ……強くなることに意味はないのかよ」
戦士「そうは言ってないさ。戦うべきときに戦えるかどうか、その時に必要な力があるかどうかは大事だ」
赤毛「……どういうこと?」
戦士「最初に戻るよ。強い力で戦って、何をする?
つまり、何のために戦うか、そしてそれを達成できるかどうかが重要なんだ」
赤毛「……」
戦士「極論を言えば、強くなくともいい。目的を果たせれば強い弱いは関係ない。
強ければ必ず勝てるというわけでもないしね。勝ったからといって目的が達成されるとも限らない」
帽子「……さっぱりわかんね」
戦士「ふふ。まあそんなもんだ。さ、手が止まってるよ。素振りを続けて」
帽子「うーす」
帽子「んじゃ、お疲れっす」
赤毛「お疲れさまでした……」
戦士「うん。気をつけて帰ってね」
……
…
帽子「はー、疲れた疲れた」
「おい」
帽子「ん?」
「お前、この間騒ぎがあったところの奴だよな」
帽子「……」
「黙ってるんじゃねえよ。そうなんだろ」
帽子「……」
「無視して行こうとしてんじゃねえよ。年下のくせに生意気だぞ」
帽子「……」
「なあ、あれはお前がやったんだろ」
帽子「……!」
帽子「……」
「うわーひでえ奴! こいつ殺人鬼だ!」
帽子「うるせえ」
「はあ? なんか言ったか?」
帽子「うるせえっつったんだよッ!」
ガッ!
バキッ!
帽子「何も知らねえくせに!」
ドゴッ!
帽子「何も知らねえくせによ!」
ビシッ!
帽子「勝手なこと、言いやがって……」
帽子「……っ」
「くそ……くそ……」
帽子「あ……」
「うう……」
帽子「……」ダッ
帽子「……」
戦士「どうかした?」
帽子「……なんか変に見えたかよ」
戦士「変だよね?」
赤毛「うん……変」
帽子「うっせえなあ。さっさと練習始めようぜ」
戦士「分かったけど……なんかあったらちゃんと僕にいいなよ?」
帽子「へいへい」
戦士「お疲れ。気をつけて帰ってね」
帽子「……」スタスタ
戦士「と。行っちゃった」
赤毛「……」
戦士「やっぱり、変だよね?」
赤毛「変」
「いたぞ!」
帽子「?」
「くらえ!」
ガッ!
「羽交い絞めにしろ!」
帽子「! 放せよ!」
「おい」
帽子「……!」
「昨日はよくもやってくれたな人殺し」
帽子「てめえ……」
「たっぷり仕返ししてやるから覚悟しろ!」
……
…
「……大丈夫かい?」
帽子「……先、生」
戦士「手ひどくやられたね」
帽子「見てたのか……?」
戦士「ああ」
帽子「そうかよ……見てたのかよ……」
戦士「……」
帽子「じゃあ……じゃあどうして助けてくれなかったんだよ……!」
戦士「……」
帽子「生徒を守るのが先生の仕事じゃねえのかよ!」
戦士「生徒になんの落ち度もないなら、そうだね」
帽子「え……?」
帽子「だって、あいつが」
戦士「君のことを悪く言った?」
帽子「そうだよ! あいつなんて何にも知らねえくせに! だから――」
戦士「だから、打ちのめした?」
帽子「それは……」
戦士「暴力を振るえば暴力で返される。道理じゃないかな」
帽子「言われるままにしとけばよかったってのか!?」
戦士「そうは言ってない」
帽子「じゃあどうすればよかったんだよ……!」
戦士「さてね。でも、”戦い方”は考えるべきだった」
帽子「え?」
君への攻撃が形を変えてなされるだけだろうね」
帽子「……」
戦士「行こうか。怪我の手当てをしよう」
帽子「先生」
戦士「ん?」
帽子「あいつら……きっと続けるよな」
戦士「……そうだね」
帽子「俺、やられ続けるしかないのかな」
戦士「それも一つの選択肢ではあるね」
帽子「一つの……? 他にもあるってのか?」
戦士「そうだ。戦う意志を持てば、君は戦士だ」
帽子「……」
戦士「せまい意味での”戦う”ならそうかもね。いずれはどちらかがもう片方を殺す、なんてことにもなりかねない」
帽子「そんなことしたら……」
戦士「そう。今度こそ本当に人殺しだ」
帽子「……」
戦士「それも選択肢の一つだよ。殺せばそれだけで簡単に終わる。不殺を貫けなんて言わないよ。他ならぬ僕がたくさん殺してる」
帽子「……」
戦士「でも、殺人は犯罪だ。この街にはもう住めなくなるし、何より、死は不可逆だ」
帽子「……つまり?」
戦士「やり直せないってことさ。殺したら、もう殺した人は生き返らない。それをずっと背負っていかなきゃならない」
帽子「……」
戦士「その人に抉りこんだ刃の感触。血のぬめり。こちらを見つめる死体の目。そういうのを一つ一つ、全てだ」
帽子「……っ」
戦士「……でも。戦うってのは殺すことだけじゃない」
帽子「え?」
帽子「大きい意味……?」
戦士「人は困難に立ち向かうとき、いつだって戦っている。そうだろう?」
帽子「……」
戦士「そうだな。君に課題を与えよう」
帽子「……?」
戦士「君は戦わなければならない。困難が君の前に立ちはだかっている。それを解決するんだ」
戦士「逃げてもいい。それも一つの戦い方だ。逃げ切るっていうのも結構大変なことだ」
戦士「でも立ち向かうなら。君に力を与えよう」スッ
帽子「これ……ナイフじゃねえか。殺せってのかよ」
戦士「違う」
帽子「でも」
戦士「じゃあヒント。君の目的はなんだ? 何のために戦う? そのために殺すことは本当に必要?」
帽子「……」
戦士「よく考えるんだ。戦うときに本当に必要なのは最強の力じゃない。
その時持っている力をどう使うか判断する能力なんだ」
帽子「……」
戦士「君ならできる。僕はそう信じてる」
戦士「お疲れさま」
赤毛「お疲れさまでした」
帽子「……」
戦士「健闘を祈るよ」
帽子「……」スタスタ
赤毛「……どうしたの?」
戦士「あの子はね。今日、一つだけ、大きくなるんだよ」
「いたぞ」
帽子「……」
「やーい人殺し! 殺人鬼!」
帽子「……」
「なんとか言えよ、犯罪者」
帽子「……」スタスタ
「おい待てよ」ガシ
帽子「……放せよ」
「ふん。カッコつけてんじゃねーぞ!」ドカ!
