見世物にされたり過酷な労働を強いられていた……。
奴隷商人「ヒ~ッヒッヒ、そろそろ作物の収穫などがあるから、奴隷を売るのにもってこいの季節だ」
奴隷商人「さっそく奴隷を捕まえる業者に、奴隷を発注するとするか」
奴隷商人「人数は……10人くらいでいいだろ」
奴隷商人(これに人数を書けば、業者がそれだけの奴隷を揃えてくれるんだ)
奴隷商人(そういや、こないだの奴隷は美人だから10000Gで売れて、おいしい仕事だったなぁ)サラサラッ
奴隷商人(また、ああいう仕事ができりゃいいが……)
奴隷商人「書けた! すぐ発注しよう!」
業者「毎度、奴隷を連れてきました~」
奴隷商人「ご苦労さ……え!?」
ウジャウジャウジャ…
奴隷商人「ちょっと待て! 何人いるんだよ、これ!」
業者「一万人ですけど」
奴隷商人「一万!?」
業者「といわれても、発注書に“10000人”と書いたのは、あなたですよ?」ピラッ
奴隷商人「あ……!」
奴隷商人(あの時、10000Gがどうこうって考えてたから、それで思考が混ざって……!)
奴隷商人「いやだけど、常識で考えれば一万はおかしいって分かるだろ!」
業者「知りませんよ。こっちは発注通りの奴隷を集めるのが仕事ですから」
業者「もし買い取ってもらえなければ、しかるべきところに訴えることになりますよ?」
奴隷商人(まずい、奴隷商はハイリスクハイリターン!)
奴隷商人(こういう掟を破ったら、待つのは――)
奴隷商人「わ、分かった! なんとか買い取らせてもらうよ!」
奴隷商人(どうすりゃいいんだ、これ……)
ウジャウジャウジャウジャウジャ…
ワイワイワイワイワイ…
奴隷商人(ていうか、よく集めたよな。あの業者も)
奴隷商人(ええい、値段をめちゃくちゃ安くしてでも、一万人完売するしかない!)
奴隷商人「奴隷はいかがですか~?」
奴隷商人「今ならお買い得ですよ~! なんと10人で100Gだ! 100人なら500G!」
ヒソヒソ…
「ねえ、どうするぅ?」
「いくらなんでも安すぎる。きっと質が悪いんだ」
「質の悪い奴隷を買うと、しつけが大変だものねえ」
「やめとこう、安かろう悪かろうだよ」
奴隷商人(なぜだ!? なぜ一人も売れない!?)
奴隷商人「このままじゃワタシは破産だぁ……」
おっさん奴隷「まあまあ、一人ずつ地道に売っていこうじゃねえか!」
奴隷少女「そうです! 諦めちゃダメです!」
奴隷商人「うるさい! 奴隷に励まされるほど落ちぶれちゃいない!」
奴隷商人(いや、落ちぶれてるか……)
おっさん奴隷「奴隷商人は憎むべき相手だが、今回のケースはちょいと気の毒だな」
奴隷少女「そうですね、このままじゃ首を吊るしかありませんよ」
おっさん奴隷「なーんで、こんな人数発注しちまったんだか」
奴隷少女「どうしますか?」
おっさん奴隷「あいつが死んだら、俺らの立場も宙ぶらりんになっちまうしなぁ」
おっさん奴隷「よし、みんなで一肌脱いでやるか!」
オーッ!!!
奴隷商人「ん?」
ジャラッ…
奴隷商人「なんだ、この小銭の山は……」
おっさん奴隷「俺たち全員で集めてきたんだ!」
奴隷少女「チリも積もれば山になる、というやつです!」
奴隷少女「頑張って私たちを売って下さい!」
ウジャウジャウジャウジャウジャ…
ガンバレー! アキラメルナー! ジサツハダメダゾ!
