騎士長「な…何だって…!?」
王子「あら…信じてない声だねぇ」
騎士長「し、信じられるわけないだろう。何でここに王子がいる!?」
騎士長「いや、そもそも先代に息子がいたなんて!」
騎士長「うっ…!ごほごほっ!!」
王子「そう声を上げたらアカンでしょ…。あんた、傷がひどいんじゃないの?」
騎士長「声を上げずにどうしろと…!」
王子「はは…確かにそうだ。驚かないほうが不思議だものなぁ…」
騎士長「…俺は元、王都騎士団の騎士長だ。この槍を見てくれ」チャキッ
王子「薄暗くて見えねぇよ…。というか…王都の騎士だと…?」
王子「…」
騎士長「上の奴隷狩りの商人は…倒した。だから死に掛けてるんだよ…」フラフラ
王子「…」
騎士長「信じてくれ…」
王子「まぁ…信じるよ…」
王子「話をしてもいいが、その前にお前…死んじゃうんじゃないの…?」
王子「それと…俺はまだしも、こんな状態の俺を王子と信じるなんてねぇ」
騎士長「…俺はお前が王子だと信じて話を聞く。俺を王都の犬ではないと信じてくれたし…」
騎士長「それに今は疑う以上に、あんたがココにいるツジツマが合いそうだから信じるっ…」ゴホゴホ
王子「仕方ねぇっなぁ…ちょっとこい…」
騎士長「ん…」
王子「…」ボソボソ
…パァァ!!
騎士長「!」
騎士長「ち、血が…。助かる!」
王子「さて…んじゃ、何から話をしたものか」
騎士長「待ってくれ。その前に、お前の鎖を外したい」
王子「はっはっは…いいよ。そんな力出したら、血を噴出して…お前が死んじゃうよ」
騎士長「いやしかし…」
王子「そのヒーリングは一時的なもの。いいから黙って話を聞け」
王子「どうせ…俺はもうすぐ死ぬ…。その前に、お前との出会いも運命だと…思う…」
騎士長「だ、だが…!」
騎士長「…っ」
王子「頼む。聞いてくれ。最期の話くらい、俺にさせてくれないか」
騎士長「…」
騎士長「…わかった」
…ストンッ
王子「礼を言う。まず何から話すか…。お前は今の王を知っているかい?」
騎士長「あぁ…酷い王様だと有名だからな」
王子「そうだな。しかし、先代に息子がいたのは知らなかったようだな。まぁ俺なんだが…」
騎士長「…そうだ。俺は聞いたことがないぞ。どういうことなんだ?」
王子「まぁまぁ…落ち着いて聞きなさいよ…」
王子「先代が亡くなった後、俺は今の王と覇権の争いをすることになった」
王子「当然、先代を慕っていた面子は俺に付いた」
騎士長「当たり前だな」
王子「しかしな…。ヤツは、裏の顔を持っていた」
王子「裏社会とでも言おうか。ソレを取り仕切る、いうなれば裏社会の王のような奴だった」
騎士長「…」
王子「その顔を使い、買収…脅し…何でもやったそうだ」
王子「気が付けば俺は一人になっていた。今の幹部らは命を捨ててまで、俺に着く道理はないと思ったんだろう」
王子「そして、当代は俺を殺そうと目論んだ。だが俺は、命を取られまいと…逃げたんだ」
騎士長「どこへだ?」
騎士長「!」
王子「丁度、政府が新政策で奴隷禁止だの…村や街作りの発展のために人手を募集していた」
騎士長「…」
王子「そこで、砂漠地方の地方…。そこで自分の居場所を作ろうと考えた」
王子「まず何をすべきか。俺は、新政策に逆らっていた賊共に連れられた、奴隷馬車を襲った」
騎士長「…奴隷馬車を?」
王子「そう。そして…それを繰り返し。やがて俺は一つの村を作ったんだ」
王子「元奴隷達による、”俺の居場所”さ」
王子「俺を慕ってくれたそいつらは、俺の本当の姿を知っても迎え入れてくれた。嬉しかった」
王子「まぁ、オープンじゃない村だなんても他の面子に言われたりしてたがねぇ」ハハハ
騎士長「…えっ!?」ガタッ
王子「ん?」
騎士長「ま、待ってくれ。オープンじゃない村…だと?」
王子「うむ、そうだが」
騎士長「…まさか、砂漠地方村か!?」
王子「なんでその名前を?」
騎士長「…っ!!」
騎士長「し…知っているか?その村は…今…」
王子「燃やされた…か」
騎士長「!」
王子「…」
騎士長「…あなたも被害者だったのか」
王子「…いや、違う」
騎士長「え?」
騎士長「!!」
王子「…」
騎士長「な…」
王子「…」
騎士長「何だと…コラァァ!!」バッ!!