帽子「つっ……」
「人殺しのくせに! 犯罪者のくせに!」
帽子「くっ……痛っ……」
「おい、なんとか言ってみろよ!」
帽子「……」
『何のために戦う?』
『そのために殺すことは本当に必要?』
「おい、縮こまってねえでなんとか言えっつってんだよ!」
帽子「……」
「聞いてんのか!」
「! ナイフだ!」
帽子「……ッ」ダッ
「う、うわ――!」
ドスッ!
帽子「あの時は俺の方から手を出した。だから、俺が悪い」
「あ……あ……」
帽子「でも、お前たちも十分俺に返したよな。じゃあもうおあいこだ」
「……っ」
帽子「次は本当に刺すぞ。嫌ならもう近付くな」
「わ、わあああああ!」ダッ
帽子「……」フゥ……
帽子「これでよかったのかな。先生」
戦士「さあね」
帽子「……」
戦士「でも、とりあえず今はお疲れ。送ってくよ」
帽子「先生」
戦士「なに?」
帽子「俺、強くなりたい。強い力とかじゃなくて、戦える人間になりたい」
戦士「うん。分かった」
帽子「……」
戦士「じゃあ、帰ろうか」
勇者『チッ、あの一撃でも倒れねえかよクソが』
戦士『いや、それどころか……』
賢者『魔王から発せられる魔力が急速に増大しています!』
魔王『ガアアアアア!』
勇者『! こいつ、まさか……』
賢者『勇者?』
勇者『逃げろ! できるだけ遠くだ!』
戦士『何を言って――いや分かった!』
賢者『え?』
戦士『全速で離脱だ! 急げ賢者!』
賢者『そんな! 勇者は!?』
勇者『舐めんな! 俺一人で十分だ馬鹿野郎!』
戦士『絶対生き延びてくれよ!』
勇者『ったりめーだ馬鹿の二人目!』
戦士『行くぞ、賢者!』
賢者『放して――勇者! 勇者ぁッ!!』
……
…
賢者「ハァ、ハァ……」
賢者「……」
賢者「夢……」
「身体の具合はどうだい?」
「昨日より少しいいわ」
「そうか、良かった」
「心配かけてごめんなさいね」
「家族に気は使うなよ」
赤毛「……お父さん、お母さん」
「どうした?」
赤毛「あの……ぼくにできることはない?」
「ん?」
赤毛「ぼくもなにか助けになれたら、って」
「そうか、ありがとうな。でもお前まで気を使うことはないさ」
赤毛「……」
「ほら、今日も道場だろう? 行っておいで」
「行ってらっしゃい」
赤毛「……。行ってきます」
…
道場
赤毛「……」
戦士「……?」
帽子「どうしたよ先生?」
戦士「ん。ああ、いや」
赤毛「……」
戦士「何でもない。今日の練習を始めようか」
帽子「うーっす」
帽子「おつかれっした!」タッタッタ……
戦士「気をつけて帰ってねー」
戦士「……」フゥ
戦士「で、どうかしたの?」
赤毛「……」
戦士「何か困ってることがあるんじゃないかい?」
赤毛「それは……」
戦士「よかったら先生に言ってみなさい」
赤毛「……」
赤毛「実は……」
賢者「ええと……」
賢者(確か……東区の広場に行けば分かるって)
賢者「ここ、でしょうか」
ガラガラ……
赤毛「先生、ここ分かんない……」
戦士「えーと、そこはね――」
帽子「早く今日の練習始めようぜー! 待ちくたびれたー!」
賢者「……?」
戦士「あれ?」
帽子「ん? 誰?」
戦士「賢者! 賢者じゃないか!」
賢者「……お久しぶりです」
戦士「うん、久しぶり。もう一ヶ月になるかな。元気にしてたかい?」
賢者「……」
戦士「……そうか」
帽子「なあおい。誰? この人」
赤毛「……」
戦士「あ、そうか、ごめん。初対面だったね。こっちはかつての勇者一行の一人、賢者だ」
賢者「初めまして」
帽子「勇者の仲間? すっげえ!」
戦士「で、賢者、こっちが僕の門下生の二人だ」
帽子「よろしくー」
赤毛「……どうも」
賢者「……なるほど」
戦士「賢者なら察してくれると思ったよ」
帽子「先生がダサいから集まらねえんだよ」
戦士「いや、ダサくはないと……思いたい」
