――――【 夕方・海沿いの村 】
ホウ…ホウ…チチチ…
トコトコトコ…
アサシン(黒装束)「海沿いに村があってよかったな」
騎士長「宿も備えた規模の大きい村で助かった。水も出来るだけ補給させてもらおう」
アサシン「あぁ。ラクダはここの乗り場で預かってもらっている」
騎士長「んじゃ晩飯は俺が奢るぜ。砂漠地方で海鮮料理ってのも妙な感じだが」
アサシン「遠慮せず頂こう」
黒髪幼女「お姉ちゃん、何かしゃべり方が変だよ?」
アサシン「黒髪幼女、シーね、シー!」ボソボソ
黒髪幼女「?」
騎士長「お姉ちゃんだけど、今は秘密なんだ。シーっ」
黒髪幼女「わ、わかったっ」
騎士長(何してんだか…)
騎士長「食べ物屋を探す前に、宿をとるか」
アサシン「それもそうか。これだけの規模の村、適当に探せばあるだろう」
――――【 海沿い村・宿場 】
ガヤガヤ…ワイワイ…
騎士長「おぉ、結構広いな」
アサシン「我も知らぬ村だったが、宿は予想以上の賑わいだな」
騎士長「下手したら砂漠港と一緒くらいの規模かもしれん。とりあえず部屋があるか聞こう」
トコトコ…ピンポーン
騎士長「すいませーん!!」
宿番「はいはーい」ドタドタ
騎士長「泊まらせてほしいんだが、部屋は空いてるか?」
騎士長「子供1人、大人2人。2部屋を頼みたい」
アサシン「…おい」
騎士長「ん?」
アサシン「別に無駄に遣ってることはない。1部屋でいい」
騎士長「いいのか?」
アサシン「別にいい」
騎士長「…らしい。1部屋あればいい」
宿番「あ、そうですね。丁度1部屋しか空いてませんでしたし、ご案内します」
騎士長「ところで、見たところ規模の大きい宿だが飯屋の併設はないのか?」
騎士長「お♪そうかそうか、ありがとう」
宿番「ですが、先に予約と同時に注文していただければ、あとでお部屋にお運びしますよ?」
騎士長「ほう、そうなの?どうする2人とも」
アサシン「任せる」
黒髪幼女「どっちでも!」
騎士長「メニューは一緒なのか?」
宿番「そうですね、レストランから直接お部屋にお運びします。メニューはこちらになります」スッ
騎士長「えーと…、オススメはあるか?」
宿番「海鮮物とクリームのスパゲティがおすすめですよ」
騎士長「じゃあそれ3つ。それとビールを…。サラダも貰おうか。お前は?」
アサシン「我も付き合おう」
騎士長「じゃあ大瓶を適当にもってきて。あとここら辺のジュース適当に」
騎士長「あと…コレ。よろしく」ボソボソ
宿番「わかりました。それではこちらが部屋の鍵になるので、あとで料理が出来次第運びますね」チャリッ
騎士長「わかった」
アサシン「では部屋に向かおうか」
騎士長「そうだな」
――――【 部 屋 】
…ボスンッ!
騎士長「ふぅ!」
黒髪幼女「なんか今日も疲れた…」
アサシン「…」
シュルシュル…パサッ…
アサシン「マスクもしてると息苦しくてな…。はぁ~やっと一息つける」
騎士長「やっぱお前、マスクねぇほうがいいわ」ハハハ
アサシン「ふふ…」
騎士長「…って、黒髪幼女…どうした?」
騎士長「ん~?」
黒髪幼女「…」スヤッ
騎士長「あっ…」
アサシン「…今日1日で色々移動して大変だったんだろう。ご飯が届くまで、寝かせてやろう」
騎士長「だなぁ…自分の足とは言えないが、随分と遠い旅になってるし。体操でもしておこう」ウーン
騎士長「う~ん骨がよくなる…」ボキボキ
アサシン「…」
騎士長「ん~…」コキコキ
アサシン「な…なぁ…」
アサシン「私を…不埒な女だと思うか…?」
騎士長「不埒だって?急にどうしたよ」
アサシン「…」
騎士長「あ~…昨日の事とか、お前の境遇の話とかか?」
アサシン「…」コクン
騎士長「別に思わねぇよ。お前は俺を認めて、俺はお前を認めただけだ。それだけだろ?」
アサシン「…」
騎士長「傷だとか、過去とか、そういうことが関係あるのは分かってる」
騎士長「だが俺は不埒だなんて思わない」
騎士長「…俺と寝たことか?」
アサシン「そ、それは違う!私は…そ、その…。葛藤というか…あぁぁ!何て言えばいいんだ!」
騎士長「はぁ…別に、素直に”寂しかった”でいいんじゃないのか?」
アサシン「…っ」
騎士長「自分と、重ねたんだろう。別に恥じゃないと思うぜ」
アサシン「私の気持ちが、わかるのか…?」
騎士長「大体な」
アサシン「…」
騎士長「…」
騎士長「まるで同じ境遇だったから、だろう」
