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・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
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――――【 夜・アルフの寝室 】
ホウ…ホウ…
黒髪幼女「…」スヤスヤ
騎士長(本当に子どもってのはよく寝るな)
騎士長(お前の親父はもう…いないんだと。どうして言えようか…)
騎士長(また、その寝顔を奪う事になるんだろう?俺のせいさ…)
…ゴトンッ!!
騎士長「ん…アルフが置いてってくれたのか?…酒か」
騎士長「夜風と酒。久々に…全てを忘れるくらい飲もう」
ガチャッ…バタンッ…
――――【 テラス 】
サァァァ…
騎士長「…」グビッ
騎士長「月が綺麗だ」
…グビッ
騎士長「海が近いからか…潮風と…遠くに見える砂漠の砂煙…」
騎士長「大きな月が浮かびつつも、横を見れば森がある…」
騎士長「随分と遠くまで来てしまったなぁ、俺も」グビッ
騎士長「…すまない。ごめん」
騎士長「何て言えば許してくれる?俺はこれからどうしたらいい?」
騎士長「偶然が偶然を生む、運命か」
…グビッ
騎士長「だとしたら、これも運命か」
騎士長「重過ぎるよ…神様…」
騎士長「ん…」ヒック
アサシン「…何、一人でぶつぶつ言ってるんだ」
騎士長「…アサシン」
アサシン「…」
騎士長「あ、あの…」
アサシン「いや、何も言わなくていい。それより…一緒に飲ませてくれないか」
騎士長「…グラスを持ってくるよ」
アサシン「持ってきてるよ」スッ
騎士長「準備がいいようで…注ぐよ」
…トクトクトク
騎士長「…」
アサシン「…ふぅ、美味しいね」
騎士長「…」
騎士長「アサシン…あのよ…昼間はゴメンな」
アサシン「私も、昼間はすまなかった。殴ったり…触るなとか…」
騎士長「いいさ。俺も悪かった」
アサシン「肩、貸してくれ。砂漠と違って…よく冷えるねここらの夜は」トン
騎士長「そうだな…」
アサシン「…」
騎士長「…」
アサシン「あんたは…これからどうするつもりだ?」
騎士長「親父探しの旅は終わった。…今はそれしか思い浮かばない」
アサシン「王子の事、親父の事は…言うつもりか?」
騎士長「決めてないな…」
アサシン「そうか。私も…母親と言おうか迷ってるんだ」
騎士長「…」
アサシン「一人の時間、ありがとう。おかげで落ち着けたよ」
騎士長「…追いかけても、言葉が見つからなかったからだ」
…カランッ…グビッ…
騎士長「別に…。俺は、いつも思った通りに走ってきて、今もこうしてしゃべってるだけだ」
アサシン「…それでいいと思うよ」
騎士長「…」
騎士長「…アサシン」
アサシン「何だ?」
騎士長「改めて謝りたい。お前の…愛した男を…」
アサシン「…」スッ
騎士長「…むぐっ…」
アサシン「…それ以上は、言わなくてもいい」
騎士長「…」
騎士長「…」
アサシン「後ろを振り向いていても仕方がないのは、あんただって分かってるはずだよ」
騎士長「アサシン…」
アサシン「…ひどい女だよね」
騎士長「…」
アサシン「傷ついた私を助けてくれて、ずっと黒髪幼女を育ててくれて…」
アサシン「アイツもさ…こんなくだらないブローチをずっと持ってて…!」
アサシン「久々に話を聞いたら、傍にいたのにもう死んじゃってて…」
騎士長「…うん」
アサシン「それなのに、私は過去を振り返らないとか言ってさ」
アサシン「あの王子も…嫌な女に引っかかっちゃったねぇ!」アハハ
アサシン「あはは…は…」
騎士長「…」
アサシン「…う、うぅ…」グスッ
騎士長「…」
アサシン「うぅぅ…う~…!」ポロポロ
騎士長「…」ギュッ
アサシン「うぅぅ…うあぁ…」グスグス
騎士長「…」
騎士長「…」
アサシン「うぅ…騎士長…っ」
騎士長「いいさ。泣けばいい」
アサシン「ありがとう…」
騎士長「今宵は…飲もう。いつまでも付き合うからな」
アサシン「うん…」
………
……
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・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
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・・・・
・・・
・・
・
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――――【 次の日・居間 】
騎士長「…」パクパク
黒髪幼女「…」モグモグ
アルフ「…」グビッ
アサシン「…」ゴクンッ
4人「…ご馳走様でしたっ」パンッ
黒髪幼女「私も手伝うっ」
アルフ「お?そうか、じゃあお皿持ってきてくれるかな~」
黒髪幼女「うん♪」
トテテテ…
騎士長「アサシン、ちょっと」
アサシン「うん」
騎士長「…一晩寝て、じっくり考えたんだ」
騎士長「俺は決めた。黒髪幼女に伝える」
アサシン「…いいのか」
騎士長「ずっと行方不明にする手も考えた。だが、真実を教えたほうがいいと思ったんだ」
アサシン「…」
騎士長「今日、改めてナイフの回収と遺体を見せたい」
騎士長「お前は…どうする」
アサシン「…」
騎士長「だけど、俺は俺の道を行く。そう言ったはず…、俺は黙っていることなんて出来ない」
アサシン「じゃあひとつ聞くよ。あの子はどうするつもりだ?」
騎士長「え?」
アサシン「もう親父がいない世界で、頼れるのは誰だ?」
騎士長「…」
アサシン「あんただ。短い間かもしれないけど、誰よりも今は、騎士長を信頼している」
騎士長「…」
騎士長「だ、だけど…黙っていてもその間の面倒は俺が見るだろう」
アサシン「そういうことじゃない。親父がいなくなったという世界を知って、その面倒も見切れるかということだ」
騎士長「…あ」
アサシン「確かに、生活という面倒は見れるだろう。幸い、金にも不自由しない男だ」
アサシン「もし伝えたら、それは”人生の面倒”も見る事になるんだよ?」
アサシン「あの子の依頼の”殺して”は、本当の思いじゃないこと…騎士長も分かってるだろう」
騎士長「…じゃあ逆に聞きたい。お前は、母親としてどうするつもりだ」
アサシン「…わ、私か」
騎士長「…」
アサシン「え、偉そうなこと言ったけど…ゴメン。それは分からないよ…」
騎士長「なぁ…アサシン。親を一生見れないまま過ごしてきた俺にとってさ…」
騎士長「親の最後を見届けさせてやりたいと思う。必ず、大人になって”最後に見れて良かった”と思うんだ」
アサシン「…」
騎士長「親のいない俺にとって、そう思うだけだから…どうにもこうにもだがな」
アサシン「…あの、さ」
騎士長「ん?」
アサシン「もし…私が、あの子の母親だって言って…」
アサシン「受け入れられると思うか…?」
騎士長「受け入れられるか…か」
アサシン「父親が死に、目の前に急に現れた母親。壊れてしまいそうで…怖い」
騎士長「…」
アサシン「私だって本当は言いたい。だけど、だけど…!」
騎士長「…」
アサシン「まだ決心はつかないんだよ…」
騎士長「お前は…自分の決心がつくまで、言わないほうがいいと思うよ」
アサシン「…かもね」
騎士長「黒髪幼女が壊れることも…、お前が壊れてしまうことも…」
騎士長「今の俺にとって、どっちも”大事な人”なんだ」
アサシン「騎士長…」
騎士長「とにかく、俺は親父と伝える。だが、今は王子だったとは伝える気はない」
アサシン「王子とは伝えないのか?」
騎士長「王家の人間だというのは、さすがに重いと思うんだ」
アサシン「…」
騎士長「それは刻が来たら、伝えるべきだと思う」
アサシン「そうだね…」
黒髪幼女「騎士長、皿洗い終わったよ!」
アルフ「3枚ほど割られたけどね…」トホホ
騎士長「はっはっは、サービスみたいなもんだ。こんな可愛い子と皿洗いできる、それだけで金払いモンだろ!」
アルフ「ははは!そうかもな!」
騎士長「さて…、冗談はさておき。全員がそろったところで、話がある」
――――【 屋 敷 】
ゴォォォ…サァァ…
アサシン「…本当にでかい屋敷だね。廃墟とは思えないよ」
騎士長「昨日までアジトだったわけだしな、廃墟とはいえないな」
黒髪幼女「大きい~!私も来てよかったの?」
騎士長「もう敵はいないし、ちょっと付いてきてほしくてな」
黒髪幼女「ん~?わかった」
アサシン「…」
騎士長「すまないが探索は一人で頼むよ。俺らはすることがあるんだ」
アルフ「わかった。面白いものもありそうだし、調べてみる」
騎士長「ナイフがあったり、探索が終わったら、地下へ頼む」
アルフ「了解した」
騎士長「…アサシン、黒髪幼女。こっちだ」クイッ
アサシン「う、うん」
黒髪幼女「?」
――――【 地下室 】
騎士長「二人とも、マスクだ」スッ
黒髪幼女「ありがとう」
アサシン「ひどい臭いだ…。薄暗くて…湿っぽい…」ゴホゴホッ
騎士長「ここの牢に、何人もの奴隷がつめられてた」
騎士長「…助け出せて、本当に良かったと思う」
アサシン「その人たちに代わって、私がお礼を言うよ。ありがとう」
騎士長「いいさ」
アサシン「…」
騎士長「…」
黒髪幼女「…」
トコトコトコ…ピタッ
騎士長「ここだ」
黒髪幼女「わっ、また扉」
アサシン「ここに…いるのか…」
黒髪幼女「…??」
ガチャッ…ギィィィィ…
騎士長「この奥の牢にいる」
アサシン「…」
黒髪幼女「何がいるの?」
騎士長「…ここだ」
アサシン「…っ」
黒髪幼女「ここに何かあるの?」
黒髪幼女「あっ…誰か倒れてるよ!?」ダッ
騎士長「…」
アサシン「…」
黒髪幼女「…助けてあげようよ!騎士長!」
騎士長「黒髪幼女…」
黒髪幼女「この牢、開かないの?騎士長、助けてあげてよ!」
騎士長「…っ」
アサシン「信じたくなかった。で、でも…紛れもない…よ。分かるんだ…暗くても…」ブルッ
騎士長「アサシン…」
黒髪幼女「騎士長、どうしたの?…騎士長!助けないと!」
騎士長「すまん…すまん…。黒髪幼女…」ドクン
黒髪幼女「騎士長?どうして謝るの?」
騎士長「…っ」
ドクン…ドクン…ドクン…
騎士長「いや、ダメだ。この依頼は俺が受けたから…俺が言う」ドクンドクン
アサシン「…」
黒髪幼女「…?」
騎士長「…っ」
ドクンドクンドクンドクンドクン…ッ!!
騎士長「そ、そこにいるのはな…」
ドクッドクッドクッドクッドクッ…!
騎士長「黒髪幼女。お、お前の…」
黒髪幼女「うん」
ドクンッ…
騎士長「お父さんだ…っ」
騎士長「もう…生きては…いない…!!」
騎士長「す…すまない…っ!!」
騎士長「本当にすまない…すまない…!」ガクッ
騎士長「お前のお父さんは、俺の代わりに、俺を助けて…死んだんだ…!」
騎士長「俺を殴ってもいい。殺してもいい!!」
アサシン(騎士長の心が…零れた…!)
騎士長「確かにお前の依頼は、親父を殺してほしい事だった。だけど、それは…」
騎士長「分かってる!!分かってたんだ!!くそぉぉぉ…!!」グスッ
騎士長「何が大人の責任だ、偉いことを言っても…これだ!」
騎士長「こうやって大声で、涙を流して、自分に言い訳をしている!!」
騎士長「ごめん、何度謝れば許して貰えるか、心の奥底できっと考えてるんだ!」
騎士長「こんな状況でも、俺は俺のことしかー…!!」ポロポロ
黒髪幼女「…」
トコ…
トコトコ…トコトコ…ギュウッ
騎士長「…っ」
黒髪幼女「騎士長…泣かないでよ…」
騎士長「えっ…?」
騎士長「く…黒髪幼女…?」
黒髪幼女「どこかで…私、こんな気がしてた…。それだけだけ…」
騎士長「…~~!!」
黒髪幼女「今はね…騎士長がね…。泣く事はないんだよ…」ヒクッ
黒髪幼女「ごめんなさい…私のせいで…。私が悪いんだよぉ…」グスッ
騎士長「違う…!お前は悪くない…!」
黒髪幼女「うぅぅ…っ。大丈夫だから私は…だからぁ…」ポロポロ
ギュウウウッ…
黒髪幼女「ひくっ…うっ…」
騎士長「うぅぅ~…!」
アサシン「…っ」ポロポロ
…………
………
……
黒髪幼女「…でね、また騎士長に助けてもらったの」
黒髪幼女「怖かったけど、騎士長を見たら安心しちゃった。洋服も買ってもらったんだ!」
黒髪幼女「でね、それでね…お父さん、私ね…」
王子「…」
騎士長「…」
アサシン「…」
騎士長「俺が…思っていたより、ずっとずっと黒髪幼女は大人だったってことなのかな…」
アサシン「それは違うと思うよ」
騎士長「え?」
アサシン「子供の成長ってのは…驚くほど早いんだって。そうなんじゃないかな」
騎士長「…」
アサシン「もう、幼くなんかない。立派な少女だよ」
騎士長「…」
騎士長「黒髪少女、か」
アサシン「こうして大人になっていくんだ…。実感はないけど、親として…喜ぶべきなんだろうね」
騎士長「そうだな…」
黒髪幼女「…騎士長」
騎士長「…終わったか?」
黒髪幼女「うん。ありがとう…教えてくれて。言いたい事、全部伝えたよ」
騎士長「あぁ…」
黒髪幼女「でも…、私、これからどうしたらいいのかな」
騎士長「…」
黒髪幼女「お父さんはいなくなって、お母さんもいなくて…。一人で生きていけるのかな」
騎士長「…」
アサシン「…っ」
騎士長「…全てが終わったら、お前に話がある」
黒髪幼女「え?」
騎士長「それまでは待ってくれ。まだ、全てが終わったわけじゃないんだ」
黒髪幼女「…うん」
カツンカツンカツン…ガチャッ!!
