魔王「何を言う。我が城のシェフの腕は確かだぞ、不味いわけがないだろう」
側近「はあ…」
魔王「……何だ」
側近「いえいえ別にー」
側近「はい?」
魔王「明日から本気を出す」
側近「……(チッ)」
魔王「……(ビクッ)」
側近「うわあい綺麗に手入れされていますねえ」
魔王「ふっ……薔薇園の剪定など私にとっては朝飯前…ってどこに行く側近!」
側近「俺は仕事があるんです。下らない用事で呼びつけないでください」
魔王「…………」
魔王「うむ。部屋の掃除だ」
側近「……」
魔王「このように手が折れるものだったのだな。メイド達の苦労がよく分かった…って、どうした側k」
側近「いい加減にしろこの駄目魔王があああ!!」
魔王「?!(ビクッ)」
魔王「ここに」
側近「うるせえ黙れ」
魔王「魔王に何だその言い種は。ちゃんと敬え」
側近「ちゃんと魔王らしい仕事をすればな」
魔王「父上はやり手だったからな」
側近「あんたも先代様を見習って、しっかり魔王を勤め上げろよ!」
魔王「嫌だ。手広くやり過ぎたせいで、父上は人間に討たれたのだぞ?」
側近「だからって何もしないのもどうかと思うがな」
魔王「む……」
魔王「警備員……」
側近「今はまだ安心だが、その内魔王の座を狙う奴だって出てくるかも知れん。俺とか」
魔王「くっくっく……側近は面白いことを言うな」
側近(若干マジなんだがなあ……)
魔王「?」
側近「何か、魔王として名が通るようなデカイ仕事を考えろ。実現可能な範疇でな」
魔王「……私がか?というか、そもそも何でお前に命令され」
側近「出来なかった場合、ご自慢の薔薇園は焦土と化す」
魔王「くっ……人質とは卑怯な!!」
魔王「そう言われてもな……」
ペラッ
魔王「外に出るのは面倒だし」
ペラッ
魔王「かといって城で出来ることなどたかが知れている」
ペラッ
魔王「人質さえ取られていなければ、こんな無茶な要求……人質?」
ペラッ
魔王「…………?!」
魔王「これだ!」
魔王「早速良い案が浮かんだぞ側近!!」
側近「うわあ」
魔王「何だその目は。夜を徹して策を練った私に、労いの言葉はないのか」
側近「いや、だって早すぎるだろ…信用ならねえって」
魔王「ふっ…その減らず口、いつまで持つかな」
魔王「おお。さる国の王族は特別な力を持っていてな。それが我等魔物には少々厄介故、この際潰してしまおうかと」
側近「そいつらを皆殺しにするだけか?そりゃ、派手だし魔王らしいが」
魔王「まあ最終的にはそのつもりだがな」
側近「?」
側近「おう」
魔王「その姫を攫って来い」
側近「却下!!」
魔王「何故だ?!」
魔王「何を勘違いしているかは聞かぬが…姫は人質だ」
側近「…人質?」
魔王「餌とも言うな」
側近「**処理じゃ…」
魔王「そのような趣味はない」
側近「まあ…そうだろうな」
魔王「姫はすぐには殺さず、人間どもをこちらに誘い出す餌とする」
側近「……で、俺たちはそいつらを」
魔王「私の悪名が各地に轟き、国が疲弊した頃を見計らい徹底的に叩き潰す」
側近「おお………」
側近「…あんたが考えたにしてはまともだな。いや、正直見直したわ」
魔王「ふっ……私は魔王だぞ。見くびるな」
魔王(…『父上の遺した日記にあった計画を丸々拝借した』、などとは言えんな)
魔王「では……姫の件、頼まれてくれるか。」
側近「おう、折角あんたが出した計画だ。頓挫しねえよう、慎重に準備を始めるよ」
魔王「頼んだぞ」
側近「任しとけって!じゃあな!」