アサシン「…王都出身のアンタが、黒髪幼女を助けに部落に乗り込んできた時…」
アサシン「まるで私を助けてくれたあの王都の人間に思えたんだ…!」
アサシン「くそっ…同じセリフを言いやがって…。”傷だらけの女だろうが関係ない”なんて!」
アサシン「…っ!こうやって、自分に言い訳する自分も嫌いだ…!」
騎士長「…わかってる」
アサシン「…っ!!」
騎士長「酒でもなんでも付き合う。寂しければ、今は頼ればいい。話してくれ、何でも」
アサシン「そ…そうやって…」ブルッ
アサシン「私の話を…どうしてそうやって聞いてくれるんだ…。どうして分かってくれるんだ…」
アサシン「こんな汚い人間の、ただの愚痴なのに!」
騎士長「…さぁな。俺は話を聞いて、分かろうとすることしか出来ない不器用な人間だから…」
騎士長「こうして何でも聞くし、せめて本気で理解したい。どんなに強気でも…お前は女だ」
騎士長「そうやって頼ってくれるなら、俺は何でもする。俺は男だから、な」
アサシン「…っ」
騎士長「こんなしょうもない男で良ければ、いくらでも付き合いますよ。お姉さん」ニカッ
騎士長「寂しければ言ってくれればいい。話たければ話せばいい。今はもう、仲間だろう?」
アサシン「…騎士長」
騎士長「はははっ」
アサシン「…ありがとう」グイッ
騎士長「!っ…んむっ…」
……
…
……
アサシン「…んっ」
騎士長「…」
アサシン「騎士長…これでも、不埒で恥な女とは思わないんだな…?」
騎士長「くく…不埒かもしれんな」
騎士長「だけど、少しの欲望に身を任せる、”俺のほう”が…もっとダメだろ」グイッ
アサシン「!」
騎士長「…こんな女リーダー、本当にどうしようもないな」ハァ
ハァ…ハァ…
アサシン「騎士長…息が…熱い…」
騎士長「…っ」
ガチャガチャガチャ…ピンポーン!!
騎士長「!」ビクッ
アサシン「!」ビクッ
宿番「お料理お持ち致しましたぁ!お部屋を開けてくださぁ~い!」ピンポーン
黒髪幼女「む、むぅぅ~…ご飯…?」ムニャムニャ
騎士長「…!」
騎士長「…く、くく…」ブルブル
アサシン「あ…あはははっ!そういえば、そうだったね!」ハハハ
騎士長「仕方ない、黒髪幼女!ごはんが来たぞ!」
黒髪幼女「うんっ…!」ムクッ
騎士長「今出ますよ~っと」
タッタッタッタ…ガチャッ…
黒髪幼女「う~…私寝ちゃってたんだ」ムニャッ
アサシン「はは、仕方ないさ。疲れてたんだから」
黒髪幼女「むぅ…」
アサシン「あとでご飯食べたら、一緒にお風呂入ろうっか。背中洗ってあげるよ」
黒髪幼女「うん」
トコトコ…カチャカチャ…
騎士長「ほら、お待たせ。ジュースもあるし、いっぱい食べろよ~!」
黒髪幼女「うん、ありがとうっ」
アサシン「お~美味しそうだね。ビールも開けちゃおうっと」キュポンッ
騎士長「ところで~…後で一緒に風呂入るんだって?じゃあ俺も俺も!」
アサシン「黒髪幼女、男の人はダメです~って言ってやれ!」
黒髪幼女「ダメらしいよ!」
騎士長「な、なんだそうか。じゃあ後で一人寂しく入るからいいよ」イジイジ
黒髪幼女「…」
黒髪幼女「わ、私が一緒に入ってあげる…」オロオロ
騎士長「!」
騎士長「優しいなぁぁ黒髪幼女はぁぁ」バッ
ギュウウウッ…
騎士長「その優しさに免じて、俺からのプレゼント…チョコレートパフェだ!」スッ…キラキラ
黒髪幼女「!」
アサシン「さっきボソボソと店員に頼んでたのはこれか」
騎士長「折角だしな。きっと美味いぞ、食べろ食べろ」
黒髪幼女「ありがとう、騎士長っ」
騎士長「おうっ!それじゃ…せーのでっ…」
3人「いただきますっ!」
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村と村で補給を繰り返しながら…確実に王都へと近づいていった。
やがて7日目の朝…砂漠地帯を無事に脱出し――…
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――――【 砂漠と森林国の境目 】
ラクダ『ブルッ…』
アサシン「今日までご苦労様。本当に助かったよ」
ラクダ『ブルルッ!』
アサシン「あとは、来た道を覚えてるね?そこを帰るんだよ」
騎士長「きちんと戻れるのか?」
アサシン「頭がいいからね。来た村での乗り場を経由して、戻ってくれるはずさ」
騎士長「本当にすごい奴だな」
ラクダ『ブルッ!』