アルフ「おーい!あ、いたいた」
騎士長「アルフ…」
アルフ「まぁナイフだけでも無事に取り戻せてよかったよ」
騎士長「それで、飛行機は動くんだな?」
アルフ「問題ない。時間だけ貰えれば、夕方には動くぞ!」
騎士長「よし…」
アサシン「…」
騎士長「…王都の中枢を潰さねば、黒髪幼女…いや」
騎士長「”黒髪少女”と砂漠の民に、明日はない…決めた。俺は王都を潰す…」
騎士長「それが俺に課せられた使命なんだと、そう思う!」
騎士長「ん…あぁそうさ。もう、お前は幼くはない。大人への一歩を踏んだと思う」
黒髪少女「…!」
騎士長「これからは”黒髪少女”だ。勝手につけたが…どうだろうか」ハハ
タタタッ…ダキッ!!
騎士長「うおっ」
黒髪少女「ありがとうっ、騎士長っ…」
騎士長「ははっ…気に入ってくれたなら嬉しいよ」ナデナデ
黒髪少女「…うんっ」
アサシン「最終決戦に向けてはいいんだが…」
アサシン「私たちがココを離れるとすると、遺体は…どうするんだ…?」
騎士長「あぁ、それに関してなんだが…」
ボォォォッ…ボォンッ!!パチパチ…
バキバキッ、モクモク…ゴォォォ…!!!
騎士長「この屋敷には、呪いがある」
騎士長「全てを無に返して、空高く供養してやりたいと思っていた」
アサシン「それがいいね…賛成だよ。束縛された魂も、炎と一緒に消えると思う」
アルフ「…」
黒髪少女「…」
黒髪少女「お父さん…。また、会おうね…」
アルフ「俺には分からないが、ただ黙祷を捧げるよ」スッ
アサシン(…あの世で会えたら、また抱きしめてやるよ)フフ
ボォォォ…ゴゴゴ…
バキバキッ…ゴォォ
ボォォ……
……
…
――――【 アルフのカラクリ倉庫 】
ガラガラッ!!
アルフ「さて、ナイフは本当にご苦労だった。あとは俺の仕事だ!」
騎士長「任せるぞ」
アルフ「恩としてしっかり返すさ、待っててくれよ」カチャカチャ
騎士長「わかった。じゃあ俺たちはどうするかなぁ」
アサシン「なぁアルフ、この近くなら…敵も出ないのか?」
アルフ「そこまでは出ないはずだ」
アサシン「じゃあキッチンを借りる。あと、丘とかないかな?」
アルフ「丘?」
アルフ「それなら旧街道の曲がり道があったと思うが、そっち側にいけばある」
アルフ「度々行くが、綺麗な場所だぞ」
アサシン「ありがとう」クルッ
騎士長「何するつもりだ?」
アサシン「まぁまぁ。あんたも手伝って…黒髪少女もちょっと来て!」
黒髪少女「どうしたの?」
アサシン「まぁいいから!」グイッ
黒髪少女「わわっ」
騎士長「うおっ!」
――――【 キッチン 】
アサシン「~♪」
黒髪少女「何するの?」
アサシン「ふんふん♪黒髪少女にプレゼントー!」スッ
黒髪少女「なぁにこれ?」
アサシン「私が作ったエプロンだよ。私とおそろいなんだ、ほらっ!」
黒髪少女「!」
アサシン「き、気に入るといいんだけど…」
アサシン「…良かった」ニコッ
騎士長「で、本当になにするんだ?」
アサシン「保存食とか、余ってたのあるし。時間もあるだろう?」
騎士長「まぁ」
アサシン「お弁当作って、ちょっとした休息しに丘に行こうよっ」
騎士長「…」
アサシン「…だめか?」
騎士長「楽しそうじゃねえか!俺も混ぜろよ!」
アサシン「あ、当たり前だろう!」
黒髪少女「お姉ちゃん、お料理できるの!?」
アサシン「なんだいその意外そうな顔は」
黒髪少女「そ、それはその~…」
アサシン「…私の華麗な腕裁きをよーく見るんだね。黒髪少女に、料理を教えてあげるよ」
黒髪少女「!」
アサシン「ほら騎士長、男はさっさと食材運ぶ!洗う!」バンッ
騎士長「ひ、人使いが荒いぞこの!」
アサシン「はっはっは、ほらほら!」
騎士長「ひ~っ!」
タッタッタッタッ…ドタドタ…
黒髪少女「う、うん」ゴシゴシ
アサシン「ふふっ」
黒髪少女「お姉ちゃん…私に料理、少しでいいから教えてほしい」
アサシン「だから教えるって。改まってどうしたんだ?」
黒髪少女「いっつも騎士長に守られて、お世話になってるのに…」
黒髪少女「何もお返しできてないから。せめて、少しでもお返ししたい」
黒髪少女「勿論、お姉ちゃんにもっ!」
アサシン「~っ…」ブルッ
アサシン「いい子だなぁぁ黒髪少女ぉぉ~!」ダキッ
黒髪少女「わわっ」テレッ
騎士長「ほら食材だ!!」
アサシン「うるさいな…今、黒髪少女との愛をはぐくんでいたんだから!」
騎士長「ぐ…この…」ブルブル
アサシン「何か文句があるのかな?」キラッ
騎士長「ほ、包丁はずりぃぞ!くっそ~、覚えてろ!」ダッ
タッタッタッタッタ…
アサシン「あっはっはっは!」
黒髪少女「…」クスッ
アサシン「…!」
黒髪少女「…あっ」
黒髪少女「う…うん…」
アサシン「可愛いよ。あんたの笑顔」ポンッ
黒髪少女「…」
アサシン「今度は、そんな小さな笑みだけじゃなくて…もっと全力で笑ってみなよ」
黒髪少女「…」
アサシン「でも私にじゃない。誰よりも、あんたの笑顔を待ってるのは…騎士長だからね!」
黒髪少女「…うんっ」
黒髪少女「が…がんばるっ」
アサシン「まーずは簡単な、お弁当の定番の卵焼きから…」
………
……
…
――――【 付近の丘 】
ザッザッザッザ…ガサガサッ
ガサ…ガサガサ…バッ!!
アサシン「ふぅ、やっと街道を抜けたね。この辺が丘になってるはずだけど…」
騎士長「お…おぉ…!」
アサシン「ん?何か見えたか?」ヒョイッ
騎士長「…前、見ろよ!」
アサシン「お~!」
黒髪少女「わぁ…!」
サァァ……!!
黒髪少女「すごい…綺麗…!」
アサシン「何て素晴らしいんだ…」
騎士長「なぁ…黒髪少女、覚えてるか?」
黒髪少女「何を?」
騎士長「俺が前に言った、世界は広いんだってこと。見ろ…これでも世界の1%にもならないんだぞ…」
黒髪少女「…っ!」
騎士長「すげえだろ…ワクワクするだろ!?」
黒髪少女「うん!」
アサシン「お弁当を作ってきたので、ここで食べましょう~」
騎士長「おっ、そうだ。アサシンと黒髪少女が作ったんだっけ?」
アサシン「今開けてあげるよ」ゴソゴソ
…パカッ
騎士長「!」
黒髪少女「…」ドキドキ
騎士長「お~美味そうだ!」
アサシン「これは2段重ねになってて、1段目は、おにぎりだけど…」
騎士長「2段目に、おかずか」
アサシン「そういうこと。ほらっ!」パカッ
騎士長「うお~!こっちも美味そうだ!」
アサシン「それでね…ほら、黒髪少女」ポンッ
黒髪少女「う、うん」
騎士長「どしたの?」
黒髪少女「こ、これね、私が作った卵焼き。騎士長に…」
騎士長「俺にか!?」
黒髪少女「う…うんっ。初めてだから分かんなかったけど、お姉ちゃんが教えてくれたの」
騎士長「…」チラッ
アサシン「大丈夫だよ!私が見てたから味も保障する」ボソボソ
騎士長「そうか」ボソボソ
騎士長「さ、んじゃ…黒髪少女。食べさせてくれ」アーン
黒髪少女「!?」
騎士長「…」アーン
黒髪少女「え、えっと…」オロオロ
騎士長「…」アーン
黒髪少女「え、えいっ!」グイッ
騎士長「もがっ!」
アサシン「…」プッ
騎士長「…」モグモグ
…ジャリッ
騎士長「!?」
黒髪少女「…」ドキドキ
騎士長(し、塩の塊が…!アサシン…だ、騙したな…!!)ギロッ
アサシン「…ぷ…くく…」ブルブル
黒髪少女「騎士長?」
黒髪少女「よかったぁ」ホッ
騎士長「それと、す…少し喉が乾いたな。歩いてきたからかなー?お、お茶もくれるかな」
黒髪少女「あ、うんっ」
クルクルクル…キュポンッ、トクトクトク…
騎士長「…」ヒョイッ、グビグビ
騎士長「ぷはぁっ…!」
騎士長「うん、黒髪少女…おいしいぞ、もう1個もらおうかなー…って」ハッ
黒髪少女「そうだ…私も自分で作ったの食べてみようかな」ヒョイッ
騎士長「!」
アサシン「!」
騎士長「ストップゥゥ!!」ビシッ!!
黒髪少女「?」ピタッ
騎士長「アサシンがすっごい食べたいって顔で見てるぞ!食べさせてあげようぜ!」
騎士長「もう1個は俺が食べたいな~?なぁ~?」
黒髪少女「そうなんだっ!じゃあ…はいっ!」スッ
アサシン「え゛っ」
騎士長「よかったなぁ、アサシン」ニコッ
アサシン(き~し~ちょ~う~!!)
――――【 しばらくして 】
プハァッ!!カチャカチャ…
騎士長「あ~…満腹…」ゴロン
アサシン「お粗末さまでした」
黒髪少女「うん…おなかいっぱい…」ゴロンッ
騎士長「いい天気だな~…」
チチチ…サァァ…
黒髪少女「…うん」
騎士長「でもよ~、美味しいモン食って…いい天気で…、草のいい匂いで…」
騎士長「横になるなってほうがおかしいだろう~」
アサシン「子供かアンタは!」
騎士長「もー今は子供でもいい~」
ゴロゴロゴロ…
アサシン「あ、そっちは黒髪少女が…」
…ゴチンッ!!
騎士長「あいたぁあ~!」
黒髪少女「~~~っ!」
騎士長「すまん…、だ、大丈夫か!」
黒髪少女「…」
騎士長「お、怒った?顔あげてくれないかな~…」
黒髪少女「…」プイッ
騎士長「泣いてる?怒ってる?黒髪少女さ~ん…」
アサシン「あ~あ、しーらない」
騎士長「ぐぬ…、黒髪少女さーん!本当にすいませんでしたぁ!」バッ
騎士長「…?」
…ソッ
黒髪少女「騎士長…」
騎士長「…?」
騎士長「…」
騎士長「…!!」
黒髪少女「でも、いつも助けてくれて…ありがとうっ…」ニコッ
騎士長「…お、おぉ…」
アサシン「…ふふっ」
騎士長「黒髪少女…お前…」
黒髪少女「…えへへ」
騎士長「…」
騎士長「よ…良かった…」
黒髪少女「…」
騎士長「お前の…笑顔…。本当に可愛いよ…黒髪少女…っ」グイッ
ギュッ…ギュウウッ…
黒髪少女「騎士長、痛いよ…でも、あったかい…」
騎士長「…っ」
アサシン「良かったね、騎士長」
騎士長「あぁ…良かったよ…!本当に…!」
………
……
――――【 夕方・アルフの倉庫 】
グイッ…ブルンッ!!ブルンブルンッ!!!
…ガオォオォオオ!!!ビュウウウウウゥゥッ!!!
