騎士長「教えていただけませんか?」
傭兵「ダメだ」
騎士長「…これでは?」スッ
傭兵「…金貨か」ピクッ
騎士長(引っかかれ!おまえだって欲しいはずだ!)
傭兵「…」
傭兵「…言えぬことは言えぬ」
騎士長(断っただと…?金貨を捨てるほどに、恐ろしい取引相手ってことなのか?)
騎士長「あ…あははは!嫌ですよ、旦那ぁ。商人たるもの、金になる匂いには敏感なだけですよ!」
傭兵「そうかぁ…?」
騎士長「こ、これは迷惑をかけたお詫び!とっといてくださいな♪」スッ
傭兵「…そうか。なら有り難く頂くぜ」
騎士長「…」フゥ
傭兵「そういえば、アイツはいつ戻ると?」
騎士長「商人さんですか?」
傭兵「そうだ」
騎士長「い、一旦遠くまで離れるから、分からないことがあったら雇った傭兵に聞いてくれと言われました」
騎士長「会議ですか?」
傭兵「定例会議だ。お前も出席しろ、仕方ない。俺が紹介してやる」
騎士長「は、はい」
騎士長(ここはただの巣じゃねえのか?一体…)
――――【 大広間 】
…ザワザワ…ガヤガヤ…
騎士長「な…」
商人A「今回はさぁ…」
商人B「ははは!お前だって」
商人C「…」ゴクゴク
傭兵A「…」
傭兵B「…」
傭兵C「…」
傭兵「お前さ…本当に何も聞いてないんだな」
騎士長「へへ、旦那…すいません」
ザワザワ…ガヤガヤ…
黒商人「ははは…ん?お前、新顔か?」
騎士長「ど、どうも初めまして…」
黒商人「って、お前…剛傭兵連れてるじゃねえか。いつもの銀商人はどうした?」
剛傭兵「あ、黒商人さんじゃないですか」
騎士長(こいつは剛傭兵っつうのか。ってか、色で呼び合ってるのは意味があるのか?)
剛傭兵「銀商人はちょっと用事があるそうで。こいつが代わりに」
黒商人「新人に任せるなんざ、変わってる奴やなぁ」
黒商人「もうすぐ、金商人様がいらっしゃる。仕方ない…銀商人の席についておけ」
騎士長「は、はい。ここですね」
トコトコトコ…ストンッ
騎士長(成る程。色での取り決めは、コードネームとランクなのか)
騎士長(…ここでの一件、話を聞く価値がありそうだな)
騎士長(ナイフを探すのは、それからでもよさそうだ)
ザワザワ…ピタッ、シーン…
騎士長「ん?ど、どうして急に静かに……」
剛傭兵「おっ、金商人様がいらっしゃったのだ。静かにしておけよ」
騎士長(金商人ねぇ…どんな顔してんだか…)
カツ…カツ…カツ…
奴隷商人「…待たせた」ガタンッ
騎士長「ぶーーっ!!」ブボッ
剛傭兵「ど、どうした!?」
騎士長「ごほっ、ごほごほ!お茶が喉に詰まってしまいまして!」ゴホゴホ
剛傭兵「あぁ?仕方ねえなあ!」
騎士長(どどど…どういうことだ!!)
騎士長(あいつは確かに、王都で俺が捕まえた奴隷商人のはず!!)
騎士長(脱獄しやがったのか!?)
騎士長(いや、王都の牢は地下深く。そう逃げられるものではないはず…)
剛傭兵「おい、大丈夫か…?いつまで下を向いているんだ」
騎士長(…ま、まさかとは思うが…まさか…)
奴隷商人「今回も”王都”より任務が出ている」
騎士長「――…!」
奴隷商人「前回、ようやく見つけた”黒髪幼女”だったが…王都で逃げられたのは知っているな」
奴隷商人「俺の失敗だ。すまない」
奴隷商人「情報によれば、王都の元騎士長…くそっ!名前を見ただけでムカムカする」
奴隷商人「その元騎士長とともに、砂漠地方へと向かったらしい」
奴隷商人「この情報は、彼の行きつけだった酒場の店主の情報。間違いないだろう」
奴隷商人「残念ながらそこからの足取りは掴めていない」
奴隷商人「王都の直属警備隊が砂漠地方村へ捜索しに行ったが、どうやら訪れた痕跡はなかったそうだ」
騎士長(おい…おいおいおい…)
奴隷商人「情報は発見次第、報告せよとの事だが…」
奴隷商人「俺たちは相変わらず仕事を続けて良いそうだ。今回の報告はまずそれだけになる」
騎士長(待てよ…。冗談だろ…。俺は本当はどこかで…まだ…)ドクン
騎士長(王都が本当に絡んでるなんて思いたくなくて…)ドクンドクン
奴隷商人「ん…おいおい、そこ。いつまで顔を下げてるんだ」
奴隷商人「会議が始まってるんだぞ!いい加減…顔をあげたらどうだ!」
騎士長(まさか…俺が追いかけてきた…この全ては…)ドクンドクン
奴隷商人「この…いい加減に…」
ガチャガチャ…バァンッ!!!