魔王(成功したとしても、城で人間どもが来るのを待つだけでいい)
魔王(あの国の軍がどれほど強大かは知らぬが、姫ばかりにそう力を裂けるはずもない)
魔王(すなわち……たまに来る人間を相手にするだけで、私の名は広まる)
魔王(どうせ側近が誘拐に成功するのも先の話だろう)
魔王(それまでは………警備員も悪くはない)
側近「攫ってきたぞ」
魔王「なん、だと………?」
側近「いやあ、何かあの計画を聞いたら興奮しちまって。昨日の夜に行って来たんだ。早いほうがいいだろ?」
魔王「あ、ああ………」
側近「もう国中大騒ぎだぜ。近日中に軍が送られるって話だ」
魔王(あああああああああ)
側近「いやー、あんたも早速仕事ができて良かったな」
魔王「は?」
側近「は、て。姫の面倒はあんたの仕事だから」
魔王「な、何だと?!」
側近「俺らは色々忙しくなるから、最悪餓死させかねん。計画じゃ、姫を殺しちゃまずいんだろ?」
魔王「ぐ……ぐぐ」
側近「客室に丁重に閉じ込めてるから、適当に飼ってくれ。じゃあまたなー」
魔王「お、おい側近!待て!」
魔王(魔王が子守とはな……)
魔王(ああしかし!姫に死なれるとこの先色々と利用できなくなる!)
魔王(私の平和なニートタイムのためだ!少しの苦労は買ってやろうではないか!)
魔王(姫が何だ!人間など、適当に餌をやっていれば死ぬことはないだろう!)
ギィッ……
姫「ひ」
魔王「……?」
姫「あ、あ……」
魔王「お前」
姫「うう……」
魔王「姫か?」
姫「うあ……はい…」
姫「あ、……あなた、は」
魔王「魔王だ」
姫「まお、う…?!」
魔王「…私が、恐ろしいか」
姫「こ………こわく、なんか、ないです!」
魔王「ふっ…そうか」
姫「ひっ」
姫「……?」
魔王「よく食い、よく眠り、よく生きろ」
姫「…??」
魔王「またな」
魔王「………」
魔王「あれは影武者か。王族の力が全く感じられん」
魔王「あの様子では、側近は気付いてはいないな」
魔王「……面白いし、気付くまで黙っているか」
魔王「結局側近は気付かぬままか」
魔王「回りの者は多忙にしているが、私は姫の飼育だけ」
魔王「案外楽なものだな。餌を与え生死を確認するのみというのも」
魔王「さてと、姫は生きているかな」
姫「ひっぐ……えう」
魔王「?!!」
姫「う…えぐ、あ、う」
魔王「お前…全く食事に手をつけていないではないか!」
姫「ひっ………!」
魔王「あ、ああすまん。そんなに怯えるな、寿命を縮めてしまうだろう」
姫「……(フルフル)」
魔王「くそ……どうすれば」
姫「………」
魔王「そうだ!」
姫「……?」
姫「…え」
魔王「わざわざ持ってきてやったのだ。ケーキなら、食えるだろう?」
姫「……」
魔王「食わんのか?子どもなら、甘いものが好きなはずだろう」
姫「………(グー)」
魔王「ほれ」
姫「……(パク)」
魔王「よしよし、もっとあるぞ。沢山食え」
姫「……(コク)」
姫「あ、あの」
魔王「何だ」
姫「あ……ううん」
魔王「変な奴だな」
姫「……」
魔王「昨夜気付いたのだが、食事だけではまずいな」
姫「…?」
魔王「今日は部屋から出してやる」
姫「え」
魔王「勘違いするな、適度な運動をしないと体に障るだろう」
姫「え、え?」
魔王「ほら、行くぞ」
姫「う、ん」
姫「……(キョロキョロ)」
魔王「……お」
姫「……(ビクッ)」
側近「……何をやってるんだあんたは」
魔王「仕事だ」
魔王「運動をさせなければ、弱ってしまうからな」