騎士長「うるせええ!」
黒髪少女「うっぷ…凄い風…!」
アサシン「完成したんだね!?」
アルフ「あぁ、完成した!お前たちのおかげだ…ありがとう!」
アルフ「動力部分のカラクリの生み出すエネルギーは計り知れず、空へと浮遊する際に…」
アルフ「そのパワーは、魔石に組み込まれたユニット部分が導線部分で接触し…」
騎士長「わけわかんねぇけど!!これで王都までいけるんだな!」
アルフ「そ…その通りだ」
騎士長「…山を越え、海を越え、砂漠を駆け抜けて森へ迷い込み…」
騎士長「俺と黒髪少女の旅はついに…空まで来たかぁ!!」ハッハッハ
アルフ「どうするんだ?もう発進は出来るが」
騎士長「明日の早朝に出発したい。出来れば日の出前に」
アルフ「いいが…、今じゃなくてもいいのか」
アルフ「なるほどな」
アサシン「じゃあ今日は、アルフの家でまた一泊か?」
騎士長「最後の晩餐にならなきゃいいんだが…、お世話になるぜ、アルフ」
アルフ「構わん。俺も…お前らといれて楽しかった」
騎士長「ははっ、そう言ってもらえるとありがたいよ」
アサシン「じゃあ今日は、出発前のお祭りといこうか!?」
騎士長「いいね!」
黒髪少女「お祭り!?」ウキッ
アルフ「楽しそうだ」フッ
アルフ「じゃあ俺は森の幸を使った、美味しい物を用意しよう!」
黒髪少女「私も手伝う~!」
騎士長「俺は待ってる!酒飲みながら!!」ワーイ
ゴツッ…ドサッ!!
――――【 夜 】
騎士長「それじゃあ…明日の無事を祈って…」ズキズキ
アサシン「かんぱーい!」
アルフ「かんぱーい!」
黒髪少女「かんぱあーい!!」
騎士長「乾杯!!」
…カァンッ!
アルフ「俺の特製サラダだ。美味いぞ、香料が決め手だ」
黒髪少女「美味しいよ、アルフのおじちゃん」モグモグ
アルフ「可愛いなぁぁ黒髪少女は!」
騎士長「はは…」
アサシン「騎士長、私のも食べてよ!」
騎士長「わかったわかった!」
アルフ「こっちの飲み物は?」グビグビ
アルフ「…うめぇ!」プハッ
アサシン「それはシャイさ。それに酒を加えてみたんだ」
アサシン「そういうことじゃないっての。シャイっていうのは紅茶のことだよ」
騎士長「ああ!じゃあ、紅茶酒って感じか」
アサシン「そうそう。美味しいよ」グビッ
騎士長「それ俺も飲む!」
アサシン「ふふ…はいはい。慌てないの、私のあげるから」スッ
騎士長「んむ…」グビグビ
黒髪少女「アルフのおじちゃん、この甘いジュースはなに?」グビグビ
アルフ「森で採れる、妖精の蜜を煮込んで作ったジュースだよ」
黒髪少女「美味しいっ」プハッ
アルフ「妖精の蜜は中々見つからないんだがね、今日は特別サービスさ」ハハ
アルフ「可愛いなぁぁ!」
…モグモグ
騎士長「これ本当に干し肉か?すっげー美味いんだけど」
アサシン「肉々しい感じだろ?秘伝のレシピさ」
騎士長「すっげー表現だな、肉々しいって」
アサシン「美味いんだからいいだろ!」
騎士長「まぁそうだけど。ほら、コップ出せ…俺の酒、注いでやる」スッ
アサシン「ありがとっ」
トクトクトク…
アサシン「うん、美味しい…」グビグビ
アサシン「…ふふっ」
騎士長「どうした?」
アサシン「見てみなよ、黒髪少女。きっと、本心から楽しんでる」
黒髪少女「おじちゃん、騎士長にもあげようよ」
アルフ「参ったなぁ、あとは俺の分だったんだけど…。待ってろ!」
ワイワイ…カチャカチャ…モグモグ…
騎士長「…うん、楽しそうだ」
アサシン「私の娘…か」
アサシン「ふふ…。その時が来たら、必ず打ち明けるよ…」
騎士長「んっ。当然だ」
アサシン「…今は、この幸せの時間に浸っていたい。我侭だね」
騎士長「人間、そのくらいの我侭でいいと思うけどな」グビグビ
騎士長「俺なんて、どんなにカッコイイ事言っても…所詮は欲望に勝てない」
騎士長「流されるし、中途半端だし、弱い。だけど…」
アサシン「…」
騎士長「どんな中途半端でも、偽善だといわれても…」
騎士長「人を助けたいとか、守りたいって気持ちがあるほうが重要だと思ってる」
騎士長「って、俺の話になってるな。わるいわるい」
アサシン「だけど、そんなおアンタに救われてる人間がいるんだから…自信もちなよ」ドンッ
騎士長「…ありがとよ」ハハ
…タタタタッ
黒髪少女「騎士長、妖精蜜のジュースだよ」
騎士長「おぉ!ありがとう、美味しく頂くよ」
黒髪少女「♪」
アサシン「幸せかぁ…」
………
……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夜明け前 】
ガルン…ガルン…グオォォォン!!!!
アルフ「よし、これで準備は終わった」
騎士長「これで飛べるのか?」
アルフ「いつでも大丈夫だ。先頭には俺が乗って、操縦全般は任せてもらう」
騎士長「当たり前だ。俺らじゃ無理だろう」
アルフ「前に2人、後ろに2人。順番は任せる」
アルフ「人の設計を信じろよ」
騎士長「未だに空を飛べるなんて深くは信じられないがな…」
アルフ「まぁいいさ。飛んでから驚けばいい、黒髪少女は俺の後ろに座ってくれ」
黒髪少女「うんっ!」
アルフ「可愛いなぁぁ!」
騎士長「んじゃ俺とアサシンは後ろ。俺が一番後ろでいいよ」
アサシン「わかった」
トコトコ…ストン
アルフ「信じろっつーの!」
ブルン…ブルンブルン!!!
騎士長「…」ビクビク
黒髪少女「…」ドキドキ
アサシン「…」ワクワク
アルフ「発進!!」グイッ
ガォン…ガォンガォンガォン…ガォォォオオォォン!!!!
騎士長「おっ、走り始め…って、おいっ!」
アサシン「うわっ!」
騎士長「頭さげろぉ!!」
黒髪少女「きゃああっ!」
ガオオオオォォォオオォォッ…!!!!!
ガサガサガサ!!!バキバキッ!!
騎士長「いででで!!お前、なんで森ん中突っ走ってるんだよ!!!あだだぁ!!」バサバサ!!
アルフ「このまま森を突き抜けて、向こう側の丘から飛びたつぞぉぉ!」
騎士長「聞いてねぇぞちくしょぉぉ!」
アルフ「短距離でも、もっと瞬時に空へ飛びたつカラクリがあればいいんだがな~」
バサッ…バキッ、バサバサバサッ!!
アルフ「あ、そうか。地面に瞬時にスピードを出すカラクリを入れて…カタパルトと名づけて…」ブツブツ
騎士長「うおおおい!話聞けコラァァ!本当に大丈夫なんだろうな!」
アルフ「安心しろ!もうすぐ森を抜けて、丘から飛びたつぞ!」
騎士長「ぐぐっ…!」
バサバサバサッ…!!
……パァ…ッ!!!
騎士長「おっ…!」
アルフ「抜けた!ここでカラクリパワー全開!!」グイッ!!
ブルブルブルブルッ…ガオオオオォォォッッッ!!!!
ガオォォォオオオ…バァンッ!!!
騎士長「と…飛んだ…?」
アサシン「とんだの…?」
黒髪少女「…!」
…ヒュッ、ヒュウウウウッ!!!
騎士長「飛んでねえええ!」
アサシン「おっ、落ちてるぅぅ~~っ!!」
アルフ「翼の向きを調整!パワーを微調整!レバーオン!」
騎士長「おっ…?」フワッ
アサシン「えっ、今なんか体が…浮いたような…」
黒髪少女「ち、違う…本当に浮いてる!!」
ブォォォオオオン…!!!ギュウウウゥゥン!!
アルフ「はっはああーーー!!どうだこんちくしょーー!!」
騎士長「すげえ…アルフ、空、飛んでるぞ!!!」
アサシン「し…信じられない…」
黒髪少女「凄い!!」
アルフ「はっはっはっはっ!当たり前だぁぁ!」
騎士長「やるじゃねえかアルフ、本気で見直したぞ!!」
アルフ「なんだ見直すって」
騎士長「まぁいいじゃねえか!」
アルフ「ふっ、じゃあ…目指すは雲!高度上昇だぁ!!」ググッ
…ブゥウウオオオォォォン!!!!
騎士長「うおおっ、あがってく!」
黒髪少女「雲が…近づいてくる!」
アサシン「雲をこんな目の前に…っ!」
騎士長「って、このままだと…く、雲にぶつかー…!」
騎士長「うぷっ!」
アルフ「どうだ、雲を触ったのは俺らが世界で最初だぞ!」
騎士長「真っ白で何も見えねぇよ!つーかなんか冷たい!!」ビチャビチャ
黒髪少女「フワフワしてると思ったけど、霧みたいだね…!」
アサシン「なんだこれ、水!?」
アルフ「そう、雲は水の塊みたいなもんなんだって話を聞いたことはあった!」
アルフ「こいつが重くなると、やがて雨になる。俺らがこうしたことで、研究も進むかもしれんな!」
騎士長「すげえ…すげぇよ…」
アルフ「どのルートを通る!?」
騎士長「この飛行機はいつまで飛べるんだ?」
アルフ「魔石の魔力が続く限りいくらでも飛べる!後ろの袋にたんまり積んであるから安心しろ!」
騎士長「王都に直接突っ込むのは不味い、さすがに噂になっちまう!」
アルフ「了解した!…旋回する、捕まってろ!」
ガオォォォッ!!!グウウゥゥゥン…
騎士長「ぬぐぐ…」
アサシン「きゃーっ、きゃーっ!!」
黒髪少女「お、落ちる~!」
ガオオオオォォォッ!!!!!グウウオオオオォォオオオン!!!!!
ビュウウウウゥゥ……!!!!
ウゥゥッ………!!!
………!
……
…
――――【 数時間後 】
ガオォォオン…
アルフ「王都の前の、街道が見えた!」
騎士長「な、何て早さだよ…」
アルフ「もう日明けか…、その前に着陸するぞ!」
騎士長「着陸はどうするんだ!?」
アルフ「このまま高度を下げて、街道を使って滑り止まる!」
騎士長「ば…バラバラにならないだろうな」
アルフ「大丈夫だ、俺の腕を信じろ!」
アルフ「男のくせに、ビクビクしすぎだぁ!」グイッ
騎士長「ばっ…」
グウウウオォォオオオン!!!!
騎士長「ひぃぃいいいぃぃ!!!!」
アルフ「無事を祈れよ!!」
黒髪少女「…大丈夫、きっと大丈夫…」
アサシン「きゃああああ~!!」
アルフ「着陸するぞぉぉ!衝撃に備えろ!!」
アサシン「…っ」
騎士長「…くっ」
黒髪少女「~~っ!」
ブゥゥゥン…ガツッ!!!ズザッ…ズザザザザザザァ…!!!
アルフ「と~ま~れ~っ!!!」
騎士長「ぬぐぐぐっ…!」
……ブルンッ、ブルン……ピタッ…
アルフ「はぁ、はぁ~…!」
アルフ「ちゃ、着地成功…全員無事か!」バッ
騎士長「」
アサシン「」
黒髪少女「」
アルフ「…あら」
ザッザッザッザッ…フラフラ…
騎士長「おえぇ…」
黒髪少女「騎士長、大丈夫?」
騎士長「大丈夫…。見慣れてる街道なのに景色が回る…」グルグル
アサシン「ここが王都前の街道か。随分キレイなんだね」
騎士長「そりゃそうさ。王都が誇るフラワーロード。レンガ造りの朱色の道さ」
アサシン「へぇ~…」
騎士長「…ちょっと行きたい所があるんだ。王都自体は人も多いし、入ってもバレる事は少ないだろ」
アルフ「ふむ」
騎士長「奴隷商人のやつが、俺の友人に俺らの居場所を吐かせたとか言っててな」
騎士長「その友達のやってる酒場へ行きたい」
黒髪少女「ジュースのおじさん?」
騎士長「そうだ。お前が最初に来た酒場のおじちゃんだ」
黒髪少女「…」
騎士長「無事だといいんだが…」
騎士長「あいつに限っては大丈夫だと思うんだが」ハハ…
アサシン「そこへ向かった後はどうする?」
騎士長「俺の家は、危険な可能性がある。だけど、木を隠すなら森…。近くで宿を取ろう」
アサシン「なるほどね」
騎士長「…久しぶりの王都だ。黒髪少女、気分はどうだ」
黒髪少女「大丈夫」
騎士長「そうか。なら、行くぞ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 王都の酒場 】
グイッ…ガチャガチャッ!!!
騎士長「…あら」
アルフ「…」
黒髪少女「…開かないね」
アサシン「…」
…コンコンコン
騎士長「…開かないし、反応もない」
黒髪少女「いないの…かな?」
アルフ「…」
アサシン「…」
騎士長「…まさかとは、思うが」
黒髪少女「…」
騎士長「…ん~と、この辺かな」
…ゴソゴソ
騎士長「あった」チャリッ
アサシン「それは?」
騎士長「この酒場の鍵。あいつさ、鍵をなくした時用に合鍵をココに隠してるんだよ」
騎士長「はっはっは」
ガチャガチャッ…ガチャッ!!!
騎士長「よっしゃ、いないふりとかしてんじゃねーぞ店主のやつ」
ギィィィ…
騎士長「おーい、店主~…」
…モワッ、ベチャッ!