奴隷商人「なんだっ!?」
奴隷商人「銀商人!?な、なんで裸なんだ!」
銀商人「突然、後ろから殴られて…気づいたら裸だった。誰かが、忍び込んでるかもしれん!」
奴隷商人「何だと!?」
…ザワザワ!!
騎士長(ナイフどころの話じゃない…俺は…)ブツブツ
剛傭兵「…まさか、貴様…」
奴隷商人「お前、さっきから頭を上げないのは…」
剛傭兵「…顔をあげろ、コラァ!」グイッ
騎士長「うっ…」
奴隷商人「!!」
騎士長「ひ、久しぶりだな…奴隷商人…」ニタッ
奴隷商人「き…騎士長!!なぜ貴様がここにいる!!」
剛傭兵「…何だって!?」
…ザワザワッ!
剛傭兵「はっ!」
グイッ!…ガシッ!!
騎士長「!」
剛傭兵「動けまい…俺の力は相当なもんだぜ…?」グググッ
騎士長(ぐ…な、何て力だこいつ…!)
奴隷商人「良くやった」
奴隷商人「さて、騎士長…。貴様、なぜここにいる?」
奴隷商人「まさか俺たちに探りをいれたのか!?」
奴隷商人「はぁ~。まぁ、聞く気があろうがなかろうが別に良い」
奴隷商人「聞いちゃいけない話を聞いちまったのは一緒だからな」ギロッ
騎士長「ばーか…。俺だって、そんな話聞きたくなかったよ…」
剛傭兵「口を慎め!」
ブンッ…ゴツッ!!
騎士長「ぬあっ!」
奴隷商人「いや、まぁいい。そのまま抑えておいてくれ」
奴隷商人「これは逆に好都合だ。黒髪幼女の居場所を吐かせれば、王も喜ぶだろう」
騎士長「…」
奴隷商人「早速だが、黒髪幼女の居場所を教えろ。教えなかったら…分かってるな?」
騎士長「…言うと思うか?」
奴隷商人「剛傭兵、いいぞ」
剛傭兵「ふんっ!」ブンッ
…グシャッ!!…ポタポタ…
騎士長「ぐ…」
奴隷商人「もう1度聞くぞ。どこにいる」
奴隷商人「それでいいんだ」ニコッ
騎士長「だ、だけど…俺からも聞きたいことがある…」
奴隷商人「ふむ?なんだ?」
剛傭兵「…金商人殿、話に耳を貸すことなど」
奴隷商人「どうせ、このまま殺す。冥土の土産話よ」
剛傭兵「あなたがいいのなら、いいのですが…」
奴隷商人「王の命令さ。奴隷狩りが禁止されて、宙ぶらりんだった俺たちに仕事をくれたんだ」
騎士長「そ、その内容とは…」
奴隷商人「”お主らが自由に奴隷を狩る事を内密に支援する”」
奴隷商人「”代わりにある奴を見つけて欲しい”…さ」
騎士長「…そいつとは、まさか…」
奴隷商人「”黒髪幼女”だ」
奴隷商人「さすがに、何故…あんな子を探していたのかは知らん」
奴隷商人「それに奴隷の一部を献上するうちに、王自身、その魅力にハマったらしく毎回献上を求められるわ」ハハハ
騎士長「…お前、王都で俺に言ったよな。村で協力してくれた人間がいたと…あれはウソか?」
奴隷商人「あぁ、酒場で出会った時の話のか。ありゃ本当だ」
騎士長「わけがわからん…」
奴隷商人「俺が情報を集めてた時、黒髪幼女の住む村をようやく見つけてな」
奴隷商人「いつも通り、傭兵を雇って向かおうとした矢先…その村の男から手伝ってほしいと言われた」
奴隷商人「俺はそれにイエスと答えたまでってことだ」
奴隷商人「…お前の質問はここまで。あとは俺の番だ」
