騎士長「え…?全部、王都やら他の国の技術が入ってきたから、全部そうなんじゃないのか?」
ラクダ商人「…あぁ、言い方が悪かった」
ラクダ商人「”技術の譲渡”だけじゃなくて、”その王都出身の人間自身”が自ら作り上げた村なんだ」
騎士長「…どういうことかね。意味が分からないぞ」
ラクダ商人「他の町村は、都市の砂漠街以外、技術を会得した地元の人間が伝えるのが普通だった」
ラクダ商人「だが…その地方村に限り、王都の人間が直接”村民と取引”をして、全て直接指南したらしい」
騎士長「…何だ、その取引っていうのは」
ラクダ商人「さぁな。さすがにそこまでは知らねぇよ」
ラクダ商人「俺らにとってオープンじゃないって事さ。それから、余りにも遠い場所にある村だから関わり合いも少なくなったしな」
騎士長「…へぇ」
ラクダ商人「たまに、その王都の人間がこの港に遊びに来てたのも見たことある」
騎士長「そうなのか。どんな奴なんだ?」
ラクダ商人「見たまんま”いい奴”なオーラが出てるような人間だった。最近は全然見ないんだが…」
騎士長「…」
黒髪幼女「…」
ラクダ商人「ま、俺が知ってるのはその程度…。で、どうする?」
騎士長「ん?」
ラクダ商人「行くなら、ラクダ…用意するぞ」
騎士長「…当たり前だ。一番最高なのを用意してくれ」ニカッ
…グイッ、グイッ!!
ラクダ『ブルルッ…』
騎士長「うおっ!?でっか!」
ラクダ商人「うちで、一番早くて乗り心地のいい奴だ。値段は張るぜ」
騎士長「…」ピンッ
クルクルクル…パシッ!
ラクダ商人「…毎度」ニカッ
騎士長「商魂逞しい奴だぜ」
黒髪幼女「…よいしょっ」
ギュッギュッ…ストンッ
騎士長「おぉ!?黒髪幼女、一人で上まで登れるのか」
黒髪幼女「うん」
ラクダ商人「はっはっは、地元の人間ならそうさ。その女の子も地元の子だろう?」
騎士長「ま…そうだ。じゃあ、えーと…道はどこに行けばいい?」
ラクダ商人「こっち側の点々と設置してる赤い旗伝いに行けば着くようになってる」
ラクダ商人「それをラクダも理解してるから、寝てても目覚めれば地方村さ」
騎士長「じゃあ任せていいっていうことなんだな」
ラクダ商人「あぁ」
ラクダ商人「お、おいおい!…ちょい待ち、あんたら食料や水は?」
騎士長「あ~そうか。はっはっは…危ねぇ!備蓄分をしっかり買ってから行かないと死んじまうよな」
ラクダ商人「くかか…だと思ったよ。横に結んであるのが水と食料だ。サービスさ」
騎士長「…わざわざ?」
ラクダ商人「商魂たくましいっていうのは、商人として上手いからこそだぜ?」
ラクダ商人「今後とも、ごひいきに」ニヤッ
騎士長「…全く、次も是非利用させてもらうさ。じゃ、今度こそ…」
騎士長「出発だ!」
黒髪幼女「うんっ」
ラクダ商人「お気をつけて…」
ジリジリジリ…パカッ、パカッ…
騎士長「あちぃ…」ダラダラ
黒髪幼女「~♪」
騎士長「随分と余裕そうですね、黒髪幼女サン…」
黒髪幼女「全然辛くないよ」
騎士長「そ、そうですか…」ハァ
騎士長「一面の砂とか、遠くに起こってる砂埃…熱い太陽とかか?」
黒髪幼女「うん」
騎士長「地元の人間にはかなわねーや…ハハ」
黒髪幼女「…」
騎士長「…」
黒髪幼女「…」
パカッ…パカッ…パカッ…
黒髪幼女「?」
騎士長「しばらく時間はあるし、何か俺に聞きたいこととか、話をしたいこととかあったら言っていいぞ」
黒髪幼女「聞きたいこと?」
騎士長「俺はお前に色々聞いたけど、お前は俺に何も聞いてないだろう?」
黒髪幼女「…」
騎士長「お話して、もっと仲良くなる大作戦だ。あ…言ったら意味ないか」
黒髪幼女「!」
騎士長「どうだ?何でもいいぞ」
黒髪幼女「ん~…じゃあ、何で騎士長は騎士長なの?」
黒髪幼女「何でもいいって言ったから…」
騎士長「ははは、そりゃそうか。えーとな…、魔物っていうのは知ってるか?」
黒髪幼女「うん。昔からいる、人に悪いことをするやつだよね」
騎士長「そうだ。最近じゃ、王国王都を筆頭にして各巨大国家の戦士育成とかで、随分と対策も進んでるんだが…」
