黒髪幼女「…」
騎士長「あぁ、そこで座って待ってろ。準備するから」
黒髪幼女「うん」
トコトコ…ストンッ
騎士長「…寝る時の着替えは俺のでも…えーと…」ゴソゴソ
黒髪幼女「…」
黒髪幼女「…騎士長、さん」
騎士長「ん~何だ?騎士長でいいぞ」
騎士長「…ふむ」
騎士長「それはさっきも言った通り、俺が騎士…も、元騎士長だからとでもとっておけばいい」ピクピク
黒髪幼女「騎士長さん…だからなの?」
騎士長「まぁそれだけじゃなくて、俺の性格上の問題もあるんだろうがな」
黒髪幼女「…」
騎士長「子供を放っておけないっていうかな、縁ってのも信じるしまぁ…そうなったからそうなったんだ」ハハハ
黒髪幼女「そうなったから、そうなった…」
黒髪幼女「…」
騎士長「まぁ今は、受けた依頼を完遂するまでさ。ほら、服を脱げ。シャワーで先に体洗いながら風呂をためるぞ」
黒髪幼女「そっか…。う、うん」
トコトコトコ…ガチャッ
黒髪幼女「…」
ゴソゴソ…パサッ…
騎士長(…本当に人形みたいだな。そして小さい…こんな子供に酷い思いを…。胸糞すぎるぜ…)
騎士長「お、おう…って!!お前背中見せてみろ…!」グイッ
黒髪幼女「あうっ」
騎士長「…っ!」
黒髪幼女「…」
騎士長「何てキズ跡だ…。ひ、酷過ぎる…鞭で叩かれていたからか…」スッ
…ズキッ
黒髪幼女「…っ!」
騎士長「あっ、す、すまん。痛かったか」
黒髪幼女「ううん…大丈夫…」
騎士長「ちょっと待ってろ、確か…」ダッ
タッタッタッタッタッタ…ゴソゴソッ…ガターン!!
黒髪幼女「!」ビクッ
タタタタタッ…
騎士長「はぁはぁ…あったあった。キズがひどいのは背中と…首筋か。動くなよ」
黒髪幼女「?」
騎士長「生傷とかに効く薬だ。少し麻痺する成分が入ってて、水にも強くなる高い薬なんだぜ?」
騎士長「風呂に入っても痛くはなくなるだろう。さすがに思いっきりは洗えないだろうが」
黒髪幼女「…」
騎士長「すぐに効くと思うぞ。普段からキズばっか負ってる生活だったから、必需品なんだよ」
…パァァッ
黒髪幼女「あ…、痛みが…」
騎士長「なっ?さて、風呂だ風呂!」
黒髪幼女「…うんっ」
ゴォォォッ…
騎士長「風呂気持ちよかったろ?これは風魔法を応用した、カラクリ用品だ。髪の毛が乾くのも早いぞ~」
黒髪幼女「少し温かくて気持ちいい」パサパサ
騎士長「風邪引くと困るしな」
ゴォォ…
騎士長「本当に最近、良いカラクリ用品がよく発明されてなぁ」
黒髪幼女「…カラクリ用品って何?」
黒髪幼女「うん、聞いた事ない」
騎士長「魔法を封じ込める技術があるんだが、それを放出させる技術のことだ」
黒髪幼女「…うーん、わかんない」
騎士長「お前の住んでた所、夜の明かりはまだ火明かりだったか?」
黒髪幼女「うん。あと月が綺麗だったよ」
騎士長「じゃあ、今、天井に付いてる”電灯”からの明かりを見るのは初めてだろう」
黒髪幼女「うん…何でこんなに明るいの?」
黒髪幼女「…?」