騎士長「…」
奴隷商人「黒髪幼女はどこにいるんだ?んん?」
騎士長「…」
奴隷商人「…言わないというなら、何度でも痛めつけるが」
騎士長「…」
奴隷商人「いや…貴様を奴隷にするのも面白いかもしれん…ひひ…」
騎士長「お前の性根は本当に腐ってやがるんだな」ギリッ
奴隷商人「若い頃より奴隷を扱ってきた俺にとって、人はただの物にすぎん」ククク
奴隷商人「それにしても、お前も無駄な人生を過ごしてきたんだな。そこは同情するよ」ハァ
騎士長「何だと…?」
奴隷商人「王都に何年も仕えたんだろう?賊を倒す為に、王都を守る為に…おぉ泣けるねぇ!」
騎士長「…!」ギリッ
奴隷商人「それの実態が、王はただの奴隷好きのヘン夕イ!」
奴隷商人「欲望のために金を使い、国の財政は崩壊寸前!」
奴隷商人「そんな王都に本気で仕えてたお前!」
騎士長「…ッッ!!」
奴隷商人「はーっはっははははは!ひ~!!涙が出るほど面白いな!」バンバン
騎士長「き…貴様…!」ググッ
奴隷商人「は~…面白いなぁ本当に…」
奴隷商人「…まぁとにかく、今は黒髪幼女の場所を話して貰おうか」
騎士長「…どんな拷問ですら、俺は何も話す気はない」
騎士長「俺がどれだけ騎士長に誇りを持ち、本気だったか…今の俺を見てわからないか!!」
剛傭兵「御意」ニヤッ
騎士長「なっ!?」
奴隷商人「…いちいち殺さなくて済むと思ったんだがな。まあどのみち、吐いても殺すつもりだったが」
騎士長「今、俺を殺せば黒髪幼女の場所は分からなくなるぞ!拷問にかけるんじゃなかったのか!」
騎士長(俺が拷問の間、黒髪幼女は少しでも生き延びられる。アサシンなら、この意味もわかるはず…!)
奴隷商人「ふん。あんな子供を連れて、ココへ来る訳ないのは分かってるさ」
奴隷商人「大体そうだな…例えば。ここの近くにある…」
奴隷商人「エルフ族がすんでいたあの家に…預けてきたとかかだろう?」ククッ
騎士長「!!」ビクッ
奴隷商人「図星か…?くははっ!」
奴隷商人「自分から答えを言ってくれるとは有り難い。適当に言ったつもりだったんだがなぁ?」
騎士長「く…貴様ぁ…」
奴隷商人「お前が騎士道で戦士の戦いなら、俺は商人としての道」
奴隷商人「人を揺さぶって、人を騙すのは得意なんでね…」ニタッ
騎士長「く…くそがあぁぁっ!!」ガタガタ
騎士長「黒髪幼女は一体どうなるんだっ!!」
奴隷商人「さぁ~…王様、幹部にでも遊ばれるのか…」
奴隷商人「意地でも探していたようだし、一体何されるのか。地獄のような日々は間違いないだろうな」
奴隷商人「それに俺はアイツとお前に振り回されたし…」
奴隷商人「俺もおこぼれがあれば…、どんな事になるか、あの世から見てるがいい」ニタリッ…
騎士長「…」
騎士長「…」ブチッ
剛傭兵「わかりました…ここに忍び込んだのが運の尽きだったなぁぁ!」ブンッ
…ガシッ!!
剛傭兵「むっ」
騎士長「…」
剛傭兵「…腕を離せ!」ググッ
騎士長「…」
剛傭兵「この、離せと言ってる…!!」
騎士長「ぬぅあああっ!!!」ゴォォ!
ググッ…バキバキッ!!!ブチィ!
