魔王「日に日に強くなっていくのを感じて、無邪気な子供の様に喜んだ」
魔王「ある日、自分の限界に達したと悟った」
魔王「それでも鍛錬をやめなかった」
魔王「結果、限界を遥かに超えた力を得た」
魔王「これでもう勇者に敗れる事は無い。そう思った日の夜の事だった」
魔物A「いやはや魔王様、本当にあなたは強くなりました……」
魔王「うむ」
魔物B「これで勇者なんて怖くありませんね!」
魔王「そうだな、だが、油断はならぬ」
魔物A「世界征服が完了したら、僕を高い位の者にしてくださいね!」
魔王「ははは、こやつめ、調子に乗りおって」ペシッ
そう言って、私は魔物Aの頭を軽くはたいた。
軽くはたいた、つもりだった。
ゴロゴロゴロゴロ……ゴトンッ
魔王「はは……は?」
魔物A「………」ビクンビクン
魔王「な、なんだ、これは」
魔物B「ま、魔王様・・・?」
魔王「私が……やったのか?」
魔物C「僕の目には……軽く叩いたようにしか見えませんでした」
魔王「では、何故、こやつの頭は……無いのだ」
魔物C「恐らくですが………魔王様が、強くなりすぎた為、かと」
魔王「私が……強くなりすぎたせい、か」
魔物D「ひっ…」ビクッ
魔王「………お主」
魔物D「!!! は、はいィッ!!」
魔王「お主は、私が怖いか」
魔物D「そ、そんな、ことは……」
魔王「そうか」スタスタスタ
魔物D「ひっ、ひっ………」ガクガクガク
魔王「………」
魔王「私は、あれほどまでに強くなっていたのか」
魔王「………………」
魔王「は、はは」
魔王「何を感傷的になっているのだ、私は。これが、願い続けた『強さ』ではないか」
魔王「そうか、そうだ、私は強くなったのだ」
魔王「………強く、なりすぎたのだな」
魔王「このままでは仲間が危険だな………そうだ、私に近付くな、と命令を出しておけば大丈夫だろう」
魔王「──諸君、今回集まってもらったのは、昨日の件についてだ」
魔王「諸君らも少なからず知っているであろう。私は、強くなりすぎた」
魔王「そのせいで、昨日、仲間を殺してしまった」
魔王「私は、この力のせいでお前達を失うのが怖い」
魔王「なので」
魔王「私には近付くな。以上だ」
魔物達「チカヅクナッテ… ソンナヤベーノカヨ… ザワザワ…」
魔王(これで、良いのだろう)
魔王(少しさびしくなるが……そんな事は気にしていられぬからな)
コンコンッ
魔王「……誰だ」
側近「側近です、魔王様、お菓子を……」
魔王「いらぬ、それより、この部屋に入ってくるな」
側近「………」
魔王「お前まで失ってしまうのは、たまらなく悲しい事だ」
側近「………わかりました、では私は失礼します」
魔王「………すまぬな」ボソッ
魔王「では、行ってくる」
側近「目的地は東の果ての山──目標物は、伝説の魔女が作ったという超魔力石、でよろしいですね?」
魔王「うむ、それで合っている」
側近「では、早速転送魔法を発動させます」
側近「──…………………──」
側近「───転送魔法」シュンッ
魔王「む」シュンッ
魔王「……ここか」
側近「恐らく間違いはないはず……」
魔王「ではお前はここで待っていろ。すぐに戻ってくる」
側近「いえ、それでは魔王様が危険──「待っていろと言っている」
魔王「私と一緒にいるだけで危険なのだ。これ以上近くにいるわけにはいかぬ」
側近「……わかりました」
魔王「………」スタスタスタ
魔王「ふむ、これが噂に聞く山守のドラゴンか」
ドラゴン「ガアアアアァァァァァ────ッ!!!」
魔王「鱗は鋼鉄よりも遥かに堅く──吐く炎はどんなものでも溶かすと言うが……」
ドラゴン「グルルル………」
魔王「さて、私は今、どこまで強いのだろうな」
魔王「参るッ!!」ダッ
ドラゴン「ガアァッ!!」ブンッ
魔王(右からか、避け───いや、)
魔王(この腕を、押さえつけることは出来るのか?)