賢者「あの、道場ですよね。見た感じ、武術の練習はしていないようでしたが」
戦士「うん。それなんだけどね」チラ
赤毛「……」
戦士「話しちゃっていいかな?」
赤毛「……」
戦士「多分、この人は助けになってくれると思うんだ」
赤毛「分かった……」
賢者「……?」
賢者「お店を?」
戦士「うん。でもあまり上手くいってないみたいで。しかもお母さんの身体が弱いときてる」
賢者「はあ」
戦士「で、この子は少しでも家族の助けになりたいそうなんだ」
賢者「もしかして」
戦士「そう。だから彼に読み書きと計算を教えてたんだよ」
賢者「なるほど」
戦士「でも……」
帽子「なー先生、俺早く練習したいんだけど」
戦士「と、いうわけ」
賢者「……」
戦士「来てもらっていきなりなんだけど、君にも教師業をやってもらいたいなあ、なんて。」
賢者「はあ」
戦士「ごめん、頼むよ。こっちのは君の方が向いてると思うんだ。お願い」
賢者「……まあ、かまいませんけれど」
戦士「まだ振りが小さいな。もうちょっと頑張って」
帽子「おう!」
…………
赤毛「これで、合ってますか?」
賢者「はい正解ですよ」
赤毛「……これ、わかんない」
賢者「そこはですね――」
……
…
帽子「でさでさ、旅はどんな感じだったんだ?」
賢者「勇者がとにかく無茶するので、わたしたちはそれについていくので精一杯でしたね」
戦士「あー確かに。それで死にかけたこともあったりなかったり」
赤毛「……大変だった?」
戦士「そうだねえ。でも、楽しかったかな」
賢者「……」
帽子「ふうん?」
戦士「うん……楽しかった」
赤毛「……」
帽子「そっか。――っと、俺たちはここまででいいよ。じゃあな」
赤毛「送ってもらって、ありがとうございました……」
戦士「うん。じゃあね」
賢者「さようなら」
賢者「……」
戦士「僕らは勇者に振り回されっぱなしで、それでもどこか清々しくて」
賢者「……」
戦士「あんなことがなければな……」
賢者「……っ」
戦士「ごめん、無神経だった」
賢者「いえ……」
賢者「あなたは……」
戦士「ん?」
賢者「あなたはなんで平気なんですか?」
戦士「……」
賢者「彼は、わたしたちを庇って死んでしまったのに、なぜ……」
戦士「平気……ってわけじゃないかな。君よりはマシってだけだよ、多分」
賢者「……」
賢者「え?」
戦士「昔、ある剣士がいたんだ。強い人」
賢者「それが?」
戦士「僕の憧れた人だ。めっぽう強くて、格好良くて」
賢者「はあ」
戦士「その人がいなければ、僕は今もいち町民に過ぎなかったろうね」
賢者「その方は今は?」
戦士「死んだらしいよ」
賢者「え?」
戦士「詳しくは知らない。でも、死んだらしい」
賢者「……」
戦士「結局は彼も僕たちとなんら変わらない、凡人に過ぎなかったということさ」
賢者「……?」
戦士「僕は、あの二人にとっての”彼”になりたい」
賢者「あの二人にだって特に非凡なところはありません。それに育ててどうするんですか。もう魔王はいないんですよ」
戦士「人はいつだって戦っている」
賢者「え?」
戦士「僕はあの二人に戦うことを教えてる。立ち向かう、ということを教えてる。つもりだ」
賢者「……」
戦士「だから、かな。だから、僕は今、勇者の死を越えて立っている」
賢者「……」
戦士「……あの時。魔王の自爆の際君を連れて逃げた僕を、勇者を一人残した僕を、恨んでいるかい?」
賢者「……」
戦士「恨まれても仕方ないと思う。でも僕は君の命を守ったことを後悔はしていない」
賢者「……」
戦士「それだけ。じゃあね……おやすみ」
傷の男「で。あんた、いつ返せるんだ?」
「もう少しだけ……待ってください」
傷男「前回も、そのまた前回もそう言われた気がするんだがねえ……」
「今度こそお金は、せめて利子分はなんとかしますから」
傷男「……チッ!」ガン!
