女「そだよー」
男「ふぅん」
女「あれれ? もしかして信じてない?」
男「だって……なぁ? どうみても可愛い女の子だし」
女「むー……可愛いって言われて悪い気はしないけどさ」
女「ちょっとね」
男「俺を殺すのは勘弁な」
女「やらないよ。本気でやり合ったら殺されるのあたしじゃん。君、あたしより強いんだから」
男「そうかなぁ」
女「そだよ」
男「そういうもんかなぁ」
女「そーゆーもんだよー」
女「待ってました!」ダキッ
男「こらこら、抱きついたら危ないよ。まだフライパン熱いんだから」
女「ケチー」
男「火傷したくはないでしょ?」
女「んー、まあそりゃあね」
女「あいあいさー」カチャカチャ
男「……」セッセ
女「あたしのはキャベツ多めにお願いね?」
男「はいはい。芯のとこがいいんだよね?」
女「さっすが。あたしの好みをわかってるね」
男「一緒に暮らしてるからねぇ」
女「あと油揚げも!」
男「はいはい」
女「やったー!」(∩´∀`)∩イタダキマース
男「いただきまーす」(´人`)
女「あむ……あむ」ズルズル
男「うまい?」
女「んまいっ!」(*´д`*)ペカー
男「そう、よかった」
男「なにが?」
女「橋の下で震えてたあたしを拾って、服とかご飯までくれて」
男「毎日言ってるね」
女「毎日思ってるの」
男「ただの気まぐれだよ。もしかしたら明日『出て行け』って言うかもしれない」
女「毎日言ってるね」
男「毎日思ってるの」
女「えへへ」
男「ははっ」
女「やめる?」ハムハム
男「そう。禁煙みたいに」
女「禁殺? うわ、言いにくっ」
男「はは、語呂悪ぃ」
女「ふふ、面白いね。……それはともかく、できないよ」
男「できないのかぁ」
女「できないよー」
男「そっかぁ」
女「そだよー」
女「んー、そういうのとはちょっと違うかな」
男「ふぅん?」
女「説明しにくいんだけど、特に意識してやってるわけじゃないんだ」
男「殺人なのに?」
女「そ、殺人なのに」
男「そういうもんかぁ」
女「そーゆーもんだよー」
男「そりゃまあ、そうだね」ズルズル
女「なんでやめれないの?」
男「死んじゃうじゃん」
女「そだね。じゃあ、君は『やめたら死んじゃうから』って思いながら呼吸してる?」
男「んー……? あぁ、なるほど」
女「そんな感じ」
男「そんな感じかぁ」
女「そなの」
男「そっかぁ」
女「そりゃ、ちょっとの間だけならね」
男「ちょっとの間だけかぁ」
女「そ、我慢しても気付いたらやっちゃってるから」
男「ふぅん」
女「こうやってお世話してくれてる君の頼みだからさ、きいてあげたいところなんだけどね」
男「そっかぁ」
女「そだよー」
男「おそまつさまでした」
女「あ、食器持ってくから重ねちゃって」カチャカチャ
男「別にいいのに」カチャカチャ
女「えへへ、お世話になってるからこれくらいはね」
男「ありがとね」
女「うん。あ、お茶いれる? コーヒーがいい?」
男「ココアがいいな」
女「はいはい。君は甘党だねー」
男「ありがと」
女「でも君もおかしな人だよねー」
男「失敬な」
女「だってそうでしょー? 殺人鬼なんか拾って、しかもお世話までしちゃうんだから」
男「何度でも言うけど、俺には可愛い女の子にしか見えないからね」
女「可愛い女の子……ねー」
男「うん」
男「思ってるよ」
女「その割には手ぇ出してこないじゃん?」
男「そういうのが目的で君を拾ったんじゃないからね」
女「じゃあどんな目的だったのさー」
男「気まぐれだよ。ただの、気まぐれ」
女「そっかー」
男「そうだよー」
男「君は魅力的だよ。スタイルもいいし、顔も性格も可愛いし」
女「あぅ……」
男「好きだよ」
女「うぅ……」
男「愛してると言ってもいい」
女「……にゃ……」
男「にゃ?」
女「にゃあああああああっ!///」パチーン
男「オプーナッ!」
女「ごめん……」
男「すぐ治るから大丈夫」
女「よかった。でも君が悪いんだからね! あんな恥ずかしいこと言うから」
男「え? 俺、なんか恥ずかしいこと言ったの?」
男「……?」キョトン
女(ってことはあれは男の本心で……。可愛いとか……あ、あああああ愛してるとか///)
男「どうかしたの?」ヒョイ
女「(あ、顔が近……)……にゃああああああっ!///」スカッ
男「うわっ、危なっ」
男「このへんで連続殺人事件だって」
女「こわいねー」
男「君も気をつけてね」
女「……」キョトン
男「どうしたの?」
女「ぷっ……あはははは!」
男「……?」
女「やっぱり君は面白いね」
男「でも、君だったら事件になるような証拠なんて残さないでしょ?」
女「……」
男「それに、君がここにきて大分たってから始まったからね。この事件」
女「……君はほんとに面白いね」
男「そうかなぁ」
女「そだよー」
男「そういうもんかぁ」
女「そーゆーもんだよー」
男「そうなの?」
女「相手は連続殺『人』犯でしょ? あたし殺人『鬼』だもん」ケラケラ
男「ふぅん?」
女「人殺し程度に殺される鬼なんかいないよ。だからだいじょーぶ」
男「そうかなぁ」
女「そだよー」
女「こんな遅くからお仕事?」
男「うん。仕事っていうかバイトっていうか、そんな感じ。たぶん帰るのは朝方になると思う」
女「あたしも働いてお金入れたほうがいいかな?」
男「いまのところお金に困ってはいないけど、やりたいならやってみたら?」
女「んー、やっぱりやめとく。いつ殺しちゃうかわかんないし」
男「そっか。何か欲しいものあったら言ってね。買ってくるかお金渡すかするから」
女「いいよぉ。お世話になってるのにそこまで」
男「君がいてくれるだけで嬉しいんだよ」
女「もう……ばか///」
男「じゃあどうしても我慢できなかったら言ってね」
女「うん、わかった」
男「あ、それとこれ」ポイ
女「おっとと」キャッチ
男「出かけるときとか持ってた方が便利だと思うから渡しとくね」
女「携帯電話? いいの?」
男「うん、君がよけりゃだけど。いつでも呼んでくれ」
女「ありがとー」ギュッ
女「押入れの中にあるのとかでもいいの?」
男「いいよー。大したもの入ってないと思うけど」
女「なんか無用心すぎない? あたしが泥棒だったらどうするの?」
男「信用してるから」
女「あぅ……///」
男「それに、一緒に暮らしてこの方なくなったものは食材くらいだからね」
女「ちょっと! あたしがつまみ食いしてるみたいじゃん!」プンスカ
男「ははっ、ごめんごめん。じゃあ行ってきます。もし出かけるなら」
女「スペアキーでしょ? わかってる。いってらっしゃい」
女「って、実は前に覗いたことあるんだよね」
女「えーと、どのへんかな」ゴソゴソ
女「あ、あったあった」
女「テケテテン♪ ちょーこくとー」
女「……ノリで言ってみたけど、恥ずい///」
男「ただいまー」バタン
男「……?」
男「でかけてるのかな」スタスタ
男「書き置きだ。携帯の使い方わからなかったのかな」ペラッ
『ちょっとでかけてきます。朝までには帰るね。P・S彫刻刀借ります』
男「……」
男「仏像でも彫りに行ったのかな」
女「ただいまー」
男「おかえりー」
女「あ、帰ってたんだ」
男「うん。何してたの?」
女「ちょっと探し物をねー。……うぅ、さむっ」
男「風呂沸かしてあるから入っておいで」
女「君が入ろうとしてたんじゃないの?」