騎士長「数日に1度、チャージする業者みたいなのがいてな…それが月の支払いがそれなりに大変で…」ハァァ
騎士長「自分の魔力もやれればいいんだろうが、普通は不可能で。それを可能にするのがカラクリの…」ブツブツ
黒髪幼女「…??」
騎士長「…まぁ、不思議な技術ってことだ!」
黒髪幼女「そうなんだ」
騎士長「…お、おう。風呂上がりだし…牛乳でも飲むか?」
黒髪幼女「うん」
黒髪幼女「わかった」
タタタタッ…ストンッ
騎士長「さーて、ミルク…ミルク…と」
ゴソゴソ…カランカランッ
トプトプッ…
騎士長(普段は俺一人だから、こういうのもなんか新鮮だな)
騎士長「お、丁度1杯分か。うっし、黒髪幼女…牛乳飲め…」クルッ
黒髪幼女「…」スヤッ
騎士長「…あら」
黒髪幼女「…」スヤスヤ
騎士長「…ま、そうだよな。疲れてるもんな…、牛乳は俺が飲みますかーっと」
グビッ…グビグビ…
騎士長「ぷはっ。はぁ…さて、寝室に運んで俺は明日の準備でもしておきますかね…」
トコトコトコ…ヒョイッ
騎士長(…少しは、ゆっくり休めてるようで良かった。そうじゃなかったら寝るなんて事、ないもんな)
トコトコトコ…ギィィ…バタンッ…
騎士長(よいしょっと…)
…ゴロンッ、パサッ
黒髪幼女「ん~…」
騎士長(毛布もしっかりかけたし…俺は準備しに…)
…グイッ!
黒髪幼女「…」ギュ…
騎士長「んっ?」
騎士長「…服を、離して頂けませんかね黒髪幼女さ~ん」ボソボソッ
…グイッ…ギュゥゥ…
騎士長「…」
黒髪幼女「…」スヤスヤ
騎士長「…はは、仕方ない。準備は明日でいいか…」
…ゴロンッ
騎士長「お休み~…」
黒髪幼女「ん…」
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
・
「火の手が南側から!!」
「だ、誰かが村を襲ってるぞぉぉ!」
「逃げろ…うわあっ!」
「きゃあああっ…!」
バキィ!!グサッ…
「た…助け…」
「ふはは、やりがいのない仕事だと思ったが、中々快感だな」
…ゴォォォッ…パチパチッ…
「やべえ、俺らも燃やされる前に、早く奴隷車に村人つめろ!」
タッタッタッタ…ピタッ
「ん?…おい、そこに誰か隠れてるのか?」
黒髪幼女「!」
「なぁんだ、可愛い子だな…ほら、こっちおいで…」
…グググッ…
黒髪幼女「…っ!!」
「おい、そいつはさっき俺らの仕事をくれたやつの娘だ、”少しだけ”丁重に扱ってやれ」
「あ、そうなんだな。じゃあ…少しだけ優しくしよう。少しだけな」ハハハ
スッ…
黒髪幼女「や…」
「ははは!さ~…捕まえたぜ…」グイッ!!
黒髪幼女「や…嫌…!」
…
……
………
――――【 次の日・朝 】
…ガバッ!
黒髪幼女「…嫌だっ!!」
黒髪幼女「…っ」ハッ
騎士長「…おはよう、黒髪幼女」
黒髪幼女「あっ…」ハァハァ
騎士長「怖い夢を見たんだな…。落ち着け…大丈夫だ、ここには怖い奴はいない」
騎士長「…」
黒髪幼女「…」ブルッ
騎士長「…黒髪幼女」
黒髪幼女「…なに?」
…グイッ…ギュウッ!