「ひっ……!」
傷男「これ以上待てると思うな! こっちは善意で貸してやったわけじゃねえんだ!」
「は、はいっ」
傷男「次はないぞ……覚悟しておけ」
「はい……」
赤毛「……」
赤毛「……」
賢者「? どうしました?」
赤毛「……先生」
賢者「はい」
赤毛「自分より強い人に立ち向かうには……どうしたらいいのかな」
賢者「え?」
赤毛「戦ったら負けちゃう相手、もしかしたら殺されちゃうかもしれない相手……そんなときはどうしたら……」
賢者「……何か、あったんですか?」
赤毛「……。ねえ、どうしたらいい?」
戦士「戦わなければいい」
賢者「戦士」
戦士「基本はそうなる。負けて、しかも殺される可能性が高い場合は戦わない方がいい」
赤毛「……」
戦士「戦わずに逃げるか、自分より強い人に助けを求めるかするのがベストだと思うよ」
赤毛「……」
戦士「でも、その目は……そのどちらもできないって感じだね」
赤毛「……はい」
戦士「守りたいものがあって、しかも僕に頼れない理由……ってとこか」
戦士「……。何にしろそういうことなら選択肢は一つだ。戦うこと。それだけ」
赤毛「はい。でも……」
戦士「そうだね。戦い方は慎重に考えないとならない。殺される可能性が高いと言うならなおさらだ」
赤毛「はい……」
戦士「でもね。戦うことそれ自体は難しくないよ」
赤毛「え?」
戦士「戦うつもりがあれば、誰でも戦えるからね」
赤毛「……」
戦士「まあなんというか、詭弁みたいなものだけど、でも重要だ。君には戦う権利がある」
赤毛「……」
戦士「分かるね?」
赤毛「……はい」
赤毛「限界値以上……」
戦士「神に選ばれた勇者でない限り、”それ”は絶対に存在するよ」
赤毛「……怖い」
戦士「ああ、怖いね」
赤毛「……」
戦士「……」
帽子「せんせいーい。俺はいつまで素振りしてればいいんだよー」
戦士「今行く!」
戦士「――健闘を祈るよ」
赤毛「……」
賢者「……」
賢者「大丈夫なんですか。あんなこと言って」
戦士「いや、大丈夫じゃない。殺される、なんてただ事じゃないよ」
賢者「どうします?」
戦士「とりあえず、僕が事情を探る。君は彼をそれとなく見守ってやっていてくれないか」
賢者「できることには限りがあるでしょうが、わかりました。やりましょう」
戦士「ありがとう」
賢者「……なんだか、嬉しそうですね?」
戦士「君もこの数日で先生らしい顔つきになってきたと思ってね」
賢者「はい?」
戦士「僕としては少し楽しい」
賢者「生徒が危険かもしれないのに?」
戦士「危険、か。そうだね危険だ。でも……」
賢者「でも?」
戦士「自分の生徒が困難に立ち向かっていってくれるなら、それは嬉しい」
戦士「僕たちの場合、勇者がなんとかしてくれることが多かった」
賢者「自分にできなかったことに挑んでくれるのが喜ばしいと?」
戦士「そうだ」
賢者「悠長ですね」
戦士「勇者には、立ち向かうべき困難というものがなかったらしい」
賢者「え?」
戦士「彼曰くね、何でも簡単にできてしまうから張り合いがなかったって」
賢者「それが?」
戦士「困難に簡単に打ち勝てる勇者と、そうではない僕らや僕らの生徒たちと。どちらが幸せなんだろう……と、ふと思ったんだ」
賢者「……」
戦士「さて。じゃあ僕は早速調査を始めるよ。賢者もよろしくね」
賢者「……。はい」
賢者「どうでした?」
戦士「分かったことがいくつか。まず、彼の言う危険は借金取りのことらしい」
賢者「借金取り?」
戦士「ああ。彼の家がお店を営んでいることは言っただろ? あまり上手くいっていないことも」
賢者「ええ」
戦士「それで、良くない筋からお金を借りちゃったらしい」
賢者「なるほど」
戦士「次に、その貸し手なんだけど、何やら物騒な男らしいんだ」
賢者「どんな?」
戦士「顔に傷のある男。裏界隈では結構有名だとか」
賢者「……」
戦士「彼が直接の助けを求めないのも、きっと無関係な僕らを巻き込みたくないんだろう」
賢者「……なるほど」
賢者「はい」
帽子「ちわーす! 来たぜー!」
赤毛「……失礼します」
戦士「よし。練習を始めようか」
戦士「ん?」
帽子「先生って、賢者のこと好きなんだよな?」
戦士「……」
帽子「へへ。図星って顔してるぜ」
戦士「はは……」
帽子「もしよかったら俺が手伝ってやるけど? どうする?」
戦士「遠慮しておくよ」
帽子「なんでだよ」
戦士「その見返りを求められても困るからね」
帽子「そんなことしねえって」
戦士「ふふ、冗談だ。でも遠慮しておくよ」
帽子「なんでだよ」
戦士「僕はやっぱり恨まれてると思うからね」
帽子「……?」
戦士「実はもう振られ済みってのもある」
帽子「なんだよそれー!」
賢者・赤毛「?」
赤毛「お父さん、これはどこに運べばいい……?」
「ああ、そっちに置いといてくれ」
赤毛「うん」
「あと、すまないがこの荷物をいつもの所に届けてくれないか?」
赤毛「分かった」
「いやあ、お前が手伝うようになってくれて助かるよ」
赤毛「うん……!」