騎士長「うっ…!」
黒髪少女「はっくしょん!」
アサシン「ほ、埃…っ!それに泥だらけじゃないか…」
アルフ「大丈夫か?マスクを」スッ
黒髪少女「あ、ありがとう」
騎士長「すまん…」
アサシン「私は今は一応装束のマスクだから大丈夫」
黒髪少女「ごほごほっ…」
騎士長「ひどいな…埃と床は泥だらけだ。掃除してないのか?」
アサシン「き、騎士長それは…」
騎士長「…わかってるよ」
アサシン「…」
騎士長「わかってる…」
騎士長「恐らく、王都の警備隊か何かに俺らの情報の為、連れて行かれたな」
黒髪少女「!」
騎士長「…」
アサシン「どうする…?」
騎士長「…」
黒髪少女「おじさん…」
騎士長「余計なことに巻き込んじまったな…。無事でいてくれればいんだが…な」
黒髪少女「…」
騎士長「仕方ない…ここは一旦、宿をとって体制をしっかりしよう」
アルフ「…」
トコトコトコ…ペラッ
アルフ「へぇ~…ここは依頼も受けてた酒場なのか」
騎士長「そうそう。まぁ猫探しとか、ドブさらいとか…まともなのなかったがな」ハハ
アルフ「ふ~ん」
ペラッ…ペラッ…ペラッ…
騎士長「ほらアルフ、ここにいても仕方ないし行くぞ」
アルフ「…ふむ」ペラペラ
アルフ「…なぁ」
騎士長「どうしたよ」
アルフ「ここじゃ、いちいち店主自身の依頼も紙に書くのか?」
騎士長「…何?」
アルフ「ほれっ」ポイッ
…パシッ
騎士長「…」ペラッ
騎士長「…!」
騎士長「…っ!」
アサシン「どうしたんだ?何て書いてある?」
黒髪少女「騎士長?」
騎士長「あいつ…連れて行かれる前に、俺がここに戻る事を予測してたのか…?」
騎士長「店主の家を使って欲しい事とか…」
騎士長「自分がいなかった時の為のメッセージだ…」
黒髪少女「!」
アサシン「!」
騎士長「確かに、これ以上ない隠れ家だ…。是非使わせてもらう!」
黒髪少女「おじさん…どうなったの?」
騎士長「なぁにアイツのことだ、きっと大丈夫だって言ったろ」ポンッ
黒髪少女「うん…」
アサシン「…」
アサシン「騎士長、あのさ…」
騎士長「ん?」
騎士長「まぁそうだな」
アサシン「敵の本拠地へいざ来て…、どうやってこの奴隷狩をやめさせるつもりだ?」
アサシン「どうやって今までのを暴露させる?」
アサシン「あんたが味方だと思ってた王都の軍のほとんどが、敵だった。そうだろう?」
騎士長「…」
アサシン「この状況をひっくり返すには、相当な転機がないと厳しいと思うんだ」
アサシン「その策が…、騎士長にはあるのか?」
騎士長「…まぁ、これはどの道あとで言おうとしてた事だが…今言わせてもらうな」
騎士長「これ以上は本当に危険になる。最悪、ここまで着いてきてくれただけで嬉しい」
アサシン「…」
騎士長「ここからは下手すると…死ぬだろうよ」
騎士長「いや、死よりも酷い結末になるかもしれない。どうする?ここが運命の分かれ道だと思うんだ…」
アサシン「いまさら何を…。最後まで付き合う。そのつもりでココまで来たんだからね」
アルフ「勢いってのは怖いな。このまま着いて行くのも悪くないと思う。俺は最後まで勢いのまま行ってもいいさ」
黒髪少女「私もだよ、騎士長。私が…お願いしたから始まったことなんだから…!」
アサシン「…」コクン
アルフ「おう」
黒髪少女「うんっ!」
騎士長「まずは、店主の家を借りに行こう。話はそこで改めてする」
………
……
――――【 店主の家 】
コポコポ…
騎士長「やっぱり紅茶、良いモンしまってたな~」
アサシン「勝手に色々使っていいのか?私にも珈琲ね」
アルフ「クッキー見つけた。ほらほら、黒髪少女、一緒に食べよう」
黒髪少女「うん」
騎士長「お前ら…」
騎士長「…賭けになると思う」
アサシン「というと?」
騎士長「俺は…誰だ?」
アサシン「バカになったか?」
騎士長「ちげえよ!」
アサシン「うん?」
騎士長「俺は、誰だっていう話だよ!!」
アサシン「バカか…?」
騎士長「ちげぇっつってんのに!」
黒髪少女「騎士長は、騎士長」
騎士長「うぅぅ~、黒髪少女は本当にいい子だなぁぁ…」
アサシン「おバカさん、いいから話の続きを。あっ、クッキー美味しい」モグモグ
騎士長「…」
騎士長「ごほん。まぁ俺は元とはいえ、王宮都市の騎士団の騎士長を務めていた男だとは知ってるよな」
アサシン「まぁね」
騎士長「王都の軍と呼べる部隊はおおよそ三つ存在している」
アサシン「三つ?」
騎士長「そうだ」
騎士長「王宮直属部隊。細かい事を言うと、俺は騎士長であって直属部隊に所属していた」
アサシン「ん…どういうこと?」
騎士長「騎士団は、騎士長、副長、副長補佐、曹長、軍曹」
騎士長「警備隊は、隊長、副隊長、同じく補佐、曹長、軍曹の階級に分かれている」
アサシン「ふむ」
騎士長「その上位4人、合計8人で王の命令で直接的に動くのが俺ら、直属部隊だった」
アサシン「なるほど」
騎士長「騎士団は騎士団だが、兵士やら剣士やらごっちゃだったが…まぁその辺は気にするな」
アサシン「わかった、それで?」
騎士長「だが…俺のいた騎士団。それは俺が見る限り…黒に近い、目立った活動はしてなかったんだ」
アサシン「ふむふむ…」
騎士長「そして、俺を慕っていた面子がほとんどだった」
騎士長「今回の事を伝えれば、正義感も強かったうちの騎士団は、必ず立ち上がってくれると思う」
アサシン「騎士長の騎士団が、黒じゃないという根拠は?」
騎士長「さっき言った通り、基本的な活動は王宮周りの守護。騎士団の活動は俺の監視下だった」
騎士長「警備隊の動きが分からなかったのは、俺が警備隊との係わり合いがほとんどなかったからさ」
アサシン「…ふむ」
騎士長「今はどんな活動しているかは知らないんだが、賭ける価値はあると思うんだ」
アサシン「具体的にはどうするつもりだ?」
騎士長「そこを拘束させてもらう。話を聞いてもらおう」
アサシン「既に…王の手先だったら」
騎士長「すまないが…敵だという以上容赦はしないつもりだ」
アサシン「分かった。現実的な作戦ではあると思うし、賛成するよ」
アルフ「…作戦自体はいいけどさ、俺は何をすればいいとかあるか?」
騎士長「自由にしていい。所持してるカラクリの事情が分からんから、アルフ自身がいいと思った事を頼むよ」
アルフ「いやいや、そこまで大味だと。せめて何して欲しいとかないのか?」
騎士長「ん~…、しばらくは着いてきて、その場その場で対応した事を言う感じでどうだろうか」
アルフ「何とも大雑把な役目…。まぁ任された」
アサシン「いつもキリっとしてるいいんだけどね」ハハ
騎士長「無駄話もする暇があったら、まずは副長の家へ張り付こう」ヒクッ
アサシン「かっこつけてるけど、褒められて鼻の穴開いてるぞ」
騎士長「…」
――――【 副長の家の茂み 】
コソコソッ…
騎士長「そろそろのはずだ」
アサシン「どうやって捕まえるつもりだ?」
騎士長「実力行使だ。一発で決めれば、あとは店主の家に引きずり込むだけだし」
アサシン「…いいね、その強気姿勢」
黒髪少女「…」ドキドキ
騎士長「お…来たぞ!」
副長「…」
カチャカチャ…
騎士長「行って来る」ダッ
アサシン「気をつけて」
ダダダダッ…ヒュッ
騎士長(よしっ!首に一撃!)
副長「何かの気配っ!」クルッ
騎士長「げっ!」
副長「ぐっ、あ…危ねぇ!!な、何者だっ!!」
騎士長(不味ったぁぁぁ!!!)
副長「貴様、この俺が騎士団の人間だと分かっての狼藉…って、え?」
騎士長「…や、やぁ」
副長「きしちょ…!」
ゴツッ!!!…ドサッ
副長「」
騎士長「あれ…倒れた…?」
アサシン「私の石の投擲だよ!…やっぱり準備しててよかった」フゥッ
…バシャッ!!
副長「…!」
騎士長「よう、目が覚めたか?」
副長「ここは…、なぜ俺が縛られて…!?っていうか、なんで騎士長が!」
騎士長「ここは店主の家。昔、一緒に飲みに行っただろう」
副長「そ、そうでしたね…。って、それより何で!もう色々と!」
騎士長「…まぁ、聞きたい事があるんだよ」
副長「そんな事より騎士長さん、大変ですよ!あなた指名手配で…!」
副長「は、はい…」
騎士長「いいか、先ずはこっちから聞きたい事があるんだ。答えてくれ」
副長「な…何でしょうか」
騎士長「警備隊がやってること、今の王都の本当の顔…知ってるか」
副長「…」
副長「…い、いえ。何のことでしょうか」
騎士長「本当か」
副長「は、はい。騎士長がクビになってからも、変わらず周辺の守護にあたってるだけです」
騎士長(と、なると…やはり絡んでいるのは警備隊側ってことか?)