男「そのつもりだったけど、ちょうど手が離せないから」ジュージュー
女「なんか悪いなぁ……」
男「んー? 別にそれでもいいけど」ジュージュー
女「……や、やっぱり先に入るね///」
男「うん、風邪ひかないようにちゃんと温まっておいで」
女「はーい。……覗いちゃダメだよ?」
男「『一緒に入る?』とか言ってたのに覗くのはダメなんだ」
女「もうっ」
男「ははっ。覗かないから、行っておいで」
女「うん(ほんとはちょっと覗いて欲しかったけど……///)」
男「なんか食べる? それとも寝ちゃう?」
女「あ、なんか軽いものがあったら欲しいかな」
男「俺はホットドッグ食べようかと思ったけど、トーストの方がいいかな?」
女「君の作るホットドッグの誘惑に勝てる者がいるだろうか。いやいない」
男「褒めすぎじゃない?」
女「いやぁ、あそこまでのはなかなか食べれないよー?」
男「そうかなぁ」
女「そだよー」
女「君と一緒のでいいよー」
男「じゃあココアだね。はい」コトッ
女「甘党だねー」
男「おいしいよね」
女「そだねー」
男「よし、食べようか」
女「わーい!」(∩´∀`)∩イタダキマース
男「うまい?」
女「んまいっ!」(*´д`*)ペカー
男「そりゃよかった」
女「もうこのね……カレー味のキャベツのシャキシャキ感と表面が揚がった玉ねぎのサクサク感、
そして上にのったでっかい魚肉ソーセージと、ケチャップとマスタードの絶妙な配分がね……」ハムハム
男「そっかぁ」ニコッ
女「どしたの?」ハムハム
男「いや、食べてるとこが可愛いなって」
女「そんなこと言われたら……食べにくいよ///」
男「ははっ」
女「んー、ちょっとね」
男(言いたくない……か)
男「よーし、そんな君にプレゼントをあげよう」ゴソゴソ
女「プレゼント?」
男「テケテテン♪ おーさーいーふー」
女「あ、かわいい財布! でもモノマネの方は似てない!」
男「プレゼントは中止になりましたー」スッ
女「そんなっ!?」
男「よろしい。ではこのお財布を進呈しよう」スッ
女「ははー! ありがたき幸せ」スッ
男「中身は家のお手伝いをすることで増やすことができます」
女「わかったー。……って、もうなんか入ってるみたいだけど」
男「それはお小遣いです」
女「そんな……なんか悪いよ」
女「でも……」
男「でもじゃなくて、こういう時はなんて言うのでしょうか」
女「……ありがとう」
男「ん。正解」ナデナデ
女「わっ? もう……ずるいなぁ」
男「なにが?」
女「わかんないならいい」プイッ
男「んー、ぼちぼちかな。バイトみたいなもんで慣れないことしたからねぇ」
女「慣れないこと?」
男「そう。人探し」
女「見つかったの?」
男「まだだねぇ。でも大体のアタリを付けたから、時間の問題だと思う」
女「そっかー」
男「そうだよー」
女「ごちそうさまでしたー。やっぱり男の料理はおいしいねぇ」
男「そうかなぁ」
女「そだよー」
男「そっかぁ」
女「……あたし、好きだよ。君の料理」
男「はは、ありがとう」
男「お、さっそく財布の中身を増やす算段だね」
女「お小遣いなくてもこれくらいやるよ。っていうかいつもやってるでしょ!」プンスカ
男「ははっ」
女「片付け終わったらちょっと寝てもいい?」カチャカチャ
男「うん。俺もちょっと眠いから、風呂入ったら寝るよ」
女「じゃあ……一緒に寝る?」
男「ん? いいよ?」
女「う、うん……」
男「ん、じゃあどうぞ」
女「失礼します……」スッ
男「ふぁあ……」
女「ほんとに眠いんだね」
男「うん、慣れないことやるとちょっと疲れるね」
女「お疲れ様。ゆっくり休んでね」
男「うん。おやすみ」
女「おやすみー」
男「Zzz」
女「……」ギュッ
男「Zzz」
女「あったかい……」
男「Zzz」
女「殺人鬼が隣にいるってのに、警戒心もなく寝ちゃって」ツンツン
男「むが……っ……Zzz」
女「寝るときに人の温もりを感じるなんて何年ぶりだろう。もしかしたら初めてなのかも」
男「Zzz」
女「ふふっ。おやすみ」
女「よくあるよねー」
男「腹は……寝る前に食ったから減ってないな」
女「眠気覚ましのコーヒーでも淹れようか?」
男「ココアがいい」
女「はいはい」
男「ありがと」
男「……」ズズッ
男「うん、うまい」
女「よかった」
男「そういえば今日は暇?」
女「いつでも暇だよ」
男「そっかぁ」
女「どしたの?」
女「いいの!?」
男「もちろん」
女「でも、今日はお仕事は?」
男「また夜中になると思うから大丈夫」
女「じゃあ、お願いしてもいい?」
男「うん。これ飲んだら行こうか」
男「大丈夫?」
女「うん、頑張って我慢する」
男「もうちょっとゆっくり出ればよかったかなぁ」
女「気にしすぎだよ。あっ、ほらあれ見て可愛いー」
男「お、白のコートか。君に似合いそうだね」
女「そ、そうかな///」
男「試着してみたら?」
女「君がそういうなら、してみようかな……」
男「うん、思ったとおり似合ってる」
女「そうかな。えへへ」クルッ
男「他にも持ってきてみようか?」
女「ううん、これで決定だよ」
男「そんなすぐ決めちゃっていいの?」
女「いーのっ。君が選んでくれたやつだからね」
男「そういうもんかなぁ」
女「そーゆーもんなのっ」
女「いーじゃんいーじゃん」
男「下着売り場なんて場違いな気がするけどなぁ」
女「ねね、君は赤と黒どっちが好き?」
男「どっちも好きだよ」
女「むー」
男「君がつけるならピンクかなぁ。ん? 白地に黒フリル……そういうのもあるのか」
女「ちょっと! なんか今までにないほど真剣な顔してるよ!?」
女「結局、服のお金も出してもらっちゃったね」
男「安いのばっかりだったから気にしなくていいよ。今回の件が片付いたらまた纏まったお金も入るし」
女「そっかー」
男「そうなのです。まあこの量はちょっとびっくりだったけど」
女「普段着も買っちゃったからねー」
男「うちの中では基本俺のジャージだったもんねぇ」
男「いやぁ、サイズのでかいジャージ着てる女の子って可愛いと思うよ?」
女「ふぇっ!?」
男「可愛い子が可愛い格好してるとか、もはや天国だよね」
女「ちょ……やめてよ……こんな往来で可愛いとか……///」
男「可愛いものを可愛いと思った時に可愛いって言う。それが可愛いものに対しての礼儀だよ」
女「……にゃ……」
男「にゃ?」
女「にゃああああああああああっ!」パチーン
男「オプーナッ!」ビターン
モブ「うっは、見た今の? 女の子のビンタで倒れてんの。テラ情けねぇー」
モブ2「マジで? 貧弱貧弱ゥってか?」
モブ「ねえ君、こんな貧弱なの放っておいて俺達とテラ遊ばない?」
モブ2「これでも俺達鍛えてっからさー。そんな奴より楽しめると思うってか?」
女「はぁ……」
モブ「テラため息つかれた」
モブ2「お前の顔が好みじゃなかったんじゃねってか?」
モブ「まぁまぁ、テラそんなこと言わずにさぁ」
モブ2「ちょっとお茶するだけでもいいからさぁ……ってか?」
女「ウザ……あんまりしつこいと殺しちゃうよ?」
モブ「うっは、テラ犯罪予告。こえー」
モブ2「君みたいな子に殺されるなら本望だよってか?」
女「……じゃあ死ねよ」ヒュッ
モブ「テラえっ?」
モブ2「ってか?」
女(あたしの攻撃を止めた!? いつの間に!?)