「じゃあ頼んだよ」
赤毛「行ってきます……!」
傷男「よう」
赤毛「あ……」
傷男「父ちゃんはいるか?」
赤毛「……」
傷男「チッ……可愛げのない」
赤毛「……」
傷男「ま、いないわけねえか。俺たちギャングからは逃げられねえことぐらいわかってんだろ」
赤毛「……」
傷男「邪魔だ」
赤毛「……っ」
傷男「失礼するぜ」
ギィ……バタン
赤毛「……」
赤毛「……」
『君には戦う権利がある』
赤毛「……自分の、限界値以上」
『挑まなければならないことも――』
赤毛「……っ」
赤毛(ぼくは……)
赤毛「ぼくは……!」
……
…
帽子「先生ーもうちょっと頑張ろうぜー」
戦士「ははは」
帽子「一回振られたぐらいで諦めんなよー」
戦士「そんなこと言ってもなあ」
帽子「大体ちゃんと気持ちは伝えたのかよ。伝わったのかよ」
戦士「どうかな。振られたと言っても告白とかはしなかったし」
帽子「は?」
戦士「いや、賢者は勇者が好きだってはっきり分かったから身を引いたっていうか」
帽子「何だよそれー!」
戦士「賢者の勇者を好きっていう気持ち以上に僕の気持ちが強いとは思えなかったんだよ」
帽子「へえ、ふーん」
戦士「魔王を倒した後も一緒にいたいな、ぐらいだったし」
帽子「へたれ!」
戦士「はは……」
賢者「戦士!」
戦士「賢者?」
帽子「お?」
賢者「大変です! あの子が……あの子が!」
戦士「! 彼がどうかしたのかい?」
賢者「来てください」
帽子「なになに? どうしたんだよ?」
賢者「あの子は今、病院にいます」
戦士「……!」
戦士「……」
赤毛「……」
戦士「大丈夫かい?」
赤毛「……先、生」
賢者「腹部に刺傷があります」
戦士「刺された?」
賢者「はい……いえ、違います」
戦士「違う?」
赤毛「ぼく……ぼく、は」
賢者「あなたは喋らないで。わたしが説明します」
戦士「頼む」
……
…
『……』
傷男『金は用意できたかよ』
『……すみません』
傷男『あ?』
『返すことが、できません』
傷男『……。そうかよ』
『……』
傷男『ああそうかよ! ふざけんじゃねえぞ!』
『申し訳ありません!』
傷男『どう落とし前つける気だ、ああ!?』
『私の、命でなんとかならないでしょうか』
傷男『……』
傷男『てめえの命はありがたく頂戴するよ。でもな……それだけでチャラになるわけねえだろうが!』
『お願いです!』
傷男『この野郎!』ガッ!
『ぐッ!』
傷男『全部だ。全部売れ。店も商品も、家族もだ!』
『それだけは!』
傷男『甘ったれてんじゃねえ!』
『お願いです。――お前?』
傷男『あ?』
赤毛『……』
傷男『……』
赤毛『帰ってください……!』
傷男『そのナイフは脅しのつもりか僕ちゃん?』
赤毛『……』
傷男『はー、やんなっちゃうね。こんなガキけしかけてどうするんだよ』
『ち、違います! ――やめるんだ! お前は下がってなさい』
赤毛『帰ってください、お願いします!』
傷男『いいかい僕ちゃん。世の中の道理を教えてやるよ。借りたもんはな、返さなきゃならないんだ』
赤毛『……』
傷男『それとな』
赤毛『……!』
傷男『お前みたいなガキじゃ俺には敵わねえんだよ!』バキィ!
赤毛『ぐ……ッ!』ドサ
『ああっ……!』
傷男『もう良しとけガキ。俺はこっちのオヤジに用があるんだ』
赤毛『……』
傷男『助けを呼ぼうと無駄だぜ。俺たちに逆らえる奴ぁこの街には――』
赤毛『わ、わあああああああ!』
傷男『!?』
ドスッ!
赤毛『ぐ……うぐぐ……!』
『な、なんで……!』
傷男『トチ狂ったかガキ。自殺なんざ流行らねえぜ』
赤毛『誰か……助けて!』
傷男『……! まさか』
赤毛『誰か助けて! 助けて!』
『なんだ?』
傷男『チッ……!』ダッ!
……
…
赤毛「……」
戦士「それを狙って、自分を刺したんだね」
赤毛「勝った、よ……」
戦士「……」
赤毛「ぼく……勝った……」
戦士「なんて無茶なことを……」
賢者「ごめんなさい……わたしのミスです」
戦士「いいんだ。もう、いい」
赤毛「先、生……?」
戦士「君はもう休みなさい」
赤毛「……」
戦士「よく頑張ったね」
赤毛「……はい」
ガチャ
帽子「! 先生!」
戦士「……」
帽子「あいつは!? 大丈夫だった!?」
戦士「君に、頼みたいことがある」
帽子「え?」
戦士「賢者」
賢者「はい」
戦士「行こう」
賢者「ええ」
帽子「え? え? どこに行くんだよ?」
戦士「ギャングのところだ」
帽子「ど、どうしてさ!」
戦士「話を――つけに行く」
戦士「……」
賢者「……戦士」
戦士「……」
賢者「あの」
戦士「分かってる」
賢者「相手は一人ではありません。少し間違えればわたしたちでも危ういです」
戦士「分かってるよ」
賢者「組織の力は、勇者の持つそれとは別種に強い。選択を誤れば――」
戦士「ああ。でもそんなことは関係ないんだ」
ドン!
「――ってえな! 誰だ!」
戦士「……」
戦士「この街を牛耳るギャングの構成員、その一人だね」
「……そうだ。それが分かってんなら――」
バキィッ!