剛傭兵「お、おっ…おおお、俺の腕がぁぁ!!と、とと、とれ…」
奴隷商人「なっ…何だと!!」
騎士長「お前だけは、お前らだけは…絶対に許さん…」
奴隷商人「…!」
騎士長「骨も残らないと思え…人を喰う…化け物どもが…!!」
奴隷商人「な、何を言っているんだ!?ははは!」
奴隷商人「ここには何人の傭兵たちがいると思っている!…おい!」
傭兵達「…」チャキッ
奴隷商人「いくら貴様でも、この数の傭兵…相手に出来るまい!」
騎士長「奴隷商人…いや、金商人か…」
奴隷商人「ん~…なんだ?」
騎士長「ここまで人を殺したいと思ったのは…初めてだ…」
騎士長「覚悟しろよ…」チャキッ
奴隷商人「…っ!」
コポコポ…カチャカチャ
アルフ「付近でとれるハーブのお茶と、手製のクッキーをどうぞ」
アサシン「ありがとう」ゴクッ
黒髪幼女「ありがとう~」クピッ
アサシン「さっきも飲んだけど…やっぱり、優しい味で美味しいね」
アルフ「ありがとう」
アルフ「そんな慌てて食べなくても、作り置きはあるから持ってくるよ」ハハハ
黒髪幼女「~♪」モグモグ
アサシン「…はぁ、騎士長のやつ無事だといいんだが」
アルフ「ん~む…心配だな」
アサシン「アルフ、だったか。あんたは何故ここに?」
アルフ「それはさっき言った通り、隠遁だ」
アサシン「隠遁…ねぇ」
アルフ「一人でのんびり自給自足して、好き勝手に生きたくなっただけだ」
アサシン「なるほどね」
アルフ「下手に発明品に目をつけられなかっただけマシだが…」
アサシン「ま…そうだな」
アルフ「あんたら、なぜ一緒に旅をしてるんだ?」
アサシン「成り行きだな」
アルフ「ふーむ。あんた女だろ?今は黒装束で隠してるが」
アサシン「!」
アルフ「今はそんな窮屈なのは取っておきなよ。いちいちマスクだけ外すのもダルいだろ?」
アサシン「…」
シュルシュル…パサッ
アサシン「バレてたなら、お言葉に甘えるよ」
黒髪幼女「…お姉ちゃんがお姉ちゃんになった!」
アサシン「ふふ」
アルフ「…思った以上にイイ女だな、アンタ」
アサシン「はははっ」
アルフ「…砂漠地方の美女と女の子。それと男の旅…か」
アサシン「まぁ色々あってね」
アルフ「何やら急いでいる旅なのか?」
アサシン「深い考えは騎士長が持ってるみたいでね。私は分からないよ」
アルフ「へぇ…」
アルフ「お父さん?」
黒髪幼女「うん」
アルフ「行方不明になったのか?」
黒髪幼女「うん…」シュン
アルフ「本当にわけありって感じだな。なら、これ以上は聞かねえよ」
アサシン「そうしてもらうと助かるかな」
アルフ「分かった。今回は俺が依頼者、あんたらが請負人」
アルフ「イエスかノーかっての仲程度でいいさ」ハハハ
アサシン「ありがとう」
アルフ「いやなに」
アルフ「…」
黒髪幼女「…」モグモグ
アサシン「…はぁ、騎士長のやつ…本当に無事だといいんだけど」
黒髪幼女「…」パクパク
アサシン「黒髪幼女も、意外と神経が太いっていうか…騎士長は心配じゃないのか?」
アサシン「パクパクとよくクッキー食べるね」
黒髪幼女「心配だよ…。でも…騎士長だよ。私をいっつも守ってくれたし…」
黒髪幼女「きっと大丈夫だよ!」
黒髪幼女「うん」
アサシン「私にもクッキー1枚くれるか。あ~ん」
黒髪幼女「はいっ」
パクッ…モグモグ…
アサシン(こんな子一人残して、変な事するんじゃないからな…騎士長)
…ドスッ!!!…ポタッ、ポタッ…
傭兵F「がぁっ!!」ゴボッ
騎士長「はぁ~…、はぁ~…!」ゼェゼェ
傭兵B「こ、この…」
騎士長「槍突っ!!!」ビュッ
ドスッ…!!!ズバァンッ!!