男「はいそこまでー」グッ
女「……どいて、そいつら殺せない」ググッ
男「悪いね君たち。ここは退いてくれないかな?」グッ
女(あたしの全力でも動かない……)グググッ
モブ「あ? テラ意味わかんねぇ」
モブ2「貧弱は黙ってろってか?」
男「……」ギロッ
女・モブ・モブ2「っ!?」ビクッ
モブ「な、なんかいきなり雰囲気テラ変わってね?」
モブ2「い、息苦しくなったってか」
男「……失せろ。次は無ぇぞ」
モブ「テラひっ……!」ドタドタ
モブ2「てか……っ!」バタバタ
女「もう放していいよ。手」
男「あっ、ごめんごめん」パッ
女「掴むんじゃなくて繋いで欲しいんだけど……いいかな?」スッ
男「もちろん。喜んで」ギュッ
女「なんか飲みたい」
男「じゃああそこで休憩しようか」
女「ほんとに甘党だねー」
男「甘くておいしいよ」
女「……ほんとだ」コクッ
男「落ち着いた?」
女「……うん」
女「君があたしに声をかけてきた時は、どんなヘン夕イかと思ったよ」
男「なんという……」
女「だってそうでしょ? 汚れに汚れて痩せに痩せた女の子に向かっての第一声が、
『君、可愛いね』だったんだよ? どんな感覚してるんだって思うでしょ普通」
男「いやぁ、女の子と話すのに慣れてなくて」
女「それにしたってもうちょっと言葉があるでしょー」
男「お恥ずかしい」
女「まあ、それについていっちゃうあたしもあたしだけどさ」
男「ははっ。それもそうだね」
女「ふふっ」
男「そりゃ、無駄に殺さなくていいならそれに越したことないでしょ」
女「あんなの殺したって問題ないと思うけどなー」
男「そりゃそうだけどね」
女「そこは否定してあげようよ」
男「はは。……でも、ほんとは殺したくなんてなかった。でしょ?」
女「そんなこと……」
男「思ってない? 本当に?」
女「……」
女「……それはやだねー」
男「じゃあ、止めてよかったじゃん」
女「そっか……」
男「そうだよー」
女「……ありがと」
男「どういたしまして」
男「そうだねぇ」
女「花が咲いて、水のせせらぎが聞こえて、優しい風が吹いて、雲が流れて、高い空があって、瞬く星が見えて……」
男「言われて見ればそうだね。今まで気付かなかった」
女「ずっと……ずっとずっとずっと、ここにいたいな」
男「いたらいいよ」
女「ほんと?」
男「うん。ずっといたらいい。俺でよけりゃそばにいるから。必要としてよ」
女「……ありがと///」
女「うんっ」
男「晩ご飯はどうしようか」
女「たまには何か買って帰る?」
男「お、それもいいねぇ」
女「いいでしょー」
男「何か食べたいものある?」
女「んー……大抵のものは君が作った方がおいしいからなぁ」
男「ははっ。なんだそれ」
ガチャガチャ カチャ
男「ただいまー」バタン
男「……」
男「やっぱり今日も出かけてるのかぁ」
男「うーん、やっぱり出られたらやりにくいなぁ。いったい何してるんだろ」
男「……まあ、いいか。詮索するのもあれだし」
女「ただいまー」バタン
男「おかえりー」
女「また……君の方が……早かったねー」ビチャビチャ
男「うわ、びちゃびちゃじゃん。何やってんの」
女「水面歩行に失敗したー」ビチャビチャ
男「うわぁ、バカみたい」
女「うるさいよ!」
女「ちょっと……追いかけっこ?」
男「真夜中に水上で? なんつーアグレッシブな追いかけっこだ……」
女「君は水面歩行できる?」
男「どうだろう。ものによるけど、ここらの川くらいなら飛び越えた方が早いからなぁ」
女「ここらの川って……幅跳び世界記録どころの話じゃないじゃん」
男「そうなの? まあそんな感じだから水面歩行は試したことないねぇ」
女「すごいねー……へくちっ」
男「あーあー……風呂沸かすから、とりあえずタオルで拭いときな」
女「はーい」
男「もうちょっとで沸くね」
女「全自動ってすごいねー」
男「上がってから何か食べる?」
女「君は……なにか食べるの?」
男「そうだねぇ。今日はあっさりと鮭茶漬けでもしようかな」
女「あったまりそうだね。食べるー」
男「ははっ。じゃあ鮭焼くから、先に風呂入っておいで」
女「はーい……覗いちゃダメだよ……?」フラフラ
男「はいはい」
男「よし、いいかな」ヒョイ トントントントン
男「うむ。程よくミディアムレア。あとはこのスライスに熱々の出汁をかければ火が通るね」
男「そういえばさっきフラフラしながら風呂に行ったけど、眠かったのかな」
TV(タダイマハイッテキタジョウホウニヨリマスト レンゾクサツジンジケンニアラタナヒガイシャ……)
男「……」
TV(ヒガイシャハ……)プツン
男「はぁ……」
ガターン
男「女!?」ドタドタ ガラッ
女「あ……」グッタリ
男「大丈夫か!」
女「やだ……覗いちゃダメって……言ったのに」
男「言ってる場合かバカ! 何してんだ!」
女「ちょっと……体に力入んなくなっちゃって……」
男「とりあえずベッドに運ぶぞ」ダキッ
女「恥ずかしいよ……」
男「それも言ってる場合じゃない!」
女「微妙だねー……」
男「この寒いのに水に入ったりするから風邪ひくんだよ」
女「ごめんね……せっかく買ってもらった服ビシャビシャにして……」
男「今更だな。後でクリーニングに出しとくから大丈夫」
女「ありがと……」ゴホゴホ
男「医者はどうする?」
女「このくらいなら……すぐ治る……」
男「わかった。市販の薬だけ飲んどきな」
女「あい……」
女「ん……おいしい」コクッ
男「これであったまると思うから」
女「まだちょっと寒いよ……」
男「湯たんぽも持ってきた。あとは暖房を……ん?」ギュ
男「……ひょっとして、誘ってる?」
女「言わないでよ///」
男「平気なの?」
女「大丈夫」
男「でも……」
女「お願い。一緒にいて」
男「……わかったよ」
男(こいつの体、よく見たら傷だらけだな)
男(それも、最近ついたものじゃない)
男(俺と会う前……子供の頃から……?)
女「ん……男ぉ……愛してる……」ムニャムニャ
男「はいはい。俺も愛してるよ」ナデナデ
女「えへへ……」ムニャムニャ
男「ったく。幸せそうな顔しやがって……」フッ
男「起きたね」
女「いま何時ー?」
男「もう夕方。調子はどう?」
女「うん、ちょっとだるいけどもう熱はなさそう」
男「そう。よかった」
女「君……お、男の看病のおかげかな///」
男「ははっ。照れるなら言うなよ」
女「いーじゃん。ばか」ギュ
女「これでも殺人鬼ですから。人よりはね」
男「ただの可愛い女の子にしか見えないんだけどなぁ」
女「え……あぅ……///」
男「可愛かったよ」フッ
女「も……もーバカっ!///」
女「重くなければ食べれそうかなー」
男「結局食べてなかった鮭茶漬けが……あー、一応病人だし鮭雑炊にしようか」
女「やったー」
男「じゃあ作って持ってくるから、寝ながら待っといて」
女「はーい。男の手料理は何でもおいしいよねー」
男「そうかなぁ」
女「そだよー」
女「まってましたー」(∩´∀`)∩ワーイ
男「それじゃ、あーんして」
女「……マジで?」
男「マジで」
女「自分で食べれるよぉ」
男「病人は言うこと聞きなさい」
女「うぅ……///」
女「あーん。……あむ、あむ」モクモク
男「うまい?」
女「……んまい」(///ω///)
男「そう、よかった。んじゃ俺も」カチャカチャ
女「あ……」
男「ん?」アーン
女「スプーンそのままで食べるの?」
男「え? うん。スプーンっていうか鍋も同じだけど、何か問題でも?」
女(間接キスだ……)
女「え、ううん。なんでもない。間接キスだなんて思ってないよ」
男「え?」
女「あ」
男「えっと……俺の分と女の分と、分けたほうがいい?」
女「そのままで……いい///」
男「そっかぁ」
女「うん」
男「まあ間接キスどころじゃないことしたもんね」
女「……バカ///」
男「ごちそうさまでした。さて、ちょっと洗ってくるね」カチャカチャ
女「ごめんね? いつもはあたしが洗うのに」
男「いいって。甘えられる時に甘えときな」
女「ありがとー」
男「はいはい。何か要望があったら言いなよ」
女「じゃ、じゃあお願いがあるんだけど」
女「そ、その、後ででいいんだけど。また……あっためて欲しい///」
男「あらまあ」
女「///」
男「いいよ。片付けてくるからちょっと待ってて」ニコッ
女「あい///」
女「今日も例の人探し?」
男「うん。女は病人なんだから今日は外に出ちゃダメだよ?」
女「病人おいて行っちゃうの?」
男「ごめんね」