黒髪幼女「!」
騎士長「親父とは違うだろうが、抱きしめて…こうすれば少しは落ち着けるか…?」
騎士長「俺は…子供と遊ぶとか…付き合った経験がほとんどないから分からないんだ」
騎士長「だから、今…苦しむお前を見て…どうしたらいいか分からない。こうして抱きしめることしか…すまんな…」
黒髪幼女「な…何で…、騎士長が謝るの…?」
騎士長「さぁな…俺もよく分からん!」ハハハ
黒髪幼女「…っ」
黒髪幼女「…騎士長」グスッ
騎士長「ん?」
モゾモゾ…グリグリッ
黒髪幼女「ごめんなさい…もうちょっとだけ…」
騎士長「あぁ、気の済むまで…な」
カチャカチャッ…ジャアアッ…
騎士長「美味かったか?俺のお手製の、朝ごはん」
黒髪幼女「うん、美味しかった」
騎士長「昨日のレストランのチョコレートパフェとはどっちが美味かった?」
黒髪幼女「えっ…えと…その…」モジッ
騎士長「はははっ、悪い悪い。チョコレートパフェのほうが甘くて美味しいよな~」
黒髪幼女「うぅ…」
騎士長「出発前の準備で食料も一応買ってくし、チョコレートなんかも買っていくか?」
騎士長「それか…チョコレート以上に食べたいのとかあるか?何でもいいぞ」
黒髪幼女「じゃあ…パ、パンとか…」
騎士長「…パン?」
黒髪幼女「私の住んでた所で、いつも焼きたてのパンと果物を合わせたみたいなの…食べてて…」
騎士長「…あ~…待て。ちょっと待て」
黒髪幼女「?」
騎士長「聞いた事あるぞ…確か…」
黒髪幼女「バスプーサ」
騎士長「バスプーサ」
黒髪幼女「!」
黒髪幼女「知ってるの!?」
騎士長「一応、知ってることは知ってるが…ありゃパンじゃないんだ」
黒髪幼女「え、パンじゃないの?」
騎士長「どっちかっていうとケーキだな。これに近いのはあるが…日持ちしないだろうな~」
黒髪幼女「そっか…」
騎士長「…なぁに、すぐに砂漠街で食べれるさ。確かバスプーサは砂漠地方の…有名な伝統のお菓子だったはずだ」
黒髪幼女「そうなんだ」
騎士長「そうさ。それまでは少しだけ、別ので我慢してくれな」ハハッ
黒髪幼女「うんっ」
黒髪幼女「わかった」
騎士長「馬車でまず南側の港まで行って、船に乗って行こう」
黒髪幼女「お船…、私、来るとき…お船に乗ってないよ?」
騎士長「遠回りに通ってきたんだな。だけど、早いほうがいいだろうし、快適な海の旅を~ってね♪」
黒髪幼女「…うん」
騎士長「客船で一晩…いや、二晩くらいか。乗り物酔いとかは大丈夫か?」
黒髪幼女「うん」
騎士長「まぁここでウダウダ言っても仕方ない。…とりあえず出発しないことには始まらないか」
騎士長「んじゃ、まずは馬車乗り場に行くか」
黒髪幼女「わかった」
――――【 馬車乗り場 】
パカッパカッ…
馬車乗り「おーい!こっちですよ!」
受付員「3番乗り場、発車いたしまーす!準備してください!」
ワイワイ…ガヤガヤ…
黒髪幼女「…!」
騎士長「はは、びっくりしたか?」
黒髪幼女「すごい人…」
黒髪幼女「よくわかんないけど…すごい人が多い」
騎士長「とりあえず、凄い所ってことだ」
黒髪幼女「凄い所なんだ…」
騎士長「俺らが乗るのは7番乗り場。南側の港まで直行便だ」
黒髪幼女「もう乗るの?」
騎士長「いや、近くに物販店があるから保存食とか食料品を少しだけ買っていく」
黒髪幼女「少しだけでいいの?」
騎士長「あとは港とか、砂漠街に向かう前に追々と買ったほがいいしな」
黒髪幼女「うん」
黒髪幼女「…」
騎士長「バスプーサか…、さすがにこの辺じゃ売ってないだろうしなぁ」
黒髪幼女「何でもいい」
騎士長「バスプーサ…やっぱり砂漠地方まで作り手もいないだろうし…いつもの所で買うか。こっちだ」
黒髪幼女「うん」
タッタッタッタッタ…ガチャッ!
