新人「えー……?」
先輩「なんだ、その返事は」
新人「だって先輩、今日は重要な入札があるんでしょ? 俺も同行させて下さいよ」
先輩「生意気いうな。花見の場所取りも社会人の大切な仕事なんだ!」
新人「分かりましたよ、やりますよ……」
先輩「頼むぞ。どんな仕事でも得られるものはあるんだからな」
新人(んなわけねーだろ……花見の場所取りで得られるものなんかありゃしねえよ)
新人「はぁー……めんどくせ」
新人「おっ、桜はすっかり見どころになってるな」
新人「場所はどこにするか……おっ、あそこ! 大きな桜の木が二つ並んでる!」
新人「あそこで桜を見上げながら日本酒でも飲んだら格別だろうなぁ……」
新人「よし、決めた! あの間にシートを敷こう!」
新人「……これでよし」
新人「おお~、二つの桜に挟まれて、まさに絶景だな」
新人「ここなら課のみんなや先輩もきっと満足してくれるだろ」
新人「ったく、俺みたいな有能な新人に、こんな下らない仕事やらせるなってんだ……」
新人「――ん?」
ブオオオオオオオオオオオオオオッ
新人「な、なんだこの風!?」
バサバサッ バサバサッ
新人「わわっ! シートが吹き飛ばされて……!」
新人「誰だ!?」
新人「お前はもしかして、同業他社の……B社の新入社員か!」
若手「その通り」
新人「ふざけんな! この場所は俺が取ってたんだ! 早い者勝ちだろうが!」
若手「だけど、シートは僕の扇風機で吹き飛ばされてしまった。もう権利を主張することはできない」
新人「なんだと……!?」
若手「分かったら、どきたまえ。この場所はB社がいただく。ハーッハッハッハ!」
新人「くそっ……!」
若手「おっと、僕がやったようにシートを風で吹き飛ばそうったって無駄だよ」
若手「すでにシートには石を置いてあるからね」
若手「ま、君はさっさと別のスポットを探すことだね」
若手「もっともここ以上に桜を満喫できる場所はないだろうけどねえ!」
新人(このままで済ますか! こうなったら……!)
若手「ん?」
新人「マイボ! マイボ! マイボ!」
新人「シューット!」バシッ
若手「あっ!? お前、石を蹴り飛ばし――」
新人「シュート! シュート!」バシッバシッ
新人「シュートッ!」バサッ
若手「シートまで蹴り飛ばしやがった!」
新人「ごめんごめん、一人でサッカーしてたらつい熱が入っちゃって……」
新人「これでお前は権利を主張できなくなったわけだな!」
若手「おのれ……!」
新人「だが、シートを敷いたんじゃ、またさっきみたいに吹き飛ばされる」
新人「というわけで……」
新人「木の板を置こう」
新人「これならもう、奴に吹き飛ばされることはない!」
新人「場所取りに失敗したからタバコで一服か? まあ、残念だったな」
新人「俺はどくつもりないし、諦めて、とっとと他の場所を探すこった」
若手「……」ポイッ
新人(うおっ、こっちにタバコ捨ててきた!)
ボワァッ!!!
新人「なにいいいいいいいい!!?」
新人「あっちいいいいいいいいいいいい!!!」
新人「敷いた! 板が! 燃えて! あっちい!」
新人「なななななな、なんてことしやがる! そのタバコ、ガソリンでも染み込ませてたのか!?」
プスプスプスプスプス…
若手「あーあ、すっかり燃えちゃったね」
若手「これでその場所は、君の会社のものじゃなくなったわけだ」
新人「なんて奴だ……! 火をつけるなんて……!」
若手「レンガを敷きつめて場所を取ったから、たとえ奴が火をつけたとしても燃えることはない」
若手「――ん?」
新人「よう」
若手「……なに持ってんだ」
新人「決まってんだろ? ハンマーだよ」ニヤッ
グシャアッ!
新人「オラァッ!」
グワシャッ!
ドガァン! ドゴォン! ドガァン!