側近「で、手を繋ぐ必要は?」
魔王「逃げられると面倒だからだ」
側近(………まさか、こいつ本当に、口リ…)
姫「………(コソコソ)」
姫「……うん」
魔王「ちゃんと夕食を取ること。分かったな」
姫「……(コクコク)」
魔王「よし。では、また明日」
姫「あ、あの!」
魔王「何だ」
姫「ほ、ほんとに……まおう、なの?」
魔王「…?何を今更」
魔王「それでな、側近が馬鹿なことに……」
姫「うん」
魔王「私は止めたのだが、あいつは致命的に頭が」
姫「うん」
ギィッ
側近「…何やってんだあんた」
魔王「む」
側近「俺には仲良くお茶してるようにしか見えんが」
魔王「適度に間食を与えれば、より一層健康が保てるだろう」
側近「なんか釈然としねえ……」
魔王「こいつは昨日の夕食を残していた。全く…ちゃんと見張っておかねばな」
姫「…」
側近「で、とうとうあんたの部屋で飼うことに……」
魔王「一々客間に行くのが面倒でな」
側近「じゃあ膝に乗せる意味は」
魔王「逃げないよう…こら、菓子をこぼすな」
姫「……ごめんなさい」
姫「……♪」
魔王(姫も健康そのものだし、人間の動きの知らせも入ってこない)
姫「……?」
魔王(一応仕事をしているから側近も文句を言わんし、これは良い)
姫「どうか……したの?」
魔王「いや。お前、ずっと元気でいろよ」
姫「う、うん!」
魔王「側近!大変だ!」
側近「うわ?!な、なんだどうした」
魔王「姫が……姫が!」
側近「ま、まさか死んだのか?!」
魔王「熱を…………出した」
側近「はあ?」
側近「…そんな取り乱すことか?」
魔王「私の飼育は完璧だったのだぞ!それが……それが!!」
側近「知らん知らん。あんたの魔法でぱっぱと治せばいいだろ」
魔王「…人間の治療など、やった試しがない」
側近「ああ……なるほど」
側近「どうせ風邪か何かだろ。そんな悲観するなよ。人間用の薬とか探して来てやるから」
魔王「……すまん」
側近「いいってことよ。あんたは姫の看病を頼んだ」
魔王「勿論だ」
姫「う……ん」
魔王「果物は欲しいか?」
姫「……(フルフル)」
魔王「………そうか」
姫「……」
姫「……(ケホケホ)」
魔王「……」
姫「……」
魔王「……」
姫「……(スゥ)」
魔王(お前がそんな調子では、私は暇で仕方がない……)
魔王(死ぬなよ)
魔王(死なないでくれ)
魔王(頼む……)
姫「……ふぁ」
魔王「……(スゥスゥ)」
姫「………あ」
魔王「……」
姫「……えへへ」
姫「あ……」
魔王「なんだ…お前、もう起きていたのか」
姫「うん…お、おはよ」
魔王「お早う。調子はどうだ?」
姫「げんき」
魔王「そうか良かった。しかし油断するなよ、今日一日はまだ寝ておけ」
姫「うん」
魔王「?」
姫「ずっと、にぎってて、くれたの?」
魔王「ああ。それがどうかしたか?」
姫「ううん。なんでもない」
魔王「変な奴だな」
姫「えへへ……ありがと」
魔王「何故感謝する?」
姫「なに?」
魔王「お前の名は?」
姫「……ひめ」
魔王「違う。お前の、本当の名は?」
姫「………にせ、ひめ」
魔王「偽姫か。良い名だ」
魔王「ああ」
偽姫「………」
魔王「まあ、どうでもいいんだ。人間の反応を見る限り、『姫を攫う』という目的は達成されているのだし」
偽姫「……ここに」
魔王「?」
偽姫「いても、いいの?」
魔王「そうでなければ、私が困る」
魔王「すっかり元気になったな」
偽姫「うん!」
魔王「では、今日は久々に散歩でも」
バンッ!!