騎士長「何だよ…」
副長「騎士長、指名手配ですよ!!王都の専属の商人の邪魔をしたっていう罪で!」
騎士長「…」ハァ
副長「俺らの周辺の仕事も、あなたが来ないか見張る事も含まれてたんですよ!?」
副長「いつの間に王都に入り込んだんですか…」
騎士長「…まぁそれはいい。俺の話を、落ち着いて聞け」
副長「な、何でしょうか」
騎士長「えっとな…」
騎士長「…っていうわけだ。黒髪少女、アサシン、それとアルフ」
騎士長「これが俺のしてきた旅で一緒になった仲間たち…と、冒険録。信じてくれるか?」
副長「王都が、奴隷狩の主軸で…、王様が裏社会の王…!?」
騎士長「これが真実。王都の顔だ。やはり知らなかったか」
副長「あ…当たり前ですよ…」
騎士長「俺がクビになったのも、その関係で理由があると思うんだ」
副長「そうじゃなかったら、王都に生涯をかけてきた貴方がクビになるわけないじゃないですか!」
副長「何でしょう」
騎士長「いいか、簡単な話。俺らに協力するかどうかだ」
副長「…」
騎士長「協力して欲しい事は1つだけ。騎士団を再び俺のために動かして欲しい」
騎士長「ただ、その場合…王都と警備隊との戦線になる可能性が高い」
騎士長「敗北すれば裏切りになって、どうなるかは分からない。」
騎士長「だが…お前らと協力すれば絶対に勝てると信じている。俺に力を貸してほしい」
副長「…」
副長「そ、そんなの…協力する以外ないじゃないですか」
騎士長「…」
副長「人の為に動くことを教えてくれたのは、騎士長でしょう」
副長「いつも貴方とは一緒だった…、俺が断る理由なんかありませんよ」
副長「当たり前ですよ」
アルフ「…」
副長「それで、これから俺はどうすれば?」
騎士長「決行は明日の夜。それまでに、味方になりそうな団員を召集してほしい」
副長「わかりました」
騎士長「夜、王宮へ騎士団の面子で奇襲し、王を拘束する」
騎士長「実力的には俺らが有利だ。拘束まで行けば俺らの勝ちになる」
騎士長「拘束後、王を別の国へ送り飛ばす。関与した幹部とともにな」
騎士長「奴隷狩は重罪であり、裏社会の王という存在…。その悪行もすぐにバレるはずだ」
騎士長「どでかい仕事になるが…頼むぞ」
副長「…」コクン
騎士長「…縄を外す。頼むぞ、副長」シュルシュル
副長「えぇ分かりました。それと、情報なのですが…いいでしょうか」
騎士長「なんだ?」
副長「もし、これから他の面子に聞きまわるのでしたら…止めたほうがいいと思います」
騎士長「軍曹までは話を聞こうと思っていたが…どうしてだ?」
副長「今日の話を聞いて納得しました、警備隊の強化の為にしてたんでしょうね」
騎士長「…」
副長「俺はまだしも、他の面子では内部で情報漏れする可能性があるので…止めた方がいいと思いますよ」
騎士長「情報、感謝する」
副長「いえ…。それでは、今日の夜から信頼できそうな人間に回ります」
副長「明日の夜…改めてココへ訪れるのでお待ちください」ペコッ
騎士長「頼むぞ」
副長「はいっ」ビシッ
アルフ「…」
アサシン「信用できそうな奴ではあったね。昔なじみなのか?」
騎士長「俺の後輩だからな」
アサシン「あんたらが難しい話をしてるから…ほら」
黒髪少女「…」スゥスゥ
騎士長「はは…」
アサシン「それにしても明日の夜、か。いよいよだね」
騎士長「作戦は聞いてたろう?これで上手くいくと思う」
騎士長「長かった。だけどこれでやっと…」
アサシン「うん…」
騎士長「俺らで全てを崩す。その算段は整った。あとは…実行のみ」
アサシン「…がんばろうね」
騎士長「当たり前だ」
アルフ「なぁ…悪いんだが…」
アルフ「ちょっと、やりたい事を見つけたんで一旦外に行ってくる」
騎士長「え?」
アルフ「最初に言われた通り、俺はやれるように自由に動くとするよ」
騎士長「…急にどうした?」
ガチャッ…バタンッ…
騎士長「お、おい!…行っちまった」
アサシン「急にどうしたんだ…」
騎士長「あいつの考えがあってのこと、だとは思うんだが…」
アサシン「うーん、まぁ任せるしかないね」
騎士長「ん~む…」
黒髪少女「お話…終わった?」
騎士長「起こしちゃったか。お話は終わったぞ」
黒髪少女「あれ?アルフのおじちゃんは?」
騎士長「用事があるらしくて、外に行ったよ。すぐに戻ってくるとは思うけどね」
黒髪少女「そっか」
騎士長「…黒髪少女、明日の夜」
黒髪少女「?」
騎士長「きっと、この長かった旅の最後になる。全部が終わるはずだ」
黒髪少女「…」
黒髪少女「うん」
騎士長「ありがとう…。それと、今から明日の夜までは外出は控えるようにしよう」
騎士長「少し辛いかもしれないが、2日後の朝には俺らは自由の身…そう信じて、頑張ろうな」ニコッ
黒髪少女「…うんっ」
アサシン「冷蔵庫やら何やら漁って、店主の家を探索しようかね~♪」ガサガサ
騎士長「あさっちまえ!好きなの食おう!」
アサシン「消費期限が切れてるのは注意しないとね。これはダメだ、これは大丈夫」ポイポイ
騎士長「はっはっは、このところ…何だかんだで毎日パーティだな」
黒髪少女「また私、卵焼き作るー!」
アサシン「さすがに卵はダメになってるから、お姉ちゃんと一緒に別なの作ろうか♪」
黒髪少女「うんっ!」
騎士長(…)
騎士長(最終決戦…か)
………
……
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日…夜 】
ホウ…ホウ…
騎士長「…」
アサシン「…」
黒髪少女「…」
騎士長「…遅い」イライラ
アサシン「もう、20時だよ。二人とも何してんだろうか」
騎士長「仕事あがりは18時まで、準備をしていても19時までに来てもいいはず」
アサシン「アルフも来ないし…」ハァ
騎士長「…」
アサシン「…」
黒髪少女「…」
…コンコン
アサシン「!」
騎士長「待て…。誰だ!」
副長「副長です。準備出来ましたので、ご報告に参りました!」
騎士長「入っていいぞ」
副長「失礼します。騎士団の召集が完了しました」
騎士長「ありがとう。どれくらいが集まった?」
副長「3分の2になります。それ以外は、どうにも信頼におけませんでしたので」
騎士長「十分だ。俺が指揮していた騎士団…それだけでも十分だ」
副長「騎士長、外へどうぞ。皆さんが久々に挨拶したいと。補佐、曹長、軍曹が揃っていますよ」
騎士長「おぉ、久々に会う面子じゃないか」
副長「あと何人かの待機はしてあります。是非、久々の点呼などいかがでしょうか」
騎士長「ははは、懐かしいな。挨拶がてら、顔合わせといこうか」
副長「こちらです」
副長「あちらに」
騎士長「…!」
副長補佐「…」ビシッ
曹長「…」ビシッ
軍曹「…」ビシッ
騎士長「み、みんな…久しぶりだ…!」
副長「話をしたところ、是非ということで集まっていただきました」ペコッ
騎士長「本当に感謝するぞ、副長」
副長「いえ!」
副長「…作戦ですか。作戦は、既に始まっているんです」
騎士長「ん?もう始めてるのか?」
副長「いえ、貴方が俺たちと接触した時点で…」
騎士長「それはどういう…」
副長補佐「久々に会えたのですが、こんな形になるとは思いませんでした」ヒュッ
…ゴツッ!!!
騎士長「っ!」
…ドサッ…
アサシン「なっ…!」
副長「おい、そこの二人も捕らえろ!一緒に連れて行く!」
副長補佐「はっ!」
曹長「了解しました!」
軍曹「はいっ!」
ダダダダッ…!!
アサシン「…な、何のマネだ!!副長!!」チャキッ
副長「すみませんね…」
副長「騎士長、相変わらず打たれ弱い部分ありますね。上手くいってよかったです」
黒髪少女「…っ」
軍曹「おとなしく捕まってくださいよ!」ダッ
アサシン「はぁっ!」ブンッ
…ガキィンッ!!
アサシン「…っ!」ググッ
軍曹「くっ…」ググッ
…ゲシッ!!
軍曹「うおっ!」
グルンッ!!ドサッ
アサシン「はっ!!」
ブンッ…グシャッ!!
軍曹「がっ…!」
…ガクッ
黒髪少女「お姉ちゃん…!」
副長「…大人しく捕まってくれませんか」
アサシン「どうしてだ!なぜこんなことを!すでに手先だったのか…」ギリッ
副長「…仕方ないことです」
アサシン「わけの分からない事を…」
副長「それ以上暴れるなら、こちらにも考えがありますが」
アサシン「何だ!」
グイッ…スッ
騎士長「…」
副長「動かないでください。これ以上暴れるなら、騎士長がどうなるか…分かりますよね」
アサシン「…ちっ」
副長「お願いします」
アサシン「…」パッ
…カランカランッ!!
アサシン「…私らをどうするつもりだ」
副長「王様へ届けます。あとは分かりませんが、俺らの仕事はそこまでです」
アサシン「…騎士長は」
副長「三人一緒に届けますよ」
アサシン「…大人しく着いて行く。だから、黒髪少女と騎士長は私から離れないようにしていいか」
副長「構いません」
アサシン「…」
副長「それでは、参りましょう」クルッ
スタスタスタスタ…
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 王宮都市・王宮 】
カツカツカツカツ…ピタッ
副長「失礼します、王様」バッ
王様「…待っていたぞ」
副長「いえ」ペコッ
アサシン(こいつが…今の王であり、奴隷狩の首謀者であり…裏社会の王…!)
黒髪少女(お父さんを殺した人…!)
副長「はっ」
カツカツカツ…バタンッ…
王様「さて…少し紹介をしよう。横にいるのは側近」
側近「お見知りおきを」ニコッ
王様「左から順に、財政大臣、総務大臣、外務大臣だ」
大臣達「…」
アサシン「…」
黒髪少女「…」
アサシン「あんたが連れてきたんじゃないか!」
側近「貴様、その口を控えろ!」
王様「いい、構わん」
側近「そ…そうですか」
アサシン「ふん…私らを一体どうするつもりだ」
王様「お前は…、アサシンだったか」
アサシン「…」
王様「砂漠地方の義賊、隠密集団…そのリーダーだったな。女とは恐れ入った」
アサシン「…そこまで知っているのかい」
王様「男と聞いていたが、その美しさで噂の強さとはな」
アサシン「…」
アサシン「何を言ってる…あんたのせいで、どれだけの同族が不幸になったと思っている!!」
騎士長「…」ピクッ
王様「…恨むなら、ワシではなく王子を恨む事だな。あいつが砂漠地方に逃げなければ良かっただけのこと」
アサシン「戯言を!!」
王様「それに、砂漠の女を度々楽しめたワシとしては感謝もしているがな」
アサシン「貴様ぁぁぁっ!!」ググッ
側近「控えろと言っている!!貴様らの命は王が握っている事を忘れるな!!」
アサシン「くっ…!」
黒髪少女「…」
王様「ところで、王子の行方は知らぬか?それと、我が配下の商人達の行方も分からぬのだが」
アサシン「ふ…ふふっ…」
王様「む?」
アサシン「あんたの配下の商人たちは、ほとんどいないよ。砂漠前のアジトを潰したからね…!」
王様「何だと…?」
アサシン「ついでに王子はもういない。あんたの目論み通り、もうこの世にはいない…よ…」
アサシン「…」プイッ
王様「ふっ…そうか。王家の血筋を引くものは、黒髪幼女、ただ一人ということか」
アサシン「…」
黒髪少女「…?」
王様「さて…どうしたものか。この者たちの処遇、いい案はないか?」
側近「案ですか。ふーむ…大臣たち、いい案はないだろうか」
財政大臣「そうですね…、どの道生きていられては困る面子。ここは王都の未来に役立ってもらうのはどうでしょう」
王様「王都の未来に?」
財政大臣「騎士長は指名手配犯、その仲間たちということで公開処刑などいかがでしょうか」
財政大臣「そうすれば、王の人気も集まるでしょうに。どうでしょう総務大臣」
総務大臣「いや、全員を奴隷狩を命令してた裏の顔として扱うのはどうでしょうか。どうでしょう外務大臣」
外務大臣「それはいいかもしれません。他の国にも王の良き話が伝わることでしょう。側近殿、決まりです」
側近「王、決まりました。ご報告致します」ニコッ
アサシン「…っ!」
黒髪少女「私たち…どうなるの…?」
アサシン「大丈夫だよ…」ギュッ
黒髪少女「…っ」
王様「確かに…それはいい案だ」
側近「早速準備をさせましょう」
側近「そうですな、準備をさせましょう。警備隊、入れ!」パチンッ
ガチャッ…ザザザザッ…
警備隊「…」
警備隊「…」
警備隊「…」
アサシン「…!」
側近「奴らを縛り上げるんだ!」
アサシン「そう簡単にやらせると思うか…」チャキッ
側近「…歯向かうようなら、女だろうが容赦しなくていい。好きにしろ」
警備隊「…」ニタッ
アサシン「…!」ゾクッ
黒髪少女「騎士長、騎士長!!起きてよ、私たち殺されちゃうよ!!」ユサユサ
騎士長「…」
黒髪少女「騎士長っ…!」
アサシン「…私たちに触るなあ!!」ブンッ
…ガキィン!!
アサシン「私は強いよ…死にたい奴からかかってきな!!」
警備隊長「…おい」クイッ
警備隊員たち「はぁっ!」
ダダダッ…タァンッ!
アサシン「なっ…全員一斉に…!?」
…ドォン!
アサシン「うあっ!」
警備隊長「…大人しくしろ!武器を取り上げ、縛り上げろ!」
警備隊長「他に武器がないか、全て切り裂け!俺たちに逆らった事を恥辱で知らしめてやれ!」
アサシン「や…やめ…!!」
警備隊「…」
アサシン「ひ…」ドクン
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アサシン「嫌ぁぁ、やめてよぉぉ!」ビリビリ
奴隷狩り「俺たちから先に味を知っとくべきだもんなぁ!」
アサシン「誰か、助け…!」
奴隷狩り「逃がすかよ…」ガシッ
奴隷狩り「後がつかえてる、さっさと終わらせようぜ」ハハハ!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アサシン「い…嫌あぁぁぁっ!!」
アサシン「…あぁぁぁっ!!!」
警備隊「うへへ…うひひっ!」
警備隊長「ふん…」
警備隊長「残っている者は、黒髪幼女を縛り上げるんだ!さっさとしろ!」
警備隊「はっ!」ダッ
タタタタッ…ガバッ
黒髪少女「や、嫌っ!」
警備隊「もう逃げても無駄なんだ、大人しく捕まれ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
傭兵「…ほぉら、痛くしないから…おいで…」
商人「そこにも誰かいるぞ!捕まえろ!!」
黒髪幼女「…あっ!」
…ガバッ
傭兵「ははは、お友達の最期も目の前で見せてやるよ!」
傭兵「お前は今日から、奴隷生活だ!」
黒髪幼女「や…っ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
黒髪少女「嫌だぁぁぁっ!!嫌ぁぁ、離してぇぇ!!!」
警備隊「大人しくしろ!!」
アサシン「あ…」
警備隊「つーかまえた…」ガシッ
黒髪少女「…離してぇぇ…っ!」
王様「…ふっ」
側近「くくく…」
騎士長「…」
黒髪少女「騎士長、起きてよ。騎士長…!」
騎士長「…」
黒髪少女「騎士長っ…、助けてよぉぉぉっっ!!!」
騎士長「…!」ハッ
ピカッ…!
ドゴォォン!!!グラグラグラ…ッ!!
王様「!?」
王様「どうした!」
ガチャッ!!
タタタタタッ…ビシッ!!
警備隊「報告します!王宮に、謎の爆発が起きています!」
側近「魔法か!?」
警備隊「分かりません…魔法とは異なるようです!…どこから攻撃してるのか分かりません!」
側近「えぇい…爆発の位置に警備隊を向かわせ、早急に対処しろ!」
警備隊「わかりました!」
警備隊長「離れろ!!」
警備隊「はっ!」
ザザザッ…
アサシン「…」
黒髪少女「…」
王様「お前ら…何かしたのか?お前ら以外に誰か、仲間がいるのか?」
アサシン「…」
王様「口も開かぬか。いや、開けぬのか?無様な姿だな」
アサシン「…」
王様「今ここで吐き出してもらう。仲間かどうかは関係なしに拷問しろ。警備隊長」パチンッ
警備隊長「はっ!」
黒髪少女「拷問…?」
アサシン「…」
警備隊長「それぞれの指を一本ずつ切り落とせ。吐くまで。それ以外は自由にしていいぞ」
黒髪少女「!」
警備隊「はっ!」
警備隊「くくく…俺に任せてください。俺はアサシンを」グイッ
警備隊「なら俺は黒髪少女を」グイッ
黒髪少女「ひっ…!」
アサシン「…」
黒髪少女「…っ!」
警備隊「いっせーの…」ブンッ!!
