黒髪幼女「うん」
騎士長「お前が、奴隷にならなかったら…。この王国で、あの時間にあの酒場に来なかったら…この瞬間はなかった」
黒髪幼女「…」
騎士長「ま、まぁなんだその…俺が王国をク…クク…、クビにならなければ…」ピクピク
騎士長「お前は別の奴と会ってたのかもしれん。それこそ、お前を物としてしか見ない奴とかな」
黒髪幼女「…うん」
騎士長「その偶然が重なり、運命となって、今…お前はお洒落な服を手に入れる事ができるということだ!」
騎士長「人生ってのは、偶然に偶然で、それがチャンスを生む」
騎士長「確かに謙遜だのも大事だが、受け取れるものは受け取っておくのも…悪くないんだぜ?」ニカッ
騎士長「だいぶはしょったが…難しいか?まぁこれは俺の人生論みたいなもんだしな」ポリポリ
黒髪幼女「とにかく今は…遠慮するなってこと…?」
騎士長「そうだぜ!」ハハッ
黒髪幼女「…」
騎士長「それにな…」スッ
…ナデナデ
黒髪幼女「んっ」
騎士長「俺だって、お前みたいな子の話を聞いて、元気にさせてあげたいとは思える大人なんだ」
騎士長「俺のワガママでもあるが、お前に少しでももっと元気になってほしいからさ」
騎士長「…まぁ、大人の責任ってやつもある。子供は大人が引っ張らないで、どうするんだって話だ」
黒髪幼女「…」
騎士長「同じ大人として、お前の面倒を見る責任もあるってことさ」
黒髪幼女「色々助けてくれて、優しくしてくれるのは…それも、王国の”騎士長”だから…?」
騎士長「いや、ここまで来ると俺は単に面倒見がいいっつーか…人が良すぎるのかもしれんがな」ハハハ
黒髪幼女「…」
騎士長「ってなわけで、好きなのを選べ!目いっぱいお洒落しようぜ!」
黒髪幼女「…うんっ」
騎士長「これなんてどうだ?フリフリで可愛いじゃないか」スッ
黒髪幼女「ピンクは派手だよ」
騎士長「む…そうか。ならばこっちはどうだ?最近ちまたで話題の”ゴス口リ”とかいうやつらしい」
黒髪幼女「なんか…凄い服だね」
騎士長「ぬぬ…、じゃあこれはどうだ!」スッ
黒髪幼女「紫色の蝶々の絵の服…だね。可愛いけど…」
騎士長「気に入らないか…う~ん、何色が好きとかあるか?」
黒髪幼女「…わかんない。騎士長が気に入ったのを選んでくれたら、うれしい」
騎士長「そうか。なら…これだぁっ!!」
トコトコトコ…バッ!!!
騎士長「…どうだ?派手過ぎず…中々いいと思うんだが」
黒髪幼女「うん、可愛いと思う…!」
騎士長「お前にぴったりだと思うぞ!」
黒髪幼女「そ、そうかな…?」
騎士長「試着室で着て来い。サイズもたぶん合ってると思うが一応な」
黒髪幼女「わかった」
タタタタタッ…
騎士長「よし…店員さーん!」
店員「はーい!」
店員「はい、準備致します、えーと何着ご用意しますか?」
騎士長「下着は5もあればいいか?それと、さっきの試着させてた服も合わせて値段出してくれ」
店員「目安ですが、下着が2500ゴールドです」
騎士長「ふむ」
店員「それと、先ほどのお洋服…。お子様の服は”10万ゴールド”になります」
騎士長「わかった10万ゴールドな…って!何っ!?」
店員「10万ゴールドです」
騎士長「じゅ…10万ゴールド!?」
店員「あちらの布には、天然ものの魔物、”アラクネ”が生み出す最高級糸が使われております」
騎士長「は…はぁ…」
店員「いかがなさいますか?」
ガラッ!!タタタタタッ…
黒髪幼女「…騎士長」
騎士長「んおっ」
黒髪幼女「服…ぴったりだった。可愛い…似合う…かな?」
騎士長「お、おう!似合うな!すっげえ可愛いぞ!」