側近「大変だ魔王!!」
魔王「何だ騒がしい」
側近「あの国の奴等…姫を見捨てやがった!!」
魔王「……何?」
偽姫「え………」
魔王「泣き疲れて眠っている」
側近「そりゃそうだろうな…実の親どころか、国自体に捨てられたんだし」
魔王「……姫は、我等に殺されたと、そう公表されたのだったな」
側近「ああ。一応攻め込む予定らしいが…あまり本気でもなさそうだ」
魔王「………」
側近「何?!先に言えよ!」
魔王「私も、つい先日知ったばかりだ」
側近「本当かあ…?」
魔王「影武者故、助け出す必要もないのだろう」
側近「つっても同族だろ…そんな簡単に見殺しにしていいのかよ」
魔王「人間とは……厄介な生き物だな」
魔王「……目が覚めたか」
偽姫「ひっく……えぐ…」
魔王「ああ、泣くな泣くな」
偽姫「うぐっ…………う、ん」
魔王「よしよし、いい子だ」
魔王「ああ」
偽姫「ほんとの、おひめさまはね、ちょっとまえにね、なくなったの」
魔王「…ああ」
偽姫「かわりにね、そっくりなわたしが、かわれたの」
魔王「そうか。話してくれて、ありがとう」
魔王「国に帰りたければ…返してやるぞ」
偽姫「ううん。あんなとこ、もういや…」
魔王「…そうか」
偽姫「ここが、いい」
魔王「……」
偽姫「まおうと、いっしょが……いい」
偽姫「しってるよ」
魔王「恐ろしくはないのか?」
偽姫「やさしいから、すき」
魔王「お前は本当に…変な奴だな」
偽姫「えへへ……」
偽姫「……(スゥスゥ)」
魔王「もうお前に、人質としての価値は無くなった」
魔王「帰る家も、帰りを待つ家族も、お前にはない」
魔王「………ならば」
魔王「……どうだろう」
側近「ああ」
魔王「分かってくれ。頼む」
側近「…本当、最近あんたは冴えてるな。俺は何の異論もねえよ」
魔王「では」
側近「いいんじゃね?他の魔物も、姫に同情的だしな」
魔王「……感謝する」
魔王「起きたか」
偽姫「うん……」
魔王「それでは、お前の処遇についてだが…」
偽姫「………ぅぐ」
魔王「聞く前に泣くな」
偽姫「ご…ごめんなさい……」
偽姫「う、うん」
魔王「ここにいたいと、昨夜言ったな」
偽姫「……(コクリ)」
魔王「ならば、お前…魔王になる気はないか」
偽姫「…え」
偽姫「……」
魔王「お前さえ良ければ……私の跡継ぎとして、城に迎えてやろう。どうだ?」
偽姫「そ、それ…って」
魔王「魔王の父親は、嫌か?」
偽姫「う………ううん、すき」
魔王「決まりだ。よろしく、娘」
偽姫「よ、よろしく!」
偽姫「……(キョロキョロ)」
側近「お、偽姫ちゃん」
偽姫「そっきんさん、おはようございます」
側近「一人でどうしたんだ。魔王は一緒じゃないのか?」
偽姫「さがしてるの。そっきんさん、みなかった?」
側近「ああ…薔薇園じゃねえかな。あいつ他に行くとこねえし」
偽姫「ありがとー」
偽姫「おはよーございます」
メイド「魔王様はご一緒ではないのですか?」
偽姫「これから、むかえにいくの」
メイド「そうですか。お気をつけて」
偽姫「うん。いってきます!」
偽姫「おはよーございます!」
魔物「今日は珍しく魔王様を連れてねえんだな」
偽姫「まおう、まいごなの」
魔物「そりゃ大変だ。魔王様を見つけたら、オレが捕まえておいてやるよ」
偽物「ありがとう。またねー」
偽姫「まおう!」
魔王「む」
偽姫「おはよ!」
魔王「お早う。もう少し寝ていても良かったんだぞ」