「ぶへ!?」
戦士「分かってるから君に伝言を頼むよ。僕たちは君のボスに用がある。今からそちらに直接出向く」
「な……な……?」
戦士「伝えろ。行け」
「ひ、ひぃ!」ダダッ!
賢者「戦士……」
戦士「僕は……僕を許せない」
賢者「……」
戦士「君に言われた通りだよ。悠長すぎた。気楽過ぎた」
賢者「……」
戦士「行こう」
賢者「ええ」
賢者「ここが……」
戦士「そうだ」
賢者「大きいですね」
戦士「こんなところに堂々と居座れる程に力をつけているということさ」
賢者「……」
戦士「門は空いてる。行くよ」
大男「へえ」
戦士「……」
大男「存外に若ぇじゃねえか」
戦士「……僕は、あなたに話があってきた」
大男「ああ、こいつに聞いてるよ」
傷男「へっ」
大男「どうやら噂によれば勇者と共に旅をして、魔王を打ち破ったそうじゃねえか」
賢者「……」
大男「そんな御仁を招けるとは、俺も偉くなったもんだなぁおい」
戦士「あの家族にはもう手を出すな」
大男「ん?」
戦士「聞いているんだろう。そっちの男が金を貸した人の家族だ」
大男「ふぅむ」
傷男「……」
戦士「いつかは完済もできるだろう。だから、それまで待ってほしい」
大男「だとよ。どう思う、お前」
傷男「完済ねえ……いつになるのやら全くはっきりしない。話になりませんな」
大男「つーことだ」
戦士「……」
大男「そんな怖い顔するな」
戦士「……後悔するぞ」
大男「どっちが?」
戦士「試してみるか?」
大男「くく……ははっ!」
戦士「……」
傷男「お前が言ってる家族の……あーなんといったか、あのガキ」
戦士「……」
傷男「ちょっと世話になったし、怪我もさせちまった。だから下のもんにアイサツに行かせたんだ」
戦士「そうか」
傷男「……? 気にならねえのか?」
戦士「問題ない。そちらは僕のもう一人の生徒がもてなすよ」
「ここだな」
帽子「この病院に何か用か?」
「……!?」
帽子「みたところ怪我人でもなさそうだけど」
「なんだお前」
帽子「あんたが用があるだろう子供の、兄貴分だ」
「……?」
戦士『あの子は、ギャングを敵に回してしまった。もしかしたらなにかしら報復があるかもしれない』
戦士『だから』
戦士『……』
戦士『いや、君を信じる。僕がギャングと話をつける間、あの子を守ってやってくれ』
「へえ……」
帽子「いくぜ。あいつには指一本触れさせねえ」
「ふん、ガキが! 木刀一本で何ができる!」
帽子「戦うこと。それで十分だ!」ダッ!
傷男「もう一人の生徒?」
戦士「まだ子供だ。でも戦うということを知っている」
傷男「へっ、薄情な先生だな」
戦士「信じてるんだよ」
傷男「物は言いようだ」
戦士「……。こちらの要求の方は呑んでもらえないかな」
大男「さぁてねえ」
戦士「僕たちなら、このギャングを壊滅に追い込むことも可能だ」
大男「脅しか?」
戦士「できるできないの話だ」
大男「そうか。ならこっちも同じ話をしよう。俺たちは大きなファミリーだ。お前に壊滅させられようが生き延びられる奴は生き延びられる」
戦士「……」
大男「そしてその生き延びた奴の怒りの向く先は……」
賢者「……っ」
大男「ははっ!」
戦士(僕たちは勇者じゃない。できないことは必ずある)
戦士(そして、その不可能は、いつか僕たちの前に立ちはだかる)
戦士(……どうしようもないことは、どうしたってこの世に存在する)
戦士「でも、だからこそ人は戦うんじゃないか……!」
傷男「?」
賢者「……?」
戦士「取引をしよう。あなたたちがあの家族に危害を加えないなら、僕は何もしない」
大男「で、逆なら俺たちファミリーを潰す、と」
戦士「そうだ」
大男「んっんー、なんとも魅力的だ。なあ?」
傷男「ははは」
戦士「……」
大男「だがな」ギロ
大男「てめえが落とし前つけねえならこっちだってそんなの呑めねえ」
戦士「……」
大男「俺たちにもメンツがある。タダでってわけにはいかねえな」
戦士「……」
大男「そこんとこ、どうするんだ?」
戦士「こうする」チャキ
大男・傷男「……!」
ザグンッ――!
「おらぁッ!」
帽子「ぐッ!」ドサ
「っは。大口叩いても所詮はガキじゃねえか」
帽子「ハァ、ハァ……」
「すぐに楽にしてやるよ」
帽子「勝つために必要なのは――」
「あん?」
帽子「狙った場所に、狙った威力で、正確に攻撃を加えること。何回、何十回、何百回やっても同じようにできるようにすること。
どんな状態であっても」
「……何言ってやがる?」
帽子「そして、俺は戦うと決めた。だからもう戦士だ」
「ふん」
帽子「だから、戦う! 勝つ!」
「これで終わりだ!」バッ!
帽子「あああああああッッ!」ビュッ!
ガッ――!
