男「……」
男「……」
エルフ「きれい! 明るーい!」
男「……おい」
エルフ「ジュースどこー?」ゴソゴソ
男「おい!」
エルフ「何ー?」ゴクゴク
男(この……)
エルフ「ごめん、もう一杯だけ」
男「……っ」ピキ
エルフ「――ぷはっ」
男「……」ピキピキ
エルフ「で、何?」
男「……座れ」
エルフ「うん」
エルフ「いいよー」
男「俺は誰だ?」
エルフ「次にあなたはここはどこと言う」
男「違う! 記憶喪失じゃない!」
エルフ「じゃあ何?」
男「俺はお前のご主人様だ!」
エルフ「そうだね」
男「俺はお前を買った! お前は俺の所有物だ! そこんとこ分かってるのか?」
エルフ「うん」
男「……ならいいんだ」
エルフ「お菓子ない?」
男「分かってないだろ!」
男「ならそれにふさわしい態度があるだろうが!」
エルフ「オッケー」
男「うん?」
エルフ「要はあたしとヤリタイってことだよね?」
男「なんか違うぞ!?」
エルフ「ベッドはあっちだね。ちょっと整えてくる!」タタタ
男(あああどうしてこうなった……)
男「あ、あの」
商人「ああ?」
男「エルフの、女奴隷が欲しいんだが」
商人「……」
男「……なんだよ?」
商人「若いな」
男「か、金ならある! ほら!」
商人「金がありゃいいってのはいかにも阿呆の若造が考えることだろうが……まあいいだろ、こっちこい」
男(馬鹿にしやがって……!)
男「……」
商人「ちょいとイキのよくないのばかりだがな。あの額じゃこんなもんだ」
男「……弱ってるくらいがちょうどいい」
商人「ん? そういう趣味か? その歳でもう歪んでるんだな」
男「うるさい」
商人「じゃあ、こいつなんかどうだ? お前と同じくらいの年だし、一番おとなしい」
エルフ「……」
男「……」
商人「どうだ? この弱弱しい感じ」
男「……」
エルフ「……」
男「気に入った」
エルフ「……!」
男「奴隷。お前を買ってやるよ」
エルフ「……はい」
男「詐欺だ!」
「何がー?」
男「お前だお前!」
「へー」
男「他人事みたいな声出すな!」
「――うん、こんなもんかな。ベッドの準備出来たからおいでー」
男「くそっ」
エルフ「これどうかな」
男「ブッ!」
エルフ「半脱ぎっていいよね」
男「あ、ええと……」
エルフ「でも動きにくいのが難点。ごめんだけどそっちが来てくれないかな」
男「う、え、その」
エルフ「寒いよ早くー」
・
・
男(なんかものすごい勢いでDTを投げ捨ててしまった)
エルフ「きもちいかったねー」
男「……」
エルフ「あれ? きもちくなかった?」
男「お前はなんでそんななんだよ」
エルフ「んー?」
男「奴隷ってのはもっと」
エルフ「どんよりしてるべき、みたいな?」
男「違うか?」
エルフ「そうは言っても」
エルフ「でも、生まれた時から奴隷だったし。奴隷って言葉の意味を知ったのも結構最近だし」
男「そんな無茶な……じゃあなんであの時はおとなしかったんだよ」
エルフ「その方が買ってもらいやすいって商人のおじさんから聞いた」
男「……」
エルフ「それはイヤ! あそこ暗くて狭いもん」
男「生まれた時からそれが当たり前だったんだろうが」
エルフ「それとこれは話が別!」
男「なんにしろお前に選択権はない。裸のままでも連れてくぞ」ムクリ
エルフ「……」
男「うお!?」ボス
エルフ「よいしょ」
男「こらのしかかるな!」
エルフ「うるさい口はこうだ!」
男「んむ!」
エルフ「♪~」
男「~~ッ!」
男(舌が、舌が……!)