偽姫「はやくおきたら、いっぱいあそべるもん」
魔王「薔薇か」
偽姫「うん!おせわ、おてつだいしてもいい?」
魔王「では、このジョウロで水をやってくれ」
偽姫「わ、わわ…」
魔王「重いか?やめるか?」
偽姫「がんばる!」
魔王「そうか。頑張れ」
魔王「何か用か?」
側近「いや偽姫ちゃんの様子を見に来ただけだ」
魔王「あの子は向こうで水遣りに燃えている」
側近「へー……(ニヤニヤ)」
魔王「何か言いたそうだな」
側近「いや。あんた、この薔薇園他の誰にも今まで弄らせた事ねえよな」
魔王「あの子は特別だ」
魔王「最近、すっかり魔物にも慣れてしまったしな」
側近「いやー、もうあんたより求心力あるんじゃね?」
魔王「ふっ…当然だ。私の娘だぞ」
側近「あ、今の褒め言葉で捉えるんだ」
魔王「おお、終わったか」
偽姫「うん!がんばった!」
魔王「よしよし、偉いぞ(ナデナデ)」
側近「偉いねー」
偽姫「えへへ」
魔王「そうか。気に入ってもらえて、良かった」
偽姫「ばらえんも、おしろも、みんなも、まおうも、ぜんぶすき」
魔王「そうかそうか(ナデナデ)」
偽姫「でも、いちばんすきなのは、まおう!」
魔王「ははは、そうか(ナデナデナデナデ)」
側近(うわあ)
魔王「とうとう、この時が来たか」
側近「ああ。遂に昨日軍が出発した」
魔王「……」
側近「俺らの準備は既に万端だ。いつ攻められても」
魔王「いや」
側近「?」
魔王「『攻められる』のではない。我等も、『攻める』」
側近「…ほぉ」
魔王「奴等は魔王の娘を虐げた。その報いを、受けねばならん」
側近「じゃあ…」
魔王「軍を潰してから、直にあの国を攻める。明日より、我等も出るぞ」
側近「了解。こりゃ忙しくなるな!」
魔王「ああ……」
魔王「偽姫としばらく会えなくなると思うと…な」
側近「なあに、たかが人間だ。俺らが本気になりゃ数日で片がつくだろ」
魔王「む……それもそうだな」
側近「ま、気楽にやろうぜ、魔王様」
魔王「うむ」
ギィッ…
魔王「ただいま」
偽姫「おかえりなさい!おはなし、おわったの?」
魔王「ああ……先に、寝ていても良かったのだぞ」
偽姫「だめ!いっしょにねるの!」
魔王「全く…頑固だなお前は」
偽姫「こればっかりはゆずれません!」
偽姫「なあに?」
魔王「明日からしばらく、私は帰らない」
偽姫「………たたかう、の?」
魔王「ああ」
偽姫「……」
偽姫「けがとか……しちゃ、やだよ」
魔王「私は魔王だ。怪我などせん」
偽姫「ちゃんとかえってくる?」
魔王「できるだけ、早く」
偽姫「やくそくだよ」
魔王「ああ。約束だ」
魔王「お休み、娘」
偽姫「おしごと、がんばってね」
魔王「お前のために、父は頑張るよ」
……────
魔王「………ふああ」
側近「随分と余裕ですねー、居眠りとは」
魔王「…昨夜も戦略を練っていて、寝不足なのだ。仕方あるまい」
側近「いくら眠くても、敵の軍隊と睨み合う最中で寝ますか」
魔王「構わんだろう。あちらは攻めあぐねているのだから」
側近「流石に、これだけの魔物を連れてちゃ人間どもも必要以上にビビリますよ」
魔王「ほぼ全戦力だからな。しかし、あちらも数が多い…」
側近「ところで、いい作戦は思いつきましたか?」
魔王「む……難しいな、こういう事は」
側近「まー、ゆっくりやりましょう。時間はあるんですし」
魔王「………」
側近「何でしょう、魔王様」
魔王「お前、普通に喋っても良いのだぞ」