新人「みるみるレンガが壊れていくぜぇ!」
若手「あああ……!」
新人「勝負は……振り出しだ!」
若手「こんなの認めるかァ!」
若手「お前がどけっ! 火で燃やしてやるぞ!」
新人「ぐぬぬぬ……」
若手「ぐぬぬぬ……」
ゴゴゴゴゴゴ…
新人「――ん?」
若手「なんだ、この音は……」
若手「たしかC社の……!」
ルーキー「クックック……」ゴゴゴゴゴ…
新人「マジかよ……!」
若手「ブルドーザーで突っ込んできたァ!」
ルーキー「ハーッハッハッハッハッハッハ!!!」グゴゴゴゴゴゴ…
ルーキー「負け犬である貴様らは、大人しく他の場所を探すことだ!」
新人「そうはいくかよ……!」
若手「絶対その場所は渡さない!」
ルーキー「ほう、ブルドーザーに潰される道を選ぶか……アリンコども」グイッ
新人「くっ!」
ルーキー「……あれ、動かない?」グイグイ
ルーキー「き、貴様ァ……! D社の……!」
下っ端「このスポットは我らD社のものです! あなたたちは立ち去りなさい!」
ルーキー「ふざけるな! 今度はもっとすごい重機を持ってきてやる!」
新人「また新しいのが来やがった……!」
若手「もっと新しい手を考えないと……!」
新人(場所取りとは……“場取る”)
新人(すなわち――バトル!)
新人(戦場なんだ!!!)
先輩『頼むぞ。どんな仕事でも得られるものはあるんだからな』
新人(そうか、先輩はこういうことを言いたかったのか! この戦場を勝ち抜け、と!)
新人「たっぷり集めた石ころで投石だぁぁぁぁぁ!!!」ビュッビュッ
ヒュルルル…
新人「なんか飛んできた!」
ドガァン!
新人「レンガ攻撃か! こしゃくなマネを!」
若手「この戦争は絶対勝たせてもらう!」
新人「今度はショベルカーか!」
新人「だったら、度数高い酒の入った瓶に火をつけて投げて……!」ポイッ
ボワァァァァァッ!!!
ルーキー「なにいいいいいい!?」
新人「ハハハ、ショベルカーはもう使用不能だ!」
メラメラメラメラメラ…
ルーキー「くそっ、さらにすごい重機を用意せねば……!」
新人「うおっ! 落ちてた枝を剣に加工したってわけか……おもしれえ!」
新人「だったらこっちもシートを丸めて応戦だぁぁぁぁぁ!!!」クルクルッ
ドカッ!
下っ端「ぐわっ!」
新人「とことんやってやるよ! B社、C社、D社のクソども!」
新人「ヒャッハーッ! これが……これが戦争だぁぁぁぁぁ!!!」
……
……
新人「ハァ、ハァ、ハァ……」
若手「ゼェ、ゼェ、ゼェ……」
ルーキー「フゥ、フゥ、フゥ……」
下っ端「ヒィ、ヒィ、ヒィ……」
若手「……そうだね」
ルーキー「もうそろそろ夜になる……いつまでも戦ってるわけにもいかんしな」
下っ端「ここらで互いに妥協し合った方が利口ですね。明日からも仕事はあるんですし」
新人「よし……じゃあこの四社でこの場所をうまく分かち合えるように、話し合おう!」
先輩「あいつはどこかな……」キョロキョロ
新人「先輩! こっちです!」
先輩「おっ、まあまあの場所じゃないか」
新人「はい、ベストポジションとはいきませんでしたが……いい場所だと自負しています」
先輩「ライバルのB社、C社、D社とうまく譲り合ったって感じだな」
新人「ええ、まあ……色々ありまして。最終的にこうなりました」
新人「はい」
先輩「この場所取りで、社会人――特に俺らのような業界で必要なことはなにか分かったか?」
新人「よく分かりました! 大切なのはよく話し合い、無駄な競争を防ぐことです!」
先輩「その通りだ! どうやらお前もこの場所取りで少しは学んだようだな」
新人「はいっ!」
新人「花より談合、ですね!」
おわり
山田君、ブルーシート一枚