男「うう……この」
エルフ「無駄だよ。こーゆーのはあたしの方が経験あるんだし。骨抜きにして返品できなくしたげる」
男「やめ……!」
エルフ「それじゃヘヴンにゴー!」ガバ
男「ひ――ッ!」
ヌリュッヌリュッ
エルフ「まだまだペースアップするよー」
ヌッチャヌッチャ
エルフ「それそれー!」
ヌップヌップ
エルフ「っと」ピタ
エルフ「んー? 出したい? でもなー、あたし返品されるのヤだしなー」
クチュ……
エルフ「返品しないって約束してくれるなら考えてあげてもいいよ」
ヌロリ……
エルフ「うーん粘るね。ならもうちょっといじめたげるー」
グチュ!
・
・
・
男「……負けた」グテ
エルフ「正直楽勝」
男「ヘン夕イエルフが……」
エルフ「生まれた時からこういうのが当たり前だったんだってば」
男「……」
エルフ「でもさすがに疲れちゃった。それじゃ今日はおやすみー」
男「……おう」
エルフ「zzz…」
男「……」
男「はぁ……」
男「ううん……」
エルフ「起きてよー」ユサユサ
男「まだもう少し……」
エルフ「……」ゴソゴソ
男「ん?」
エルフ「あむ」
男「ひゃう!?」
男「あ、う」
エルフ「んむ、はむ」レロ
男「うぐ」
エルフ「はい、ここまで」
男「え?」
エルフ「布団から出てくれたら続きしてあげてもいいよ」
男「……」
・
・
エルフ「素直に起きてくれてよかった。せっかくご飯作ったんだしねー」
男(朝から疲れた……)
エルフ「はいどうぞ!」
男「……ご飯ってこれか?」
エルフ「そうだよ? なんか変?」
男「パンと……これ何だ?」
エルフ「チーズでしょ?」
男「石鹸だぞ」
エルフ「食べられないの?」
男「お前は食べられるのか?」
エルフ「頑張る」
男「やめとけ」
エルフ「えー」
男「料理もできる奴隷だったらな」
エルフ「……」ジリ……
男「返品は考えてないからにじり寄るな!」
男「……」モグモグ
エルフ「あなたって料理上手なんだねー」
男「一人だし、これぐらいは」
エルフ「そういえば他に誰もいないの? こんなに広いのに」
男「いない」
エルフ「なんで?」
男「……」
エルフ「んー?」
男「母さんは俺を生んだときに死んだんだ」
エルフ「へえ」
男「だから父さんには嫌われてる。そういうこと」
エルフ「そなんだ」
男「……食べ終わったなら片付けろ。俺のもな」
エルフ「はーい」
「そう言えば思い出したんだけどさー」
男「ん?」
「母親殺しならあたしとおんなじ」
男「え?」
「母さん奴隷生活で弱ってたからね。殺してくれって言われた」
男「……やったのか?」
「やったよ?」
男「……」
「だって母さんすっごく苦しそうだったし、かわいそうだったし」
男「……」
「少しは」
男「少し?」
「しばらく食が細くなったよ」
男「それだけ?」
「いや、食べなきゃ死ぬし」
男「そうじゃなくて」
「? よくわかんない」
男「そうじゃなくてさ……」
エルフ「片付け終わったよー」
男「……」
男「手際いいな」
エルフ「これは市場でもよくやったよ」
男「でも、その」
エルフ「そうなんだよね。着替えがなくて困ってる」
男「と、とりあえず俺の替えを着ろ!」
男「俺より背は高いのにな」
エルフ「横幅?」
男「き、筋肉だ」
エルフ「……」ツンツン
男「腹をつつくな! 俺は太っちゃいない!」
男「はしゃぐな。外じゃ目立つ」
エルフ「買い物なんて初めてだもん」
男「いいからついてこい」
エルフ「うん!」
男(すれ違う奴ら全員に訝しげな顔された……くそっ)
エルフ「えーと、これでいいや」
男「え?」
エルフ「着がえてくる!」
男「……随分シンプルなやつだな」
エルフ「いい服とかわかんない。あと奴隷のイメージ」
男「女の服選びは長いって噂で聞いたんだけど」
エルフ「そうなの?」