黒髪幼女「そ…そうかな?ありがとう…、騎士長」ペコッ
店員「…いかがなさいますか?」
騎士長「…ください」
店員「毎度あり~♪」
トコトコトコ…
騎士長「よかったな…く、黒髪幼女…」ハハ…
黒髪幼女「顔がなんか引きつってるよ…大丈夫…?」
騎士長「大丈夫大丈夫…それより弁当が出来たか見に行こうか…」
黒髪幼女「うんっ」
…ガチャッ
騎士長「おーい弁当屋~」
弁当屋「おっ、来たな。一応出来てるぞ」
弁当屋「それとこれは…サービスだ。食べ歩き用のテイクアウトは普段やってないんだからな?」
スッ…ホカホカ…
黒髪幼女「ばすぷーさ!!」
弁当屋「祖国の味というわけにはいかないだろうが、だいぶ頑張った。食べてみてくれ」
騎士長「お前、この子が砂漠地方の出だってわかったのか?」
弁当屋「そりゃバスプーサだの、この子の薄く褐色がかった肌…。そして人形のような可愛らしさ」
弁当屋「逆に気づかないほうがおかしいと思うぞ?砂漠地方はアレで有名になった地域だしな…」
騎士長「…奴隷問題、か」
弁当屋「まぁな。ってなわけで、食べながら行けばいいさ。これはサービスだ」
黒髪幼女「うん…ありがとう、弁当屋のおじさん」
弁当屋「うむ」
騎士長「準備はこれで終わったし、あとは馬車に乗るだけだな!」
弁当屋「気をつけてな」
騎士長「大丈夫だって。それじゃ、な」ハハハ
弁当屋「おう」
黒髪幼女「うんっ」
騎士長「何があるかは分からん。しっかりと俺を信じて…着いて来いよ」
黒髪幼女「うん、わかったっ」
騎士長(さぁて…どんな展開が待ち受けるか!)
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・・・・
・・・
・・
・
幾時間後の間、ユラユラと馬車に揺られて
港へと向かった――…
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――――【 港付近の道 】
パカッ…パカッ…
馬車使い「この度も、当王都馬車をお使い頂きましてありがとうございました」
馬車使い「まもなく…南港前ー…南港前ー…」
騎士長「…」パチッ
騎士長「…お、いかん…すっかり寝てた」
黒髪幼女「…」スヤスヤ
騎士長「黒髪幼女、黒髪幼女」
…ユサユサ
黒髪幼女「ん~…」パチッ
黒髪幼女「う~…うん…」ムニャッ
騎士長「…黒髪幼女、そこの隙間から外を見てみな」
黒髪幼女「?」
モゾモゾ…シャッ
黒髪幼女「えっ!?」ピクッ
騎士長「ははは、変わった形の木だろ。見たことあるか?」
黒髪幼女「ない…。何か、変な形…」
騎士長「ありゃこの辺が海に近いから、割と強い風が吹くから…それに準じた形になるんだ」
黒髪幼女「へぇ~…ぐにょぐにょ…」
黒髪幼女「へ~…」
…キラッ
黒髪幼女「…あの木の隙間から見えるのは…何?何か光ってる」
騎士長「あれが海さ。まだ遠いが、着いたら砂浜もあるだろうし出発まで見に行こう」
黒髪幼女「…凄い大きそう」
騎士長「大きいってもんじゃないさ。まぁ楽しみにしておけ」ハハハ
黒髪幼女「う、うん」
馬車使い「え~…南港。南港に到着致します」
馬車使い「到着後、船に乗る方々はチケット売り場からどうぞ~…」
騎士長「おし…降りるぞ」
黒髪幼女「わかった」
――――【 南 港 】
ガヤガヤ…ワイワイ…
黒髪幼女「わぁ~ここも人が多いね」
騎士長「この辺も一応、世界への貿易だの旅人が旅立つ場所だからな」
黒髪幼女「へぇ~…」
騎士長「海を見に行く前に、チケット売り場に行かないとな。えーと…」キョロキョロ
タタタタタッ…ドシンッ!!