黒髪幼女「うん」
騎士長「やっぱり黒髪幼女のような村を含む、地方に散らばる小さな町村には対抗する力がないんだ」
黒髪幼女「…うん」
騎士長「もちろん、魔物だけじゃなくて盗賊だの…その、奴隷商人だのと言った人が人に害を与える奴への影響もな」
黒髪幼女「…」
騎士長「俺は、そんな奴らに苦しんでる人達を助けたくて王宮騎士へと入った。元々親がいなかったからさ」
黒髪幼女「えっ、親がいない…?」
騎士長「そう。両親は共に、代々王宮に仕える立派な兵士だったらしいんだが…」
騎士長「俺を生んで、遠征討伐に行ったまま…帰ってこなかった。本来なら孤児院に送られるはずだったらしいんだけど…」
騎士長「先代の王が、王宮で育てる事を決意してくれたんだと。そこからは俺もずっと王宮に仕えてきた」
黒髪幼女「そうだったんだ…」
騎士長「記憶はないし、先代のことも知らない。親も知らない。だけど、育ててくれた王宮に恩がある」
騎士長「だから一生懸命働いた。そして、俺のような魔物や賊による子供を二度と出したくないと思った」
騎士長「王室育ちで温い奴が…と思うかもしれないが、少なくとも親がいないっていう辛さは分かっている…つもりだ」
黒髪幼女「騎士長…」
騎士長「そうだなぁ、俺がもし大金を手に入れたら…世界中のそういった子供たちを集めて」
騎士長「世界で一番でかい孤児院でも作って、温かさってのを見せてやりたいかもしれん」
騎士長「夢…夢か。叶えるつもりはあるから、希望っていうのかもしれんぞ」ハハハ
黒髪幼女「…」
騎士長「ま、そんな感じだ。ほかに聞きたいことは?」
黒髪幼女「…うーん。じゃあ、海を見て思ったんだけど…、世界って広いの…?」
騎士長「広い。果てしなく」
黒髪幼女「果てしなく…う~ん…?」
騎士長「王国都市…王都。砂漠街から成る…砂漠地方」
騎士長「大海に浮かぶ島々で作られる島群都市に、氷の大地で形成される氷結大陸」
騎士長「魔法大都市、カラクリ王国、烈火山帝国…まだまだ行ったことのない国々や自然は沢山ある」
騎士長「遠征で俺も何度か行った事ある場所はあるが、まぁ世界の1%も冒険はしてないだろうな」
黒髪幼女「それだけっ!?」
騎士長「そうさ。そして、その数だけ幸せと…孤児もいる。それを救いたいのさ」
黒髪幼女「…!」
騎士長「前に言った、チャンスって覚えてるか?」
黒髪幼女「うん…そうなったから、そうなった。すべては偶然と運命だって」
騎士長「さすがに全てを救うのは無理だろう。だけど、俺が生きているうちに…少しでもそのチャンスを一人にでも与えたい」
黒髪幼女「…」
騎士長「って、またそっちの話に持っていっちまった。まっ、そういうことだって覚えててくれ!」ハハッ
黒髪幼女「うんっ」
騎士長「しかし、無限の砂漠とは良くいったもんだ。旗がなかったら迷っちまうなぁ」
騎士長「でっけぇラクダがいてよかった。少しは寝たり、休憩しつつ向かえるな」
黒髪幼女「…」フワァ
騎士長「お、眠いか?」
黒髪幼女「少しだけ…」
騎士長「ほら、こっちに来い。抱っこしててやるから、少し寝ていいぞ」
黒髪幼女「いいの?」
騎士長「あー、もう!」
…ヒョイッ
黒髪幼女「!」ストンッ
黒髪幼女「…うん」
騎士長「あとで起こしてやるから、少し休め」
黒髪幼女「…うん」
騎士長「…」
黒髪幼女「…」
騎士長「…」
黒髪幼女「…」スヤッ
騎士長「…寝るの早いな」ハハ
黒髪幼女「…」クゥクゥ
ラクダ『ブルルッ!』
騎士長「おう、そうか!」
ラクダ『…』
パカッパカッパカッパカッ…
騎士長「月の~砂漠を~…遥遥と~…♪」
騎士長「旅の~ラクダが行きました~♪」
騎士長「金と銀との鞍を置いて~…二つならんで~行きました~…♪」
…………
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 数時間後 】
…カキンッ!!ガキィン!!
黒髪幼女「…」
ズザザザ…ボォンッ!!
黒髪幼女「…?」ムニャッ
…ジャキィンッ!!