ドラゴン「ガ、ガァァ……!!」
魔王「ふむ、案外軽く押さえつけられるものだな」
魔王「思っていた以上に強くなっているのか」
魔王「───おい、ドラゴン」
ドラゴン「………グ、ガ、ガガァ……」
魔王「お前に恨みは無い。よってお前を殺したくもない。だから──」
魔王「そこをどいてはくれぬか」
魔王「羽ばたき──どいてくれるか、そうか」
ドラゴン「……………」クルッ
魔王「………? こちらに背中を向けて──?一体なんのつもりだ?」
ドラゴン「ガァ、ガァ」
魔王「…………乗れ、ということか」
ドラゴン「ガアッ!」
魔王「そうか──では、遠慮なく載らせてもらうぞ」ドンッ
ドラゴン「ガアアアァァァ────!!」バサッ バサッ バサッ
魔王「ふむ、これは便利だな」
ドラゴン「ガア、ガアァ」
魔王「どこまで──ああ、すぐそこの山頂でいい」
ドラゴン「ガアッ」
魔王「ははは、地上があんなにも小さいぞ」
魔王「側近は……あのあたりだな」
魔王「超魔力石は山頂にあると聞いたが──」
魔王「む、山頂か、降ろしてくれ」
ドラゴン「………」バサッ バサッ
魔王「おっと……」スタッ
ドラゴン「ガアアアァァァ───!!」
魔王「うむ、助かったぞ、伝説のドラゴン」
魔王「さらばだ」
ドラゴン「グガアアアアァァッ!!」バサッ バサッ バサッ
魔王「───さて、山頂に来たはいいが、どこにもそれらしきものは無いな」
魔王「………何と」
魔王「ふはははは、なるほど、そういうことか」
魔王「伝説の魔女とやら、なかなか大層な真似をしてくれるではないか」
魔王「ここは火口ではなく───」
魔王「山───否、超魔力石の核だった、という訳か」
魔王「この核を壊し──ただの魔力と化した魔力石を私が吸収すればいい」
魔王「はぁッ!」バッ
魔王「ふんっ」スタッ
魔王「これが核か──普通の魔力石の核とは比べ物にならぬ大きさだ……」
魔王「では早速壊すとしよう」
魔王「すぅ────っ………」
魔王「覇ッ!!」バキャア
魔王「魔力が吸収してもしきれぬほど溢れ出て来る──!!」
魔王「ふははははは!!すばらしい!すばらしいぞ!」
魔王「そして力が───魔力が、溢れてくるぞ!」
魔王「最早───私は、最強という領域に踏み込んだのかもしれぬぞ!」
魔王「はははははは!!!」
魔王「ははははは───おっと、そろそろ戻らなくてはな」
魔王「ふーむ……核を壊したことでだいぶ小さくなったな、この山も」
魔王「この高さなら飛び降りても問題なかろう」バッ
ヒュウゥゥゥゥゥゥ………
側近「……ん?」
ドゴォォォォォォ!!!