女「ううん。言ってみただけ。気をつけてね」
男「うん。できるだけ早く帰ってくるよ」
女「どしたの?」
男「女が昨日水面歩行に失敗したのって川でいいんだよね?」
女「あ、うん」
男「公園のそばのとこ?」
女「そうだけど……何で知ってるの?」
男「ん、なんとなくだけどね。それじゃ行ってくるよ」
女「行ってらっしゃい」
男「行ってきます」
男「公園のそばの川……ね」
男「女が外出しないなら、今日は仕事がはかどりそうだな」
男「んー……」ノビー
男「さて……さて……」コキコキ
男「そんじゃあやりますか」
男「ただいまー」バタン
女「あ、おかえりー」トタトタ
男「ただいま。寝てなくていいの?」
女「うん、もうだいぶマシになったよー」
男「そっか。よかった」
女「えへへ、心配してくれてありがと」
男「どういたしまして」
女「うん、今日はあたしがごはんを作ってみましたー」
男「Oh……」
女「え? なにその反応」
男「女って……料理できるの?」
女「ででででで、できるよ! 失礼な!」
男「へぇ……」
女「信じてないね?」
女「むー……そりゃそうだけどさ」
男「まあ俺が料理好きだから率先してやってただけなんだけど」
女「そうそれ! 男の料理がおいしすぎるせいだよ!」
男「えー?」
女「明らかに自分より上手な人に料理作るのってなんかこう……なんかなの!」
男「そういうもんかなぁ」
女「そーゆーもんなの!」
女「そ、それはその……」
男「……?」
女「あたしだって料理できるっていう女の子アピールっていうか……」
男「ふむ」
女「可愛い女の子みたいなとこもあるんだよーみたいな……ああもう! なに言わせんの!///」
男「全部自分で言ったのに!?」
女「そ、それはそうだけど……」
男「可愛いよ。女」
女「……にゃ……」
男「愛してる」
女「にゃあああああああ!///」スカッ
男「ははっ。危ねぇっ」サッ
男「おー、ハンバーグだ」
女「ちょっと不恰好だけどね」エッヘン
男「よし、食べようか」
女「うんっ!」(∩´∀`)∩イタダキマース
男「いただきます」
女「……」ドキドキ
男「……あむ」パクッ
女「……」ドキドキ
男「お、これはニンニク醤油の照り焼きだね」モグモグ
女「うん、ちょっと甘辛にしてみたんだけど……どうかな」
男「香ばしくていいね。この甘辛がご飯をすすめてくれる。噛んだら溢れてくる肉汁と、
塩コショウの下味がついたミンチの中にある玉ねぎのみじん切りがちょうどいい甘みを出してくる」モグモグ
女「……」ドキドキ
男「……うん。おいしい」
女「よかったぁ」ホッ
男「照り焼きにしたら焦げ付くのが早いからねぇ。でも俺はこれくらいの方が好きだよ」
女「ほんとかなー?」
男「うん。表面がカリッとして香ばしくて、それが中の柔らかさを引き立てるっていうか」
女「ふふ、信じてあげる。……ありがと」
男「ほら、自分で食べてみな。あーん」
女「ちょ、ちょっと……///」
男「あーん」
男「どう?」
女「……んまい」(*´ω`*)
男「でしょ?」
女「うん」
男「正直、俺が作ったのよりおいしいと思うんだけど」
女「それは言いすぎだよー」
男「そうかなぁ」
女「そだよー」
男「あー、なんか追っかけられてるの気付いたらしくてさぁ」モグモグ
女「あー、追跡系の仕事だったの?」
男「うん」
女「それは厄介だねぇ」
男「高飛びしないあたり、まだ自信ありげだけどね」
女「捕まえられるもんなら捕まえてみろってこと?」
男「そんな感じ」
女「大胆だねぇ」
男「自信過剰だよねぇ」
女「うん」ハムハム
男「本気出しちゃおうかなって」
女「今までまじめにやってなかったみたいな言い方だねー」
男「まあ否定はしないよ。でも明日からちょっと本気出す」キリッ
女「あはは、ちょっとでいいの?」
男「充分だねぇ」
女「それ、男もなかなか自信過剰だって思われても仕方ないよ?」ケラケラ
男「ははっ。まあそれはやってみてからのお楽しみってことで」
女「ごちそうさまでしたー。食器まとめちゃってー」カチャカチャ
男「作ってもらったし俺が洗うよ?」カチャカチャ
女「いーのっ。そのかわりと言っちゃなんだけど……お願いがあるの」
男「ん、お小遣い?」
女「ううん、違う」
男「ふぅん? まあ俺でできることならやるけど」
女「ふふ、その言葉、忘れないでね?」
男「ん、それじゃあ入ってこようかな」
女「外寒かっただろうからゆっくり入ってね」
男「わかったー」スタスタ
女「……ふふ」ニヤリ
ガラッ
女「失礼しまーす」
男「」
女「お、お背中流します」
男「」
女「ちょ、ちょっと……何か言ってよ」
男「顔真っ赤だよ」
女「///」
女「たぶん大丈夫」
男「そう? じゃあいいけど」
女「それに、汗かいたり……ゴニョゴニョ……したから、拭くだけじゃなくて流したいし」
男「あぁ……なるほど」
女「あー、シャワーが気持ちいー」シャワァー
男「わざわざ俺のいる湯船に入ってこなくても」
女「細かいことは気にしなーい」
男「せまくね」
女「じゃあこうして……」モゾモゾ
男「俺に背中を向けて?」
女「これでどうだ!」ガシーン
女「なんで敬語なのさ」ケラケラ
男「そうしないといけない気がしたのです」
女「なにそれ、変なのー。あ、もしかしてあたしの裸見て欲情しちゃったとか?」
男「うん」
女「ふぇっ?」
男「好きな女の裸を見りゃ欲情もしますけど」
女「そ、それは……その……また、後で///」
男「はは、自分で言っといて照れるの何とかしろよ」
女「男がストレートすぎるのっ」
男「んー?」
女「この傷、気になる?」
男「んー、そんなにかな」
女「そんなに?」
男「気にならないわけではないけど、それも含めて女だし知らなくても別にいいかなーって」
女「男……」
男「話したくないなら聞かないし、話したいなら聞くよ」ギュッ
女「うん」
男「……まあ、今の日本だとそのくらいしか理由がないだろうね。事故にしては小さいし、数が多い」
女「うん。それで、気付いたらいつの間にか殺人鬼になっちゃってた。
んー、なったって言うよりは目が覚めたって感じなのかな? よくわかんないや」
男「君は可愛い女の子だよ」
女「ありがと。それで、色々あった後にフラフラしてるところを男に拾われたのです」
男「そっか」
女「そだよー」
男「ふぅん……」
女「……男は優しいね」
女「下手な慰めの言葉なんかかけずに、こうして抱きしめてくれる」
男「何も言葉が思いつかないだけかもしれないよ」
女「それでも、結果オーライじゃない?」
男「そうかなぁ」
女「そだよー」
男「そういうもんかなぁ」
女「そーゆーもんだよー」
男「うん?」
女「あたしは愛に飢えています!」グッ
男「……」
女「……」
男「……」
女「ちょっと……何か言ってよ///」
男「あぁ、ごめん。色々見えてるから凝視してた」
男「それで、何の話だっけ」
女「なんでもない!」プンスカ
男「ごめんって」
女「ふーんだ」プンプン
男「ほら」クイッ
女「あっ……ん」チュッ
女「うー……なんかなー……もー。男はずるいよ……」
男「ごめん」
女「まったく……」
男「それで、愛に飢えてる女さんはさっきのお願いごとで俺に何をさせるつもりなのかな?」
女「しっかり聞いてるじゃん!」
男「ははっ」
女「もう……バカ。たっぷり愛情もらうんだからね///」
男「いいよ。それじゃあとりあえず背中の流しっこでもしようか」
男「……」ムクリ
男「……」ボケー
女「やだもう……男ったら……そんなとこぉ」ムニャムニャ
男「……」キョロキョロ
男「夕方4時か……」
男「まさかとは思うけど、もしかして、ひょっとすると、けっこうダメ人間なんじゃないだろうか。俺」
男「否! まだ真っ当な人間としての生活に戻るチャンスは……」
女「ダメダメだよぉ……もぉ……」ムニャムニャ
男「……そうですか。まあ戻るつもりもないんだけどね」
男「おはよー。っていうかもう夜だよ」トントン
女「よくあるよねー」ケラケラ
男「最近多いなぁ……まあ今回の仕事が片付いたら元に戻せるかな」トントン
女「なに作ってるの?」
男「水菜と大根とツナのサラダだよ」
女「おおー。あれシャキシャキしてて大好きー。ポン酢で食べるとおいしーよねー」
男「たまにはさっぱりしたのもいいよね」
女「男が食べるなら一緒に食べるよー」
男「ん、じゃあスパゲッティ茹でちゃうよ」
女「やったー! 今日は何のパスタにするの?」
男「スパゲッティ・アーリオ・オリオ・ペペロンチーノ」