男「俺も分からん……女とかいたことないし」ボソ
エルフ「じゃあ次行こうよー」
男「引っ張るな!」
男「疲れた……」
エルフ「楽しかったねー」
男「お前が引っ張り回すから!」
エルフ「でも命令には逆らってないし」
男「それでもよ!」
エルフ「だって外の世界は初めてだったから」
男「?」
男「……」
エルフ「楽しかったよ。ありがとね!」
男「……おう」
エルフ「あ!」
男「?」
男「でてるな」
エルフ「きれーい!」
男「そういえば」
エルフ「なに?」
男「家の屋根ならよく見えるんじゃないか」
エルフ「! 帰ろ! 早く早く!」
男「引っ張るなって言ってるだろ!」
エルフ「すごいね! 一面の星空!」
男「……」
エルフ「わー!」
男「星空くらいで……」
エルフ「だってきれいじゃん」
男「夜ごと見られるだろ」
エルフ「え、知らないの?」
男「ん?」
エルフ「牢屋の天井には星はないんだよ? 当たり前」
男「……」
エルフ「でしょ?」
男「まあ……そうか」
エルフ「うーん……」ノビ
男「……」
――確かに星の綺麗な夜だった
男(買い物も終わったし、帰るか)
「聞いたか?」「何が」
男「……?」
「何やらきな臭いことになりそうなんだと」「どういうことだ?」
男「……」
「エルフ族だよ」「は?」
男「……」
「お前も用心しといたほうがいいぞ」「プ……ひひっ!」
「な、なんだよ!」「お前、奴隷ごときが本当にぶち切れると思ってんのか?」
「……」「今更? エルフらが人間に屈服してもう数十年だぞ?」
「だって、噂では!」「噂は噂。大概にしときな」
男「……」
男「……」
青年「やあ」
男「どなたですか」
青年「君……というか君の奴隷に用のある者だよ」
男「……あいつに?」
青年「侯爵家の、と言えば分かるかな?」
男「!」
青年「一応君の家も爵位を持ってるじゃないか。貴族同士の親交を深めに来ちゃいけないかな?」
男「……護衛を連れて?」
護衛「……」
青年「一応身分が身分だしね。体面もある」
男「あいつに用ってなんだ……なんですか?」
青年「まずは家にあげてもらえるかな」
男「……」
青年「こんにちは」
エルフ「ねえ、この人誰?」
男「俺より偉い人」
エルフ「ってことは当然あたしより偉いわけだね。分かった。お茶いりますか?」
青年「いや、いいよ。すぐ終わるからね」
男「は?」
エルフ「んー?」
青年「実は以前、一緒に買い物をしている君たちを見かけたんだ」
男「……それで?」
青年「僕は人を見る目には自信があるんだよ」
男「?」
青年「その目が言うんだ。あのエルフは『すごくいい』って」
エルフ「ふーん」
青年「じゃあ貸すのに抵抗はないね?」
男「こんなののどこがいいっていうんですか。ただの売女ですよ」
青年「さあ? でも僕は自分の目を信じるよ」
青年「金なら出すよ」
男「いいから出ていってください」
青年「……」
男「さあ早く」
男「?」
青年「僕の機嫌を損ねるのは良くないよ」
男「……」
青年「君のお父さんも悲しむと思うな」
男(……こいつっ)
青年「どうかな?」
男「なんでこんな奴にそこまで」
青年「僕は自分の目を信じてるからね」
男「そんなの!」
青年「言葉を返すよ。こんな奴、なら君も意固地にならないだろう?」
男「そう、だけど!」
男「……」
青年「約束しよう。彼女を借りてる間、僕は彼女にみだらなことはしない」
男「……」
青年「そして、夕方には帰す。これでどう?」
男「……」
男「お前!」
エルフ「だって選択肢ないじゃん」
男「けど……!」
青年「決まりだね」
男「待てよ!」
青年「僕を怒らせない方がいい」
男「っ……」
青年「これでもかなり我慢してるんだ。分かってほしいな」
男(くそっ)
青年「それでは」
男「……」
男「チッ!」ガン!