側近「な、何です!?」
魔王「私だ」
側近「ま、魔王様!──魔力が……桁違いに増えていますね」
魔王「うむ、この山自体が超魔力石だったようでな」
側近「………なるほど、伝説の魔女、恐ろしい人物ですね」
魔王「まあ、既に死んでいるだろうがな」
側近「はい、わかりました、転送魔法の準備を──」
魔王「いらぬ、私が転送する」
側近「い、いえ、それでは──」
魔王「転送魔法ッ!」シュンッ
側近「ま、まおうさ」シュンッ
魔王「諸君、という訳で、私は力と魔力、双方を極めた事となった」
魔物達「オオォォーーー……」
魔王「だが、強くなった半面、諸君に及ぼす危険も増えたということだ。私に近付く時には細心の注意を払う事。以上だ」
側近「………よろしいのですか?」
魔王「構わん。奴らを失うのは、惜しいことだ」
側近「相変わらず、仲間想いの良い方ですね」
魔王「世界を征服しようなどという男に、良い奴などいるか」
側近「謙遜しちゃって」
魔王「しかし、いくら強くなったとはいえ、油断すれば死あるのみだ」
魔王「──そうだ」
魔王「結界を張ればいいのだ。範囲は……広範囲は無理だろう。精々私の周り程度だ」
魔王「効果は──そうだな、結界の中にいる者の生命力をひたすら奪う、というものにしよう」
魔王「では早速………」
魔王「結界魔法ッ!!!」カッ
側近「魔王様」コンコン
魔王「!! 側近、こっちへ来るな!今、試験的に結界を張ったところなのだ!」
側近「っ! わかりました、結界を解いたらお知らせください!」
魔王「了解した!」
スタスタスタ
魔王「さて、一旦解除するか」
魔王「解除───む?」
魔王「解除出来ない?いや、そんな訳が無い。解除!」
魔王「……………」
側近「どうしました?」スタスタスタ
魔王「結界が解けぬ。どうやら、魔力が強すぎたようだ」
側近「……今の魔王様に解けない結界は──さすがに私でもどうにもなりません。自然に消えるのを待ちましょう」
魔王「うむ……それしかないな」
側近「もし、解けなかったら──」
魔王「いや、必ず解く」
側近「そうですね、そうですよね。では、また後ほど。」
魔王「───さて」
魔王「実は………なんとなくわかるのだ、この結界は解けない」
魔王「範囲は狭くできるのだろうが……」
魔王「諸君。今日はあまり良くない知らせがある」
魔王「昨日、私は試験的にとある強力な結界を、私のすぐ周りだけを範囲として発動させた」
魔王「しかし、超魔力石の魔力を吸収したせいで強力過ぎた結界となってしまい、解除ができなくなってしまった」
側近「…………!!」
魔王「側近ほどの者ならすぐ死ぬことはないだろうが、諸君らは結界に触れただけで死んでしまうだろう。」
魔王「それほど、効果が跳ね上がっている」
魔王「この城から──出て行ってくれ」
魔物達「…………………」
魔王「これは、お前達を思っての事だ。だが、恨んでくれてもかまわない。私は、お前達に死んでほしくない」
魔王「これは命令だ。魔王城、城主として、お前達に言う、最後の命令。」
魔王「城から出ていった者には、平和な生活を約束する。だから、頼む、城から出ていってくれ」
魔物達「………………………」
魔王「さあ、早く出ていけ」
魔物達「…………………」ザッ ザッ ザッ ザッ
魔王「これで、いい。これで………」
側近「───はい」
魔王「お前も出ていくといい」
側近「イヤです」
魔王「命令だ」
側近「逆らいます」
魔王「死んでもいいのか」
側近「構いません。私は、魔王様に一生をささげると誓った身ですから」
魔王「………迷惑かけるぞ」
側近「はい」
2人だけでは、この城はとてもとても広く感じた
勇者は攻め込んだりしてこなかった
とても、平和な時が過ぎていった。そんな時だった
魔王「む……?強力な魔力を感じるが」
側近「……!! あ、あれは……」
魔王「む!巨大爆破魔法か!!」
魔王「相殺魔法!」ヴンッ
ドゴォォォォォォン!!