女「あーり……おりおり?」
男「まあ、ペペロンチーノだね」
女「ピリ辛のやつ?」
男「うん、大体あってる」
女「おいしそー」
男「ペペロンチーノには薄切りにした鶏ステーキと、ステーキソースを含ませた大根おろしをのせてみたよ」
女「大根おろしでさっぱりするねー」
男「よし、それじゃあ食べようか」
女「わーい」(∩´∀`)∩イタダキマース
男「そりゃよかった」モグモグ
女「男はどんな料理も上手だねー」ハムハム
男「下手なのを作ってないだけじゃないかな」
女「たぶんどんなのでもおいしく作れるよ」
男「そうかなぁ」
女「そだよー」
女「なになに? もしかしてえっㄘぃこと?」ハムハム
男「期待に応えられなくて悪いけど違うよ」
女「なーんだー。じゃあ何?」
男「今日は家から外に出ないでほしいの」
女「一歩も?」
男「そう、一歩も。もしかして用事ある?」
女「ううん。何もないけど。……なんで?」
男「たぶん今日は外が危ないから」
女「ふぅん?」
男「ん、なんとなくだけどね」モグモグ
女「でも、危ないって言ってもあたし殺人鬼だよ?」
男「君は可愛い女の子だよ。……いや、それはおいといて」
女「まあ家でやりたいこともあるから別にいいけど……男は大丈夫なの?」
男「うん。仕事もあるしねぇ」
女「そっかー」
男「そうだよー」
女「うん。わかった。危険なんでしょ? 男も気をつけてね?」
男「うん。気をつけるよ」
女「行ってらっしゃい」
男「行ってきます」
女「お、もう3時過ぎかー。集中してると時間が経つのが早いなー」
女「そろそろご飯作ろうかな」
女「今日は何作ろう」
女「揚げ物……は寝る前に食べるには重いよねぇ」
女「うーん……」
女「……うどん」ハッ
女「きつねうどんにしよう」
男「んー」ノビー
男「加減が難しいんだよなぁ……」コキコキ
男「……」スー
男「……」ハー
男「よし……!」
男「行くか」
女「あとはお揚げさんだねー」
女「んー……たしかこの辺に」ゴソゴソ
女「あった。ヒガシマルのうどんスープ」
女「これと醤油と砂糖で油揚げを煮込んでー……――っ!?」ゾクゾクッ
女「……なに、今の。殺気みたいだけど、人のとは微妙に違う。すっごくやな感じ」
女「男が言ってた『外が危ない』ってこれのことかな」
女「様子見に行きたいけど、外に出ないって約束しちゃったしなー」
女「男、大丈夫かなー……」
男「ただいまー」バタン
女「おかえなさーい」パタパタ
女「ご飯とあたしにする? お風呂とあたしにする? それとも、あ・た・し?」
男「ははっ。絶対に何かしら関わってくるんだ」
女「えへへ。一度でいいから言ってみたかったんだよねー。女の子の夢だよー」
男「新婚さんみたいだねぇ」
女「えへへぇ///」
男「そうなの?」
女「うん。だってほら、あたし殺人鬼だし……さ……」
男「ふむ」ギュッ
女「ふぇっ!?」
男「君は可愛い女の子だよ」
女「……ありがと」グスッ
男「ん」ナデナデ
男「どしたの?」
女「血の匂いがする。どっか怪我してない!?」バッ
男「あぁ、やっぱりバレたか。ちょっと失敗して左腕をね」スッ
女「血が出てるじゃない! 救急箱持ってくるから待ってて!」
男「ありがとうね」
女「どういたしまして。お医者さんに診てもらわなくていいの?」
男「うん。これくらいなら大丈夫」グッグッ
女「まあ血が多かっただけで怪我自体はそんなにひどいものじゃなかったみたいだけど。……今日の仕事で?」
男「うん。仕事自体は終わったんだけどねぇ」
男「うん。ちょっと本気を出してね」
女「ほんとにちょっとで充分だったねー」
男「まあそれで怪我してちゃ世話ないけどねぇ」
女「でもまあ大したことなくてよかったじゃない」
男「そうかなぁ。うん、そうだねぇ」
女「ふふ。そだよー」
男「うん、もらおうかな」
女「ほいほい、じゃあ茹でますよー。って、よく考えたら麺類が続いちゃったねー」
男「そういえばそうだねぇ」
女「どうする? 何か別の用意する?」
男「まぁ、たまにはそんな日があってもいいんじゃない? せっかく用意してくれたんだし」
女「そう?」
男「うん」
女「えへへ、ありがと。すぐ用意するね」
男「……」
TV(……カイシャインノ……)
女「あれ、それこの近くだねー」
男「そうみたいだねぇ。何かが人の上に落ちちゃったみたい。運の悪い人もいるもんだね」
女「午前4時かぁ。そういえばあれも同じくらいだったかなぁ」
男「何かあったの?」
男「やな感じ?」
女「うん、なんかこう……すごいプレッシャーっていうか、殺気みたいな」
男「ふむ…………」
女「なんか質が普通じゃなかったんだよねー。あ、気にはなったけど約束通り外には出なかったよ」
男「お、えらいね。後でご褒美をあげよう」
女「わーい! えっㄘなのがいいー!」(∩´∀`)∩
男「ご褒美は中止になりましたー」
女「そんなっ!?」Σ(´艸`;)
男「おお、これは立派なきつねうどん」
女「お揚げもいい感じだと思うよー」
男「よし、それじゃあ食べようか」
女「いただきまーす」(∩´∀`)∩
男「いただきまーす」
女「あったもので適当に作ったんだけど、なかなかいけるねー」ハムハム
男「薄切りのかまぼこには、何か懐かしさを感じるね」
女「昔ながらのおうどんって感じでいいでしょ?」
男「そうだねぇ。ただ……多いよねかまぼこ」
女「一本ぜんぶ使うのはやりすぎました」ショボーン
男「まあおいしいからいいんだけどね」
女「えへへ、ありがと」
女「あー、まだ捕まってないんだ。犯人」ハムハム
男「みたいだねー」モグモグ
女「まだ続くのかなー」
男「どうだろうねぇ。もう起きないんじゃないかな」
女「なんで?」
男「んー、なんとなく」
女「ふぅん?」
女「ごちそうさまでしたー。食後に何か飲む?」
男「んー、じゃあココアで」
女「はいはい。今日はあたしもココアにしようかな」
男「おや、珍しい」
女「なんていうかその……さ。好きな人が好きなものは好きになりたいじゃない」
男「……」
女「な、なに?」
男「可愛いなぁと思って」
女「もう! そのストレートなのやめてってば///」
男「起きてからにしようかな。その方が傷口もちょっとは塞がってるだろうし」
女「そっか。じゃあもう寝ちゃう?」
男「んー、そうだねぇ」
女「ん、それじゃあお休みー。あたしはお風呂入ってから寝るよ」
男「わかった。お休みー」
男「はい、冷たいポカリ」
女「ありがとー……んっ、んっ……」
女「んまいっ!」(*´д`*)プハー
男「そりゃよかった」
女「って、まだ寝てなかったの?」
男「うん、なんか寝付けなくてねぇ」
女「そっかー」
男「そうだよー」
男「抱き枕? あぁ、そういうことか。そうかもねぇ」
女「さっきのご褒美くれるっていうんなら抱き枕になってあげてもいーんだけど」
男「ふむ。じゃあ」ナデナデ
女「ふゃっ……」
男「……」ナデナデ
女「ふにゃぁぁ……」
男「……」ナデナデ
女「……♪///」
女「これもいいけど、えっㄘなのも欲しいです!」
男「いやほら、大したことないとは言え怪我してるしさ。俺」
女「あたしが動くから!」
男「風呂も入ってないし」
女「あたしは気にしませんから! むしろご褒美ですから!」
男「俺が気にするんだって」チョップ
女「あうっ」
男「うっ……」
女「お願い……」ウルウル
男「はぁ……」
女「……」ウルウル
男「ちょっと待ってて。腕濡らさないようにシャワー浴びてくるから」スタスタ
女「わーい! 男大好きー!」(∩´∀`)∩
男「そして例の如く夕方に目覚める俺……」ムクリ
男「まあ仕事は昨日で終わったからいいか」
女「うへへぇ……」ムニャムニャ
男「ふふっ……」ナデナデ
男「ん、傷口も塞がったかな」グッグッ
男「それじゃ、左腕も洗いたいしひとっ風呂浴びてくるかぁ」
女「……?」
女「男ー? いないのー?」
女「……」キョロキョロ
女「どこ行ったんだろ……」
ガチャガチャ カチャ
男「ただいまー」
女「あ、帰ってきた。おかえりー」
女「当たり前でしょー? 何時だと思ってんの?」
男「俺が家を出る時には寝てたけどね」
女「うっ……ほんとはいま起きたとこ」
男「ははっ。だと思った」
女「えへへ」
男「ん、ちょっと夕飯の買い物にね」
女「起こしてくれれば手伝ったのに」
男「依頼人から報酬の受け渡しもあったからね。一人の方が良かったんだ」
女「なるほどー」
男「ごめんね」
女「お仕事関係なら仕方ないよ」
男「ふっふっふ。お詫びに今日はなんとこれを買ってきました」ズイッ