傭兵E「ぬがっ…!」
…ドサアッ
奴隷商人「そ、そそ、そんなバカな…!」
騎士長「お…?もう、いねえんじゃねえのか?へ、へへ…」
奴隷商人「あ、あの数の腕利きを…倒しきるなんて…!」
騎士長「この数だ…、峰打ちなんかに手加減はできなかったぞ…」ハァハァ
奴隷商人「ぐ…!」
騎士長「あとは、お前だけだ…だらぁぁぁっ!!!」ブンッ!
奴隷商人「ひっ…」
…ゴキィッ!!パラパラ…
奴隷商人「ひ…、ひぃぃ…!」
騎士長「っちくしょう、左腕がうまく上がらん…。血を流しすぎたか…」ブルブル
奴隷商人「た、助けてくれ!さっきまでのは謝る!!」
騎士長「…」
奴隷商人「金ならやる、何でもする!だから頼む…!」
騎士長「…お前、さっき…地下に奴隷がいるって言ってたなぁ…?」
奴隷商人「あ…、あぁ!ここは砂漠との中継地点だから、奴隷を一時的に閉じ込めるんだ!」
騎士長「ふ~む…」
奴隷商人「奴隷が欲しいのか?な、ならやるぞ!鍵だって渡す!」
騎士長「着いてこい…、地下に案内しろ」グイッ
…ズリズリ
奴隷商人「あ、あいだだだ!髪の毛が抜けますから!やめでぇぇ!」
…ピチョーン、ピチョーン
ザワザワ…
奴隷商人「…髪の毛が抜けると思った」ハァハァ
騎士長「…」
奴隷商人「き、騎士長さん…黙ってどうしましたか?」
騎士長「ここにいるの…全員が奴隷狩に連れてこられたのか…?」
母親「静かにして…お願いだから…」
女性「…寒い」
傷だらけの女「もう嫌だ…嫌…」ガクガク
………
……
奴隷商人「今回のリストも合わせて十数人前後ですね」
騎士長「こんな地下で、服も着せず…狭い場所に…貴様…ら…」
奴隷商人「へ、へへ…」
騎士長「このダボがぁぁ!」ブンッ
奴隷商人「えぎぃ!!」バキィッ!!
ズザザザァ…
奴隷商人「へっ…ま、まさか」
騎士長「全員逃がす。表の馬車を使えば逃がせるだろう」
奴隷商人「そ、そんな事をしたら王への報告と、俺たちの生活が!」
騎士長「…」ギロッ
奴隷商人「あ、開けますよ…」
トコトコトコ…ガチャッ…ギィィィ…
奴隷たち「きゃあああっ!」
奴隷たち「や、やだぁぁ!」
騎士長「何だ!?」
奴隷商人「いつものことです」
騎士長「どういうことだ!」グイッ
奴隷商人「奴隷にするために、いつも調教を施してるんですね…」ヘヘ
奴隷商人「ですので、自分がその番だと思ってるんですよ」
奴隷商人「まぁ趣味で度々世話にはなりますが、そんな理由です」
騎士長「…っ」
騎士長「な…」チラッ
奴隷たち「ひぃぃ…!こっちを見たぁぁ…!!」
奴隷たち「私は嫌だ。嫌だ。嫌だ…」
奴隷たち「もうあんなのは…いやぁぁ…」
騎士長「…」
奴隷商人「収集つきませんぜ」
騎士長「…」
奴隷商人「いでで…何をするつもりで!」
騎士長「…」スゥゥ
騎士長「聞け!!落ち着け!!砂漠の人々よ!!!」
奴隷商人「!」ビリビリ
騎士長「私は王宮都市に仕え、今は旅をしている騎士長という者だ!!」
騎士長「風の噂で、ここの地下にお主たちの話を聞き、助けに来た!!」
奴隷たち「…え?」ザワッ
騎士長「うぐ…ご…ごほっ…!」ゴボッ
騎士長「こ、ここに捕まえているのは奴隷狩の首謀者である金商人である…!!」ゴホッ…
奴隷商人「…!!」
騎士長「表の馬車で、砂漠側へ逃げ、海沿いにある村に助けを求めればよい!」
騎士長「その証明に…この奴隷商人をそこの手錠にとらえよう!」
トコトコトコ…ガチャンッ!!