魔王「あ、危なかったな……」
側近「助かりました……」
魔王「しかし、今の攻撃──まさか、勇者か」
側近「恐らくは」
魔王「ようやく攻めてきたか、この私が、攻め込んできた事を後悔させてやろう」
魔王「危険だ、下がっていろ」
側近「私だって、鍛錬を積みました。魔王様ほどではありませんが、だいぶ成長したと思います」
魔王「───ならば、任せたぞ」
側近「はい」
勇者「行くぞォォォォォォ──────ッ!!!!!!」
側近「……来ますか」
勇者「……お前、側近か?なぜ手下どもはいない」
側近「お答えする義務はありません」
勇者「そうか……まあ、そんな事はどうでもいい」
勇者「そこをどけ」ギロッ
側近「嫌です」
勇者「ならば、死んでもらうしかないな」
側近「ふふっ、こんな所で死ぬ訳にはいきませんから」
戦士「おう!任せろ!」ダッ
魔法使い「わかりました!……筋力増加魔法!」
僧侶「把握しました。防御魔法──」
側近(なかなかのチームワークですね)
側近(さて、どう片付けてくれましょうか)
戦士「うおおおォォォォォォ!!!」
側近(戦士が厄介ですね、まずは強力魔法で眠っていただきましょうか)
側近「凍結魔法」
戦士「ぐあァッ!!な、なんだ!?足が……腰が!凍っていくぞ!」
僧侶「了解、回復魔──」
側近「広範囲火炎魔法」ゴオオォォォォォ
勇者「ぐっ……!」
魔法使い「きゃあっ!!」
僧侶「くっ……詠唱を中断させられた」
戦士「う、おお、ああ……」パキ、パキ、パキンッ
勇者「戦士!!……くそっ、魔法使い!爆破魔法だ!」
魔法使い「わかりました!──爆破魔法っ!!」
ドゴォォォォォォォン!!!
魔法使い「や、やりました!!」
勇者「……!! 魔法使い!!!」
魔法使い「へ?」
勇者「さがれッ!!上だッ!!!」
魔法使い「上───」
側近「幻影魔法に気付かないとは、まだまだ鍛錬が足りないのではないですか?」
魔法使い「あ、ああ、……」
魔法使い「…………」パキッ パキンッ
勇者「魔法使いィィィィ!!!」
僧侶「早く、蘇生魔法を………いや」
勇者「どうした僧侶!早くしてくれ!」
僧侶「勇者」
勇者「なんだ!?」
僧侶「せめて、生きて逃げるくらいはしてね」
勇者「ま、まさか、お前!やめろ!」
僧侶「自爆魔法」
側近「じ、自爆──!!まずい!!防御ま──」
ドオオオォォォォォォォォォォン
側近「ぐ、はぁっ、はぁ、はぁ、うぐっ、………」ズルズル
勇者「お前……許さねえ!」
側近「ま、魔王、さま……今、向かいます……」
勇者「待て!逃がすかぁ!」
側近「そ、束縛魔法……」
勇者「ぐっ!こ、こいつ!」
側近「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」ズルズル
側近(どうやら、私はここまでのようです)
側近(せめて、貴方の近くで、死にゆきたい……)
魔王「側近」
側近「ま、魔王、さま」
魔王「すまぬ」
側近「魔王様、は、何も悪く───」
魔王「すまぬ、私がお前を信用しすぎたばかりに」
側近「魔王様───」
魔王「見たところ、内部の破壊が激しいようだな……」
側近「は、はい……おそらく、蘇生は、不可能かと………げふっ」ボタボタッ
魔王「もうよい、喋るな」
側近「い、イヤ……です……最後くらい、貴方と、話していたい……」
側近「とても、嬉しかった、ですよ──はぁっ、はぁっ」
側近「あなたは、仲間想いのとても良い魔法に、はぁっ、なりました───」
側近「側近として、誇らしい限りです……げふっ、げほっ」
魔王「……側近」
側近「ははは、魔王ともあろう者が、そんな悲しい顔しないでください、よ……はぁ、はぁ…」
魔王「側近!側近ッ!!」
側近「さ、最後に………あなたの、楽しそうな笑い声と───高らかな野望を、聞きたい、です───」
魔王「………側近……」
側近「ああ、それです、それでこそ、まおう、さま───」
魔王「ふははは、はははは」ポロポロ
側近「さいご、に、ひとこと、だけ………」
魔王「側近ッ………」ボロボロボロ
側近「あり、が、とう──────」
魔王「ッ─────!!!」
勇者「……やっと追い付いたぞ」
勇者「お初にお目にかかるな、魔王」
魔王「……私は、恨みの無い者は殺さぬ。だが」
魔王「お前には既に恨みが──側近の恨みがある。」
魔王「私は、お前を殺す」
勇者「はっ、やってみろ」
魔王「ゆくぞ」
勇者(凍結魔法だと?その距離から当たるとでも思っているのか?)