女「ん? 一体なに……キャーッ!!」
男「ははっ。うんめェ」カグッ
女「焼肉ってエライよ! うまいからエライよ!」(*´д`*)ペカー
男「仕事も一段落したし、今日は飲んで食べるぞー」
女「わーい!」(∩´∀`)∩
男「野菜もちゃんと食べなきゃだめだよ。ほい」ヒョイヒョイ
女「ああ! キャベツは焦げる手前が好きなのに!」
男「代わりに茄子とカボチャは全部食べてあげるから」ヒョイヒョイ
女「ちょっと! あたしも食べたいんだけど!」
女「おはよー……」トテトテ
男「おはよー。やっぱり朝起きるのが一番いいよねぇ」
女「んぅ……そだねー……ふわぁ」
男「眠いなら寝ててもいいのに」
女「なんか……眠気が覚めるようなこと……言ってー」(σω-)
男「今日ひま?」
女「んー……いっつも暇ー」
男「じゃあデートしようか」
女「( ゚д゚)ンマッ!!」カッ!
男「んー、なんとなく。最近まったく外に出てないしさ、女」
女「あー……」
男「さすがに体に悪いと思うよ」
女「うーん、そう言われたらそうかも……」
男「それにほら、最近よくご飯のおかわりするじゃん」
女「げっ。もしかしてやばいの?」(ノ)´瓜`(ヾ)ムニムニ
女「なーんだ……びっくりさせないでよ、もう」
男「でもたまには運動してもいいんじゃない?」
女「運動なら毎日男といっぱいしてるもん。ベッドの上で」プクー
男「そういうのじゃなくて」
女「むー……」
女「うーん……嫌ってわけじゃないんだけど……」
男「体調が悪いとか?」
女「そーいうのでもなくてね……」
男「ふぅん?」
女「うーん……」
男「気が進まないならまた今度でもいいけど」
女「うーん。……いや、行こう。でも、人が少ないとこがいいかな」
男「ん、了解。それじゃあご飯を食べたら行こうか」
女「うんっ」
男「うん、コレでもしようかと思って」スッ
女「バドミントン? 懐かしいなー」
男「たまにはいいでしょ?」
女「そだねー」
男「しっかし久しぶりだなぁ。うまくできるかな」
女「じゃあ賭けでもしちゃう? 勝った方の命令をなんでもひとつ聞かなきゃダメとか」
男「おっ、随分ノリノリだねぇ。いいよ」
女「よーし、やるって決めたからにはとことんやっちゃうよー」
女「ほっ」ポン
男「とうっ」パシン
女「ふっ」パンッ
男「よいしょっ」トンッ
女「なんのっ」カッ
男「甘いっ」カッ
女「まだまだっ」カッ
女「はっ!」カッ
男「っ!」カッ
女「っ!」カッ
男「っ!」カッ
女「っ!」カッ
カカカカカカカカカカカッ!!
通行人A「おい、なんか残像が見えるほどの勢いでバドミントンやってるのがいるぞ」
通行人B「なんか衝撃波とか出てないアレ?」
通行人C「2人とも若干飛んでるように見えるのって俺だけ?」
男「うおっ!?」スカッ
ズドン!
女「はぁ……はぁ……やったー!」
男「くそぅ……負けた……」ゼェゼェ
通行人A「なぁ……アレ……」
通行人B「よせ、やられるぞ」
通行人C「あぁ、俺達はバドミントンの羽根が地面に埋まったところなんて見ていない」
女「ありがとー」ゴクゴク
男「どういたしまして。……ん、うまい」ゴクゴク
女「やっぱ運動の後は冷えたスポーツドリンクだよねー」
男「そうだねぇ。久しぶりに運動してどうだった? すっきりした?」
女「うーん……。お腹すいてたのが中途半端に食べたせいで余計にすいちゃった……みたいな感じかな」
男「動き足りないならもうひと勝負する?」
男「そう? ならいいけど。それで、勝った女は負けた俺に何を命令するのかな?」
女「それってさ、今じゃなくてもいいかな?」
男「うん?」
女「また今度、お願いしたいんだけど」
男「いいよ」
女「じゃあその時が来たらお願いするね?」
男「うん。俺でできることなら、だけど」
女「だいじょーぶだいじょーぶ。簡単にできることだから」
男「そう? わかった。その時が来たら言ってね」
男「ん」スッ
女「ゆーびきーりげーんまーんうーそつーいたーらはーりせんぼんのーます♪」
男「指切った♪」
女「ふふ」
男「ははっ。なんか懐かしいな」
女「たまにはいいでしょ?」
男「そうだねぇ。たまにはいいね」
女「約束、守ってね。……絶対だよ?」
男「うん。わかった」
男「筋肉痛が怖いなぁ」
女「またまたー。普段から肉体労働してるくせにー」
男「普段使ってる筋肉とは別モノだからなぁ」
女「そーゆーもんかなー」
男「そういうもんなの」
女「家に帰って男のご飯がいいな」
男「ん、了解」
女「あ、でもちょっとあのお店見てきていい?」
男「いいよ。行こうか」
女「んー、すぐ終わるから男はちょっとここで待ってて」トテトテ
男「あいあいさー」
男「ごきげんだね」
女「そうかなー? うん、そうだねー」
男「パワーストーンとか興味あったんだ?」
女「うーん、実はそんなに」
男「なんと」
女「でもなんかピーンと来てね」
男「ふぅん? それで、なに買ったの?」
女「んっふっふー。なーいーしょー」
男「そっかぁ」
女「そだよー」
女「わーい」(∩´∀`)∩イタダキマース
男「ビーフもいいけどチキンが一番好きなんだよねぇ」
女「んまいっ!」(*´д`*)ペカー
男「ジャワカレーの中辛が俺の正義」
女「隠し味とかあるの?」
男「砂糖をちょっと入れてるくらいかな」
女「それだけなの?」
男「うん。ルー1箱で砂糖大匙1杯。それだけでコクが出るね」
女「へえー。言われてみればなんか辛さの中に甘さを感じるかも」
男「……」モグモグ
女「そういえば連続殺人事件のニュースやってないね。最近」ハムハム
男「犯人が捕まったってわけじゃないみたいだけど、あれから新しい被害者もいないみたいだね」
女「ほんとに男が前に言った通りになったねー」
男「そうだねぇ。なんとなくそう思っただけなんだけど」
女「男の『なんとなく』は百発百中だね」
男「そうかなぁ」
女「そだよー」
女「ごちそうさまでしたー。はい、食器重ねてー」カチャカチャ
男「はい。じゃあ俺はお風呂沸かしてくるよ」
女「一緒に入りたいです!」∩`・◇・)
男「ダメって言っても入ってくるじゃない」
女「まあそうなんだけどさー」
男「ははっ。まあ沸くまでに洗い物も終わるでしょ」
女「えへへ。じゃあ早く終わらせなきゃ」
女「そだねー」
男「特にやることもないしもう寝ちゃう?」
女「あ、あたしちょっとだけ部屋でやることあるんだ」
男「そっか。じゃあ何か飲み物でも淹れようか」
女「先に寝ちゃってもいいよ?」
男「ん、まあ飲み終わってから考えるよ」
女「ありがとー」カチャ バタン
男「部屋で何してるの?」
女「んー、まだ内緒」フーフー コクリ
男「ふぅん?」
女「眠い?」
男「そうだねぇ。久しぶりにバドミントンしたせいかな」
女「もう寝ちゃおうか?」
男「やりたいことあるんじゃなかったの?」
女「ん、もう大体終わったから大丈夫」
男「そっか。じゃあ一緒に寝ようか」
女「うんっ」
男「ん? どうしたの?」
女「……」
男「……?」
女「……やっぱりなんでもない」
男「ははっ。なんだそれ」
女「いいの! もう寝るよ!」
男「はいはい。それじゃあお休み」
女「……お休み」ギュ
女「……」パチッ
女「……」ムクリ
女「……」スタスタ
女「……」カチャ
女「……」ゴソゴソ
女「……」スタスタ
男「Zzz」
女「……今までありがと」チュッ
女「それじゃあね」カチャ バタン
男「……」ムクリ
男「あれ……女?」キョロキョロ
男「……」スタスタ
男「どっか出かけたのかな」
男「ん……書置き?」ペラッ
男へ
今までお世話になりました。
さようなら。
P・S
借りてた彫刻刀返すね。
一緒に置いてあるのはプレゼントです。
喜んでもらえたらいいなぁ。
女より
男「木彫りの兎が付いたネックレス……これのために彫刻刀を使ってたのか」
男「兎の目は……サファイアか? ……いや、アイオライトだな。あの店で買ったのか」
男「……中々うまいじゃないか。普通に売り物として店に出せるぞこれ」
男「兎に……アイオライトね……」
男「石言葉なんて普通はわからねぇよ。いや、普通はわからないだろうからこそ、か」
男「……」
男「……ったく。馬鹿だな」
男「黙って出て行くんなら……こんなもん置いて行くなよな……」
男(あれから数日。女は戻ってきていない)
男(いや、もう戻るつもりもないのかもしれないな)
男(出て行った理由がわからないんだよなぁ)
男(単純に俺のことが嫌になった……とかか?)