青年「僕の屋敷さ」
エルフ「広い?」
青年「あんな家よりずっとね」
エルフ「へー楽しみ」
青年「……」
・
・
エルフ「ただいまー」
男「!」
エルフ「満腹満腹」
男「へ、変なことされなかったか?」
エルフ「全然。たくさんご馳走してもらった。あんなの初めて食べたよ」
男「そうか……」
男「……別に」
エルフ「そんなに心配なら命令すればいいのに」
男「え?」
エルフ「行くな、とか。あとは身体を許すなとか」
男「……」
エルフ「まだあなたがご主人様だし」
男「……」
男(『まだ』……)
・
・
男(あれから七日……)
男(あいつは、毎日あの野郎のとこに行ってる)
男「……」
男(あの野郎はちゃんと金を置いてくし、約束は守ってるみたいだが……)
男(……良く分からないのに、気に入らない)
男「……」
エルフ「ただいまってば」
男「……ああ」
エルフ「ふー」
男「飯、いるか?」
エルフ「食べてきたよ」
男「そうか……」
エルフ「なんか数字の勉強教えてもらった」
男「……」
エルフ「難しかったけど楽しかったかな」
男「そうか」
エルフ「明日は何かなー」
男「……」
エルフ「うん」
男「……」
エルフ「なに?」
男「これは、だな。別に変な意味があって言うんじゃないんだが」
エルフ「うん」
男「明日は、その。行かないでくれないか」
エルフ「いいよ」
男「……え?」
男「だって……お前行くのが楽しみなんじゃなかったのか?」
エルフ「楽しみ? そう見えた?」
男「だってよ……」
エルフ「ご主人様の命令には逆らえないよ」
男「……」
エルフ「急だね。でもいいよ」
男「すまん」
エルフ「え、なに?」
男「すまん……」
エルフ「良く分からないよ。泣いてるの?」
男「泣いてない」
エルフ「そっか」
男「泣いてない……」
エルフ「うん」
エルフ「泣かないで」
エルフ「泣いてない? そう」
エルフ「うん、売女だよ。生きる価値ないね。否定はしないよ」
エルフ「……」
エルフ「泣かないで」
ギシ ギシ……
エルフ「すみませんが、ご主人様の命令なので」
青年「……」
男「……」
青年「そうか」
男「……すみません」
男「?」
青年「実はね、もう少し進んだ話がしたかったんだ」
男「……それはどういう?」
青年「彼女を買い取りたい」
男「!?」
男「つまり?」
青年「全部を僕のものにしたい」
男「全部……?」
青年「全部は全部さ。これからはミダラなことも」
護衛「はい」
ドサガシャン!
男(随分大きい……袋?)
青年「中身は全部金品だ」
男「え?」
男「い、いや! なんで!?」
青年「買うためだけど?」
男「どう見てもそういう額じゃないだろ!」
青年「僕はそれだけ出す価値があると思ってる」
男「たかがいち奴隷だぞ! しかも汚れてる!」
青年「僕が聞きたいのはそういうことじゃない。売るのか売らないのかだ」
青年「買えないかな?」
男「……」
青年「沈黙は了承とみなすよ」
男「……」
青年「……それでいい。君はもっといい奴隷をたくさん買えばいいしね。じゃあ行こうか」
エルフ「……」
エルフ「……わかった」
男「……」
エルフ「じゃあね」
男「……てよ」
青年「では。また会えるといいね」
男「待てよ!」
青年「……」スタスタ
男「待てって言ってるだろ!」
護衛「ふっ!」ブン!