バキバキバキバキバキバキバキィ!!
勇者「!!!!!」
勇者(な、なんだこの範囲は!ありえない!伝説の大魔道師ですら、こんな事はできないぞ!)
魔王「火炎魔法」
ゴオオオオオオオオォォォォォォォッ!!
勇者「ぐ、が、があああああぁぁぁっ!!!」
魔王「爆破魔法」
ドォォォォォォォォォォォォォン!!
勇者「く、そっ……こんな、ところで……」
魔王(凍った大地は大きな炎が反射し、煌めく)
魔王(その上で弾ける爆発は、花火のようだ)
魔王「………」ザッ ザッ ザッ
勇者「……はっ、とどめってわけか」
魔王「………」シャキンッ
勇者「………やれよ」
魔王「さらばだ、勇者」
勇者「……できるだけ、綺麗な死体にしてくれよ」
魔王「承知した」ブンッ
魔王「───とうとう、一人になってしまった」
魔王「これから──何人もの勇者を殺さねばならぬのだな」
魔王「ははは、世界征服など、容易いことだろうな」
魔王「ははははは………」
魔王「………側近………」
魔王「……新たな勇者か」
魔王「城を破壊されては面倒だ、城門で片付けてしまおう」
───城門
魔王「……貴様ら、勇者か」
勇者「いかにも」
勇者「お前を、殺しに来た」
魔王「そうか」
魔王「ならば死んでもらおう」
勇者「か、はっ………」
魔王「ここまでのようだな」
勇者「ち、くしょ……」
魔王「どう殺してほしい」
勇者「……俺は、負けた。あんたの好きなように殺せ」
魔王「そうか」
魔王「では、一瞬で楽にしてやろう」
勇者「………そうか」
魔王「さらばだ、勇者」ブンッ
勇者「くそぉっ………」
ズバッ
魔王「何か言い残すことはあるか」
勇者「はっ……死んじまえ、クソヤロー」
魔王「……良い勇気だ」ブンッ
勇者「じゃあな、お袋……」
ズバァッ
ただひたすら、殺した。
勇者「来るな!バケモノ!怪物!!うわああぁぁぁぁっ!!!」
魔王「醜いな」
勇者「み、醜いのはお前だ!!くそっ!!なんでこんな事に!!」
魔王「死滅魔法」
勇者「か…ぁっ……」バタンッ
勇者「わ、私は、諦めない……この命、尽きようとも!!」
魔王「立派で、良い覚悟だ」
勇者「はああぁぁぁぁぁッ!!!」ダダダダッ
魔王「せめて、楽に逝け」ブンッ
ズバッ
勇者「く、そ…っ 正義は……まけた、のか」バタン
その非現実的な日常が崩れ去ったのは
最早、勇者に投げかける言葉すら無くなりかけていた時だった
───城門
魔王「勇者か、貴様で何人目だろうな、30を超えたところから数えるのをやめてしまったからな」
勇者「公式の勇者なら59人だ」
魔王「ほう、覚えているのか」
勇者「同僚だったからな」
魔王「では、記念すべき60人目は貴様ということになるな」
勇者「待て、早まるな」
勇者「別にお前と争いに来たわけじゃない」
魔王「……なんだと?」
魔王「何だ」
勇者「お前、『限界』を超えたな?」
魔王「……それは、どういう意味だ」
勇者「そのままの意味だ。己の限界を超えてしまったな?」
魔王「そうだ」
勇者「……俺もなんだよ」
魔王「そうか、だからどうしたというのだ」
勇者「お前ならわかるだろう、強すぎる者の辛さが」
勇者「俺はもううんざりなんだよ」
勇者「3年間だ」
魔王「何がだ」
勇者「俺が鍛錬した期間だ」
魔王「私もその位だが」
勇者「違う」
勇者「3年間、一度も休まずに剣を振った」
勇者「一定の間隔で回復魔法を使わせて、ただひたすら、3年間剣を振るった」