男(嫌われてる実感はなかったけど、女性は急に冷めるって聞いたことあるしなぁ)
男(でもそれだとこのネックレスは……)
男「うーん……」ジュージュー
男「でも出て行ったんなら俺に会いたくないかもしれないしなぁ」
男「……」コトッ
男「あ」
男「作りすぎた」
男「いただきます」
男「……」モグモグ
女『いただきまーす』(∩´∀`)∩
女『んまいっ』(*´д`*)ペカー
女『……あたし、好きだよ。君の料理』
男「……」
男「……ごちそうさま」ガタッ
男「……」カチャカチャ
女『えへへ、お世話になってるからこれくらいはね』
男「……」キュッキュッ
男「……」カチャ
男「ふぅ……洗い物も終わったし風呂でも入るか」
男「……」ゴシゴシ
男「……」シャワー
男「……」ザバー
女『……男は優しいね』
女『あたしは愛に飢えています!』グッ
女『たっぷり愛情もらうんだからね///』
男「……」ザバッ
男「寝るか……」ゴソゴソ
男「……」
女『君があっためて』ウルウル
女『ん……男ぉ……愛してる……』ムニャムニャ
女『君……お、男の看病のおかげかな///』
男「……」
男「やれやれ……どうも思い出しちまうな」
男「出て行った女のことをいつまでも。未練がましいったらないねぇ」
男「……それだけ情が移ってたってことか」ハァ
男「ん……メールか」
From:女
タイトル:無題
本文:たすけて
男「……っ!」ガバッ
女「あたしがどこにいるかは送らなかったけど」
女「でも、やっぱりわかっちゃうかな。ここだと」
女「きっと男は来る。来て欲しい。でも来て欲しくない」
男『そりゃ、無駄に殺さなくていいならそれに越したことないでしょ』
男『ほんとは殺したくなんてなかった。でしょ?』
男『じゃあ、止めてよかったじゃん』
男『ずっといたらいい。俺でよけりゃそばにいるから』
女「ずっと……ここにいたかったなぁ……」
――Prrrrrrr
ピッ
男『よう』
女「あ……男……」
男『ったく、急に出て行きやがって』
女「……」
男『今まで連絡もしてこなかったのに、してきたと思ったら助けてって』
女「ごめんね……わがまま言って」
男『まったくだよ。夜中だぜ』
女「うん……ごめん」
女「ごめん……」
男『まあいいさ。たまには』
女「……」
男『星が……綺麗だな……』ザッ
女「そうだね……」クルッ
男「助けに、来たよ」
女「……よくわかったね……あたしがここにいるって」
男「ん。なんとなく、ね」
女「……やっぱり男の『なんとなく』は百発百中だね」
男「そうかなぁ」
女「そだよー。殺人鬼のあたしもびっくりだよ」
男「……君は可愛い女の子だよ。可愛い、普通の、女の子だ」
男「……」
女「殺人鬼じゃなくて、ひとりの恋する女の子」
男「……」
女「好きな人と一緒に暮らす、ただの女の子」
男「……」
女「すっごく楽しくて、嬉しくて……幸せだったよ」
男「……」
女「でも、もう限界みたい。その魔法も効かなくなっちゃった」
男「……」
女「ううん、これは命令。今日のバドミントンで勝ったあたしから、負けた男への命令」
男「……」
女「男はあたしを助けに来てくれたんだよね?」
男「ああ。そうだ」
女「あたしが何を言うかわかってて来てくれたんだよね?」
男「ああ」
女「……来てくれてありがとう、男」
男「……」
女「ううん、こう言った方がいいのかな……」
女「待ってたよ。殺人鬼の天敵――鬼殺し」
女「うん。男と会う前に、そういうのがいるって噂を聞いたことがあって」
男「いつから俺がそうだって?」
女「なんとなくってのなら、最初に男を殺せなかった時からかな」
男「早いなぁ」
女「殺人鬼が殺せない相手なんてそうそういないからねー」
男「はっきりと確信したのは?」
女「男が連続殺人犯を殺してきた時……かな? あんなの普通の人間じゃできないもん」
男「……それもわかってたのか」
男「なるほど。夜中に出かけてたのはそれか」
女「初めは彫刻刀で彫る木片を探してたんだけど、途中からはね」
男「ふぅん。だから気配がごっちゃになってたのか。そりゃ仕事が捗らないわけだ」
女「ごめんね。お仕事の邪魔しちゃって」
男「いいよ。理由があったんでしょ?」
女「理由ってほどのことじゃないけど、なんていうかこう……不快だったから」
男「美学?」
女「まあ、そんな感じかな。後は縄張り意識みたいな」
獲物が死んだって報道された。それも、ありえない死に方で。もう間違いないよね」
男「なるほどねぇ。追ってたんならそりゃ気付くか……もう少し気をつけるべきだったな」
女「男が仕事について話したがらなかったから黙ってたけどね」
男「そりゃどうも」
女「聞きたいのはそれくらい?」
男「答えてくれるってんなら」
女「いいよ」
男「……なんで出て行ったんだ?」
女「……」
男「……君は可愛い女の子だよ」
女「もういいの。その言葉はもう……効かない」
男「……」
女「もう無理なの。限界なの」
男「……」
女「前にも言ったよね? 『やめれない。我慢しても気付いたらやっちゃってる』って」
男「ああ。呼吸みたいなもんだから……って」
女「うん。最近はいっぱい食べたり、男とえっㄘしたりして誤魔化してたんだけどね」
女「そう。結局、食べなきゃ人は死んじゃう」
男「でも、俺と会ってから女は人を殺してない」
女「我慢してたからね」
男「これからだってできるさ。
女「……」
男「山ほど料理を作るよ。まだ食べさせてない料理だってあるんだ」
女「……」
男「えっㄘぃことだって遠慮しなくていい。知っての通り、体力勝負の仕事してるしさ」
女「……」
男「だから……一緒にいよう」
男「それは……」
女「ごめんね。たぶんもう自分じゃ抑えられないんだ」
男「……」
女「だから……あたしを殺して。あたしがあたしを止められなくなる前に」
女「あたしを殺さなきゃ、あたしが男を殺しちゃうよ?」
男「それでも、俺は……」
女「ここで男が死んであたしを逃がしたって、別の鬼殺しがあたしを殺すよ」
男「……!」
女「別の誰かの手にかかるくらいなら、あたしは男に殺されたい」
女「……ね、覚えてる? ここで最初に会った時のこと」
男「ああ」
女「汚れに汚れて、痩せに痩せてたでしょ? あれ、あのまま死ぬつもりだったんだ」
男「ずいぶん……消極的な自殺だな」
女「そうだね。あの時のあたしは、人を殺してまで生きていたくないって思ってた」
男「……」
女「『今まで自分が食べてた肉や魚がちょっと前までは生きてたんだ』って知って、
ショックを受けて食事に抵抗を覚えたりすること、誰でも一度はあるんじゃないかな?」
男「……」
女「大抵の人はすぐに割り切って元通り食べれるようになるんだろうけどね」
男「……」
女「ついさっきまで生きてて、ついさっきまで喋ってて、ついさっきまで笑ってて……