帽子「……」
「……ぐふぅっ」ドサ
帽子「……へっ。こいつ、最後の最後で足滑らせてやんの」
「――」
帽子「ざまあ、見やがれ……」
帽子「……」
帽子「――」ドサ
戦士「……」
大男「……」
戦士「……ぐっ!」
大男「……はは!」
戦士「っ……っ……!」
大男「こりゃあ傑作だぜ!」
賢者「戦士!」
傷男「……」
大男「まさか自分の――自分の腕を切り落とすなんてよ!」
大男「それがお前のやり方か」
戦士「……ぅ」
大男「そうか……そうかよ」
傷男「ボス?」
大男「医者に運んでやれ」
傷男「いや、しかし」
大男「チャラだ。全部な。お前の勝ちだよ、若造」
戦士「――」
大男「もっとも、もう聞こえてないだろうがな」
――ドサ
……
…
・
・
戦士「――と、言うわけで、これでもう解決だ」
赤毛「……」
戦士「呆気なかったといえば呆気なかったかな。なんてね。はは」
赤毛「……」グス
戦士「……」
帽子「なぁにが呆気なかっただよ、馬鹿先生」
赤毛「左腕……ぼくの、ために……」
戦士「……」
戦士「……」
赤毛「ぼくのせいで……」
戦士「……」
赤毛「ぼくの、せいで……」
赤毛「……え?」
戦士「それと同じで脆くない絆なんかない。死なない人間はいない」
赤毛「……」
戦士「でも、だからこそ人は守りたいと思う。生きたいと願う」
赤毛「……」
戦士「人はあがく。僕も同じだ」
帽子「……」
戦士「だから。いいんだよ」
帽子「なんかよく分からねえんだけど」
戦士「そうかもね」
赤毛「先生」
戦士「ん?」
赤毛「これからも、よろしくお願いします」
戦士「ああ」
帽子「ふわぁ~あ」
戦士「さて、僕らは早く身体を治して退院しよう。賢者が待ってる」
赤毛「はい」
帽子「うす」
『チッ! しぶてえ奴だ』
『グオオオオオ!』
『もうろくに知性も残ってねえくせにまあ粘ること粘ること』
『オオオオオオ!』
『そろそろ決着つけようぜ!』
『アアアアアア!』
……
…
戦士「始め!」
帽子「はッ――!」シュッ!
赤毛「……っ」ガッ!
帽子「やッ!」
赤毛「ふッ!」
賢者「二人とも、だいぶ様になってますね」
戦士「ああ」
賢者「……真剣ですね」
戦士「そうだね。二人とも真面目にやってくれてるよ」
賢者「ふふ。そうではなくてあなたですよ」
戦士「え?」
戦士「……」
賢者「そしてなにより優しい」
戦士「……そうかな?」
賢者「ええ」
戦士「そっか。そうかも」
賢者「あなたは変わりましたね。とても、大きくなった気がします」
戦士「……」
賢者「わたしも見習わなくちゃ」
賢者「そうでしょうか」
戦士「変わらないわけないだろ。人間なんだから」
賢者「ふふ。そうかもしれませんね」
戦士「……。あのさ」
賢者「なんでしょうか」
戦士「賢者さえよければ、だけど」
賢者「ええ」
戦士「ずっと、このまま道場にいてくれないか」
賢者「……」
戦士「賢者はもうそろそろ次のやるべきことを考えていたんじゃないかな」
賢者「……」
戦士「もしそうなら迷わせるような事を言って申し訳ないけど」
賢者「……」
戦士「でも、もし。もしよかったら僕と一緒に――」
戦士・賢者「!?」
赤毛「地震……?」
戦士「いや……この気配は……」
賢者「戦士、行きましょう!」
戦士「ああ!」
帽子「ど、どこ行くんだよ!?」
「な、なんだ? 城壁が崩れて――」
「あれはなんだ?」
「ば、化け物……化け物だ!」
賢者「戦士! あれは!」
戦士「ああ……間違いない! 魔王だ!」
魔王「キシャアアアアアアア!」
戦士「どういうことだと思う、賢者?」
賢者「分かりません……ですが」
戦士「ああ――二人とも!」
帽子・赤毛「!」
戦士「警衛兵と協力して街の人々を避難させるんだ!」
帽子「人出足りるか!?」
戦士「なんだったらギャングを駆り出してもいい! なんとかするんだ!」
赤毛「先生たちは……?」
賢者「あれを食い止めます」
帽子「……分かった!」
戦士「頼んだよ!」
帽子「おうよ!」ダッ!
赤毛「……」ダッ!
戦士「……さて。勇者なしでどれくらい持つと思う?」チャキ
賢者「五分持てば上出来でしょうか」スチャ
戦士「同意見だ。でもその二倍は持たせるぞ」
賢者「……はい」
戦士「僕ができるだけ気を引く! 援護を頼むよ!」ダッ!
賢者「了解!」
『……どこに行きやがった?』
『逃げられた、か』
『チッ!』
『無駄だ! 逃げても逃げ切れると思うなよ!』
『――そこだ!』
――ピキ!
賢者「ハァ、ハァ……」
魔王「ガアアアアアアアア!」
戦士(くそ、勇者なしじゃ……片腕じゃつらい)
魔王「ギッ!」カッ!
ドゴオォォッ!