黒髪少女「…ッッ」ギュッ
ヒュッ!!!…クルクル…ザシュッ!!!
警備隊「いっ…てぇぇぇ!」
黒髪少女「えっ?」パチッ
警備隊「何か手に刺さった…!」ズキズキ
黒髪少女「な、何…?」ハッ
黒髪少女「騎士長っ!!」
警備隊長「騎士長…!全員、一回離れろ!」
警備隊「はっ!」
ザザザッ…!!
王様「…!」
側近「騎士長、気がついたのか!」
騎士長「遠くから黒髪少女の声が聞こえてた…」
騎士長「それと…何かの爆発音で、完全に目が覚めたぞ」コキコキ
騎士長「副長のやつ、長年付き添ってだけあって俺の打たれ弱さを知ってやがった」ハァ
黒髪少女「…き…騎士長…」
騎士長「な、何だこりゃ…。アサシン…黒髪少女…!!」
王様「お前が寝ている間にな。…それより、久しぶりだな騎士長」
騎士長「王…っ!」
王様「…」
騎士長「…アサシンたちに何をしやがった!!」
王様「久々のワシに対する言葉がそれか。お前も思った程の脅威ではなくて安心したぞ」
騎士長「何だと…?」
王様「実力が高いのは知っていたが、弱点を知ってるとはいえ、後輩の一撃に気絶するとはな」
騎士長「…っ」
王様「この王都を離れている間に、実力も衰えたか?」
騎士長「ぐっ…!それよりもアサシン達に何もしていないだろうな!!」
王様「やれやれ…王の話よりも他人の心配か。自分で確かめたらどうだ…?」
騎士長「…ちっ!」ダッ
騎士長「…アサシン、大丈夫か」
アサシン「…」
騎士長「…俺の上着を貸してやる。今は…横になっておいてくれ…」
アサシン「…」
騎士長「お前ら、絶対に許さねぇぞ…!!」
王様「お前一人で何が出来ると?」
王様「気絶していた者が、粋がったところでどうにもならんぞ?」ハハハ
警備隊「へへ…」
警備隊長「俺らはいくらでも相手になるぞ…?」
騎士長「…」チャキッ
側近「その状態でやる気とはな…恐れ入った」
側近「警備隊、全員…武器を構えよ!騎士長を迎撃するのだっ!」バッ
警備隊「…」チャキッ
警備隊長「…」スチャッ
騎士長(いや、負けるわけにはいかない!ここまで来て…あと少しで全てが終わるところで…!)チラッ
黒髪少女「騎士長…」
アサシン「…」
騎士長「しゃあねえ、背水の陣とでもいうのか…?」
騎士長「行くぞ…うらぁぁぁっ!!」ダッ
警備隊長「くるか…!」
騎士長「とと…!じ、地震か…?」
警備隊長「な、なんだ?」
王様「…王宮が揺れている?」
ゴゴゴゴッ…ドゴォォン!!!!
パラパラパラ…
騎士長「!?」
警備隊長「な…なんだぁ!?」
側近「て、天井に穴が開いた!?」
アルフ”「え~聞こえますか騎士長さん、騎士長さん。声を拡大するカラクリでお話しております」”
騎士長「アルフ!?」
アルフ”「今、私は空から王宮に攻撃を行っております」”
アルフ”「適当にバラまきますので、注意してくださいな~」”
ブゥォオオオン…
騎士長「あいつめ、ずっといないと思ったら…」クク
騎士長「…空からの攻撃とは、味のある事してくれるじゃねえか!」
騎士長「自慢の仲間だよ!」ダッ
警備隊長「…!」
ガガキィン!!!カキィン!!!
騎士長「…」ググッ
警備隊長「…」ググッ
ガキィンッ!!ズザザザァ…
騎士長「隙を狙ったつもりだったんだがな…」
警備隊長「子供だましだ!」
黒髪少女「…」ハッ
黒髪少女「そ、そうだ…お姉ちゃん!」ダッ
タッタッタッタ…
アサシン「…」
黒髪少女「お姉ちゃん…ねぇ、お姉ちゃん…!」
…ユサユサ
黒髪少女「騎士長が起きて戦ってるよ…どうしたの…、お姉ちゃんっ…!!」
アサシン「…」
黒髪少女「お姉ちゃんっ…!!」
…カツ、カツ…チャキンッ
警備隊「おぉ?どうしたのかなー…お嬢ちゃん…」ニタッ
黒髪少女「!」
警備隊「このチャンス…俺が二人のクビを弾けば評価も上がるだろう…」ジリッ
黒髪少女「こ…こないで…」
警備隊「ほーら、おいで…」ググッ
黒髪少女「お姉ちゃん、お姉ちゃん!!危ないよ、お姉ちゃん!!」
アサシン「…」
黒髪少女「…っ」ゴクッ
アサシン「…」
黒髪少女「お…」
黒髪少女「”お母さんっ!!!”」
黒髪少女「起きてよ、お母さん!!」
騎士長「い、今…黒髪少女…!お前、アサシンを…お母さんと…」
…ザワザワ!!
王様「な…何だと!?」
側近「今、何て言った…あのガキ!」
大臣たち「な…なんと…!」
警備隊「母親だと…!?」
アサシン「…」
黒髪少女「おかあさん…っ!起きてよぉ!!」
アサシン「…」
騎士長「…アサシンッッ!!!お前の娘が、呼んでるぞ!!」
アサシン「――…!」ハッ
…ムクッ
アサシン「く…黒髪少女…?」
黒髪少女「お母さんっ!!!」ダキッ
黒髪少女「ごめんなさい…私、本当はアルフのおじちゃんの家で…聞いてたの…!」
アサシン「…!」
騎士長「まさか、あの時か!?」
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コトンッ…
騎士長「…ん?」
騎士長「何か…音がしたような…。気のせいか…」
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黒髪少女「で、でも…言えなかったの。お母さんも苦しんでて…」
黒髪少女「本当はお母さんって呼びたかったのに…!!」
アサシン「黒髪少女…っ」
黒髪少女「ごめんなさい…本当はお母さんも我慢してたって分かってたのに!」ダキッ!
黒髪少女「こんな所で…私が…言っちゃった…」
アサシン「いいよ…いいんだ…」ギュウッ!!
側近「間接的にだろうが、王家の血を紡ぐ者がまた一人…!」ギリッ
王様「警備隊長!警備隊!!もういい、さっさとその場で二人を先に殺せぇぇ!」
警備隊長「…御意」ダッ
警備隊「勿体ねえが、王様の命令とあらばっ!」ダッ
警備隊「はぁぁっ!」ダッ
ダダダダダダッ…
騎士長「いかん、間に合わない!!」ダッ
アサシン「黒髪少女だけは…守るっ!」ギュッ
黒髪少女「お母さん…騎士長~~っ!!!」
キキキン、ガキィンッ!!!ザシュッ…!!
警備隊「がっ…!」
警備隊「…なっ…」
ドサドサッ…
アサシン「…」
アサシン「…え?」ハッ
副長「はぁ~…間に合いましたねぇ」トントン
騎士長「副長!?」
副長「殴って申し訳ありませんでした。騎士長率いる騎士団、一部を除き…全員が集合しましたよ!」
ザザザザッ!!
王宮兵士「駆けつけましたよ」
王宮戦士「…王の話は聞きました。覚悟してもらいましょう」
騎士長「お…お前たち…」
王様「き…貴様ら…!」
側近「貴様らを引き取ってやった我らを裏切るつもりか!!」
アサシン「ど、どういうことだ…。お前たちは騎士長を裏切ったのではないのか?」
副長「そうせざる得ない理由がありました。あんな事…本当に申し訳ありません…」
騎士長「…!」
アサシン「なるほどね」
副長「警備隊を近くに置かれ、家族を人質にとられ…行動をとらざるを得なかった」
副長「貴方がクビになった理由は、あまりにも王宮に固執し…人質や握る弱みがなかったからです」
副長「騎士長は今の王都にとって脅威になると思われたんでしょうね」
騎士長「そういう事だったのか…」ギリッ
アサシン「で、でも…こうしてアンタらも裏切ったら、家族の命が…」
副長「あぁ、それはですね…」チョイチョイ
アサシン「上?」
アルフ”「俺が、怪しいと思った副長を追いかけて、逆に警備隊の家に仕掛けをしてやったんだ」”
アルフ”「お前ら警備隊が手を出したら、逆に俺が警備隊の家族を失う事になるってね」”
アルフ”「目には目を、強引だったが仕方ないだろう。はっはっはっはっ!」”
騎士長「あ、アルフ…お前ってやつは…!」
副長「先程ようやく、騎士団の人質を捕られている全員の解放を終わりました」
副長「ここから、反撃の時ですよ!」スチャッ
騎士長「お前ら…」
副長「…さぁ、騎士長…」
アサシン「…騎士長!」
黒髪少女「騎士長っ!」
アルフ”「騎士長!」”
副長「騎士長!」
曹長「…騎士長っ」
軍曹「き…騎士長…!」
騎士団員たち「騎士長さんっ!!」
騎士長「今こそ、全てをやり直す時。新たな時代を迎える時だ!覚悟しろ…王!!」チャキン!!
王様「…っ!」
王様「ぬ…ぬぐぐぐ…」ブルブル
側近「お、王様…」
大臣たち「わ、私たちはどうすれば!?」
警備隊「…正面きって騎士団に勝てる自信はないですよ、隊長!!」
警備隊長「…くっ!」
側近「ばかなっ!それでは殺されるのと一緒だ!」
騎士長「てめぇらが今までやってきた事と比べれば、生ぬるいだろうが…この、ダボがぁぁ!!!」ビリビリ
側近「ひっ…」
騎士長「…どうするんだ、王様よぉ!」
王様「…ぐっ!」
騎士長「正面きって、俺らと戦うか!?強いぜぇ…俺の指揮する騎士団は!」
王様「え…えぇい!警備隊長!何をしている…早く戦えぇ!!」
警備隊長「…っ」
警備隊長「で、ですが…あの騎士団相手にしては…、俺の部下を殺すようなもの!」
王様「そんなもの知った事じゃない!ワシを守るのが役目であろう!」
警備隊長「…ッ」ギリッ
側近「命令に背くのか、貴様!」
警備隊長「!」ビクッ
側近「それでもいいんだぞ…?」
王様「は、ははは!そうだ、お前が命令に背くというのなら…」
王様「わかっているんだろうな…!」
警備隊長「うっ…」
王様「早く、早く!!」
警備隊長「う…ぐ…」ブルブル
王様「早く、しろぉぉっっ!!」
警備隊長「う…うるせぇぇ!!」
ビュッ…ズバッ…
王様「なっ…!」
ポタッ…ポタポタッ…
王様「する…ん…」
…ドシャアッ…
王様「か…かはっ…」
警備隊長「はぁー…はぁー…!」
側近「お…王様ぁぁ!!」
大臣たち「…!!」
警備隊長「…このクソ爺が!もう、お前には従えねえ!!」
カツカツカツ…
警備隊長「てめぇもだ、側近」チャキンッ
側近「ひっ…、ま、待て…!お前の妹の命は…我らが預かって…」
警備隊長「最初からこうするべきだった」ヒュッ
…ズバァッ!!!
側近「あ゛っ…」
ドシャアッ…
警備隊「…は、はいっ!」ダッ
大臣たち「う、うわあああっ!!」
キキン!!…ズバズバズバァッ!!!
アサシン「見るんじゃない、黒髪少女!」バッ
黒髪少女「…っ」
警備隊長「はぁ…はぁ…!」
騎士長「全員殺したのか…。それよりお前、妹が人質と…」
警備隊長「うるせえ…うるせえ…!」
騎士長「…っ」
警備隊長「だが、王は俺らの扱いが上手かった…」
警備隊長「奴隷の味、悪行の道…!一人、また一人と仲間は快楽に落ちていった!」
騎士長「…」
警備隊長「だが、俺は人の道を外す事は断った」
警備隊長「統率としない警備隊は役にたたない。それを知った幹部らは妹を人質にしやがった…」
騎士長「…」
警備隊長「仕方なかった…身内の命には変えられなかった…」
騎士長「…」
警備隊長「騎士長、てめぇはもう王宮の人間じゃねえ!実質のトップは…俺だ…」ギロッ
騎士長「だから…どうした」
警備隊長「俺が今後、この王都を支えるリーダーになってやる…」ニタッ
…ザワザワッ!!