騎士長「ぐ…がっ…!?」
騎士長「げほっ…!」ベチャッ
王子「あらら…興奮するから折角止めた血が…。一体どうしたんだ?」
騎士長「き、貴様さえいなければ…」ブルブル
王子「…何のことを言っているのか分からないが」
王子「まぁ、それをしたのには、大きな理由があった」
騎士長「言ってみろぉ!!」
騎士長「…んだと!?」
王子「俺を王子と分かった上で、受け入れてくれた民」
王子「だが、俺を追って王都の軍が調べていることがわかった」
騎士長「…」
王子「それから村人を逃す為に、一度…奴隷狩に頼み…売ってもらおうとしたのだ」
騎士長「その村の、トラウマを掘り起こしても…危険な道を選んでもか!?」
王子「…死罪になるよりはマシだろう」
騎士長「何だと…?」
騎士長「だけどなぁ…それはな、死ぬより…ひどい思いをするってことなんだろうがっ!!」
王子「…だから、多額の金を支払って、俺の知っている身内に売ってくれと頼んだんだ」
王子「それならば、奴隷として扱うこともなかったからな…」
騎士長「…だ、だがそれはっ!」
王子「言うな…分かっている。頼んだ商人は既に王都の手下で…裏切られたんだ。俺が愚かだった」
王子「追い詰められ、俺もヤキが回っていた…」
騎士長「…」
王子「その後…俺は逃げていた所を、再びそいつ…奴隷商人に見つかった」
王子「最初に捕まえなかったのは、どうやら俺の顔を知らなかったからだったようだが…」
王子「結果的に捕まった俺だったが、奴らは俺を王に突き出さずにココへと閉じ込めたのよ」
王子「…俺を突き出せば、奴隷狩の自由と、王からの報酬がなくなるからな」
騎士長「…」
王子「だが、俺はうれしかった」
騎士長「…嬉しかっただと?」
王子「そうだ。こうして、死ぬ道があることが」
騎士長「…っ」
王子「こうして、死ぬ事で、奴隷に売られた…俺が裏切った村人たちも…」
王子「きっと”裏切り者が死んで良かった”って思うだろうしなぁ…」ハハハ
王子「…」
騎士長「死ぬことで、村人が喜ぶ?良かったと思う?んなわけないだろうが!!」
王子「…」
騎士長「く…くそ…」
…ゲホッ
騎士長「…!」
騎士長「…ゲホッ!ゲホゲホゲホッ!」
騎士長「あ゛…」フラッ
…ドサッ…
…ドサッ
王子「…はは、最後に誰かに話せたことを…嬉しく思うぞ…」
騎士長「ふ…ふざけ…」ググッ
王子「せめて最後に…娘に会いたかったなぁ…」
騎士長「!」
王子「本当にそれだけは…一緒に逃げなくて良かったと思う…」
王子「俺と一緒だったら、こうして捕まっていただろうし…」
王子「今、捕まってなければ…良いのだがな…ふふ…」ゴホゴホ
王子「…!?」
騎士長「王都出身の村で…裏切り者の親父…。奴隷狩…全部繋がった…ぜ…」
王子「し、知っているのか…俺の娘を…」
騎士長「道理で…当代の王が血眼になって探していたはず…だ…」
騎士長「王家の娘…だったの…か…!!」
王子「…ど、どこにいるんだ?無事なのか…!?」
騎士長「俺が…助け出して…今は…、すぐそこの…エルフの家にいる…」
王子「な…っ」
王子「何という日だ…。最後の最後に…娘を…知るとは…!こんな近くに…いるとは…」
騎士長「なら…お前だけでも生きて…。あの子に会ってやれよ…!」
騎士長「俺は、旅に…出た…と…伝えて…く…」
騎士長「れ…」
騎士長「…」ガクッ
王子「…お、おい…!」
騎士長「…」
王子「…騎士長と言ったか。本当に…ご苦労だった…な…」
王子「だが…俺が延命しても…、どうせ檻を破る力はなく…ココから出れぬ…」
王子「せ、せめて…俺の命と代えても…!」
王子「ヒールッ…!!」パァァッ…
騎士長「…」
騎士長「…」ピクッ
王子「…あとは、全てを頼んだ…」
王子「勝手に…希望にさせてもらうぞ…ははっ…」
王子「それと…これ…を…」ポイッ
…チャリンチャリンッ…!