勇者「その結果、限界を超えた先の限界に到達したよ」
魔王「超えた先の、限界───」
勇者「尤も、強大な魔力を持っているあんた相手なら、俺は勝てない」
勇者「だけど、勝ち負けの前に、俺は戦わない」
魔王「意味がわからぬな」
勇者「俺はさ、もう嫌なんだよ」
勇者「国からも追放された」
勇者「わかるか?国を守る為に強くなろうとしたら、国から追い出された」
勇者「悔しかったさ」
勇者「もう、そこで俺はこの世を諦めた」
勇者「自殺もしようとした。だけど」
勇者「強過ぎたんだ。昔に使った防御魔法が、未だに消えない」
魔王(私と──似ているな)
勇者「あんたなら、俺を殺してくれる、って」
魔王「……つまり、私にお前を殺せ、と」
勇者「そうだ」
魔王「ふん、珍しい勇者もいたものだな」
勇者「勇者、か───もう、そう呼んでくれるのは魔王、お前くらいだぜ」
勇者「さて、そんな話はいい」
勇者「早く、殺してくれ」
勇者「なっ…!」
魔王「要は、生きる希望をなくしたから死のうなどと考えたのだろう?」
勇者「……そういう事だ」
魔王「ならば、希望を与えてやろう。」
魔王「強すぎて、辛い思いをする者が現れない───そんな、平和な世界を築こう」
魔王「どちらが上とか、そんなものはない」
勇者「はっ……この騒乱の世を平和に、ね」
魔王「面白いとは思わぬか?」
勇者「はー……冗談にしちゃあ行き過ぎてるぜ」
勇者「だが」
勇者「乗った」
私達は、最初は力、つまり暴力を使った
その内に、力を使わなくてもいいようになってきてから、ゆっくりと世界を治めていった
日に日に世界は良くなっていった
気がつくと、私達は世界征服を達成していた
魔王「ふはははは!中々良い世界になったではないか!」
勇者「ああ、ほんとだよ……良い世界だ」
魔王「平和で──争いも無く、素晴らしい世界だな」
勇者「生きててよかったと、今以上に思った事はないな」
勇者「何だ?」
魔王「昔に、超魔力石の魔力を吸収したという話はしたな?」
勇者「ああ、聞いたな。ありゃあすげえ話だった」
魔王「実はな」
魔王「あの頃の私なら、心身ともに強く、その魔力を制する事ができていた」
魔王「だが平和になり、鍛錬する必要がなくなってしまった今、とても弱くなった私では」
魔王「この魔力を制する事が、難しくなってきた」
勇者「……おい、それってどういう」
魔王「つまり、このまま行けば魔力は暴走する」
勇者「……冗談も大概にしろよ、縁起でもねぇ」
魔王「冗談ではない。これは本当に危うい事態なのだ」
勇者「仮にそうだとしてよ、俺にどうしろってんだよ」
魔王「率直に言おう」
魔王「私を殺せ」
魔王「………そう言うと思っていた」
勇者「昔、あんたに同じセリフを言われたからな」
魔王「そういえば、そんな事も言ったな」
勇者「とにかくお断りだね。どうにかしたいなら今から鍛錬するなりすればいいじゃないか」
魔王「間に合わぬ」
勇者「おい、そんなに時間ってやべーのかよ」
魔王「私も、必死に暴走を食い止めてきた。だが、そろそろ限界なのだ」
勇者「………………」
勇者「ふざけんなよ」
勇者「俺は絶対に嫌だ。悪以外は絶対に斬らない。昔、国に誓ったんだ」
魔王「悪以外は斬らない───か」
魔王「なるほどな」
魔王「ならば私が悪となろう」
勇者「…………は?」
魔王「はははは、悪の大魔王、再臨か。滑稽だな」