黒髪幼女「何の…音…?」ムクッ
黒髪幼女「…え?」
ズザザザ…グググッ…
騎士長「こ…の、ヒョロヒョロと動きやがって…!」
黒装束「…貴様こそ中々やるな。我が仲間を4人を倒すとは」
騎士長「なんだっつーんだよ…!あいつは俺の依頼主だっつってんだろ!」
黒装束「何を言おうと無駄だ。同族を助け出すのが我らがすべき使命」
騎士長「このやろうっ!」ブンッ!!
黒装束「ふん」ヒュンッ
タァンッ!…クルクルクル…ストンッ
騎士長「この…クルクルと…!サーカスみたいに、妙な動きしやがって…」
黒装束「…ふん」
騎士長「…黒髪幼女、悪い!目ぇ覚めちまったか!?」
黒髪幼女「騎士長、何で戦ってるの!ど、どうしたの…」
騎士長「分からん!こいつらがな…」
ブンッ…ガキィンッ!!
騎士長「ぬあっ!」
黒装束「大人しくあの子を渡せば貴様は見逃してやる。今すぐ立ち去れ!」
騎士長「だからそれは…さっきから出来ない相談だっつってんだろうが!」
黒装束「…どうしても聞き入れぬか」
騎士長「当たり前だろうがぁぁ!」
黒装束「残念だ…。はぁぁっ!瞬斬っ!!」ビュンッ!!
騎士長(げ…!やば…暑さで足が…)
…ズバァッ!!
騎士長「ぬあぁっ!」
黒髪幼女「騎士長っ!!」
騎士長「が…は…」
ポタッ…ポタッ…
黒装束「我が短剣は魔封じの一手。回復技など使わせぬぞ」
騎士長「…っ!」
黒装束「最初から素直に渡せば痛い目をみなかったものを」
騎士長(く…くそ…暑さで思うように動けん…!)
騎士長(そもそも一体こいつらは何なんだ…急に襲ってきやがって…!)
――――【 ほんの少し前 】
パカッパカッパカッ…
騎士長「昼も過ぎて…日が上がってくると本気でヤバイ暑さだ…」
黒髪幼女「…」スヤスヤ
騎士長「よく寝てられるな…」
黒髪幼女「…」クゥクゥ
騎士長「はは、可愛い寝顔しやがって。今の癒しはお前だな」
騎士長「…」
騎士長「…むっ」ピクッ
騎士長「…な、ナイフ!?」
騎士長「うらぁっ!」
ビュッ…カキィン!!
騎士長「な…何だ…!?」キョロキョロ
ザッザッザッザ…
黒装束「ほう、よく今のを避けたな」
騎士長「誰だ!」
黒装束「名乗る名前などない。我らの用件はただ一つ…、その子を大人しく渡せ」
騎士長「…あ?」
黒装束「聞こえなかったか?」
黒装束「何?奴隷狩りだと…。我らをそのような奴らと一緒にするな!」
騎士長「…?」
黒装束「貴様がその奴隷狩りの面子だろう!」
騎士長「ま…待て。俺は奴隷狩じゃない。王宮都市の騎士長だ。訳合ってこの子を地方村まで一旦向かっているんだ」
黒装束「…地方村?」ピクッ
騎士長「そうだ」
黒装束「たわけ…地方村は既に奴隷狩の奴らに廃村となって誰も住んではおらぬ!」
騎士長「村のことを知ってるのか!?」
黒装束「…貴様がこれで嘘をついていることが分かった。その子を、意地でも奪わせてもらう!」ダッ
騎士長「ちょ、ちょっと待てー!」
騎士長(…こいつらの正体は…一体…)ゴホッ…
黒装束「…はぁっ!」タァンッ!!
…ストンッ
黒髪幼女「あ…」
騎士長「な、おい!人のラクダに乗って何をするつもりだ!」
黒装束「王宮の人間なら、この地方のラクダの特性を知らぬだろう」
騎士長「な、何?」
ラクダ『ッ!!』ブルッ
黒装束「…さらば!食料は置いといてやろう、そのまま立ち去るがいい!」
ザッ…ザッザッザッザッザッザッ!!!