王子「…」
…ドシャアッ
王子「…」
騎士長「…」
王子「…」
…ガチャッ!!…ギィィ…
「本当にここに…?」
「うん…さっきのお兄ちゃんが…」
カツ…カツ…ピタッ
「…誰か倒れてる!」
「あっ…!!」
…………
………
……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
騎士長「…」
騎士長「…ん」モゾッ
騎士長「…む、こ、ここは…」ハッ
アサシン「…気が付いたか」
騎士長「アサシン!?」ガバッ
アサシン「おっと動くな。隣を見てみなよ」
騎士長「隣?」チラッ
騎士長「黒髪幼女…。ここは一体…?」
アサシン「アルフの寝室さ。あんたが担ぎ込まれてきたとき…びっくりしたよ」
アサシン「あんたの傍から離れないで看病するって、そのまま黒髪幼女は寝ちゃったみたいだけどね」
アサシン「数日寝てると思ったけど、運ばれてすぐに目を覚ますとは、凄い気力だ」ハハハ
騎士長「俺が運ばれた…?誰に?」
アサシン「捕まってた奴隷たちさ。裸で来るんだもの…アルフのやつ、目回してたよ」ハッハッハ
騎士長「あいつらが…」
アサシン「彼女らの中にたまたま近くにアルフの小屋を見かけた人がいて、ココへ助けを求めたらしい」
騎士長「…彼女たちは?」
アサシン「一応、途中までだけど…帰り道は私が着いてった。アラクネが出たら困るからね」
騎士長「そっか…。よかった」
アサシン「私だって良かった。あんた…本当に血だらけで…死んでるのかと…」グスッ
騎士長「…」
アサシン「と、とりあえず良かった。ナイフとかはどうしたんだ?持ってきたんだろう?」
騎士長「あっー!!」
アサシン「だから静かにしろって!」
騎士長「あ、あぁすまん…」ボソボソ
騎士長「…ナイフは忘れた」
アサシン「何だって?じゃあ何で傷だらけになってまで…奴隷の解放を?」
騎士長「…少し、話がある」
……
…
アサシン「…!」
騎士長「信じられないと思うが、その檻の中の王子という話…」
騎士長「これで全てのつじつまが合うんだ。夢物語だが…、信じるしかない」
アサシン「…」
騎士長「そういえば、王子はどうしたんだ?俺は助かったが…」
アサシン「まさか、王子だったなんてね…」タハハ
騎士長「ん?」
アサシン「死んでたってよ…檻の中の人は。あんたを助けた彼女たちの話だ」
アサシン「あんたにヒールがかかってたらしい。命を懸けて助けてくれたんじゃないのか」
騎士長「…っ」
アサシン「それにしても、まさか…黒髪幼女の親父さんが亡くなったなんて…」
騎士長「皮肉にも、これで俺の依頼は一応…」
アサシン「果たした…か。だけどね…」
騎士長「分かってる」
アサシン「…」
騎士長「…」
ズズッ…カツーン…チャリンチャリンッ
騎士長「…ん?」
アサシン「なんだ?」
騎士長「なんか俺のポケットから落ちたぞ…」
…キラッ
騎士長「え、何だこれ…ブローチ?」チャリッ
アサシン「…ん~?」
騎士長「俺、こんなの知らないぞ」
騎士長「うん?ほれ」ポイッ
…パシッ!