ラクダ『ブルルッ!』クルッ
パカッパカッパカッ…
騎士長「…行ったか」
アサシン「これで半分。ようやく砂漠は抜けたね」
騎士長「目の前には緑の大地。…森林国だ!ずっと黄色い大地だったからすげぇ懐かしく感じるよ」
アサシン「…」
騎士長「…どうした?」
騎士長「あぁ…じゃあ俺以上に緑の大地は久々なんだな」
アサシン「久々で…」
騎士長「…」
アサシン「本当に…怖くなる。この緑が広がる土地を見ると…」ブルッ
騎士長「…」
アサシン「ご、ごめん…。我侭言って着いてきたのにね…」
騎士長「…いいさ」
アサシン「…」ブルブル
アサシン「大丈夫…」
騎士長「その一歩は重いだろうが、一人じゃない。俺もいるし…黒髪幼女もいるんだから」
黒髪幼女「お姉ちゃん…」
アサシン「うん…」
…スタッ
騎士長「…」
アサシン「…」
黒髪幼女「…」
ザッ…ザッ…ザッ…
騎士長「…進めそうか」
騎士長「別にいいさ。お前にとっての大事な一歩だろう」
アサシン「…ありがとう」
黒髪幼女「騎士長、ここからどう進むの?」
騎士長「王都まで、馬車の乗り換えを重ねていく」
アサシン「今度は馬車か。ラクダのように一頭でなんとかなる感じではないのか?」
騎士長「黒髪幼女は乗って教えたが、砂漠地方ほど単純なお国柄じゃないんだ」
アサシン「…というと?」
騎士長「砂漠地方は、巨大な大陸1つにいくつも村があるけどさ…」
騎士長「どんなに広くても、所詮は砂漠街の管理の下だから、さっきみたいな移動手段も可能だろう?」
騎士長「ここからは、巨大な大陸に村ではなく、”国家”がいくつも存在して形成されている」
騎士長「だから、その国ごとに管轄される内で移動をしなければならないんだ」
アサシン「面倒な仕組みなんだね…」
騎士長「そうそう。国ごとに乗り換えを繰り返すから、やっぱりもう1週間はかかるだろうな」
アサシン「それは仕方ないことか…」
騎士長「まっ、砂漠のように不安定な場所はないから安心はしていい…が」
アサシン「…が?」
騎士長「ここからは本当の無法地帯。森には魔物がいるし、賊も潜む」
アサシン「賊までいるのか…。こちら側はあまり多くはないと聞いたんだが…」
アサシン「あ~なるほど。ってことは、こういった王都の離れの地方国は砂漠よりも多かったりするってことか?」
騎士長「砂漠に敵が少ないのは政府の方針と、魔物すら生存が難しい熱帯地区だったからだ」
騎士長「考えてみろ…この自然を。魔物も、人も、隠れて生きる事なんて簡単だろう?」
アサシン「確かにな…」
騎士長「ついでに…その中にはいるからな」
アサシン「何がだ?」
騎士長「お前らを襲う”奴隷狩り”だ」
アサシン「…」
黒髪幼女「…」
騎士長「もっとも、砂漠では仲間もいたが…ここじゃ3人だ」
騎士長「どれだけ強かろうが、アサシン、お前も守るさ」
騎士長「いてっ!あれは暑さで動けなかったんだっつーの!任せとけっつーの」
黒髪幼女「…」
タタタッ…ソッ、ギュウッ…
騎士長「…!」
黒髪幼女「ごめんなさい…、怖くなっちゃった…」
騎士長「いいぜ、しがみついてても」
アサシン「ここから次の村、町にはどれくらいなんだ?」
騎士長「下手すると数日は歩くかもしれん。森の中も突っ切るだろうし用心しよう」
アサシン「数日!?」
騎士長「キャンプしながら行けば、2、3日でつく範囲だとは思うんだがなぁ…」
アサシン「それと馬車の移動も含めたら10日以上になるってことか…気が遠いな」
騎士長「仕方あるまいよ」
騎士長「あ~それと一応、森で人がいないとはいえ、黒装束のほうがいいと思うぜ」
アサシン「わかった」
スッ…シュルシュル
アサシン(黒装束)「これでいいな」
アサシン「わかった」
黒髪幼女「…」
…ギュウウ
騎士長「…」
………
……
…
ザッザッザッザッ…
騎士長「…」
アサシン「…」
黒髪幼女「…」ビクビク
…ガサッ!!
黒髪幼女「ひゃっ!」
ウサギ『…』
黒髪幼女「う…うさぎさん…」
騎士長「ははは、そうそうビビることはないさ。いきなり敵に出会うものじゃないしな」
黒髪幼女「そ、そうなんだ…」ホッ
騎士長「ただ、用心はしろってことだ。例えば、こんな話をしている最中に…」
ズドォン!!!
ウサギ『!』
バキッ…ゴロゴロゴロ…ドシャアッ…
ウサギ『…』
ガサガサガサ…ヌッ…
アラクネ『…ハァァ』
騎士長「こ…こんな感じに、出てくる事があるから」