騎士長「おーい、いるかい」
弁当屋「はいよー…って、騎士長サンじゃないか」
騎士長「よっ、久しぶり」
騎士長「度々、遠征に行く時はここを利用してたからな。顔なじみなんだ」
黒髪幼女「そうなんだ」
弁当屋「あれっ、騎士長さん!まさか…娘!?」
騎士長「違う違う、ちょっとした知り合い…みたいなもんだ」
弁当屋「なんだよビックリした。で、馬車乗り場って事はまた仕事かい?今回はどこまで?」
騎士長「ちょっと遠出なんだ」
弁当屋「そうなのかい。じゃあ、弁当は何にする?」
騎士長「ん~…日替わりだとか、オススメは?」
騎士長「ご当地…なんだそりゃ」
弁当屋「世界の食べ物を、2週間単位で限定でまわして販売してるんだよ」
騎士長「…ほう、今のご当地弁当はなんだ?」
弁当屋「今は北の大地の恵み、高級魚を使ったお魚弁当だね」
騎士長「なんだそうか…」
弁当屋「何か不満そうだね。どうかしたのかい」
騎士長「いや~実はな…」
弁当屋「…え?砂漠地方のお菓子…バスプーサも含めた弁当はできるよ?」アッサリ
騎士長「何だって!」
黒髪幼女「!」
弁当屋「ちょうど、明日から入れ替えでね。砂漠地方の伝統料理をモチーフにしようとしてたんだ」
弁当屋「だから材料はもうあるし、今日の夜から作り置きしようとしてたしね」
騎士長「じ、じゃあ頼めるか?2つ。多少高くてもいいぞ」
弁当屋「ははは、やだな。別にいつもの値段でいいよ」
黒髪幼女「うん…!」
騎士長(少しずつだけど、元気にはなってきたかな)
弁当屋「じゃあ、2つでいいんだね?」
騎士長「頼んだ」
弁当屋「そうなると作り置きはないから…今から作るし、ちょっとだけ時間もらうよ」
騎士長「どうせ7番線の出発は2,3時間後だ。その間、近くの物販店をいろいろ見てくるさ」
弁当屋「はいよ~」
騎士長「んじゃまた後で」
弁当屋「ほいほい」
トコトコトコ…
騎士長「良かったな」
黒髪幼女「うん」
騎士長「さて、時間もあるし…整えるものも弁当くらいだしなぁ」
黒髪幼女「装備…武器とかはいいの?」
騎士長「あぁ、どうせ使う機会も少ないだろう。今持ってる王宮の備品で充分だと思うぞ」
黒髪幼女「充分なんだ」
騎士長「ま~武器はいいとして…ん~…」チラッ
“ショップ・旅人ウェア”
騎士長「…よし!」
騎士長「こっちだ、お前にいい物を買ってやろう」グイッ
黒髪幼女「わ、私にいい物…?」
タッタッタッタ…ガチャッ!!ガランガランッ…
騎士長「ここだ」ニカッ
黒髪幼女「…服屋さん?」
騎士長「こういう乗り場では、洋服っつー珍しい服を扱っていてな。旅に行くならお洒落も必須だろ!」
黒髪幼女「で、でも…私、昨日…服買って貰ったよ?ほら…今着てるし…」
騎士長「そういうのじゃなくてなぁ」
黒髪幼女「?」
黒髪幼女「…」
騎士長「あった、こっちだ」
トコトコトコ…
騎士長「見ろ!昨日よりも、可愛い服がいっぱいあるだろ!」
黒髪幼女「!」
騎士長「さぁ、好きなのを選べ!!」ハハハ
黒髪幼女「…え、えっ」アセッ
騎士長「…ないか?」
黒髪幼女「そ、そうじゃないけど…突然で…あの…」
黒髪幼女「何で…急に服…なのかなって。それに、色々ここまでしてくれるなんて…」
騎士長「…」
黒髪幼女「…」
騎士長「…子供がそういう事を気にするなって言ってるだろ。それに、昨日説明したはずだが?」
黒髪幼女「で…でも…」
騎士長「お前はさ…今日という時に、こういうチャンスを得たってだけだと思うぜ」
黒髪幼女「チャンス?」
騎士長「この世はな、生きてる限り幸運と不運が付きまとう。わかるか?」
黒髪幼女「うん…なんとなく」
騎士長「生きている今、この瞬間も、お前には偶然だの…運命だの色々な事が渦巻いてる」
黒髪幼女「…」