男「がッ!」ドサ
エルフ「……」
青年「行こう」
青年「黙らせろ」
護衛「はい」
男「ぐぶ! ……行くな」
護衛「ふん!」
男「っ……行くなよ……! 絶対にかえっ――!」
エルフ「……」
護衛「シッ!」
男「ぐっ……っ……!」
・
・
男「っ……あ……」
男「……」
男(……寝室。夜か?)
男(一人……)
男「……一人だな」
男「なんか、思い出した……」
男「俺って、昔犬を飼ってたっけ」
男「人懐っこい犬……誰にでもすぐ懐く」
男「もちろん俺にも懐いてたけど……死ぬのを看取ったのはあまり会わせたこともない父さんだったっけ」
男「わざわざ俺のところを抜け出して、最期の力を振り絞って。あまり父さんの屋敷まで行って」
男「……くそっ!」
エルフ「それはしょっぱいね」
エルフ「急に動かない方がいいよ」
男「つぅっ!」
エルフ「割と大怪我だしね」
男「……なん、で?」
エルフ「あたし? 逃げてきた」
男「は……?」
エルフ「だってあなた言ったじゃん。絶対帰って来いって」
男「あ……」
エルフ「へへ。ご主人様の命令には逆らえないよ」
エルフ「泣かないでよ?」
男「で、でも、もうあの時所有権は」
エルフ「あれ? そう言えばそうか。じゃああっちに戻らないと」
男「待っ――!」
エルフ「はは。冗談だって」
男「?」
エルフ「あの人はあたしを壊すつもりみたいだったし」
男「壊す?」
エルフ「あたしみたいのが珍しかったんだと思う」
男「……」
エルフ「奴隷でありながら壊れてない。なら壊しがいがあるって。そんなとこじゃないかな」
男「それは」
エルフ「違わないでしょ。もうやらしいことをやらしいとも思えないし、母さん殺したこともどうでもいい」
男「……」
エルフ「それでも、あたしは……」
男「ん?」
エルフ「あなたのとこにいたいな。なんて」
男「……」
エルフ「好きです。多分ね」
エルフ「……」
男「ふぐ……っ……」
エルフ「泣かないで」
男「泣いて、ない……!」
エルフ「そっか」ナデ
男「っ……っ……!」
エルフ「そうだね……」ナデナデ
・
・
男「……」
エルフ「もう大丈夫だね。じゃあ、逃げよっか」
男「え?」
エルフ「え、じゃないよ。間違いなく探しに来るでしょ」
男「それは、そうだけど。法律では他人の奴隷に手を出してはいけないことになってる」
エルフ「決まり事をどうにかできちゃうのがケンリョクやオカネってやつじゃないの?」
男「いや、でも」
エルフ「実際エルフたちの生き方はまるごとどうにかされちゃったしね」
男「そうかもしれないが」
エルフ「奴隷ってさ」
男「え?」
エルフ「二つ一緒には拾えない者なんだよね」
男「どういうことだ?」
エルフ「二つ拾いたいものがあったらどっちか捨てないといけないの。あるいは両方」
男「……」
エルフ「今のあなたもきっと同じ。あたしかお父さん、どっちかひとつだけ」
男「……」
エルフ「どうする?」
・
・
・
男「ここまでは来れたな」
エルフ「ここからどうしようか?」
男「さすがにここはつらいな」
エルフ「うーん……」
男「お前は、なんていうかすごい力? そういうの使えないのか? エルフだし」
エルフ「それはおとぎ話の中だけだよ」
男「そうか……」
男「!?」
ドゴオオォォッ!
男「な、なん……!? 城門が……」
ドドドドドドドドドド!
男(外から、踏み込んできたのは……エルフ兵たち?)