騎士長「いてっ!」
男B「ばか、何してんだ!」
騎士長「ってぇ…前をきちんと見てくれよ」
男A「はい、すいませんでした」
男B「バカなやつなんでね。早く行くぞ!遅れたらどうするんだ!」ダッ
男A「あ、待ってくれよ!」
タッタッタッタッタッタ…
騎士長「…何だあいつら?」
黒髪幼女「なんか急いでたみたいだね」
騎士長「まぁいいや、チケット売り場はこっちだな」
騎士長「おーい、すいません」
受付「はいどうぞ」
騎士長「砂漠街…砂漠港行きの船に乗りたいんですが」
受付「ただいま、砂漠港行きの船は出航済みです。次の出航は3日後となっています」
騎士長「何だって!?」
受付「申し訳ありません」
騎士長「そ、それなりに急いでるんだが…」
受付「砂漠港に直接往復はしませんが、本日出航するワールドクルージング船なら一時、補給に着港予定とはなっています」
騎士長「…高級船か?」
受付「交易ルートを借りて、高速でかつ快適に海を楽しむツアー船ですので…」
受付「可能ではあります。ですが、本来はそちらの予定ではないので、料金は非常に高くなりますよ」
騎士長「いくらだ?」
受付「乗船料がお一人15万、二等客室が8万、一等客室が15万になります」
騎士長「…」
受付「…」
黒髪幼女「…?」
騎士長「そ、それなら空いてる…か…?」ピクピク
受付「空きはございます。出航は本日…まもなくとなっています」
騎士長「わかった…二人頼む…一等客室でな!」
受付「わかりました。では、今チケットのご用意を致しますね」
騎士長「余裕だ。金だとか、色々なのは余裕なんだが…何か納得いかない展開が多くてな」ハァ
黒髪幼女「…?」
騎士長「はは、気にするな…ん?」
…ザワザワ
騎士長「なんかあっち側騒がしいな」チラッ
男A「…だからっ!」
男B「お前は…!!」
騎士長「あいつらはさっきの…、何騒いでるんだ…?」
黒髪幼女「さっきぶつかった人たちだね」
男A「…わかったよ」コクン
男B「ほら、行くぞ…」ダッ
タタタタタタッ…
黒髪幼女「?」
騎士長「まぁ…気にする必要もあるまい。受付さん準備はできたかい?」
受付「それでは…こちらになります」
ゴソゴソ…スッ
受付「一等客室のご案内になります。ありがとうございました」ペラッ
騎士長「ありがとう。出航まで時間があるって言ってたな?」
受付「少しではありますが、ございます」
騎士長「海はあっち側でいいんだったよな?」
受付「そうですね」
騎士長「ありがとう。よし、黒髪幼女…海見にいくぞ!」ダッ
黒髪幼女「うんっ」ダッ
ザザーン…
黒髪幼女「…!!」
騎士長「いやー、海も久しぶりだな。潮風がいい香りだ」
黒髪幼女「お…お水がいっぱい…!」
騎士長「…ん?」
黒髪幼女「凄い…!!」
黒髪幼女「うんっ…!」
騎士長「ハハ、なら感動モンだろ。この広い湖は、どこまでもどこまでも繋がってるんだぜ」
黒髪幼女「そうなの!?」
騎士長(おっ、急に元気に食いついてきたな)
黒髪幼女「そうなんだ…、じゃあ私の村にも…繋がってるの?」
騎士長「あぁ、お前のいた大陸へも繋がってる。そして今から、この海を船で渡るんだ」
黒髪幼女「そっかぁ~…」
騎士長「…はは」
騎士長「それが潮風っつーんだ。そのまんま、塩の匂いさ」
黒髪幼女「何で塩の匂いがするの?」
騎士長「そりゃお前、海が…」ハッ
騎士長「そうだ…黒髪幼女~…」ニタアッ
黒髪幼女「何?」
騎士長「ちょっと、そこの砂浜から…水に指をつけて舐めてみな」
黒髪幼女「飲めるの…?」
騎士長「そんな害のあるもんじゃないさ、少しだけな」
黒髪幼女「わかった」
ザッザッザッザッザ…ストンッ
黒髪幼女「…」ペロッ
黒髪幼女「う゛…う゛ぇ゛…!」
騎士長「はっはっはっは!」
黒髪幼女「しょ…しょっぱい…」
騎士長「悪かったな、海っていうのは凄くしょっぱいんだ。塩が溶けてるからな」
黒髪幼女「塩…って、あの塩?」
騎士長「そうだ。お前が普段から口にする塩も、この海から採れるもんなんだぜ?」
黒髪幼女「…何で、塩が海に溶けてるの?」
騎士長「えっ…さ、さぁ…」