アサシン「…」
アサシン「…」
アサシン「…」
アサシン「…あっ!!!」
アサシン「…どこでこれを!!」
騎士長「だから分からないって!」
アサシン「逃げた奴隷の中に…まさか…?」
騎士長「本当にどうしたんだよ」
アサシン「…私の話、覚えてるか?今までの成り行きとか全部」
騎士長「あ、あぁ覚えてるぞ」
アサシン「…あっ、あぁぁ!!」
騎士長「ん?今度はどうした!」
アサシン「あぁぁ…そ…そういう…こと…」
アサシン「だったのか…」フラッ
…ガバッ!!
アサシン「…」
騎士長「一体どうしたんだ。話が見えてこないぞ!」
騎士長「そのブローチは何なんだ?聞かせてくれ!」
アサシン「…ここじゃ話にくくなった。こっちにきてくれ…」
騎士長「…?」
アサシン「…」
騎士長「…」
アサシン「…」
トコトコ…ピタッ…
アサシン「…」
騎士長「ここでいいんだな。一体何だ?」
アサシン「…はぁ」
騎士長「…」
アサシン「…このブローチはな、元々私のものなんだよ」
騎士長「ん?じゃあ、俺のポケットに間違って入れてたのか?」
アサシン「…違う、そういうことじゃない」
騎士長「ん~?」
アサシン「これはね…、私がかつて愛した男…」
アサシン「前に話をした、私の子と共に別れた夫に渡したものなんだ」
アサシン「…」
騎士長「ま、待てよ。それじゃ…逃げた奴隷の中に男が混じってたってか?」
アサシン「…違う」
騎士長「…?」
アサシン「よく考えてくれ!!」
騎士長「…」
騎士長「…!!」ハッ
騎士長「ま、まさか…」
アサシン「母親の知らぬ子…。そしてこのブローチ…」
騎士長「…じょ、冗談だろ?」
アサシン「…」
騎士長「…王子の愛した女はお前だって…ことか…」
アサシン「…」コクン
騎士長「…じゃ…じゃあ…」
アサシン「…っ」
騎士長「お前は…黒髪幼女の…!!」
騎士長「…~~っ!!!」
アサシン「ど、どうしよう…。どうしたらいいんだ…」ブルブル
騎士長「お、俺だってわからねえよ!」
アサシン「…打ち明けるべきなの…だろうか…」
騎士長「ま、待て待て落ち着け。その前に…」
アサシン「…」
騎士長「お前の…愛した男は…。王子は…」
アサシン「…死んだ…ね…」
騎士長「…くっ、くそぉぉぉ!!」ゴンゴン!!
アサシン「な、何してるんだ!」
騎士長「こ…こんな事なら…こんな事なら…!」
騎士長「”俺が死ぬべき”だった!!!」
アサシン「!!」
騎士長「俺を助けなければ、黒髪幼女は…幸せを取り戻せたのかもしれないのに!!」
アサシン「ばっ…」ブルッ
騎士長「…?」
アサシン「バカなこと言うなぁぁっっ!!」ブンッ
…パァンッ!!
アサシン「に、二度とそんな事いうな!死んでいいなんて…二度と…!」
騎士長「だが俺は…!」
アサシン「過去は過去…そんな事を言うヤツは…嫌いだ!」
騎士長「…っ」
アサシン「黒髪幼女や、私の為に?二度と…そういう事も言うな…!」
騎士長「…」
アサシン「はぁっ、はぁっ…!」
アサシン「…触るな」パシッ
騎士長「…」
アサシン「今は一人にしてくれ。色々考えたいんだ」
騎士長「…分かった」
アサシン「…」クルッ
タッタッタッタッタッ…バタンッ…
騎士長「…」
騎士長「…俺の逃げ場は、どこかにないものか」
騎士長「一体俺は…何の為に…」クルッ
トコトコトコ…
騎士長「一人で始めた事。責任は俺。良かれとして思った事も無駄」
騎士長「…中途半端な正義のようなものだから、なのか」
騎士長「…一体俺は、何を言ってるんだろうな。偽善かな…」ハハハ
騎士長「…ん?」
騎士長「何か…音がしたような…。気のせいかね…」
トコ…トコ…トコ…
騎士長「なんか、疲れた…」
…………
………