エルフ「チャンスだよ」
男「え?」
エルフ「今なら行ける。行こう」
男「……。ああ!」
男(ここまでくれば……)
エルフ「ごめん……もう動けない」
男「休むか……」
男(エルフの……反乱? 噂で聞いた)
エルフ「星」
男「ん?」
エルフ「もうすぐ消えるけど」
男「朝が近いな」
エルフ「寒い……」
男「毛布は一枚だけだ。一緒に入ろう」
エルフ「うん」
エルフ「食料はあんまりないね」
男「頑張ってもたせても多分二日……」
エルフ「粘れるだけ粘るしかないかな」
男「そうだな……確か、このまま東に行けば村があったはず。そこを目指そう」
エルフ「分かった」
男(……どれくらい、歩いた?)
男「おい」
エルフ「……ごめんね。おぶってもらって」
男「いい。それより大丈夫か?」
エルフ「まだ、生きてる」
男「それは分かる。体調は?」
エルフ「良くわかんない」
エルフ「命令?」
男「ああ」
エルフ「じゃあ死なない」
男「命令は絶対だからな」
エルフ「ご主人様には逆らえない」
男「ああ」
男「!」
ドサ!
男「つぅ……」
エルフ「――」
男「! おい!?」
エルフ「――」
男(駄目だ……意識がない)
男「くそっ、分かんねえ……!」
エルフ「う――」
男「ぐ……」
ガサガサ……
男(!?)
男(あれは、エルフ兵)
エルフ兵「こちらは異常はない」
エルフ弓兵「こちらもだ」
男(気付かれてない。なら、このままやり過ごせば)
エルフ「――」
男(やり過ごせば……)
男(すぐ着く。あいつも多分それまで持ちこたえる)
男(大丈夫なんだ。大丈夫……)
男「……本当に?」
男(大丈夫……)
男「……」
エルフ兵「誰だ!?」スチャ
男「お、俺は丸腰だ! 話を聞いてくれ!」
エルフ弓兵「……」
男「俺の後ろにエルフの少女がいる! 弱ってて……助けてほしいんだ!」
男「主人と……奴隷だ」
エルフ弓兵「こいつ……」
男「頼む! 助けたいんだ……」
エルフ兵「……?」
エルフ兵「……」
男「俺は殺せ。でも、あいつは絶対助けろ!」
エルフ弓兵「……お前はなんなんだ?」
男「ただのクズだ!」
エルフ兵「……」チラ
エルフ弓兵「……」コク
エルフ兵「ふんっ!」
男「ぐっ!」ドサ
男(これでいいんだ……)
男(生きろよ。ご主人様の命令は、絶対なんだからな)
男(絶対……)
男「――」
・
・
男「う、ん……」
エルフ商人「労働の時間だ」
男「……ああ」
男(五年? もうはっきりしないがそれくらい前の)
男(あれから人間とエルフの立場は逆転して、今の俺は奴隷)
男(いろんなとこ連れ回されて、ここがどこかも分からない)
男(それでも。生きてるだけマシなんだろうな)
男「……あいつ。どうしてるんだろう」
エルフ商人「手を止めるな!」
男「うーい」
男(これが、多少毛色が違いながらもあいつの生まれながらの生き方)
男「は、きついな」
男「せめて、天井に星空があれば。そう思うぜ」
男「ん?」
エルフ商人「こちらが奴隷どもの牢屋です。ゆっくりお選びください」
男(エルフのお偉様様方が奴隷ごときを選んでくださりに来なすったか)
男「ケッ」
男(女か)
「ここにはいるかしら」
男(俺の目の前に来てみろ。唾ひっかけてやる)
「ええと」
男(来た。喰らえ!)
「あ!」
男「?」
男(……?)
「ん? 覚えてない?」
男「あいにくな」
「そうなの、残念ね」
男「消えろよ。目障りだ」
「そうはいかないわよ」
男「あ?」
エルフ「あなたを買ってあげるわ」
いい恋愛ものだった
スパっとした終わり方だと余韻が残っていいよな
映画ならエルフが笑顔を見せた後、暗転してスタッフロールになるような感じだ
後日談ほしいなぁ