騎士長「な…早…!」
黒装束「ははは!安心しろ、我らの同族は我らといるのが一番なのだ!」
黒髪幼女「騎士長っ!!」
騎士長「黒髪幼女ぉぉ!!」
……ヒュウウウッ…
騎士長「な、何て速さだ…!!」
騎士長「何か手は…」
騎士長「…!」ハッ
騎士長「そ…そうだ!!俺が倒したアイツの仲間!あいつらを尋問して…!」クルッ
騎士長「…逃げられた、か」
騎士長「…ははは」
騎士長「…っ」
騎士長「く、くそ…」クラッ
…ドシャアッ……
………
……
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 砂漠の小さな部落 】
パカッパカッパカッ…ズザザ…
部落人「…お帰りなさい、頭!」
部落人「今回の情報、どうでしたか?」
黒装束「ビンゴだ。あの砂漠港の親父、相変わらずいい情報を渡してくれる」
部落人「今回のは…その子ですか?生きてるんでしょうか」
黒髪少女「…」
黒装束「さっきまでずっと泣いていたが、泣き疲れたんだろう。眠ったよ」
黒装束「いや、ちょっと今回は違うらしい」
部落人「…と、いうと?」
黒装束「まぁ、あとでこの子から話は聞くが…」
部落人「ハハ、何があろうと俺たちは頭についていきますよ」
部落人「我ら砂漠の暗殺隠密部隊…アサシン様を筆頭にしたアサシン部隊がね」
アサシン(黒装束)「…ふっ」
――――【 夜 】
ゴォォ…パチパチ…
黒髪幼女「…!」ハッ
黒髪幼女「騎士長っ!」バッ!!
アサシン「よう、目が覚めたか」
黒髪幼女「…ひっ!」ビクッ
アサシン「まぁそう怯えるな。ここは我のテント…何もひどいことはせぬ」
黒髪幼女「き、騎士長を…攻撃した…!」
アサシン「仕方がなかったのだ。お主を救うためにはな」
黒髪幼女「全然救ってなんかいない!!」
アサシン「…それについてだ。さっきの騎士長とかいう奴とのお前の関係を聞かせて貰えないか?」
黒髪幼女「…」プイッ
アサシン「…はぁ、嫌われたものだな」
黒髪幼女「騎士長にひどい事をした…騎士長…に…」
黒髪幼女「…」ジワッ
黒髪幼女「騎士長ぅぅ~…」ポロポロ
アサシン「あぁぁ、な、泣くな泣くな!」
黒髪幼女「うぇえぇぇ~…」グスグス
黒髪幼女「…?」グスッ
クルクル…パサッ…
アサシン「本当はあまり表に顔は出さないんだが。この肌と、この顔立ちで…どうだ?」スッ
黒髪幼女「え…、お、女の人…?」
アサシン「私の名前はアサシン…この隠密集団のリーダーだ」
黒髪幼女「あさ…しん…」
アサシン「先に説明をしてやろう。私たちは、奴隷狩を逆に狩る為に行動している」
黒髪幼女「…奴隷狩りを…狩る?」
アサシン「いくら政府が対策を打ち出したとはいえ、まだまだ奴隷狩りは横行しているんだ」
アサシン「私たちは、そんな奴らから同族…お前のような子供や女、奴隷から解放するために活動しているのさ」
アサシン「だが、あいつはお前を意地になって守ろうとした。それに、依頼とか言っていたな?」
黒髪幼女「…」
アサシン「それと、お前が寝ている間に体を見させてもらった」
アサシン「殴られた跡もなければ、お前を奴隷とした扱いもない。逆にその真新しい服…大切にされているようだ」
黒髪幼女「騎士長は…奴隷だった私を助けてくれた…」
アサシン「…その事に関して、ちょっと詳しく聞かせてくれないか」
アサシン「いいな?」
黒髪幼女「…」コクン
黒髪幼女「…」
アサシン「なるほど、そういう事だったか。まさかあの村の生き残りだったとはね」
黒髪幼女「あの村の人たちは…今、どうなったの…」
アサシン「私の部下が必死に探している最中だ」
黒髪幼女「そっか…」
アサシン「…」
黒髪幼女「騎士長…死んじゃった…の…?」グスッ
アサシン「あぁぁ泣くな泣くな!死んではいないはずだよ!」
黒髪幼女「…え?」
黒髪幼女「…もう、会えないの…?」
アサシン「心配するな。お前の依頼、代わりに私たちが請け負ってやろう」
黒髪幼女「…」
アサシン「…そんな顔をするな」
黒髪幼女「…」
アサシン「…悪いことはした。そこまでの事があると思ってなかったんだ」
黒髪幼女「…」
アサシン「だけどね…私たちも、その境遇から同族以外の人間は信用しないんだ」
黒髪幼女「…」
黒髪幼女「…?」
アサシン「な、何でもない。それよか、腹減ってないか?何か食い物を持ってこよう」
黒髪幼女「…いらない」
アサシン「…」
黒髪幼女「何も食べたくない。もう、誰かを失うのは嫌だったのに…騎士長、優しかったのに…!」
アサシン「…はぁ、分かった。分かったよ」
アサシン「話を聞いてくれ」
黒髪幼女「…何?」
アサシン「もし…もしの話だぞ」
黒髪幼女「うん」