奴隷商人「お前たち……!」ジーン…
おっさん奴隷「いいってことよ!」
奴隷商人「だけど、これだけじゃ一万人ものお前たちを養うことはできない……餓死させてしまう」
奴隷少女「それは……そうですね」
奴隷商人「だからワタシは勝負に出る!」
奴隷少女「勝負?」
奴隷商人「そう、小麦や小豆に手を出す!」
奴隷少女「大丈夫なんですか?」
奴隷商人「ふふふ、任せておけ!」
奴隷商人「これでも、奴隷商になる前は≪相場の魔術師≫と恐れられていたのだ!」
おっさん奴隷(うわぁ~……)
奴隷少女(すごく不安です……)
…………
……
ジャラジャラジャラ…
奴隷少女「すごいです! ≪相場の魔術師≫の異名は伊達じゃありませんでしたね!」
おっさん奴隷「なんで奴隷商人になったのか分からないレベルだぜ!」
奴隷商人「人間、一つの山を登りきったら、別の山に登りたくなるものさ」
奴隷商人「この金で、ワタシとお前たち一万人が暮らす豪邸を建てるぞ!」
奴隷商人「どうだね、豪邸での暮らしは?」
おっさん奴隷「ワインがうめえぜ!」
奴隷少女「今日もプールでいっぱい泳いじゃいました!」
奴隷商人「他の9998人も楽しそうでなによりだ」
ワイワイ… ワイワイ…
奴隷商人「よし、今日はみんなで海に行ってバーベキューしよう!」
ワーイ!
市民「オラッ、サボらず働け!」ビシッバシッ
奴隷A「ひいい……!」
興行主「人間が飛び降りるところをみんな見たいんだよ! さっさと飛べ!」
奴隷B「で、できません! 死んじゃいます!」
奴隷商人「あちこちで奴隷たちが悲惨な目にあっている……」
奴隷商人(今までワタシはなにも考えず、儲かるために奴隷を売っていたが……)
奴隷商人(売られた先で彼らはこんなひどい目にあっていたのか!)
ザワ…
奴隷商人「バーベキューは中止だ!」
奴隷商人「今日は予定を変更して、国王陛下のもとに奴隷制度廃止の嘆願をしにいく!」
おっさん奴隷「マジかよ!」
奴隷少女「だけどどうやって?」
奴隷商人「一万人……いや10001人で城まで行進するんだ!」
オーッ!
兵士A「な、なんだありゃ?」
兵士B「商人っぽい奴が奴隷を率いて行進してるぞ!」
兵士A「どうする? 止めるか?」
兵士B「あんな人数をか? とても無理だ! 城の常駐兵だってせいぜい1000人ぐらいだぞ!」
国王「なんだ、騒がしいぞ」
大臣「奴隷たちが、陛下に会いたいと城に行進してきています」
国王「そのような輩、蹴散らせばよいではないか」
大臣「それが、蹴散らすには人数が多すぎるのです」
国王「ほう、面白い……いったい何人だ?」
大臣「ざっと一万人」
国王「一万人!?」
国王(うわ……マジで一万人ぐらいいるじゃん)
奴隷商人「陛下」
国王「は、はいっ!」
奴隷商人「身分が低い最下層民を人扱いせず、奴隷にする今の制度は間違っています!」
奴隷商人「今こそ、奴隷制度の撤廃を!」
おっさん奴隷「撤廃を!」
奴隷少女「撤廃を!」
国王「わ、分かりました! 撤廃します!」
おっさん奴隷「ありがとう!」
奴隷少女「ありがとうございます……!」
奴隷商人「礼なんていらないさ。だってワタシたち一万人は、家族なのだから!」
ワァッ!!!
一連の出来事は、伝記にはこうつづられている……。
奴隷商を続けるうちに良心に目覚めた商人は、呼びかけて集まった一万人の奴隷と共に城まで行進し、
王に奴隷制度廃止を訴えた、と。
奴隷商人は≪一万人の父≫≪奴隷解放の革命者≫と呼ばれ、生涯親しまれたと……。
女店員「感動しました!」
店長「私は彼の末裔なのだが、先祖であるこの商人を誇りに思うよ」
店長「こうして大型書店の店長になれたのも、彼の商才を受け継いだからかもしれない」
女店員「私もです!」
女店員「私のご先祖は奴隷身分だったらしいんですが、もしこの人がいなければ」
女店員「こうして私と店長が肩を並べて話すことはできなかったかもしれませんね」
店長「そうだな」
女店員「ですが、店長……」
女店員「10冊でいいところを10000冊も発注しちゃって! これを完売するなんて無理ですよ!」
店長「う~ん、やっちまったなぁ……」
店長「なんでか知らないけど、うちの一族はこういうミスをやらかす人間が多いんだよなぁ……」
― 完 ―
おもしろかった