側近「俺が魔王様にタメ口きいてちゃ、士気に関わりますからね」
魔王「そうかもしれんが………正直慣れんな」
魔王「……」
側近「俺だけじゃない。皆、魔王様を信じて、ここまで来たんです」
魔王「……ありがとう」
側近「ははは、礼は全部終わった後に頼みますよ」
側近「おーおー。どんなのです?」
魔王「幸い、私は見た限りでは人間と区別がつかない」
側近「………はあ」
魔王「というわけで、私一人敵軍に潜り込み、機を見て一暴れ」
側近「却下!!」
魔王「何故だ?!」
魔王「私は魔王だぞ、心配はいらぬ」
側近「怪我でもされちゃ俺の株が落ちるんだよ!!第一、他の魔物も認めねえからな!」
魔王「む………過保護だな」
側近「いいから大将は大将らしく、頭だけ使ってくれ。頼むから」
魔王(…思わず素になる程、嫌なのか)
魔王「…上手くいったのだから、良いだろう」
側近「いいから反省しろ!二度とこんな危ない真似するんじゃねえぞ?!!」
魔王「確かに……私にも至らぬ点はあった」
側近「お、珍しく殊勝じゃねえか…」
魔王「油断して、少し服が汚れてしまった。今後の反省点だな」
側近「てぇんめええええええええええ!!!!!」
側近「ま……まあ、そうだがよ」
魔王「我等が悲願の成就のためだ、少しの無茶は許せ」
側近「………無茶っつーか…単に頭に血が登ってるだけだろ」
魔王「……」
魔王「……」
側近「だがな、俺たちもあんたに何かあったら、後悔どころじゃあ済まん」
魔王「………ああ」
側近「分かってくれよ。あんたは俺達の王なんだからな」
魔王「王……か」
魔王「うむ」
側近「なあ。全部終わったら、したいこととかあるのか?」
魔王「ふっ……聞いて驚くな」
側近「何だよ勿体ぶって」
魔王「一緒に、歩く」
側近「……」
魔王「一緒に食事を取る」
魔王「一緒に薔薇園を眺める」
魔王「一緒に眠る」
側近「それはまた……『日常』だな」
魔王「ふっ……素晴らしいだろう」
側近「ああ。早く叶うといいな」
魔王「そのための戦いだ」
魔王「おお。調子はどうだ?」
魔物「万全ですよ。とっととオレらも戦いに参加させてくださいよ」
魔王「まだ時期ではない。焦らず機を待て」
魔物「魔王様にゃ言われたくないね」
魔王「む……」
魔王「そうか?」
魔物「オレはあんたがちっちぇえ頃から知ってるからな。よく分かるよ」
魔王「ああ………」
魔物「先代様も、今のあんたを見れば喜んでくれるはずさ」
魔王「…そうだと、良いのだがな」
魔王「ふむ…静かだな」
側近「一般の住民は移住したって話だ」
魔王「では、中にいるのは」
側近「兵士と……国王だよ」
魔王「国王か………」
側近「?」
魔王「く……く…ふははははははは!!!」
側近「お、おいどうした」
魔王「これが笑わずにいられるか側近よ!」
側近「へいへい……落ち着けよ。ったく…不安だ……」
魔王「安心しろ。ちゃんと、私の役目と皆の役目はわきまえている」
側近「本当だろうな?流石にこればっかりは、あんたに任せるしかないんだからな」
魔王「分かっている。失敗は、許されないのだから」
側近「……最後の仕上げだ。頼む」
魔王「ああ」
魔王「遂にこの日がやって来た!」
魔王「我等が目的はただ一つ!」
魔王「我等が願いはただ一つ!」
魔王「我等が誇りを汚した人間どもに死を!!」
魔王「そして………我等が誇りを取り戻すために!!」
魔王「行け!!!」
ウォオオオオオオオォオオオッ──!!