騎士団「なんだって…」
騎士団「あいつが…!?」
警備隊「隊長が…王様になるのか…?」
警備隊「…確かに、今の状態では一理あるかもしれんが…」
警備隊長「何が可笑しい」
騎士長「今のお前では無理なんじゃないの?」ハハハ
警備隊長「何だと…」
騎士長「俺が言えた義理じゃないだろうがよ」
騎士長「人質がいたとはいえ…無関係な人々を切り刻み…」
騎士長「多くの人々の涙と血に塗れた剣に、付いてくる人間はいるのか…?」
ポタッ…ポタッ…
警備隊長「そ、それがどうしたぁ!」
騎士長「…」
警備隊長「…そうだ。お前、あの女をよこせ…黒髪少女といったか今は…?」
騎士長「…何するつもりだ」
警備隊長「次期の王として、王の血を引く子…。国民も納得するだろうよぉ…」
騎士長「…」
黒髪少女「王の血って…何…?」
アサシン「気にしなくていいんだよ…」ギュッ
騎士長「出来ない相談だな。あの子は守ると決めたんだ」
警備隊長「なら、無理やりにでも奪うまでよ!」クワッ
ザワザワッ…!!
騎士団「…」チャキッ
警備隊「…」チャキッ
騎士長「お前ら、手を出すな!!」
騎士団「!」
警備隊長「ほぉ…分かってるじゃねえか。お前らも手ぇ出すなよ!!」
警備隊「…」
黒髪少女「どうなるの…?騎士長、大丈夫だよね…」
アサシン「きっと、騎士長が勝つさ…!」
黒髪少女「うんっ…」
騎士長「…」チャキッ
警備隊長「…」スチャッ
騎士長「…」
警備隊長「…」
騎士長「…ぬあぁぁあ!!」ダッ
警備隊長「!」
騎士長「槍突っ!!!」ビュッ
警備隊長「そんなものに当たるかよ!」ヒュンッ
騎士長「避けた!?早い!」
警備隊長「お前が遅いだけだ!!剣斬っ!」ブンッ
騎士長「くっ!」
…ガキィィンッ!!!
警備隊長「はぁぁっ…」ググッ
騎士長「つ…くっ…」
警備隊長「どうした、元騎士長さんよ!?押し負けてるぞ!」
騎士長「うらぁぁっ!」ビュッ
警備隊長「ぬあっ!蹴りだと!」バキィッ!!
ズザザザァ…
騎士長「はぁ、はぁ…」
警備隊長「ふぅ、ふぅ…」
警備隊長「出来ぬ相談だ。俺は、もっとより良い時代を作る…」
警備隊長「例えお前が言うように、俺の剣がどんなに汚れていてもだ!!」ダッ
騎士長「くそっ!!」ダッ
ガガガキィン…
…ガキィンッ!!!バキィッ!!
警備隊「な、なんて戦いだ…」
騎士団「騎士長…」
黒髪少女「騎士長…!」
ダダダッ…ガキィン!!!
警備隊長「ほぉ…やるな」
騎士長「実力は均衡してると思っていたが…これはちょっと不味いかもな」ハハ…
警備隊長「時代は俺が開くっ!!」ブンッ!
騎士長「お前にさせるわけにはいかないっ!!」ブンッ
ギキィンッ…!!
警備隊長「ちっ…」ビリビリ
騎士長「はぁ…はぁ…」
警備隊長「ふぅ…ふぅ…」
ジリ…ジリ…
騎士団「二人が間合いを詰めていく…」
警備隊「次で…決まるのか…」
騎士長「…ぬあああっ!」ブンッ!
警備隊長「…ぬおおおっ!」ブンッ!
ズッ…ズバァンッ!!!
騎士団「攻撃が…入った!!」
警備隊「ど、どっちが!?」
…ポタッ…ポタッ…
警備隊長「…俺の、勝ちだ」
騎士長「…参ったね、肩に思いっきり剣が刺さってるじゃないか…」ゼェゼェ
警備隊長「ふはは…俺の時代が始まるってことだ」ニタッ
アサシン「…っ」
黒髪少女「き…騎士長…!!」
警備隊長「何故また笑う。これも運命と受け入れたか?」
騎士長「はは…運命、ね」
騎士長「…運命ってのは常にどっちを向くか分からないんだぜ…?」ハァハァ
警備隊長「戯言を…お前の負けだ!このまま胴体を切り裂いてやる!」
騎士長「やってみろよ…」ゴホッ
警備隊長「よかろう…さらばだ、同じ王都に仕えた男!!」ググッ!
騎士長「…っ」
警備隊長「むっ…!」
騎士長「…」ニタッ
警備隊長「剣が…入っていかん…!」グッグッ…
騎士長「…お前も、皮肉なものだよな…」
警備隊長「ど、どういうことだ!」
騎士長「うらぁぁっ!!」ブンッ
…ズブッ…
警備隊長「はぐっ…!」
警備隊長「な、なぜ…!」ゴボッ
騎士長「…皮肉の意味はさ、これさ…」ゴソゴソ
…チャリッ
警備隊長「そ、それは…!お…俺らの…」ハァハァ
騎士長「そう。警備隊のロケット…これに使われている、”アダマンタイト”さ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
騎士長「ごほんっ、えっとな…」
騎士長「アダマンタイトは不思議な鉱石でな、物理的威力に反発する力を持ってるんだよ」
アサシン「反発する力?」
騎士長「どんな小さな欠片でも、叩き割ろうとしたり、押し込んだりすると弾こうとして動かなくなるんだ」
アサシン「どういうことだ?」
騎士長「簡単にいえば、磁石みたいなもんさ。なんでそうなるかは解明されてないんだが」
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騎士長「これが偶然だと思うか?いや…運命だろうよ」
騎士長「お前が時代を開くことは…出来ないんだ」
警備隊長「くそ…が…」フラッ
…ドサッ…ドバァァ…
警備隊「た、隊長が…」
警備隊「負けた…!!」
騎士団「き、騎士長が…」
騎士団「勝ったぁぁあ!!!」
ワッ…ワァァァァッ!!!!
黒髪少女「騎士長が勝ったよ…お母さん…!」
アサシン「黒髪少女…。本当に…私を母親だって認めてくれるのか…?」
黒髪少女「お母さんはお母さんだよ…っ」
アサシン「黒髪少女っ…!!」ギュウウッ
副長「警備隊、武器を捨てよ!お前らの負けだ!」
警備隊「…っ」
ガランッ、ガランガランッ!!ガシャガシャッ…
騎士長「全てとは言わないが…王都の穢れだった王は死んだ…」
騎士長「次の時代は…もっと笑顔で、幸せで…」ゴホッ…
騎士長「そして…見てるか、王子。これで満足してくれるか…!」
カツ…カツ…カツ…
騎士長「ん…」
アサシン「…騎士長、ありがとう。心からお礼を言うよ」
黒髪少女「これで全部終わったんだね。もう、私みたいな人は出ないんだよね」
騎士長「あぁ…終わったよ…」ニコッ
フラッ…
騎士長「お、おいおい。血で塗れちゃうよ…」
アサシン「気にするものか。一緒に歩こうじゃないか。肩を貸すよ」
騎士長「ふっ…」
黒髪少女「私も、一緒に歩く。私は左肩っ」ギュッ
騎士長「…幸せもんだな俺は。こんな可愛くて、美しい二人に肩を支えられるんだから」
アサシン「ばーか、何言ってるんだか…」
タッタッタッタッタッ…ビシッ!!
副長「騎士長…改めて、ご苦労様でした」
副長「これから、どうすればいいでしょうか。王を含む幹部が亡くなり、警備隊長は負けました」
副長「実質、これからのリーダーは貴方なんです」
騎士長「何言ってやがる。俺は元、騎士長だ」
副長「しかし…、この王都に頼れる人は貴方以外にいないのですよ。騎士長」
騎士長「そうは言ってもな…、俺は人の上に立つ器じゃ…」
副長「もう元ではありません。”騎士長”ですよ、貴方は」
騎士長「…」
副長「そ、そうですよね…」
騎士長「…悪いな」
副長「いえ…。では、この場の収拾だけどうすればいいか、お願いしてもよろしいでしょうか」
騎士長「仕方ねえな…。まず…、王が死んだ事は表に出すな…。まだ早すぎる」
騎士長「それと警備隊はまだ、地下牢へ閉じ込めておけ。一人一人の尋問は後日だ」
騎士長「警備隊長は厳重警戒にしろ…。だが、全員に拷問などはナシだ。きちんと三食与えろ」
副長「はいっ」
騎士長「アルフが撒いた爆発は好都合…、謎の輩の仕業に仕立てる等の策はできる…」
騎士長「とにかく今は、1日でもいいから…休ませてくれ」
騎士団「はっ!」ビシッ
副長「警備隊全員、素直に従え!従わねば、即刻斬る!」
警備隊員たち「…わかりました。従います」
騎士長「あ、そうだ…。地下牢にあの酒場の店主がいないか探してくれ…」
騎士長「もしいなければ、どこかにいないか全力で探すんだ。俺の家で待ってると…伝えてくれ」
副長「…行方不明なんでしたね。分かりました、捜索しておきます」ペコッ
騎士長「さて、帰ろうかね…俺の家に。案内するぜ…」
アサシン「あんたの家かぁ、楽しみだねぇ」
黒髪少女「すっごい大きいんだよ、騎士長の家!」
アサシン「なんだとぉ、この金持ちめぇ!」
ワイワイ…ガチャッ、バタンッ…
副長「…相変わらず、尊敬できる人だ。殴ったこと、後で改めて謝らねば…」
タッタッタッタッ、ビシッ!
騎士団「報告します!」
副長「なんだ?」
騎士団「警備隊を牢に入れようと開いた際、詰められた奴隷たちが沢山いまして…」
副長「…恐らく、怖がっているだろう。温かい食べ物と服を着せ、保護するんだ」
副長「それぞれの国、村に戻してやろう」
騎士団「それがいいですね。あと…」
副長「まだあるのか?」
副長「…ふむ」
………
……
・・・・・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・・・
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・・・・
・・・
・・
・
旧王政の実態が表へ出ると、砂漠地方は当然怒りをあらわにし、
戦争が勃発する寸前まで互いの国家は緊迫した。
一触即発の事態だったが、そこで活躍したのは”砂漠の英雄”であるアサシンだった。
彼女は自らが砂漠地方の政治へと立ち、率先して王都との関係を修復しようと活動した。
英雄であった彼女に賛同する者は多く、
時間がたつと共に落ち着いていったのだった。
そして―――……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 数年後・王都 】
ガヤガヤ…ワイワイ…
側近(副長)「…王様。今日は祝賀会の日です。早く準備をしてください」
王様「分かってるよ。未だにこういうのは慣れないんだ」
側近「…はぁ、相変わらずですよねえ」
王様「俺さ、考えたんだ」
側近「何をですか?」
側近「はっ!?」
王様「あとはお前に頼むよ」
側近「そ、そんなバカなこと言わないでくださいよ!」
王様「ここまで国を立ちなおした、それだけで充分じゃないか?」
側近「確かに、あの日から比べれば素晴らしい成長です。ですが、まだ安定したとはいえない…」
王様「…これも運命だっていうのか?」
側近「あの日、あの時!あなたを皮肉にも守った”敵のロケット”…」
側近「あなた自信が、運命だと言ったのですから」
王様(騎士長)「…わかってるが」
側近「貴方は素晴らしい人だ。運命ですよ」
側近「気がつけば周りに貴方より力を持つ人がいなかった…。そうなった意味を考えてください」
王様「…」
側近「ほら、行きますよ」
王様「わかったよ…」
カツ…カツ…カツ…
王様「…」
……
…
騎士長「…良かったな、黒髪少女」
黒髪少女「うん」
アサシン「私は、一旦砂漠地方に戻る。また来るよ」
騎士長「…行っちまうのか?」
アサシン「王都と砂漠地方を戦争にする訳にはいかない」
アサシン「私なら、全員を抑えて納得させる自信があるから」
騎士長「…そうか」
騎士長「…そ、そうだよな」ハハ
アサシン「それと…黒髪少女」
黒髪少女「…?」
アサシン「今更だけどさ、一緒に、家族としての道を歩みたいんだ・・」
黒髪少女「…!」
アサシン「一緒に来てくれないか。あんたが嫌なら私はあきらめる」
黒髪少女「…」
騎士長「…黒髪少女。家族ってのは大事にするもんだぜ」
黒髪少女「で…でも…」
黒髪少女「…騎士長も、一緒に…」
騎士長「…シー」ソッ
黒髪少女「うむっ…」
騎士長「…分かってる。俺だって気持ちは一緒だ」
騎士長「だけど、俺にはやるべきことがある。アサシンにも、アサシンにしか出来ない事がある」
騎士長「だから…その言葉はまた今度に取っておいてくれ…な?」
黒髪少女「…」
アサシン「…騎士長」
騎士長「そしたら…胸張って顔を合わせたい。そして、言いたい事がある」
騎士長「本当はもう言うつもりだったが、こんな状況じゃ言うこともできん」ハハ
アサシン「…」
黒髪少女「…」
騎士長「それまでは、待ってくれ。お前が良ければ…だが」
アサシン「…私に惚れたのか?」クスッ
騎士長「ははっ、さぁな。黒髪少女…また、会おうな」
黒髪少女「騎士長…っ!」
騎士長「それじゃあな。俺は仕事があるんだ!」クルッ
黒髪少女「あっ…!」
アサシン「…本当にありがとう…」
黒髪少女「あ…ありがとう…騎士長…っ!絶対、また来るから…絶対…!!」
カツ…カツ…カツ…カツ…
騎士長「ばっかやろう…」グスッ…
――――【 パーティ会場 】
王様「はぁ…」
王様(男らしくかっこよくと思ったものの、あれから4年、いや5年になるのか…?)