そんな相手が気付いたら死んじゃってるんだもの。あたしが殺しちゃってるんだもの」
男「……」
女「しかも、食べるでもなくただ殺しただけ。殺された人はたまったもんじゃないよね。
いや、関係ないか。食べられようが食べられまいが殺された方は一緒だもんね」
男「……」
女「最初は『あ、やっちゃった』って思うくらいなんだけど、時間が経つと思い出しちゃってね……」
女「うん。自殺したいってほどじゃないけど、誰かを殺したくはない。結局は死ぬしかない……って」
男「そっか……」
女「いまは死にたくないって思ってるけどね」
男「そっか……」
女「うん。死んでも、男と一緒に生きていたい」ニコッ
女「あたしが生きるには誰かを殺さなきゃいけない。……でも、やっぱりそれは嫌なんだ」
男「……」
女「前に男が言ってくれたように、やっぱりあたしは人を殺したくないんだよ」
男「……」
女「それで、はじめは前みたいにここで死ぬのを待つつもりだったんだけどね……。
気付いたら男にメール送っちゃってた。寂しかったのかな」
男「そっか」
男「……」
女「お願いだよ。あたしを殺して」
男「……」
女「あたしを、助けて」
男「……わかったよ」
女「ありがとう」ニコッ
女「愛してるよ、鬼殺し」
男「俺もだよ、殺人鬼」
――――
――
男「……」
女「ひと思いに……心臓とか……やってくれれば……よかったのに……」
男「ごめん。少しでも長く一緒にいたかったんだ」
女「あり……がと。あたしもだよ」
男「……」
女「ね……後ろから……抱きしめて」
男「ああ」ギュッ
男「そんなのいいさ」
女「えへへ……あたしは……両腕取れちゃった……」
男「……」
女「お気に入りの……コートだ……ったのに……なぁ」
男「ごめん……」
女「まあ……許してあげる……」
男「……」
男「……」
女「花が咲いて……水のせせらぎが聞こえて……優しい風が吹いて……
ゆっくり雲が流れて……澄んだ空が高くて……星が煌めいて……」
男「……」
女「何よりも……男と会えた……から」
男「……」
女「ね……どうして最初……会った時に……あたしを殺さなかった……の?」
男「このあたりに来てから、女が誰も殺してなかったから……かな」
女「そこは……嘘でも『女に一目惚れしたからさ』……とか……言って欲しかった」
男「もちろん、一目惚れもしたよ」
女「嘘……つき……でも……信じてあげる」
男「あぁ」
女「ん……。こんなに幸せなの……生まれて初めて……」
男「そっか……」
女「でも……もっと一緒にいたかったな……」
男「いてやるよ。ずっと……一緒だ」
男「あぁ……」
女「あい……し……てる……よ」
男「俺もだよ」
女「えへへ……」
男「ははっ……」
女「……」
男「……」
女「……」
男「………………………おやすみ、女」
――――
――
女「……」パチッ
女「……」ボー
女「……」
女「……あれ?」
男「あ、起きた?」
女「男っ!?」ガバッ
男「あー、無理しない方がいいよ。腕ないんだから。ほら、横になって」スッ
女「え……いったい何がどうなって……? あたし、死んだんじゃ……」トスッ
男「死んだら俺の家で寝てるわけないでしょ?」
女「そっか……」
男「そうだよー」
女「そっかー……」
女「あたし『殺して』って言ったよね!?」
男「言ったねぇ」
女「じゃあ何で!?」
男「殺したくなかったから」
女「な……!」
女「え……あ……えぇ……?/// で、でもバドミントンの時の命令は……?」
男「そんなもん知るか」
女「えぇー!? 」Σ(´д`;)
男「やりたくないことはやりませんよ」
女「む、むちゃくちゃだー!?」
男「それに、あの時ちゃんと『助けに来た』って言ったと思うけど」
男「あぁ、なんかノリで」
女「最低だっ!?」
男「別にいーじゃん」
女「軽っ!? 腕切ったのに軽いっ!」
男「それで、もう殺せないでしょ?」
女「えっ……」
男「殺したくないんでしょ?」
女「まさか……そのために……?」
男「これで、誰も殺さずに一緒に生きていけるだろ?」
男「殺すのは我慢してもらう」
女「気付いたら誰か殺しちゃってるかも」
男「もう腕がないから殺せない」
女「脚でも人は殺せるよ?」
男「動かせないように縛るか、それでも無理なら切り落とすさ」
女「噛み殺すことだってできる」
男「口輪でもつけようか。犬みたいに」
女「でも……」
女「……あたしで……いいの……?」
男「お前がいいんだ。お前じゃないと駄目だ」
女「男ぉ……」グスッ
男「それとも、俺の側で生きるのは嫌か?」
女「……そんなことないっ!」ブンブン
男「そっか。よかった」
女「男ぉ……っ」トスッ
男「おっと」ダキッ
女「ふつつかものですが……っ……これからも……よろしくお願いします……っ」ポロポロ
男「こちらこそ。よろしく頼むよ」ポンポン
「お兄ちゃん! 早くしないと遅刻しちゃうよ!」
「わかってるよ。すぐ行くから」
「「お父さんお母さん、いってきまーす」」
「おう、行ってらっしゃい」
「気をつけてねー」
「「はーい」」ドタバタ
ガランガラン
チョットオニイチャン! バールモチアルクノヤメテッテイッテルデショ!
ヤッパリコレガナイトカラダガカルスギテナンカオチツカナインダ
「あの子たち大丈夫かなー」
「大丈夫なんじゃないかな」
「なんで?」
「ん、なんとなく」
女「そうかなー」
男「そうだよ」
男「『元』殺人鬼ね。もう君はただの可愛い女の子だよ」
女「女の子って、もうそんな歳じゃないよー。子供2人も高校生だし」
男「そうかな? まだまだ現役だと思うけど」
女「はいはい、片付けちゃうからお皿重ねてねー」
男「動じなくなったなぁ」カチャカチャ
女「そりゃもう、長い間一緒にいますから」
女「大丈夫。そもそも日常生活する分には問題ないように作ってもらったんでしょ? この義手」
男「まあそりゃそうだけど」
女「何か飲む?」
男「ん、じゃあココア」
女「はいはい。好きだねー。ま、あたしも好きになったけどさ」
男「ありがとう。ん……うまい」
女「今日はお仕事は?」
男「久しぶりに休みだねぇ」
女「そっかー。じゃあ久しぶりにデートでもする?」
男「いいよ。映画でも見に行こうか」
女「いいねー」
男「ん?」
女「あの時、あたしを殺さないでくれて。あたしの中の鬼を殺してくれて」
男「いつも言ってるね」
女「いつも思ってるの」
男「そっかぁ」
女「そだよー」
女「うん……」
男「よく頑張ったね」ナデナデ
女「えへへ。でも男が支えてくれたからだよ」
男「あれくらいなんてことないよ」
女「嘘つき……」
男「嘘じゃないさ。女と一緒にいるためなんだから」
女「もう……。ありがとね。愛してるよ、男」
男「俺も愛してるよ、女」
女「これからもよろしくね」
男「ああ。これからもずっと一緒だよ」
おわり
引用元: 男「女が殺人鬼だった…」