魔王「ああ。しかし、それもすぐ終わる。終わらせる」
側近「気をつけろよ」
魔王「任せておけ」
側近「………一緒に行ってやれなくて、すまない」
魔王「気にするな。魔物のお前を連れてはいけないからな」
兵士1「な!まだ住民が残っていたのか?!」
??「ま、魔物が来る!!早く中に!中に入れて下さい!!」
兵士1「待ってろ!今門を開けさせる!!」
兵士2「ま、待て早まるな!!本当にあれは人g」
王城─
魔王「ご苦労」
兵士30「ぎゃあああああ!!」
兵士31「た、たすけ」
兵士32「ひ、ひあああああああ?!!!」
魔王「………」
ギィ……………
国王「……貴様が、魔王か」
魔王「ああ」
国王「随分と、好き勝手に……やってくれたものだな」
魔王「貴様等の罪に比べれば、生ぬるい」
国王「………」
国王「……お前は、魔王なのだろう」
魔王「それがどうした」
国王「我が一族の力を、知らぬわけではないだろう」
魔王「………知っているとも、嫌というほどな」
国王「生涯に数体のみだがな……だが幸いこの老いぼれでも、お前一匹を封じるのならば、可能だ」
魔王「ふっ………くっ…くく」
国王「何がおかしい!!」
魔王「私に、その術は効かない」
国王「何?!」
魔王「嘘ではないぞ。試しに、やってみろ」
国王「舐め………るな!!」
魔王「………」
魔王「………」
魔王「長かった……」
国王 は 呪文 を 解き放った!!
魔王「ほら、な」
国王「な、何故だ!!何故貴様は封印できない?!!」
魔王「………」
国王「呪文は完璧だったはず!それが!何故!!」
魔王「私は…」
国王「貴様は何者だ?!」
魔王「人間だ」
国王「?!!」
国王「で、でたらめを言うな!人間が魔王などと!馬鹿げたことを!!」
魔王「……貴様、私の顔に覚えはないか?」
国王「は…………」
魔王「まあ…かなり昔の話故、覚えておらぬのも無理はないだろうが」
国王「…………あ」
国王「あ、あ、」
ザンッ──………
魔王「ああ、全く。煩い爺だった」
地下─
魔王「このような薄暗い場所で……」
魔王「何年も、何年も………」
魔王「………」
魔王「………え、ぐ」
魔王「……どこだ」
魔王「どこに………ある」
魔王「………」
魔王「………」
魔王「………」
魔王「あ」
魔王「あった……宝玉」
魔王「この、中に……」
『………』
『あ、そっきんさん!』
『………偽姫、ちゃん』
『おかえりなさい!おとーさんは?おとーさんも、かえってきたんでしょ?』
『……ん』
『え?』
『ごめん……ごめんよ………俺は…あいつの力には……』
『知っていて、俺達に隠していたんだ』
『自分で、偽姫ちゃんの復讐をしたかったんだろう』
『それがこの……ザマだ』
『すまない………』
『うん』
『いっぱい、べんきょうする』
『いっぱいがんばって、つよくなる』
『おとーさんのかわりに、ばらのおせわをする』
『わたしが、おとーさんをたすける』
『わたしが………まおうになる!』
魔王「私はやったよ」
魔王「お父さんの代わりに、仕事も薔薇園のお世話も……復讐も」
魔王「それにね、私ね、あんまり泣かなくなったんだよ」
魔王「強くなったんだよ、私」
魔王「だから……褒めてくれるよね」
魔王「昔みたいに」
(魔王改め)魔王の娘「よしよしって、して……くれるよね!」
魔王の娘 は 宝玉 を 砕いた!!
娘「…………あ」
魔王「ん…………お前は……」
娘「あ、あ」
魔王「私の娘……か?」
娘「あ………う、う……」
娘「うわあああああああん!!」
娘 は 魔王 に 抱きついた!
魔王「うお」
魔王 は 動揺している!!
娘「お、おとーさん………おとーさんだ。ほんものだ…」
魔王「ああ、父だ。だから、一体これは」
娘「封印されてる間のこと……知らないんだね」
魔王「ああ。全く分からない…………って、封印?何だそれは?」
娘「それでも………いい」
魔王「良くはないだろう」
魔王「ああこら泣くな。全く…大きくなっても変わらんな、お前は(ナデナデ)」
娘「ひっく………」
側近「いやー、いいね。久々の『日常』っていうのは」
魔王「おい側近…」
側近「何だ?」
魔王「三行で……頼む」
側近「ああ?三行もいらねえよ」
魔王「なるほど……?」
娘「おとーさん……」
魔王「何だ」
娘「お帰りなさい」
魔王「……ただいま」
娘「えへへー………」
【完】
携帯からですが、後日談が出来たので上げていこうかと思います
需要無い?蛇足?知らんな!あとオチとかないよ!