奴隷商人「ちょ、ちょっとぉおお!?」
騎士長「あとは…ソイツも…お前らも自由にしていい…」ハァッ…ハァ…
騎士長「ごほっ…」フラフラ
奴隷商人「は、離してください!止めてください!」ガチャガチャ
奴隷たち「ほ、本当なの…?」
奴隷たち「き…きっと希望を持たせてどん底に落とすつもりだ…」ガタガタ
奴隷たち「騙されないから…!」
騎士長(だ…だめか…?)
奴隷少女「…」ギュッ
奴隷母親「少女ちゃん…どうしたの?」
奴隷少女「あっ、行っちゃだめ!」
タッタッタッタ…
奴隷少女「あ、あの…」
騎士長「ん?」
奴隷少女「た、助けてくれたんです…か…?」
騎士長「これ以上の面倒は見きれないが、今この時点で…」
騎士長「この屋敷にお前らを捕まえようとする人間は一人残らず…倒れてるはずだ…」
騎士長「…」ニコッ
奴隷少女「本当に…か、帰れるんですね!?」
騎士長「ウソだと思うなら、上へ行き…その惨状を見るがいい」
騎士長「外の光を自由に浴びればいい。お前たちは…自由になったんだ…」
奴隷少女「み…みんな…、この人なら…きっと信じられると、そんな気がする…!!」
ワ…ワァァァァッ!!!
傷だらけの女性「家族に…会えるの…?」ポロポロ
母親「本当なんですか…!」
騎士長(名も知らぬ少女よ、ありがとう)
騎士長(…こんな支部がまだどこかにあるはず。洒落にならねえな…)
ヨロヨロ…
騎士長「うくっ…。あの傭兵ども…口先だけじゃなかったなぁぁ…くそ…」ポタポタ
奴隷商人「覚えてろよ…騎士長!!」
騎士長「そりゃお前がここから生きて出られただろ。ほら、よく見ろ」
…チャキッ
奴隷「…許さない、お前たちだけは」
奴隷「生き地獄を貴方にも見せてあげる…」
奴隷「殺す…絶対に…」
奴隷商人「ひ…」
奴隷商人「ひいあああああっ!!」
騎士長(…因果応報、か)
トコ…トコトコトコ…ヨロッ…
騎士長(俺も早く、戻らないとヤバイかもしれん…。傷だらけで怒るだろうなぁ…)
奴隷少女「あ、待ってください!」
騎士長「うん?」
奴隷少女「あと一人…奥の部屋に男の人がいるはずなんです」
騎士長「男?」
奴隷少女「はい。度々、食事を持っていくのを見ていたんですが…」
騎士長「君らも早くここから逃げるんだ。服はどこかにあるはずだろうから」
奴隷少女「…はいっ。本当にありがとうございました」ペコッ
タッタッタッタッ…
騎士長(薄暗くて、俺の傷が見えなかったんだろうけど…)
騎士長(任されたらやるしかねぇよなぁ…はは…)
………
……
ガチャッ…ギィィ…
騎士長「…っ」
カツ…カツ…
騎士長(な、何て臭いだ。カビか…?こんな場所に人間がいるのか?)ツン
騎士長(長居はできん…。俺の傷に障って、本当に死にかねない…!)
騎士長「…」キョロキョロ
騎士長「…」
騎士長「…人の様子もない、が…」
騎士長「少女の見間違えか?なら、早く戻らねばー…」クルッ
…モゾッ…ゴソゴソッ…
騎士長「!」ハッ
???「う…。ま、また来たのか…?」
???「飯の時間にはちぃっと早いんじゃないかね…」ムクッ
???「…あら…?いつもの商人さんじゃない…のか?」
騎士長「違う…お前を助けに来たんだ…。あんたは一体?なぜ…こんな深くにいるんだ」
???「ドジふんじまってなぁ…。殺されると思ったが、閉じ込められて放置されてたよ…」ハハ…ハ…
騎士長「生き殺し?…ごほごほっ!」ベチャッ
???「あらら、あんたも死にかけてるじゃないの…俺と一緒かな…」ゴホゴホ
騎士長「…お前は一体…」
???「もう…俺も死ぬだろうし…名乗っても大丈夫かねぇ…」
騎士長「…」