勇者「おい」
魔王「止めるな」
魔王「私は再び悪の魔王に戻る。そして私を殺せ。名誉を勝ち取れ」
勇者「………止めねえよ」
勇者「アンタが悪事を働くまで俺は何もしねえ」
勇者「だが、何かしでかしたら、それはもう、いままでの関係なんかどうでもいい」
勇者「俺はアンタを殺すだろう」
魔王「良い決心だ」
魔王「───私は、平和な世界を、もっと見ていたかったよ」
魔王「転送魔法」シュンッ
勇者「………………」
住民は全て転送魔法で他の国へ移しておいたので、死傷者は0のはずだ
だが、国を一つ消した罪は重い
やがて彼が来るだろう
私を討ちに
勇者「よぉ」
魔王「何日ぶりだろうか」
勇者「そんなもんどうでもいい」
勇者「国を一つ消したってな」
勇者「アンタはもう仲間じゃねえ。ただの───魔王だ」
勇者「殺すぜ」
魔王「ふははははは!!それでいい!!さあ、踊ろうではないか!結末の確定しているラストダンスを!!!!」
勇者「水流魔法!甘ぇな!」
魔王「自ら視界を悪くしてどうする!」ダッ
勇者「…直接斬ってくるか!ならば!」シャキンッ
魔王「ふんッ!」ブンッ
勇者「はァッ!!」ブンッ
キィンッ!
勇者「両方、折れた、か」
魔王「はははははは!!いいぞ!互角な勝負!実に久しい感覚だ!!」
勇者「さっきから……へらへら笑ってんじゃねぇよっ!!爆破魔法!」
魔王「ふははははは!!相殺魔法!!」
勇者「しぶといヤローだな!氷結魔法!」
魔王「ふんっ!!」バキィッ
勇者「な……魔法を素手でぶっ壊すか──めちゃくちゃだな、おい」
魔王「………………」
魔王「防御ま」バシイイィィィィィィィィンッ!!!!
魔王「が………はっ………」
勇者「や、やった、か……?」
魔王「ふ、はは、やるようになったではないか、勇者………」
勇者「……おい、まさかお前」
勇者「最後、わざと詠唱を遅らせて………」
魔王「はははは……何を言っているのだ、お前は。さあ、早く殺すがいい」
勇者「……悪いな」
魔王「何を敵に向かって謝る必要がある」
勇者「お前は、仲間想いの本当良い奴で」
勇者「俺達が危険な目に遭うのを避けようと、死のうとしてよぉ……」
勇者「最後の最後で、殺されるってのに手加減とかさぁ……」ポロッ
勇者「本当………ごめんな」ポロポロポロ
魔王「勇……者…… 英雄となる者が……無様に無くんじゃない…ぞ…」
勇者「………魔王、俺は、アンタを殺す」
魔王「……………やれ」
魔王「あり……がとう……」
勇者「──俺は、あんたに敬意を表す」
勇者「友として──仲間として、パートナーとして」
勇者「あんたをすごいと思ってなかった日はないぜ」
魔王「ふはは……それはそれは、嬉しい事じゃ……ないか……」
勇者「だから………一瞬で殺す」
魔王「………たのむ」
勇者「さらばだ!!!!」
勇者「俺の、最高の戦友よ!!!!」
魔王「………さらばだ」
勇者「火炎魔法ッ!!!!!」
お前が死んで、脅威は去った、ってな
───俺は、寂しいよ
最高のパートナーを、この手で殺してしまった。
頼まれていたとはいえ。
殺した。
勇者「平和で、いい世界だ」
勇者「人々も楽しそうに暮らしている」
勇者「なのに、お前はいない」
勇者「なんで、お前がいないんだよ……」
魔王。
俺が尊敬した、最高の友へ、約束する。
勇者「さて、今日も平和だといいんだがね」
おわり
乙
引用元: 魔王「強くなりすぎた