いらない方はスルーして下さい
魔王「………ふああ」
娘「(スゥスゥ)」
魔王「……また、こいつは…」
娘「むにゃ……う」
魔王「こら、起きろ娘」
娘「ん…………おはよー、おとーさん」
娘「お父さんが寝静まった隙に!気配は殺しました!」
魔王「全く……嫁入り前の娘がはしたない真似をするな」
娘「お父さん、私をお嫁に出したいの?」
魔王「断固拒否する」
娘「じゃあ構わないじゃない♪」
魔王(何か、違うような……)
魔王「ほ、ほう……」
娘「凄いでしょ?私すっっっごく強くなったんだよ」
魔王「は…はは……それは、凄いな」
娘「えへへー…あ、そろそろ自主トレの時間だ。また後でね、お父さん」
魔王「お、おう………」
側近「言いたいことは分かるが、一応聞いてやる。何だ?」
魔王「あの子は………その、たくましくなったな…」
側近「そりゃ、あんたを助け出すために強くなるって努力したからな」
魔王「しかしあれは少々桁外れだろう……」
側近「元々才能あったんだろ、魔王として」
魔王「釈然とせぬな……」
側近「ん?」
魔王「何と言うか、ごく稀に魔物…特に雄の魔物達から妙な殺気を感じるような気がする」
側近「ああ、そりゃ娘ちゃんに惚れてる奴等だろ」
魔王「何?!!」
魔王「な、何だ驚かせるな……しかしそやつらが、何故私を敵視する?」
側近「ああ。娘ちゃん、毎回『好きなタイプはお父さん』って言って振るんだよ」
魔王「…………」
側近「ニヤニヤするんじゃねえよ、気色悪い」
魔王「おお、お疲れ(モグモグ)」
娘「それ………そのケーキ」
魔王「お前が先ほど残して行った物だ………が」
娘「………楽しみに」
魔王「?!ま、待て!早まるな!!今すぐ代わりの物を用意させる!」
娘「楽しみに取っておいたのにいいい!!」
魔王「ぐふあ」
魔王 は あっさり 力尽きてしまった!
娘「あ…!ご、ごめんなさいお父さん!ついちょっとだけ本気出しちゃった!!」
側近「うっわあ」
娘「お父さん!お父さーん!!死んでしまうとは情けないよ!」
側近「娘ちゃんが殺ったんだろ」
娘「いただきます!」
魔王「頂きます」
娘「おいしいね、お父さん」
魔王「そうだな」
娘「一緒だと、もっとおいしいね」
魔王「ああ」
娘「でもやっぱり、仕事を終えた後のご飯は格別だね!おいしいね!」
魔王「………そう、だな」
娘「今夜は堂々と参上しました!」
魔王「仕方ないな………ほら、来い」
娘「うん!」
魔王「全く………」
娘「えへへー…お父さん大好き」
魔王「よしよし……お前は変わらんな(ナデナデ)」
娘「お父さんも昔と変わらないね」
魔王「当たり前だろう」
魔王「……ああ」
娘「寂しかったよ。いっぱい泣いたんだよ」
魔王「すまない…」
娘「ぎゅってしてくれたら、許してあげる」
魔王「分かった分かった(ギュッ)」
娘「えへへ」
魔王「お休み、娘」
娘「明日も明後日も、ずっと、ずーっと一緒だよね」
魔王「勿論だ」
【終】
本当にありがとう!
良いハッピーエンドだった
結局ニート魔王は弱いのね
一応強い方。ただ娘が桁外れ
全てが素晴らしかった
マジでいい話だった。良いスレ見させてもらったわ感謝!
>>1最高すぐる! ありがとう!!
時間軸が変わってるのに全く気づかなかった
娘と父の性格が最高すぎたわ
引用元: 魔王「今日も平和だ飯がうまい」