戦士「ぐ……」ドサ
賢者「戦士!」
魔王「グオオオオオオッ!」キュイィィン……
戦士(まずい……)
「おいおいそれでも最強と名高い戦士さまか? 名前泣いてんぞ?」
戦士「……え?」
賢者「……ッ!?」
――ザシュゥッッ!
「へっ、デカブツが。俺から逃げられると思うなよ」
戦士「ゆ……」
賢者「勇者……!」
勇者「よ。久しぶり」
賢者「今まで何を?」
勇者「ああ。あのデカブツが異空間に逃げようとしたからそれを追っかけてた」
戦士「あの爆発は?」
勇者「爆発? 知らねえけど異空間に穴空けた時の余波じゃねえのか?」
賢者「……生きて、たんですね」
勇者「俺は神に選ばれた勇者さまだぜ。死にたくてもそう簡単にゃ死ねねえ運命だ」
賢者「よかった……」
魔王「……グギギ!」
勇者「俺さまの生還を祝うのは後だ。さっさとアレを片付けるぞ」
戦士「ああ!」
賢者「はい!」
戦士・賢者「了解!」
勇者「って、お前片腕ねえじゃねえか。どこで落としたんだよ」
戦士「話が長くなる。今は大丈夫、とだけ」
勇者「ならいい。行くぜ!」ダッ!
勇者「セイッ――!」
戦士「シッ!」
賢者「風よ、切り裂け!」
――こんな状況にも関わらず、懐かしい思いがした
勇者「おおおおおおおッ!」
――こうして三人で戦えるのは、純粋に嬉しかったから
戦士「はああああああッ!」
――そして、あの時とは違う
賢者「いけえええええッ!」
――きちんと三人で共に戦っている気がしたから
ドゴドゴドゴォッ!
勇者「ああ畜生、再生スピードが半端ねえな!」
戦士「どうする?」
勇者「再生できないスピードで”斬り抜く”!」
戦士「……分かった」
勇者「集中する。時間を稼げ」
戦士「了解だ!」
賢者「分かりました!」
魔王「ギッ!」ガキン
戦士「――ッ!?」
魔王「グガッ!」バシィ!
戦士「ぐっ……」ドサ!
戦士(まずい!)
勇者「――」
戦士「勇者のところには行かせるものか……!」ググ!
魔王「グオオオオオオッ!」キュイィィン……
戦士「僕の命に代えても行かせない!」
賢者「戦士!」
バキィッ!
魔王「……!」
戦士「……二人とも」
帽子「大丈夫か先生!?」
赤毛「避難誘導は、終わりました」
戦士「ありがとう――もう十分だ」
勇者「――ッッ!!」カッ!
――ズバシュウゥッ!
魔王「……っ」グラ……
ズズン……
・
・
…
勇者「なるほどな。俺のいねえ間にそんなことがあったのかよ」
戦士「そう。この子たちは僕の自慢の生徒なんだ」
勇者「ふうん……」
帽子「ど、どうも……」
赤毛「……」
勇者「ま、いいんじゃねえか?」
戦士「はは……どうもね」
戦士「え? どうして?」
勇者「聞いた感じ、もう俺は必要なさそうだからな」
賢者「どういうことですか?」
勇者「この街は、もうお前らで守れるみたいだしよ」
戦士「……そうだね」
帽子・赤毛「……?」
戦士「僕たちはまだまだ弱い。でもいつか、君によりかからずに立てる時が来るよ。きっと」
勇者「……」
戦士「ずっと、君任せだった。僕たちだけじゃなく、世界中全てが」
勇者「……」
戦士「ごめんね……」
賢者「勇者……」
勇者「お。そうだお前はどうする? 俺と一緒に来るか?」
賢者「……」
勇者「近いうちに作る俺のハーレムの一番にしてやってもいいぜ? ははっ」
賢者「ふふ。それもいいかもしれませんね」
勇者「だろ?」
賢者「でも……わたしはここに残ろうと思います」
勇者「なぜ?」
賢者「わたしは、戦士と一緒に子供たちの成長を見守っていきたいから……」
勇者「……そうか」
賢者「ごめんなさい」
戦士「本当に、行っちゃうのかい?」
勇者「おうよ! 早いとこハーレム作らねえといけねえからな!」
賢者「……寂しいです」
勇者「いまさら言ってもハーレムには加えてやんねえぜ! 俺と工口い事できなくて残念だったな! あばよ!」
戦士「元気でね!」
賢者「さようなら……」
――これからどこに行くのか、何を為すのか。僕たちには知る由もない
――けれども、せめて幸せであってほしいと、そう思う
帽子「おう!」
赤毛「はい……」
賢者「ふふ」
戦士「これからもよろしくな、みんな」
帽子「もちろんだぜ!」
赤毛「はい……!」
賢者「戦士」
戦士「ん?」
賢者「手、失礼しますよ」……キュッ
戦士「あ……」
帽子「へえ……」ニヤニヤ
賢者「あったかいです」
戦士「そ、そうかな」
賢者「ふふ。じゃあ、行きましょうか」
――僕たちの歩む道もまた、幸福の中にありますように
無双ものじゃないのもいいね
雰囲気が良かった
楽しかった
人間味溢れる話で楽しかったよ
引用元: 戦士「魔王倒したし道場でも開くか」