王様(国の立て直しに時間を置きすぎた。俺がずっと想ってても…女々しいだけというか…)
王様(もっと素直になれば良かった…。後悔だけだ…)ハァ
側近「ちょ…ちょっと…この日に、そんな顔を見せないでくださいよ」
王様「…分かってるよ」
王様「分かってるよ!」
…コンコン
側近「って言ってる傍から、ほら来ましたよ!!」
ガチャッ、ギィィィ…
王様「へいへい、いらっしゃーい」
側近「もー!!そんな顔して!!」
王様「へんっ」フン
タッタッタッタッ…!!
???「おい、そこの王様!」
王様「あん?なんだ口のわりぃ首脳だな…」
ゴツッ!!…ドサッ…
王様「」
???「何してるんだ、そんなしみったれた顔をして!」
???「それでも一国を背負う主か?しばらく会わない間に、そんな腑抜けになったのか!」
王様「こ、この懐かしい痛みは…」ハッ
アサシン「久しぶり。騎士長!」
王様「…アサシン!」
アサシン「お互い、国に帰ってから忙しくて…会えなかったけど、また顔を見れて嬉しいよ」
王様「…っ」
アサシン「…」
アサシン「…」
王様「お前は頑張ってるな。話は聞いてるし、スゲェよな。俺なんてこんなんで王だぜ」
アサシン「まぁね」
王様「俺は嫌気がさしてな…。どうしてこんな事になっちまったんだろうなって」
アサシン「確かに、人の上に立つ技量はあるけど気持ちが着いていかないもんね、アンタ」
王様「やかましいわっ!」
アサシン「はっはっはっ!」
王様「…黒髪少女は元気か」
アサシン「…元気だよ」
王様「そうか。俺のこととか、話たりするのか?ボーイフレンドは出来たのか?何か変わったか?」
アサシン「お、おいおい。そんな一辺に話されても」
王様「そ、そうか…」
王様「…はぁ」
アサシン「あのさ、そんなに気になるなら…自分で聞けば?」
王様「あん?」
アサシン「入りなよ、黒髪少女!」
ガチャッ…ギィィ…
王様「…!」
黒髪少女「…」ペコッ
王様「く…黒髪少女…?」
王様「…っ」
黒髪少女「…」
アサシン「何か声かけてやりなよ。お互い緊張してどうするんだ!」
王様「そ、そうか。そうだな…黒髪少女、すっかり…大人になって…」
黒髪少女「え、えへへ…」
王様「また会えるなんて思ってもいなかった…嬉しいよ…」
黒髪少女「…うんっ」
黒髪少女「…」
王様「なんだ?」
黒髪少女「そ、そっちに行っていい…かな」
王様「当たり前だ。…抱きついてくるか?なーんてな」ハハハ
黒髪少女「…っ!」ダッ
タッタッタッタッタッタッ…ダキッ…
王様「!」
黒髪少女「会いたかった…騎士長…。ちっとも変わってなくて、安心したっ…」ギュウウ
王様「立派な王様の立場にはなっちまったがな」ハハ
王様「…そうかもな」ニコッ
黒髪少女「うんっ…」
王様「で、話をしたい事があるんだって?」
黒髪少女「…」チラッ
アサシン「うん、いいよ」
黒髪少女「…」スゥゥ
黒髪少女「…」ハァァ
王様「?」
側近「…」フフッ
王様「何だそんな事か。そんなの当たり前だ…」
王様「って、今なんて言った!?」
黒髪少女「…ダメ、かな」
王様「え…えぇぇっ!?」
アサシン「うるっさ!」
王様「だ、だってお父さんって、どういうこと!?」
アサシン「…ダメか?もう、こんな歳の離れた私じゃ、受け入れてもらえないかな」
王様「そ、それってどういうことーっ!?」
王様「なっ…」
黒髪少女「騎士長と離れて、もっともっと寂しくなって…。お父さんになってほしくなって…!」
王様「い、いや…ちょっ、混乱してるんだよ!」
側近「あ~あ。砂漠の英雄が政府を止めてまで本気の求愛、これは断る理由がないですねぇ?」
王様「はっ?」
側近「残念ですが、あー非常に残念ですが、王様は今日でやめるしかないですねー」
側近「あなたの意思は私が継ぐから安心してくださいー」
側近「さ、さぁ~?」タハハ
黒髪少女「…」ニコッ
アサシン「…いい、かな。こんな私でもさ」
王様「…そ、それは…」
側近「素直になりましょうよ。毎日、黒髪少女さんとアサシンさんの写真を見てため息ついて…」
王様「て、てめぇコラ!!」
王様「あっ、俺の王冠を!」
側近「それと…はいっ!入ってどうぞ~」
ガチャッ…ギィィ
王様「今度は誰だよ!」
トコトコ…
アルフ「や~久しぶり!」
王様「アルフ!!」
アルフ「覚えてたの嬉しいねぇ。でさ、新作のカラクリが発明したんだ」
王様「久々に会ってそれかよ!一体なんだよ!」
…ボワッ!!モクモク…
王様「うっぷ!何だこの煙…!」
アルフ「俺からの、最高のカラクリの贈り物さ。それもう一回」パチンッ
モクモク…ヒュウウッ…!!
王様「ごほごほ…。今度は風か!?だけどこれで煙が晴れてー……」
王様「…!」
アサシン「…」キラキラ
王様「お前、その格好…」
王様「い、いや…すげぇ…ドレス、似合ってるよ…」
アルフ「はいはーい。次はこれ」パチンッ
ガァァァッ…!!ゴゴゴゴ…
王様「か、壁が割れてく!?」
ゴゴゴゴ…ゴゴ…
王様「…って、はい?」
街人「おめでとうございまーす!!」
街人「きゃーキレーイ!!」
ワイワイ…ガヤガヤ…!!
王様「…っ」ヒクッ
アサシン「…あはは」
黒髪少女「えへへ!」
側近「さぁさ、その王様のお召し物も脱いで!これで、貴方はもう王様ではありませんよ!」グイッ
黒髪少女「騎士長♪」
騎士長(王様)「…ま、まじでいつからコレを計画してたんだお前ら…」ピクピク
アルフ「ささ、そんな事より最後のカラクリ!」パチンッ
ボワンッ!!
側近「えーごほんっ、これより…騎士長とアサシンさんの式を始めたいと思います」
騎士長「こ、今度はお前が神父の格好か。どこまでも楽しませてくれるな…オイ」
側近「何でしょうか」
アサシン「貴方の本当の気持ち、聞いてない。それじゃ納得がいかない!」
騎士長「…」
アサシン「気持ちをきかせて。こんな私を、受け入れてくれますか…?」
騎士長「…」
騎士長「それは断る」
側近「!?」
アサシン「えっ…」
黒髪少女「えっ、き…騎士長…?」
アサシン「…?」
騎士長「俺は、女に主導権を握られるのは好きじゃないってな!!」ニカッ
アサシン「…っ!」ハッ
黒髪少女「騎士長っ!」
騎士長「こんな中途半端な格好で、告白もくそもあるか!」
騎士長「アルフ、準備はあるんだろ!俺に正装、着せろや!」
アルフ「そう言うと思って!」パチンッ
…ボワンッ!!
騎士長「ほぉ、どういう仕組みか知らないが…いい服だ」
アルフ「ははっ!」
騎士長「音楽隊、鳴らしていけ!踊れ!国民たち…もっと声をあげてくれ!!」
ウオオオッ!!!!
ジャジャジャー!!♪
騎士長「それでいい、俺は俺らしく、楽しく行こうぜ!」
アサシン「…!」
騎士長「こんな騒がしい俺だけどな…アサシン、話を聞いてくれるか」
アサシン「…はいっ」
騎士長「俺は、傷だとか、過去とか、関係ないと思ってる。そういや昔、お前とそれでケンカしたっけなあ」ハハ
アサシン「…」
騎士長「分かってると思うけど、今は勢いだけに任せたあの頃と違う」
騎士長「この数年、悩んでいたし…忘れられなかった。お前の言った、男女が分かり合うのは一瞬で充分だって言葉も」
アサシン「…うん」
騎士長「だから…俺から言わせてくれ」
騎士長「お前と、生涯を歩みたい。これからも一緒に生きていきたいっ!!」
騎士長「俺はバカだから、心に響く言葉は言えないし、軽い言葉に感じるかもしれない」
騎士長「だけど…こんな俺でもいいなら…お願いします」スッ
アサシン「…はいっ」ニコッ
黒髪少女「…!!」
側近「やれやれ、王様の仕事は大変そうですが…二人が幸せなら嬉しいですよ」
アルフ「おめでとう、二人とも」
街人たち「おめでとう!!」
ワァァァァッ!!!!
黒髪少女「”お母さん”」
黒髪少女「…おめでとう♪」
…ニコッ
・・・・・・・・・・・・・
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王様は、自分のやぼうのために、
ざんにんで、ひどいことをたくさんしていたのです。
ひとびとは、王様はわるいやつだ!といいました。
ですが、王様は「王様だから、じゆうでいいんだ!」と
言って、人々のことを無視しました。
そんな時です。
王様に、はむかう一人の騎士がいました。
そしてその騎士は、おちこみました。
ですが、そのときです。騎士はある女の子とであいました。
その女の子は、ゆくえふめいになったお父さんを探していました。
騎士と出会った女の子はおねがいをします。「お父さんを探して」、と。
それをきいた騎士は、いっしょにお父さんを探す旅をすることにしました。
のをこえ、やまをこえ、うみをこえ…
そんな旅のとちゅうで、騎士と女の子に、
さばくのえいゆうと、もりのはつめいかが仲間になりました。
騎士はそれをゆるせなくなり、わるい王様を倒すけついをします。
「ひとびとのために!たたかうんだ!」と。
国へもどった騎士は、わるい王様を仲間といっしょにたおしました。
するとどうでしょう、女の子のまえに、探していたお父さんがあらわれたのです。
女の子は泣いてよろこびました。
わるい王様がいなくなったことで、その国のみんなも、喜びましたとさ…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…パタンッ
黒髪聖女「これで、お話はおしまい。もう遅いから早く寝るのよ?」
男の子「え~!もっと!」
女の子「次のお話はどんなのー?」
黒髪聖女「それはまた明日のお楽しみ♪」
男の子「でもすっごいなー!騎士って、かっこいいな!」
女の子「うんうん!」
黒髪聖女「私は明日の、他の子のご飯の準備もあるんだから忙しいの!」
男の子「っちぇー、おやすみなさーい」
ガチャッ、バタンッ…
トコトコトコ…
黒髪聖女「明日は、久しぶりに卵焼きでもいいかな~…」ブツブツ
…ポンッ
黒髪聖女「きゃっ!」
院長「おっとすまん、驚かせてしまったか」
黒髪聖女「院長…お父さん!」
院長「いつもご苦労様。本当に助かるよ」
黒髪聖女「ううん、私じゃこれくらいしか出来ないから」
院長「はっはっはっ、何を言ってるんだか」
黒髪聖女「ふふっ」
黒髪聖女「そんな…、私、お父さんの夢を聞いた時からずっとこうしたかったの」
院長「夢?あぁ…砂漠の時の…」
黒髪聖女「だから、私は幸せ。お父さんは気にしなくていいの!」ニコッ
院長「…それならいいんだが」
黒髪聖女「…なるようになったから、そうなった。そうでしょ?」
院長「…!」
院長「はは…そうだな。その通りだ」
黒髪聖女「ねっ♪」
院長「もうすぐ、また新しい子供が増える予定なんだ」
黒髪聖女「またっ!?いや、いいんだけど…これ以上は3人で面倒見切れるかなあ?」
院長「お手伝いさんも来るんだよ」
黒髪聖女「お手伝いさん?」
院長「騎士団の引退した人が数人と、砂漠剣士の奴だ」
黒髪聖女「本当に!?」
黒髪聖女「わかった!」
院長「それじゃこっちにおいで。いつものお礼に、用意したものがあるんだ」
黒髪聖女「…?」
カツカツカツ…ガチャッ
院長「…ほら、テーブルの上だ」
黒髪聖女「あっ!」
院長「懐かしいだろう?」
黒髪聖女「チョコレートパフェ…!」
黒髪聖女「え、これって…」パサッ
院長「お前の昔着ていた服を、新しいサイズで探したんだ。今、流行が回ってきたとかなんとか…」ブツブツ
黒髪聖女「嬉しい!で、でもなんで急に…」
黒髪聖女「…」
黒髪聖女「あっ!」
院長「わかったか?今日は…」
黒髪聖女「私たちが、出会った日なんだ!」
院長「そうさ。改めて…お前と会えて良かった思う。ありがとうな」
…ダキッ!!!
院長「ぬおっ!…はっはっはっ!」
コソコソ…
アサシン「…」クスッ
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
また次の作品が出来る事を楽しみにしてる
引用元: 騎士長「王宮をクビになってしまった」